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サリチル酸フィゾスチグミンについて

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:薬名検索・サリチル酸フィゾスチグミン・physostigmine salicylate・サリチル酸エゼリン・eserin salicylate・カラバル豆・硫酸フィゾスチグミン・physostigmine sulfate・フィゾスチグミン注射液

Q:サリチル酸フィゾスチグミンについて

A:サリチル酸フィゾスチグミン(physostigmine salicylate)は、(毒)サリチル酸エゼリン(eserin salicylate;局6)の別名である。

  • 性状:サリチル酸エゼリンは無臭の無色-微黄色の光沢ある結晶で、空気中に長く放置すると赤色を帯びる。
    本品1gは水75cc、アルコール16cc、クロロホルム6cc又はエーテル約250ccに溶ける。
    本品の冷飽和水溶液は中性又は微酸性で、これを放置すると暗所においても1-2時間で赤色を帯びる。
    本品はエゼリン塩類中で最も結晶しやすく、殆ど引瀑せず、安定な化合物で、乾燥状態では永く放置して初めて着色する程度であるが、その水溶液あるいはアルコール溶液は、暗所に置いても容易に変化し、ことに加熱するかあるいは容器からアルカリ分が溶出するときは、著しく迅速に赤変する。純粋な遊離塩基は無色であるが、淡赤色を帯びやすい。水に難溶、アルコール、エーテル、クロロホルム、ベンゼン、CS2に易溶、石油ベンジンに溶けない。
    塩基の水溶液は強アルカリ性で、空気並びに日光によって赤色を 経て、暗褐色を帯びるに至るが、それは赤色結晶性の色素rubreserineを生ずるようになる。
    本色素の生成は空気中のNH3を吸収し、またガラスから溶出されるアルカリでも促進され、酸性でH3PO2、H2SO3、H2S、Na2S2O3あるいは発生期の水素によって脱色される。
  • 貯法:遮光した気密容器に貯えなければならない。
  • 常用量:1回0.3mg、1日1mg;1回0.5mg(皮下注射)。極量:1回1mg、1日3mg。
  • 基原:physostigmineは、1864年Jobst及びHesseがアフリカ産マメ科 Physostigma venenosum Balf.fil.の種子カラバル豆(Semen Physostigmatis)中に発見した。翌年結晶として抽出され、eserineと命名した。カラバル豆の主なalkaloidである eserineの含量は0.08-0.1%で、その他にgeneserine、eseridine、eseramine、 isophsostigmine、physovenine等を含む。
  • 応用:エゼリンは副交感神経末端の興奮性を亢進し、中枢神経系の諸中枢、例えば脳皮質の運動中枢、呼 吸中枢等を興奮の後麻痺し、末梢運動神経の末端を刺激する。
    また瞳孔を縮小させ、調節機の痙攣を起こし、眼内血管を収縮させ、眼圧を沈降させるがある。従って緑内障、ことにその急性のものには眼圧沈降の作用が顕著に現れる。
    その収瞳作用は、虹彩後癒着の場合に、虹彩に多動性運動を与えて剥離させるために、アトロピンと交互に用いる。その他、一般収瞳の目的に使用するが、本品はアトロピンで散瞳させた瞳孔にも作用して収瞳させ得ること(ピロカルピン及びムスカリンはその場合に用いられない)また薬効が久しく持続する特徴がある。
    従って本品は主として眼科で使用し0.2-0.5%溶液を緑内障、調節麻痺、角膜炎、角膜潰瘍等に点眼し、虹彩後癒着にアトロピンと交互に使用する。

その他本品は回復術後に起こる急性腸麻痺(手術後腸閉塞症)に0.25- 0.5mgを皮下注射すれば腸の緊張を増加させ得られ、また予防の意味で手術前1-2日にわたって使用する。
使用に際しての結膜から吸収される量は少ないが、涙管から鼻、咽頭腔に流下 して嚥下し、嘔吐、下痢、発汗、頭痛、流涎、呼吸困難を起こすことがある。
本品の水溶液は赤変し易いので、3%のホウ酸を加えて多少安定にする方法もあるが、使用に際して新製する。微紅色程度のものは使用して差し支えないが、暗赤色の場合は廃棄する。
注射液はチンダル法又は濾過法で殺菌し、容器には溶出のアルカリ分のないガ ラスを使用する。

サリチル酸フィゾスチグミンの他に『硫酸フィゾスチグミン (physostigmine sulfate)』が報告されている。

  • 別名:硫酸エゼリン、サリチル酸フィゾスチグミンより水に溶け易い。
  • 毒薬、極量:1回1mg、1日3mg。

その他、physostigmine salicylate注の製品として、米国では『Antilirium(Forest Pharmaceuticals,Inc.)』が市販されているの報告が見られる。用法・用量等は以下の通りである。

  • [適応]三環系抗うつ薬、アトロピン、スコポラミン過剰投与に対する解毒。 緑内障。
  • [用]成人:1回2mgを20分毎に静注又は筋注。小児:1回0.01- 0.03mg/kgを15-30分毎に静注。総投与量2mgまで。

その他、国内では院内製剤として、次の製剤処方が報告されている。

サリチル酸フィゾスチグミン(6局-試薬)
メタ重亜硫酸ナトリウム(試薬)
クエン酸(試薬)
クロロクレゾール(試薬)
塩化ナトリウム(局方)
注射用水100mL
0.1g
0.1g
0.01g
0.2g
0.9g
全量100mL
  • 調製法:注射用水(局方)にサリチル酸フィゾスチグミン、メタ重亜硫酸ナト リウム、クエン酸、クロロクレゾール、塩化ナトリウムを溶解し、全量100mLとする。次いでメンブランフィルター(0.45μm)を用いて濾過し、褐色アンプルに分注し、熔封する。100℃-30分間高圧蒸気滅菌を行う。
  • 規格単位:1mg/mL/管
  • 貯法:褐色アンプル(1-2mL)、冷暗所保存。
  • 適応:健忘症候群に対する治療(記憶力増強作用)。術後の麻酔緩和。
  • 用法・用量:皮下注射
  • 使用期限:1年
  • 特記事項:サリチル酸フィゾスチグミン1gは水90mLに溶ける。pHは4 以下に保つ。赤く変色したものは、使用不可。副作用として悪心、嘔吐がある。

類似処方

サリチル酸フィゾスチグミン
メタ重亜硫酸ナトリウム
塩化ナトリウム
クエン酸一水和物
注射用水
50mg
50mg
450mg
6mg
50mL
  • 適応:麻酔の覚醒遅延、中枢性副作用の拮抗薬

[2]0.1%-サリチル酸フィゾスチグミン注射剤

サリチル酸フィゾスチグミン
生理食塩水
0.1g
全量–100mL

[011.1.PHY:2004.6.22. 古泉秀夫]


  1. 縮刷第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
  2. 飯野靖彦・監訳:スカット・モンキーハンドブック;MEDSi, 2003
  3. 日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤 第5版;薬事日報社,2003
  4. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990