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覚せい剤の隠語について

木曜日, 8月 9th, 2007

KW:語彙解釈・隠語・覚せい剤・塩酸メタンフェタミン・methamphetamine hydrochloride・ヒロポン・アンフェタミン・amphetamine・ゼドリン・特攻錠・猫目錠・シャブ・スピード・S・アイス・やせ薬

Q:覚せい剤に関係する隠語について

A:我が国における本格的な薬物乱用問題の発生は、敗戦による社会的、精神的影響を背景とした、社会情勢に起因する。

戦争中、覚せい剤は意識を高揚させ、恐怖感を取り除く薬として、特攻隊の飛行士に用いられたり、眠気を取り除き、集中力を増進させる薬として、軍需産業の労働者に与えられたりしていた。

そのため『特攻錠』、『猫目錠』とも呼ばれていた。我が国における覚せい剤乱用の歴史的経過は、戦後の第一次覚せい剤乱用時代から、現在、突入したのではないかとされる第三次覚せい剤乱用時代に区分されて語られている。

我が国における薬物乱用は、1946年(昭和21年)-1954年(昭和29年)の『第一次覚せい剤乱用時代』に始まるといわれている。旧軍部及び製薬会社が保有していた覚せい剤が、普通薬扱いされていたこともあって、一挙に売り出され、未曾有の乱用が見られた。一般人のみならず、作家や文化人といわれる人々が使用していたのが一つの特徴としてあげられている。

これに対し1949年(昭和24年)劇薬指定、1950年(昭和25年)要指示薬の指定、1951年(昭和26年)覚せい剤取締法が施行された。『第一次覚せい剤乱用時代』の乱用薬物は『ポン中』と呼称されたように塩酸メタンフェタミン(methamphetamine hydrochloride)である。

覚せい剤:『ヒロポン[methamphetamine hydrochloride](大日本)』、『ゼドリン[amphetamine](武田)』。『ヒロポン』の商品名はギリシャの勤勉を司る神の名ヒロポノスに由来する。

覚せい剤は1970年頃(昭和45年)から『第二次覚せい剤乱用時代』と呼ばれるような広がりを見せ、1981年(昭和56年)に入り覚せい剤中毒による検挙者は20,000人を突破、更に1990年(平成2年)の検挙者数は15,000人強となっている。この時期の特徴は、長距離トラックの運転手やタクシーの運転手、夜間に働く一部の職種の人達の間に乱用が広がったことにある。

この時期覚せい剤は、ヒトの骨までしゃぶる、財産や命までことごとく奪うということで、『シャブ』の呼称で呼ばれていた。

1995 年(平成7年)頃から『第三次覚せい剤乱用時代』の到来といわれる状況が見られる。平成9年における覚せい剤事犯の検挙者数は三年連続で増加し、速報値で 19,937人と年間2万人台の大台に肉迫した。

昭和55年から63年までの前回の乱用期においては、検挙者数は2万人台を超える水準で推移していたが、平成に入って1万人台の半ばとなり、また、ピーク時には11%を超えた未成年者比率は5%台へと半減していた。

これらの指標が平成7年以降増加に転じ、特に高校生の検挙者数が平成7年、8年と二年連続して倍増、9年には中学生が倍増と、中高生の検挙者数は前回の乱用期を大きく上回るに至った。

その内容を見ると、不良来日外国人の密売人組織が携帯電話を使い街頭で無差別に覚せい剤を販売し、これを中・高校生が好奇心やファッション感覚で購入し使用するといった事例が目立っている。

今回の乱用期においては覚せい剤の乱用が、暴力団関係者やその周辺の一部に限らず、普通の学生・生徒や一般市民の日常生活の間近に忍び寄る傾向が一段と鮮明に現れてきたという質的変化が顕著である。

このような新規乱用薬物の増加が、従来より根絶しきれないでいる常習者層による再犯に加わって、2万人台に迫る検挙者という今日の事態を引き起こしたものである。

これらを踏まえると、現下の薬物乱用状況は、昭和29年に最高5万5千人を記録した第一次乱用期、昭和59年に最高2万4千人を記録した第二次乱用期に続く、戦後第三回目の覚せい剤乱用期に突入したものと認められる。

現段階の特徴は、覚せい剤に『スピード』(効果速度からの命名)、『S』(スピードの頭文字)、『アイス』(覚せい剤の結晶型)、『やせ薬』等の通称が付けられていることである。

『第一次覚せい剤乱用時代』は序章から終章までが明確に区分されているが、『第二次覚せい剤乱用時代』から『第三次覚せい剤乱用時代』は、雪崩れ込み現象に似た推移が報告されている。

[615.8.MET:2004.6.22.古泉秀夫]


  1. 宮里勝政:薬物依存;岩波新書(新赤版),1999
  2. 中村希明:薬物依存-ドラッグでつづる文化風俗史;講談社ブルーバックス,1993
  3. http://www.dapc.or.jp/info/5kanen/5-3.htm,2004.6.20.
  4. 水谷 修:薬物乱用-いま、何を、どう伝えるか-;代修館書店,2001