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芥子の食欲増進作用について

木曜日, 8月 9th, 2007

KW:漢方薬・健康食品・香辛料・芥子・芥子菜・カラシ菜・カプサイシン・唐辛子

Q:以前医師からの指示で、食欲増進のために毎日チューブ入りのねり芥子を2cm分絞り出してなめていた。カプサイシンに食欲増進効果があるとも聞いたが、食欲増進作用は本当にあるのか

A:芥子→カラシナの種子を粉末にした黄色の香辛料。

カラシナ(芥子菜)[アブラナ属-アブラナ科]。BrassicaJuncea(L.)Czern.etCoss.

  • 原産地:地中海沿岸あるいは中国といわれているがはっきりしない。日本には古くから渡来し、現在は各地で栽培されている。
  • 薬用部分:種子(芥子:ガイシ)8月に種子を採集して日干しにする。
  • 成分:種子に辛味配糖体のシニグリン、酵素のマイロシン、脂肪油のエルシン酸、アラキン酸、リノレイン酸、精油のシナピン酸、シナピン等を含む。その他、シニグリン、ミロシン、シナピン酸、脂肪油、蛋白質、粘液が含まれている。酵素分解すると揮発カラシ油とい う精油が得られ、このカラシ油はイソチオシアン酸のメチル-イソプロピル-、アリル-、ブチル-、sec-ブチル-、3-ブテニル-、4-ペンテニル-、フェニル-、ベンジル-、β-フェニルエチル-、3-メチルチオプロピル-エステル(イソチオシアナート)を含む。

    脂肪油は多種の脂肪酸すなわちエルカ酸、11-エイコセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、バルミチン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、ベヘン酸のグリセリドであるとする報告もされている。

  • 薬効・薬理:シニグリンは酵素のミロシンの作用によってイソチオシアン酸アリルを発生し、この成分は皮膚組織内に浸 透して知覚神経末梢を刺激して引赤を起こす。
    この局所作用は、一部は知覚神経末梢刺激に対する軸索反射であるが、一部は局所に産生されたヒスタミン様物質の作用による。更に知覚神経刺激に対する反射として内臓深部の鎮痛、炎症の治癒が起こる。また内臓神経の反射興奮によって過血糖が見られる。
    これらのことから引赤、鎮痛、去痰、辛味健胃薬としてリウマチ、神経痛、腰痛、肺炎の初期などに用いられる。
  • 刺激作用:芥子はシニグリンを含み、配糖体そのものには刺激作用はないが、水と一緒にしておくとミロシンの作用によ り精油を精製する。その主成分はアリル-イソチオシアナートで、鼻を突くような辛辣な味と刺激作用がある。皮膚につけると、温かい感じがして発赤し、酷い場合には水疱・膿疱ができる。
    一般に芥子の粉は、脂肪油を取り除いてから芥子軟膏として使用する。反射刺激剤(刺激性薬物を皮膚局部に使用したとき、その作用が薬物を使用した部位に限らず、その他の部位にまで及んで治療作用を生じた場合に、反射刺激作用又は誘導刺激作用と呼ぶ)として作用し、神経痛・リウマチ・強膜炎や捻挫などを治療する。
    芥子の粉を調味料として用いると、唾液の分泌とジアスターゼの活性を増加させ、心臓の体積と心拍数を減少させる。
    少 量で胃の粘膜を刺激して胃液と膵液の分泌を増加させることができ、時には頑固なしゃっくりを鎮める。
    大量に内服すると直ぐに嘔吐を起こすので、麻酔性薬物中毒の場合に使用できる。少量の芥子は調味料として内服できるが、大量になると嘔吐を引き起こし、更に大量になると胃・腸道を強烈に刺激する。
  • 使用法:芥子を粉末にし、50℃の温湯で練ったものを患部に塗布する。芥子は薬用の他、香辛料、調味料などに使用される。また防腐作用があるため、醤油の防腐剤などに用いられる。使用前にやや温かい水で湿らせておくとミロシンの作用(沸騰した湯はミロシンの作用を抑制する)を強める。使用時間は15?30分を越えてはならない。皮膚の敏感なものは5?10分しか使用できない。

以上の報告を見る限り、芥子成分として、カプサイシン(capsaicin)は報告されていない。

<<カプサイシン(capsaicin)>>

capsaicinは、唐辛子(トウガラシ)の辛味成分である。トウガラシ(唐辛子)capsicum、capsicifructus。

本品はトウガラシCapsicumannuumLinne又はその変種(Solanaceae)の果実である。蕃椒(バンショウ)。辣椒(ラツショウ)

  • 成分:辛味成分としてcapsaicin、dihydrocapsaicinが、カロチノイド色素としてcapsanthin、種子にはcapsaicinは含まない。その他、果実にアデニン、ベタイン、コリン、辛味成分のカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシンが、 カロチノイドのクリプトキサンチン、β-カロテン、カプサンチン、ルテイン、クリプトカプサイシン、その他、ビタミンC、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などを含み、種子にはソラニン、ソラニジンを含み、更にソラマルギン、ソラソジン、ソラソニン等のアルカロイドを含む可能性が高いとする報告がされている。
  • 薬効・薬理:蕃椒を3?5%添加した飼料でラットを飼育すると発育が良好で、これらはカプサイシンなどの辛味成分が 消化器に適当な刺激を与え、消化液の分泌を亢進して消化機能を旺盛にするためと考えられる。煎剤はコレラ菌に対して強い殺菌作用がある。アルコールエキスは少量では血管を拡張し、血液の循環を活発にし、皮膚刺激作用がある。蕃椒は皮膚刺激薬として神経痛、筋肉痛に外用される。その他、capsaicinは局所適用又は皮下投与などで侵害受容器及び温覚受容器を選択的に遮断する感覚ニューロ ン遮断薬である。capsaicinは、脊髄からP物質、ソマトスタチンなどを放出させ、化学物質による痛覚、温覚の閾値を高めるが、皮膚のP物質含量及び血漿溢出も減少させる。また心房又は心耳で陽性変力作用、血圧下降作用、皮膚体温上昇作用、胃液分泌促進作用、ヒスタミンなどによる胃酸分泌抑制作用、回腸収縮作用、起炎又は抗炎症作用、アジュバント関節炎抑制作用、5-HETE及びPGE2生合成阻害作用が認められる等の報告もされている。
  • 使用法:蕃椒を刻み、その4倍量の45度のホワイトリカーに20?30日漬け、布でこして作った蕃椒チンキを患部に塗布する。皮膚刺激薬の原料、また粉末を辛味健胃薬として配合剤(胃腸薬)に微量添加することがある。

なお市販されている「チューブ゙ねりからし(ヱスビー食品)」は、原料として天然の芥子菜を使用しているとされるが、賞味期限の関係で防腐剤等の添加はされているようである。本品をそのまま摂食するのではなく、料理等に付けて摂食することで、食欲増進の効果は得られると考えるので、そのように処置されたい。

[510.015.4CAP][1996.11.13.古泉秀夫]


  1. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬大図鑑;北隆館,1988
  2. 牧野富太郎:原色牧野植物大図鑑;北隆館,1986
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典第1巻;小学館,1985
  4. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典第4巻;小学館,1985
  5. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  6. ヱスビー食品株式会社学術課・私信,1996.11.13.[TEL.3668-0551]