成分 |
パ ラ・フェニレンジアミン(p-phenylenediamine)。[独]phenylenediamine、[仏]ph
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
ハブ毒(habu venom) |
成 分 |
ハブ毒原液は20-30%(w/w)の固形分、約0.2g/mLの蛋白質を含む。ハブ毒は多くの酵素・因子を含み、それらが協同的に作用することにより強い
毒性活性を引き起こす。 |
酵素 |
因子 |
L- アミノ酸オキシダーゼ、ホスファターゼ類、プロテイナーゼ類、エステラーゼ類等 |
壊 死因子、出血因子、溶血因子、血液凝固阻害因子、血液凝固促進因子、循環異常惹起因子等 |
体 内動態:リンパを介して吸収される。
中毒学的薬理作用:筋融解壊死作用、出血作用。 |
一般的性状 |
■奄美大島と沖縄諸島の島々のうち、奄美大島、沖縄本島、徳之島など22島に棲息する。活動期は主に4 -11月であるが、冬でも暖かい日には活動する。体長100-220cm。頭部が大きく、縦長の三角形を呈し、頸部は細くなっている。背面は黄色-灰褐色
で、褐色の不規則な斑紋を持つ。地元では色彩により金ハブ、銀ハブ、黒ハブに区分されている。ハブは攻撃性が強く、屋内に侵入したり、樹上にいることもあ
るので注意が必要である。
■毒蛇ハブはクサリヘビ科(Viperidae)ハブ属 (Trimeresurus)、マムシ亜科(Crotalinae)に分類される蛇で、ハブ毒は毒腺で作られ、毒牙先端近くの開口から分泌される。黄色、
透明、粘稠な毒液。世界に31種、我が国には3種、1亜種(ハブ:Trimeresurus flavoviridis flavoviridis、トカラハブ:T.f.tokaraensis、ヒメハブ:T.okinavensis、サキシマハブ:T.elegans)の
ハブがいるが、普通ハブ毒といえば、最も大型で危険なT.flavoviridisの毒液を真空下で乾燥、又は凍結乾燥したものを指す。 |
毒性 |
■ハブ毒の半致死量マウスLD50 (静脈)4mg/kg、(皮下)27mg/kg。人体に対するヘビ毒の影響の度合いは、毒そのものの強さより、毒牙によって注入された毒の量の方が問題に
なる。従って体の大きな蛇(キングコブラ)に咬まれて死ぬ人は多いが、小さな毒蛇に咬まれても死ぬことは少ない。また、組織の壊死による被害が大きい。
■マウスLD50(静注)65μg/20g、マウスLD50(筋注)4μg/g。死亡率:約1%、重症例:1-2%。■毒液の経口・ 眼・皮膚に対する影響:傷がない限り吸収されて全身症状に至ることはない。眼に対しては局所刺激があり、結膜炎・角膜炎を起こす(流水で15分以上洗浄、
対症療法)。 |
症状 |
■牙痕の存在、疼痛あるいは腫脹の有無の3点が重要な所見となる。牙痕は通常は2ヵ所だが、数回咬まれ ることもあり、その場合は3回以上の牙痕が見られる。毒が注入された牙痕からは出血がある。また、30分以上経過しても疼痛・腫脹が出現しない場合は、毒
が注入されなかったか、無毒蛇による咬傷と考えられる。
■直後より激しい疼痛、出血、腫脹(20-30分で発現し、2-3日で最高とな る)、皮下出血、水疱形成、リンパ節の腫脹(1-2時間)。循環器系:頻脈、チアノーゼ、血圧低下、重症では体液減少性ショック
神経系:発熱、胸内苦悶、四肢冷感、発汗、虚脱、意識混濁
消化器系:悪心、嘔吐、腹痛、下痢。
その他:腫脹部に筋壊死を生ずることあり。 |
処置 |
咬 傷の治療には免疫血清、予防にトキソイドが有効である。全ての患者は少なくとも24時間は経過観察が必要。
■現場で可能な措置[1]咬傷部より中枢側を緊縛。
[2]毒素の吸引(吸引器を使用する。血液経由のvirus感染を避けるため、口吸引は実施しない。可能であれば受咬傷者自身が行う)。
[3]流水の使用が可能な場所であれば、血を絞り出しながら洗浄)
■医療機関での処置
[1]拡散阻止:咬傷部より中枢側を軽く緊縛、洗浄(消毒液使用)、切開・吸引(30-40分以内であれば特に効果的)
[2]輸液路の確保、輸液療法(乳酸加リンゲル使用)
[3]はぶ抗毒素血清の投与(6時間以内であれば有効):1回1瓶静注(小児も同量)。局所の腫脹の進行が停止するまで追加投与。
[註]ショック対策を講じた上で投与する。
[4]感染防止:抗生物質の投与。破傷風トキソイドあるいは免疫グロブリンの投与。
[5]減張切開(時に筋膜切開を要する):腫脹が著しく、知覚、運動障害や末梢循環障害があらわれた場合は、筋壊死防止のため6時間以内に行うと有効。
[6]呼吸管理、対症療法。 |
事例 |
死 因は首筋に突き刺さっていた吹き矢の先に毒が仕込まれてあったらしく、
「医者の話では、薩摩の方の島に棲む波布という名の毒蛇の毒ではないかということでございますが」
それが血液の中に入って、瞬時に藤左衛門の命を奪ったものだという。「そんな恐ろしい毒があるんですか」毒物といえば、ねずみとりに使う石見銀山ぐらいしか知らないお吉が眉をひそめ、一緒に話しをきいていたるいは思わず、東吾の顔を眺めた。 [平岩弓枝:御宿かわせみ(4)山茶花は見た-江戸の怪猫;文春文庫,1997.9.10.]
「好かねえ奴だぜ、………さんは。人もあろうに、この俺を殺そうとしやがったんだ」
「なんですって………」
「お前ものんきだなあ。俺がなんにも知らねえと思ってたのか。琉球屋から壺の届いた夜、………が酒に毒蛇の毒をまぜて、………俺もはじめてみたが、あの毒
の効きめは並大抵じゃなかった。………」[平岩弓枝:五人女捕物くらべ(下)-江戸の毒蛇-琉球屋おまん;講談社文庫,1997] |
備考 |
ヘ ビ毒は数十種の蛋白質で構成され、一つ一つの蛋白質が異なった作用を示すとされている。通常、蛋白質であるハブ毒を経口摂取したとしても、急激な毒性を発
現する前に胃において消化され無毒化されてしまうはずである。従って「酒に毒蛇の毒を混ぜて」というのは、殺人の手段としては正当性に欠けるということに
なるが、物語の中では別に問題になる話しではない。更にハブ毒は、出血毒であり、神経毒・心臓毒等を発現するヘビ毒とは異なり、咬傷後直ちに即死状態に陥
るとは限らないはずである。 |
文献 |
1) 大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-講談社ブルーブック,1999
2)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
3)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
4)井上尚英・監修:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,1999 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記 入日 |
2004.8.15. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
ハゼ(櫨)の木 |
成分 |
ウルシオール(urushiol) |
一般的性状 |
学 名:Rhus succedanea。分類:ウルシ科(Anacardiaceae)ウルシ属の落葉低木。中国原産。国内では本州の関東以西の山野に自生する。葉は茎頂
に集まって互生し、奇数羽状複葉。羽片はやや厚く、少数の鋸歯がある。初夏、緑色の小花をえき生の散房花状に付ける。果実は小型平滑で多量の固型脂肪を含
み、これから木蝋を取る。
[ラ]Rhus succedanea L.、別名:ロウノキ、カブレノキ。 |
毒性 |
ウルシと同様に樹液でかぶれることがある。毒成分としてウルシオール(urushiol)。ウルシ科の植物では有毒成分が気化しており、人によっては近くを
通るだけでも皮膚炎を起こすことがある。
ウルシの樹液には強刺激性のウルシオール、ヒドロウルシオールが含まれ、樹液が皮膚に付着すると皮膚が赤くなり痒みを伴う炎症や水疱が出来る。後で激痛が
走ることがある。個人差もあるが気化した有毒成分にも反応して、過敏な人は附近に近づいたり燃やした煙に当たったりしただけでもかぶれることがある。
漢方ではウルシの木を燃やした煙を扁桃腺の治療に使用するが、かぶれには注意が必要である。 |
症状 |
接触性皮膚炎 |
処置 |
かぶれた時は水でよく洗い、抗ヒスタミン剤含有の軟膏を塗布し、濡れたタオルなどで冷やす。
■接触性皮膚炎の治療の基本は原因物質の除去、皮膚炎の鎮静化であり、皮膚炎に 対して、症状に応じた順位のステロイド外用剤を使用する。ステロイド外用薬は痒み、紅斑・苔癬化が概略治癒するまで外用する。重症(水疱、糜爛等)の場合
にはステロイド外用後に亜鉛華軟膏又は亜鉛華単軟膏をリント布で貼付し、繃帯で保護する。止痒を目的として抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を使用する。 |
事例 |
「残 念でしたな、若旦那。ぽっくり行かずに生きておるわい」
と減らず口をたたく。
「ふざけるのはよせよ」忠兵衛は半ベソで言うと、隣家の内儀すでに梅から話しを聞いていたらしく、いつもの丁寧な口調で話してくれた。
「角野様。どうやら、お梅さんは、何か変なものを吸い込んだようなのです」
「変なもの?」
「これです」
と漆塗りの重箱を差し出した。高級なものではないが、密閉度の高いもので、虫よけや湿気よけなど必要なものをしまっておくのに重宝される。
「なんだ………?」
「この箱から、煙が出てきたんじゃ。玉手箱みたいに」と梅は言った。
「煙が?」
忠兵衛が蓋を開けてみると、中にまだ少し燻っている葉っぱや枝がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。おそらく櫨の木の一種で、強くはないが毒気が少しあり、
燃やした煙を吸うと一時的に息を吸えなくなる。
「なぜ、こんなものを………」
箱をひっくり返すと、二重底になっていて、中から一枚の紙が出てきた。そこには、『おめえは俺の人生をむちゃくちゃにしやがった。今度は俺がお前をぶっ殺
してやる』と書かれてある [井川香四郎:晴れおんな-くらがり同心裁許長;KKベストセラーズ,2004]。 |
備考 |
櫨の木はウルシ科に属する落葉樹で、木蝋を取るために九州地方では栽培されていた時代があるようである。
櫨を燻すことで致死的な毒性を発揮するという報告は見当たらないが、扁桃腺に煙を吸引させた場合、人によってはかぶれることがあったという報告があること
から、相手を脅かすくらいの役には立ったかも知れない。
物語に出てくる場面も、特段毒殺を目的としたわけではなく、嫌がらせ目的と考えられるが、櫨の木を燻してその煙を吸引させるという方法は珍しい方法であり、更に櫨の木の成分であるウルシオールによる接触性皮膚炎の可能性は、現在でも起こりえると考えられるので、対処法の概略を調査した。 |
文献 |
1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)海老沢昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
3)小川賢一・他:学研の大図鑑 危険・有毒生物;株式会社学習研究社,2003
4)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2005
5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2005.1.23. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
ニコチン(nicotine)、硫酸ニコチン(nicotine sulfate) |
成
分 |
[英]nicotine、[独]Nicotin、[仏]nicotine。硫酸ニコチン:CAS65-30-5。 |
一般的性状 |
□煙草の葉に存在するalkaloid。ピリジン臭を持つ、非常に吸湿性の無色ないし微黄色の液体。空気、光に触れると褐色に変色する。pb123-125℃(17mmHg)、常圧では247℃で水蒸気蒸留できる。殆どの酸との間に塩を作る。硫酸塩は農業用殺虫剤、殺菌剤などに使用される。
C10H14N2=162.24。
□硫酸ニコチンは48年10月30日に農薬として登録されたが、80年2月23日に失効したとされる。[用途]殺虫剤。野菜や果樹のシンクイムシ、アブラムシ、バナナ、ミカンのハモグリガなどに適用された。残留農薬研究所は変異原性なしとしている。農水省は天然物の植物成分であるとの理由で、登録の際に必要な慢性毒性試験データの提出を免除している。
□nicotineは皮膚、気道、消化管から速やかに吸収されるが、胃の場合にはpHに関連する。胃液のpHが1なら15分で3%吸収され、pH7.4で8.2%、pH9.8で18.6%とpHが高いほど吸収が早まる。このためにnicotine摂取時には、制酸薬は投与しないとされている。nicotineは80-90%が肝で代謝され、残りはそのまま尿中へ排泄される。t1/2は1時間程度で、24時間以内に体外に排泄される。 |
毒
性 |
□ラット経口(LD50)50mg/kg-53mg/kg、マウス経口(LD50)3.3mg/kg。
致死量は成人30-40-60mg、乳幼児10-20mgと推定され、2-5mgで嘔吐などの中毒症状が出現する。毒物及び劇物取締法において毒物に指定されている。青酸カリとの比較でもnicotineの方が毒性は高い。煙草1本中の葉に含まれるnicotine含有量は、乳幼児の致死量に相当する。しかし実際の煙草の誤食では
*nicotineの吸収が胃内pHの関係で遅いこと
*吸収されたnicotineの催吐作用により胃内
容物を嘔吐する等の理由により、致死的な中毒は稀であるとされる。煙草浸出液の誤飲による中毒死例の剖検では、推定70mg以上のnicotineを摂取し、血中濃度は6.3μg/mLであったとされる。
□ニコチン作用:nicotineは交感及び副交感
神経節並びに運動神経端板を刺激し、後に麻痺する。また延髄の呼吸中枢、血管運動中枢及び嘔吐中枢を刺激する。
□煙草の煙を吸引することによって、肺から血中に
nicotineが吸収され、自律神経節を一過性に興奮させて血圧を一過性に上昇させる。nicotineは脳にも作用するため、愛煙家は快感を味わう。
これらはいずれもnicotine性アセチルコリン受容体を介して作用する。精神的依存性及び発癌性がある。
硫酸ニコチン [毒性]劇毒区分=毒物。魚毒性=A類。 |
症
状 |
硫酸ニコチンの人体中毒症状*軽症の場合:口腔・咽頭・食道・胃部の灼熱感、吐き気、嘔吐、眩暈、頭痛、頭重、食欲不振、動悸、胸部圧迫感、冷汗、唾液分泌過多。
*中・重症の場合:激しい嘔吐、下痢、脱力感、全身
のふらつき、ふるえ、睡眠障害、精神錯乱、痙攣、呼吸困難、不整脈。
□nicotineの薬理作用は中枢神経系、自律神経系、運動神経末端で、当初は刺激興奮作用を、後に抑制作用を示し、多彩な中毒症状が出現する。流涙、流涎、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、血圧上昇、頻脈、徐脈、不整脈、ショック、過呼吸、呼吸麻痺、顔面蒼白、頭痛、眩暈、興奮、意識障害、手指振戦、痙攣等である。
非常に大量な摂取ではいきなり抑制作用が著名に出現し、短時間のうちに呼吸麻痺、虚脱で死亡する。通常見られる乳幼児の誤食の場合の主要症状は、悪心、嘔
吐、下痢、興奮が大部分で、嚥下後30分ないし数時間以内に出現する。 |
処
置 |
1)催 吐:催吐は中毒患者の基本治療の一つであるが、煙草の場合は自然に催吐することが多いとされている。
2)胃洗浄:大量摂取時、昏睡、痙攣、その他重篤な症状が出現している場合には直ちに胃洗浄を行うが、洗浄に伴う誤嚥には十分注意する。更に洗浄目的で投
与した液により煙草を腸に押し出さないように注意する。一方、なめた程度、あるいは2-3cm以下の少量摂取と思われる場合には、経過観察(数時間程度)
のみでもよい。胃内pHの上昇により吸収が促進するので、その際には水、牛乳は飲ませない方がよい。
3)下剤・活性炭:重症例では硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム等の塩類下剤と活性炭を投与する。
*500mLの薬用ポリ容器に1g/kgの活性炭を秤取し、300mL程度の微温湯又は加温された下剤の溶液をポリ容器に注ぎ込む。キャップをして十分に懸濁する(通常、胃洗浄は服用後1時間以内の場合考慮する)。
□nicotineに対する特異的拮抗薬はないが、自律神経症状に対して硫酸アトロピンの静注を行い、痙攣、過度の興奮に対しては抗けいれん薬、鎮静薬を使用する。重症例に対しては、気道、静脈路の確保など、救命救急処置が最優先される。
*痙攣に対してはジアゼパムを成人で10mgまで、小児では0.1-0.3mg/kgを緩徐に静注。
*副交感神経刺激症状の強いときにはアトロピンを
0.5mgずつ症状を見ながら5分おきに静注する。
*交感神経刺激症状の強いときには、フェントラミン
1-5mg(適応外使用)、血圧に注意しながら静注する。 |
事
例 |
「それがね」とシリング医師は楽しそうにいった。「うまい手口だよ。じつにうまい。呼吸器麻痺による死亡だが、それは些細なことだ」医師は手を上げ、丸っこい右手で、左手の指を折り始めた。
「第一、毒物」そういってベンチのほうへあごをしゃくってみせた。凶器がむき出しになって、ロングストリートのこわばった足もとに、こともなげにおいてあった。「コルク玉のまわりの針先は53ある。コルクから突き出た針先とめどにはニコチンが塗ってある………ニコチンの濃縮液らしい」
「かびくさいたばこのにおいがすると思ったよ」とサム警部がつぶやいた。
「そうだろうさ、新しい純粋液は無色無臭の油状だ。が、水につけたり、ほつておいたりしたやつは、すぐに暗褐色になって、たばこ特有のにおいがする。間違いなく、この猛毒が直接の死因だな。といっても、解剖をして、ほかに死因がないことを確かめるがね。毒物は直接?針が掌と指に21カ所ささって?体内に入った。すぐ血管に入ったわけだ。判明したかぎりでは、二、三分は死なずにいた。ということは、この男が煙草をたくさん吸うからなんだ。普通人以上、ニコチンに対する抵抗力がある。
「第2は凶器そのものだ」二本目の指が曲がった。「警察資料室の宝だね、警部。じつにありふれていて、簡単で、独創的で、恐ろしい。天才の作品だ。[鮎川信夫・訳(エラリー・クイーン):Xの悲劇;創元推理文庫,2005.7.15. 100版]。 |
備
考 |
nicotineは猛毒といわれる青酸カリよりも毒性が強いと
されている。従って極く少量のnicotineで毒性を発揮すると考えられるが、さて、天才的凶器といわれる本作品のハリネズミを使用して、人が死ぬほどに血液中にnicotineを注入することが出来るかどうかということになるといささか疑問である。最も理屈はさておき、殺人の方法としては違和感なく読むことが出来ており、推理小説としてはそれでいいということである。それ以上に、方法としては面白い殺人の手段ということで、その独創性は高く評価することが出来る。しかし、それにしてもよく考えつくことと感心するが、やはり古くからの毒殺の系譜は生きているということかもしれない。 |
文献 |
1)広川薬科学大辞典[第2版];株式会社廣川書店,1990
2)植村振作・他:農薬毒性の事典[改訂版];三省堂,2002
3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
4)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000
5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001
6)相馬一亥・監修:急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005 |
調
査者 |
古泉秀夫 |
分類 |
015.11.NIC |
記
入日 |
2007.4.20. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対
象物 |
ニス(ワニス: Varnish) |
成分 |
*油性ワニス:天然樹脂又は加工樹脂、乾性油、乾燥剤、脂肪族系溶剤。
*セラックニス:セラックゴム、アルコール系溶剤。
*水性ワニス:アクリル樹脂、可塑剤、乳化剤、水。
*速乾性ニス等の溶剤(シンナー):主成分はトルエンで、酢酸エチル、酢酸メチル、キシレン、メタノール、その他を含む。 |
一般的性状 |
油ワニス(Oil varnishes):乾性油と天然樹脂、加工樹脂を加熱融合し、これに乾燥剤を加え溶剤で薄めたもので、樹脂と乾性油の割合で次表の分類がされている。ただし、特殊な用途を除き、フタル酸樹脂系ワニス、ポリウレタン樹脂系ワニス等の合成樹脂ワニスに殆ど置き換えられている。 |
ワニスの種類 |
乾性油/樹脂重量比 |
特性 |
短油性ワニス
(Short Oil Varnish) |
0.6-1.0 |
ゴールドサイズ=短油性ワニスで、木材の油ワニス仕上げの下塗
用、また砥の粉と練って油性目途止剤として使用。比較的濃色のワニスであるが、乾燥時間は油ワニスの中で最も早く(約7時間)、塗膜が硬い。 |
中油性ワニス(Medium Oil Varnish) |
1.0-1.5 |
コーパルワニス=コーパル樹脂を用いた中油性ワニスで、家具・屋内用に使用されたが、現在は殆ど合成樹脂塗料が用いられている。 |
長油性ワニス
(Long Oil Varnish) |
1.5-3.0 |
スパーワニス=長油性ワニスで、樹脂としては油性フェノール樹脂、エステルガム、乾性油としては中国キリ油と亜麻仁油の混合物を、また溶剤としてはミネラル・スピリット、HAWSを用いる。比較的淡色で乾燥時間が早い。塗膜は硬く耐水性、耐薬品性、耐溶剤性がよい |
黒ワニス(ジャパンブラック):瀝青質(タール)、樹脂及び乾性油を加熱融合し、これに乾燥剤及び溶剤を加えて作る。瀝青質ワニスとも呼ばれる耐酸塗料、防水塗料、耐薬品塗料などに用いる。
精ワニス(Spirit varnishes):樹脂、瀝青質のような固体の塗膜形成剤を炭化水素系溶剤に溶かしたものである。
*ダンマルワニス=ダンマルゴムをミネラル・スピリット(軽油)などの溶剤に溶かしたものであるが、生産量は殆ど無い。
*フェノール樹脂精ワニス:アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合樹脂を炭化水素系溶剤に溶かしたものである。
樹脂ワニス:溶剤には主としてアルコールが用いられるため、酒精ワニス又は揮発性ワニスともいわれる。セラック、ロジン、コパール等の天然樹脂をアルコールやベンジンで溶解した安価な塗料。含まれる溶剤の蒸発が早く、しかも溶剤の蒸発によって乾燥するタイプの塗料であるから、乾燥時間は非常に早く、速いものは5-6分、長くても1時間程度である。一般的な用途として木製品、建材の内部塗装等に用いられるが、刷毛塗が用意で、乾燥が速いので多量に使用されている。塗膜性能はあまり上質ではなく、耐候性、耐水性、耐熱性等もよくない。これらの範疇に入る木製品塗料としては『セラックワニス・速乾ワニス・ダンマルワニス』がある。
■乾性油(drying Oil):植物油をヨウ素価の大小によって、乾性油、半乾性油、不乾性油に分類する。乾性油はヨウ素価130以上でゴマ油、アマニ油、キリ油などがこれに属する。
■炭化水素系溶剤:炭素及び水素のみからなる有機化合物。石油、コールタール、植物などから得られる。
■ミネラル・スピリット(軽油:lightl):原油を蒸留して得られる留分(石油軽油)→燃料に用いる。コールタールを蒸留して得られる留分(タール軽油)。ベンゼン類、ナフタリン、フェノール類、ピリジン類等が含まれる。 |
毒
性 |
塗料は、塗料膜形成成分(主として合成樹脂25-45%、顔料30%前後含有)とその溶剤(25-35%)からなり溶剤の種類により水性塗料と油性塗料に分類できる。樹脂・顔料は一般に毒性が低いので、水性塗料の場合、急性中毒は起こりにくい。大量(5mL/kg以上)では嘔気、嘔吐。油性塗料の場合、含有有機溶剤による中毒が考えられる。メチルエチルケトン:ラット経口(LD50):2,737mg/kg
メチルブチルケトン:ラット経口(LD50):2,590mg/kg
イソプロピルアルコール:ヒト経口最小致死量:3,570mg/kg
メタノール:ヒト経口致死量:30-100mL(100%メタノールとして)
ベンゼン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg(57mL/kg)
トルエン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg
キシレン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg中毒学的薬理作用:有機溶剤として、粘膜刺激作用、中枢神経抑制作用。ベンゼンの場合、反復暴露により造血毒性(骨髄障害が発現)。 |
症状 |
*水性塗料:大量では嘔気、嘔吐。ただし、エチレングリコール等のグリコール類が含有されている場合、大量では悪心、嘔吐、腹痛、酩酊、眩暈、中枢神経抑制、運動失調、代謝性アシドーシス、腎障害。
*油性塗料:有機溶剤により粘膜刺激作用(悪心、嘔吐、咳嗽、嗄声、流涙、皮膚炎)・中枢神経抑制(頭痛、眩暈、酩酊、興奮、意識障害、呼吸抑制)・気道への誤嚥(化学性肺炎)。 |
処
置 |
誤飲物質 |
対応 |
心配ない |
様子を見る |
医師へ |
禁
忌 |
合成樹脂塗料 |
1mL未満 |
|
10mL |
強制催吐不可 |
速乾ニス |
|
1mL未満 |
1mL以上 |
強制催吐不可 |
塗料薄め液 |
|
1mL未満 |
1mL以上 |
強制催吐不可 |
油性塗料 |
1mL未満 |
|
10mL以上 |
強制催吐不可 |
ラッカー |
1mL未満 |
|
5mL以上 |
強制催吐不可 |
□基本的処置:催吐(ただし、油性塗料の場合、気道への誤嚥により化学性肺炎を惹起する可能性があるため原則禁忌)。誤嚥に十分注意し、胃洗浄をした後、活性炭と塩類下剤の投与。
□対症療法:呼吸管理、循環管理が中心。
ケトン類(50%近くが未変化体で呼気中に排泄される)が含有されている場合、強制過換気が有効。
*カテコールアミンの投与は要注意:不整脈誘発の恐れ。
□治療上の注意点
?油性塗料誤飲の場合:胃洗浄施行時、気道に誤嚥しないよう注意して実施。
?トルエン・キシレンを含有する場合:カテコールアミンの投与は、心筋の感受性を高め、致死的不整脈誘発の恐れがあるため要注意。 |
事例 |
ニスをなめたという小児が救急車で移送されてくる。前もって処
置に要する情報を探しているが、探しきれない。そちらに資料はないか。 |
備
考 |
『ニス』は『ワニス』の略称である。varnish。樹脂類を溶剤に溶かした塗料の総称。透明で光沢がある。家具・建具等に用いる。 |
文
献 |
1)14303の化学商品;化学工業日報社,2003
2)http://www2.plala.or.jp/tosou.htm,2003.2.25.
3)http://www1.odn.ne.jp/,2003.2.25
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
5)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
6)鵜飼 卓・監修:第三版急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
7)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001 |
調
査者 |
古泉秀夫 |
記入終了日 |
2003.2.26. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
トリニトリン(trinitrin) |
成分 |
ニ トログリセリン(nitroglycerin) |
一般的性状 |
■物理・化学的性状:微黄色の粘稠な液体。急熱、振動、衝撃などにより爆発する。ラビル型とスタビル型 の2種の結晶形がある。火災危険:大。発火点:270℃(爆発)。分子量:227.1。融点:2.8℃(ラビル型)、13.5℃(スタビル型)。沸点:
160℃(15mmHg)。溶解性:水に難溶、メタノール、二硫化炭素に僅かに溶ける。エーテル、アセトン、ベンゼンに可溶。その他、常温では無色澄明の
粘稠性の液体で、味は甘く灼熱感があり、衝撃により爆発するの報告もある。 [毒薬]。1錠中0.3mg以下を含有するものは劇薬。
■別名:ニトログリセロール(nitroglycerol)、NG、グロノイン (glonoin)。トリニトリン(trinitrin)。nitroglycerin tablets[USP]、glyceryl trinitrate tablets[BP]、propane、1,2,3-triol、trinitrate、CAS-55-63-0(nitroglycerin)。化学名:glyceryl trinitrate又は1,2,3-propanetriol trinitrate。
■ニトログリセリンは1847年Sobreroによって発見され、 pyroglycerinと呼ばれた。その後、1866年A.Nobelがその爆発力を利用し、ダイナマイトを製造した。最初にニトログリセリンが医薬品として用いられたのは何時のことか不明であるが、亜硝酸アミルなどの亜硝酸エステルと同じ効力を持つことが、1951年W
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金曜日, 8月 17th, 2007
水の味や質を知る上で重要な基準として水の硬度がある。代表的なミネラル成分であるカルシウムとマグネシウムの濃度から計算する米国式による計算が一般的である。
硬度100前後で分別し、100以下を軟水、100以上を硬水とする。硬度が低いとスッキリして飲みやすく、硬度が高いと重く舌に残る味になる。1985年厚生相の諮問機関が出した『美味しい水』の条件では、10-100の軟水が理想とされた。
硬度(mg/L)=カルシウム(mg/L)×2.5+マグネシウム(mg/L)×4.1
*軟水(soft water):硬水に対応する用語。カルシウムイオン、マグネシウムイオンの含有量の少ない水。石鹸の使用性がよく、湯垢も付かない。日本の地下水は、一般にヨーロッパの地下水に比べて硬度が低い。
*硬水(hard water):炭酸カルシウムによる硬度約100ppmを境として硬水と軟水に区別する。硬度が高いと飲用時に下痢をし、石鹸の泡立ちの減少、工業用水に缶石を発生させる。適度の硬度は飲料水の美味、醸造用水として要求される。
*水の硬度(hardness):水に含有するカルシウム、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン量を、これに対応するCaCO3のppmに換算して表したもの。硬度には総硬度、カルシウム硬度、マグネシウム硬度、永久硬度及び一時硬度がある。
商品名(会社名) |
硬度
|
pH |
エネルギー・蛋白質・脂質・糖質(g) |
Na
|
Ca |
Mg |
K |
朝日岳の天然水
(採水地:新潟県南魚沼郡塩沢町)
(株式会社加ト吉) |
24mg/1000mL
(軟水) |
|
0 |
0.4 |
0.66 |
0.22 |
0.07 |
朝日岳の名水 (採水地:新潟県南魚沼郡塩沢町)
(株ドン・キホーテ) |
24mg/1000mL
(軟水) |
|
0 |
0.4 |
0.66 |
0.22 |
0.07 |
あずみ野の水
(採水地:長野県南安曇郡堀金村)
(ゴールドバック[株]) |
25mg/1000mL
(硬度25度) |
|
0 |
0.15 |
0.58 |
0.26 |
0.05 |
アルカリイオンの水
(採水地:群馬県利根郡月夜野町)
(キリンビバレッジ株) |
62mg/1000mL |
8.5-
9.3 |
0
[アルカリ性] |
1.2 |
1.8 |
0.4 |
0.12 |
越後の名水
(採水地:新潟県南魚沼郡塩沢町)
(株式会社加ト吉) |
24mg/1000mL
(軟水)(硬度24度) |
|
0 |
0.4 |
0.66 |
0.22 |
0.07 |
KANNON hot spring
飲める観音温泉
(採水地:静岡県下田市横川観音温泉)
(観音温泉株式会社) |
0.2mg/100mL以下炭酸イオン:4.6mg・炭酸水素イオン:1.5mg/100mL |
9.2 |
0
[アルカリ源泉] |
5.9 |
0.04 |
|
|
月山の水
(採水地:山形県東田川郡羽黒町)
(日本生活協同組合) |
硬度約51度 |
|
0 |
1.5 |
1.2 |
0.51 |
0.05 |
月山の水音 (採水地:山形県東田川郡羽黒町)
(日本生活協同組合) |
約52度
(軟水) |
|
0 |
1.5 |
1.2 |
0.53 |
0.06 |
唐津屋の水
(採水地:鹿児島県姶良群霧島町)
(株式会社唐津屋) |
|
|
0 |
1.4 |
4.49 |
1.42 |
0.5 |
木曽御嶽自然水
(採水地:長野県木曽郡開田村御獄山麗水源)
(オレンジライフ[株]) |
約9.7mg/L(軟水)
(硬度9.7度) |
6.8 |
0 |
0.18 |
0.3 |
0.054 |
0.094 |
北アルプス穂高の水(採水地:長野県南安曇郡穂高町)(株式会社あづみ野) |
36mg/1000mL |
|
0 |
0.47 |
1.2 |
0.11 |
0.18 |
商品名(会社名) |
硬度
|
pH |
エネルギー・蛋白質・脂質・糖質(g) |
Na
|
Ca
|
Mg |
K |
水彩の森(スイサイ)(採水地:北海道寿群黒松内町字豊幌)(黒松内銘水[株]) |
106.54mg/L
(硬水) |
7.9 |
0[天然アルカリ水] |
1.78 |
2.72 |
0.94 |
0.49 |
天然名水-出羽三山の水
(採水地:山形県東田川郡羽黒町)([株]ブルボンH) |
46mg/L |
|
0 |
1.50 |
1.10 |
0.47 |
0.06 |
天然水-大地の雫
(採水地:岐阜県養老郡養老町)
([株]サーフビバレッジ) |
120mg/L |
|
0 |
0.36 |
4.0 |
0.58 |
0.06 |
日本名山の天然水 (採水地:群馬県利根郡月夜野町)
(サッポロビール[株]) |
62mg/L |
7.1 |
0 |
1.2 |
1.8 |
0.43 |
0.12 |
富士山の水
(採水地:富士吉田市新屋)
(富士山仙水[株]) |
約30mg/L
(硬度約30度) |
|
0 |
0.44 |
0.76 |
0.26 |
0.08 |
富士北麓の水
(採水地:山梨県南都留郡西桂町下暮地)
([株]角屋物産) |
71mg/1000mL
(軟水) |
7.2 |
0 |
1.00 |
1.79 |
0.65 |
0.14 |
南アルプスの天然水
(採水地:山梨県北杜市白州町)
(サントリー[株]) |
約30mg/1000mL
(軟水)
(硬度30度) |
|
0 |
0.49 |
0.97 |
0.14 |
0.28 |
天然水南アルプス (採水地:山梨県北杜市白州町) |
約30mg/L
(軟水) |
|
0 |
0.65 |
0.97 |
0.15 |
0.28 |
三隅の潤水
(採水地:島根県那賀郡三隅町大字井野)
(名古屋製酪株式会社) |
24mg/L
(軟水) |
8.3 |
0
[天然アルカリイオン水] |
3.6 |
0.76 |
0.12 |
0.02 |
森の水だより
(採水地:山梨県北杜市白州町)
(コカ・コーラナショナルビバレッジ) |
26.2mg/1000mL
(軟水)
(硬度27.9度) |
7.1 |
0 |
2.02 |
0.67 |
0.27 |
0.16 |
森のゆらね(水音)
(採水地:新潟県南魚沼郡塩沢町)
(株加ト吉) |
24mg/1000mL(軟水) |
|
0 |
0.4 |
0.66 |
0.22 |
0.07 |
六甲のおいしい水
(採水地:神戸市灘区)
(ハウス食品) |
約84mg/1000mL
(軟水) |
7.4 |
0 |
1.69 |
2.51 |
0.52 |
0.04 |
商品名(会社名) |
硬度
|
pH |
エネルギー・蛋白質・脂質・糖質(g) |
Na |
Ca
|
Mg |
K |
[015.11.WET:2003.7.27.古泉秀夫・2005.12.31.改訂]
- 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
- 行方史郎:元気-水を調べてみました;朝日新聞,2003.6.16.
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金曜日, 8月 17th, 2007
対 象物 |
ドクアジロガサタケ(Galerina fasciculata)。和名:毒網代傘茸。別名:コレラタケ(虎列刺茸) |
成 分 |
◆毒網代傘茸の有毒成分は、ファロトキシン類 (phallotoxin)、ファロイジン(phalloidin)、アマトキシン類(amatoxin)、アマニチン類(α・β-amanitin)である。 |
一般的性状 |
◆毒網代傘茸は、アマニタトキシン群(amanitatoxin)に分類される。卵天狗茸による中毒と同様な中毒症状を呈する。◆ハラタケ目(Agaricales)フウセンタケ 科(Cortinariaceae)ケコガサタケ属(Galerina)。
◆秋やや遅く、杉などの朽ち木や古いおが屑の上、ご み捨て場などに単生-群生する。傘は小型-中型、まんじゅう型からほぼ平らに開き、中央が盛り上がることがある。表面は平滑、湿っているとき暗ニッケイ色で周辺にやや条線を表すが、乾けば中央部から明るい淡黄色となる。ひだは初めクリーム色後にニッケイ色、縁は微粉状、やや密で柄に直生する。柄は細長く、中空、表面は淡黄土色-汚褐色、白色の菌糸で覆われることがあり、上部に不完全な鍔がある。
◆非常に似た茸が複数あり、鑑別には顕微鏡で胞子表 面の微い疣などを確認する必要がある。致命的な猛毒菌なので、類似の茸の摂食は回避する。 |
毒 性 |
phallotoxinは経口摂取では分解されやすいため、中 毒の本体はamanitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。amanitatoxin群
α-amanitin:マウス腹腔内(LD50): 0.3mg/kg。
β-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.5mg/kg
γ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.2mg/kg
ε-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg
amanullin・amanullinic acid・proamanullin・amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。
毒成分には硫黄を含み、成熟した白卵天狗茸を1本以上の摂食で致死的。 |
症 状 |
amanitinには粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取して も直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。*潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。 粘液便、血便を排泄するコレラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)
*筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、 精神錯乱、抑うつ状態。
*溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒 性腎炎、内臓浮腫と疼痛。
*衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋 障害、血管運動中枢障害、肺水腫、循環不全
*遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)
*意識不明・昏睡・死亡。 |
処置 |
[1]胃洗浄摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。
[2]活性炭・下剤投与(下痢がない場合)
摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。
活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。
その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。
*処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。
その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。
下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。
[3]強制利尿
amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。
[4]血液吸着
活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。
◆対症療法
[5]輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。
[6]呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等
[7]循環管理 |
事 例 |
甲比丹エルセラックの容態は二日経っても思わしくなかった。その話を伝えてきたのは杵屋半右衛門である。彼もエルセラックが毒を盛られたことに衝撃を受けてきた。「出島では初音が残って看病しているが、容態は一進一退ということですたい」
毒はきのこから採ったことが判明した。だが、それを抹茶に混ぜるため細かい細工を施したというのが医者の見解だった。
「もうもたないかも知れないと、初音は伝えてきた。あの文面からすると、そうとうひどいらしい」
十次郎は眉間に深い皺を刻んだ。もしエルセラックがこのまま死んでしまえば、風説書の謎は永遠に失われてしまうかも知れない。暗殺はそれを狙って仕掛けられたと考えてよい。 [庄司圭太:紅毛-十次郎江戸陰働き;集英社文庫,2006.2.25.] |
備 考 |
茸とだけ書かれており、茸そのものを特定することはできない。 更に被害者が外国人であり、外国の茸である可能性もあるが、事件の根っこは江戸にあるため、甚だ乱暴ではあるが、国産の茸であると勝手に決めさせていただいた。茸を粉末化した上で抹茶を加えて味を誤魔化したものと思われるが、お茶を飲み慣れた日本人であれば、おかしな味がするとして、飲まなかったかも知れない。いずれにしろどの様な処置がされたのか知らないが、最終的には死亡しており、相当毒性の強い茸だったと思われる。 |
文献 |
1) 古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003
4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997
5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
6)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000
7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996
8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999 |
調 査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2006. 3.8. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
シロタマゴテングタケ(学名:Amanita verna (Bull.:Fr.) Roques.)、和名:白卵天狗茸。別名:イチコロ・ドクシロコ・ブスキノコ。 |
成分 |
白卵天狗茸の有毒成分は、卵天狗茸の毒成分と同様ファロイジン(phalloidin)及びファロイン(phalloine)というアミノ酸7個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)やアミノ酸8個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)であるアマニチン(amanitin)類である。 |
一般的性状 |
◆白卵天狗茸は、ハラタケ目、テングタケ科、テングタケ属(amanita)に分類される毒茸で、アマ ニタトキシン群(amanitatoxin)に分類される。
◆白卵天狗 茸は夏から秋(8-11月)に、針葉樹林、広葉樹林の地上に発生する。中型茸で、傘は白色、平滑、縁に条線はない。傘の直径は5-8cmほどで、初め丸山型を示すが、後平らに開き、白色ではあるが中央が黄色くなるものもある。柄も白色、平滑で、上部には白色で膜質の鍔、基部には膜質で袋状の鍔がある。柄の長さは7-10cmほどの円柱状ですらりとして見える。白卵天狗茸のひだは柄に離生し、密に並ぶ。
◆白卵天狗茸は、日本全国に分布する。白卵天狗茸は、卵天狗茸の一変種ではない かとする研究者の意見もある。 |
毒性 |
phallotoxin は経口摂取では分解されやすいため、中毒の本体はamanitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。
amanitatoxin群
α-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kgβ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.5mg/kg
γ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.2mg/kg
ε-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg
amanullin・amanullinic acid・proamanullin・amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。
毒成分には硫黄を含み、成熟した白卵天狗茸を1本以上の摂食で致死的。 |
症状 |
amanitin には粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取しても直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による
下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる *潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。粘液便、血便を排泄するコレ ラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)
*筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、精神錯乱、抑うつ状態。
*溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒性腎炎、内臓浮腫と疼痛。*衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋障害、血管運動中枢障害、肺 水腫、循環不全
*遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)
*意識不明・昏睡・死亡。 |
処置 |
[1] 胃洗浄摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。
[2]活性炭・下剤投与(下痢がない場合)
摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。
活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。
その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。
*処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。
その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。
[3]強制利尿
amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。
[4]血液吸着
活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされている
が、腎障害のある場合は適用となるの報告。
◆対症療法
[5]輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。
[6]呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等[7]循環管理 |
事例 |
およしには医薬の知識なんぞこれっぽっちもない。杢治郎の命がそれでもちっとは延びるならと、とっくり考えた上で遊齊の申し出に応じることにした。
遊齊は心得たりとおよしの下半身を二つ割りにし、鼻息を荒くしてのしかかってきた。
それがはじまりであったという。
理屈と膏薬はどこへでも付くというが、文蔵は遊齊の悪賢さに一驚した。とんでもねえやつがいたもんである。
杢治郎の死はそれから1カ月後に来た。「遊齊が一服盛った。そうは思わねえかい」
文蔵がいうと、およしは、
「それはわかりません。でも、旦那様が亡くなってしばらくした頃、先生がなにかのはずみに人の命なんかはかないもの。毒茸と鳥兜の根さえあればあっけなく
この世からあの世に送ることができる、医者にはその力があるといったことがあるんです。ですから、もしかしたらとあたし、ずっとそのことを思っていたんで
す」
と、そういった。
もしかしたらどころではなかろう。遊齊は薬を使って杢治郎の死を早めたのだ。それに間違いはない。間違いないことは「幽霊」が出ると、柳原町界隈でささや
かれていることでもわかろうというもの。誰知るまいと遊齊はやったのかもしれないが、どっこい天知る地知るだったのだ。 [西村 望:連作時代小説 莨屋文蔵御用帳 蜥蜴市;株式会社光文社,2001] |
備考 |
◆単に毒茸ということで、具体的な名前は書かれていない。しかし、摂食することで、死亡者が出るほど毒 性の強い茸としては、毒茸の御三家に数えられる“卵天狗茸・シロタマゴテングタケ・毒鶴茸”のうち今回は“シロタマゴテングタケ”を取り上げる。 |
文献 |
1) 古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.
2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003
4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997
5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
6)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,20007)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996
8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
9)http://nd.sakura.ne.jp/~shinji-t/Nissi200307- 09/0720sirotamagotengutake1.htm,2005.7.31. |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2005. 7.31. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
ドクニンジン、毒人参 |
成分 |
コ ニイン(coniine)、γ-コニシイン(γ-coniceine)、N-メチルコニイン(N-methylconiine)。coniineの別名としてd-alpha-propylpiperidine。 |
一般的性状 |
■ヨーロッパ原産のセリ科ドクニンジン属の植物で、ヨーロッパ各地の乾燥地に自生している2年生草本。 学名:Conium maculatum L,、英名:Poison
Hemlock or Snakeweed。北アフリカ、アメリカ、中央アジア、カナリー島、中国などに広く帰化している。日本にはドクニンジンの野生はない。古くはこの草のエキスを破傷風の治療薬に用いたが、現在では医薬品としての利用はない。日本では医薬品の研究に使用する目的で栽培されることがあり、種子が外部に飛散し、時に野生化することもある。茎は太く中空、高さ3mに達し、大きく枝分かれする。葉は対生し数回羽状に全裂する複葉、葉は長さ30cmになり無毛。花は白色の小花で、複散形花序につく。花弁は5枚。
■ドクニンジンは全草にconiineという神経毒を有するアルカロイドが含ま れる。花・実(特に乾燥した種子)・葉・根など全てに含まれているが、花・実・葉では含有量が不安定で、天候に左右されやすい。更に乾燥すると毒性は次第に減弱する。常に安定しているのは気温の影響を受け難い土中の根だけであるが、根の絞り汁も長く空気中に放置すると不安定になるとする報告が見られる。しかし、特に根、種子にかなりの毒が存在するとされている。
■古代ギリシャでは陰干しにしたものを粉末化し、水か温湯でエキスにして使用さ れたと伝えられるが、粉末を水に混ぜて飲ませたともいわれる。ソクラテスを毒殺した毒として知られている。中が中空で太いので、ロンドン郊外の子供達がこれで笛を作り、吹きながら遊んでいるうちに、数人の中毒者を出したという記録がある。 |
毒性 |
coniine の致死量75mg又は500mgとする報告。
■coniineは中枢神経に作用するアルカロイドで、四肢の末端から次第に毒 が回り、意識はそのままに肉体だけが硬直していく。呼吸に必要な横隔膜の筋肉も麻痺するから心臓は動いていても呼吸困難になり、最後は窒息死する。 |
症状 |
■一般的な初期症状:口中のネバネバ感と口渇、嘔気、流涎。腹痛、下痢、頭痛、発汗、眩暈、瞳孔散大。
■症状は急速に起こる。流涎、悪心と嘔吐及び咽頭刺激。後に口の渇き、喉の乾 き、嚥下困難。下肢の衰弱と骨格筋の麻痺。痙攣。呼吸筋は最後に傷害される。瞳孔は通常散大。複視、弱視、聴覚障害。体温降下。呼吸障害。意識障害は終期
を除いて通常はない。 |
処置 |
■0.05%-過マンガン酸カリウムで早期に胃洗浄、活性炭20gを水とともにslurry(懸濁液) にし胃内に入れておくとよい。塩類下剤(硫酸ナトリウム30gを250mLの水に入れる)。利尿剤による治療(フロセミド20mgを静注)。人工呼吸が数時間のあいだ必要となる。もし痙攣が起こればジアゼパム5-10mgを緩徐に静注。又は深く筋肉内注射する。■早期に現れる筋の硬直やそれに続くミオグロビン尿、急性腎不全を予防するため には、呼吸抑制や気道閉塞に注意しつつ、大量のジアゼパムを予防的に投与するのがよい。経口投与した後、必要なら静注で追加する。 |
事例 |
カ ロリン・クレイルはそれに耐えられなかった。彼女は夫に、もしその小娘をあきらめなければ殺すといって脅かしたが、それを二人の人が聞いていた。それにまた、あの事件が起こる前日、夫妻は隣の人と一緒に茶を飲んでいる。その人が道楽半分に薬草をつくって薬の自家醸造をやっていた。そこで、コニインと呼ばれるドクニンジンから作られる薬の話が出て、その恐ろしい効力が話題となったのだった。
ところが翌日、その隣人が薬を入れていた瓶が半分からになっているのに気がついて、大騒ぎとなった。探したところ、その薬を入れたとおぼしき瓶が、ほとんどからになってクレイル夫人の部屋の引き出しの底から発見されたんだ。」
ポアロは落ち着かない様子で身じろぎした。
「だれかほかの人がそこへ入れたということはなかったんですか?」「ああ、それは、警察できかれたときに、夫人自身が認めている。もちろん賢明なことではないんだが、まだその頃には弁護人がついていなかったので入れ知恵をしてやる人がいなかったわけだ。それで、そのことについてただされたときに、自分が盗ったことを率直に認めてしまったわけだ」
「盗った理由は?」
[アガサ・クリスティー(桑原千恵子・訳):五匹の子豚;早川書房,2003]。 |
備考 |
16 年前に決着を見た殺人事件を、娘の依頼を受けたポアロが検証するという物語である。16年前の事件の当事者が、どの程度事件の内容を記憶していることができるのか、甚だ問題ではあるが、この事件の関係者諸氏は、昨日のことのように鮮明な記憶を持ち合わせていたようである。更に重要人物の一人は、既に死亡しており、益々真実の追究は困難になるのではないかと思われたが、名探偵ポアロは事件を再構築し、事件の謎を解明する。恐るべき名探偵というのか、それとも作者のアガサ・クリスティーの物語の構築のすばらしさといおうか。
また、使用された毒物も“ドクニンジン”ということで、クリスティーの小説で今までに使用されたことのない物が導入されている。ただ、我が国には帰化して
いないといわれる“ドクニンジン”だけに、毒成分であるconiine、γ-coniceineの含有部位について、種々の文献報告がされているが、いずれにしろ全草に有毒成分が含まれているようで、“ドクニンジン”の太い茎を笛にして遊んだ子供が中毒を起こしたとする報告もされている。 |
文献 |
1) 植松 黎:毒草を食べてみた;文藝春秋,2000
2)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-;講談社ブルーバックス,1999
3)船山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
4)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
5)学研の大図鑑-危険・有毒生物;学習研究社.2003
6)伊澤一男:薬草カラー大事典;主婦の友社,19987)白川 充・他訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
8)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
9)海老塚豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2005. 3.23. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
毒 芹(water-hemlok) |
成分 |
全草に猛毒成分シクトキシン(cicutoxin)、シクチン(cicutin)を含む。シクトキシンの詳細な作用機序は不明であるが、ピクロトキシンに類似の作用を有し、脳幹部より上位の中枢神経を刺激する。 |
一般的性状 |
毒芹、セリ科(Umbelliferae)ドクゼリ属の多年草で、日本全国の湿地帯に自生する。地下茎は緑色。節間は短縮して竹節状に肥厚。茎は中空、葉は2-3回羽状複葉、枝先に複散形花序を付ける。学名:Cicuta virosa。有毒部:全草、特に地下茎。地下茎が最も有毒。
■ドクウツギ、トリカブトともに日本の三大毒草に数えられている。
別名:オオゼリ。野芹菜花(漢名)。
■葉は食用のセリと間違いやすい。しかし、実際の中毒事故は根茎をワサビ等と間 違えて食べて起こすことが多い。春には全草に毒成分が含まれるが、夏になると根茎に多くなる。 |
毒性 |
ヒトにおける致死率:30-50%。
ヒト致死量:50mg/kg。
5g以上の摂取で致死的中毒の可能性。
■根茎から出る汁は、経皮的に吸収され中毒を起こす。かゆみ止めに使用して死亡 した例も報告されている。 |
症状 |
■中枢神経系の延髄及び中脳を刺激し、強直性の痙攣を起こす。消化管から急速に吸収される。■中毒症状:痙攣、頻脈、呼吸困難。
■90-120分で発症し、24時間以内に死亡。悪心、嘔吐、灼熱感、腹痛、下 痢、耳鳴、眩暈、動悸、意識障害、てんかん様痙攣、チアノーゼ、散瞳、徐脈、呼吸困難で死に至る。
■大きな毒芹の根茎を2本を摂食した者は約1時間後から1時間35分の間に6回 強直性間代性痙攣を繰り返し、心停止で死亡した。1本を摂食した者は45分後から強直性間代性痙攣が始まり、約30分おきに5回発作を繰り返し、その後、2日間にわたって嗜眠状態が続いた後、回復した。 |
処置 |
■気道確保と痙攣対策が出来れば、致死率は一気に改善される。
痙攣を止めるためには、ジアゼパムを静注する。20-30mg静注して痙攣が止まらなければ、直ちにペントバルビタールに切り替える。これらの薬物は、痙攣を止める作用があるだけではなく、ピクロトキシンの作用点(GABA受容体)に対する特異的拮抗薬でもある。従ってピクロトキシン又はピクロトキシン類似の痙攣毒に対しては、対症療法がそのまま特異的治療となる。重症中毒には、気管内挿管して機械的人工呼吸をしなければならないことがある。*早期に胃洗浄(痙攣発作時は危険)
*酸素吸入、人工呼吸
*痙攣にはpentobarbital sodium(ネンブタール注)、thiopental sodium(ラボナール注)の静注。
*強制利尿。
*血液透析、血液吸着。 |
事例 |
◆庄兵衛もおまきも、それで命をとりとめたのだが、五日ほど過ぎて二人の回復を待って畝源三郎が取調べ てみると、奇妙な事実が浮かび上がった。てっきり、おまきが無理心中をはかったと思っていたものだったが、
「たしかに、毒芹を手に入れてきたのもおまきなら、それを団子に作ったのもおまきなのですが、庄兵衛は毒と承知していて、一緒に食ったと申すのです」
一緒に死にたいとおまきがいった時に、庄兵衛が同意し、二人して毒団子を口にしたという。
「おまきがそういっているのか」
「いや、庄兵衛自身がそう申すのです」 [平岩弓枝:御宿かわせみ8-白萩屋敷の月-水戸の梅-;文藝春秋,1989]
◆赤い薬包が二服入っている。調べてみると、意外にも、それは猛毒を有する鳳凰 角(毒芹の根)の粉末であった。これで話しが大きくなった。
昨年の十月十日に湯島天神境内のとよという茶汲女が何者かに毒殺され、それから三日おいて、両国の矢場のおさめという数取女が同じような怪死を遂げた[久生十蘭:顎十郎捕物帖-稲荷の使い;朝日文芸文庫,1998] |
備考 |
春 には全草に毒成分が含まれるが、それ以外の季節では葉の毒性は低く、年間を通して根茎が最も毒性が強いとされている。国内での誤食例では、ワサビと間違えてということで、1回の誤食量は限定されるが、米国では食用になるアメリカボウフウの根と間違えて摂食するということで死亡例も出ている。いずれにしろ我が国を代表する有毒植物であるということで、捕物帖の世界では繁用される毒物の一つである。 |
文献 |
1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
3)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
4)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2004.8.22. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
毒人参(Spotted hemlock) |
成分 |
全草に有毒alkaloidのコニイン(coniine)を含み、その主成分はd-コニイン(d-co-niine)、l-コニイン(l-coniine)、N-メチルコニイン(N-methylconiine)、γ-コニセイン(γ-coniceine)、コンヒドリン、N-プソイドコンヒドリン等を含む。 |
一般的性状 |
■ドクニンジンはセリ科(Umbelliferae)、ドクニンジン属の越年草(2年生草本)である。
学名:Conium maculatum L.。和名:毒人参。英名:poison-hemlock、spo-tted-hemlock。別名:d-alpha-propylpiperidine、シキトウ、hemlock。ヨーロッパ原産で、中国、北アフリカ、北米に帰化し、日本では医薬品研究用に栽培され、希に野生化する。
[形態]草丈80-180cm。根は円錐形に肥厚する。茎は空中で大きく分枝して広がる。葉は2-3回羽状複葉で、夏日複散形花序に小白花を多数つける。
[有毒部分]全草、果実。全草に有毒alkaloid coniineを含む。筋弛緩作用がある。運動神経末端の麻痺。消化管より容易に吸収される。かなり速く体内で解毒される。
■古くは毒人参のエキスを破傷風の治療や筋弛緩薬、鎮痙、解熱薬として用いたが、毒性が高く実用性が低いため、現在は動物実験用毒物として僅かに用いられているにすぎない。古代ギリシャでは毒人参エキスを罪人を毒殺するために用いた。哲学者ソクラテスがこの毒によって最期を遂げたという話しはよく知られている。
■コニウム草(herba conii)。ドクニンジン(Conium maclatum L.)の全草を乾燥したもの。coniine、γ-coniceineなどのピリジン誘導体alkaloidを含み、かつては鎮静、鎮痙薬として用いられたが、その毒性のため今日では殆ど使われない。
■コニウム実(hemlock fruit)。ヨーロッパ原産でアメリカに帰化、野生化するドクニンジン(Coniummaclatum L.)の未熟果実。alkaloidのconiine、N-methylco-niine等を含み筋弛緩薬として痙攣性疾患に用いるが、呼吸麻痺の危険性がある。
■毒人参の若い植物ではγ-coniceineが多く、成熟すると coniineが多くなる。毒人参の汁は“ネズミ臭い”と形容される不快臭があるため、ヒトの中毒は希である。毒人参の芽や蕾を食べて、3月頃、ヒトの中毒が時々起こる。鳥は中毒を起こし難いが、ヒトでは吸収が速く中毒を起こす。coniineはアルコールに溶けやすい。coniineもγ-
coniceineも、家畜に奇形を起こす物質として有名である。妊娠50-75日のウシに毒人参やconiineを与えると、四肢関節や脊椎の彎曲奇形の仔牛が高率に生まれる。 |
毒性 |
■毒人参のalkaloidは毒性が非常に強く、中枢神経を初め興奮、後に麻痺させ、運動神経末梢を麻痺させる。coniineのヒトに対する致死量は、60-120mgで、コンヒドリンはやや 毒性が弱く、γ-coniceineは更に弱い。 |
症状 |
■毒人参の毒性発現の特徴は、手足の末端から体の中心に向かって麻痺が進むことである。初めに両足に麻痺が現れ、やがて手、顔面筋へと進む。声がかすれ、ついには意識が完全に保たれたまま呼吸筋が侵され、30分-1時間で死亡する。
■症状は急速に起こる。30分間、流涎、悪心と嘔吐及び咽頭刺激。後に口渇、喉の渇き、嚥下困難。
下肢の衰弱と骨格筋の麻痺。痙攣。呼吸筋は最後に障害される。瞳孔は通常散大。複視、弱視、聴覚障害。体温下降。呼吸障害。意識障害は終期を除いて通常ない。
■葉はパセリ又はセロリと思われ、また根はアメリカボウフウと思われて食べられ、中毒を起こす。中空の茎を子供が、火吹き豆鉄砲、あるいは望遠鏡として用いるのは危険である。 |
処置 |
[1]0.05% -過マンガン酸カリウムで早期に胃洗浄。
[2]活性炭20gに水を加えスラリー(slurry:懸濁化)状にして内服させる。
[3]塩類下剤(硫酸ナトリウム30gを250mLの水に溶解)。
[4]利尿剤による治療(フロセミド20mg静注)。
[5]人工呼吸が数時間の間必要となる。
[6]痙攣が見られる場合ジアゼパム5-10mgを緩徐に静注又は深く筋肉内注射することによって抑制できる。 |
事例 |
「密告者が七人の中にいたのか、別人なのか。気になるのは、彦之進が文殊の力三に対して借りがあるといっていたこと。そのために獄門になる筈の彼が遠島と罪が軽くなっていることだ。更に、この一味の中の二人が外からの差し入れによって牢内で死んでいる」
牢内で死んだものは当然のことながら、死体は牢外へ出される。
「この前、一番原で死んでいた猪之松と彦之進だが、検屍の医者が毒人参によるのではないかといっている」
毒人参は少量を用いると喘息や咳に効果があるので、薬種問屋では薬として売っているが、大量に服用すると体がしびれてきてやがて呼吸が止まる。
「小平次の報告によると、延志津の兄の勘吉は、最初浅草の薬種問屋に奉公していた。或いは毒人参についての知識があったのかもしれない」
毒人参をほどほどに飲むと仮死状態になる。
「これを牢抜けに用いるというのはどうだ」
小平次は舌を巻いた。
[平岩弓枝:五人女捕物くらべ(下)-雪の夜ばなし-七化けおさん;講談社文庫,1997] |
備考 |
毒人参を服用させ、仮死状態にして牢抜けをするという話しである。話しとしては面白いが、仮死状態からの蘇生は、自然回復は困難だと考えられることから、何か特別な解毒方法が用意されていないと難しいかもしれない。更に我が国には自生していないため、国外から持ち込むことになるが、相当高額な値段が付けられたと思われるので、何処の薬種問屋にも置いてあるというものではないと考えられる。
しかし、あくまで物語の世界のことであり、難しく考えることではない。毒人参が入手できたことから犯罪が構築されたと考えれば、それはそれで甚だ結構な物語であるということである。 |
文献 |
1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
3)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-;講談社ブルーバックスB-569,19844)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
5)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2004.7.2. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 |
ツキヨタケ(月夜茸)。地方名:ヒカリキノコ、クマヒラ、ドクアガリ。和太利(ワタリ)、外打理(ワタリ)。権現茸。クマベラ、クマビラ。 |
成分 |
イルジンS(illudin S)、イルジンM(illudin M)。ネオイルジンA(neoilludin A)、ネオイルジンB(neoilludinB)(細胞毒)。ジヒドロイルジンS(dihydroilludin S)。デオキシイルジンM(deoxyilludine M)、ランプテロフラビン(発光物質)。レクチン(抗菌物質)。アトロメチン、テレホール酸、ジロシアニン(色素)。 |
一般的性状 |
■ハラタケ目キシメジ科ツキヨタケ属ツキヨタケ(Lampteromyces japonicus (Kawam.) Sing.)。初夏-秋にブナなどの広葉樹の倒木や枯れ木などに多数が重なり合って発生する。中型-大型で、傘は半円形-腎臓型、表面は初め黄橙褐色で、やや濃色の小鱗片があるが、後に成熟すると紫褐色-暗褐色となり、多少鑞状の光沢を帯びる。ひだは垂生し、淡黄色のち白色で幅広く、暗所で青白く発光するのが確認できる。
■柄は太短く、傘の殆ど側方、稀に中央に付き、隆起した不完全な鍔がある。縦に裂くと、柄の付け根の部 分には普通黒紫色、稀に淡褐色のシミ(但し、必ずしも明確な鑑別基準にはならないとされる)がある。肉は白で軟らかく、柄に近い部分は厚 い。
■本種は食 用のヒラタケ、ムキタケ、シイタケなどと間違って食べることによる中毒例が多い。
■マウスに対して致死性を示す。癌細胞に対して、細胞毒性を示すことから抗癌剤 として期待されたが、正常細胞に対する毒性も強いため、薬にはならなかった。 |
毒性 |
■ツキヨタケ毒素群。
■消化管出血性炎症惹起作用。
■中毒は徐々に発現し、経過が長いのが特徴。特に小児や老人では少量の誤食でも 危険である。
illudin M・S類illudin S(ランプテロール:Lampterol、ルナマイシン:Lunamycin)
月夜茸に含まれるセスキテルペンの一種。我が国では初めlunamycin又はlampterolと命名されていた。米国の発光茸(Clitocybeilludens)から得られたilludin Sと同一の化合物であったため、先名権によってイルジンと呼ばれている。
illudin Sの毒性:LD50:マウス(腹腔 内)50mg/kg。 |
症状 |
■消化器性障害中毒-亜急性型。
■摂食後数時間(摂食後30分-3時間)で発症。コレラ型。
■突然の嘔吐と下痢で始まる。腹痛に続き、コレラ様の白色水溶性の下痢便(血便 になることもある)。
脱水症状、体温下降、血圧低下、眩暈、色彩幻覚、知覚異常、循環不全。低カリウム血症、心筋障害、血管運動中枢障害。後に肝障害・肝性昏睡、腎障害。 |
処置 |
■激しい下痢症状のため下剤の投与は一般に行わない。特に嘔吐、水溶性下痢が極度の場合、体液喪失によ る脱水、電解質異常に対する補液に十分気をつける。[1]催吐・胃洗浄。
[2]吸着剤投与。
[3]対症療法:補液。
[4]重症例には血液灌流(DHP:direct hemoperfusion)が有効と思われる。
■治療法-参照-
a.催吐:中毒量以上の毒物を摂取して1時間以内の意識正常患者に実施する。家 庭内で発生する低毒性物質の少量誤飲例に催吐の対応はない。
b.胃洗浄:毒物を経口的に摂取して1時間以内で、大量服毒の疑いがあるか、毒 性の高い物質を摂取した症例に実施する。処方例
微温湯:1回200-300mL(小児では生理食塩水10mL/kg)を注入し、排液が透明になるまで繰り返す。
c.活性炭・下剤投与:活性炭投与も薬毒物の摂取後1時間以内が有効である。た だし、次の特徴を有する薬毒物では、24-48時間にわたり、2-6時間毎に繰返し投与する方法が推奨されている。
[1]分布容量(Vd)が小さい。
[2]蛋白結合率の低い物質。
[3]脂溶性。
[4]血中でイオン化していない。
[5]腸肝循環する(若しくは腸溶錠=徐放剤)
処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。その後半量を3時間毎に24時間まで繰り返して投与する。下剤としてD-ソルビトール液(75%) 2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ、半量を繰返し使用。
d.強制利尿:全ての急性中毒症例で、その程度は様々であるが、何等かの強制利 尿が実施されている。しかし、適切な体液・循環管理がされている限り、強制利尿の適応となる物質は限られている。また最近では腎障害の増強が問題視され、酸性利尿は原則として推奨されていない。 |
事例 |
■毒キノコ直売 長野のJAミス
長野県諏訪保健所は23日、JA信州諏訪の農産物直売所(岡谷市)で購入したキノコを食べた4-68歳の男女3人の家族が、おう吐などの食中毒症状を起こ
したと発表した。3人は快方に向かっている。キノコは食用の「ヒラタケ」として販売されていたが、同保健所の調べで、毒キノコ「ツキヨタケ」と判明。同保
健所は直売所を4日間の野生キノコの販売停止処分にした。JA信州諏訪によると、キノコは組合員が山で採取したもので、「このようなことが二度とないよう
に何等かの対応を考えている」としている。
[読売新聞,第46556号,2005.10.24.] |
備考 |
殺人に使用される毒は、取扱が簡単で、確実性がなければ、犯人も使ってみようなどという気は起こさない。月夜茸は毒を持つ茸ではあるが、殺人に使用するに
は、確実性のある毒物ではなく、医学の発達した現代では、致命的な毒性を示すほど強いともいえない。更に該当者に気付かれずに摂取させるとすると、茸汁に
でもしなければならず、毒物としての使用性が高いとはいえない。
従って、月夜茸は物語の世界で殺人の道具として使用されることは無いと思われるが、実世界では最も誤食の多い茸の一つとされており、今回、その毒性と対処
法について調査した。 |
文献 |
1)長沢栄史・監修:フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ;学習研究社,2004
2)奥沢康正・他:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004
3)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
4)石倉俊治:食中毒-その2-;薬局,43(4):569-573(1992)
5)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル 第3版;廣川書店,1996 |
調査者 |
古泉秀夫 |
記入日 |
2006. 1.1. |
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金曜日, 8月 17th, 2007
附:血管外漏出時の処置
■ 血管外漏出:薬物によっては静注部位からの血管外漏出のため、重大な局所組織損傷を惹起することがある。疼痛、紅斑などの初期症状は数時間以内にあらわれるが、遅延性の場合には1-2週間後となることもある。血管外漏出が起きた際には、以下の手順に従う。
1.化学療法薬注射中止:静脈カテーテルを抜去する前に血液5mL程度を吸引し、残存する薬物の除去に努める。
2.薬物に応じた湿布と中和:薬物の種類によっては冷湿布か温湿布が必要である。また静脈カテーテル抜去前のカテーテルへの注入、近傍組織への皮下注射を通じて、中和のための局所的薬物浸潤(必要とする部位の組織又はその周辺に注射する方法)を要することもある。
3.局所領域の監視:組織壊死の徴候に留意する。外科的にデブリードマン(debridement;創傷清拭;通常、無菌部分が露出して出血のみられるところまで切除する。)や皮膚移植術を要することがある。血管外漏出性損傷は通常、激痛をもたらすため、適切な鎮痛手段を講ずる。
[015.11.INJ:2001.4.24.古泉秀夫]
- 高久史麿・他監訳:ワシントン・マニュアル[第8版];メディカル・サイエンス・インターナショナル,2000
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001
- 医学大辞典;南山堂,1992
- 森潔:注射薬ハンドブック;富士書院,1989
- 造影剤要覧 第21版;日本シエーリング株式会社,1999.12.
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