Archive for 1月 3rd, 2014

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「ACE阻害薬の妊婦への投与について」

金曜日, 1月 3rd, 2014

KW:副作用(薬物有害反応)・催奇形性・妊婦への投与・ACE阻害薬・アンギオテンシン変換酵素・angiotensin-converting enzyme

Q:ACE阻害薬の妊婦への投与禁忌の理由について

A:ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素:angiotensin-converting enzyme)の略記である。
本剤の薬効薬理は、アンジオテンシン変換酵素を阻害して、内因性昇圧物質アンジオテンシンIIの産生を抑制することによって血圧低下作用を発現するとされる。その他、心臓保護作用があり、心不全に有用。腎保護作用がある。空咳以外の副作用は少なく、使用し易いとの報告が見られる。
ACE阻害薬の妊婦への投与について『禁忌』とされているのは、次の理由による。

(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。また、投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。[妊娠中期及び末期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された高血圧症の患者で、羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形等があらわれたとの報告がある。

また、海外で実施されたレトロスペクティブな疫学調査で、妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された患者群において、胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある。]

(2)妊娠中に本剤を投与された重症高血圧症の患者で、羊水少症、また、その新生児に低血圧・腎不全等があらわれたとの報告がある。

(3)授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させる[ヒト母乳中へ移行することが報告されている。]

尚、ACE阻害薬に分類される医薬品として、次の医薬品がある。

captopril
enalaoril
alacepril
delapril
cilazapril
lisinopril
imidapril
temocapril
quinapril
trandolapril
perindopril
カプトリル錠(第一三共エスファ)
レニベース錠(MSD)
セタプリル錠(大日本住友)
アデカット錠(武田)
インヒベース錠(中外)
チバセン錠(ノバルティス)
タナトリル錠(田辺三菱)
エースコール錠(第一三共)
コナン錠(田辺三菱)
オドリック錠(日本新薬)
コバシル錠(協和醗酵キリン)

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2013
2)カプトプリル錠添付文書,2013.3(東和薬品)
3)カプトプリル-Rカプセル添付文書,2013.3.(第一三共)
4)杉本充弘:妊婦・授乳婦の薬;中外医学社,2009

         [015.26.ACE:2013.12.5.古泉秀夫]

『ARBの妊婦への投与について』

金曜日, 1月 3rd, 2014

KW:副作用(薬物有害反応)・adverse drug reaction(薬物有害反応)・妊婦への投与・催奇形性・ARB

Q:ARBの妊婦への投与について

A:ARBはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin II-receptor antagonist)は、昇圧物質アンジオテンシンII(以下、「AII」と略す)と拮抗し、昇圧物質アンジオテンシンIIがangiotensin II受容体に結合することをブロックすることにより血圧の降下作用を示す薬物である。AII受容体拮抗薬。本系統の薬剤はカルシウム拮抗薬と並び、世界的に処方されている高血圧症の治療薬である。1970年代に本薬剤の基本骨格を創製したのは、日本の武田薬品工業である。

ARBの製品添付文書に記載されている妊婦、産婦、授乳婦への投与に関する注意事項は次の通りである。

『妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと 。また、投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。[ 妊娠中期及び末期に本剤を含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤やアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された高血圧症の患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形、肺の低形成等があらわれたとの報告がある。]』

『授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること 。[ ラットの周産期及び授乳期に本剤を強制経口投与すると、10㎎/㎏/日以上の群で出生児に水腎症の発生増加が認められている。な お、ラットの妊娠末期のみ、あるいは授乳期のみに本剤を投与した場合、いずれも300㎎/㎏/日で出生児に水腎症の増加が認められている。]

ARBに分類される医薬品は次の通りである。

candesartan

losartan

telmisartan

valsartan

olmesartan

irbesartan

ブロプレス錠(武田)

ニューロタン錠(MSD)

ディオバン錠(ノバルティス)

ミカルディス錠(ペーリンガー)

オルメテック錠(第一三共)

アバプロ錠(大日本住友)

ARBは合剤も市販されており、使用に際しては注意する。

1)高久史麿・他編:治療薬マニュアル,2013.
2)ブロプレス錠添付文書,2013.3.(武田薬品)
3)杉本充弘:妊婦・授乳婦の薬;中外医学社,2009

 

[015.26.ARB:2013.12.5.古泉秀夫]

『ワーファリンとアスピリンの併用について』

金曜日, 1月 3rd, 2014

 

KW:相互作用・ワーファリン・アスピリン・warfarin potassium・aspirin・ワーファリン錠・バイアスピリン錠・併用注意

Q:ワーファリンとアスピリンの併用は可能でしょうか

A:両剤の添付文書の記載は次の通りである。

ワーファリン錠(エーザイ)はwarfarin potassiumを含有する製剤で、その作用機序として『本薬は、ビタミンK作用に拮抗し肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子(プロトロンビン、第VII、第IX、及び第X因子)の生合成を抑制して抗凝血効果及び抗血栓効果を発揮する。また、本薬によって血中に遊離するPIVKA(Protein induced by Vitamin K absence or antagonist:プロトロンビン前駆体)が増加することにより抗凝血作用及び血栓形成抑制作用を持つ。』と報告されている。

また、吸収・排泄については、経口投与後、上部消化管より極めて良く吸収され、血漿中ではアルブミンと97%が結合して存在する。尿中への未変化体の排泄率は、ごく微量であり、代謝は、アセトニル基の還元によるワルファリンアルコールへの変換と6-あるいは7-ヒドロキシワルファリンが主である。本薬の代謝に関与する主な肝薬物代謝酵素CYPの分子種はCYP2C9(光学異性体のS体)であり、CYP1A2、CYP3A4(光学異性体のR体)も関与することが報告されている(外国人のデータ)とする報告が見られる。

なお、本剤との併用について『併用注意』として、『抗血栓剤-血小板凝集抑制作用を有する薬剤:アスピリン』として『本剤の作用を増強することがあるので、併用する場合には血液凝固能の変動に十分注意しながら投与すること。』とし『相手薬剤の血小板凝集抑制作用による。本剤が相手薬剤の副作用である消化管出血を助長することがある。相手薬剤が本剤の血漿蛋白からの遊離を促進する。』とする理由が記載されている。

一方、抗血小板剤aspirinの製剤であるバイアスピリン錠100(バイエル薬品)の添付文書によると、低用量aspirinはシクロオキシゲナーゼ1(COX-1)を阻害(セリン残基のアセチル化)することにより、トロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害し、血小板凝集抑制作用を示す。血小板におけるCOX-1阻害作用は、血小板が本酵素を再合成できないため、不可逆的である。一方、血管組織ではCOX-1の再合成が行われるため、プロスタサイクリン(PGI2)合成阻害作用は可逆的で比較的速やかに回復する。なお、代謝物であるサリチル酸はCOX-1を阻害せず、血小板凝集抑制作用を有しない。

また、本剤の排泄については、本剤100mgを空腹時単回経口投与したとき、投与後24時間までに投与量の大部分がサリシレートとして尿中に排出され、投与24時間の尿中累積排泄率は約90%であった。サリチル酸の腎クリアランスは尿pH依存性を示し,低pHでは5%未満であるが,pH>6.5では80%以上となることから、尿のアルカリ化は過量投与の処置上重要であるとする報告がされている。

aspirinとの相互作用としてクマリン系抗凝血剤(warfarin potassium)は、クマリン系抗凝血剤の作用を増強し、出血時間の延長、消化管出血等を起こすことがあるので、クマリン系抗凝血剤を減量するなど慎重に投与すること。また、本剤は血漿蛋白に結合したクマリン系抗凝血剤と置換し、遊離させる。また、本剤は血小板凝集抑制作用、消化管刺激による出血作用を有する。

warfarinと低用量aspirinの併用については、併用禁忌の扱いとはなっていない。但し、warfarinは血漿中では97%がalbuminと結合しており、aspirinの投与によりwarfarinと置換してwarfarinの血漿中濃度を高める可能性がある。更に患者の腎機能が低下している場合、
aspirinの血中濃度が高位に維持されることが考えられるので、血液凝固能の変動に十分注意しながら投与することが必要である。

1)ワーファリン錠添付文書,2013.5.改訂
2)バイアスピリン錠添付文書,2008.8.改訂
3)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2013

                                                

[015.2.WAR:2013.12.14.古泉秀夫]