Archive for 5月 23rd, 2012

トップページ»

「心臓に水が溜まるの意味」

水曜日, 5月 23rd, 2012

KW:語彙解釈・心臓病・心臓水貯留・心不全・左心不全・右心不全・肺水腫・胸水・胸腹水・心膜液貯留

Q:「医師から心臓に水が溜まる」と云われた通所者がいるが、これはどのような病気か

A:「心臓に水が溜まる」というのは正確な表現ではなく、医師が患者に分かり易く説明するためにその様に表現したものと思われる。

心不全(heart failure)は、心臓の機能不全が原因で身体の代謝に見合うだけの十分な心拍出量を心臓が維持できなくなる状態を云うとされている。心不全は様々な原因によって起こりうる症候群と考えることが出来る。

『心不全の臨床症状』

左心不全 右心不全
?発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸
?急性肺水腫
?咳、血痰
?倦怠感
?冷汗、チアノーゼ
?労作性疲労、倦怠感
?食欲不振、悪心
?浮腫
?右季肋部痛、腹部膨満

心不全により心臓が拡大し、心臓内圧が上昇し、心臓と血管で連結されている肺組織内に水分が貯留して肺水腫を呈する。心不全が慢性に推移した場合、肺内水分貯留の他に、肺外水分貯留が見られ胸水を伴うことがある。

『心不全の臨床症状』

低拍出に伴う症状 鬱血に伴う症状

易疲労感
運動耐容能低下
尿量減少
意識障害
ショック

労作性呼吸困難
起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難
体重増加
浮腫
肝脾腫
静脈怒張
胸腹水

その他、「心膜液貯留」という病態があるとする報告が見られる。心膜液貯留について、心臓とこれに出入りする大血管の基部は、心膜といわれる袋に包まれている。心膜液(pericardial effusion)とは、この袋の内腔を充たしている漿液である。約50mLあり、心臓運動による摩擦を少なくする役割を果たしている。しかし、心不全、腎不全、心膜炎、癌の心膜転移などによる浮腫や循環障害により心膜液が異常に貯留することがあるとされる。異常に貯留した心膜液は心臓を圧迫し、その機能を阻害するとする報告がされている。

以上、心臓に関連する水の貯留について調査した結果を報告するが、心不全、腎不全、心膜炎等の原疾患に関連して、肺水腫・胸水等の症状が見られることを説明したのではないかと思われる。

1)大内尉義・他編:疾患と治療薬-医師・薬剤師のためのマニュアル-改訂第5版;南江堂,2003
2)山口 徹・他総編集: 今日の治療指針;医学書院,2011
3)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2006

     [615.8.HEA:2012.2.10.古泉秀夫]

『偽アルドステロン症について』

水曜日, 5月 23rd, 2012

KW:副作用・偽アルドステロン症・pseudoaldosteronism・偽性アルドステロン症・アルドステロン症・aldosterone・甘草・glycyrrhizin

Q:薬物の副作用としての『偽アルドステロン症』について

A:偽アルドステロン症(pseudoaldosteronism)、同義語:偽性アルドステロン症。

aldosteroneは副腎から分泌され、体内に塩分と水を貯め込み、kaliumの排泄を促進して血圧を上昇させるhormoneである。このhormoneが過剰に分泌された結果、高血圧、むくみ、kalium喪失などを起こす病気を「アルドステロン症」という。「偽アルドステロン症」とは、血中のaldosteroneが増加していないのにアルドステロン症の症状を示す病態である。

主な症状として

?手足の力が抜けたり弱くなったりする。?血圧が上昇する。?筋肉痛。?倦怠感。?手足の痺れ。?腓返り。?麻痺。?頭痛。?顔や手足のむくみ。?喉の渇き。?食欲の低下。?動悸。?悪心。?嘔気・嘔吐等が見られる。
更に症状が進行すると、「意識がなくなる」、「躰を動かすと息苦しくなる」、「立ったり歩いたり出来なくなる」、「赤褐色の尿が出る」「尿が沢山でたり、出にくくなったりする」、「糖尿病の悪化」等の症状が稀な症状として見られることがある。

偽アルドステロン症を惹起する主な原因は、甘草あるいはその主成分であるglycyrrhizinを含む医薬品の服用である。甘草やglycyrrhizinは、漢方薬、風邪薬、胃腸薬、肝臓病薬などに含まれている。甘草、glycyrrhizin以外にフッ素含有ステロイド外用剤の長期連用による偽アルドステロン症発現の報告も見られる。酢酸フルドロコルチゾン等のミネラルコルチコイド製剤によっても生じうる。

第3類から第2類

製剤中に1日1g以上の甘草を含有するもの
医療用漢方エキス製剤 甘草配合量1日2.5g以上の時「偽アルドステロン症」の危険性及び低カリウム症患者には禁忌の記載

副作用好発時期:使用開始後10日以内の早期発症から数年以上の使用後に発症したものもあり、使用期間と発症との間に一定の傾向は認められない。但し、3ヵ月以内の発症したものが約40%を占める。副作用に関連する臨床症状の頻度として四肢脱力・筋力低下が約60%、高血圧が35%で見られるが、偽アルドステロン症発見の契機として重要である。他の症状として全身倦怠感が約20%、浮腫約15%が報告されている。また筋原性疾患(myopathy)による四肢の筋肉痛・しびれ、頭痛、口渇、食思不振も多い。

発生機序:甘草あるいはglycyrrhizinで生ずる偽アルドステロン症は、当初、経口摂取されたグリチルレチン酸(glycyrrhetinate)自体のミネラルコルチコイド作用が原因と考えられていたが、実際にはglycyrrhetinateにより11β-HSD2(β-hydroxysteroid dehydronase 2:2型11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素)の活性が抑制され、過剰となったコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体(MR)を介してmineralocorticoid作用を発揮することにより生じることが明らかになっている。なお、mineralocorticoid過剰症候群の多くは、遺伝子の異常により11β-HSD2の活性が失われたものである。フッ素含有ステロイド外用薬による場合は、医薬品自体のmineralocorticoid作用が原因とされる。

偽アルドステロン症は、軽症の場合、甘草あるいはglycyrrhizinの服用中止により2日以内に速やかに消失する。高血圧の治療中の患者であれば、アルドステロン拮抗薬(エプレレノン)により偽アルドステロン症発症の予防、治療が可能である。

glycyrrhizinは甘草中に6-14%含有されるトリテルペノイド配糖体(saponin)の主成分で、蔗糖の150倍の甘味がある。酸化加水分解によりglycyrrhetinic acidと2分子のglucuronic acidを生ずる。

選択的アルドステロン拮抗薬
一般名:eplerenone
[商品名]セララ錠(ファイザー)
[適応]高血圧症[鉱質コルチコイド受容体に結合し、レニン・アンジオテンシン・aldosterone系のaldosteroneの結合を阻害することにより降圧作用を発揮するとされる]。
[適用]1日1回50mgから開始。

1)(財)日本医薬情報センター:重篤副作用疾患別対応マニュアル第1集,2007
2)牧野利明:漢方製剤に使用される注意が必要な生薬;調剤と情報,17(13):1731-1734(2011)
3)伊田喜光・他監修:モノグラフ生薬の薬効・薬理;医歯薬出版,2003
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2012

        [065.PSE:2012.2.10.古泉秀夫]

「振盪合剤について」

水曜日, 5月 23rd, 2012

 

KW:薬名検索・振盪合剤・振とう合剤・shake mixtures・乾燥水酸化アルミニウムゲル・合成ケイ酸アルミニウム・ 酸化マグネシウム・ストリキニーネ・硝酸ストリキニーネ・硫酸ストリキニーネ・硫化ストリキニーネ

Q:振盪合剤について

A:振盪合剤(shake mixtures)とは、不溶性又は難溶性の医薬品を配合した内用液剤で、服用時振り混ぜて、ほぼ均等に懸濁させてから服用させる剤形である。主薬が軽質でかさばり、散剤として服用困難なもので、その作用が激しくない場合に用いる剤形である。
均等に分散されない可能性があるため、劇薬・毒薬等の薬剤には適用しない。

Rx. 乾燥水酸化アルミニウムゲル  3.0
    合成ケイ酸アルミニウム          2.0
       酸化マグネシウム                0.5
       ハッカ水                           5.0
       精製水                    全量100.0

以上混和して振盪合剤とする。

マルファ配合内服液(東洋製薬化成-小野薬品)

[組成]本剤100mL中

水酸化アルミニウムゲル      56g(酸化アルミニウムとして4%含有)
水酸化マグネシウム          4g

*添加物としてD-sorbitol liquid、D-mannitol、L-酒石酸ナトリウム、サッカリンナトリウム水和物、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、エタノール、プロピレングリコール、香料を含有する。

[性状]本剤は白色の粘稠な懸濁液で、芳香があり、味は甘く、やや渋味がある。
     本剤は放置するとき、上層に少量の水を分離する。

[効能又は効果]次記疾患における制酸作用と症状の改善:胃・十二指腸潰瘍、胃炎、上部消化管機能異常

[用法及び用量]通常成人1日16-48mLを数回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

振盪合剤を殺人の手段に用いた推理小説がある。英国の作家Agatha Christieの作品で、ベルギー警察の探偵アポロが謎解きをする『スタイルズ荘の怪事件(能島武文・訳;新文庫,1959)』である。

硫化ストリキニーネ                            1 grain(15.4320g=15432mg)
臭化加里(臭化カリウム)                 6 ounce(0.211638g=2116.38mg)
水                                               8 ounce(2.282184g=2282.184mg)

服用の際はよく攪拌して用いること。

この溶液は二、三時間以内に、ストリキニーネ塩の大部分を、透明なる結晶状の不溶性臭化物として沈殿するものである。イギリスの一婦人は、同混合液を服用して死亡した。沈殿したストリーキニーネが瓶底に集まって、最後の服用量を服む時、そのストリキニーネのほぼ全量を嚥下したのである。

本来のこの処方箋には、臭化物は書かれていなかったが、殺人を企図した犯人が、臭化物を後から加え、ストリキニーネを沈殿させ、医師の意図に反して振盪合剤化してしまったということである。通常服む時は、犯人が慎重且つ注意深く瓶を振らないように上澄み液を服ませ、最後の1回分を服む時に全てを服む様に仕向けたということである。

ストリキニーネ[strychnine]。CAS登録番号:57-24-9。別名:ストリキニン。C21H22N2O2。strychnineの98.5%以上。比重:D18 1.359。フジウツギ科植物Strychnous Nux-vomicaの種子(馬銭子)に含まれるインドールアルカロイドの一つ。ジメトキシン誘導体のブルシンと共に得られる。融点:268℃、水、エーテル、冷エタノールに難溶。クロロホルムに易溶。猛毒性で中枢神経を刺激し、興奮させ、更に特有の強直性痙攣を起こして死に至らせる。ヒトに対する致死量30-100mg。神経興奮薬として病後の回復に、あるいは消化機能不全に用いる。
ストリキノス、ヌックス、ホミカという植物の種子に含まれるalkaloid。猛毒で中枢神経系に作用する。特に脊髄に対しては特異的で、脊髄の反射経路の抑制機構を遮断する。少量では脊髄を興奮させ、多量で強い痙攣を惹起する。症状は、頭は後方に反り、手を振るわせ、躰を弓のように曲げてのけ反る特有の激しい痙攣、口から泡を吹き、悲鳴を上げる。意識は清明である。

硝酸ストリキニーネ[strychnine nitrare]。C21H22N2O2・NHO3=397.43。分子量:397.43。インド、スリランカ、インドネシア原産のフジウツギ科の木になる円盤状の種子(Strychnous Nux-vomica)の主アルカロイド。野犬狩りの安楽死に用いられる他、以前は生薬として用いられた。主に脊髄に働き、特有の激しい痙攣を生じる。

形状:白色-僅かに薄い褐色の結晶又は結晶性粉末。臭い:non data。pH:弱酸性(水溶液)。融点:295℃。溶解度:水に溶ける(2.3g/100mL)ethanolに溶け難い(0.66g/100mL)、ジエチルエーテルに殆ど溶けない。
急性毒性:経口ラットLD50=16.2mg/kg(RTECS,1997)、飲み込むと生命に危険(経口)、経皮:non data、吸入(蒸気):non data、吸入(粉塵):non data。

strychnine nitrareは、経口摂取後主として腸から速やかに吸収される。同時にalcoholを摂取すると幾分は胃からも吸収される。20%が変化せず尿中に排泄される。48-72時間以内に殆ど完全に排泄される。肝で解毒される。

硫酸ストリキニーネ[strychnine sulfate]。(C21H22N2O2)2・H2SO4=766.92。CAS番号:60-41-3。融点(分解):約200℃。水の溶解度:2.9g/100mL。

硫化ストリキニーネ[strychnine sulfide]。検索不能。

strychnine塩類について、白色結晶状個体で、水に可溶。strychnineは白色結晶状個体で融点268℃、水に殆ど溶けず、ethanolに溶け、クロロホルムに更によく溶けるとする報告も見られる。

臭化加里(臭化カリウム:potassium bromide):[CAS番号:7758-02-3]。無色又は白色の結晶。粒又は結晶性の粉末で、臭いはない。本剤は水又はグリセリンに溶け易く、熱エタノール(95)にやや溶け易く、エタノール(95)に溶け難い。僅かに吸湿性である。融点:730℃、沸点:138℃。水溶解度:53.5 g/100 mL (0 ℃)。比重:2.75。空気に触れても安定で、水和物を作らない。

1)大宮清司・監修:<改訂>看護のための薬品管理学;薬業時報社,1984
2)広川薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990
3)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
4)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
5)化学物質等安全データシート;http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/19675132.pdf,2011.1.26.
6)白川 充・他:薬物中毒必携;医歯薬出版,1989
7)臭化カリウム「ヤマゼン」インタビューフォーム,2008.4改訂
8)国際化学物質安全性カード,2011.2.7.
9)化学物質等安全データシート, 2011.2.7.
10)MERCK INDEX 14th,2006
11)三共農薬手帳 第39版, 1992

         [011.1.SHA:2012.2.10.古泉秀夫]