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「振盪合剤について」

水曜日, 5月 23rd, 2012

 

KW:薬名検索・振盪合剤・振とう合剤・shake mixtures・乾燥水酸化アルミニウムゲル・合成ケイ酸アルミニウム・ 酸化マグネシウム・ストリキニーネ・硝酸ストリキニーネ・硫酸ストリキニーネ・硫化ストリキニーネ

Q:振盪合剤について

A:振盪合剤(shake mixtures)とは、不溶性又は難溶性の医薬品を配合した内用液剤で、服用時振り混ぜて、ほぼ均等に懸濁させてから服用させる剤形である。主薬が軽質でかさばり、散剤として服用困難なもので、その作用が激しくない場合に用いる剤形である。
均等に分散されない可能性があるため、劇薬・毒薬等の薬剤には適用しない。

Rx. 乾燥水酸化アルミニウムゲル  3.0
    合成ケイ酸アルミニウム          2.0
       酸化マグネシウム                0.5
       ハッカ水                           5.0
       精製水                    全量100.0

以上混和して振盪合剤とする。

マルファ配合内服液(東洋製薬化成-小野薬品)

[組成]本剤100mL中

水酸化アルミニウムゲル      56g(酸化アルミニウムとして4%含有)
水酸化マグネシウム          4g

*添加物としてD-sorbitol liquid、D-mannitol、L-酒石酸ナトリウム、サッカリンナトリウム水和物、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、エタノール、プロピレングリコール、香料を含有する。

[性状]本剤は白色の粘稠な懸濁液で、芳香があり、味は甘く、やや渋味がある。
     本剤は放置するとき、上層に少量の水を分離する。

[効能又は効果]次記疾患における制酸作用と症状の改善:胃・十二指腸潰瘍、胃炎、上部消化管機能異常

[用法及び用量]通常成人1日16-48mLを数回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

振盪合剤を殺人の手段に用いた推理小説がある。英国の作家Agatha Christieの作品で、ベルギー警察の探偵アポロが謎解きをする『スタイルズ荘の怪事件(能島武文・訳;新文庫,1959)』である。

硫化ストリキニーネ                            1 grain(15.4320g=15432mg)
臭化加里(臭化カリウム)                 6 ounce(0.211638g=2116.38mg)
水                                               8 ounce(2.282184g=2282.184mg)

服用の際はよく攪拌して用いること。

この溶液は二、三時間以内に、ストリキニーネ塩の大部分を、透明なる結晶状の不溶性臭化物として沈殿するものである。イギリスの一婦人は、同混合液を服用して死亡した。沈殿したストリーキニーネが瓶底に集まって、最後の服用量を服む時、そのストリキニーネのほぼ全量を嚥下したのである。

本来のこの処方箋には、臭化物は書かれていなかったが、殺人を企図した犯人が、臭化物を後から加え、ストリキニーネを沈殿させ、医師の意図に反して振盪合剤化してしまったということである。通常服む時は、犯人が慎重且つ注意深く瓶を振らないように上澄み液を服ませ、最後の1回分を服む時に全てを服む様に仕向けたということである。

ストリキニーネ[strychnine]。CAS登録番号:57-24-9。別名:ストリキニン。C21H22N2O2。strychnineの98.5%以上。比重:D18 1.359。フジウツギ科植物Strychnous Nux-vomicaの種子(馬銭子)に含まれるインドールアルカロイドの一つ。ジメトキシン誘導体のブルシンと共に得られる。融点:268℃、水、エーテル、冷エタノールに難溶。クロロホルムに易溶。猛毒性で中枢神経を刺激し、興奮させ、更に特有の強直性痙攣を起こして死に至らせる。ヒトに対する致死量30-100mg。神経興奮薬として病後の回復に、あるいは消化機能不全に用いる。
ストリキノス、ヌックス、ホミカという植物の種子に含まれるalkaloid。猛毒で中枢神経系に作用する。特に脊髄に対しては特異的で、脊髄の反射経路の抑制機構を遮断する。少量では脊髄を興奮させ、多量で強い痙攣を惹起する。症状は、頭は後方に反り、手を振るわせ、躰を弓のように曲げてのけ反る特有の激しい痙攣、口から泡を吹き、悲鳴を上げる。意識は清明である。

硝酸ストリキニーネ[strychnine nitrare]。C21H22N2O2・NHO3=397.43。分子量:397.43。インド、スリランカ、インドネシア原産のフジウツギ科の木になる円盤状の種子(Strychnous Nux-vomica)の主アルカロイド。野犬狩りの安楽死に用いられる他、以前は生薬として用いられた。主に脊髄に働き、特有の激しい痙攣を生じる。

形状:白色-僅かに薄い褐色の結晶又は結晶性粉末。臭い:non data。pH:弱酸性(水溶液)。融点:295℃。溶解度:水に溶ける(2.3g/100mL)ethanolに溶け難い(0.66g/100mL)、ジエチルエーテルに殆ど溶けない。
急性毒性:経口ラットLD50=16.2mg/kg(RTECS,1997)、飲み込むと生命に危険(経口)、経皮:non data、吸入(蒸気):non data、吸入(粉塵):non data。

strychnine nitrareは、経口摂取後主として腸から速やかに吸収される。同時にalcoholを摂取すると幾分は胃からも吸収される。20%が変化せず尿中に排泄される。48-72時間以内に殆ど完全に排泄される。肝で解毒される。

硫酸ストリキニーネ[strychnine sulfate]。(C21H22N2O2)2・H2SO4=766.92。CAS番号:60-41-3。融点(分解):約200℃。水の溶解度:2.9g/100mL。

硫化ストリキニーネ[strychnine sulfide]。検索不能。

strychnine塩類について、白色結晶状個体で、水に可溶。strychnineは白色結晶状個体で融点268℃、水に殆ど溶けず、ethanolに溶け、クロロホルムに更によく溶けるとする報告も見られる。

臭化加里(臭化カリウム:potassium bromide):[CAS番号:7758-02-3]。無色又は白色の結晶。粒又は結晶性の粉末で、臭いはない。本剤は水又はグリセリンに溶け易く、熱エタノール(95)にやや溶け易く、エタノール(95)に溶け難い。僅かに吸湿性である。融点:730℃、沸点:138℃。水溶解度:53.5 g/100 mL (0 ℃)。比重:2.75。空気に触れても安定で、水和物を作らない。

1)大宮清司・監修:<改訂>看護のための薬品管理学;薬業時報社,1984
2)広川薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990
3)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
4)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
5)化学物質等安全データシート;http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/19675132.pdf,2011.1.26.
6)白川 充・他:薬物中毒必携;医歯薬出版,1989
7)臭化カリウム「ヤマゼン」インタビューフォーム,2008.4改訂
8)国際化学物質安全性カード,2011.2.7.
9)化学物質等安全データシート, 2011.2.7.
10)MERCK INDEX 14th,2006
11)三共農薬手帳 第39版, 1992

         [011.1.SHA:2012.2.10.古泉秀夫]