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『胆嚢摘出の経過』

月曜日, 9月 22nd, 2008

 

魍魎亭主人

 

胆嚢に石があるといわれ出してから相当の期間が経過したが、この間、だからどうしろといわれたことは一度もない。第一、胆嚢に石があるというのは病気なのか、単なる生命体としての現象なのかよく解らないところがある。ただ、『胆石症』という言葉があるところを見ると、病気ということになるのだろうが、無症候性に経過している限り、一般人が病気という認識を持つのは無理なのではないか。

ところで先日来、食事後に右季肋部に『枝を握った拳』が入ったような圧迫感が起こるようになり、やがて痛みがでるという経過を辿っていたが、暫くすると何事もなく治まってしまうので、特段大層な病状とは認識していなかった。しかし、晩飯の後、珍しくシュークリーム等を食して寝たところ、深夜の2時頃から右季肋部に突拍子もない痛みが発生し、翌朝8時まで続いた。

本当は救急車をと考えたが、救急車を拒否する病院の話をマスコミに吹き込まれており、救急車に乗ってから行き先が決まらないのは困るということで、救急車を依頼することはしなかった。

尿の色は明らかにビリルビン尿といわれる色調を呈していると思われたので、朝の9時になるのを待って近隣の内科医を受診し、血液検査をして貰った。結果が出るのは夕方5時頃ということで、自宅待機し、指定の時間に検査結果を聞きに行ったところ、黄疸が出ているということで、この状態では個人の医院では対応できないといわれて、近隣の総合病院の消化器内科宛てに紹介状を書いて貰った。更に夜中に痛みが出るようであれば、紹介状を書いてあるので、遠慮しないで救急車で病院に行くようにという助言をいただいた。

次の日、紹介状持参で、病院に出かけたが、予約無しの患者であり、医師の診察を受けたのは11時頃であった。しかし、朝食は抜きできているということで、血液検査、X線検査等を一通り実施し、『胆石、胆管炎』で即日入院ということになった。挙げ句の果てにCT検査を受け、逆行性内視鏡的胆管造影・乳頭切開術により14mmの胆石を摘み出すことになった。

結局4月16日に入院し、25日に退院という経過を取ったが、10日間の入院期間の大部分は黄疸の治療に要した時間ということのようである。そこで考えるのは、胆嚢に石があるという場合、何れは胆嚢から石が出て悪さをするのであれば、最初から石を取り出す処置をした方がいいのではないかということである。つまり胆石症が病気ならさっさと処置してしまった方が、全体としての治療費は安く済むのではないかという気がするのである。但し、躯に刃物を入れる以上、一定の危険性は覚悟しなければならないと思われるが、一方で、無症候性の胆石症もあるとすれば、単純に病気と決めつけてしまうのはあるいは問題なのかもしれない。

内視鏡で胆石を掴み出したあと、退院日程を告げに来た医師が、外科の医師の判断ですが、まだ胆嚢に石が残っているので、胆嚢を摘出した方がいいといっています。退院後に胃の内視鏡検査と肺機能の検査を予約しておきたいのですが。

エッ、胆嚢取っちゃっていいんですかね。その後の生活になんか影響が出るのではないんですか。

いや、胆汁を溜めて置くだけの器官ですから特に無くなっても影響は出ません。それより一度石が出ると癖になってまた石が出て来ますから、取ってしまった方がいい。手術の予約を入れておきますよ。

確かに、また石が出てくる可能性があるということであれば、取ってしまった方がいい。旅行などに出かけた先等で、胆石が飛び出してくる等ということになると、それこそはた迷惑である。また当人も2度とあの痛みは嫌だという思いもあり、手術を承諾することにした。

お腹を切って摘出するとなると、退院までに相当時間が掛かりますか?。

腹腔鏡下で手術が出来ればそんなに掛からないはずです。詳しいことは外科の先生にお聞きになってください。

切らないでも出来るということですね。

ただ皮下脂肪が厚い場合には腹腔鏡下での手術は出来ないといっていましたが。

 

『肝臓で作られる消化液である胆汁の1日の生成量は約1L。その97%までは水分であるとされている。これは一旦胆嚢に貯蔵され、濃縮されて水分は85%程度に減少し、胆汁酸やムチンなどの固形物は約15%に増える。胆嚢内の胆汁(胆嚢胆汁あるいはB胆汁)は暗褐色を呈し、やや粘稠である。』

 

至極簡単に胆嚢を摘出するという話になったが、人間の体にいらないものが付いているとは考えられないという原初的な疑問については、胆汁を貯蔵しているだけですから、無くても特に困らないということで一蹴されてしまった。胆嚢に一時停車せず、そのまま十二指腸に到達したところで、胆汁の機能は十分に果たせるということのようである。

手術に要する時間は、4-5時間程度。当人は麻酔をされており、全く気づかずに病棟の術後患者集中室に一晩寝かされ、次の日には自分のベッドに戻り、午後には膀胱カテーテルを外され、自分で動くように指示された。従来では考えられない速さで回復に向かったが、それでも痛いものは痛いので、暫くは鎮痛剤の世話になっていた。更に驚いたことに、所々記憶が飛んでいるような気がするというか、時系列で経過を考えていく時、ある部分で記憶が抜けている状況があるのは、麻酔による後遺症なのかどうか。

薬剤師として薬の副作用については、文献的に理解しているが、実際に自分が経験すると、少しずつ違う状況が感じられるので戸惑うことがある。しかし、これは個人的な反応であり、全体が同じような結果になるとは限らないところに、薬を使うことの難しさがあるといえる。

ところで主治医が摘出した胆嚢に入っていた胆石をくれた。医師の言では11個ということであったが、殆どが小さなもので、砂粒をやや大きくした程度の黒いものであった。医師の意見では、この小さな石が色々いたずらするので、胆嚢を摘出して正解でしたよということであり、胆嚢が白く変色していたところがありましたが、今までに何回か炎症を起こしていたようですよということであった。

1)長谷川栄一:新・医学ユーモア辞典 改訂第2版;エルゼビア・ジャパン,2002

(2008.6.15.)

「多摩川台公園」

月曜日, 9月 22nd, 2008

鬼城竜生

紫陽花が咲いているということで、6月14日(土曜日)『多摩川台公園』に出かけることにした。とはいえ、何処にあるのか解らないのでYahooで検索多摩川台-01してみたが、解りやすい地図を入手することは出来なかった。

取り敢えず京急蒲田駅で降りて、JR蒲田駅ビルまで行き、東急多摩川線で多摩川駅まで行くことにした。しかし、驚いたのは多摩 川線は蒲田駅から多摩川駅までの往復路線で、全線が大田区内を走っているというある意味ローカル線であったということである。

蒲田駅 → 矢口渡駅→ 武蔵新田駅→ 下丸子駅→ 鵜の木駅 → 沼部駅→ 多摩川駅

多摩川駅を降りて、最初降り口を間違えて『田園調布せせらぎ公園』に入り込んだ。この公園はどちらかといえば運動等の参加型の遊びをするための公園みたいな感じがした。踏切で線路を渡り多摩川の川側に出て、川に沿って暫く行くと、右手に紫陽花の花が見えた。下から見る限り大した数では無いと思われたが、坂道を登って上に上がってみると、相当の数の紫陽花が見られた。この公園の紫陽花は7種類3000株と紹介されているが、必ずしも正確な数では無いような気がするが、思い過ごしでしょうか。

『多摩川台公園』には、この他に「四季の野草園」があり、鈴蘭、芝桜等の野草を中心に、様々な草花が植えられているとされていたが、季節的にはそれほど多くの花が見られるという状況ではなかった。その他、「水生多摩川台-02植物園」があり、池に土と水で沼地に似た環境が造られ、姫水仙、アサザなどの水生植物と花菖蒲、アヤメといった湿地の植物が植えられているということであるが、今回そこまで足を伸ばさなかった。

公園の野草園・水生植物園がある場所は、かつて調布浄水場があった場所だとされる。大正時代から昭和時代まで、ここから東京に上水道を供給していたという。跡地は浄水場であったことを残すため、濾過池・沈殿池をなるべくそのままの形で水生植物園・ 植物園に転用し、地下貯水場は水生植物園への貯水に利用しているとされる。

『多摩川台公園』とは、そもそもどんな公園かということがよく解らず、色々調べてみたが、納得いくような説明資料は手に入らなかった。ただ、internet上のHPに次の記載がされていた。
『多摩川台公園は川に沿って伸びる丘陵地に約750mにわたって展開しています。面積が66,661m2と広大なうえ、自然林の道、古墳、展望台、水生植物園、四季の野草園、あじさい園、山野草の道、そして二つの広場をそなえるな 多摩川台-03ど見所は豊富です。その中心はなんといっても自然林の道です。起伏に富む園地の多くは赤松、欅、楢、櫟などの武蔵野の面影をとどめる自然林に覆われています。樹々は年月を経て高々と繁り、その下を幾筋もの小径が走っています。』

更に『古墳群と古墳展示室』としての説明に『管理事務所の隣にうず高く盛り上がっているところがあります。それは「亀甲山古墳」で、都立芝公園のある丸山古墳と並んで都内では最もよく知られた古墳です。また、多摩川台公園の最高地には、この地域で最古の前方後円墳である宝莢山古墳があります。この二つの前方後円墳は向き合う位置に造られ、その間には小円墳が8個連なっていて、多摩川台古墳群と呼ばれています。管理事務所には、全国でも珍しい「古墳展示室」が併設されています。』

『公園のある台多摩川台-04地は武蔵野台地の南端部にあたり、国分寺崖線に位置するために多摩川との高低差は大きく、多摩川方面への眺望はすばらしい。また、桜の木が多く、春には桜の名所として知られている。』とする説明も見 られる。

『多摩川台公園』の隣というか隣接地に「多摩川浅間神社」がある。主祭神は木花咲耶姫命で、熊野神社と赤城神社を合祀している。本殿の建築様式は浅間造であり、これは東京都内では唯一のものである。また、社殿は浅間神社古墳の上に建てられているとされているが、神社の境内に多摩川に向けて見晴台が張り出していて、川の風景を見るには都合のいい場所といえた。

いずれにしろ自分の眼で確認して歩かなければ意味がないが、今回は間違えて紛れ込んだみたいな話しで、今後深く探求してみたい公園だといえる。本日の歩数は10,967歩で歩数的にはギリギリ1万歩を超えたという所である。

(2008.6.28.)

紫陽花祭り

月曜日, 9月 22nd, 2008

鬼城竜生

新聞で本郷の紫陽花祭りの話が記事として紹介されていた。6月13日(金曜日)白山神社に出かけることにした。京急蒲田駅1番線から羽田発の急行電車に乗り換え、三田まで行き、都営三田線に乗り換えて白山駅で降りた。白山駅のA3出口を出て右側に眼をやると、白山白山-01神社入り口を示す大きな看板が出ていた。

白山神社は天暦年間(947-957)の創建といわれているが、現在地に移設されたのは明暦元年(1655)とされている。天暦年間に加 賀一宮白山神社を現在の本郷一丁目の地に勧請したが、後に元和年間(1615-1624)に二代将軍秀忠の命で、巣鴨原(現在の小石川植物園内)に移設された。その後、五代目の将軍職につく館林候綱吉の屋敷造営のため、明暦元年(1655)現在地に再度移設された。但し、この縁で綱吉と生母桂昌院の厚い帰依を受けたといわれている。

白山神社の御祭神は、菊理姫命(くくりひめのみこと)・伊弉諾命(いざなぎのみこと)・伊弉冊命(いざなみのみこと)とされている。

" 主神の菊理媛大神(白山大神)”は別名を、白山比

「ヒスタミン産生菌(histamine-producing microorganism)の感染防御」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

感染症分類 食品衛生法第58条1項により「食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはその疑いのある者を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない」と規定されている。
一般的性状

ヒスチジン脱炭酸酵素を有する細菌(ヒスタミン産生菌:histamine-producing microorganism)には、腸内細菌であるMorganella morganii(モルガン菌)、Klebsiella oxyt-oca及び好塩性histamine産生菌であるPhotobacterium phosphoreumやPhotobacterium damsela等が知られている。なお、Photobacterium属菌の中には0℃の低温で増殖するものがある。

これらのhistamine産生菌が付着した魚介類やその加工品の保存温度が不適切な場合、また長期保存した場合に、食品中で菌が増殖し、その結果としてhistamineが魚肉中に蓄積するため、これらを喫食するとアレルギー様食中毒になる。

histamine産生菌のうちM.morganiiを代表とする腸内細菌は、主に漁獲後に魚に付着する二次汚染菌と考えられている。それに反して好塩性histamine産生菌は、本来海水中に生息しており一次汚染菌として存在している。低温性好塩性のhistamine生成菌は、至適温度が20℃付近にあるとされるが、10℃以下でも増殖可能であるため、低温流通が主流の鮮魚介類では食品衛生上注意すべき細菌である。これまで冷蔵中の水産物でもhistamineが生成することが知られているが、その理由は不明なことが多かった。このhistamine生成菌は5℃貯蔵の魚肉中に多量(19-144mg/100g)のhistamineを産生することが確認されているので、低温性好塩性の菌が原因である可能性が高い。*Morganella morganii:グラム陰性の真っ直ぐな桿菌で、周毛性鞭毛を有する。通性嫌気性菌である。ブドウ糖を醗酵し酸とガスを発生する。

*Klebsiella oxytoca:通性嫌気性、グラム陰性で主として単在するが、時として対をなしたり単連鎖を形成する。大腸菌に比較してやや大型の細菌で、厚い莢膜を有し鞭毛は持たない(運動性無)が、線毛を持つ。ブドウ糖を分解して酸とガスを生じ、乳糖も分解する。10℃で発育。

ビブリオ科(Vibrionaceae)に属する細菌は、真っ直ぐか彎曲したグラム陰性桿菌である。通性嫌気性で、極単毛又は極多毛を持ち運動性を示す。

*Photobacterium damselaは、従前はVibrio damselaと命名されていた。Photobacteriumは発光細菌で、イカ・魚類の体表等に棲息している。

Photobacterium phosphoreum:幅0.8-1.3μm、彎曲しない。無鞘性極毛(1-3本)。好塩性、多くは発光性。海水、通常非寄生性。

Photobacterium damsela:従来Vibrio damselaとして分類されていた。海水中に棲息する。稀にヒトに創傷感染を起こす。

棲息部位

M. morganiiはヒト、動物、爬虫類の腸内に棲息する。
K.oxytocaはヒト及び動物の消化管(時に上部気道)のみならず環境(土、水)中に非寄生的にも存在する。
P.damselaは海水中に棲息する。その他、イカ・魚類の体表面に棲息している。

病原性
感染経路

潜伏期:5分-5時間(平均0.5-1時間で発症)。

histamine食中毒の多くは、喫食直後から1時間程度という短時間で発症する。症状としては舌の痺れ、顔面紅潮、蕁麻疹、酩酊感、頭痛、発熱が出現し、時に嘔吐、下痢を伴う。通常3-6時間で回復し、抗histamine薬が有効である。

MAO阻害薬・抗結核薬isoniazid服用患者では、少量のhistamineで中毒する可能性がある。40mg%-histamine含有チーズを摂食したisoniazid服用患者が、中毒を起こした例も報告されている。

histamineが生成される原料となる遊離ヒスチジンは、鮪、鰯、秋刀魚等の青魚(赤身の魚)に多く含まれていることから、本食中毒の原因食品のほとんどは魚介類である。稀に鶏肉、ハム、チェダーチーズが原因となった例もある。histamine産生菌は同時に不揮発性アミン類であるプトレシン、チラミン、カダベリンなども産生する。チラミンとの共存はMAO阻害薬服用患者では、高血圧を促進させ、頭痛を持続、後に血圧を降下させる。

histamine食中毒の発生原因となった食品中のhistami-ne量は4mg-5mg/gと報告されている。

治療

通常、3-6時間後には回復するとされているが、念のため抗ヒスタミン薬を投与する。
d-chlorpheniramine maleate 2-8mg/日 分1-4(増減)
ポララミン錠2mg(シェリング・プラウ)
clemastine fumarate 2mg/日 分2(増減)
タベジール錠1mg(ノバルティス)

感染防御

抵抗性:histamine産生菌に属する細菌は、無芽胞菌であり、加熱処理及び消毒薬に対して抵抗性は示さない。特にPhotobacteriumは好塩菌であり、塩化ナトリウムの存在しない条件下では棲息できない。
日本では魚介類の消費量が多いためhistamine食中毒(アレルギー様食中毒)を起こす機会は多いが、食品中のhistamineに関する法的規制はない。米国では全ての水産加工品に対してHACCP(Hazard Analysis and Control Point:危害分析重要管理点)が導入されるなど徹底した衛生管理が行われている。histamineは熱で分解され難いため、加熱処理により菌は死滅したとしても、一度産生、蓄積されたhistamineを取り除くことは困難である。またhista-mineは腐敗により産生されるアンモニア等と違い外観変化や悪臭を伴わないため、喫食前に汚染を感知し回避することは困難である。喫食中に唇や舌先にピリピリした刺激を感じた場合は、速やかに食品を処分することが大切である。
histamine食中毒の予防には、食品の保全に注意することが最も重要である。特に夏期においては購入した魚はその日のうちに食べ、冷蔵庫内での長期保存を避け、保存する場合は冷凍保存する。更に二次汚染の回避のためには手洗い、手指消毒の励行、調理器具の熱湯消毒等が必要である。

滅菌・消毒

食品衛生上の細菌制御は1)汚染防止、2)殺菌、3)増殖阻止の3原則に従って行われる。

一次汚染においては、常に清潔な食品(原料)を選び、衛生的な取扱に十分配慮すること。

二次汚染においては、原料、人、空気や水並びに器具による交差汚染に注意する。

食品購入段階の感染防御

?清潔への配慮が行き届いた信頼の出来る店を選択する。

?魚介類、食肉、野菜などの生鮮食品は、新鮮なものを必要な分だけ計画的に購入する。

?消費期限の表示のあるものについては、表示の確認を行い、期限の過ぎたものは購入しない。

?生鮮食品などのように冷蔵や冷凍の必要な食品を購入したら速やかに持ち帰り、直ぐに冷蔵庫・冷凍庫に保存する。冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は?15℃以下に維持することが必要。

食品の下処理

?魚介類は腸炎ビブリオが付着していることがあるので、下処理の段階で流水を用いて十分に洗浄し除菌する。

?野菜類の食中毒菌汚染率は低いが、稀にサルモネラや腸管出血性大腸菌の検出例が報告されているので、生食野菜はよく洗浄する。

?俎板(まないた)、包丁、ボウルなどの調理器具は、用途別、食品別に専用のものを使用し、混同させない。特に生食用の野菜と魚・肉用は区分して使用する。

?使用後の俎板、包丁、ボール等の調理器具は、洗剤とタワシを用いて流水で汚れを落とした後、水気を拭き取ってからアルコールの吹き付けにより消毒するか、熱湯処理をする。

?タワシ、フキン等はよく洗浄した後、それぞれ熱湯処理するか、塩素系消毒剤で処理する。

?冷凍食品の解凍は室温での自然解凍を避け、冷蔵庫の中や電子レンジを用いて行うか、又は気密性の容器に入れ、流水で行うようにする。解凍は計画的に必要量だけ行い、再凍結は行わない。

調理作業▼食中毒による事故は、食品取扱者の手指を介して発生する事例が多いので、常に身体の清潔保持に努めることが必要である。

?調理開始前、調理中、用便後、また生の魚介類、食肉、卵殻など微生物の汚染源となる恐れのある食品に触れた後、他の食品や調理器具類に触れる場合は、必ず手指の洗浄・消毒を行う。手指消毒の方法は、液体石鹸による洗浄1回・エタノールによる消毒で行う。

?食品を加熱調理する場合は、食品の中心部を十分に加熱する(75℃-1分間以上)。

?調理後直ちに喫食される食品以外の食品は、細菌による二次汚染や増殖を防止するため、衛生的な容器に入れ、蓋をして10℃以下又は65℃以上で保存する。

文献

1)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂33版;南山堂,2007
2)柴田幹良:ヒスタミン食中毒と微生物;,2008
3)内海 爽・他編:エッセンシャル微生物学 第4版;医歯薬出版株式会社,2000
4)山西弘一・他編:標準微生物学 第9版;医学書院,2005
5)細貝祐太郎・他監:食品安全性セミナー1 食中毒;中央法規出版株式会社,2001
6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2008
7)衛生法規研究会・監:実務衛生行政六法 平成15年版;新日本法規,2002

作成者 古泉秀夫 分類 015.11.HIS 作成年月日 2008.2.9.

「インフルエンザワクチンのウイルス株の決定」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

KW:薬名検索・インフルエンザワクチン・influenza vaccine・ウイルス・virus・普通ワクチン・HAワクチン・インフルエンザ株選定経過

 

Q:インフルエンザワクチンのウイルス株の選定について

 

A:次の報告が見られる。

インフルエンザウイルス(influenza viruses)は、抗原変異を起こし易いvirusで、そのため前に獲得した免疫が効果を発揮しない場合がみられる。また、鼻や口から侵入したvirusは体深部に入らず、上気道の細胞で増殖しただけで症状が発現する。従ってinfluenza vaccineの効果について、しばしば否定的な意見が見られるのは、virusが変異を起こし易いため、vaccineの製造株と流行株の抗原性が合わず、折角vaccineを接種しても発症してしまうことがあることと、感染経路と発症の形態に問題があるからである。

効果が発現し難いもう一つの理由であるinfluenza自体の感染発症の機序として、influenza virusesは上気道の細胞で増殖し、発熱などの症状を直ちに誘発するため、鼻腔内粘膜、上気道においてvaccine接種により発現した抗体が作動することが期待される。しかしながら現在使用されている皮下注射によるvaccineの接種方法では、血液中には多量の抗体ができるが、鼻腔内粘膜・上気道に滲出する抗体の量が少ないため、僅かな抗原性の違いでも効果が希薄化する傾向が見られる。但し、肺炎などの重症化防止には、血中の抗体が直接作動するため、多少抗原性が異なっていたとしても十分な効果が期待できるとされている。

以上の欠点を改善するため、現在では次に流行しそうなvirus株を予測してvaccineの製造を始める体制が取られている。最近では新たな流行株の発生地として知られる中国にも観測点を置くことにより、かなり正確な予測ができるようになってきた。WHOや日本の国立感染症研究所は、世界各地でinfluenza virusesの定点観測を行っており、分離されたウイルスの抗原性を調べて、その年の流行株を予測している。これらの流行予測株の中から増殖性、免疫原性などが検討され、血清疫学データとあわせてその年のvaccine候補株が選ばれ、厚生労働省により最終的に決定される。1978年以降、A/ソ連(H1N1)、A/香港(H3N2)、B型の最低3株がinfluenza vaccineの原料として使用されている。

influenza whole vaccine(influenza普通vaccine):influenza virusesを発育鶏卵漿尿膜で培養し、ニワトリ赤血球への吸着と遊出や密度勾配遠心法で精製した完全virus粒子を不活化したvaccineである。

influenza component vaccine(influenza HA vaccine):上記virus粒子をエーテル処理して破壊し、HA(赤血球凝集素)とNA(neuraminidase)の多く含まれている部分を集めたvaccineである。

『普通vaccine』を用いると、副反応として発熱、頭痛、倦怠感を起こすことがあるが、『HA vaccine』は副反応が少ないので、現行では『HA vaccine』が使用されている。『HA vaccine』の免疫効果は、3週間の間隔をおいて2回接種しても、接種後5ヵ月頃より抗体価が低落するので、毎年接種を繰り返さなければなにない。

参照として次の資料を添付する。

平成18年度(2006/07シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過

わが国におけるインフルエンザワクチン製造株の決定過程は、厚生労働省健康局の依頼に応じて国立感染症研究所(感染研)が検討し、これに基づいて厚生労働省が決定・通達している。感染研では、全国76カ所の地方衛生研究所と感染研、厚生労働省結核感染症課を結ぶ感染症発生動向調査事業により得られた流行状況、および約6,000株に及ぶ分離ウイルスについての抗原性や遺伝子解析の成績、感染症流行予測事業による住民の抗体保有状況調査の成績などに基づいて、前年度の11-12月に次年度シーズンの予備的流行予測を行い、これに対するいくつかのワクチン候補株を選択する。さらにこれらについて、発育鶏卵での増殖効率、抗原的安定性、免疫原性、エーテル処理効果などのワクチン製造株としての適格性を検討する。一方、年が明けた1月下旬から数回にわたり所内外のインフルエンザ専門家を中心とする検討委員会が開催され、上記の前シーズンの成績、およびその年のインフルエンザシーズンにおける最新の成績を検討して、次シーズンの流行予測を行う。さらにWHOにより2月中旬に出される北半球次シーズンに対するワクチン推奨株とその選定過程、その他の外国における諸情報を総合的に検討して、3月までに次シーズンのワクチン株を選定する。感染研はこれを厚生労働省健康局長に報告し、それに基づいて厚生労働省医薬食品局長が決定して5-6月に公布している。

平成18年度(2006/07シーズン)に向けたインフルエンザワクチン株は、

A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)・A/広島/52/2005 (H3N2)・B/マレーシア/2506/2004

であり、以下にその選定経過を述べる。

1.A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)

わが国では、A/H1N1型(ソ連型)ウイルスの流行は昨シーズンから小さいながら見られるようになり、2005/06シーズンは全分離株の25%にあたる1,330株が分離された。分離株の94%はワクチン株であるA/ニューカレドニア/20/99類似株であったが、HAの抗原部位中にアミノ酸置換を伴った(K140E)変異株も少数みられた。中国、韓国など他のアジア諸国や欧米諸国、南半球諸国においても同様にA/H1N1ウイルスの流行が拡がる傾向がみられるが、分離株の大半はA/ニューカレドニア/20/99類似株であった。一方、昨シーズンと同様に2001/02シーズンに出現した遺伝子再集合体であるA/H1N2ウイルスは世界中のどの地域からも分離されなかった。このことから、WHOでは北半球2006/07シーズンのワクチン株として、昨年に引き続きA/ニューカレドニア/20/99類似株を推奨した。

感染症流行予測事業による抗体保有状況調査においては、A/ニューカレドニア/20/99に対する抗体保有状況は15-19歳群で72%と最も高く、5-14歳群と20-24歳群では50%を超えていた。しかし、25-54歳群と65-69歳群以降の年齢群では27-38%、4歳以下の幼児と55-64歳の年齢層では20%以下の抗体保有率であった。したがって、これら抗体保有率が十分でない年齢層に対しては、この株に対する免疫増強の必要性が示唆された。

A/ニューカレドニア/20/99は過去6シーズンにわたってワクチン株として用いられており、製造効率および有効性において実績がある。

以上のことから、2006/07シーズンのA/H1N1型ワクチン株として、昨年と同様にA/ニューカレドニア/20/99を選定した。

2.A/広島/52/2005 (H3N2)

わが国における2005/06シーズンのインフルエンザの流行はA/H3N2型(香港型)が主流で、分離株総数の65%を占めた。これら分離株の79%はワクチン株のA/ニューヨーク/55/2004からHI試験で抗原性に4倍以上の違いがみられたが、67%の株はA/ウィスコンシン/67/2005やA/広島/52/2005に対するフェレット感染血清とよく反応した。一方、HA遺伝子の系統樹解析においても、2005/06シーズン分離株の大多数は、前シーズンの主流行株であるA/カリフォルニア/7/2004類似株とは明確に区別され、A/ウィスコンシン/67/2005やA/広島/52/2005に代表される193Fおよび225Nのアミノ酸をもつ一群を形成した。すなわち、A/H3N2型の流行はA/カルフォルニア/7/2004類似株からA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行してきていることが示された。

A/ニューヨーク/55/2004株ワクチンの接種を受けた人の血清抗体は、2005/06シーズンの主流行株となったA/ウィスコンシン/67/2005類似株(A/ウィスコンシン/67/2005のほか、A/広島/52/2005、A/安徽/1239/2005など)との交叉反応は若干低い傾向にある。来シーズンには流行の主流がA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行することが推測されることから、これらの株に対してより強い免疫を与えるためには、ワクチン株をA/ウィスコンシン/67/2005類似株のウイルスに変更することが必要である。

諸外国ではA/H3N2型の占める割合は全体の3-4割であり、2005/06シーズンはじめはA/カリフォルニア/7/2004類似株が多かったが、A/ウィスコンシン/67/2005類似株が急増し半数以上を占めた。このことから、WHOはA/H3N2型のワクチン株としてA/ウィスコンシン/67/2005類似株を推奨した。

抗体保有状況調査においては、ワクチン株A/ニューヨーク/55/2005に対する抗体保有状況は5-19歳群では57-72%と高い値を示した。しかし、0-4歳群および20-24歳群以降の成人層では35%以下であり、特に45-69歳群では約20%前後と低い抗体保有率であった。流行株がA/カリフォルニア/7/2004類似株からA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行しており、2006/07シーズンもA/H3N2型が流行の主流になることも考えられるので、A/ウィスコンシン/67/2005類似株によるワクチン接種が望まれる。
ワクチン製造株としては発育鶏卵で分離され、しかも発育鶏卵で増殖性が高いことが必須条件となるため、A/ウィスコンシン/67/2005類似株であるA/ウィスコンシン/67/2005とA/広島/52/2005について、発育鶏卵での増殖性および継代による抗原性の安定性について検討した。その結果、両株とも発育鶏卵で比較的よく増殖し、継代してもHA遺伝子は安定であり抗原性の変化もないことが示されたが、A/広島/52/2005の方が増殖性は優れていた。したがって、A/広島/52/2005がワクチン製造株として適当であると判断された。
以上のことから、2006/07シーズンのA/H3N2型のワクチン株として、A/広島/52/2005を選定した。

3.B/マレーシア/2506/2004

2005/06シーズンにおいては、わが国のB型の流行は小さく分離株総数の10%であった。B型インフルエンザウイルスは、1980年代後半から抗原的にも遺伝子的にも区別されるB/ビクトリア/2/87株を代表とするビクトリア系統とB/山形/16/88を代表とする山形系統に二分される。2003年から2シーズンは山形系統株がB型分離株の99%を占めていたが、2005/06シーズンの分離株はすべてビクトリア系統株であり、B型の流行が山形系統からビクトリア系統にかわったことが示された。これら分離株の83%は2シーズン前のわが国のビクトリア系統ワクチン株B/山東/7/97が含まれるB/香港/330/2001類似株から抗原性が大きく変化しており、2006シーズンの南半球のB型ワクチン株であるB/マレーシア/2506/2004と類似していた。

一方、諸外国におけるB型インフルエンザの流行は、わが国とはやや異なり、流行全体の3-4割を占め増加する傾向がみられた。分離株の10-20%は山形系統であったが、大半はビクトリア系統であり、南半球諸国でもこの系統に属する株が増加する傾向がみられている。これらビクトリア系統分離株の約7割はB/マレーシア/2506/2004類似株であった。北半球ではここ2シーズンは山形系統がワクチン株として採用されており、ビクトリア系統のウイルスに対する抗体保有率が低いことが推定されたので、WHOでは2006/07シーズンのB型ウイルスワクチンに南半球で使用実績のあるB/マレーシア/2506/2004を推奨した。

わが国の各年齢層における抗体保有状況についてみると、前シーズンは山形系統のワクチン株B/上海/361/2002類似株が流行の主流であり、全年齢層でこれに対する高い抗体保有率がみられ、特に10-24歳群では57-67%と高いことが示された。これに対して、ビクトリア系統株に対する抗体保有率は全年齢層で25%未満と低く、ここ2シーズン流行がなかったこともこの結果に反映されていると考えられた。流行株が山形系統からビクトリア系統に移行しており、2006/07シーズンもビクトリア系統株がB型の流行の主流になると考えられるので、B/マレーシア/2506/2004類似株によるワクチン接種が望まれる。

B/マレーシア/2506/2004類似株の中からB/マレーシア/2506/2004とB/オハイオ/1/2005について、発育鶏卵での増殖性および継代による抗原性の安定性について検討した。その結果、両株とも発育鶏卵でよく増殖し、継代しても抗原性の変化はないことが示されたが、B/マレーシア/2506/2004の方が増殖性は若干優れていた。したがって、B/マレーシア/2506/2004がワクチン製造株として適当であると判断された。

以上のことから、2006/07シーズンのB型ウイルスワクチンにはビクトリア系統からB/マレーシア/2506/2004を選定した。

 

1)大里外誉郎・編:医科ウイルス学改訂第2版;南江堂,2002
2)小渕正次・他:平成18年度(2006/07シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過;,2008.2.26.
3)福澤正人:インフルエンザワクチン株と流行株の適合(第2報);薬事新報,No.2514:224-227(2008)

   [015.4.INF:2008.2.26.古泉秀夫]

「副作用-酷い胃痛の発生原因は」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

KW:副作用・消化器系副作用・胃痛・腹痛・ウルソ錠・アリチアN50・ロヒプノール錠・リーマス錠・ウルソデオキシコール酸・炭酸リチウム

 

Q:C型ウイルス肝炎の初期段階との診断を受けたが、他に治療中の疾患があり、インターフェロンの使用は回避された。治療薬として次の処方が出されているが、服用後、酷い胃痛に困っています。服用中の薬にそのような副作用はありますか。
ウルソ6錠・アリチアN50 2錠・重質酸化マグネシウム・ロヒプノール2 1錠・リーマス錠200 1錠

 

A:各薬剤の関連すると思われる副作用として、次の報告が見られる。

 

[分類]一般名・商品名(会社名) 消化器系副作用

[236]ursodeoxychlic acid
ウルソ錠(田辺三菱)
錠:50・100mg

下痢、悪心、食欲不振、嘔吐、腹痛、便秘、胸やけ、胃部不快感。

[317]thiamine disulfide 10mg・pyridoxine hydrochloride  50mg・cyanocobalamin 0.25mg
アリチアN50(メルク製薬)

食欲不振、胃部不快感、下痢等。

[112]flunitrazepam
ロヒプノール錠(中外)
錠:1・2mg

口渇、食欲不振、胃部不快感、下痢、便秘、腹痛、嘔吐、舌の荒れ、胸やけ、流涎、口の苦み。

[117]lithium carbonate
リーマス錠(大正富山)

lithiuma中毒として食欲低下、嘔吐・嘔気、下痢の消化器症状。
口渇、嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振、胃部不快感、腹痛、便秘、唾液分泌過多、胃腸障害。

 

ursodeoxychlic acidについては、胃粘膜刺激作用により胃酸の分泌を促進するとの報告がされており、in vitroの実験において弱い細胞障害性を有するとの報告も見られるため、胃痛の発現はウルソ錠が原因ではないかと思われるが、“酷い胃痛”と表現される症状に該当するか否かは不明である。

lithium carbonateにも消化器症状として腹痛が報告されている。lithiumの副作用として重大なものは過量投与によるlithium中毒である。中毒の初期症状として悪心・嘔吐、下痢、食欲不振、嚥下困難、粗大振戦、筋痙攣、運動障害、運動失調、脱力、運動過少、傾眠、眩暈、発熱、発汗、言語障害、錯乱などが見られる。中毒が進行すると、初期症状の増強に加えて、頭痛、耳鳴、腱反射亢進、情緒不安、譫妄、昏睡、徐脈などの症状が現れる。
その他の副作用としては、時に脳波異常、頭痛、眩暈、知覚異常、傾眠又は不眠、振戦、運動失調、心電図異常、不整脈、血圧低下、腹痛、嘔吐、口渇、食欲不振、腎機能異常、甲状腺機能異常、肝機能異常、白血球増多症が起こることがある等の報告が見られる。

その他、本品1.0gを水100mLに溶かした液のpHは10.9-11.5の強アルカリ性溶液になるとされており、胃液の状況によっては、本品による胃粘膜への刺激も考慮する必要があると思われる。

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007
2)アリチアN50添付文書,2006年7月改訂
3)ウルソサン錠・顆粒IF,2001.10.改訂第4版
4)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006

 

  [065.LIT:2008.2.6.古泉秀夫]

「紫陽花の毒性について」

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:毒性・中毒・紫陽花・アジサイ・キダチアジサイ・ヤマアジサイ・ジョウザンアジサイ・Wild Hydrangea・Hydrangea arborescens・八仙花・常山・フェブリフギン・febrifugine・ジクロイン・dichroine・ジクリン・dichrin・青酸配糖体

Q:アジサイの有毒成分について、またどの程度危険なのか。刺身の褄のような「添え物」の安全性は、食品衛生法上取扱の見解は定まっておらず、現場の事業者らに委ねられているのが実情のようである。そのことについての見解。

A:アジサイ科アジサイ属に分類される“キダチアジサイ”、英名:Wild Hydrangea(ワイルドハイドランゲア)。学名:Hydrangea arborescens。別名:ヤマアジサイ。

特徴:木質茎を有し、落葉性低木で高さ3m。葉は楕円形で、花は乳白色の花が花序をなす。アメリカ東部、ニューヨークからフロリダにかけて自生し、森林地帯や川縁に育つ。根は秋に採取される。
使用部位:根。

主成分:フラボノイド、青酸配糖体(ハイドランゲイン:hydrangin)、サポニン、揮発油。

民間伝承:チェロキー族は、これを腎臟結石、膀胱結石の治療に特に効果的であると考えられていた。結石の排出を促し、更に残った結石を溶かすと考えられていた。キダチアジサイ、シバムギ(Agropyron repens)、タチアオイ(Althaea rosea)を処方した。
利尿作用のあるキダチアジサイは膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大、前立腺炎等の泌尿器系の感染症に適応される。

フィロズルシン(phyllodulcin):ユキノシタ科ヤマアジサイ(Hydrangea serrata)の甘味種(アマチャ)の葉に8-O-β-glucosideとして含まれる。同属植物のアジサイにはヒドランゲノール(hydrangenol)がラクトン部分で開環した形のhydrangenic acidと共に含まれている。

八仙花[植物名実図考]、異名:粉団花(フンダンカ)、紫陽花(しようか)[現代実用中薬]。

基原:ユキノシタ科の植物。繍球(シュウキュウ[和名]アジサイ)の根、葉、花。[原植物]アジサイ(Hydrangea macrophylla(Thunb.)Ser.)、落葉低木。

[成分]本品には抗紫陽花毒性-01マラリアalkaloidが含まれている。花はルチンを含み、乾燥した花の中に含まれる量は0.36%を超える。根とその他の部分にはダフネチン-メチルエーテル(daphnetin-methylether)とウンベリフェロン(umbelliferone)が含まれている。根にはヒドランゲノール(hydrangenol)、ヒドランゲア酸(hydrangea acid)が含まれる。葉にはスキンミン等も含まれる。八仙花の変種である八仙繍球(H.macrophylla var.hortensia)の根、樹皮、花の中にはhydrangenolのglucosideが含まれ、また根と樹皮には umbelliferone-diglucoside(ネオヒドランギン:neohydrangin)も含まれる。その他、アジサイ属植物の一種の葉には抗マラリアalkaloidのフェブリフギン(febrifugine)が含まれることが発見されている。八仙花抗マラリア作用は常山との比較で遅効性であるが、強度はquinineの約13倍である。八仙花中の総alkaloidの1/2で、毒性は1/4である。

[毒性]ニワトリにエチルアルコール抽出液13g/kg以上を皮下注射すると死亡する。イヌに0.2g/kgを経口投与すると嘔吐を惹起する。1.5g/kgを静脈あるいは皮下注射すると嘔吐、血便があり、死亡する。死亡したイヌの病理検査では内臓の著しい充血、血管内皮細胞の増殖、消化管と肺に出血が見られた。

常山[神農本草経]、異名:互草(ごそう)[神農本草経]、恒山(こうざん)・七葉(しちよう)[呉普本草]、鶏骨常山<陶弘景>、翻胃木(ほんいぼく)<侯寧極>[葉譜]。

[基原]ユキノシタ科の植物、黄常山(おうじょうざん[和名]ジョウザンアジサイ)の根。

[原植物]ジョウザンアジサイ(Dichroa febrifuga Lour.)、落葉低木。

[成分]黄常山は有効成分(総称)ジクロイン(dichroine)を含み、根は総量約0.1%のalkaloidを含むが、そのうち主なものはα-dichroine(C16H21N3O3:303)・β-dichroine(C16H21N3O3:303)・γ-dichroine(C16H21N3O3:303)で、三者は相互変異体である。更紫陽花毒性-02 にジクリンA(dichrin A)及びジクリンB(dichrin B)、4-キナゾロン(4-quinazolone)、ウンベリフェロン(umbelliferone)等を含む。根及び葉から抽出されるフェブリフギン(febrifugine)とイソフェブリフギン(isofebrifugine)は、それぞれβ-dichroineとα-ichroineと同一化合物である。葉はalkaloidを総量約0.5%含み、そのうちdichroineの含有量は根の10-20倍である。他に少量のトリメチルアミン(trimethylamine)を含む。その他、β-dichroine及びγ-dichroineはfebrifugineに該当するものと思われるの報告が見られる。

[毒性]マウスにα-dichroine・β-dichroine・γ-dichroineを服用させ、またラット静脈にα-dichroineを注射すると、どちらも下痢を起こし、マウスは甚だしい場合には血便を起こす。イヌに常山の水製エキスを服用させるか、又はアルコールエキスを筋肉に注射するか、又はα-dichroineを皮下に注射すると悪心・嘔吐・下痢及び胃腸粘膜の充血出血を起こす。前もって蓚酸セリウムを服用させておくと、嘔吐・下痢が軽減するのは、dichroineが胃腸管を刺激するためである。ハトの静脈にα-dichroine・β-dichroine・γ-dichroineを注射すると嘔吐を起こし、chlorpromazineはその嘔吐の発生を遅延させることが出来るが阻止は出来ない。イヌの催吐化学受容性引金帯(CTZ)を破壊しても、β-dichroineの限界量による嘔吐を軽減することは出来ない。両側の迷走神経を切断するとその催吐作用は大幅に減弱し、胃腸管の迷走及び交感神経を完全に切除するとβ-dichroineによる嘔吐を完全に阻止できる。これによりβ-dichroineは主に胃腸管の迷走及び交感神経の末梢を刺激し、反射的に嘔吐を惹起するものであるといえる。
マウスのdichroine服用によるLD50(mg/kg)は、β-dichroineが約6.57、γ-dichroineが約0.45、総alkaloidは7.79で、β-dichroineの毒性はquinineの約150倍、総alkaloidの毒性はquinineの約123倍である。γ-dichroineの内服による毒性は、静脈注射より大きい(マウス)。

その他次の報告も見られる。

ユキノシタ科に属する常山紫陽花(Dichroa febrifuga)の根茎である生薬・常山は、古来中国でマラリア治療薬として用いられ、その活性成分はキナゾリンアルカロイドのfebrifugineであることが知られている。但し、febrifugineは、その強力なマラリア活性と共に、嘔吐や胃腸障害などの副作用があり、医薬品として用いられることはなかった。しかし、chloroquineやartemisinin等の既存薬を凌ぐ強力な抗マラリア活性を有するfebrifugineは、新規抗マラリア薬開発のリード化合物としての可能性を秘めている。

以上報告されている文献内容から判断すると、紫陽花葉の摂食により食中毒症状を発現したのは、紫陽花葉に含まれるfebrifugineの作用によるものではないかと考えられる。本品による強力な催吐作用と消化管出血等の胃腸障害が報告されている。

尚、植物には昆虫摂食阻害物質を合成するものがあり、含有成分の不明なものについて、料理等の装飾に使用することは、専門の料理人としては避けるべきである。皿の上にあるものが食えない物だという個人の常識に掛からない場合、摂食する可能性は高い。まして紫陽花葉の若い葉は、紫蘇葉に類似した外観を示しており、誤食の原因となりかねない。

1)難波恒雄・監訳:世界薬用植物百科事典;誠文堂新光社,2000
2)写真で見る家畜の有毒植物と中毒-アジサイ-;独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所,2008.7.4.
3)田中 治・他:天然物化学改訂第6版;南山堂,2002
4)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第三巻;小学館,1998
5)菊池晴久・他:キナゾリンアルカロイドfebrifugineを基盤とした新規抗マラリア物質の創製,2008.8.8.
6)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第二巻;小学館,1998
7)船山信次:アルカロイド-毒と薬の宝庫-;共立出版株式会社,2003

[63.099. HYD:2008.8.10.古泉秀夫]

「ウイルスとは」

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:殺菌・消毒・ウイルス・virus・毒・毒性・genome・全遺伝情報・RNA・DNA・外皮膜・envelope・エネルギー代謝系・蛋白合成系・感染因子

Q:『ウイルス』の定義として、どの様な解釈がされているか

A:次の報告が見られる。

?virusは本来は『』を意味する語であるとされる。細菌より小さな、濾過性の病原体をultrafiltrable virusといったが、その後単にvirusと呼ぶようにになったvirusはDNA又はRNAをgenome(全遺伝情報)として持ち、宿主細胞内でのみ複製する。動物、植物、細菌、昆虫、糸状菌、マイコプラズマ、原生動物などのvirusが知られている。

?virusは元々『毒蛇』を意味するラテン語で(virulence=毒性)、これが転じて“病毒を運ぶもの”の意味になり、顕微鏡でも見えず、通常の細菌なら通過できない濾過器を通り抜ける病原体を『filtrable virus 』というようになり、1930年から単にvirusと呼ばれるようになった。なお、ウイルスというのは日本ウイルス学会が提案した日本名で、英語では「バイラス」、ドイツ語では「ビールス」、フランス語は「ビーリュス」と発音する。ウイルスというのはラテン語の発音に近い。結局virusとは『通常の細菌に比べて桁違いに小さな病原微生物』であると定義されたが、その実態が直接見えるようになったのは、電子顕微鏡が完成した1938年以降である。

?W.M.Stanleyは、1935年にタバコモザイク病に侵された煙草葉の絞り汁から病原ウイルスを針状結晶の型で純粋に分離し、その本体が一種の蛋白質であることを示した。+鎖RNAよりなる1本の単鎖RNAを遺伝物質として持っている。virusは結晶形では全く無生物として存在するが、適当に生きている細胞に取り付くと、それ自身がどんどん増加し、同一のvirus分子が無制限に出来る。これは生物の増殖と全く同じ現象である。一般生物と異なるところは、virusは解糖系のような生活に必須な酵素系を持っていないので、単体では独立して増殖できず、増殖のためには必ず他の生きた細胞を必要とする

virusは遺伝情報を担うgenome(DNA又はRNA)と、それを取り囲む蛋白質で、構成される感染性を持つ分子集合体である。virusの中には、更に細胞膜に似た外皮膜(envelope)を持つものがある。genomeについてはDNAであるかRNAであるか、二本鎖であるか一本鎖であるか、又は直鎖状であるか環状であるか、更に分節型か、非分節型であるか等によって分類されている。

virusはエネルギー代謝のための補酵素も、蛋白合成の場のリボソームも持たないため、栄養分を外界から摂取して自力で生活することはできず、virusの増殖は、宿主細胞のエネルギー代謝系と蛋白合成系が全面的に代行している。従ってvirusは、生きた細胞の存在下で初めてその種を保存することができ、細胞外では代謝能力がないため1個の物体に過ぎない。生きた細胞に接触しない限り外界でのvirus粒子は早晩消滅する。
以上の報告から単純明解に集約すると

『virusとは生物と無生物との間にある極小微生物で、エネルギー代謝系も蛋白合成系も持たないため、宿主細胞に完全に依存・寄生することで生活し得る特異な感染因子である。』

ということになるのではないか。

1)今堀和友・他監:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
2)長谷川栄一:新・医学ユーモア辞典 改訂第二版;エルゼビア・ジャパン,2002
3)大里外誉郎・編:医科ウイルス学改訂第2版;南江堂,2002

                     [615.28.VIR:2008.2.1.古泉秀夫]

『ラパチニブについて』

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:薬名検索・ラパチニブ・ラパチニブトシル酸水和物・lapatinib ditosylate・EGFR/HERチロキシナーゼ阻害作用・分子標的抗癌剤・tykerb・タイケルブ・GW2016・GW572016F・有害事象

Q:ラパチニブとはどの様な薬か

A:ラパチニブトシル酸水和物(lapatinib ditosylate)は、英国:Glaxo SmithKline社が開発したEGFR/HERチロキシナーゼ阻害作用を有する分子標的抗癌剤である。米国では2007年に発売され、欧州では2006年に申請されたとされるが、我が国では2007年3月に承認申請がされた。

[剤型]錠剤。

[商]Tykerb(タイケルブ)。治験記号:GW2016、GW572016F。CAS-388082-78-8and231277-92-2(free)。C29H26ClFN4O4S・2C7H8O3S・H2O=943.48。

本品は英国・Glaxo SmithKline社が開発した経口用分子標的抗癌剤で、腫瘍の3-8割に見られるErbB1、ErbB2の両方のリン酸化酵素を可逆的に阻害することで、腫瘍細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導する。ハーセプチン(trastuzumab)が作用するErbB2(HER2/neu)受容体のみならず、ErbB1(EGF)受容体にも結合活性を示すことからハーセプチンに抵抗性を示す患者にも有効性が期待される。

臨床試験では、ErbB1、ErbB2の一方又は両方を過剰発現する非小細胞肺癌、膀胱癌、頭頸部癌や胃癌患者に対して1日1回の経口投与で優れた効果を発揮し、特に転移乳癌患者では、単独投与で顕著な効果が得られた。

主な有害事象:(第I相臨床試験)下痢、食欲不振、疲労感、口内炎、悪心、嘔吐[G1-2]。下痢[G-3]。(第II相臨床試験)下痢、発疹、悪心[G1-2]。リンパ球減少、低ナトリウム血症、疲労感、発熱、鬱血性心筋症[G3]。

本剤の心毒性を追跡解析した結果、左室駆出率の低下を引き起こす可能性は極めて低く、低下例は殆どが無症候性、可逆性、且つ非進行性であることが判明した。本剤の全臨床試験で、1.3%(42/3127)に左室駆出率低下が確認され、23/42例は単独療法、19/42例は併用療法であった。左室駆出率低下例の69%は治療開始後9週以内に認められ、持続期間は4週間で、62%は寛解又は改善した。

症候性は0.1%(4/42)で、標準的な心不全療法に反応した。左室駆出率低下42例のうち38例(90%)は前治療や縦隔/左側放射線照射又は既往歴など混同因子保持者であった。

プラセボ対照比較試験では、17/1492例に左室駆出率低下が認められ、そのうち本剤投与群の発現率は1.0%(8/746)であった。

*ハーセプチン(trastuzumab)等の薬物治療において病状が進行した乳癌患者41例に投与した結果、6ヵ月間で1例の腫瘍が完全に消滅、3例で明らかな縮小が認められ、24週間目時点で全体の17%の患者で腫瘍の進行は認められなかった。主な有害事象は軽度から中等度の発疹、疲労、下痢、嘔気、食欲不振で、G3の有害事象は発疹(5%)、疲労(5%)、下痢(10%)であった。
国内で申請した適応症は『HER2過剰発現を示す手術不能又は再発乳癌に対するcapecitabine(ゼローダ錠;中外)との併用療法及びラパチニブによる単独療法』である。

EGFR:Epidermal Growth Factor Receptor(上皮成長因子受容体)

HER2:Human Epidermal Growth Factor Receptor type2の略語で、細胞の生産にかかわるヒト上皮細胞増殖因子受容体とよく似た構造をもつ遺伝子タンパクです。HER2タンパクは、正常な細胞にもわずかに存在し、細胞の増殖調節機能を担っていると考えられているが、過剰に発現したり活性化したりして細胞の増殖や悪性化に関わるとされている。

1)GEFR/HERチロシンキナーゼ阻害作用を有する分子標的抗癌剤 トシル酸ラパチニブ;New Current,18(5):2-12(2007.3.1.開発薬Date)
2)ラパチニブトシル酸水和物(タイケルブ、GW572016、GW-2016);New Current,18(28)<治験薬一覧表.:149(2007.12.20.)

[011.1.LAP:2008.1.28.古泉秀夫]