Archive for 9月 4th, 2008

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「紫陽花の毒性について」

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:毒性・中毒・紫陽花・アジサイ・キダチアジサイ・ヤマアジサイ・ジョウザンアジサイ・Wild Hydrangea・Hydrangea arborescens・八仙花・常山・フェブリフギン・febrifugine・ジクロイン・dichroine・ジクリン・dichrin・青酸配糖体

Q:アジサイの有毒成分について、またどの程度危険なのか。刺身の褄のような「添え物」の安全性は、食品衛生法上取扱の見解は定まっておらず、現場の事業者らに委ねられているのが実情のようである。そのことについての見解。

A:アジサイ科アジサイ属に分類される“キダチアジサイ”、英名:Wild Hydrangea(ワイルドハイドランゲア)。学名:Hydrangea arborescens。別名:ヤマアジサイ。

特徴:木質茎を有し、落葉性低木で高さ3m。葉は楕円形で、花は乳白色の花が花序をなす。アメリカ東部、ニューヨークからフロリダにかけて自生し、森林地帯や川縁に育つ。根は秋に採取される。
使用部位:根。

主成分:フラボノイド、青酸配糖体(ハイドランゲイン:hydrangin)、サポニン、揮発油。

民間伝承:チェロキー族は、これを腎臟結石、膀胱結石の治療に特に効果的であると考えられていた。結石の排出を促し、更に残った結石を溶かすと考えられていた。キダチアジサイ、シバムギ(Agropyron repens)、タチアオイ(Althaea rosea)を処方した。
利尿作用のあるキダチアジサイは膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大、前立腺炎等の泌尿器系の感染症に適応される。

フィロズルシン(phyllodulcin):ユキノシタ科ヤマアジサイ(Hydrangea serrata)の甘味種(アマチャ)の葉に8-O-β-glucosideとして含まれる。同属植物のアジサイにはヒドランゲノール(hydrangenol)がラクトン部分で開環した形のhydrangenic acidと共に含まれている。

八仙花[植物名実図考]、異名:粉団花(フンダンカ)、紫陽花(しようか)[現代実用中薬]。

基原:ユキノシタ科の植物。繍球(シュウキュウ[和名]アジサイ)の根、葉、花。[原植物]アジサイ(Hydrangea macrophylla(Thunb.)Ser.)、落葉低木。

[成分]本品には抗紫陽花毒性-01マラリアalkaloidが含まれている。花はルチンを含み、乾燥した花の中に含まれる量は0.36%を超える。根とその他の部分にはダフネチン-メチルエーテル(daphnetin-methylether)とウンベリフェロン(umbelliferone)が含まれている。根にはヒドランゲノール(hydrangenol)、ヒドランゲア酸(hydrangea acid)が含まれる。葉にはスキンミン等も含まれる。八仙花の変種である八仙繍球(H.macrophylla var.hortensia)の根、樹皮、花の中にはhydrangenolのglucosideが含まれ、また根と樹皮には umbelliferone-diglucoside(ネオヒドランギン:neohydrangin)も含まれる。その他、アジサイ属植物の一種の葉には抗マラリアalkaloidのフェブリフギン(febrifugine)が含まれることが発見されている。八仙花抗マラリア作用は常山との比較で遅効性であるが、強度はquinineの約13倍である。八仙花中の総alkaloidの1/2で、毒性は1/4である。

[毒性]ニワトリにエチルアルコール抽出液13g/kg以上を皮下注射すると死亡する。イヌに0.2g/kgを経口投与すると嘔吐を惹起する。1.5g/kgを静脈あるいは皮下注射すると嘔吐、血便があり、死亡する。死亡したイヌの病理検査では内臓の著しい充血、血管内皮細胞の増殖、消化管と肺に出血が見られた。

常山[神農本草経]、異名:互草(ごそう)[神農本草経]、恒山(こうざん)・七葉(しちよう)[呉普本草]、鶏骨常山<陶弘景>、翻胃木(ほんいぼく)<侯寧極>[葉譜]。

[基原]ユキノシタ科の植物、黄常山(おうじょうざん[和名]ジョウザンアジサイ)の根。

[原植物]ジョウザンアジサイ(Dichroa febrifuga Lour.)、落葉低木。

[成分]黄常山は有効成分(総称)ジクロイン(dichroine)を含み、根は総量約0.1%のalkaloidを含むが、そのうち主なものはα-dichroine(C16H21N3O3:303)・β-dichroine(C16H21N3O3:303)・γ-dichroine(C16H21N3O3:303)で、三者は相互変異体である。更紫陽花毒性-02 にジクリンA(dichrin A)及びジクリンB(dichrin B)、4-キナゾロン(4-quinazolone)、ウンベリフェロン(umbelliferone)等を含む。根及び葉から抽出されるフェブリフギン(febrifugine)とイソフェブリフギン(isofebrifugine)は、それぞれβ-dichroineとα-ichroineと同一化合物である。葉はalkaloidを総量約0.5%含み、そのうちdichroineの含有量は根の10-20倍である。他に少量のトリメチルアミン(trimethylamine)を含む。その他、β-dichroine及びγ-dichroineはfebrifugineに該当するものと思われるの報告が見られる。

[毒性]マウスにα-dichroine・β-dichroine・γ-dichroineを服用させ、またラット静脈にα-dichroineを注射すると、どちらも下痢を起こし、マウスは甚だしい場合には血便を起こす。イヌに常山の水製エキスを服用させるか、又はアルコールエキスを筋肉に注射するか、又はα-dichroineを皮下に注射すると悪心・嘔吐・下痢及び胃腸粘膜の充血出血を起こす。前もって蓚酸セリウムを服用させておくと、嘔吐・下痢が軽減するのは、dichroineが胃腸管を刺激するためである。ハトの静脈にα-dichroine・β-dichroine・γ-dichroineを注射すると嘔吐を起こし、chlorpromazineはその嘔吐の発生を遅延させることが出来るが阻止は出来ない。イヌの催吐化学受容性引金帯(CTZ)を破壊しても、β-dichroineの限界量による嘔吐を軽減することは出来ない。両側の迷走神経を切断するとその催吐作用は大幅に減弱し、胃腸管の迷走及び交感神経を完全に切除するとβ-dichroineによる嘔吐を完全に阻止できる。これによりβ-dichroineは主に胃腸管の迷走及び交感神経の末梢を刺激し、反射的に嘔吐を惹起するものであるといえる。
マウスのdichroine服用によるLD50(mg/kg)は、β-dichroineが約6.57、γ-dichroineが約0.45、総alkaloidは7.79で、β-dichroineの毒性はquinineの約150倍、総alkaloidの毒性はquinineの約123倍である。γ-dichroineの内服による毒性は、静脈注射より大きい(マウス)。

その他次の報告も見られる。

ユキノシタ科に属する常山紫陽花(Dichroa febrifuga)の根茎である生薬・常山は、古来中国でマラリア治療薬として用いられ、その活性成分はキナゾリンアルカロイドのfebrifugineであることが知られている。但し、febrifugineは、その強力なマラリア活性と共に、嘔吐や胃腸障害などの副作用があり、医薬品として用いられることはなかった。しかし、chloroquineやartemisinin等の既存薬を凌ぐ強力な抗マラリア活性を有するfebrifugineは、新規抗マラリア薬開発のリード化合物としての可能性を秘めている。

以上報告されている文献内容から判断すると、紫陽花葉の摂食により食中毒症状を発現したのは、紫陽花葉に含まれるfebrifugineの作用によるものではないかと考えられる。本品による強力な催吐作用と消化管出血等の胃腸障害が報告されている。

尚、植物には昆虫摂食阻害物質を合成するものがあり、含有成分の不明なものについて、料理等の装飾に使用することは、専門の料理人としては避けるべきである。皿の上にあるものが食えない物だという個人の常識に掛からない場合、摂食する可能性は高い。まして紫陽花葉の若い葉は、紫蘇葉に類似した外観を示しており、誤食の原因となりかねない。

1)難波恒雄・監訳:世界薬用植物百科事典;誠文堂新光社,2000
2)写真で見る家畜の有毒植物と中毒-アジサイ-;独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所,2008.7.4.
3)田中 治・他:天然物化学改訂第6版;南山堂,2002
4)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第三巻;小学館,1998
5)菊池晴久・他:キナゾリンアルカロイドfebrifugineを基盤とした新規抗マラリア物質の創製,2008.8.8.
6)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第二巻;小学館,1998
7)船山信次:アルカロイド-毒と薬の宝庫-;共立出版株式会社,2003

[63.099. HYD:2008.8.10.古泉秀夫]

「ウイルスとは」

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:殺菌・消毒・ウイルス・virus・毒・毒性・genome・全遺伝情報・RNA・DNA・外皮膜・envelope・エネルギー代謝系・蛋白合成系・感染因子

Q:『ウイルス』の定義として、どの様な解釈がされているか

A:次の報告が見られる。

?virusは本来は『』を意味する語であるとされる。細菌より小さな、濾過性の病原体をultrafiltrable virusといったが、その後単にvirusと呼ぶようにになったvirusはDNA又はRNAをgenome(全遺伝情報)として持ち、宿主細胞内でのみ複製する。動物、植物、細菌、昆虫、糸状菌、マイコプラズマ、原生動物などのvirusが知られている。

?virusは元々『毒蛇』を意味するラテン語で(virulence=毒性)、これが転じて“病毒を運ぶもの”の意味になり、顕微鏡でも見えず、通常の細菌なら通過できない濾過器を通り抜ける病原体を『filtrable virus 』というようになり、1930年から単にvirusと呼ばれるようになった。なお、ウイルスというのは日本ウイルス学会が提案した日本名で、英語では「バイラス」、ドイツ語では「ビールス」、フランス語は「ビーリュス」と発音する。ウイルスというのはラテン語の発音に近い。結局virusとは『通常の細菌に比べて桁違いに小さな病原微生物』であると定義されたが、その実態が直接見えるようになったのは、電子顕微鏡が完成した1938年以降である。

?W.M.Stanleyは、1935年にタバコモザイク病に侵された煙草葉の絞り汁から病原ウイルスを針状結晶の型で純粋に分離し、その本体が一種の蛋白質であることを示した。+鎖RNAよりなる1本の単鎖RNAを遺伝物質として持っている。virusは結晶形では全く無生物として存在するが、適当に生きている細胞に取り付くと、それ自身がどんどん増加し、同一のvirus分子が無制限に出来る。これは生物の増殖と全く同じ現象である。一般生物と異なるところは、virusは解糖系のような生活に必須な酵素系を持っていないので、単体では独立して増殖できず、増殖のためには必ず他の生きた細胞を必要とする

virusは遺伝情報を担うgenome(DNA又はRNA)と、それを取り囲む蛋白質で、構成される感染性を持つ分子集合体である。virusの中には、更に細胞膜に似た外皮膜(envelope)を持つものがある。genomeについてはDNAであるかRNAであるか、二本鎖であるか一本鎖であるか、又は直鎖状であるか環状であるか、更に分節型か、非分節型であるか等によって分類されている。

virusはエネルギー代謝のための補酵素も、蛋白合成の場のリボソームも持たないため、栄養分を外界から摂取して自力で生活することはできず、virusの増殖は、宿主細胞のエネルギー代謝系と蛋白合成系が全面的に代行している。従ってvirusは、生きた細胞の存在下で初めてその種を保存することができ、細胞外では代謝能力がないため1個の物体に過ぎない。生きた細胞に接触しない限り外界でのvirus粒子は早晩消滅する。
以上の報告から単純明解に集約すると

『virusとは生物と無生物との間にある極小微生物で、エネルギー代謝系も蛋白合成系も持たないため、宿主細胞に完全に依存・寄生することで生活し得る特異な感染因子である。』

ということになるのではないか。

1)今堀和友・他監:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
2)長谷川栄一:新・医学ユーモア辞典 改訂第二版;エルゼビア・ジャパン,2002
3)大里外誉郎・編:医科ウイルス学改訂第2版;南江堂,2002

                     [615.28.VIR:2008.2.1.古泉秀夫]

『ラパチニブについて』

木曜日, 9月 4th, 2008

KW:薬名検索・ラパチニブ・ラパチニブトシル酸水和物・lapatinib ditosylate・EGFR/HERチロキシナーゼ阻害作用・分子標的抗癌剤・tykerb・タイケルブ・GW2016・GW572016F・有害事象

Q:ラパチニブとはどの様な薬か

A:ラパチニブトシル酸水和物(lapatinib ditosylate)は、英国:Glaxo SmithKline社が開発したEGFR/HERチロキシナーゼ阻害作用を有する分子標的抗癌剤である。米国では2007年に発売され、欧州では2006年に申請されたとされるが、我が国では2007年3月に承認申請がされた。

[剤型]錠剤。

[商]Tykerb(タイケルブ)。治験記号:GW2016、GW572016F。CAS-388082-78-8and231277-92-2(free)。C29H26ClFN4O4S・2C7H8O3S・H2O=943.48。

本品は英国・Glaxo SmithKline社が開発した経口用分子標的抗癌剤で、腫瘍の3-8割に見られるErbB1、ErbB2の両方のリン酸化酵素を可逆的に阻害することで、腫瘍細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導する。ハーセプチン(trastuzumab)が作用するErbB2(HER2/neu)受容体のみならず、ErbB1(EGF)受容体にも結合活性を示すことからハーセプチンに抵抗性を示す患者にも有効性が期待される。

臨床試験では、ErbB1、ErbB2の一方又は両方を過剰発現する非小細胞肺癌、膀胱癌、頭頸部癌や胃癌患者に対して1日1回の経口投与で優れた効果を発揮し、特に転移乳癌患者では、単独投与で顕著な効果が得られた。

主な有害事象:(第I相臨床試験)下痢、食欲不振、疲労感、口内炎、悪心、嘔吐[G1-2]。下痢[G-3]。(第II相臨床試験)下痢、発疹、悪心[G1-2]。リンパ球減少、低ナトリウム血症、疲労感、発熱、鬱血性心筋症[G3]。

本剤の心毒性を追跡解析した結果、左室駆出率の低下を引き起こす可能性は極めて低く、低下例は殆どが無症候性、可逆性、且つ非進行性であることが判明した。本剤の全臨床試験で、1.3%(42/3127)に左室駆出率低下が確認され、23/42例は単独療法、19/42例は併用療法であった。左室駆出率低下例の69%は治療開始後9週以内に認められ、持続期間は4週間で、62%は寛解又は改善した。

症候性は0.1%(4/42)で、標準的な心不全療法に反応した。左室駆出率低下42例のうち38例(90%)は前治療や縦隔/左側放射線照射又は既往歴など混同因子保持者であった。

プラセボ対照比較試験では、17/1492例に左室駆出率低下が認められ、そのうち本剤投与群の発現率は1.0%(8/746)であった。

*ハーセプチン(trastuzumab)等の薬物治療において病状が進行した乳癌患者41例に投与した結果、6ヵ月間で1例の腫瘍が完全に消滅、3例で明らかな縮小が認められ、24週間目時点で全体の17%の患者で腫瘍の進行は認められなかった。主な有害事象は軽度から中等度の発疹、疲労、下痢、嘔気、食欲不振で、G3の有害事象は発疹(5%)、疲労(5%)、下痢(10%)であった。
国内で申請した適応症は『HER2過剰発現を示す手術不能又は再発乳癌に対するcapecitabine(ゼローダ錠;中外)との併用療法及びラパチニブによる単独療法』である。

EGFR:Epidermal Growth Factor Receptor(上皮成長因子受容体)

HER2:Human Epidermal Growth Factor Receptor type2の略語で、細胞の生産にかかわるヒト上皮細胞増殖因子受容体とよく似た構造をもつ遺伝子タンパクです。HER2タンパクは、正常な細胞にもわずかに存在し、細胞の増殖調節機能を担っていると考えられているが、過剰に発現したり活性化したりして細胞の増殖や悪性化に関わるとされている。

1)GEFR/HERチロシンキナーゼ阻害作用を有する分子標的抗癌剤 トシル酸ラパチニブ;New Current,18(5):2-12(2007.3.1.開発薬Date)
2)ラパチニブトシル酸水和物(タイケルブ、GW572016、GW-2016);New Current,18(28)<治験薬一覧表.:149(2007.12.20.)

[011.1.LAP:2008.1.28.古泉秀夫]