『胆嚢摘出の経過』

 

魍魎亭主人

 

胆嚢に石があるといわれ出してから相当の期間が経過したが、この間、だからどうしろといわれたことは一度もない。第一、胆嚢に石があるというのは病気なのか、単なる生命体としての現象なのかよく解らないところがある。ただ、『胆石症』という言葉があるところを見ると、病気ということになるのだろうが、無症候性に経過している限り、一般人が病気という認識を持つのは無理なのではないか。

ところで先日来、食事後に右季肋部に『枝を握った拳』が入ったような圧迫感が起こるようになり、やがて痛みがでるという経過を辿っていたが、暫くすると何事もなく治まってしまうので、特段大層な病状とは認識していなかった。しかし、晩飯の後、珍しくシュークリーム等を食して寝たところ、深夜の2時頃から右季肋部に突拍子もない痛みが発生し、翌朝8時まで続いた。

本当は救急車をと考えたが、救急車を拒否する病院の話をマスコミに吹き込まれており、救急車に乗ってから行き先が決まらないのは困るということで、救急車を依頼することはしなかった。

尿の色は明らかにビリルビン尿といわれる色調を呈していると思われたので、朝の9時になるのを待って近隣の内科医を受診し、血液検査をして貰った。結果が出るのは夕方5時頃ということで、自宅待機し、指定の時間に検査結果を聞きに行ったところ、黄疸が出ているということで、この状態では個人の医院では対応できないといわれて、近隣の総合病院の消化器内科宛てに紹介状を書いて貰った。更に夜中に痛みが出るようであれば、紹介状を書いてあるので、遠慮しないで救急車で病院に行くようにという助言をいただいた。

次の日、紹介状持参で、病院に出かけたが、予約無しの患者であり、医師の診察を受けたのは11時頃であった。しかし、朝食は抜きできているということで、血液検査、X線検査等を一通り実施し、『胆石、胆管炎』で即日入院ということになった。挙げ句の果てにCT検査を受け、逆行性内視鏡的胆管造影・乳頭切開術により14mmの胆石を摘み出すことになった。

結局4月16日に入院し、25日に退院という経過を取ったが、10日間の入院期間の大部分は黄疸の治療に要した時間ということのようである。そこで考えるのは、胆嚢に石があるという場合、何れは胆嚢から石が出て悪さをするのであれば、最初から石を取り出す処置をした方がいいのではないかということである。つまり胆石症が病気ならさっさと処置してしまった方が、全体としての治療費は安く済むのではないかという気がするのである。但し、躯に刃物を入れる以上、一定の危険性は覚悟しなければならないと思われるが、一方で、無症候性の胆石症もあるとすれば、単純に病気と決めつけてしまうのはあるいは問題なのかもしれない。

内視鏡で胆石を掴み出したあと、退院日程を告げに来た医師が、外科の医師の判断ですが、まだ胆嚢に石が残っているので、胆嚢を摘出した方がいいといっています。退院後に胃の内視鏡検査と肺機能の検査を予約しておきたいのですが。

エッ、胆嚢取っちゃっていいんですかね。その後の生活になんか影響が出るのではないんですか。

いや、胆汁を溜めて置くだけの器官ですから特に無くなっても影響は出ません。それより一度石が出ると癖になってまた石が出て来ますから、取ってしまった方がいい。手術の予約を入れておきますよ。

確かに、また石が出てくる可能性があるということであれば、取ってしまった方がいい。旅行などに出かけた先等で、胆石が飛び出してくる等ということになると、それこそはた迷惑である。また当人も2度とあの痛みは嫌だという思いもあり、手術を承諾することにした。

お腹を切って摘出するとなると、退院までに相当時間が掛かりますか?。

腹腔鏡下で手術が出来ればそんなに掛からないはずです。詳しいことは外科の先生にお聞きになってください。

切らないでも出来るということですね。

ただ皮下脂肪が厚い場合には腹腔鏡下での手術は出来ないといっていましたが。

 

『肝臓で作られる消化液である胆汁の1日の生成量は約1L。その97%までは水分であるとされている。これは一旦胆嚢に貯蔵され、濃縮されて水分は85%程度に減少し、胆汁酸やムチンなどの固形物は約15%に増える。胆嚢内の胆汁(胆嚢胆汁あるいはB胆汁)は暗褐色を呈し、やや粘稠である。』

 

至極簡単に胆嚢を摘出するという話になったが、人間の体にいらないものが付いているとは考えられないという原初的な疑問については、胆汁を貯蔵しているだけですから、無くても特に困らないということで一蹴されてしまった。胆嚢に一時停車せず、そのまま十二指腸に到達したところで、胆汁の機能は十分に果たせるということのようである。

手術に要する時間は、4-5時間程度。当人は麻酔をされており、全く気づかずに病棟の術後患者集中室に一晩寝かされ、次の日には自分のベッドに戻り、午後には膀胱カテーテルを外され、自分で動くように指示された。従来では考えられない速さで回復に向かったが、それでも痛いものは痛いので、暫くは鎮痛剤の世話になっていた。更に驚いたことに、所々記憶が飛んでいるような気がするというか、時系列で経過を考えていく時、ある部分で記憶が抜けている状況があるのは、麻酔による後遺症なのかどうか。

薬剤師として薬の副作用については、文献的に理解しているが、実際に自分が経験すると、少しずつ違う状況が感じられるので戸惑うことがある。しかし、これは個人的な反応であり、全体が同じような結果になるとは限らないところに、薬を使うことの難しさがあるといえる。

ところで主治医が摘出した胆嚢に入っていた胆石をくれた。医師の言では11個ということであったが、殆どが小さなもので、砂粒をやや大きくした程度の黒いものであった。医師の意見では、この小さな石が色々いたずらするので、胆嚢を摘出して正解でしたよということであり、胆嚢が白く変色していたところがありましたが、今までに何回か炎症を起こしていたようですよということであった。

1)長谷川栄一:新・医学ユーモア辞典 改訂第2版;エルゼビア・ジャパン,2002

(2008.6.15.)