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「アルミニウム食器の安全性について」

金曜日, 8月 1st, 2008

KW:毒性・アルミニウム・aluminum・食器・アルミニウム脳症・骨軟化症・体内動態・アルミナ・alumina・酸化アルミニウム

Q:熱伝導がよいということで、アルミ製の鍋を30年近く使用しているが、落ちにくい汚れが付いた時はスチール製のタワシで洗っているため、見たところポツポツと中の少し黒っぽいのが見えています。最近の鍋は、真ん中にアルミニウムを入れて、外側はステンレスというのが多いようです。これもアルミニウム脳症などと騒がれていることのためでしょうか。アルミニウム製の鍋の使用の可否について教えてください。

A:アルミニウム脳症の原因がアルミニウムの食器の使用によるとする確定的な情報は、現段階では入手していない。

アルミニウム(米・aluminum、英・aluminium、独・aluminium、仏・aluminium)は、元素記号:Al、原子番号:13、原子量:26.98154、周期表では典型元素III族に属する金属元素の一つである。CAS No.7429-90-5。銀白色の軽くて柔らかい金属。単体は常温常圧では良い熱伝導性・電気伝導性を持つ。mp660.2℃。比重2.7g/cm3。酸やアルカリに侵され易いが、空気中では表面に酸化膜(アルマイト)ができ、内部は侵され難くなる(不動態)。地球表層部では最も多量に存在する金属。氷晶石やボーキサイトから製する。金属又は軽合金としてその用途は広い。化合物の中で明礬、ケイ酸アルミニウムなどは医薬品として用いられた。

アルミナ(英・alumina・独・tonerde、仏・alumine)、別名:酸化アルミニウム、原子記号:Al2O3、耐熱性、耐腐食性があることを利用し、ルツボ、乳鉢、燃焼管などの実験器具の材料、触媒として使用される。

名称 物理的性状 融点(℃) 水溶解性 比重(水=1) 発火温度
アルミニウム 白-灰色粉末 660 不溶性、反応する 2.7g/cm3 590℃
酸化アルミニウム 白色粉末 2054 不溶性 3.97g/cm3
水酸化アルミニウム 無臭、種々の形態の白色固体 300 不溶性 2.42g/cm3
硫酸アルミニウム 無臭、白色の光沢ある結晶若しくは粉末 770(分解) 易溶性 2.71
ポリ塩化アルミニウム 無色-淡黄褐色の透明な液体 1.19

aluminumは空気中では緻密で、安定な酸化被膜を生成し、この被膜により自然に腐食を防止(被膜の自己補修作用)する。aluminumは塑性加工がし易く、さまざまな形状に成形することができる。紙のように薄い箔や、複雑な形状の押出形材を容易に製造することができることから、極めて広い用途で使用されている。また、aluminumは非磁性体で、磁場に影響されない。この特長はaluminumの他の特性である、軽い、耐食性に優れている、加工性がよい等と組合わせることによって、さまざまな製品に生かされる。主な製品としては、パラボラアンテナ、船の磁気コンパス等の計測機器、電子医療機器、メカトロニクス機器等が見られるが、更にはリニアモーターカーや超電導関連機器にいたるまで、その用途が大きく広がっている。aluminumの熱伝導率は鉄の約3倍。熱をよく伝えるということは急速に冷えるという性質にもなるため、冷暖房装置、エンジン部品、各種の熱交換器、ソーラーコレクター、また、飲料缶等にこの特性が生かされている。

aluminumは殆どの動物や植物の体内に広く存在するが、必須元素ではないと考えられている。試験管内実験においても、aluminumを補因子とする酵素反応は知られていない。aluminumは無害・無臭で、金属が溶出しても、人体を害したり、土壌を汚染することはない。またaluminum化合物による急性中毒は極めて稀で、殆どが慢性中毒で、慢性腎不全患者において、骨軟化症や脳症の発生が報告されている。

通常、ヒトが摂取するaluminumの大部分は、食品や食品添加物等に含まれているもので、その他飲料水や調理器具等からも摂取している。1日当たりのaluminumの摂取量は、地域や食生活によっても異なるが、各研究機関では以下の摂取量を基準として示している。

研究機関 1日摂取量
世界保健機構(WHO) 2.5-13mg
英国農業食料省(MAFF) 3.9mg
スウェーデン食品局(SFNA) 12.1mg
米国食品医薬品局(FDA) 9-14mg

日本国内でも幾つかの試算例があるが、加熱調理を全てアルミ製の鍋で行うような事例でも、食物からの摂取は4-6mg程度とする報告がされている。

aluminumの体内動態は、その殆ど(約99%)が吸収されず、そのまま排泄するとされている。また、僅かに残った部分の大部分は腸管を通して吸収された後、腎臓を経由して尿中に排泄される。一般にヒトの体内には35-40mgのaluminumが安定した状態で存在するといわれ、主に肺、骨等どに分布し、僅かに血液、脳内にも見られるとされる。但し、aluminumの体内動態については、未だ解明されていないのが現状であるとされる。

毒性評価

WHOの最近の評価(WHO,1998)によると、aluminumとその化合物は、ヒトでは殆ど吸収されず、吸収されてもその吸収率は一緒に摂取される塩やpH、生物学的利用率、食事などの様々な因子に左右される。動物実験によるデータは、これらの様々な体内動態パラメーターのため、評価値の算定に利用することは適切ではないと考えられる。また、ヒトに対するaluminum暴露がアルツハイマー症の発症を増強あるいは加速するという仮説が唱えられている
WHO の EHC(WHO, 1997)では、以下のように判断している。『仮説を支持している様々な疫学データの多くが、交絡因子やヒトにおける総aluminum摂取量の考慮が行われていない研究であることには問題があると考えられるが、一概に仮説を却下することはできない。これらの疫学データから求められた100μg/L以上のaluminum暴露によるアルツハイマー症に対する相対リスクは低い(2倍未満)。このリスク値は算出方法に統一性がなく、不確かなものなので、一定地域の人々に対するリスクを正確に算出することは出来ない。しかし、一般の人々のaluminum暴露を制御するのに必要な判断材料としては有用かもしれない。』

更に『aluminumは、中性では安定であるが、酸性やアルカリ性では溶解し易いという化学的性質を持つ。アルミ缶からのaluminumの溶出については、コーラ系飲料で平均0.6ppm、非コーラ系飲料で0.9ppmと、ガラス瓶と比較すると3-6倍のaluminumが溶出しているというオーストラリアの報告がある。缶の内部にコーティングがされているビールについては、溶出はガラス瓶と同程度であった。わが国では、清涼飲料水、ビールともにアルミ缶は全てコーティングされているといわれているが、溶出の有無についての報告はない。アルミ鍋からの溶出に関しては、トマトを煮込むなどの日常的な酸性条件下では64ppmのaluminumが溶出している。これは1食分で約4・のアルミを摂取している換算になる。アルミ鍋はアルマイト加工を施されていても、摩擦等により酸化皮膜が剥がれた場合には容易に溶出しうる[医事新報,p.125-126(96.7.27)]。

以上の各報告から、アルミ鍋の使用に際しては、

?鍋の安定な酸化被膜を疵付けるような金属タワシでの洗浄は行わない。
?煮物等の完了後は直ちに料理を他の容器に移し、アルミ鍋に入れたままにしない。
?使用済みのアルミ鍋は直ちに洗浄する。
?トマトを煮込む、果実のジャムを作る等の酸性条件が予測される場合には、アルミ鍋の使用は避ける。

等の注意を払えば、aluminum製の鍋からのaluminumの溶出は、人体に影響するほどにはならないと考えられる。

またヒト側の要因として、人工透析を要するような高度の腎障害がなければ、aluminumの体内への蓄積はなく、特に問題はないものと考えられる。

1)広川薬科学大辞典[第2版];株式会社廣川書店,1990
2)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
3)黒川 顕・編:中毒症のすべて-いざというときに役立つ、的確な治療のために-;永井書店,2006
4)社団法人日本アルミニウム協会,2007.10.6.
5)基32 31002アルミニウム1.物質特定情報,2007.10.10.
6)アルミニウムとアルツハイマー病,2007.10.10.
7)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001:

[63.099.ALU:2007.10.10.古泉秀夫]