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『石があることは病気なのか?』

木曜日, 8月 28th, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

3年ほど前から検診の度に『石がある』と言われ続けてきたが、その後どうすればいいのかの指示は頂けなかった。胆嚢に石があると言うだけでは、病気という理解はなく、石を消滅させる薬としてはコレステロール系石についてのみ胆汁酸製剤であるウルソデスオキシコール酸(UDCA)及びケノデオキシコール酸(CDCA)が適応とされている。それ以外の胆石については有効な薬物が示されていない以上、放置する意外に手はないというのが当方の認識だった。

しかし、用語としては『胆石症』という言葉があり、胆嚢や胆管に形成される結石を胆石といい、結石が胆嚢内にある場合を胆石症、胆管内にある場合を胆管結石症という。大部分はコレステロールが原因で形成される。

腹痛、発熱、黄疸が三主徴である。上腹部や肋骨の右上部に周期性の疼痛(胆石仙痛)が見られる。但し、コレステロール系石では、無症状に経過するものもある。最近、胆嚢結石は、超音波による診断率が著しく高まった等の報告が見られる。

外科的には胆嚢摘出術、総胆管切開・切石術が結石の所在部位に従って行われる。

こうやってみると『胆石症』は立派な病気であり、その意味では超音波により石の存在が確認された場合、何もせずに放置しておくことは正しいといえるのかどうか。最も薬物療法適応の胆石であるか否かは、超音波では確認できないのではと思われるが、確定診断の方法はどうするのだろうか。

ところで、高コレステロール血症の治療ということでstatin剤を服用していたが、筋肉痛・CK(CPK)上昇に引き続いてミオグロビン尿の疑いが持たれたため、服用を中断した。但し、年齢的な問題から悪玉コレステロールは下げた方がいいという医師の判断により、コレステロール吸着剤であるコレスチミド(colestimide)を服用することになった。

colestimideは消化管で胆汁酸を吸着し、その排泄促進作用により胆汁酸の腸肝循環を阻害し、肝におけるコレステロールから胆汁酸への異化を亢進する。その結果、肝のコレステロールプールが減少するため、この代償作用として、肝LDL受容体の増加による血中LDLの取込亢進が生じ、血清総コレステロールが減少する。なお、外因性コレステロールの直接の吸着あるいは胆汁酸ミセル形成阻害によるコレステロール吸収阻害も血清総コレステロールの減少に寄与するものと考えられている。

その他、colestimideはin vitroで各種胆汁酸を吸着した。また、胆汁酸・脂質複合体ミセルに対してもその構成成分(コール酸、オレイン酸、モノオレイルグリセロール、リン脂質、コレステロール)を吸着した等の報告がされている。

添付文書の使用上の注意・副作用欄に、胆石症に関する事項は何等記載されていない。しかし、colestimideは胆汁酸の吸着が主たる作用であり、あるいは胆汁生成の活性化が行われ、その結果胆石が動き出したことも考えられる。つまり胆石があるといわれた胆石症の患者にとって、colestimideは地雷みたいな役割を果たすのではないかと疑っている。

ところで従来『高脂血症』としていた疾患名を、日本動脈硬化学会は、新ガイドラインで『脂質異常症』に改めるとする発表(2007年04月25日)を行った。

同学会は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版」の発表に際し、国内外の臨床研究で得られた新たなevidenceを取り込み、5年振りに改訂することにしたとしている。新ガイドラインでの主要な変更点は次の通りである。

*広く普及している「高脂血症」という疾患名を「脂質異常症」に置き換える方針を打ち出した。
*総コレステロール値を、予防や診療の基準の対象とすることを中止した。
*代わりにLDLコレステロール(LDL-C)値と、HDLコレステロール(HDL-C)値をそれぞれ別々に設定し、それに伴い、ガイドライン中にある「高脂血症の診断基準」を「脂質異常の診断基準」に変更した。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール 140mg/dL以上
低HDLコレステロール血症 HDLコレステロール 40mg/dL未満
高トリグリセライド血症 トリグリセライド 150mg/dL以上

*この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。
*薬物療法の適応に関しては他の危険因子も勘案し決定されるべきである。
*LDL-C値は直接測定法を用いるかFriedewaidの式で計算する。

*[LDL-C]=[総コレステロール(TC)]?[HDL-C]?[トリグリセライド]×1/5
(TG値が400mg/dL未満の場合)
*TG値が400mg/dL以上の場合は直接測定法にてLDL-C値を測定する。

従来のガイドラインでは、総コレステロール、LDL-C、中性脂肪のいずれかが基準より高いか、HDL-C値が基準より低い場合を「高脂血症」と呼び治療の対象としてきた。総コレステロール値が高いと冠動脈疾患の発生リスクが高まると考え、総コレステロール値 220mg/dL以上を「異常」としてきた。しかし、発生リスクが高いのはいわゆる悪玉といわれるLDL-C値の高い人で、逆に善玉といわれるHDL-C値は低いと良くないことがあきらかになった。また、LDL-CとHDL-Cを含む総コレステロールだけでは、HDL-Cが高い人を含む場合があり、リスクを正確に知ることができない。さらに、HDL-C値が低い場合も「高脂血症」と呼ぶのは適当でないので、今回の改定では病名が「脂質異常症」に変更された。

但し上記の診断基準は、『薬物療法の開始基準を表記しているものではない』とされている。その意味では、常に副作用発現の危険のある薬物療法を、直ちに選択するのではなく、添付文書に記載されている『高コレステロール血症治療の基本である食事療法を行い、肥満がある場合にはその是正に努めること。更に運動療法や高血圧・喫煙等の虚血性心疾患のリスクファクターの軽減等も十分に考慮すること』を治療として先行させるべきではないのかと思われる。

1)最新メルクマニュアル医学百科家庭版;日経BP社,2004
2)コレバイン錠500mg添付文書,2007.10.改訂

(2008.6.21.)

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