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インフルエンザウイルスは何で…

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

新聞に面白い記事が載っていた。

インフルエンザが、ウマ、アヒル、アザラシなどの動物とヒトに共通する感染症(人獣共通感染症)と解明されたのは十数年前。米セントジュード小児病院研究所や北海道大学などの研究で、インフルエンザウイルスは北極圏附近のツンドラ地帯に常在し、ここで営巣する渡りカモ類によって世界各地に搬送され、様々な種に感染させていることが解った。 ABC3種類のうち、病原性の高いA型ウイルスには135種の同類(サブタイプ)があるとされる。カモは感染しても発病しないが、1968年に大流行した香港風邪ウイルス(H3N2)は、中国南部でアヒルのウイルスとヒトのウイルスがブタに感染、その体内で遺伝子の組み換えを起こし、ヒトからヒトに感染する能力を獲得、多くの死者を出した

[読売新聞,第46632号,2006.1.9.]

というものである。

インフルエンザウイルスは何が嬉しくて北極圏のツンドラ地帯などに棲み付いているのか。更に何だってそんなところからカモになど乗って空気のよくない世界に出張ってきているのか。

それも昨日今日のことではなく、B.C.412年にヒポクラテスによってインフルエンザと推定される急性上気道炎が記録されているという。

1918年-1919年に大流行し、世界で2千万人以上の生命が奪われたとされるスペイン風邪(H1N1)は、その後約40年間、この亜型が少しずつ抗原性を変えながら流行し続けたが、1957年にアジア風邪(H2N2)が大流行を起こしている。

1968年にはH3N2亜型のウイルスが出現し、世界的規模の大流行を起こし、香港風邪ウイルスと呼ばれている。1977年には、1950年当時の流行ウイルスと同じゲノムを持つH1N1亜型のウイルスが再登場(ソ連風邪)し、20歳以下の若年層を標的として比較的大きな流行が引き起こされたとしている。

1997年5月香港に居住する3歳の男児が肺炎で死亡し、気道分泌液からH5N1ウイルスが分離された。H1N1、H2N2、H3N2以外の亜型のウイルスがヒトから分離された最初の例であるとされている。

今話題になっている高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)は、1997年に発見されたのと同じH5N1亜型を持つウイルスであり、爆発的な感染は見られていないが、鳥との濃密な接触がある地域では、鳥からヒトへの感染が報告されている。

北極圏のツンドラ地帯に巣くっているインフルエンザウイルスであるから、冬になると活動を開始するというのは解るが、わざわざカモに乗って全世界に向けて出てくるのはどういう訳なのか。

ツンドラから出てきたインフルエンザウイルスは、種本来の宿主であるカモには何等悪さをしていないとされる。とすると他の動物やヒトは、仮の住み家といおうか、攻撃すべき相手なのであろうか。

インフルエンザウイルスは、何年かに一度、大流行を起こす。インフルエンザウイルスは、共存関係にあるカモ以外の生物を殲滅し、世界を征服するという壮大な計画でも持っているのであろうか。

それにしてはスペイン風邪以降何度も野望は潰えており、そろそろあきらめたらどうかと思うが、まだ続ける気なんだろうか。大体インフルエンザウイルスは、ヒトに感染して何を手に入れようとしているのか。

ヒトの体内に入り増殖し、限りなく数を増やすことで、勢力の拡大を狙ってでもいるのだろうか。それにしても仲間を増やす目的で、ヒトに感染するのであれば、ヒトに対する悪影響を及ぼさない配慮ぐらいしたらどうなのといいたくなるが、いかがなものか。

今年、高病原性鳥インフルエンザが、万一ヒトに感染するように変貌すると面倒だということで、インフルエンザワクチンの接種を受けたが、先日背負い込んだ風邪は、多分インフルエンザだったのだろう。熱はさほど高くなかったが、喉が猛烈に痛み、引き続き気管支に痛みが移行し、咳が出まくり、腹周囲の筋肉が痛くなるほどの咳の酷さであった。インフルエンザウイルスの世界制覇の野望を潰すためにも、効果のあるワクチンの開発を期待したいところである。

ほんと毎年同じことをやってられん。

(2006.1.17.)


  1. 大里外誉郎・編集:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2002

医療事故の結末-最近の新聞から-その1

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

古泉秀夫

*『手術中に輸血した血液製剤で、GVHD(移植片対宿主病;いしょくへんたいしゅくしゅびょう)を発症して死亡したのは、血液製剤が、放射線照射処理されていなかったのが原因である』として、死亡していた男性患者の遺族が、神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院を運営する医療法人と血液製剤を製造した日本赤十字社に損害賠償を求めていた訴訟の判決が、2000年11月17日横浜地裁であった。

判事は『照射すべきかの判断は病院の医師がすべきで、日赤に義務はない』とする判断を示し、医療法人側に約5000万円の支払を命じ、日赤に対する訴えは棄却した。

GVHDは、輸血された血液のリンパ球(移植片)が増え、患者(宿主)の細胞を攻撃する病気で、発症すると、殆どの患者が1カ月以内に死亡する。しかし、血液製剤に放射線を照射して、リンパ球のDNAを死滅させておくと、発症を抑えられるとされている[読売新聞,第44760号, 2000.11.18.]。

地裁判決であり、医療機関側が上告すれば、この判決は確定しない。患者に対する輸血が、何時行われたのかの時期的な問題が、裁判の判決に大きく影響を及ぼすようであるが、『照射すべきかの判断は病院の医師がすべき』としていることからすれば、輸血によるGVHDの発症は既に知られていることであり、上告したとしても逆転勝訴するという保証はないということではないのか。

医療訴訟を現に継続中あるいは経験したという方々の声を聞く機会があったが、訴訟期間が長く、その間の精神的な苦痛は大変なものだという。既に学問的に確定した内容に基づく地裁判決の場合、それをそのまま受け入れるということも時には必要なのではないか。ただ、争うだけのために上告するという対応の仕方は避けるべきだと思うがどうであろうか。

あるい医療に係わる事故の場合、通常の裁判の手法ではなく、医療事故専門の調停機関を創り、そこで時間を掛けずに調停する方法を考えることも必要ではないかと思われる。更に患者あるいは家族が最も困るのは、医療機関の実施した医療内容の正当性・非正当性の判定を依頼する医師がなかなか見つからないことであり、事故当事者以外の施設内職員が、沈黙を守り、患者側の証人として事故内容についての証言をしてくれないことだという。

日本人の場合、自分が属する組織内の問題を、内部告発的に証言するということは多分困難であろう。少なくとも証人の匿名性を認め、証言を採用するという方式を導入しない限り、この問題は解決しない。しかし、裁判である限り、相手側の弁護士が、訴訟の不利益性を判断して、証人の匿名性を認めないとすれば、成立しない。いたずらに医療人の良識や良心に訴えるよりは、医療の専門家が調査委員として内部調査に入り、個別に調査するという方法を考えるべきであり、“医療内容判定医”についても、患者個人あるいは家族が探すのではなく、国選弁護人のような制度-“登録医制度”を導入すべきである。

人が係わる限り、医療事故を0にすることは不可能である。それならば事故が発生した後、誠意を持って迅速に処理することが出きる機関を創設することが必要だといえる。

勿論、この機関での判定に不服があれば、最終的には裁判で争うということになるが、現状よりは遙かに速く結論が得られるのではないか。

*都立墨東病院で治療を受けた男性が、多量の鎮静剤を投与されて植物状態になったとして、この男性と家族が都に1億600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、2000年11月24日東京地裁であった。

判決によるとこの男性は、1994年に墨東病院で“そううつ病”と診断され、通院しいたが、95年2月に自宅で暴れ出したため、同病院の神経科救急外来で治療を受けた。この際、興奮状態が収まらないため、医師が4回にわたって鎮静剤を投与。最後の投与から1時間40分後に心停止し、救命措置で命は取り留めたが意識は戻らなかった。

判決は『鎮静剤投与後に病院が男性の経過を観察していなかった』と指摘。『本来、要求される医療水準に基づいて注意義務を尽くしたとは言えない』と述べている。都衛生局は「判決内容を検討して対応を考えたい」としている[読売新聞,第44767号,2000.11.25.]

*大阪府箕面市は2000年11月28日、同市立病院が1989年に急性虫垂炎で緊急手術をした男性(当時中学1年性)が、多量の鎮静剤等を投与した医療ミスで植物状態となり、8年後に死亡したとして、男性の両親に慰謝料や面失利益として和解金約1億円を支払う方針を明らかにした。

男性の両親が昨年10月、市と執刀医を相手に調停を申し立て、今月27日に大阪簡裁で調停が成立した。

市によると、男性は89年5月に手術を受けた。執刀医(当時36歳)は成人と同量の鎮痛剤と抗不安剤の投与を指示。手術途中で呼吸が止まっているのに気付いた。人工呼吸と心臓マッサージを施し、自発呼吸が戻ったが、脳に重い障害が残った。男性は入院したまま、8年後の97年、心不全で死亡した。同病院は『鎮痛剤などは呼吸を抑える副作用があり、麻酔の補助として使うには(量が)多かった』としている[読売新聞,第44771号, 2000.11.29.]

上記の2件は、いずれも鎮静剤投与に関連する医療事故の裁判の結果である。東京都の方は一応更に争う構えでいるというべきか、「判決内容を検討して対応を考えたい」としている。箕面市の方は、裁判所の調停に従い、「鎮痛剤などは呼吸を抑える副作用があり、麻酔の補助として使うには(量が)多かった」として、和解金を支払うことを決定した。

医療訴訟の当事者である患者家族に対する医療機関の対応は、まず決して謝罪しないということのようである。更に結局は、『金』ではないのか?という対応をするという。家族の方は、兎に角『医療事故を起こしたという事実を認めて欲しい』という思いが第一で、『謝罪して欲しい』という思いが何よりも優先しているという。

医療機関が謝罪をしないということは、医療事故に係わる全ての情報を隠すということであり、事故情報を隠すということは、同様な医療事故が際限なく繰り返されるということであるとする意見も聞かれる。他の医療機関で起こった医療事故を参照して、自らの施設の事故防止策を確立する。自院の事故のみの対策を立てていたのでは、結局は新しい事故に遭遇する可能性が常にあるということのようである。

いずれにしろ医療機関における事故の発生は、常に患者が被害者の立場に立たされるということであり、事故に遭遇した患者やその家族が、怒るのは当然のことである。医療を行う場合のインフォームド・コンセントとは、「実施しようとする医療のプラス面の説明をするだけではなく、マイナス面の説明もすることである」とするある会合での弁護士の言葉は、医療事故を考える上で重要な提案であるといえる。

[2000.12.31]

医療事故の結末-最近の新聞から-その2

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

古泉秀夫

*東京都立病院で、誤って消毒液を点滴された女性患者(当時58歳)が死亡した事件で、東京地裁は2000年12月27 日、業務上過失致死罪に問われた看護婦の一人に禁固1年、執行猶予3年、他の一人に同8カ月、執行猶予3年の判決を言い渡した。裁判長は『看護婦として不注意で初歩的な過誤』と指摘した。執行猶予にした理由として、事故直後にミスを正直に病院側に申告し、都の懲戒処分を受けていることなどを挙げた。

判決によると、1999年2月、看護婦が消毒液の入った注射器を血液凝固防止剤の入ったものと間違って用意し、次の看護婦も中身を確認せずに患者に点滴した。患者はその日のうちに死亡。この事件では、病院長だった被告と都衛生局副参事だった被告が、医療ミスを隠したとして、医師法違反などで公判中。当時の主治医も、ミス隠しで罰金刑を受けた。

都衛生局の話「判決を厳粛に受け止めている。全都立病院を挙げて医療事故防止に努め、信頼回復に全力を挙げていく」。

医師や看護婦などで組織する都区職員労働組合病院支部の話「事故の背景に、安全よりも収益を優先する病院経営があり、事故防止対策を国や自治体に求めていく」。[2看護婦に有罪判決;読売新聞,第4799号,2000.12.27.]。

裁判官の『不注意・初歩的なミス』の御指摘は最もであるが、それでもなお、不明な部分が残る。つまり『消毒剤を注射器に入れたのは誰か』ということである。“消毒液の入った注射器を、血液凝固防止剤の入ったものと間違って用意”としているが、消毒剤はアンプルにもバイアル瓶にも入っていない。にも係わらず、当の本人が“血液凝固防止剤”を吸引するつもりで、消毒剤の瓶から注射筒に消毒剤を吸引していたのであれば、それは単なるミスではなく、狂気である。

しかし、実際には、“ヘパリン生食”は前もって注射筒に吸引して用意してあり、冷所保存をして置いたものを出したということのようである。しかも、注射筒には“ヘパリン生食”と油性マジックで記載されていたという。

本来なら誤りが起こる話ではないが、ここで“ヘパリン生食”を用意した看護婦が、同一テーブルで消毒剤を注射筒に吸引し、メモに消毒剤の名称を記入、注射筒に貼付した。この時、注射筒の“ヘパリン生食”の記載を確認し、メモを貼付すれば何の問題も起こらなかったのに、確認せずにメモを貼付したため、消毒剤を吸引した注射筒には何の標記もなく、消毒剤と記載したメモは、“ヘパリン生食”と記載した注射筒に貼付されていたということである。

更に、もう一人の看護婦は、“中身を確認せずに患者に点滴” したということで禁固8カ月、執行猶予3年とされている。つまりこの段階で注射筒の“ヘパリン生食”を確認することをしていれば、何の記載もない注射筒を掴んでいることに気付いたはずであり、ルール上、注射筒に“ヘパリン生食”と記載することになっていたとすれば、何の記載もされていない注射筒の注射薬を使用することはない訳で、事故は防ぎ得たということのようである。

今回の事故発生の最大の問題点は、注射薬以外の物を秤取するために『注射筒』を使用したということである。どこの医療機関でも、院内感染対策マニュアルが作られており、各部位毎に使用する消毒剤の種類と濃度は決められているはずである。

その意味では、病棟で消毒剤を希釈する必要は全くなく、濃度別に調製された消毒剤を購入するか、使用濃度の消毒剤が市販されていなければ、薬剤部製剤室で調製することで対応可能なはずである。それが実施されていなかったという組織運営上の問題が、最重要課題であり、単に個人的な問題として処理したのでは、再度類似の事故が発生する。

薬を専門に取り扱う薬剤師は、その長年の経験から散剤・水剤等、混合してしまった場合に、後から確認することが困難な薬剤の調剤に際して『調剤を始めたら最終的に秤量・混合が終了するまでは持ち場を離れない』という鉄則を厳守する。

例えそれが緊急の電話であっても、折り返しかけ直すということで、調剤の途中で持ち場を離れてはならないという教育を受けている。しかし、病棟での最優先事項は、何よりも患者の側に走ることであるため、注射薬を調整中であれ何であれ、現に実施中の作業を中断してナースコールに対応する。

つまり注射薬の調整途中であってもそのまま持ち場を離れてしまうために、他の看護婦への作業の引き継ぎは不可能ということである(他の看護婦に、その都度業務の引き継ぎができるほどの人手が有れば、注射薬調整中の看護婦が持ち場を離れる必要はない訳である)。それにも係わらず、作業の継続性があるような対応を取るため、特に注射薬については、事故が起こる確率が高いということである。

各病棟において、任務として薬品を担当する看護婦を指名しているようであるが、薬品だけに責任を持つのではなく、他の仕事の片手間に対応するという状況があるため、責任のある対応ができないということであり、病棟における看護婦配置人員の少なさが、諸悪の根元であるということもできる。

  1. 病棟で薬を扱う看護婦-特に注射薬を扱う看護婦は業務を固定し、注射薬取扱中は、他の仕事をさせない。
  2. 注射薬取扱中は二重鑑査を実施する。
  3. 単品の薬剤を吸引した注射筒・注射薬を配合した補液瓶には、患者の名前あるいは薬の名前を記載したラベルを貼付する。
  4. 注射時には必ずラベルの記載内容を確認する。
  5. ラベルの貼付されていない注射薬は使用しない。

以上のことが徹底できれば、注射薬に関連する事故は限りなく0にできるはずである。しかし、これらの作業は、現有の看護婦配置人員では、はっきり申し上げて実施不可能である。

ところで注射薬の事故に関連し、特に補液への注射薬の配合(混注)は本来調剤である(国会答弁で厚生省は混注は調剤ではないという回答をしたことがあるが)ということから、薬剤師が処方せんに基づいて行うべきであるとする論議がされている。しかし、現状のまま薬剤師に業務を移管したとしても、結果的に『注射薬の事故を分散する』に過ぎない。

まず薬剤師の勤務体制は、日勤のみであり、現状の業務を行うのにギリギリ最低限の配置人員でしかない。従って新しい仕事を持ち込むためには、増員を行うことが絶対の必要要件である。更に注射薬の中には溶解し、他剤と配合した場合、短期間に力価が低下する製品が存在する。このような注射薬では、使用直前に混合することが必要であり、日勤のみの勤務体制では、夜間の混合は、従来通り病棟の業務として残ることになってしまう。

夜間の混注も、薬剤師が実施するとすれば、薬剤師の勤務態勢を2交代制にするのか、3交代制にするのかの判断が必要である。しかも、混注の事故防止ということで有れば、調剤者と鑑査者の配置は最低限必要であり、薬剤師の健康管理を考えれば、1カ月間の夜勤回数は当然制限せざるを得ない。

2名で8日以内の夜勤回数で有れば、管理職以外に18名の薬剤師数が最低限必要であり、3名で有れば24名の配置が必要である。夜勤回数を6日以内にするので有れば、更に多くの薬剤師の配置が必要ということである。

現状では、これだけの数の薬剤師を配置することは困難であり、全てを肩代わりすることは不可能である。更に単品で使用する薬剤や臨時投薬については、病棟で配合せざるを得ず、薬剤師を各病棟に配置するので有れば、看護婦の配置を3人夜勤・4人夜勤可能人員とすることの方がより効率的であるということである。

病棟における注射薬の事故が多発する。だからどさくさ紛れに薬剤師の仕事として、薬剤師に振るのではなく、注射処方箋の確立、定められた時間内の記載・提出、頻繁な変更の中止(治療方針の明確化)等、まず処方せんを記載する医師が、他の職種の業務が煩雑にならないよう注意することからはじめて、全ての業務の見直しを徹底的に行い、その後にそれぞれの専門職能に見合った業務として確立することが必要である。

『病院における業務の全ては、医師が行動することによって派生する。事故を起こす原因の一つは、医師の自己中心的な行動』にあることを銘記すべきである。

[2001.1.13.]

医療費抑制の方策

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

代表:古泉 秀夫

医療事故が報道関係で取り上げられる度に痛切に感じるのは、日本の医療の貧しさである。自由主義経済の中で、医療費だけが厚生労働省の掌の上に乗っているという現状では、厚生労働省が医療費の抑制に懸命になるのは、財務省の手前もあり予算を費消するばかりの官庁といわれたくないという思いもあるのかと斟酌する次第だが、果たして医療を受ける側の国民は納得しているのであろうか。

“医療費抑制の手段”の一つとして、導入した方式の一つが、“医薬品を医療機関から切り離すための医薬分業”である。

最近でこそ厚生労働省も、医薬分業の意味付けを経済問題から患者の安全性問題にすり替えているが、当初は、薬価差益を稼ぎ出すために、医療機関が野放図に薬を出したがるのを抑制しない限り、医療費の抑制は困難だと考えていたはずである。現在、薬価差益の極端な抑制が進捗する中、本来であれば、薬剤師以外が調剤している処方せんを診療所等から発行させるという医薬分業とは異なり、技術的な分業の完成していた病院等が、院外処方せんの発行を図り、厚生労働省が当初意図した方向へと分業は進んでいる。

その結果、現在進行中の医薬分業は、患者にのみ多くの負担を強いるという変則的な医薬分業になっており、それを糊塗するために“患者サービスの強化”ということで調剤薬局に対し、“薬歴管理と情報の提供”を求めている。提供する情報の中身は“副作用情報・相互作用情報(OTCを含めて)等”としているが、調剤薬局にとって、この副作用情報の提供は、厚生労働省が思うほどに簡単ではないようである。

第一に副作用情報の提供に医師が何処まで理解を示しているかの問題である。従来の医療の実状は、医師が全てを請け負うという体制で進行しており、他の職能が治療に口出しをすることを認めないばかりか患者に治療の内容を伝えるなどということは、あり得ないこととして進められてきた。そこに薬剤師が口出しをし、患者に副作用を伝えるなどということになれば、殆どの医師が抵抗感を持つのは当然である。にもかかわらず、厚生労働省は、医師の抵抗感を払拭する手だてを抜きにして“患者サービスの強化”を口実に、調剤薬局に対し、情報提供を求めているということである。

ただ、最近の医療事故の報告を見るまでもなく、薬剤師が患者に副作用情報を伝達することは、医師自身の『医療訴訟回避』にも連動する問題だということを理解すべきである。特に重篤な副作用の前駆症状の患者への伝達は、薬によっては添付文書にも記載されるようになっており、明らかに処方する側は、意識の変革が求められているということである。

更に“医師からもらった薬が分かる本”等の薬剤関係の本が数多く出版されており、添付文書に収載されている副作用は全て記載されている。これらの薬の名称は、錠剤・カプセル剤に印刷されている識別記号から全て判明するようになっており、医師が患者の服用薬の名称やその副作用を隠蔽することに、何の意味もないということを知るべきである。

さて、『OTC薬と医療用医薬品』の相互作用についていえば、薬と薬の問題であり、簡単に済みそうな課題であると受け取られかねないが、実際にはそう簡単ではない。何故なら多くの医療機関あるいは調剤専門薬局にとって、OTC薬の情報を蒐集することは、甚だ困難な部類に属するからである。

そこで厚生労働省は、厚生省と名乗っていた時代に、あるべき薬局の姿として、『医療用医薬品+OTC薬の情報管理』=『OTC薬販売+調剤+福祉関係』等の総合的な情報発信基地としての役割を期待するとい考え方を示していたようである。

薬価差益の解消は、副次的な作用として、調剤専門薬局の運営を圧迫するものになり、OTC薬の販売を導入しないと経営が苦しいという状況を招いていると聞いている。その意味では、旧厚生省が画く薬局像に近くなったということのようである。

ゴメが泣くから

月曜日, 11月 26th, 2007

魍魎亭主人

新宿区のほぼど真ん中にある国立病院、その附属看護学校の応募者が1,000名を切って700名程度になったという話を聞いた。病院で4月に採用すべき看護婦の応募が、定員割れを起こしているという。何かがおかしいんじゃないかと思っているところに、看護婦の労働条件が悪すぎる。労働組合として、何とかしなければ、看護婦のなりてがいなくなるという意見が出されたのが、ことの始まりだった。

東京医労連の大会で、『看護婦の労働条件改善』に取り組むことが決まり、日比谷公会堂に1,500名の看護婦が結集して、『看護婦闘争』が始まった。銀座のデモから始まって、徹底した労働条件改善闘争を行った結果、看護婦確保法が制定され、労働運動で法律が出来るなどというのは珍しいといわれたが、果たして現状は、看護婦達が満足する状況にあるのだろうかというのはさておいて、現在青森に在住しているその当時の仲 間から海猫の写真が送られてきた。

鳥に詳しいわけではないので、海猫といわれれば、海猫なのだろうが、実をいうとカモメであった方が都合がよかった。

鴎鴎ブログ

 

(写真提供:中村法経)

何故かといえば、あまりに節回しが難しすぎて自分では唄えない歌なのだが、好き な歌の一つに『北海挽歌』がある。確か、その歌の一節に『ゴメが泣くからニシンが来 たと………』というのがあったと思うが、ここでいう『ゴメ』とは青森地方の方言で

『カモメ』のこととされている。つまりゴメに引っかけてものを書こうとしているのに、写真が海猫では、あまりにも離れすぎだといわれかねない。第一、好きな歌だといいながら、詞を正確に覚えていないのは何だといわれそうだが、この歌を唄っている女性歌手のドスの利いた声と、曲の暗さと詞の暗さが好きだということで、詞を覚えて、曲を覚えて、自分で唄ってみようということではない。つまり全体の雰囲気が好きだということである。

ところで、看護婦闘争の当初から、保助看法の改正まで行かなければ、看護婦闘争は終了したとはいえないと言い続けていたが、労働運動から離れた今でも、その思いに変わりはない。むしろその思いは、最近の看護婦が係わる医療事故の話を聞くたびに、むしろ強くなっているというべきかもしれない。大体、現状の『保助看法』の規定を規定通り実行すれば、助産婦が浣腸をする以外、医療行為は一切出来ないことになっている。

この規定解釈を更に厳密に押し進めれば、点滴静注の針を患者に刺すなどというのは、飛んでもないということなのである。しか し、現実は『医師の指示の下』を拡大解釈し、多くの医療行為を看護婦が引き受けさせられているのである。

それならむしろ『保助看法』を改正し、法的には何の根拠もなしに実施している現在の仕事を明確に看護婦の仕事として位置付けるべきである。そのことによって看護教育を実務に添った教育とすることが可能となり、看護婦の技術を更に向上させることが出 来るはずである。

更に准看制度は廃止するとした厚生省のお考えは何処に行ってしまったのか。我々が労働運動の中で、准看制度の廃止を求めていたのは、医療の世界から身分差別を無くすということであり、封建的な医療の体質を改変するためにも、准看制度を残しておくの望ましくないと考えたからである。更にいえば、中卒での入学という准看学校が、ほぼ 100%高卒入学という状況に変化し、卒業後は進学校に行って看護婦の資格を取るという傾向が見られる実体からすれば、准看学校は廃止して正看学校に格上げし、更に一定の経験を積んだ准看は、正看に切り替えるという方策を採ることが、最も実体に添ったものだと考えたからである。

今、開かれた医療、患者中心の医療がいわれているが、真の意味でこの課題を実行するためには、医療の封建体質を根底から崩さなければならない。その封建体制の一つの象徴が、准看制度なのである。医師の中には准看の存続に固執する意見があるようであるが、将に医師を頂点とした封建性ふんぷんたる組織を維持し続けたいという願望の表 れだといわなければならない。

(2007.11.27.改訂)

『逃 散』

木曜日, 11月 22nd, 2007

                                                                        鬼城竜生 

医療の崩壊は、社会的混乱を招き、国民を困難の極地に追い込む。厚生労働省は、医療労働者の実態を見ることなく、医療職種の員数問題に嘴を挟んできたが、なかでも医師の員数については、厳重な調整管理を続けてきた。その結果、地方の病院での医師不足は深刻になり、地方都市から大都市へと、浸食の範囲を拡大しつつある。

厚生労働省は、一方で開業医を地方の医療の下支えに期待しているようであるが、開業医には高齢化の波が押し寄せており、期待したとおりの医療の確保が出来るのかどうか、甚だしく疑問である。

                      *****************

ところで小松秀樹氏はその著書「医療崩壊」中で、疲弊した病院から医師が離れていく現状を「立ち去り型サボタージュ」と命名しているとされる。

今、間違いなく、地方の病院から医師がいなくなっている。頻繁な当直業務と、当直中の日勤業務の延長ともとれる過酷な勤務。更に引き続く日勤業務と、終わりの見えない業務に消耗し、退職する。そこには医の倫理などという高邁な理念などでは御し得ないほどに、展望の見えない勤務の連続が見られるのである。

退職する医師が出れば、仕事の全ては残った医師の肩に掛かってくる。更に自院だけではなく、他院の医師の退職による医療空白の穴埋めを期待して、地域の患者が集中する。その結果、待っているのは医師の加重労働ということであり、耐えきれなくなった医師は、退職するという結果を招く。

診療科の廃止や病棟の閉鎖が始まり、連動する診療収入の減少は、ついには病院の廃院という自体にまで追い込まれる事になる。ただし、これは地方に限ったことではなく、ついに東京においても同じ様なことが起こり始めている。

厚生労働省は医師は偏在しており、全体として医師は不足していないというが、都会でも医師不足を理由とした廃院が起こっているとすれば、一体何処に偏在しているのであろうか。最も最近になって、厚生労働省も実態として医師不足は認めざるを得ない状況になってきているが、長年医師数の抑制を図ってきた付けは大きい。緊急避難的に大病院から医師を派遣する方式の導入を厚生労働省は企図したが、どういう派遣方式をとるのか、戻っていた時にポストは残っているのか等、種々解決しなければならない問題が存在し、そう簡単にはいかない。

行政職一の事務系の職員は頻繁に転勤があるため、派遣などという方策を思いつくのであろうが、技術屋はそう簡単にいかない。特に医師は、長期であれ短期であれ、派遣されることを嫌う。一つの組織の中で、それぞれ根を張っており、一度抜けると元に戻ることは困難と考えるようである。何れにしろ医師の定数増を計らなければならないが、相当の時間を要する作業になる。

しかし、医師の病院からの撤退を「立ち去り型サボタージュ」というのはやや格好がよすぎるのではないか。医師が病院から撤退するということは、医療機関としての存立に係わる話であり、地方においては地域住民の居住権を侵しかねない話なのである。言ってみれば大名の悪政に呆れて、住民が逃げ出すと同じ様なことで、地域住民の側から見れば、『逃散』以外の何ものでもない。

1)小松秀樹・井部俊子:対談「医療崩壊から医療再生へ」;週間医学界新聞,第2728号,2007.4.16.

                                                                  (2007.11.11.)

『QES』

木曜日, 11月 22nd, 2007

医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫 

先日、講演会で『医療の本質は、全て患者の有益性に繋がるかどうかが基本である』という話を聞いた。薬についていえば、患者の有益性を高めるためには、薬剤のQES(クエス)が重要だという話である。

『Q』は品質(Quality)
『E』は有効性(Effectiveness)
『S』は安全性(Safety)

の各略で、『QES:Quality,Effectiveness and Safety』ということのようである。

特に医療の中における薬剤師の役割は、薬剤の『安全性』の確保に努めるべきであり、医薬品管理を通して、医薬品の適正使用に貢献することが重要であるという話であった。

しかし、どちらかといえばQESは製薬企業及び厚生労働省の守備範囲で、医療現場で働く薬剤師の守備範囲だと大風呂敷を広げられたとしても、簡単に感謝の辞を述べるなとということは出来ないというのが正直なところである。

医薬品の有効性について、基礎実験段階から臨床治験を経て資料の収集をするのは製薬会社であり、その資料に基づいて、薬の有効性・安全性を評価し、承認するのは厚生労働省である。我々現場の薬剤師が扱うのは、国の御墨付きを得た後、商品として市販された薬であって、第一、有効性や安全性の情報は、全て製薬企業が提供する情報に依拠している。更に開発段階で確認された有効性を超えて、市販後に有効性が向上するなどということはあり得ず、むしろ増加するのは『負』の情報である。最も薬物の中には、厚生労働省が承認した適応症以外の『適応外使用』がされることがあるが、それは本来その薬が持っている薬理作用を判断してのことであり、本当であれば、製薬企業が前もって適応症を取るための臨床治験をするべきはずのものであるということである。

また、製剤の安定性等についても、第一義的には製薬企業の管理の範疇であり、製造者でもない現場の薬剤師が、市販品を再製剤化することは有り得ない。むしろ製薬企業が製造した製品について、現場で手を加えることは極力避けるというのが、基本原則である。更に製品に手を加えた場合、製造物責任法などという法律が、製薬企業を飛び越えて薬剤師に絡み付いてくる可能性もあり、妄りに製剤の変更を行ってはならないというのが当方の考え方である。

それでは現場の薬剤師は何をするのか。

例えば製剤の安定性についていえば、製薬企業が保証した条件を厳守することによって患者に高品質の製品を手渡し、患者の服用が終了するまでの間、可能な限り安定した状況で患者が薬を保管できるよう、保管条件等について伝達する責任を有している。更に医薬品は発売された後も、時間経過とともに、種々情報が増加する。現場で薬物が使用される過程の中で、多様な情報が生み出され、雑誌等に掲載されて報文が増加する。種々の媒体が多くの情報を提供してくれるが、その情報の収集と評価、更には医師等の医療関係者あるいは患者への伝達が薬剤師の役割である。

更に薬の安全性についていえば、現に薬を服用する患者と身近に日常的に接している訳で、早い段階で副作用に気付かなければならない立場にあるのもまた事実である。また、現場の薬剤師が、『安全性』の確保に貢献することは当たり前のことだといえる。可能な限り重篤な副作用の前駆症状を伝え、患者自身が副作用の予兆を補足する手助けをしなければならない。

                                                                    (2007.11.4.) 

『drug-lag』

木曜日, 11月 22nd, 2007

                                                                      魍魎亭主人 

最初に『drug-lag』なる言葉を眼にしたのは、業界紙だったと記憶している。薬という文字である『drug』に、<人・事が>遅れる;立ち遅れる。………より遅れる、………を遅らせる等を意味する『lag』を付けて、何を表現しようとしているのか良く解らなかった。

そのうち業界紙の一部に、『drug-lag』(『世界的には標準的に使用されているが、我が国では承認されていない状況にある医薬品』)の記載が見られ、まあこんなに長い言葉を僅かに横文字2語に納める知恵はたいしたものだと感心したが、一方でこの言葉の意味が定着するまでの間は、喋る側と聞く側で、ある種意味不明の会話が続く事になりはしないかという危惧を持った次第である。

更にこの言葉を眺めているうちに、この問題の主体性は何処にあるのかという疑問を感じた。世界標準使用薬ではあるが、国内未承認薬ということであり、当然患者側、ひいては国民には責任がない話である。責任のある当事者、規制当局が、評論家的な解釈を示しているとすれば、甚だ無責任な話で、規制当局としての努力不足を棚に上げたいいようだといわなければならないのではないか。

端的に言わせていただけるなら『導入遅延薬』の責任は、その改善を図らなかった厚生労働省にある。あるいは国内での臨床治験を実施しようとしなかった、製薬企業側にもあるのではないか。

『導入遅延薬』の問題は、2004年の政府規制改革会議で、混合診療問題が論議されたときに、この問題も論議されたとされる。

国内未承認薬は、当然のこととして薬価基準未収載薬であり、保険医療機関では使用できない。更に厚生労働省が認めない限り、未承認薬のみを自費で、他は健康保険という混合診療は実施出来ない。政府規制改革会議は、健康保険で使用できない『導入遅延薬』を速やかに導入して、患者の自己負担で使えるようにすることで、混合診療の枠の拡大を図ってはどうかということだったようである。

しかし、単なる混合診療では意味がない。将来試用期間の資料に基づいて、厚生労働大臣の承認が得られるよう、最低でも有料の臨床試験という形態を取るべきである。さもなければ何時までも『導入遅延薬』のままで置かれることになる。更に患者の数が少ない希少疾病の場合、例えその薬が患者にとって重要な薬であったとしても、製薬企業は開発に手を出さない。その意味では有償の臨床治験を実施し、その後、承認することによって、健康保険で使用できるという仕組みにすることによって、患者の納得も得られるのではないか。

優れた健康保険制度を持つ我が国において、患者自己負担率の大幅なアップは、我が国の医療の基本である皆保険制度を根底から突き崩すことになりかねない。

しかし、大衆的に理解し難い横文字で表現し、行政の怠慢を糊塗するようなやり方は、好きになれない話である。

                                                                  (2007.10.27.)

「L-カルニチンの吸収について」

水曜日, 11月 14th, 2007

 

KW:臨床薬理・L-カルニチン・L-carnitine・消化・吸収・カルニチン・carnitine・アミノ酸・オリゴペプチド・vitamin BT

 

Q:L-カルニチンについて、「人体の肝臓内で必須アミノ酸のリジンとメチオニンから合成されるアミノ酸の一種」とする説明がありますが、ダイエット食品などに添加されているL-カルニチンを経口摂取した場合、そのままの形で吸収されるのでしょうか?。つまり、消化を受けて分解されることはないのでしょうか?。

 

A:カルニチン(carnitine)=4-トリメチルアミノ-3-ヒドロキシ酪酸、4-トリメチル-3-ヒドロキシブチロベタイン。分子量:162.21。

殆ど全ての生物、各組織に存在する。コメゴミムシダマシ(Tenebrio obscurus)の発育因子で、vitamin BT とも呼ばれる。carnitineの別名の『vitamin BT』のTはTenebrioの幼虫が、葉酸及びその他の既知のvitamin Bに加え、carnitineをその必須成長因子として必要とすることから命名されたものとされる。ヒトにおいては必要量の一部が、生合成により体内で生成されるため、厳密な意味でのvitaminとはされていない。carnitineは肝臓と腎臓で産生されるか、あるいはcarnitineを含有する食品を摂取することで体内に取り込まれる

carnitineはアミノ酸の一種であるリジンとメチオニンから構成された成分で、肉や赤貝などから摂取される。体内で carnitineを作り出すのは二十代をピークに年齢とともに減少する。

carnitineは細胞内で脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶ担体としての働きを持つ。carnitineが欠乏すると脂肪酸をエネルギー源とする心臓や骨格筋などの組織に障害を及ぼし、心収縮力の低下、不整脈、筋力の低下、筋痙攣などの症状が現れる。近年、carnitineがカチオン輸送担体の一つであるOCTN 1、OCTN 2によって細胞内に取り込まれることが報告された。

なお、消化については、次の報告がされている。

消化とは動物が食物として摂取した高分子栄養素物質を、腸管から吸収できる型にまで分解(低分子化)する生理作用のことである。糖質は単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)、蛋白質はアミノ酸又はオリゴペプチド、脂肪は脂肪酸とモノグリセリドまでに分解される。

物理的消化
(physical digestion)

口腔内における咀嚼や消化管運動による食物塊の細分・混和・推進など

化学的消化
(chemical digestion)

消化管内に分泌される消化液(唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液)によって食物成分物質をコロイド粒子ないし分子の準位で分散・分解させる

更に化学的消化は、次の二方式に区分される。

管腔内消化
(luminal  digestion)

あくまで部分的加水分解にとどめ、管腔内における著しい浸透圧の上昇を防いでいる。
膜消化(membrane digestion) 小腸上皮細胞表面の刷子縁膜と結合した消化酵素の働きによる膜消化で、初めて完全な加水分解(終末消化)が行われ、同時に吸収される。

消化における蛋白質の分解生成物は、アミノ酸とオリゴペプチド(oligopeptide)とされている。peptideとは2又はそれ以上のアミノ酸がペプチド結合(アミノ酸のカルボキシル基と別なアミノ酸のアミノ基間の共有結合)で結合したものをいうが、そのうちアミノ酸数が10以下のものをoligopeptideという。従ってcarnitineはoligopeptideに属する物質であり消化管からの吸収は可能ということである。

L-carnitineの標記は左旋性のcarnitineであることを示している。

 

1)南山堂医学大辞典 第19版;南山堂,2006
2)http://www.kobayashihakkou.com/carnitin.htm,2006.10.26.
3)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

                                        [015.4.CAR:2006.10.31.古泉秀夫]

『アルツハイマー治療薬rivastigmineについて』

水曜日, 11月 14th, 2007

KW:薬名検索・rivastigmine・リバスチグミン・Exelon・エクセロン・アルツハイマー病・記憶障害・軽度認知障害

 

Q:アルツハイマー病治療薬rivastigmineについて

A:rivastigmineは、cholinesterase(ChE)阻害薬(acetylcholine esterase(AChE)阻害薬及びbutylcholinesterase(BuChE)阻害薬)、認知促進薬に分類される。

商品名:Exelon(瑞西・Novartis Pharmaceuticals)。

アルツハイマー病による痴呆症の治療薬としてカルバミン酸系(carbamate-based)cholinesterase阻害薬である酒石酸リバスチグミン(rivastigmine tartrate)が発売された。本品はアルツハイマー病に対してFDAで承認された3番目の薬剤である。国内では現在第III相臨床試験段階である。

rivastigmineは軽度-中程度のアルツハイマー病の一部の患者において認識及び機能測定の一時的な安定化又は改善をもたらす。適応症としてアルツハイマー病、他の疾患における記憶障害、軽度認知障害である。

偽非可逆的に中枢作用性のacetylcholine esterase(AChE)を阻害し、acetylcholineの利用度を上げる。増加したacetylcholineの利用度は、記憶を調節する新皮質のコリン作動性神経の変性を一部補う。butylcholinesterase(BuChE)を阻害する。成長因子を遊離するか、あるいはアミロイド沈着を阻害するかもしれない。基本の記憶や行動に何らかの改善が明らかになるのに6週近くかかることがある。また、変性過程の何等かの安定が明らかになるまで、何カ月もかかることがあるとする報告が見られる。

副作用としてAChEの末梢での阻害の結果、消化器系の副作用を生じうる。AChEの中枢での阻害は悪心、嘔吐、体重減少、睡眠障害に寄与していることがある。悪心、下痢、嘔吐、食欲不振、胃酸分泌亢進、体重減少。頭痛、ふらつき。易疲労感、抑鬱。危険な副作用として希にてんかん性発作、失神。

 

1)The Medical Letter<日本語版>16(21),2000.10.2.
2)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンスインターナショナル,2006

                                                    [011.1.RIV:2007.2.9.古泉秀夫]

『フタル酸ビスについて』

水曜日, 11月 14th, 2007

KW:薬名検索・フタル酸ビス・フタル酸ビス-2-エチルヘキシル・Phthalic acid bis-2-ethylhexyl・フタル酸ジオクチル・dioctyl phthalate・DOP・DEHP

Q:2003年8月オモチャへの使用が禁止されているフタル酸ビスが検出されたとの新聞報道[読売新聞,第47020号,2007.2.2.]がされたが、フタル酸ビスとはどのようなものか

A:フタル酸ビスについて、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル(Phthalic acid bis-2-ethylhexyl)とする標記が見られる。

別名としてフタル酸ジエチルヘキシル(di-2-ethylhexyl phthalate)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(Phthalic acid di-2-ethylhexyl)、フタル酸ジオクチル(dioctyl phthalate)、1,2-ベンゼンジカルボン酸ビス-2-エチルヘキシル)(1,2-Benzenedicarboxylic acid bis-2-ethylhexyl)、ジエチルヘキシルフタラート(Diethylhexyl phthalate)等が報告されている。略号:DOP、DEHP。化学式:C24H38O4=390.56。凝固点:?55℃、沸点:231℃(5Torr)、空気中での揮発度:0.02mg/cm2(100℃)。

CAS番号:117-81-7。

本品は無色透明な油状の液体である。軟質塩化ビニル樹脂の可塑剤として最も広く用いられている。フタル酸エステル類の中では、毒性は低いとされている。本品は水に溶け難いが、有機溶媒に溶け、ビニル系樹脂と相容性がよい。常温では無色の液体である。可塑剤は、粘土を軟らかくするために加える水のような働きをもつもので、プラスチック製品や接着剤などをつくるときに、合成樹脂などに添加される。

本品は特に塩化ビニル樹脂を効率よく柔らかくするので、さまざまな軟質塩化ビニル製品の製造の際に用いられている。この軟質塩化ビニル製品は、壁紙や床材などの建材、電線被覆材、一般用のフィルム・シートや農業用ビニールフィルムなど、一般家庭で使われる製品も含めて、多方面で使われている。また、塩化ビニル樹脂以外にラッカー(ニトロセルロースラッカー)などにも可塑剤として使われているほか、溶剤として塗料や接着剤などにも用いられている。

毒 性:ラットに5mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを1週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、肝臓の細胞にある解毒酵素の活性が認められている。水質要監視項目の指針値は、このラットの実験に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.025mg/kg/dayと算出し、設定されている。また、雌雄のマウスに144mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを含む餌を与えて交配実験をしたところ、出産回数、出産生児数、生児出産率の低下が認められている。ラットに37.6mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを13週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、雄のラットに精巣細胞への影響が認められている。水道水質管理目標値は、これらの生殖発生や精巣への影響に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.04-0.14mg/kg/dayと算出して設定されている。Phthalic acid bis-2-ethylhexylは、シックハウス症候群との関連性が疑われていることから、厚生労働省ではこの物質の室内空気濃度の指針値を0.12mg/m3 (0.0076ppm)と定めている。これも、ラットに対する精巣の病理学的変化を根拠としている。発がん性については、国際がん研究機関(IARC)では2000年に、それまで2B(人に対して発がん性があるかもしれない)の評価を、3(人に対する発がん性については分類できない)に変更している。

吸 収:人がPhthalic acid bis-2-ethylhexylを体内に取り込む可能性があるのは、主として食事によると考えられる。可塑剤として使用されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylが樹脂から溶出する可能性があり、食品などに付着することによる。体内に取り込まれたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは、膵臓から分泌された酵素によって分解され代謝物を生成するが、その代謝経路は動物種によって異なるとされている。人では、代謝物は尿中に排泄すると考えられている。

影 響:Phthalic acid bis-2-ethylhexylは空気中、水中等から検出されているが、室内空気濃度の指針値、水質要監視項目指針値、地下水要監視項目指針値を超える濃度は検出されていない。現在の環境中の濃度では人の健康への影響はないと考えられている。飲料水からも、水道水質要監視項目指針値(2004年4月1日施行より水道水質管理目標値に変更。指針値は0.06mg/L、目標値は0.1 mg/L以下)を超える濃度は検出されていない。なお、環境省が行った食事調査によると、家庭内の食事では最大値で食事1kg当たり0.33mgのPhthalic acid bis-2-ethylhexylが含まれていた。食事調査の結果は、水質要監視項目指針値における耐容1日摂取量(TDI)より十分低いが、調理用の塩化ビニル製手袋の使用自粛を促すなどの対策が進められている。

環境汚染:空気中に排出されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは降雨などで水系や土壌に移動すると考えられている。土壌や水中の微生物による分解は良好とされている。

危険有害性情報:軽度の皮膚刺激、眼刺激、発がんのおそれの疑い、生殖能又は胎児への悪影響のおそれ、長期又は反復曝露による精巣、肝臓の障害のおそれ、長期的影響により水生生物に有害のおそれ。

安全対策:個人用保護具や換気装置を使用し、ばく露を避けること。ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないこと。取扱い後はよく手を洗うこと。環境への放出を避けること。

救急処置

眼に入った場合:流水で15分間注意深く洗うこと。コンタクトレンズを容易に外せる場合には外して洗うこと。眼の刺激が持続する場合は、医師の診断、手当てを受けること。

曝露又はその懸念がある場合:医師の診断、手当てを受けること。気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受けること。

皮膚刺激:医師の診断、手当てを受けること。

廃 棄:内容物や容器を、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託すること。

1)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
3)リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート:ttp://www.env.go.jp/chemi/communication/factsheet/data/1-272.html,2007.2.2
4)安全性データシート:フタル酸ビス(2-エチルヘキシル);http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0183.html,2007.2.2.

[011.1.DOP:2007.2.13.古泉秀夫]

『アルツハイマー病治療薬galantamineについて』

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:薬名検索・ガランタミン・galantamine・レミニール・Reminyl・認知促進薬・アルツハイマー病・記憶障害・軽度知的障害

Q:アルツハイマー病治療薬galantamineについて

A:galantamineは、従来はヒガンバナ科の数種の植物、オオマツユキソウ(学名:Galanthus elwesii)、スズランスイセン(学名:Galanthus elwesii Hook)等から抽出された天然成分であったが、現在使用されているgalantamineは合成により精製されたものである。
臭化水素酸ガランタミン(galanthamine hydrobromide)、別名:galantamine。
商品名:Reminyl(米・Janssen社)。Nivalin(オーストラリア・Waldheim)。治験記号:GP-37267(英・Shire)。C17H21NO3=287.36。CAS-1953-04-4and357-70-0(free)。剤型:錠剤・液剤・注射剤。

本品はcholinesterase(ChE)阻害薬(選択的acetylcholine esterase阻害薬)、またアロステリック・ニコチン性コリン系調節薬、認知促進薬に分類される。本品は中枢活動性のAChEを可逆的かつ非競合的に阻害し、acetylcholineの利用度を上げる。増加したacetylcholineの利用度は、記憶を調節する新皮質のコリン作動性神経の変性の一部を変性を一部補う。galantamineは天然植物から単離・抽出された三級アルカロイドで、当初スイス・Novartis社がアルツハイマー病治療薬として臨床を進めた。東欧、旧ソ連では非脱分極性筋弛緩剤の拮抗剤として筋ジストロフィー、筋無力症等で使用。英・Shire社が北米、日韓台、タイ、シンガポールを除く実施権を取得。マック・ファーラン・スミス社より天然資源から抽出したgalantamineの供給を受けていた。オーストラリアではワルツハイム社が天然galantamineを老年性アルツハイマー型認知症(SDAT)の適応で1994年に発売(商品名:ニバリン)した。ニバリンはgalanthamine hydrobromide 5mgを主成分とする錠剤とアンプル剤である。本品の合成特許は2000年4月にオーストリアのサノヘミア社が米特許商標から取得。生産の独占特許は2014年まで有効。米国では軽-中等度アルツハイマー病治療薬として1999年9月申請、2001年2月FDA認可(商品名:レミニール錠)。2001年7月液剤認可。2003年には1日1回投与の持続錠の承認を取得した。糖尿病治療薬との誤用を回避するため、商品名を『Reminyl』から『Razadyne』に変更するの発表がされたの報告。

ニコチン受容体を調節し、acetylcholineの作用を増強する。ニコチン系の調節は、ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA及びグルタミン酸の遊離を増加することにより、他の神経伝達物質の作用も増強することがある。butylcholinesterase(BuChE)を阻害しない。また本品は成長因子を遊離するか、あるいはアミロイド^β蛋白による神経毒性を緩和する作用も報告されている。

適応症としてアルツハイマー病、他の認知症における記憶障害、軽度知的障害。症状を改善し、疾患の進行を遅らせることがあるが、変性過程を元に戻すことはない。基本の記憶や行動に何等かの改善が明らかになるのに、6週間近くかかることがある。変性過程の何等かの安定が明らかになるまで、何カ月もかかることがある。

本品の消失相除去半減期は約7時間であるため、1日2回の投与が必要である。注意すべき副作用としてAChEの末梢での阻害の結果、消化器系の副作用を生じうる。AChEの中枢での阻害は悪心、嘔吐、体重減少、睡眠障害に寄与していることがある。悪心、下痢、嘔吐、食欲不振、胃酸分泌亢進、体重減少。頭痛、ふらつき。易疲労感、抑鬱。危険な副作用として希にてんかん性発作、失神。

現在、国内では第III相臨床試験(ヤンセン)段階。2009年以降に発売予定。

1)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2006
2)山口 登・他:薬物療法概論-Alzheimer病治療薬を中心に-;日本臨床,61(増刊号9):566-570(2003)
3)治験薬一覧;New Current,17(28):25(2006.12.20.)
4)トライアルドラッグス-最新治験薬集;エルゼピアジャパン,2004-2005
5)海外情報;New Current,14(13):37-42(2003.6.10.)

[011.1.GAL:2007.2.5.古泉秀夫]

「キャベツの成分と甲状腺」

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:相互作用・キャベツ・cabbage・アブラナ科・イソチオシアネート・isothiocyanate・グルコシノレート・芥子油配糖体・glucosinolate・progoitrin・ゴイトリン・goitrin・甲状腺・ヨウ素

Q:甲状腺の手術を受けることになっているが、キャベツの摂食は避けるようにとする指示があった。これはどのような理由によるのか

A:キャベツ(cabbage)はアブラナ科の1年草又は越年草で、双子葉植物離弁花である。原産国はヨーロッパで、学名:Brassica oleracea var. capitataである。

アブラナ科の植物について、以下の報告がされている。

セイヨウカラシナ(leaf mustard)、カラシナ(mustard)、クロガラシ(black mustard)等の葉や種にはシリニグリン等の芥子油配糖体が含まれている。芥子油配糖体は同じ植物内に含まれる酵素による加水分解でglucoseが取れて非配糖体(アグリコン; aglycone)となり、更にLossen転移という反応でイソチオシアネート(isothiocyanate)になる。isothiocyanateは刺激性が強く、多量に摂取すると中毒の原因になる。また、β位の水酸基を持つグルコシノレート(芥子油配糖体;glucosinolate=progoitrin)はisothiocyanateになった後環化ゴイトリン(goitrin)になる。isothiocyanateやgoitrinは甲状腺でのヨウ素の取り込みを阻害するので、甲状腺ホルモンの合成が阻害される。そのため多量の芥子油配糖体を長期間摂取すると、甲状腺腫になるとする報告がみられる。

ケール(kale)はアブラナ科の2年草又は多年草。学名:Brassica oleracea L.var.acephala DC.。地中海から小アジア地域原産のcabbageと同一種とされる植物であるが、cabbageと異なって結球しない。S-メチルシステインスルフォキシドを含有する。この物質は幾つかの化学反応を経てジメチルジスルフィドになるが、この物質は動物に溶血性貧血を起こす。S-メチルシステインスルフォキシドからジメチルジスルフィドを生成する反応はルーメン微生物で促進されるため、中毒は反芻家畜でのみみられる。kaleやcabbageによる牛や羊の中毒事例が報告されている。

glucosinolate類はアブラナ科、フウチョウソウ科、トウダイグサ科、ヤマゴボウ科、モクセイソウ科、ノウゼンハレン科の多くの植物に見いだされており、潰した組織にある刺激臭味の性状の要因となっている。その濃度は葉の組織よりも種子に高い。植物に含まれるglucosinolate由来の加水分解産物を摂取することにより甲状腺腫を誘導したり、甲状腺が肥大化するという証拠がある。菜種油(Brassica napus;アブラナ科)中のprogoitrinは加水分解によりオキサゾリジン-2-チオン(oxazolyzin-2-thion)であるgoitrinになる。これは強力な甲状腺腫誘発薬であり、ヨウ素の取り込みとチロキシン生成を阻害する。glucosinolateの甲状腺誘発活性は単にヨウ素を投与するだけでは軽減されない。

ブロッコリー(Brassica oleracea;アブラナ科)由来のsulphoraphaneの前駆体glucosinolateであるglucoraphaninは医薬用としての利点を持っており、癌誘発剤の解毒化酵素を誘発し、生体異物の除去を加速する。栽培期間の短い芽生えは成熟した植物体より10-100倍のglucoraphaninを含んでいる。

Goitrogen(甲状腺腫瘍誘発物質)は甲状腺肥大や甲状腺腫を引き起こす物質で、アブラナ科の植物のglucosinolateの他、何種類かの物質が知られている。例えばヒトではヨウ素欠乏と甲状腺肥大の関係で問題となるキャッサバ(Manihot esculenta;トウダイグサ科)のシアノグリコシド(cyanoglycoside)も甲状腺腫瘍誘発物質である。

glucosinolateを含む植物

十字花科 ニワナズナ、スズシロ、ハタザオ、イヌガラシ、ヤマガラシダイコン、アブラナ、シロカラシ、クジラグサ、ワサビ、ワサビダイコン、マガリバナ、グンバイズナ、ニオイアラセイトウ
ノウゼンハレン科  
モクセイソウ科  
フチョウソウ科  
トウダイグサ科  

その他、progoitrin自体は甲状腺肥大を起こさないが、植物組織を細断したり擂り潰したりすると植物細胞内にある酵素ミロシナーゼ(myrosinase)がprogoitrinを分解し、辛味物質とともにを作る。このgoitrinが甲状腺腫を起こすとされている。goitrinはかなり強力な甲状腺腫誘導物質で、他の甲状腺腫誘導物質はヨウ素の摂取で予防できるとされるが、goitrinはヨウ素の添加でも甲状腺腫発生作用抑制できないとされている。ただし、栽培品種の改良により食糧用や飼料用のアブラナ属植物のprogoitrin量はあまり問題とならないまで低くなっているとされる。cabbage、broccoli、芽キャベツ(sprout)について、芽キャベツを除き、progoitrin量含量は低くてあまり問題にならないとされている。

代表的アブラナ属植物中のglucosinolate量(mg/100g)

  goitrin glucobrassicin
cabbage 3.8(0.8-12.6) 29.5(4.5-97.1)
caulflower 2.3(0.0-10.1) 22.7(6.6-78.9)
sprout 47.8(12.5-129.6) 47.8(12.5-129.6)

日本を始め海洋国では海中のヨウ素が蒸発して 雨と共に地中に浸透しており全ての食品を介してヨウ素が豊富に供給されており、原則的に不足することはない。一方、海から遠い内陸国や急峻な山岳地帯では雨が少ないことや、水が急流のために地中に止まることがないため土中にヨウ素が含まれない。従って、野菜や家畜から食物連鎖で、ヨウ素を摂取することができない。世界人口の約半数がヨウ素不足に悩まされているのが現状である。スイス、カナダ、米国などでは、食塩にヨウ素を加えることを法的に義務づけ、甲状腺ホルモン不足に対処している。

以上の報告からアブラナ科(十字花科)に属するcabbage等の含有成分として、甲状腺でのヨウ素の取り込みを阻害するisothiocyanate、goitrinが存在することは事実であるが、ヨウ素が豊富に供給されている我が国では、cabbage等の摂取によって、必ずしも甲状腺肥大や甲状腺腫を惹起するとは限らないと考えられる。また『多量の芥子油配糖体(glucosinolate)を長期間摂取すると甲状腺腫になる』とされているが、極端な偏食をしない限り、影響は出ないのではないかと考えられる。

1)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;(社)畜産技術協会,2005
2)海老塚豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
3)リクガメのための栄養学入門;http://web.shinonome.ac.jp/%7Emiyada/kame.html,2006.10.3.
4)堀内清:体に必要な微量元素の話;千葉県衛生研究所情報Health 21(6),2002.1.15.
5)第一出版編集部・編:日本人の食事摂取基準[厚生労働省策定] 2005年版;第一出版,2006

                                            [015.2.CAB:2006.10.31.古泉秀夫]

「成人インフルエンザ患者への解熱剤投与」

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:薬物療法・インフルエンザ・解熱剤・バイアスピリン錠・バファリン81mg錠・アスピリン・成人投与・小児投与

Q:小児のインフルエンザ患者に対する解熱剤の投与について、投与禁忌等の注意事項が見られるが、バイアスピリン、バファリン81mg服用中の成人患者の場合はどうか

A:バイアスピリン錠100mg(バイエル薬品)及びバファリン81mg錠(ライオン)の添付文書中に記載されている禁忌・使用上の注意等は下記の通りである。

商品名 バイアスピリン錠100mg バファリン81mg錠
成分 aspirin aspirin
禁忌

1.本剤成分又はサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴者。
2.消化性潰瘍のある患者。
3.出血傾向のある患者。
4.アスピリン喘息又は既往者。
5.出産予定日12週以内の妊婦。
6.低出生体重児、新生児又は乳児。

重要な基本的注意 1.サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること[ライ症候群:小児において極めて稀に水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT)・ALT(GPT)・LDH・CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である]。
使用上の注意-小児等への投与

.低出生体重児、新生児又は乳児-錠剤の嚥下不能。
2.幼児には本剤の嚥下可能確認後慎重投与。
3.小児等-易副作用発現-患者の状態観察慎重投与。川崎病の治療において肝機能障害報告-適宜肝機能検査。
4.15歳未満の水痘、インフルエンザ患者に投与しないことを原則-やむを得ず投与する場合、慎重投与。投与後患者の状態十分観察。
5.本剤投与中の15歳未満の川崎病患者が水痘、インフルエンザを発症した場合、投与中断を原則とするが、やむを得ず投与継続の場合、慎重投与。投与後患者の状態十分観察。

バイアスピリン錠100mg及びバファリン81mg錠は、いずれもaspirinの製剤であり、添付文書の記載事項は同様である。なお、成人に関するinfluenza virus感染症とaspirin投与の関係は添付文書中に何等記載されていない。

「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」は、医薬品等安全性情報 151号(平成10年12月24日)において、次の通り報告されている。

ライ症候群は、昭和38年にオーストラリアの病理学者Reyeにより最初に報告された症候群であり、主として小児においてインフルエンザ、水痘等のウイルス疾患に罹患した後激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT)・ALT(GPT)・LDH・CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が1週間程度発現する病態で、その発生は稀であるが、予後は不良である。

昭和57年米国においてサリチル酸系製剤、特にaspirinの使用とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告された。

ライ症候群の発症とその使用における関連性については、aspirin以外のサリチル酸系製剤では必ずしも明らかでないが、他のサリチル酸系製剤がaspirinと類似の構造を有していることなどから、これらaspirin以外のサリチル酸系製剤についても、念のためサリチル酸系製剤とライ症候群の関連性について、使用上の注意改訂により改めて一層の注意喚起を行い、所要の措置を講じることが適当と考えられる。

上記注意喚起以後も、解熱鎮痛剤を投与された患者で意識障害、痙攣等の脳症状(ライ症候群と確定されないものも含む)が発生した症例が報告されているため、サリチル酸系製剤を含む解熱鎮痛剤全般について確認したところ、平成11年1月以降にaspirin等を含有するサリチル酸系製剤が投与された小児でライ症候群症例が3例あった。またそれらのうち2例は、サリチルアミドを含有する総合感冒薬が投与されたものであった。

日本小児科学会では、平成12年11月に、小児のインフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればacetaminophenが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきであるとする見解を公表した。

その他、diclofenac sodium、mefenamic acidについては、小児における「インフルエンザの臨床経過中の脳炎・脳症」患者に対する投与は禁忌とされている。なお、成人についてはインフルエンザ脳症を発症する頻度は低いと報告されているが、脳症発症時には同様に注意が必要であると考えられる。

但し、成人のインフルエンザに対する解熱剤投与に関して、特に勧告が出されたとする報告は見られないため、使用の可否判断はあくまで医師の裁量による。

 

1)バイアスピリン錠100mg添付文書,2006.4.改訂
2)バファリン81mg錠添付文書,2006.4.改訂
3)医薬品等安全性情報 151号,1998.12.24.
4)医薬品・医療用具等安全性情報 167号,2001.6.27.
5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
6)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2006

                                                  [035.1. REY:古泉秀夫,2006.9.5.]

「腓返りの治療薬」

日曜日, 11月 11th, 2007

KW:薬物療法・腓返り・こむらかえり・発現理由・発生時期・薬甘草湯・芍薬・シャクヤク・甘草・カンゾウ

Q:腓返りの治療薬として使用される薬物について

A:腓返りの発現理由として、次の報告がされている。

 

好発年代 10歳代-20歳代 高齢者
発生時期 昼間運動時 夜間就寝時
発生原因 スポーツ実施時(ジャンプ、サッカー、マラソン等)、長時間の歩行 原因未解明。基礎疾患注意(不安定狭心症、腎不全による透析患者、甲状腺機能低下症、多発神経炎、肝硬変、胃全摘等)。
発生理由 準備運動不足、運動中の多量の発汗による脱水、連日の運動による疲労の蓄積、風邪等の体調不良。 電解質異常(カルシウム、ナトリウム異常)、脱水(発熱、下痢、利尿薬使用)。
診察時の注意点

起こったときの状況・下腿痙攣の状態の詳細な問診。
神経筋症状(筋電図、神経伝達速度検査)、肝機能・腎機能・電解質・甲状腺機能(血液検査による内分泌機能検査)。脊髄疾患の原因探索(MRI検査)。

物理的治療法

[1]手でかかとを固定し、爪先を手でもって、ふくらはぎをゆっくり伸ばす。
[2]ふくらはぎを温めて、血行をよくし軽いマッサージ。

薬物療法 筋弛緩剤、抗不安薬(有・筋弛緩作用)、芍薬甘草湯(痙攣発生時お湯で頓服、定期的服用(特に就寝前服用)で有効。ビタミンB群の補充
予防法 筋肉の疲労解消のためのストレッチング(アキレス腱を伸ばすストレッチの実施)。高齢者ではふくらはぎの筋肉を強化するストレッチング。

 

品名 添付文書
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)
解説
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)
禁忌

1.アルドステロン症の患者
2.ミオパシーのある患者
3.低カリウム血症のある患者
[1-3:これらの疾患及び症状が悪化するおそれがある。]

1.アルドステロン症:広義には高アルドステロン症と低アルドステロン症に分けるが、一般には高アルドステロン症のみをいう。更に原発性と続発性の二種に大別される。原発性アルドステロン症は、副腎自体にアルドステロン分泌過剰の病態がある場合で、狭義にはアルドステロン産生副腎腺腫(稀に癌)のみをいうが、広義には副腎皮質過形成(特発性高アルドステロン症)もこの中に含める。続発性アルドステロン症は、レニン分泌過剰によって二次的にアルドステロン過剰が生じている病態で、浮腫、体液貯留による疾患、Bartter症候群、原発性レニン症や腎血管性高血圧症などがある。

2.ミオパシー(myopathy:筋症):筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称。筋肉は神経に支配されて機能を果たしているから筋肉に症状が現れるとき、神経の病変が原因である場合と、筋肉に病変が起きている場合とに大別でき、筋肉に病変が起きているものがミオパシーである。筋肉は種々の原因で侵されるが、その中で遺伝性に発症し、進行性に筋繊維の変性が見られる進行性筋ジストロフィーがミオパシーの代表であり、最初は両者ほぼ同義に用いられていた。外因による筋障害も多く、薬剤に起因するミオパシーも報告されている。こうしたミオパシーの際には、一般的に四肢近位筋即ち肩、腰などの筋の脱力が目立ち、立ち上がり動作、階段の昇降などに困難を自覚することが多い。その他、骨格筋障害と異なる特殊な概念として、心筋ミオパシーもある。

3.低カリウム血症:血清中のK濃度が、正常下限(3.5mEq/L)を下回って低下した病態で、体内におけるK分布の異常による場合と、全体K量の低下による場合とがある。全体K量の低下は、高齢者や神経性食欲不振症患者において摂食量の低下によって起こり、また反復する嘔吐では代謝性アルカローシスとともに発症する。また、尿中へのK喪失は、原発性アルドステロン症、続発性アルドステロン症あるいは異所性ACTH産生腫瘍などで発症する。低カリウム血症の症状は、筋力低下や多尿があり、腎濃縮力低下、糖忍容力低下、心電図上T波の平低化が見られれる。

組成

本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.5gを含有する。
日局カンゾウ………………6.0g
日局シャクヤク……………6.0g
添加物:日局ステアリン酸マグネシウム、日局乳糖

甘草(glycyrrhiza・glycyrrhizae radix):本品はGlycyrrhiza uralensis Fisher又はGlycyrrhiza glabra Linné(Leguminosae)の根及びストロン(根茎)で、ときに周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)である。鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、去痰薬。成分:glycyrrhizin(glycyrrhizic acid:甘味成分)2-6%を含む。glycyrrhizinは蔗糖の150倍の甘さがあり、酸加水分解でglycrrhetic acid(glycyrrhetinic acid)と2分子のglucuronic acidを生じる。その他の成分としてglabric acid等のトリテルペン配糖体、更にフェノール成分としてフラバノン配糖体liquiritin、とそのアグリコンliquiritigenin、これに対応するカルコン配糖体isoliquiritinとそのアグリコンisoliquiritigenin、イソフラバンlicoricidin、クメスタンglycyrol、イソフラボンformononetin、licoricone、ポリアミンなど多くの化合物が明らかにされている。▼芍薬(Paeonia lactiflora Pallas<Paeoniaceae>):本品はシャクヤク(peony root;paeoniae radix)の根である。鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)。主成分としてpaeoniflorin(安息香酸を結合する変型モノテルペン配糖体)とその関連化合物、paeoniflorigenone、paeonilactones等のモノテルペン、テルペン配糖体等。その他安息香酸、ガロタンニン等を含む。なお、paeoniflorin等の定量等についても報告されている。paeoniflorinは鎮静、鎮痛、抗ペンチレンテトラゾール痙攣、抗炎症、ストレス潰瘍予防、血圧降下、血管拡張、平滑筋等の諸作用、細胞内カルシウム減少作用、接触性過敏反応及び受身皮膚アナフィラキシー抑制、細胞内及び血清ステロイド結合蛋白との結合活性等が報告。

効能・効果 急激におこる筋肉のけいれんを
伴う疼痛

腓返り
本剤は原典(傷寒論)では『脚攣急を治す』とされている。骨格筋と平滑筋をともに弛緩するというユニークな作用をもつと報告されている。

用法・用量

通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。▼(用法及び用量に関連する使用上の注意)本剤の使用にあたっては、治療上必要な最小限期間の投与にとどめること。

[1]腓返りの発作時に頓用することで、期待する効果が得られる。
[2]頻繁に腓返りの発作が起こる事例では、就寝前に1回頓用することで効果が得られる。

使用上の注意

(次の患者には慎重に投与すること)
高齢者

(1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
(2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。
(3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

□一般に高齢者では生理機能が低下しているので、減量するなど注意すること。▼□monoammonium glycyrrhizinateの臨床での使用経験において、高齢者に低カリウム血症等の副作用の発現率が高い傾向が認められる。甘草の主成分はglycyrrhizinであり、本剤は患者の状態を観察しながら慎重に投与することが必要である。▼□甘草を含有する製剤との併用は、本剤に含まれるglycyrrhizic acidが重複し、偽アルドステロン症が現れ易くなるので注意。

副作用

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発生頻度は不明である。▼1)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。▼2)うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍(Torsades de Pointesを含む)があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定など)を十分に行い、動悸、息切れ、倦怠感、めまい、失神等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。▼3)ミオパシー:低カリウム血症の結果として、ミオパシー、横紋筋融解症があらわれることがあるので、脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺、CK(CPK) 上昇、血中及び尿中のミオグロビン上昇が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。▼4)肝機能障害、黄疸、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

1)過敏症:発疹、発赤、掻痒等があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
2)消化器:悪心、嘔吐、下痢等があらわれることがある。

甘草の副作用として『浮腫、血圧上昇、強い筋肉痛、脱力』が報告されている。
その他、芍薬甘草湯の副作用として『便秘、グルココルチコイド上昇、低カリウム血症』が報告されている。

妊婦・授乳婦への投与 妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみに投与すること。 器官形成期といわれる6週から11週までは漢方薬も控えることが望ましい。妊娠中は過度の発汗剤や瀉下剤、利尿剤など強い作用の漢方薬を過量には使用しない。また微小循環促進剤とされる大黄・附子・桃仁・牡丹皮・牛膝等を含む処方は注意して使用する。大黄を含む処方では、作用が緩やかな潤腸湯などが奨められるの報告。
高齢者 一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。 高齢者の場合、生理機能の低下はやむを得ない。従って、漫然と成人投与量を考えて投与していると、重篤な副作用が発現する可能性がある。
薬効・薬理 痙縮モデルにおける筋疲労抑制作用:足底筋及びヒラメ筋に対する坐骨神経頻回刺激による筋痙縮モデルラットに経口投与したところ、筋疲労耐性能の亢進傾向が認められた。 本剤の配合成分である芍薬に含まれるpaeoniflorinは筋肉のCa ++を抑制し、甘草に含まれるglycyrrhizinはホスホリパーゼA2 を介してK+チャンネルを抑制するため、両者が骨格筋の異なった部位を抑制することで相乗的な効果が得られる。

 

1)河野照茂:下腿の痙攣;ドクターサロン,49(8):592-595(2005)
2)ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2005.4.改訂
3)第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
4)花輪壽彦:漢方よろず相談;株式会社医学研究社,2001
5)花輪壽彦:コア・カリキュラム時代の漢方 第10講 漢方薬の薬理作用についての最近の知見;日本医事新報,No.4238:25-19(2005)
6)岡野善郎・他:スキルアップのための漢方薬の服薬指導;南山堂,2001

                                            [035.1. CRA:2006.7.22.古泉秀夫]