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『フタル酸ビスについて』

水曜日, 11月 14th, 2007

KW:薬名検索・フタル酸ビス・フタル酸ビス-2-エチルヘキシル・Phthalic acid bis-2-ethylhexyl・フタル酸ジオクチル・dioctyl phthalate・DOP・DEHP

Q:2003年8月オモチャへの使用が禁止されているフタル酸ビスが検出されたとの新聞報道[読売新聞,第47020号,2007.2.2.]がされたが、フタル酸ビスとはどのようなものか

A:フタル酸ビスについて、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル(Phthalic acid bis-2-ethylhexyl)とする標記が見られる。

別名としてフタル酸ジエチルヘキシル(di-2-ethylhexyl phthalate)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(Phthalic acid di-2-ethylhexyl)、フタル酸ジオクチル(dioctyl phthalate)、1,2-ベンゼンジカルボン酸ビス-2-エチルヘキシル)(1,2-Benzenedicarboxylic acid bis-2-ethylhexyl)、ジエチルヘキシルフタラート(Diethylhexyl phthalate)等が報告されている。略号:DOP、DEHP。化学式:C24H38O4=390.56。凝固点:?55℃、沸点:231℃(5Torr)、空気中での揮発度:0.02mg/cm2(100℃)。

CAS番号:117-81-7。

本品は無色透明な油状の液体である。軟質塩化ビニル樹脂の可塑剤として最も広く用いられている。フタル酸エステル類の中では、毒性は低いとされている。本品は水に溶け難いが、有機溶媒に溶け、ビニル系樹脂と相容性がよい。常温では無色の液体である。可塑剤は、粘土を軟らかくするために加える水のような働きをもつもので、プラスチック製品や接着剤などをつくるときに、合成樹脂などに添加される。

本品は特に塩化ビニル樹脂を効率よく柔らかくするので、さまざまな軟質塩化ビニル製品の製造の際に用いられている。この軟質塩化ビニル製品は、壁紙や床材などの建材、電線被覆材、一般用のフィルム・シートや農業用ビニールフィルムなど、一般家庭で使われる製品も含めて、多方面で使われている。また、塩化ビニル樹脂以外にラッカー(ニトロセルロースラッカー)などにも可塑剤として使われているほか、溶剤として塗料や接着剤などにも用いられている。

毒 性:ラットに5mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを1週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、肝臓の細胞にある解毒酵素の活性が認められている。水質要監視項目の指針値は、このラットの実験に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.025mg/kg/dayと算出し、設定されている。また、雌雄のマウスに144mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを含む餌を与えて交配実験をしたところ、出産回数、出産生児数、生児出産率の低下が認められている。ラットに37.6mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを13週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、雄のラットに精巣細胞への影響が認められている。水道水質管理目標値は、これらの生殖発生や精巣への影響に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.04-0.14mg/kg/dayと算出して設定されている。Phthalic acid bis-2-ethylhexylは、シックハウス症候群との関連性が疑われていることから、厚生労働省ではこの物質の室内空気濃度の指針値を0.12mg/m3 (0.0076ppm)と定めている。これも、ラットに対する精巣の病理学的変化を根拠としている。発がん性については、国際がん研究機関(IARC)では2000年に、それまで2B(人に対して発がん性があるかもしれない)の評価を、3(人に対する発がん性については分類できない)に変更している。

吸 収:人がPhthalic acid bis-2-ethylhexylを体内に取り込む可能性があるのは、主として食事によると考えられる。可塑剤として使用されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylが樹脂から溶出する可能性があり、食品などに付着することによる。体内に取り込まれたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは、膵臓から分泌された酵素によって分解され代謝物を生成するが、その代謝経路は動物種によって異なるとされている。人では、代謝物は尿中に排泄すると考えられている。

影 響:Phthalic acid bis-2-ethylhexylは空気中、水中等から検出されているが、室内空気濃度の指針値、水質要監視項目指針値、地下水要監視項目指針値を超える濃度は検出されていない。現在の環境中の濃度では人の健康への影響はないと考えられている。飲料水からも、水道水質要監視項目指針値(2004年4月1日施行より水道水質管理目標値に変更。指針値は0.06mg/L、目標値は0.1 mg/L以下)を超える濃度は検出されていない。なお、環境省が行った食事調査によると、家庭内の食事では最大値で食事1kg当たり0.33mgのPhthalic acid bis-2-ethylhexylが含まれていた。食事調査の結果は、水質要監視項目指針値における耐容1日摂取量(TDI)より十分低いが、調理用の塩化ビニル製手袋の使用自粛を促すなどの対策が進められている。

環境汚染:空気中に排出されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは降雨などで水系や土壌に移動すると考えられている。土壌や水中の微生物による分解は良好とされている。

危険有害性情報:軽度の皮膚刺激、眼刺激、発がんのおそれの疑い、生殖能又は胎児への悪影響のおそれ、長期又は反復曝露による精巣、肝臓の障害のおそれ、長期的影響により水生生物に有害のおそれ。

安全対策:個人用保護具や換気装置を使用し、ばく露を避けること。ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないこと。取扱い後はよく手を洗うこと。環境への放出を避けること。

救急処置

眼に入った場合:流水で15分間注意深く洗うこと。コンタクトレンズを容易に外せる場合には外して洗うこと。眼の刺激が持続する場合は、医師の診断、手当てを受けること。

曝露又はその懸念がある場合:医師の診断、手当てを受けること。気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受けること。

皮膚刺激:医師の診断、手当てを受けること。

廃 棄:内容物や容器を、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託すること。

1)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
3)リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート:ttp://www.env.go.jp/chemi/communication/factsheet/data/1-272.html,2007.2.2
4)安全性データシート:フタル酸ビス(2-エチルヘキシル);http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0183.html,2007.2.2.

[011.1.DOP:2007.2.13.古泉秀夫]