Archive for 3月 30th, 2012

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「EAPについて」

金曜日, 3月 30th, 2012

KW:薬名検索・EAP・ethanolamine phosphate・エタノールアミンリン酸・ホスホエタノールアミン・うつ病・BDNF・脳由来神経栄養因子

Q:うつ病の診断に役立つ物質として紹介されたEAPとは何か。

A:EAP→ethanolamine phosphate、エタノールアミンリン酸。別名:ホスホエタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン、2-アミノエタノールリン酸(2-aminoethanol phosphate)。エタノールアミンのリン酸化により生じる(→エタノールアミンキナーゼ)。

高等生物のホスファチジルエタノールアミン合成の前駆体(→エタノールアミンホスホトランスフェラーゼ、エタノールアミンリン酸シチジリルトランスフェラーゼ)。スフィンゴシンの分解、phospholipase Cによるホスファチジルエタノールアミンの分解の際にも生じる。反芻胃中の原生動物はこのものを転移してセラミドホスホエタノールアミンを合成する。

報告によれば、EAPは血中の濃度を測定することによって、うつ病の診断に利用可能だとされている。

日経ビジネス(2011.7.18,No.1600)は「技術&トレンド」で、現在研究が進められている血液検査によるうつ病の診断技術について紹介している。内容は慶応義塾大学発のベンチャー企業、山形県鶴岡市のヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)と「外苑メンタルクリニック」の川村則行院長が共同研究し、5月に発表したもの。うつ病患者と健康人の血漿に含まれる代謝物質を検査したところ、うつ病患者は健康な人に比べて、血漿中のEAPの濃度が低いことが分かった。EAPがうつ病のバイオマーカーとして使える可能性があるというもの。

この他、広島大学大学院医歯薬学総合研究科の山脇成人教授らの研究グループが、「うつ病診断の有力バイオマーカー候補を発見」したとする発表を行った。山脇教授らの報告は、神経細胞の発達などで必要となる「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という遺伝子に関するものである。うつ病と診断されたが薬物治療を受けていない患者と、健康な人の血液を採取し、この遺伝子内で起こる「メチル化」を比べたところ、うつ病患者だけに特有の変化パターンが見つかったという。

両研究とも現在はまだ研究途中の段階だが、今後は血液検査を受けるだけで、客観的なデータからうつ病を診断できるようになる可能性がある。

BDNF(Brain-derived neurotrophic factor):標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の生存・成長・シナプスの機能亢進などの神経細胞の成長を調節する脳細胞の増加には不可欠な神経系の液性蛋白質である。現在、BDNFに関しては自閉症や痛風との関係等、神経疾患治療に応用可能な蛋白質として着目されている。 また、広島大学の栗原教授らによってBDNFが歯の関連細胞や血管の増殖、分化を促進することが発見され、歯周再生への関与が見いだされた。 すでに動物実験において、BDNFの投与した歯周病モデル動物が健常動物と同様の歯周の状態に回復させることに成功している。 一般開業医で可能な簡単な手術により、歯周病でダメージを受けた歯周を再生できる治療を目指し開発が進行中であり、国際特許出願をしている。

1)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,2002

 

[011.1.EAP:2012.3.27.古泉秀夫]

「パンケーキシンドロームについて」

金曜日, 3月 30th, 2012

KW:語彙解釈・パンケーキシンドローム・お好み焼き用粉・タコ焼き粉・ホットケーキ・ホットケーキミックス

Q:パンケーキ・シンドロームについて

A:お好み焼き用粉、パンケーキ・ホットケーキ等に用いられるホットケーキミックス等、粉材の保管が不十分なため、ダニに汚染され、それを摂取したことによりダニアレルギーを発症した症例が報告されている。

§近年、お好み焼き用の粉がダニに汚染され、多量のダニを経口摂取した事によりアナフィラキシーを来した症例が報告されており、衛生環境の向上により従来ほどにダニの経口摂取が見られなくなったことによる免疫学的寛容の低下が想定されている。今回、開封された後、数ヵ月を経過した粉を材料として調理したお好み焼きを摂取した後、アナフィラキシー症状を呈した5歳男児の症例を経験した。

§主訴として顔面紅潮・眼球充血・喘鳴・咳嗽・呼吸困難感等が見られた。家族歴として父親が花粉症と気管支喘息を、姉が気管支喘息の治療を受けていた。また男児は既往歴として気管支喘息を2歳より加療中であった。但し、食物によるアレルギーについては、現在までに罹患した経験はなかった。

§患児は自宅にて夕食時にお好み焼きなどを食べた後に、嘔気・咽頭痛を自覚した。若干の時間経過後、咳嗽、呼吸困難、顔面紅潮、眼球充血が発現し、救急外来を受診した。受診時、症状は改善傾向で、会話・歩行は可能であり、肺野に呼気性喘鳴を聴取したが、呼吸困難は軽度であった。男児はアナフィラキシーとして入院した。入院時IgE 558IU/mL。RAST score卵白2、卵黄0、小麦0、大豆0、ミルク0、オボムコイド(耐熱性卵蛋白)0、ヤケヒョウヒダニ6、ハウスダスト6。

§夕食の材料は[1]御飯、[2]お好み焼き・卵・キャベツ・マヨネーズ、[3]味噌汁・若布・豆腐、[4]缶詰のパインで、いずれも食べ慣れたものであったが、お好み焼きを灼いた粉は、前回開封後に、冷蔵庫には入れず、そのまま数ヵ月が経過していた。粉の真菌培養は陰性であったが、粉の検鏡により多数のケナガコナダニの成虫と虫卵を検出した。患児はヤケヒョウダニ・ハウスダストのIgE抗体が強陽性であり、今回の症状は多量のダニを経口摂取で起きたと考えられている。ケナガコナダニのIgE抗体の直接証明はないが、該当ダニ間の交叉抗原性や患児のケナガコナダニへの感作を推定した。

§1993年にダニの直接経口摂取によるアナフィラキシーの報告が初めてされて以来、各国で同様の報告が続いている。お好み焼き粉・ホットケーキなどの小麦粉製品中で繁殖したダニを摂取した数十分後に症状が出現する。ダニが発生した粉材を加熱しても発症は防止できない。現在までにチリダニ科・コナダニ科のダニによる汚染が報告されており、いずれも高温多湿下でよく繁殖する。開封後に常温で長期間おかれた小麦粉製品はダニ繁殖に適した環境となるため、開封後は冷蔵庫等に保管し、ダニの繁殖を防止すると共に、ダニアレルギーの児の発症予防に留意することが必要である。

§また原田ら(2011)は、近年本邦でも、お好み焼き粉又はタコ焼き粉に混入したダニによるアレルギー反応の報告例が増加しつつある。今回我々は、お好み焼き及びタコ焼き摂取後に眼瞼浮腫を生じ、諸検査により粉に混入していたコナヒョウヒダニによるアレルギー反応と診断した1症例を経験したため、併せて本症の発症機序に関する検討を行った。§粉に混入したダニによりアレルギー反応を生じた本邦既報告例を集計し、臨床症状・アレルギー疾患の既往歴・原因となるダニの種類等に関して検討を加えた。その結果、既報告例のほぼ全例がアナフィラキシー症状をきたし、かつ大部分でアレルギー疾患の既往を有していたのに反し、自験例では眼瞼の血管性浮腫のみをきたし、アレルギー疾患の既往は認めなかった。また、原因となるダニに関しては、当初は貯蔵ダニが原因であると考えられていたが、家塵ダニを原因とする症例も少なからず存在していたと報告している。
§喘息やアトピー性皮膚炎などの原因となるダニの正確な名称は「チリダニ科コナヒョウヒダニ属のヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニである。人間の垢や抜け落ちた髪の毛などをえさにして1年中増え続けている。6-7月に増殖し8-9月に死ダニが増える。これが秋に喘息発作の多い原因の一つと考えられている。

§ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronissinus):虫体成分や分泌物などがallergenとなるアレルギー疾患の原因となるダニ。ヤケヒョウヒダニは、体長0.25-0.4mm、卵形で、半透明な乳白色。脚はやや桃色がかっている。
ヤケヒョウヒダニは、温度25℃、湿度70%の条件で、卵期 6.2日、幼虫期 10.7日、第1若虫期 8.6日、第3若虫期 10.7日で、卵から成虫になるまで約37日間かかり、成虫の寿命は約70日であるとされる。湿度60%以下では死亡率が高まる。卵は1日1-2個ずつ、生涯50-100個程度産み、成虫は数ヵ月間生存する。

§コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae):虫体成分や分泌物などがallergenとなるアレルギー疾患の原因となるダニ。ヤケヒョウヒダニに酷似するが、雌は上生殖板の形状と第3、4脚の長さの違いで、雄は肛板の形状の違いで区別できる。
コナヒョウヒダニは、やや乾燥した環境を好み、映画館やバスの座席などでは本種の方が多くなるとされる。生育期間は25℃、湿度76%条件で、卵期 8.1日、幼虫期 8.2日、第1若虫期 17.0日、第3若虫期 6.6日で卵から成虫になるまで約40日間かかり、成虫の寿命は約77日であると報告されている。また生息密度が過剰になると数ヵ月間も発育を休止することが知られている。

§属名のdermaは皮膚を、phagoは食べるを意味する。表皮ダニとは、皮膚特に角皮落屑物(フケ、垢)を食べるダニという意味である。角質は最も硬いケラチンという蛋白質からなる。表皮ダニ類は強力な蛋白分解酵素を持っている。両種の形態や食性は類似しているが、生態学的特徴には大きな相違が見られる。表皮ダニ類は、ダニの虫体だけでなく、死骸、糞、脱皮殻などがアレルギーの原因(allergen)となる。気管支喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患を生じさせる。気管支喘息は、体内に入ってきたallergenに対してアレルギー反応が起こり、ヒスタミンやロイコトリエンが分泌され、気管支を狭めたり、タンや咳を出させる。

§その他、ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニを原因とする“パンケーキシンドローム(pancake syndrome)”について、1993年に海外で初めて報告され、問題視されているとする報告がされている。また、パンケーキを初めとする粉材を原因とするアレルギー性疾患を防止する方法として、食材となる粉類の保管について、冷蔵庫内に保管する方法が推奨されているが、保管温度、湿度を低下させることで、表皮ダニの繁殖を抑制することが可能であるとされていることによる。

1)笠原靖史・他:お好み焼きによりアナフィラキシーを来した1例;新潟アレルギー研究会誌-第49回研究会記録-,28(2007)
2)原田 晋・他:お好み焼き粉、たこ焼き粉に混入したダニによるアレルギー反応の発症機序に関する考察;第61回日本アレルギー学会秋季学術大会,2011年11月
3)中林敏夫・他:医学要点双書10-寄生虫病学 第2版;金芳堂,1996
4)稲葉弥寿子・他:お好み焼き粉に繁殖したダニによる即時型アレルギーの2例;日皮会誌,120(9):1893-19002010)

           [615.8.PAN:2012.2.19.古泉秀夫]

「薬科大学6年制」始末

金曜日, 3月 30th, 2012

    魍魎亭主人

驚いたことに『新設薬大9校が定員割れ』だという。文部科学省は、新たに設置を認可してから完成年度を迎えていない大学や学部、大学院などの運営状況を調べた2011年度「設置計画履行状況等調査」の結果を発表したが、中で薬学系では、2006年度以降に設置した大学等が調査の対象になり、9校が0.7倍未満の定員割れを起こしていたとしている。

文科省は教育環境の質を保つため、入学定員を見直すなど、大学側の自主的な改善を求めている。一方、定員超過の是正が指摘されたのは、薬学系で2校だった。 調査は、第1期生が卒業していない学部や学科などを持つ大学・大学院を対象とし、授業科目の開設や教員組織の整備などが当初の申請計画通りに行われているかどうかを把握することを目的とし、大学設置・学校法人審議会大学設置分科会の運営委員会に設置した「設置計画履行状況等調査委員会」が行った。

今回、定員充足率を満たしていないと指摘された薬学系学科は、▽いわき明星大学▽日本薬科大学▽千葉科学大学▽姫路獨協大学▽安田女子大学▽福山大学▽徳島文理大学香川薬学部▽松山大学▽九州保健福祉大学の9校。文科省はこれらの大学に対し、「定員充足率の平均が0.7倍未満となっていることから、学生確保に努めると共に、今後の定員のあり方について検討すること」との留意事項を付した。その一方で定員を超える学生を受け入れていた、▽星薬科大学大学院▽横浜薬科大学の2校については、「入学定員超過の是正に努めること」との留意事項が付けられた。

また、横浜薬科大学に対しては、▽退学者・留年者の人数が多く見られることから、その原因について分析を行い、具体的な対策を講じること。▽学生のニーズを踏まえつつ、実習に係る教員組織の充実および実習先との連携強化等に努め、教育効果が上がる実習指導体制を構築することとする留意事項が付けられたという。文科省は、留意事項が付された大学に対して、留意事項への対応状況について報告を求めると共に、必要に応じて実地調査や面接調査などを行うとしている。

この報道に対して、特に意見を申し述べる気はないが、医学部に比べて安上がりに開設することが出来ると云うことで、薬科大学を開設したとすれば、その責任は重い。学生の応募者が少なかったというのは、まだ容認するとしても、留年者や退学者が多いというのは見過ごしに出来ない。2012年の3月に第1回目の卒業生が卒業するが、果たして入学生と卒業生の差はどの程度出るのか。入学させて卒業させられないと云うことでは、教員の能力の問題が問われるのではないか。

また、別の報道では、文部科学省の『薬学系人材養成の在り方に関する検討会』(座長:永井良三・東京大学院医学系研究科教授)が、平成24年3月19日に開催され、質の高い入学者の確保に向け、薬科大・薬学部を対象に書面調査やヒアリング調査、実施調査を活用してフォローアップを実施することを決めたという。入学定員充足率が低い、5年次進級率が低いなど、薬学生の質の低下を招くことになっている現状に対応する。

調査は検討会の下部機関として設置する『新制度の薬学部及び大学院における研究・教育等の状況に関するフォローアップワーキング・グループ(WG)』が実施する。書面調査は、今後とも優れた入学者の確保が更に困難になることが懸念され、優れた薬剤師を養成する体系的な薬学教育に問題があると懸念される薬科大学・薬学部に絞って実施する。

2012年度は
§2008年度から2011年度の入学定員の充足率平均が60%以下
§同期間の実質競争倍率の平均が1.2以下などの場合
§2010年度と2011年度の5年次進級率の平均が60%以下

の条件に一つでも該当している大学を対象にする。対象になる大学は23校で、6月に実施。定員充足率や進級率、留年者数などを調査する。

書面調査の結果を受け、7月から9月にかけてヒアリング調査を実施する。WGは調査結果をまとめ、検討会に報告する[日刊薬業,2012.03.21.p7]。

今回は、実地調査の予定はないようであるが、次年度からの実地調査の結果について、改善の目途が立たなかった場合どうするのか。廃校の勧告等何等かの行動が取れるのか。可哀想なのはその様な大学に入学させられた学生であり、改善能力のない大学経営者には表舞台から引き下がって貰わざるを得ない。

                 (2012.3.29.)