Archive for 2008

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『足も驚く菜の花畑』

金曜日, 4月 25th, 2008

鬼城竜生

11,399歩が、2008年1月9日に携帯電話の万歩計に出た歩数である。川崎駅から二宮駅まで、JRで出かけた。二宮駅では北口に出て、ロータリーを突っ切って坂道の取り付きに立つと、町役場から『吾妻山』という案内が目に付いた。

吾妻山-001 いきなり相当急な坂道を登って公園入り口の階段前に出たが、吾妻山の標高は136.2mという先入観をもって出かけたので、気楽に考えていたのだが、期待は見事に裏切られた。『吾妻山』の案内がされているHPに、『海辺から一気に立ち上がっている』と紹介されているのは伊達ではなく、階段は甚だしく急で、取り付いたはいいが息切れがして、二度ばかり休まなければならなかった。一つには山を登る階段にしては、普通の室内に設置されている階段のように幅の狭い階段になっているため、段数を昇と足に対する負担がもろに来るということのようである。最もこちらも予測以上に足腰が弱っており、山頂の展望台まで約20分ということであったが、その前に所要時間は使い切ってしまった。

ところで展望台に行くまでの道筋で、蝋梅の木を見つけたが、この間何回か眼にした蝋梅の花とは違って、縮れた糸みたいな黄色の花が咲いていた。木には蝋梅の名札が付いていたので、蝋梅に間違いはないのだろうが、しながわ水族館のあるしながわ公園の梅林に2-3本ある蝋梅の花とは別品種の花のように見えた。更に道筋の所々に水仙が植えられていたが、1-2本の花が見られるだけで、水仙の見頃を迎えるまでには、まだ少し時間が必要なようである。その他、頂上までの間に躑躅の木が植えられており、花の時期が来れば見事な花を見せる吾妻山-002 だろうと思われた。

展望台には既に何人もの人がいて花を見ていたが、展望台から見る菜の花の群落は息を呑む見事さであった。小学生の頃、菜の花畑はいくらでも見られたが、平面的に展開する畑とは違って、上から下に立体的に見える菜の花は、眼に迫るものが違って見えた。更に場所によっては、菜の花越しに遠方の山々を取り込んで写真が撮れるということで、風景の範囲を広げることが出来るという利点が見られた。どうやら晴れてさえいれば、展望台からは富士山も見えるようで、桜の花越しに富士山を写した写真がホームページ上に公開されていた。

吾妻山-003 帰りは『釜野』経由で川匂神社、西光寺経由で、石仏の写真を写しながら二宮駅に戻ろうと考えたが、朝飯抜き、昼飯まだという状態で歩く距離ではないような気がしたので、今回は温和しく吾妻神社方面の下り道を取ることにした。吾妻神社は縁結びの神様ということであったが、登りにはこちらの道を使った方が登りやすいのではないかと思ったが、さてどうなんでしょうか。

二宮駅の北口まで戻り、昼飯を食わずに川崎まで戻るのは無理と判断して、駅の直ぐ側にある和食専門の飯屋に入ったが、そこで食った鯵の叩き定食は、腹が減っていたのは抜きにして、旨い飯を食わせていただいた。

吾妻山公園で見られる花は、月別にそれぞれの花が見られるようである。菜の花(1-2月)、桜(3-4月)、ツツジ(4-5月)、紫陽花(6-7月)、コスモス(7-8月)。

ところで二宮駅といえば、国立病院の統廃合反対闘争の一環として、国立小児病院の二宮分院廃止が提案された時、反対闘争の支援のために二、三度下りた記憶があるが、その時は海側に出たので、南口に下りたのだと思うが、既に十数年前の記憶であり、南口まで行って周りの風景を眺めてみたが、定かな記憶としては残っていなかった。

(2008.1.18.)

「パイベニカスプレーの安全性について」

木曜日, 4月 10th, 2008

 

KW:毒性・中毒・パイベニカスプレー・ピレトリン・pyrethrin・除虫菊・殺虫殺菌剤・ピレトリン-I・ピレトリン-II

 

Q:保育園の近接地に区の家庭菜園用地が準備されている。そこで使用される予定といわれているパイベニカスプレーの安全性について

 

A:パイベニカスプレー(住友化学園芸)は、除虫菊から抽出した天然成分のピレトリン(pyrethrin)を含有する殺虫殺菌剤である。有効成分:ピレトリン乳剤(ピレトリン0.08%)。

ピレトリン(pyrethrin)は除虫菊(シロバナムショケギク、Chrysanthemum cineraefolium)の花の殺虫成分である。ピレトリン-Iとピレトリン-IIがあり、何れも昆虫類に接触毒性を示すため、殺虫剤として使用される。除虫菊にはこの他にシネリンも含まれている。ピレトリン-I:C21H28O3、沸点146-150℃。ピレトリン-II:C22H28O5、沸点200℃。植物体内への取り込みは極めて少なく、植物体表面において急速な光分解を受ける(FAO/WHO合同残留農薬専門会議 2000)。土壌中半減期は1日未満(ピレトリン-I)。光分解:光により速やかに分解される(太陽光下での半減期:10-12分)。

接触毒として虫体に侵入し、神経系に作用して殺すが、温血動物では比較的無害の報告。単独あるいは他の殺虫剤と混合して粉末製剤、石油乳剤として使用される。

[人畜毒性]普通物。毒劇区分:指定無し。魚毒性:B類(コイの半数致死濃度:10-0.5ppm、ミジンコの半数致死濃度:0.5ppm以下)。除虫菊は天然物であるという理由で、農水省は慢性毒性試験データの提出を免除している。残留性:1日許容摂取量(ADI)0.04mg/kg体重/日*。ポジティブリストでピレトリンとして農作物:0.05-3ppm以下。

急性毒性:急性参照量(ARfD)0.2mg/kg体重/日*。

ADI:毎日一生食べ続けても健康に悪影響がない量。
ARfD:1日ここまで経口摂取しても健康に悪影響が出ない量。

上記の報告の通りpyrethrinは比較的安全な化合物であるとすることが出来る。更に太陽光線下では約20-24分程度で分解されると報告されているので、噴霧後一定の時間経過を経た場合、完全に無毒化されると考えられる。

但し、使用に際して次の注意が必要である。

?風向きなどを考え周辺の人家、自動車、壁、洗濯物、ペット、玩具等に散布液がかからないように注意する。

?作業中・散布当日は散布区域に小児やペットが立ち入らないよう配慮する。

1)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
2)薬科学大辞典編集委員会・編:薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990
3)農薬の手引き 2008年版;化学工業日報社,2008
4)植村振作・他:農薬毒性の事典 第3版;三省堂,2006
5)住友化学園芸製品資料,2008

 

[63.099.SOR:2008.4.10.古泉秀夫]

「カダンセーフの安全性について」

水曜日, 4月 9th, 2008

KW:毒性・中毒・安全性・農薬・殺虫剤・カダンセーフ・ソルビタン脂肪酸エステル・sorbitan fatty acid ester

 

Q:保育園の近接地に区の家庭菜園用地が準備されている。そこで使用される予定といわれているカダンセーフの安全性について

 

A:カダンセーフ(フマキラー)は、ソルビタン脂肪酸エステル乳剤を主成分とする製品で、有効成分はソルビタン脂肪酸エステル 0.14%である。

ソルビタン脂肪酸エステル(sorbitan fatty acid ester)は、非イオン性界面活性剤で、糖類の一種であるソルビトールを脱水したソルビタンと、食用油脂を分解して得られた脂肪酸とをエステル化して作られたソルビタンのの脂肪酸エステルである。

国際的に主要なものはソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノバルミテートの5種類であるが、日本では脂肪酸の種類とエステル化度を変えることにより、各種のものが作られている。

ソルビタン脂肪酸エステルは、白-黄褐色の粉末又は薄片、粒状、蝋状の塊又は液体である。ソルビタンモノラウレート(sorbitanmonolaurate)は、冷水に分散し、ソルビタンモノステアレート(sorbitanmonostearate)、ソルビタンモノパルミテート(sorbitanmonopalmitate)は、冷水には溶けないが温水には分散し、加温された油脂には分散する。

本品は純品ではなく、sorbitol、sorbitan、ソルバイドのモノ、ジ、トリエステルの各種エステルの混合物となるので、同じ種類でも企業により規格、性能は幾分異なる。

本品は代表的な乳化剤であるが、単独で使われる用途は少なく、主として他の乳化剤と組み合わせて使われる。各種乳飲料やアイスクリームなどの乳化安定に、ショートニング、クリーム類などのクリーミング性の向上の他、清涼飲料水からチューインガムまで、多くの食品に使用される。

本品をスプレーすることにより害虫・病原菌が本品の薄い皮膜に覆われ、害虫は呼吸が出来ず窒息死する。病原菌は、本品の被膜に覆われることにより栄養吸収阻害を起こすため死滅する。

[人畜毒性]普通物。[登録会社]フマキラー。

以上の報告から本品の植物に対する噴霧により人体に影響することはないと考えられる

 

1)農薬の手引き 2008年版;化学工業日報社,2008
2)フマキラーあっとホームページ;http://www.fumakilla.co.jp.html,2008

[63.099.SOR:2008.4.9.古泉秀夫]    

「テップ(TEEP)の毒性」

火曜日, 4月 8th, 2008

 

対象物 ニッカリンT(日本化学工業)
成分 テトラエチルピロリン酸。テトラエチルピロホスフェート(tetraethylpyrophosphate=IUPAC) 。TEPP・TEPP乳剤。
一般的性状

TEPPは1940年代初期にBayer社(ドイツ)で開発された。C8H20O7P2= 290.2。無色の芳香性を持つ液体。吸湿性。比重:1.185(20℃)、沸点:155.5℃(5mmHg)、104-110℃(0.08mmHg)。溶解性:水に易溶。多くの有機溶剤に可溶。石油系溶剤に不溶。水中で容易に加水分解して燐酸ジエチルを生じる。金属を腐食する。速効性であるが分解され易い。抗コリンエステラーゼ薬であり、治療にはプラリドキシムが有効。▼有機リン殺虫剤の一つ。ハダニ類、アブラムシ類を主体に広い殺虫効果を示すが、残効性はない。人畜毒性が極めて強いため、昭和44年度で生産中止、その後、農薬登録消滅。▼CAS 107-49-3/RTECS UX6825000。発癌性:報告無。ダイオキシン:影響無。環境ホルモン作用:影響無。登録:1950年8月3日、失効:1969年12月31日用途:殺虫剤。有機リン系の薬剤で、稲のウンカ、果樹、花卉(カキ)、野菜のアブラムシ、茶のアカダニ、桑のキジラミ、ヒメハムシなどに適用された。商品名:テップ、ニッカリン、TEPPがあった。その他ニッカリンTとする資料もある。別名:ネフォス(Nefos)、テップ(TEP)、ピロ燐酸テトラエチル。ニッカリンTは、テップ剤とよばれる農薬の一つで、製造されるときに副生成物(トリエチルピロリン酸:triethylpyrophosphate)が生成される。ニッカリンTの製品色調は赤色の報告。

毒性

昆虫より哺乳動物に対して毒性が強い。
急性毒性(LD50):マウス・ラット経口2mg/kg、マウス経皮8mg/kg・ウサギ経皮5mg/kgで、特定毒物に指定されている。1971年以降使用禁止となった。
推定致死量:15-20mg。少量ずつ継続して与えた場合、全致死量は約120mg。
致死量ラット(経口)LD50:500μg/kg・ラット(腹腔)LD50:850μg/kg・ラット(皮膚)LD50:20mg/kg。
毒性:劇毒区分=特定毒物。厚生省薬事課の統計によれば、1957-66年の10年間に、TEEPによる中毒者38人、死亡者35人、自他殺568人がでている。
代謝:あらゆる経路から体内に吸収される。他の有機リン系殺虫剤に比べ、比較的分解が速やかとされている(詳細不明)。又は経口・経皮・吸入により吸収(無傷の皮膚を含むあらゆる経路から吸収される。その後の行方は不明)。
排泄:有機リン剤の排泄は一般に早いといわれているが、大量摂取した場合の排泄については不明。

症状

cholinesterase(Ch-E)の強力な阻害作用をもち、パラチオン類似の毒性を示す。ヒトが経口的に4mg以上を単回摂取した場合、Ch-Eの急激な低下が見られ、血漿Ch-Eは0%、血球Ch-Eは平常値の60%以下となる。症状が遅れて発現したり、再燃することがあるので、初期に軽症のように見えても経過観察に注意すること(稀に意識障害、呼吸障害が遅延性に発現。改善後数日-2週間後に再燃。改善と増悪を繰り返す例有り)。ムスカリン様作用による症状:縮瞳、流涙、視力障害、気管支痙攣、気道分泌物過多、発汗、流涎、徐脈、尿失禁、消化管蠕動の亢進(急激な腹痛、悪心、嘔吐、下痢等として出現)。ニコチン様作用による症状:筋脱力、筋痙攣、筋線維束攣縮、低血圧、呼吸麻痺等である。中枢神経系の中毒症状:不安、言語障害、精神状態像の変化(錯乱、昏睡、痙攣など)、呼吸抑制などである。経口摂取の際の合併症としては、肺水腫、吸引性肺炎、化学性肺臓炎、遅発性多発ニューロパシー、急性呼吸促迫症候群(ARDS)などがあげられる。

処置

a.呼吸循環の補助及び皮膚の除染(石鹸と流水による洗浄)を行う。皮膚汚染の可能性があれば、医療スタッフは、ゴム手袋、エプロン、靴カバーを装着する。1時間以内に来院した経口摂取による中毒患者では胃洗浄を考慮するが、催吐は禁忌。引き続いて活性炭の投与を行う。

b.アトロピン(大量投与によるベンジルアルコール中毒を回避するため無含有の製品):有機リン剤中毒に対する選択薬である。初回1mg静注、副作用がなければ2mgを15分毎に、atropine症状(分泌物の低下、頻脈、顔面紅潮、口腔乾燥、散瞳など)が出現するまで繰り返す。平均的な必要量は40mg/日程度であるが、大量(500-1500mg/日)を必要とすることもある。有機リン剤が代謝されるまでの少なくとも24時間は、atropineの間歇投与が必要である。アセチルコリンエステラーゼ活性は緩慢に回復するため、重症例では数日以上にわたって投与しなければならない。atropineでは筋脱力の改善は得られない。

c.pralidoxime iodide(ヨウ化プラリドキシム) [パム注射液住友]:生理食塩水100mLに1-2gを混合して30分かけて投与するとコリンエステラーゼの再活性化と筋脱力、筋繊維筋繊維束攣縮、呼吸抑制の改善が得られる。6-12時間毎の反復投与が可能で、24時間で最大12g迄用いることが出来る。あるいは500mg/hrの速度で、必要に応じて数日間にわたって点滴静注する。

d.痙攣:ベンゾジアゼピン及びフェニトイン投与。重篤な痙攣で筋弛緩薬が必要な場合は、筋麻痺が遷延することがあるので、サクシニルコリンは禁忌

e.呼吸不全に対しては機械換気を行う。

事例(実例)

『毒ぶどう酒事件再審決定』名古屋高裁『自白に重大疑問』

第7次再審請求認める決定をしたもの。

□名張ぶどう酒事件

1961年3月28日、三重県名張市葛尾の公民館で開かれた生活改善クラブ「三奈の会」の総会で、女性会員17人に出された農薬入りぶどう酒を飲み、奥西死刑囚の妻と愛人を含む5人が死亡、12人が中毒になった。事件から5日後、奥西死刑囚が「妻と愛人の三角関係を清算するためにやった」と自供した [読売新聞,第46354号,2005.4.5.]。?王冠を歯で開けたという自白の信用性:ぶどう酒の瓶の王冠を覆う封緘紙を傷付けずに開栓できることを示す実験結果を示す。?犯行で使われた毒物は「ニッカリンT」ではない可能性:ニッカリンTは、テップ剤とよばれる農薬の一つで、製造されるときに副生成物(トリエチルピロリン酸:trie-thylpyrophosphate)が生成される。しかし、事件現場に残されたぶどう酒からは検出されておらず、「加水分解したため」とされてきた。これに対し、新たに鑑定人になった佐々木鑑定人は、加水分解の速度は遅く、triethylpyrophosphateが必ず検出されること、その一方でニッカリンTとは異なる別のテップ剤では、triethylpyrophosphateが検出されないことから、「奥西さんが犯行に使った」とされる農薬はニッカリンTではなかった可能性が極めて強い、とする証言を行った

備考

実際にはやっていない殺人事件で、死刑などといわれたのでは、割に合わないことも甚だしい。従って冤罪をはらすことに何ら異論はないが、一方で素直に「よござんしたね」というには若干の違和感を感じる。『それなら誰が毒を飲ませたんだ』という一点では、結果的に真の殺人者を見逃してしまったということになる。どういう理由で、最初に自分がやったなどと自供してしまったのか。兎に角自白させようとした警察の尋問が、執拗極まりないのは想像に難くないが、再審の結果無罪だという結果がでるとすれば、自分がやったという当初の無責任な自供と、それを鵜呑みにした警察の双方で、真の殺人者を捜査線上から消してしまったということになる。
それにしても事件の発生から長い時間が経過しており、使用されたとする農薬は、その危険性から1969年12月31日に農薬登録を失効したとされている。今になって現物を手に入れるのは甚だしく困難で、もし入手でき、化学的実験をするにしても、当時のものとの同一性を証明することは甚だしく困難なのではないかと思われる。

文献

1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
3)植村振作・他:農薬毒性の事典 改訂版;三省堂,2002
4)白川 充・他共訳:薬物中毒必携-第2版原著第4版;医歯薬出版株式会社,1989
5)高久史麿・他監訳:第10版ワシントンマニュアル;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2005
6)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
7)植村振作・他:農薬毒性の事典;三省堂,1998
8)後藤 稠・編:産業中毒便覧 第2版;医歯薬出版株式会社,1992

調査者 古泉秀夫 分類 015.11.TEP 記入日 2005. 4.14.

「水仙(Narcissus)の毒性」

月曜日, 4月 7th, 2008
対象物 水仙 [日本水仙・黄水仙・房前水仙・喇叭水仙]
成分 リコリン(lycorine)、タゼチン(tazettine)、コンバラトキシン(convallatoxin,強心配糖体)、ガランタミン(galanthamine)、蓚酸カルシウム(calcium oxalate)
一般的性状 ヒガンバナ科スイセン属。学名:Narcissus tazetta。英名:Narcissus。毒性は全草に存在するが、特に根(鱗茎)に多い。卵状球形の球根(鱗茎)から葉と花序を出す。葉は根生し、長さ20-30cm、幅0.8-1.5cmの線形、葉の間から20-40cmの花茎が直立し先端に3-7個の花柄を出し白色の花を横向きに咲かせる。いわゆる房咲きである。花には芳香がある。
毒性

紀元一世紀のディオスコリデスの『薬物誌』には、球根を食べると嘔吐をもよおすの記載が見られる。また、庭のフサザキ水仙を生け花にした56歳の女性は、2日後に顔のかぶれが急激に再発、アレルギーテストの結果、花、葉、茎、球根の全てに陽性反応が見られた。別の66歳の主婦は、原因不明のままステロイドによるアレルギーの治療を継続していたが、他院の診察を受けた結果、フサザキ水仙による過敏症であった。水仙は接触皮膚炎の他に、敏感な者では温室の水仙の匂いを嗅いだだけでかぶれる事例が報告されている。

水仙の毒成分である lycorineとcalcium oxalateは、経口摂取すると吐き気を催すだけでなく、葉や花を切ったときに汁が付けば、蕁麻疹様の皮膚炎を惹起することがある。但し、皮膚炎を惹起するのはフサザキ水仙で、ラッパ水仙や黄水仙等他の種類では反応が出ない。

ヒガンバナ科植物にはヒガンバナの他に水仙、アマリリス、キツネノカミソリ、クンシラン、ハマユウ、スノードロップ等があるが、これらの植物には多種類の有毒なalkaloidが含まれている。ヒガンバナや水仙に含まれているlycorineは、鱗茎に多く含まれている。lycorineには催吐作用があり、経口摂取時の50%-致死量(LD50)はマウスで10.7g/kgとされている。galanthamineとしての毒性データ無し。

tazettine:C18H21NO5=331.26。水仙に含まれる。中毒症状は嘔吐や胃腸炎、下痢、頭痛などが見られる。水仙の葉をニラと、球根部をノビル、タマネギと間違えて誤食し中毒となる。

lycorine:C16H17NO4=287.31。ヒガンバナの鱗茎(石蒜)に含まれるフェナントリジン骨格を持つalkaloid。本品は哺乳動物において、少量摂取で流涎、多量摂取で、エメチン様の下痢、吐き気を惹起するが、その毒性は比較的弱いので、催吐、去痰薬として用いられる。また、かなり強い体温下降作用、抗アメーバ作用も示す。

症状

少量の摂取(2-3g、特に球根は毒性強い)では、短い潜伏期間(30分以内)の後に悪心、嘔吐、下痢、流涎、発汗を生じる。
大量では神経麻痺の可能性があるが、ヒトでは殆どの場合、初期に嘔吐するため、消化器症状程度に止まる。これまでに報告されたヒトでの症状の持続期間は、喇叭水仙では約3時間であった。黄水仙では症状は同じであるが24時間以上持続する可能性がある。
循環器系:頻脈、胸痛、重篤な場合は心停止。
神経系:眩暈、麻痺、脱力感、筋力低下、筋肉痛、振戦、神経炎。
消化器系:悪心、嘔吐、腹痛、下痢、流涎、粘液血性下痢、食道狭窄を起こすこともある。
その他:体液・電解質バランス異常(嘔吐や下痢が酷い場合)。結膜炎、皮膚炎。

処置

家庭で可能な処置
催吐:大量(球根1個以上)の場合。但し、乳幼児の場合は、吐物を気管内に吸い込むことがあるので要注意。
医療機関での処置
水仙葉・彼岸花の鱗茎を少量摂食した場合:対症療法
水仙葉・彼岸花の鱗茎を大量摂食した場合
基本的処置:催吐、吸着剤・下剤の投与
対症療法:嘔吐、下痢による脱水に対する処置(体液・電解質モニター)。特異的な治療や解毒剤・拮抗剤はない。

事例

『スイセンをニラと販売 2人食中毒』

▼青森県県保健衛生課に2007年5月9日までに入った連絡によると、ニラとして売られていたスイセンを食べた女性2人が7日、吐き気や嘔吐(おうと)、下痢の症状を訴えて上十三保健所管内の医療機関を受診した。同保健所は、スイセンの植物性自然毒による食中毒と断定。上北地域県民局は、販売者(十和田市)に対し、9日から3日間の販売行為停止の行政処分を行った。

▼スイセンは、販売者がニラだと思い込んで山から採り、道の駅(十和田市)内の直売所で一束だけニラとして販売した。女性2人は職場の同僚で、4月19日に購入、冷蔵庫で保管し5月7日朝、酢みそあえにして計7人で食べた。十和田保健所が残っていた食品や採取場所を調べたところ、自然毒のあるスイセンであることが判明した。

▼ニラとスイセンは似ており、県内では同様の食中毒が2005年にも発生している。県保健衛生課は「有毒植物を見分けるのは難しい。食用かどうか分からない植物は採ったり、食べたり、あげたりしないように」と呼び掛けている[東奥日報]。

備考

物語に出てくる殺人の道具として、水仙は毒性が弱すぎるため不向きである。ということで水仙を毒として使用する物語は、無いだろうと思っていたところ、実際の事件として誤食による中毒事例が、新聞等で報道されていた。今回の事例は、山に生えていたニラを摘んできて売ってしまったというもので、野菜の取り扱いになれている農家のいってみれば専門家が間違えたということであるが、それほど似ているのか。更に疑問なのはニラというのは野生種が山などに自然に生えているものなのかどうか。

今回の事例は日本水仙の葉をニラと間違えた事例であるが、水仙の球根(鱗茎)を小型の玉葱と間違えて、炒めて食べてしまった例が有名なシャンソン歌手の随筆に書かれているということで、この場合も嘔吐等の中毒症状が見られただけで、命に別状はなかったようである。

水仙の誤食の場合の特徴は、含有成分による催吐作用で、誤食したものを全て吐くことによって重篤化しない事例が多いと考えられていることである。

文献

1)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2000
2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
3)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
4)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル社,2005
6)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引-必須272種の化学製品と自然毒情報;薬業時報社,1999

調査者 古泉秀夫 分類 015.11.NAR 記入日 2007. 5.27.

「ニトログリセリン(nitroglycerin)の毒性」

月曜日, 4月 7th, 2008
対象物 ニトログリセリン(nitroglycerin)
成分 ニトログリセリン、[英]nitroglycerin、[独]nitroglycerin、
[仏]nitroglycrine、[ラ]nitroglycerium。
一般的性状 化学名:glyceryl trinitrate 又は1, 2, 3-propanetriol trinitrate。CAS No.55-63-0。分子式:C3H5N3O9。分子量:227.09。別名:三硝酸グリセリン。硝酸グリセロール;Glyc-erol nitrate;Glycerine trintirate。略称:NG。純品は常温では無色透明の油状液体であるが、工業製品は淡黄色、舌を刺す甘味がある。15℃で1.6の比重を示し、凍結すると体積が収縮し、10℃での比重は1,735になる。味は甘く灼熱感があり、熱、衝撃等により容易に爆発する。結晶には不安定型と安定型の2型がある。不安定型の融点2.8℃、安定型の融点13.5℃。acetone、benzene、ether、alcohol等多くの有機溶剤に可溶。水に難溶。50-60℃で分解し始め、218℃で爆発する。本品はNobelがその爆発力を利用してダイナマイトを製造した。 冠血管拡張薬、抗狭心症薬。医薬品としては一般に爆発を防ぐために乳糖を賦形剤として錠剤とする。

*医薬品としての取扱い上の注意
*本剤は、強い揮散性の製剤である。

(1)本容器のまま投与し、他の容器に移しかえない。

(2)本容器のまま保存し、他の容器に移しかえることは絶対に避けること。錠剤を取り出したら、直ちにふたを堅く締めること。また容器の中に他の綿や紙を入れないこと(nitroglycerinが綿や紙に吸収され効果が低下する。)

(3)ふたをあけてから3ヶ月以上経過すると、効果が低下するおそれがあるので、使用開始日を容器に記入しておくこと。本剤はなるべく涼しい所に保存し、持ち歩くときは財布の中、あるいはコートのポケット等に入れ、身体に密着させないこと。

(4)本剤は舌下で溶解させ、口腔粘膜より吸収されて速やかに効果を発現するもので、内服では効果がない。本剤を初めて使用する患者は、最初の数回は必ず1錠を投与すること。このとき一過性の頭痛が起こることがあるが、この症状は投与を続ける間に起こらなくなる。

血漿中濃度:健康成人男子 (N=10) にニトログリセリン錠 (nitroglycerin 0.3mg含有) を1錠ずつ舌下投与後の血漿中濃度を測定した結果、投与後4分で最高値に到達し、以後二相性で消失した。

作用発現時間:1分、Tmax:5分、T1/2:2分、蛋白結合率:60%、排泄:80%が代謝を受けて尿中へ(24時間)。

毒性

許容濃度:0.05ppm、0.46mg/m3(それぞれ最大許容濃度)、ACGIH 0.05ppm(TWA)。 毒薬。極量:1日2mg(舌下)。急性経口毒性(LD50):マウス:500mg/kg・ラット105mg/kg。
中毒量:成人5mg・小児0.1mg/kg。内服では無効、口腔粘膜より吸収。
経口投与では、殆ど腸管粘膜や肝臓で分解される。大量経口摂取では持続時間が長く、最大効果発現時間1時間-1.5時間。
経皮吸収がある。ゴム手袋だけでは吸収を防御できない。皮膚に付着すると皮膚炎を起こす。血管を拡張し、頭痛、吐き気、顔面紅潮、ついで循環虚脱を生ずることがある。大量曝露は、意識を喪失する。
nitroglycerinはヘモグロビンのFe2+を還元し、治療量でもメトヘモグロビン血症を起こすことがある。10μg/kg・minの点滴静注で、メトヘモグロビン値12.7%になった症例、90μg/minで15分間点滴静注して16.5%になった症例、47μg/kg・hrで25時間点滴静注して28.2%になった症例等が報告されている。
*火薬頭痛:19世紀末にnitroglycerinを扱う火薬工場で、作業開始時に、血圧低下、眩暈、激しい拍動性頭痛、動悸が発現する症状。頭痛は頭部・顔面の熱感に始まり、拍動感が前頭部から後頭部、項部に及ぶ。

症状

亜硝酸又は硝酸基を持つ化合物は一般に平滑筋に直接作用してこれを弛緩し、特に末梢血管を拡張する。
末梢血管拡張による低血圧、徐脈。
循環器症状:動悸、血圧低下、チアノーゼ、ショック。
中枢・末梢神経症状:頭痛、眩暈、昏睡、呼吸麻痺。
消化器症状:悪心・嘔吐、食欲不振。
皮膚症状:紅潮、皮膚冷感。
その他:発汗、尿失禁、便失禁、失神等。

処置

皮膚に付いた場合:水及び石鹸を用いて流水で十分に洗浄する。
眼に入った場合:流水を用いて15分以上洗浄する。

一般的処置、対症療法(過度の血圧低下が起こった場合には、下肢の挙上あるいは昇圧剤の投与等、適切な処置を行う)。
大量摂取時methemoglobin血症の処置(1%-メチレンブルー溶液10mL静注・ビタミンC 500mg静注)。

?methemoglobin濃度が20%以上で組織低酸素による全身症状が存在する場合、又は無症状でもmethemoglob-in濃度が30%以上であればmethylene blueを投与する。

?G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)やmethemog-lobin還元酵素欠損症がありmethemoglobinが無効な症例では高圧酸素療法や交換輸血を施行する。

体重50kgの実践投与量:1%-methemoglobin溶液5-10mL(50-100mg)を5分以上掛けて静注する

事例

「いや、大ちがいだ。ベラドンナではない。そんなことを考えるにしては、ぼくは毒物学をちょっとばかり心得すぎている。きみはわざわざニトログリセリンをのんだのだ。」リュウエリンの首は、はっとしたように、少し、後ろにはねあがった。

「どうして、それがわかった?」リュウリエンは、ほとんど唇をうごかさないできいた。

「ただ、推理によってだよ」とヴァンスは告げた。「ケーン医師は、きみが心臓が悪いので、ニトログリセリン錠を処方してやったと話した。きみは、たぶん、いつか、一錠くらいよけいに服用したのだろう。すると、頭が少しふらふらしてきた。それで、きみはニトログリセリンの作用を調べ、のみすぎると昏倒するかもしれないが、べつに永続的な害はないことを知った。そこで、きみは、うちに舞台をしかけておいて、ニトログリセリン錠を適当にのみ、見物人がわんさと見ている前で、一時的に、場面から姿を消した。もちろん、なんの中毒か確かめる方法はない。単なる虚脱病状だ。ぼくはケーンが、ニトログリセリン錠の話をしたとき、きみがやったのは、てっきりそれだと想像した」

「では、アメリアは?」

「同じことだ。アメリアの場合は、予期せぬできごとだっただけだ。きみは、妹さんに毒をのませるつもりはなかったのだ。きみの計画では、おかあさんが、ニトログリセリンを溶かしこんだ、水差しの水を飲むはずになっていた。それを、妹さんが、きみの計画をぶちこわしにしてしまったのだ」[井上 勇・訳(S.S.Van Dine):ヴァン・ダイン全集-カシノ殺人事件;創元推理文庫,2004]

備考

nitroglycerinは甚だしく安定の悪い化合物であり、水に難溶性の物質である。従って、水差しの水に溶かし込んでおいて等ということでは、薬効は全く発揮されないということで、Van Dineの期待するような現象は全く起こらなかったということになる。多分、Van Dineはnitroglycerinの物理・化学的性状について知らなかったか、あるいは知っていて無視したのか、その辺のことは解らないが、小説として読んでいる分には、別に違和感無しに読むことが出来たので、目くじらを立てる話ではないのかもしれない。

ところでnitroglycerinの過量摂取時に発現するmethemo-globin血症の治療薬である1%-methylene blue溶液は、医薬品として市販されていないため、使用する際には院内特殊製剤としての調製が必要である。但し、使用したとしても厚生労働大臣の承認が得られていない薬物であり、保険請求は出来ない。

*院内特殊製剤-1%-methylene blue注射液処方

methylene blue 1.0g

注射用蒸留水 全量100mL

調製法:methylene blue 1.0gを秤取し、注射用蒸留水に攪拌しながら溶解して全量100mLとする。メンブランフィルター(0.45μm)を用いて加圧ろ過し、10mLの褐色滅菌瓶に分注して、121℃-20分の高圧蒸気滅菌を行う。1瓶(10mL)単位で交付。

貯法:室温保存。有効期限:3カ月。

文献

1)ニトログリセリン舌下錠0.3mg「NK」添付文書, 2007年11月改訂

2)広川薬科学大辞典[第2版];株式会社廣川書店,1990

3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999

4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル社,2005

5)山口徹・他総編集:今日の治療指針 50th;医学書院,2008

6)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

7)相馬一亥・監修:イラスト&チャートで見る 急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005

8)日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤-特殊処方とその調製法;薬事日報社,1982

9)14303の化学商品;化学工業日報社,2003

調査者 古泉秀夫 分類 63.099. NIT 記入日 2008.2.17.

「シリカゲルの毒性」

日曜日, 4月 6th, 2008
対象物 シリカゲル(sillica gel)
成分 sillica gel[SiO2・xH2O]
一般的性状

ガラス状の透明又は半透明の粒子で、微細構造を持ち1gで450m2以上の表面積を有する。ガスの吸着能力が大で、この能力は低温ほど大である。水分の場合は、4℃以下で特に大である。放出は150-200℃で行う。水分のみならずアルコール、エーテル、ベンゼン、ガソリン、その他有機溶剤やガス、亜硫酸ガスどもよく吸着する。吸湿剤として使用するものには、ある程度以上水分を吸着すると色が変化するように微量のコバルト塩を付けたものが市販されている(青ゲル:乾燥時は青色で吸着すると無色あるいは赤色となる。)。コバルト塩の添加量は約5%とする報告が見られる。
CoCl2       + H2O →  CoCl2・6H2O
(淡青色)                      (淡赤色)

毒性

sillica 自体は、腸管から殆ど吸収されず、低毒性であり、成人経口時の推定致死量は15g/kg以上の無毒物質であるとされている。従って、家庭用として使用される包装単位では、誤摂取による中毒症状は発現しないとされており、症状としては局所粘膜の脱水程度であるとされる。
なお、コバルト塩については、25%が腸管から吸収されまた消化管刺激作用がある。sillica gel大量摂取の場合、塩化コバルトの毒性に注意。

症状 経口摂取:コバルト塩による消化管粘膜の糜爛、血便、嘔吐、顔面紅潮、低血圧、耳鳴。
処置

少量の摂取であれば、特別な処置を必要としない。大量摂取の場合でも、異物としての処置(経口摂取された異物は3日以内に80%が糞便中に自然排泄)-自然排泄によるが、時に下剤による排泄促進を図る。
ただし、稀に口腔粘膜又は消化管粘膜に付着することにより糜爛が生ずることがあるので水分(小児ではジュース等)、牛乳、粘膜保護剤(マーロックス、アルロイドG等)を投与する。小児で大腸粘膜に付着したためと考えられる疫痢様下痢の報告がある。
眼に入った場合:流水で洗浄。

事例 幼児がシリカゲルを3粒程度誤飲した。どの様に対処すればよいか。
備考 別名:ケイ酸ゲル。
文献

1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
2)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂3版;医薬ジャーナル,1986
3)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
4)13901の化学商品;化学工業日報社,2001

調査者 古泉秀夫 分類 015.11.SIL 記入日 2002.10.2.

「キイボカサタケ(黄疣傘茸)の毒性」

日曜日, 4月 6th, 2008
対象物 キイボカサタケ(黄疣傘茸)
成分 含有成分不明
一般的性状

ハラタケ目イッポンシメジ科イッポンシメジ属。キイボカサタケ(黄疣傘茸)。学名:Rhodophyllus murraii(Berk.et Curt.)Sing.。又はEntoloma murraii(Berk.et Curt.)Sacc.とする記載が見られる。日本、北米に分布。
子実体:クヌギタケ型で小型。
傘:幼児円錐形から開いても低い円錐形で先端に乳頭状の小突起(中央部に乳首状の突起)があり、湿っているとき長い条線が見られる。色は淡黄色又は鮮黄色で、絹糸状光沢がある。表面は平滑。肉は淡黄色で、脆く薄い。傘径1-6cm。
子実層托:襞は幅が狭く疎で、柄に上生する。色は黄色から肌色(初め黄色、胞子が熟すると肉色)になる。
柄:柄の長さは3-11cm。太さ2-4mm、中心生で細長く、中空。色は黄色で、表面には縦の条線がある。捻れることがある。肉質は傘と同様。
味・匂い:無味・無臭。
発生:夏から秋にかけて針葉樹又は広葉樹林内の腐植の多い地に群生か散生する。腐生菌。

毒性 食毒不明。
症状

胃腸刺激型(胃腸系の中毒症状)。

▼侵害部位・臓器:消化管(胃腸炎型中毒)。

▼症状

▼1]悪心、嘔吐、腹痛、下痢。

▼2]脱水症状、体温下降、血圧低下。

▼3]循環不全。

▼潜伏期:30分-3時間。

▼死亡率:稀。

▼平成10年(1998年)10月3日午後、檜原村内で18人(男性6人、女性8人他、年齢22-88歳)がバーベキューパーティを行い、参加者が前日山梨県内で採取したきのこを味噌汁、網焼きにして全員で摂食。うち14人が摂食後4時間-8時間30分の間に吐気、嘔吐、下痢を発症。おおよそ10時間45分経過後(午後11時45分頃)に発症者10人が2カ所の病院に入院した。翌日回復し、全員退院。摂食したきのこの残品を秋川保健所が調査したところ、オシロイシメジ、ホテイシメジ、キイボカサタケなどが確認され、きのこを原因とする食中毒と断定された。

▼[註]この事例はキイボカサタケのみでなく、その他悪酔い型の症状を示すホテイシメジも摂食しているため、中毒症状の発現がキイボカサタケによるものとは断定できないが、外国ではキイボカサタケを摂食して食中毒を発症している症例が報告されているため、イボカサタケの仲間の摂食は注意すべきであるとする報告が見られる。

処置

胃腸刺激型食中毒に対する処置は『支持療法』である。
摂食直後であれば、
毒物の除去
催吐、胃洗浄
活性炭投与

対症療法
補液

事例

毒キノコ食べ女性死亡=キイボカサタケで-愛知(7月23日・時事通信)

▼イッポンシメジ科のキイボカサタケとみられる毒キノコを食べた愛知県東海市の女性(86)が食中毒となり、死亡していたことが23日、分かった。同県が発表した。県生活衛生課キイボカサタケ.jtdの画像 によると、女性は19日午前、1人で自宅近くの知北平和公園(同県大府市)を散歩中にキノコを採取した。夕方に自ら調理して食べたが、翌朝に嘔吐(おうと)や下痢などの症状を起こした。病院で治療を受け、自宅静養していたが、22日午前に脱水で死亡した。

▼毒キノコ食べ脱水症状、愛知で86歳女性が死亡(7月23日・読売新聞)

▼愛知県健康福祉部は23日、同県東海市の女性(86)が、毒キノコを食べたことによる脱水症状で死亡したと発表した。同部によると、女性は今月19日、同県大府市の知北平和公園を散歩中にキノコを採取し、同日夕、自宅で調理して食べた。女性は翌朝、嘔吐(おうと)や下痢などの症状を訴え、医院で点滴を受けるなどした後、自宅で療養していたが、22日午前10時ごろ、死亡した。

▼中毒:毒キノコを食べ、東海の女性死亡 /愛知(7月24日・毎日新聞)

▼県知多保健所に23日入った連絡によると、東海市内の女性(86)が今月22日、大府市内の公園で採った毒キノコを食べ、食中毒による脱水症で死亡した。県によると、県内で毒キノコによる死者が出たのは2年ぶり。女性は19日午前、同市内の知北平和公園を散歩中に、毒性のあるキイボカサタケを採取。同日夕方、ラーメンに入れて食べたが、20日朝になり、吐き気や下痢を訴えた。東海市内の病院で「食中毒の疑いがある」と診断され、点滴を受けたうえで、自宅で静養していたが、22日午前10時ごろ、寝室で死亡しているのを家族が見つけた。毒キノコを食べたのは女性だけだった。家族の話では、女性は今年に入って、2-3回、同公園内で採ったキノコを食べていたという。県生活衛生課は「分からないものを採って食べないようにしてほしい」と話している。

備考

多くの資料で『食毒不明』とされており、報告されている中毒の事例でも死亡は『稀』とされているところから、殺人の手段としては使えない。今回の事例は実際に86歳の女性がラーメンの具として黄疣傘茸を喫食した結果、食中毒を起こしたものである。今回、不幸にして亡くなられているが、下痢症状に伴う脱水症状で、亡くなられたのではないか。年齢から来る体力の低下、各種臓器の機能低下に脱水症状が重なって死の転帰を取ったということのようであり、今後、黄疣傘茸の含有成分等の研究がされ、含有成分の同定がされることに期待したい。
何れにしろ黄疣傘茸は有毒なきのこであり、喫食を止めるべきである。

文献

1)大舘一夫・他監修:都会のキノコ図鑑;八坂書房,2007
2)長沢英史・監修:フィールドベスト図鑑-日本の毒きのこ;学習研究社,2003
3)印東弘玄・他監修:コンパクト版6-原色きのこ図鑑;北隆館,1999
4)奥沢康正・他編著:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル社,2005

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.MUR 記入日 2007.8.5.

『水仙考』

日曜日, 4月 6th, 2008

                                                                        鬼城竜生    

広報東京都第746号(2008.2.1.)に、葛西臨海公園で2月17日まで“水仙まつり”が行われているという広報が掲載されていた。そこで2月3日(土曜日)整形外科で腰痛のマイクロ波療法を受けた後、品川駅から東京駅を経由して、JR京葉線に乗り換え、葛西臨海公園駅まで出かけた。

水仙-001 駅の直ぐ前が、葛西臨海公園で、足の便は甚だ良いが、東京駅で京葉線に乗り換えるのは甚だ難儀な話で、560m先などという案内が山手線のホームを下りた階段の所に出ていた。

  ところで肝心の水仙だが、これは甚だ残念といわなければならないのは、公園全体の器の大きさに比べて、水仙の植え付け面積が狭いということか、オオ咲いているという感覚からは些か遠かった。水仙は個人の庭で観賞するなら大して本数はいらないかもしれないが、大きな場面で鑑賞するのであれば、壮大な本数がないことには、あまり目立たないのではないかという気がした。しかし、水仙の花の匂いは十分にしていたところを見ると、こちらが思うほどには少ない数ではなかったということか。

まあ当日の総歩行数は11,202歩ということであり、1万歩の目的は達成したので、良しとしておくことにする。

2月7日(木曜日)、前日の雪とも雨ともつかない寝ぼけた天候に反して、日差しも温かく、空も晴れていたので、水仙ロードなる名前で呼ばれている北下浦海岸通りに出かけた。最もこの名称よりは“野比海岸”の方が通りがいいのではないかと思われるので、以後“野比海岸”として話を進めるが、兎に角出かけたのである。京急川崎駅で三浦海岸行きの快速に乗って、京急久里浜海岸まで。最も新大津から三浦海岸まで各駅停車になるので、降りる駅の心配はないが、京急久里浜は駅としては大きな駅である。

水仙-002 京急久里浜駅を下りて東口に出て、開国橋を目指すはずが、駅の前が色々輻輳しており、あまつさえろくな地図を持っていないということで、どうやら平作川に出て夫婦橋経由で開国橋に至る道を外してしまった。結局辿った道は久里浜天神を経由して“くりはま花の国”の横手を通る道ということになってしまった。しかし、道標に従って久里浜港-東京湾フェリーの方向に歩いているうちに港の前を通る212号線に出てしまった。

水仙とは直接関係がないが、港に出る前にあった洋食和食定食なる店に入ってロースカツを食したが、あれだけ見事に肉を延ばしたカツを食ったのは初めての経験である。但し、出てきた豚汁は大きなお椀に入っており、十分に納得出来る味であった。更にキャベツも山盛り付けられており、それなりに納得した。

港を左に見て212号線を歩くことになるが、昔乗船したことのある釣り船ムツ六の船小屋があったのには驚いた。その時は車に便水仙-003 乗して来たので、久里浜港から出船したという意識は丸でなかったのである。港の先、左手に住吉神社を見て、東京電力横須賀火力発電所の前を通るとトンネルに入るが、案内板には130mと書いてあったような気がしたが、さてどうだろう。

  トンネルを出て海側のガードレール際に水仙が見えたが、ほんの僅かな植え込みがあるだけで、なんだい、これで終わったら張り倒すよと思いながら歩いていると、右側の国立アルコール症センター久里浜病院の石垣の上に、見渡す限り水仙の帯が出来ていて、へーってなものである。なるほど水仙ロード等と威張るだけのことはあると感心したが、残念ながら花の方は元気がなかった。多分2月3日に降った雪と、昨日降った氷雨にやられたのではないかと思われる。

ところで2回に亘って水仙を見て歩いたが、水仙の葉を観察すればするほど、ニラと間違えて水仙を誤食した事例があるということが信じられなかった。尤も水仙の葉の若い時の形状は見たわけではないので解らないが、今眼の前にある水仙の茎は、食欲が湧くような代物には見えなかった。水仙は勿論有毒植物である。畑に水仙を植えておいて、それをニラと取り違えて等という話があるようだが、何故、畑に水仙を植える必要があったのか、その必然性が解らない。

因みに本日の歩行数は12,761歩である。

                                                                    (2008.2.8.)     

隠すための言い訳で無ければいいんですが

金曜日, 3月 14th, 2008

                                                                      魍魎亭主人   

 

*神奈川県茅ヶ崎市は25日、同市立病院(仙賀裕院長)に心臓病の治療で入院・通院し、検査を受けていた60-70歳代の男性患者5人が、C型肝炎に院内感染した疑いが強いと発表した。患者は2006年12月から今年4月にかけて、循環器内科で心臓のカテーテル検査を受けたことがあった。病院は検査で使われた生理食塩水が汚染されていた可能性があると見て調べている。5人は、肝機能が改善しているという。別の診療科から11月、患者の肝機能が低下していると循環器内科に連絡があった[読売新聞,第47346号,2007.12.25.]。

*神奈川県茅ヶ崎市の市立病院でのC型肝炎院内感染問題で、同病院では心臓のカテーテル検査の際、使い捨ての検査器具を、中に残っていた生理食塩水とともに使い回していた疑いがあることが25日、同市などの調査で分かった。この生理食塩水を介して感染が広がったと見て調べている。

同市によると、患者5人は2006年12月から今年4月にかけて同検査を受け、今年8-11月に発症した。ウイルスの遺伝子型が、同病院で治療や同検査を受けたC型肝炎患者と一致した。5人のうち2人はこの患者の直後に同検査を受けて感染。このうち1人の再検査の際、残る3人が感染したと見られる。使い回していた器具は、同検査の際、血圧を測定するためのもの。同病院は「担当の臨床工学技士が忙しい時に検査器具の交換を怠った可能性がある」としている[読売新聞,第47347号,2007.12.26.]。

本来、使い捨てであるべきディスポーザブルの器具を、廃棄しないで流用していたとすれば、恐るべき想像力の欠如といわなければならない。人はあらゆる感染の原因となりうる可能性を持っており、滅菌すること無しに医療機器あるいは器具類の共用をしてはならないというのは、医療関係者の常識のはずである。

更に病院当局者は『臨床工学技士が忙しい時に検査器具の交換を怠った可能性』などという申し開きをしていたようであるが、果たして本当なのか。最近の病院は経費削減に汲々としている。時にディスポーザブルの医療用具を再滅菌することで使用出来ないかなどという考えられない質問を受けることがあるが、経費節減を最優先事項とする事務系の圧力に抗うことが出来ず、問い合わせしてくるのだろうと思うが、医療機関としては最悪の対応だということを承知しておかなければならない。

                                                                    (2008.2.1.)

血液製剤は軒並み危険だった?

木曜日, 3月 13th, 2008

魍魎亭主人

 

77年製の『人免疫グロブリン(旧ミドリ十字)』製剤2本からC型肝炎ウイルスが検出されたことが、北里大学名誉教授(法科学)・長井辰男氏の研究で分かったという。長井名誉教授は、約30年前に同社から研究目的で入手して冷蔵保管していた『人免疫グロブリン』を薬害肝炎問題が浮上したのを受けて解析した結果、C型肝炎ウイルスの混入を確認し、国内の検査機関でも再確認したとされる。この他、臨床試験用の血液製剤『プラスミン』(76製)1本からもB型肝炎ウイルスが検出されたという。

ところで30年前の『人免疫グロブリン』が、冷蔵保管されていたとはいえ、正常な製剤として認知されるのかどうか。全く開封されていない製品が保存されていたのであれば問題はないが、もし開封されたものであれば、後からの汚染も考えられないわけではない。更に30年前の血液製剤に、全く変質が見られなかったとすれば、将に驚異的といわざるを得ない。新聞報道からは実験方法の詳細は不明であるが、C型肝炎ウイルスが30年間血液製剤の中で生存していたということなのであろうか。それとも汚染されていた痕跡が残っていたということなのかどうか。

『人免疫グロブリン』製剤は、薬害肝炎の原因となったクリスマシンやフィブリノゲンなどと同じく、血液から赤血球等を除いた「血漿成分」にエタノールなどを加えて、遠心分離を繰り返して作る「血漿分画製剤」の一つである。クリスマシンやフィブリノゲンより後で抽出されるため、従来はウイルス混入の危険性は低いとされていた。『人免疫グロブリン(旧ミドリ十字)』は、1957年に製造承認された。同じ血液製剤であるアルブミンに次いで、国内での使用量が多い製剤である。

厚生労働省は現在、過去に製造された血液製剤全てについて、ウイルスの混入歴について製造各社に調査を依頼しているというが、その結果によっては、薬害肝炎の被害者数が拡大する恐れがある[読売新聞,第47349号,2007.12.28.]とされている。

はしかの原因となる麻疹ウイルスに効果のある薬はない。はしかに感染した小児が病院に来ると、麻疹ウイルスの抗体価の高い『人免疫グロブリン』を注射することで、はしかの治療が行われてきた。薬剤部では、製薬企業に連絡し、なるべく抗体価の高い『人免疫グロブリン』を納入して貰い、何時でも対応できるようにしていた時期がある。ということであれば、『人免疫グロブリン』製剤がC型肝炎ウイルスに汚染されていたとすれば、はしかの治療を受けた経験のある者は、B型・C型肝炎ウイルスの検査を受けることが求められるということになるのではないか。

B型肝炎ウイルスが検出されたという血液製剤『プラスミン』は、臨床試験用の製剤であるとされており、未だ市販されていないようであるから、それほど広範囲に影響を及ぼすことは考えられないが、ウイルスに汚染されたまま市販されたのでは、悪影響が広範に及ぶことになる。何れにしろ血液製剤については、細菌あるいはウイルスに汚染されていないものを使用することが必要である。

未だに血液製剤の添付文書には『本剤は、貴重なヒト血液を原料として製剤化したものである。原料となった血液を採取する際には、問診、感染症関連の検査を実施するとともに、製造工程において一定の不活化・除去処理などを実施し、感染症に対する安全対策を講じているが、ヒト血液を原料としていることによる感染症伝播のリスクを完全に排除することはできないため、疾病の治療上の必要性を十分に検討の上、必要最小限の使用にとどめること。』の記載がされており、更に『患者への説明』として『本剤の投与にあたっては、疾病の治療における本剤の必要性とともに、本剤の製造に際し感染症の伝播を防止するための安全対策が講じられているが、ヒト血液を原料としていることに由来する感染症伝播のリスクを完全に排除することができないことを患者に対して説明し、理解を得るよう努めること。』の記載がされている。

血液製剤は生ものである。そのため血液製剤の完全な滅菌は難しいのかもしれないが、更に安全性の高い製剤を作ることが求められているのではないか。

                                                                  (2008.1.12.)

『秋田ぶらり旅』

水曜日, 3月 12th, 2008

鬼城竜生

本当のことをいえば、乗り物に乗るのは体質に合わない。
汽車に乗るという段になると無闇に緊張し、何度も後架に行きたくなる。行ったからといって別に出るわけではないが、出そうな気がするのである。つまり汽車に乗って出たくなったら嫌だなという思いが強迫観念になって、何度も後架に入る嵌めに陥るのである。
大体汽車に乗るという体験は、あまりいい思いがない。大学の休みの度に九州に戻っていたが、猛烈な混雑で、東京駅から門司秋田紀行-001 辺りまで立ちっぱなしという経験もある。勿論、新幹線のない時代で、飛行機などは学生が乗るのは贅沢だと考えられていた時代のことである。
それがどうにか汽車に乗ることが億劫でなくなったのは、労働組合の役員になって、全国組合の宿命から、あちらこちらの会議に出かけるようになった結果である。相変わらず出かける前の儀式は変わらないが、それでも昔に比べれば、儀式の回数は極端に減っている。

ところで2006年10月8日(日)・9日(月)の連休に、青森在住の友人に誘われて、秋田の山奥の温泉に出かけることになった。秋田なら旨い酒があるだろうというのと、山の中の温泉だということで、出かけることにしたが、3連休の後半だったので、新幹線の切符の手配が気になった。何せ指定してきた下車駅が田沢湖駅で、東京発8時28分のこまち7号に乗車しろということであったが、何と全席指定という。

指定券の発売は1カ月前だということで、切符の手配ができるまで、落ち着かない日を過ごしたが、現役時代を含めて、こんな面倒な仕事をしたのは始めてである。しかし、考えてみると、何で1カ月前でなければ販売しないのか。コンピュータ処理が可能な現在、何日前であれ、計画ができた段階での購入を認めれば、つまらない心配しながら待たなくても済むと思うが、早めに発売すると何か不都合があるの秋田紀行-002であろうか。

田沢湖駅から車で乳頭温泉郷にある“孫六温泉”を目指した。その前に時間があるということで、秋田県の角館に寄るということになった。

角館は明暦2年(1656)北家の佐竹義隣が「所預り」として角館を支配した。以降、明治の廃藩に至るまで、11代200年余続くことに なったとされる。北家初代・二代目の妻が京都の公家の出身だったため、京文化も色濃く伝えられ、角館は城下町・宿場町として仙北地方の中心地として栄えたといわれる。角館は、城下の町割り、武家屋敷の姿を最もよく残した町だといわれている。将に町中は昔の武家屋敷がそのまま残っているという佇まいであり、その各屋敷内には歴史をそのまま示す巨木が残されており、垂れ桜の木々は、桜の時期はさぞやと思われるものがあり、街を紹介するポスターを見て、思わず凄いねとつぶやいてしまった。

序でにいえば、この旅の前に、高橋 克彦著・写楽殺人事件(講談社文庫)を読み、その中で「秋田蘭画」で有名な小田野直武がもしかしたら写楽だったのではないかという仮説が述べられており、その秋田蘭画の作者である小田野直武が出た小田野家の分家が武家屋敷に今もある小田野家ということを知って、偉く感動させられた。

「孫六温泉」は乳頭温泉郷の一番奥にある一軒宿で、1902年に先達川の川岸で発見され、明治時代からの湯治場であるとされる。まだカヤぶき屋根の建物も残っている。泉質は無色透明の硫黄臭のするラジウム含有泉である。

「孫六温泉」を上から俯瞰する位置から降りていくが、何しろ見た瞬間に驚いたのは、完全に山小屋もどきだったことである。勿論、室内に冷蔵庫や電話はなく、持参した携帯電話も『圏外』という文字が出たままで、何の反応も示さない。しかし、今時こんな温泉は珍しいのかもしれないが、静かであることが貴重な時代、こういう環境は絶であると評価したい。特別注文のイワナ酒を飲んだが、味の方は御想像にお任せする。

次の日、ちょっと浸かるだけ浸かって行こうと寄ってくれたのが「玉川温泉」である。

玉川温泉」は、他の温泉地や観光地と異なり、療養・静養を目的とした湯治場だとされている。1泊2食付きの旅館部と素泊りが秋田紀行-003 基本の自炊部から構成されているというが、なかなか予約が取れないという話である。また、国立公園の中にあるということと、強酸性の温泉という特殊な環境にあるため、様々な規制がされているというが、驚いたことに、館内には、看護師が常駐している玉川温泉研究会付属診療所が設置され、湯治相談や血圧測定等を行うということである。

玉川温泉」の泉質は、酸性含二酸化炭素・鉄(II)・アルミニウム塩化物泉で、pH 1.2と極めて酸性が強く、遊離塩酸を多く含有しているという。泉源から湧出するお湯は、98℃の熱水で、無色透明、硫化水素臭がある。1カ所からの湧出量は9,000L/分と国内最大の湧出量であるといわれる。更に温泉水や湯華、土砂などに微量の放射性物質が含まれているとされており、特別天然記念物「北投石」(ラジウムを放射)を生成、産出しているということのようである。

玉川温泉」の最大の特徴は岩盤浴で、馴れた方々はタタミ1畳分ぐらいの茣蓙を持参しており、硫化水素等の火山性ガスが吹き出す中、地熱で温かくなっている岩盤の上に茣蓙を敷いて横になっている姿が見られることである。お互いに話している話の内容は、種々の病気の治療後の安心のために来ているということのようである。

つまりそれだけの効果はあるということなのだろう。チョイト浸かって風呂で顔を洗った時に口に入った温泉の味は、何のことはない、甘味を抜いた「塩酸リモナーデ」の味であった。

(2006.11.20.)

「ニキビ及び顔の湿疹の場合の化粧水・乳液の使用について」

火曜日, 3月 4th, 2008

 

KW:薬物療法・ニキビ・座瘡・湿疹・面皰・Propionibacterium acnes・化粧水・乳液

 

Q:ニキビ及び顔の湿疹の治療中に化粧水・乳液の使用の可否について

 

A:現在、皮膚科医に受診中であるなら、これらの判断あるいは指示を求めるのは、主治医に対してであって、薬剤師の対応する範囲を超えている。従って、患者から相談された場合、主治医の指示等を患者に確認する。

現在、患者の治療中であるニキビ・顔の湿疹の原因は、何か?。使用中の化粧水・乳液が原因であれば、その化粧水・乳液を継続して使用する限り、ニキビ・顔の湿疹の治療は困難であり、むしろ悪化させることが考えられる。

従って、ニキビ・顔の湿疹の治療と化粧水・乳液使用の関係については、次の点に注意が必要であると考える。

?湿疹の原因として使用中の化粧水・乳液は関係がないのかどうか。

?湿疹はアレルギー性のものか、感染性のものか。

?湿疹の範囲は部分的なのか広範囲なのか。

顔の湿疹の原因が、現在使用中の化粧水・乳液にあるとすれば、使用は中止することが原則であり、湿疹の治療中は医師の指示に従い、医師に処方された治療用クリーム剤あるいは外用水剤等を塗布する。その際、ぬるま湯で洗顔して塗布することの是非についても、主治医の指示を求めるべきである。湿疹の範囲が広範な場合、同様の対応を考える。原則的に治療を優先する。

ニキビ(座瘡)は思春期の男女の顔面、胸部、背部に好発する面皰(コメド)を初発疹とする、毛孔一致性の慢性炎症性疾患である。男性ホルモンにより皮脂分泌が亢進し、毛漏斗部の角化異常により毛包管が閉塞する。面皰内でPropionibacterium acnesが増殖し、炎症が惹起され、膿疱、硬結、膿腫が出現する。ニキビ発現時の対応策として、次の記載が見られる。

?石鹸による洗顔に努める。

?化粧は油性のものを避け、乳液タイプを使用する。

?十分な睡眠をとり、中性脂肪の少ない食事の摂取に努める。

?便通に注意する。

?ストレスを避ける。

ニキビの状態により塗布剤・経口剤等の治療が実施される。

 

1)中林康青:皮膚外用療法実践マニュアル;文光堂,1991
2)山口 徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2006

     [035.1.ACN:2007.10.9.古泉秀夫]

「アルツハイマー病治療薬ロシグリタゾンについて」

火曜日, 3月 4th, 2008

 

KW:薬名検索・アルツハイマー病・ロシグリタゾン・rosiglitazone・インスリン抵抗性改善薬

 

Q:治験中のアルツハイマー病治療薬ロシグリタゾンについて

 

A:ロシグリタゾン[一般名:マレイン酸ロシグリタゾン:rosiglitazone maleate](GSK)はチアゾリジンジオン系インスリン抵抗性改善薬である。特定の遺伝子を持つ患者に投与すると、脳のブドウ糖の取り込みを助けたり、脳に起きる炎症を抑制する作用が報告されている。第II相臨床試験段階。

商品名:アバンディア(avandia)

剤型:錠剤

別名:BRL-49653C(2型糖尿病治療剤。インスリン抵抗改善薬)。

rosiglitazone maleateは、2型糖尿病の原因の一つであるインスリン抵抗性を改善する作用のある経口血糖降下剤である。

ADOPT (A Diabetes Outcome Progression Trial)と名付けられた大規模臨床試験において、同社の糖尿病治療薬である「avandia」(一般名:rosiglitazone maleate)が、治療開始5年の時点における経口糖尿病薬の単独療法無効のリスクを、メトホルミンと比較して32%(p<0.001)、またグリブリド(スルホニル尿素薬:SU薬、日本における一般名:グリベンクラミド)と比較して63%(p<0.001)軽減できたと発表しました。この国際的な大規模臨床試験は、新たに2型糖尿病と診断された4,360人を対象に行われたもので、この試験結果は、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌と国際糖尿病連合(IDF)の第19回世界糖尿病学会で発表されました。

参天製薬では、rosiglitazone maleateを点眼剤として開発中である。点眼剤としては角膜障害改善作用を有し、ドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎などの角膜障害治療薬としての有用性が期待されている。

rosiglitazone maleateは、本来、糖尿病薬として使われている薬であり、脳の糖代謝を改善し炎症を防ぐ作用がありアルツハイマー病に有効とされている。

 

1)トライアルドラッグス;エルゼビア・ジャパン,2003-2004
2)研究開発Report;New Current,17(3):49(2006.2.1.)
3)http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/news2.htm,2007.6.18.

    [011.1.ROS:2007.7.10.古泉秀夫]

「ボチについて」

火曜日, 3月 4th, 2008

 

KW:薬名検索・ボチ・ホウ酸亜鉛華軟膏・B.Z.S.・Borzinksalbe・油性基剤・ホウ酸・毒性・薬効再評価

 

Q:デイサービスの通所者に褥瘡が見られ、持参している軟膏を塗布しているが、軟膏はボチではないかといわれた。これは軟膏の正式名称か

 

A:『ボチ』は軟膏の正式名称ではなく、院内処方せん等で使用されていた略号である。
正式名称は『ホウ酸亜鉛華軟膏』(Boric Acid and Zinc Oxide Ointment)で、『ボチ』は英名の略号である。B.Z.S.(Borzinksalbe)(JP VIII)。

本剤の処方は以下の通りである。

ホウ酸,細末(boric acid,in fine powder)           5g
酸化亜鉛,微末(zinc oxide,in very fine powder)         10g
蜜鑞        (yellow wax)          5g
植物油      (vegetable oil) 全量100g

 

適応:酸化亜鉛は刺激を緩和し、分泌物の吸収作用を増加する。防腐、乾燥、収斂の作用があるので、そのまま湿疹、擦過傷、火傷などに用いられる。亜鉛の吸収は炎症の治癒に向かっての修復力は有効である。皮膚疾患のうち、小水疱、膿疱、糜爛、潰瘍、結痂の各期にそれぞれ適合する薬剤を混じて使用する。亜鉛華軟膏は、我が国において従前より最も安心して使用できる油脂性基剤の製剤として奨用されている。

但し、ホウ酸(H3BO3)及びホウ砂(別名:ホウ酸ナトリウム;Na2B4O7・10H2O)を含有する製剤について、厚生省は1971年に「粘膜、創傷面又は炎症部位に長時間、広範囲に使用しないこと」とする使用上の注意事項を発出した。また日本小児科学会も、日本産婦人科学会の協力を得て使用に関する警告を出した。

更に1985年7月30日に公示された医薬品再評価-医療用その24(薬発第755号)により、ホウ酸、ホウ砂及びそれらを含有する外用剤について以下の通り判定された。

眼科領域の適用である「結膜嚢の洗浄・消毒」のみに有効性が認められ、使用が限定された。使用濃度はホウ酸が2%以下、ホウ砂が1%以下となっている。

またホウ酸又はホウ砂を含有する製剤については『有効であるがその配合意義が認められず、有用性がないと判定された。』従って皮膚外用剤のホウ酸軟膏,ホウ酸亜鉛華軟膏等及び歯科口腔用薬のホウ砂グリセリンは、安全性を重視し代替薬もあることから日本薬局方および薬価基準から削除された。

[毒性]:ホウ酸及びその化合物は細胞毒である。ホウ酸は健康な皮膚からは殆ど吸収されないが、熱傷や潰瘍等の皮膚損傷面、粘膜面や体腔内から速やかに吸収され、長期間・広範囲にわたる大量使用により吸収は増大する。その結果としての経皮毒性について種々の報告がなされている。飽和ホウ酸溶液で広範囲にわたる熱傷を治療したところ中毒死し、その尿及び脳脊髄液からホウ素が検出された。またホウ酸を含有したベビーパウダーが損傷した皮膚から吸収され、乳児の臀部や太股に火ぶくれが生じ、皮がむけて皮下部が露出した症例や死亡症例も報告されている。急性中毒症状は、下痢、嘔吐、皮膚紅斑・落屑、血圧降下、ショック、せん妄、痙攣等で、重症時は血管神経麻痺のもと昏睡に陥り死亡する。

以上の経過から現在『ボチ』に該当する外用剤は市販されていないため、軟膏の持参者が『ボチ』と称しているのであればそれは別物であり、再確認することが求められる。

 

1)高野正彦:今日の皮膚外用剤;南山堂,1981
2)薬発第755号,医療用医薬品再評価結果-その24,1985.7.30.
3)古泉秀夫・代表編:医薬品情報Q&A[5];株式会社ミクス,1988

     [011.1.BOZ:古泉秀夫,2007.6.7.]