「ボチについて」

 

KW:薬名検索・ボチ・ホウ酸亜鉛華軟膏・B.Z.S.・Borzinksalbe・油性基剤・ホウ酸・毒性・薬効再評価

 

Q:デイサービスの通所者に褥瘡が見られ、持参している軟膏を塗布しているが、軟膏はボチではないかといわれた。これは軟膏の正式名称か

 

A:『ボチ』は軟膏の正式名称ではなく、院内処方せん等で使用されていた略号である。
正式名称は『ホウ酸亜鉛華軟膏』(Boric Acid and Zinc Oxide Ointment)で、『ボチ』は英名の略号である。B.Z.S.(Borzinksalbe)(JP VIII)。

本剤の処方は以下の通りである。

ホウ酸,細末(boric acid,in fine powder)           5g
酸化亜鉛,微末(zinc oxide,in very fine powder)         10g
蜜鑞        (yellow wax)          5g
植物油      (vegetable oil) 全量100g

 

適応:酸化亜鉛は刺激を緩和し、分泌物の吸収作用を増加する。防腐、乾燥、収斂の作用があるので、そのまま湿疹、擦過傷、火傷などに用いられる。亜鉛の吸収は炎症の治癒に向かっての修復力は有効である。皮膚疾患のうち、小水疱、膿疱、糜爛、潰瘍、結痂の各期にそれぞれ適合する薬剤を混じて使用する。亜鉛華軟膏は、我が国において従前より最も安心して使用できる油脂性基剤の製剤として奨用されている。

但し、ホウ酸(H3BO3)及びホウ砂(別名:ホウ酸ナトリウム;Na2B4O7・10H2O)を含有する製剤について、厚生省は1971年に「粘膜、創傷面又は炎症部位に長時間、広範囲に使用しないこと」とする使用上の注意事項を発出した。また日本小児科学会も、日本産婦人科学会の協力を得て使用に関する警告を出した。

更に1985年7月30日に公示された医薬品再評価-医療用その24(薬発第755号)により、ホウ酸、ホウ砂及びそれらを含有する外用剤について以下の通り判定された。

眼科領域の適用である「結膜嚢の洗浄・消毒」のみに有効性が認められ、使用が限定された。使用濃度はホウ酸が2%以下、ホウ砂が1%以下となっている。

またホウ酸又はホウ砂を含有する製剤については『有効であるがその配合意義が認められず、有用性がないと判定された。』従って皮膚外用剤のホウ酸軟膏,ホウ酸亜鉛華軟膏等及び歯科口腔用薬のホウ砂グリセリンは、安全性を重視し代替薬もあることから日本薬局方および薬価基準から削除された。

[毒性]:ホウ酸及びその化合物は細胞毒である。ホウ酸は健康な皮膚からは殆ど吸収されないが、熱傷や潰瘍等の皮膚損傷面、粘膜面や体腔内から速やかに吸収され、長期間・広範囲にわたる大量使用により吸収は増大する。その結果としての経皮毒性について種々の報告がなされている。飽和ホウ酸溶液で広範囲にわたる熱傷を治療したところ中毒死し、その尿及び脳脊髄液からホウ素が検出された。またホウ酸を含有したベビーパウダーが損傷した皮膚から吸収され、乳児の臀部や太股に火ぶくれが生じ、皮がむけて皮下部が露出した症例や死亡症例も報告されている。急性中毒症状は、下痢、嘔吐、皮膚紅斑・落屑、血圧降下、ショック、せん妄、痙攣等で、重症時は血管神経麻痺のもと昏睡に陥り死亡する。

以上の経過から現在『ボチ』に該当する外用剤は市販されていないため、軟膏の持参者が『ボチ』と称しているのであればそれは別物であり、再確認することが求められる。

 

1)高野正彦:今日の皮膚外用剤;南山堂,1981
2)薬発第755号,医療用医薬品再評価結果-その24,1985.7.30.
3)古泉秀夫・代表編:医薬品情報Q&A[5];株式会社ミクス,1988

     [011.1.BOZ:古泉秀夫,2007.6.7.]