「キイボカサタケ(黄疣傘茸)の毒性」

対象物 キイボカサタケ(黄疣傘茸)
成分 含有成分不明
一般的性状

ハラタケ目イッポンシメジ科イッポンシメジ属。キイボカサタケ(黄疣傘茸)。学名:Rhodophyllus murraii(Berk.et Curt.)Sing.。又はEntoloma murraii(Berk.et Curt.)Sacc.とする記載が見られる。日本、北米に分布。
子実体:クヌギタケ型で小型。
傘:幼児円錐形から開いても低い円錐形で先端に乳頭状の小突起(中央部に乳首状の突起)があり、湿っているとき長い条線が見られる。色は淡黄色又は鮮黄色で、絹糸状光沢がある。表面は平滑。肉は淡黄色で、脆く薄い。傘径1-6cm。
子実層托:襞は幅が狭く疎で、柄に上生する。色は黄色から肌色(初め黄色、胞子が熟すると肉色)になる。
柄:柄の長さは3-11cm。太さ2-4mm、中心生で細長く、中空。色は黄色で、表面には縦の条線がある。捻れることがある。肉質は傘と同様。
味・匂い:無味・無臭。
発生:夏から秋にかけて針葉樹又は広葉樹林内の腐植の多い地に群生か散生する。腐生菌。

毒性 食毒不明。
症状

胃腸刺激型(胃腸系の中毒症状)。

▼侵害部位・臓器:消化管(胃腸炎型中毒)。

▼症状

▼1]悪心、嘔吐、腹痛、下痢。

▼2]脱水症状、体温下降、血圧低下。

▼3]循環不全。

▼潜伏期:30分-3時間。

▼死亡率:稀。

▼平成10年(1998年)10月3日午後、檜原村内で18人(男性6人、女性8人他、年齢22-88歳)がバーベキューパーティを行い、参加者が前日山梨県内で採取したきのこを味噌汁、網焼きにして全員で摂食。うち14人が摂食後4時間-8時間30分の間に吐気、嘔吐、下痢を発症。おおよそ10時間45分経過後(午後11時45分頃)に発症者10人が2カ所の病院に入院した。翌日回復し、全員退院。摂食したきのこの残品を秋川保健所が調査したところ、オシロイシメジ、ホテイシメジ、キイボカサタケなどが確認され、きのこを原因とする食中毒と断定された。

▼[註]この事例はキイボカサタケのみでなく、その他悪酔い型の症状を示すホテイシメジも摂食しているため、中毒症状の発現がキイボカサタケによるものとは断定できないが、外国ではキイボカサタケを摂食して食中毒を発症している症例が報告されているため、イボカサタケの仲間の摂食は注意すべきであるとする報告が見られる。

処置

胃腸刺激型食中毒に対する処置は『支持療法』である。
摂食直後であれば、
毒物の除去
催吐、胃洗浄
活性炭投与

対症療法
補液

事例

毒キノコ食べ女性死亡=キイボカサタケで-愛知(7月23日・時事通信)

▼イッポンシメジ科のキイボカサタケとみられる毒キノコを食べた愛知県東海市の女性(86)が食中毒となり、死亡していたことが23日、分かった。同県が発表した。県生活衛生課キイボカサタケ.jtdの画像 によると、女性は19日午前、1人で自宅近くの知北平和公園(同県大府市)を散歩中にキノコを採取した。夕方に自ら調理して食べたが、翌朝に嘔吐(おうと)や下痢などの症状を起こした。病院で治療を受け、自宅静養していたが、22日午前に脱水で死亡した。

▼毒キノコ食べ脱水症状、愛知で86歳女性が死亡(7月23日・読売新聞)

▼愛知県健康福祉部は23日、同県東海市の女性(86)が、毒キノコを食べたことによる脱水症状で死亡したと発表した。同部によると、女性は今月19日、同県大府市の知北平和公園を散歩中にキノコを採取し、同日夕、自宅で調理して食べた。女性は翌朝、嘔吐(おうと)や下痢などの症状を訴え、医院で点滴を受けるなどした後、自宅で療養していたが、22日午前10時ごろ、死亡した。

▼中毒:毒キノコを食べ、東海の女性死亡 /愛知(7月24日・毎日新聞)

▼県知多保健所に23日入った連絡によると、東海市内の女性(86)が今月22日、大府市内の公園で採った毒キノコを食べ、食中毒による脱水症で死亡した。県によると、県内で毒キノコによる死者が出たのは2年ぶり。女性は19日午前、同市内の知北平和公園を散歩中に、毒性のあるキイボカサタケを採取。同日夕方、ラーメンに入れて食べたが、20日朝になり、吐き気や下痢を訴えた。東海市内の病院で「食中毒の疑いがある」と診断され、点滴を受けたうえで、自宅で静養していたが、22日午前10時ごろ、寝室で死亡しているのを家族が見つけた。毒キノコを食べたのは女性だけだった。家族の話では、女性は今年に入って、2-3回、同公園内で採ったキノコを食べていたという。県生活衛生課は「分からないものを採って食べないようにしてほしい」と話している。

備考

多くの資料で『食毒不明』とされており、報告されている中毒の事例でも死亡は『稀』とされているところから、殺人の手段としては使えない。今回の事例は実際に86歳の女性がラーメンの具として黄疣傘茸を喫食した結果、食中毒を起こしたものである。今回、不幸にして亡くなられているが、下痢症状に伴う脱水症状で、亡くなられたのではないか。年齢から来る体力の低下、各種臓器の機能低下に脱水症状が重なって死の転帰を取ったということのようであり、今後、黄疣傘茸の含有成分等の研究がされ、含有成分の同定がされることに期待したい。
何れにしろ黄疣傘茸は有毒なきのこであり、喫食を止めるべきである。

文献

1)大舘一夫・他監修:都会のキノコ図鑑;八坂書房,2007
2)長沢英史・監修:フィールドベスト図鑑-日本の毒きのこ;学習研究社,2003
3)印東弘玄・他監修:コンパクト版6-原色きのこ図鑑;北隆館,1999
4)奥沢康正・他編著:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル社,2005

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.MUR 記入日 2007.8.5.