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無縁坂あたり

土曜日, 6月 28th, 2008

                                                                        鬼城竜生

 

そろそろ梅が咲いているのではないか(2月13日・水曜日)ということで、湯島天神に行くことにした。昨年、湯島天神に行った時には既に梅の盛りは過ぎており、あまり花は残っていなかったので、境内の屋台でワンカップの酒を呑んで帰ってきたが、その時の復讐戦を果た無縁坂-001すべく出かけた。

  ところが今年は花の咲く時期に突然気温が下がり、寒い日が続いたため、開花予想は大幅に遅れており、花の盛期を迎えるためには、後2-3週間は必要ではないかと思われる程度の花が見られるのみであった。

やむを得ず天神下の交差点から不忍通りに出て、不忍池西の信号を無縁坂-002 左に入った。曲がって直ぐの所に旧岩崎邸庭園があった。重要文化財に指定されているとのことであるが、外観は工事中のためシートで覆われていて写真に撮ることは出来なかったが、邸内を見学することは出来た。

洋館はジョサイア・コンドルの設計により明治29年(1896年)に完成。完成当時の岩崎邸は15,000坪の敷地に20棟以上の建物があったとされる。現存する3棟のうち1棟が木造2階建て地下室付きの洋館で、本格的な洋風建築で、明治期の上層階級の邸宅を代表する西洋木造建築である。17世紀のジャコビアン様式を基調にルネサンスやイスラム風のモティーフなどが取り入れられている。洋館南側は列柱の並ぶベランダで、1階列柱はトスカナ式、2階列柱はイオニア式の装飾が特徴である。米 国・ペンシルバニアのカントリーハウスのイメージも取り入れられている。

無縁坂-003 以上、パンフレットの受け売りである。

コンドル設計の撞球室は、洋館から少し離れた位置に別棟となっているが、当時の日本では非常に珍しいスイスの山小屋風の作りになっているという。洋館から地下道で繋がっているとされるが、撞球室を別棟にして建てるなんていうのは将に成金趣味もいいところである。

旧岩崎邸のレンガ塀を左手に見て登る坂が『無縁坂』である。無縁坂 といわれて直ぐ頭に浮かぶのは、「ひまわりの歌」の主題歌、さだまさし作の「無縁坂」で、次に「森鴎外」の「雁」に出で来無縁坂-004 る坂道ということではないだろうか。『無縁坂』の名前は江戸時代の地図にもその名称が記載されており、坂の上に無縁寺があったことに由来しているといわれているが、無縁寺のあった場所はよく解らないとする話もある。現在、坂の右側に講安寺というお寺があるが、ここにも無縁寺という庵があったということのようである。講安寺は、漆喰造りの大変個性的なお寺で、火事の多かった江戸の町で、建立以来300年たって現存しているのは、この防火建築の故であるとされている。無縁坂-005
無縁坂を登り切ると東大医学部の裏手にある鉄門の前に出る。この門は明治9年に、東大正門として作 られたが、大正時代には撤去され、2006年、医学部150周年記念に再建されたという。道理で昔この道を通ったときには門など見たことがなかったので驚いたが、東大医学部の同窓会誌が鉄門倶楽部というところを見ると、東大の同窓生にとっては赤門とともに記憶に止めるべき記念碑なのかもしれない。

学内に入り、昔懐かしい三四郎池を覗いてみたが、あまりにも整備が進んで、昔の風情は全くなかった。総歩数は15,821歩ということで、そこそこ歩いたということか。それにしても東大病院外来患者数の表示が3,700人を超えていたが、流石に化け物である。

                                                                  (2008.3.21.)

『今後どうする気なんでしょうか?』

土曜日, 6月 28th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

病院にとって『院内感染防御』は、重大な命題である。しかし、その割りに滅菌・消毒に関する各設備は整っていないというのが現実ではないか。特に内視鏡の消毒などというのは、建築の古い病院では、内視鏡検査室等は後から無理をして改築したなどという施設が多く、そういうところでは内視鏡の消毒を行う専用の消毒室などは持っていない。当然排気設備の無い室で、無理をして消毒作業を行うということになるが、消毒を担当する人間、多くの場合は看護師になるがは、多かれ少なかれ発生するガスの被害を受けることになる。

大阪掖済会病院(大阪市西区)に勤務していた元看護師が、消毒液が原因で化学物質過敏症になったとして、病院を経営する社団法人日本海員掖済会(東京)を相手に約2,500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日大阪地裁であった。裁判長は消毒液と発症の因果関係を認めた上で、病院側が安全配慮を怠ったと判断、約1,060万円の賠償を命じた。原告側代理人によると、医療現場で同過敏症の発症責任が認められたのは初めてという。

判決によると、看護師は1998年5月から約2年間、同病院のレントゲン透視室で検査器具を消毒液で洗浄する作業を担当。その後、消毒液の臭いだけで口内炎を発症する状態となった。消毒液には化学物質「グルタルアルデヒド」が含まれ、説明書にも換気に注意するよう記されていたが、透視室では原則、扉を開放しないまま作業していた。

判決で裁判長は「防護マスクなどの着用を指示していれば症状は相当軽減できた」と指摘した[読売新聞,第46983号,2006.12.26.]。

ところでグルタルアルデヒド製剤の製品である『ステリハイド2W/V%液(丸石製薬)』の添付文書には、次の記載が見られる。

*グルタラール製剤 化学的滅菌・殺菌消毒剤(医療用器具・機器・装置専用)

ステリハイドは、グルタラール2w/v%-濃度液に、添付の緩衝化剤(粉末)を溶かして使用する用時調製の組合わせ医薬品である。
ステリハイド2w/v%液:グルタラール(グルタルアルデヒド)2w/v%及び添加物としてpH調整剤含有

緩衝化剤(粉末):pH調整剤、黄色5号、その他2成分 含有

本品は用時調製の製剤で、使用目的に応じて製する。

重要な基本的注意

1.人体に使用しないこと。
2.本剤の成分またはアルデヒドに対し過敏症の既往歴のある者は、本剤を取り扱わないこと。
3.グルタラール水溶液との接触により、皮膚が着色することがあるので、液を取り扱う場合には必ずゴーグル、防水エプロン、マスク、ゴム手袋等の保護具を装着すること。また、皮膚に付着したときは直ちに水で洗い流すこと。
4.眼に入らぬようゴーグル等の保護具をつけるなど、十分注意して取り扱うこと。誤って眼に入った場合には、直ちに多量の水で洗ったのち、専門医の処置を受けること。
5.グルタラールの蒸気は眼、呼吸器等の粘膜を刺激するので、必ずゴーグル、マスク等の保護具をつけ、吸入または接触しないよう注意すること。換気が不十分な部屋では適正な換気状態の部屋に比べて、空気中のグルタラール濃度が高いとの報告があるので、窓がないところや換気扇のないところでは使用せず、換気状態の良いところでグルタラールを取り扱うこと。
6.本剤にて内視鏡消毒を行った後十分なすすぎが行われなかったために薬液が内視鏡に残存し、大腸炎等の消化管の炎症が認められた報告があるので、消毒終了後は多量の水で本剤を十分に洗い流すこと。
7.手術室等における汚染された部分の清拭や、環境殺菌の目的での手術室等への噴霧などは行わないこと。

その他の副作用(頻度不明)

過敏症:発疹、発赤等の過敏症状
皮 膚:接触皮膚炎

注)このような症状があらわれた場合には、換気、防護が十分でない可能性があるので、グルタラールの蒸気を吸入またはグルタラールと接触しないよう十分に換気、防護を行うこと。また、このような症状が継続して発生している場合、症状が全身に広がるなど増悪することがあるので、直ちに本剤の取り扱いを中止すること。

適用上の注意(使用時)

(1)誤飲を避けるため、保管及び取り扱いに十分注意すること。
(2)本剤を用時調製する時、ピペット等で直接吸引して調製しないこと。
(3)グルタラールには一般に、たん白凝固性がみられるので、器具に付着している体液等を除去するため予備洗浄を十分に行ってから薬液に浸漬すること。
(4)浸漬の際にはグルタラール蒸気の漏出防止のために、ふた付容器を用い、浸漬中はふたをすること。また、局所排気装置を使用することが望ましい。
(5)炭素鋼製器具は24時間以上浸漬しないこと。

その他の注意

グルタラールを取り扱う医療従事者を対象としたアンケート調査では、眼、鼻の刺激、頭痛、皮膚炎等の症状が報告されている。また、グルタラール取扱い者は非取扱い者に比べて、眼、鼻、喉の刺激症状、頭痛、皮膚症状等の発現頻度が高いとの報告がある。

glutaralの取扱については、添付文書を十分に読み解いていただき、記載内容を確実に実施しておけば、大阪掖済会病院の訴訟は無かったといえる。

勿論、添付文書を読んだとしても、病院に設備がなければ改善は出来ない。グルタラール等のガス化する消毒剤は、本来排気設備の整った独立した消毒室において使用すべきもので、その設備のないところで看護師に作業をやらせるなどということは本来あってはならないことである。しかし、元来日本の病院建築では、このような専門の作業部屋は、勿体ながって作らないというのが普通である。最新鋭の機械は購入し、その器械を持つことを宣伝したがるが、医師の仕事に直接役立つものでない限り、他職種の安全のための設備など、殆ど無視されてしまう。

しかし、時代が変わったというべきか、従来ならこのような勤務には耐えられないとして、退職してしまうのが普通で、裁判で争う等ということは考えられなかったが、今回は訴えられた上、病院が敗訴している。

これからの病院は、結局、職員の安全にも気配りをした設備を持たなければならないということである。訴訟に時間をとられ挙げ句の果てに損害賠償をとられたのでは、病院運営は出来ないということになる。

1)ステリハイド2W/V%液/ステリハイド20W/V%液,2005年4月改訂(第4版)

                                                                      (2008.3.6.)

医薬品販売制度の改正

土曜日, 6月 28th, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

2009年度になると改正薬事法が全面的に施行される。

その中で新しい一般用医薬品(OTC薬)の販売制度も施行されるが、今回の医薬品販売制度改正のポイントは、リスクの程度に応じた患者(生活者)への情報提供・相談体制の整備が求められるということである。

「現行」ではリスクの程度に係わらず、情報提供について一律の扱いとされていたものが、今回の改正では、リスクの程度に応じて3グループに分類し、情報提供を重点化することとされている。

リスクの区分は

『第一類医薬品』:特にリスクの高い医薬品
『第二類医薬品』:リスクが比較的高い医薬品
『第三類医薬品』:リスクが比較的低い医薬品

の3種に分類し、『第一類医薬品』は薬剤師以外の販売は認めない。『第二類医薬品』と『第三類医薬品』の販売については、新たに導入される『登録販売者』という新たな資格制度を導入し、資格試験の合格者にのみ販売を担当させることになっている。

情報提供に関しては、『質問がなくても行う積極的な情報提供』を行うとしており、

『第一類医薬品』では、『文書による情報提供を義務付け』
『第二類医薬品』では、情報提供は『努力義務』
『第三類医薬品』では不要(薬事情法上定め無し)

とされている。

但し『相談があった場合の応答』については、『第一類医薬品』・『第二類医薬品』・『第三類医薬品』とも『義務』があるとされている。

また、この区分について、当初厚生労働省は外函の目立つ部分に『A類医薬品・B類医薬品』などの記載をすることの提案をしたようであるが、最終的には『第一類医薬品』・『第二類医薬品』等の法規上の分類名を記載することにしたようである。当初の提案の理由は、外函に印刷する隙間の問題で、アルファベットの方が印字空間が少なくて済むという、企業側の希望だったようである。しかし、どの様な場合でも一物二名称にならない配慮は必要である。特にOTC薬の場合、一般人に情報の伝達をしなければならないので、法律の規定と異なる表記を考慮すること自体、安易すぎる。物は医薬品である。箱の見かけの意匠に拘るよりは、正確な情報を提供できるものにすべきである。

最低限『服用禁忌』購入後に添付文書を見なければ判らないでは問題にならない。購入した薬の『服用禁忌』に該当した場合、開封した薬を店で引き取るということがない限り、購入者自身が前もって判るように情報の提供をすべきである。

2008年から『登録販売者』の試験が始まる。『第二類医薬品』・『第三類医薬品』は比較的安全な薬だという理屈で、薬剤師の管理から外してしまったが、嘗て我が国はただの風邪薬で何人かが死亡したという薬害を経験している。

その経過は次の通りである。

*1959年以降1965年までの間に合計38人が死亡。[アンプル入りかぜ薬によるショック死事件(大衆薬)]。
2月16日千葉県下でアンプル入り風邪薬服用の老人と15歳の少女が死亡報道(朝日新聞)。
*2月17日静岡県の伊東で39歳の女性死亡。
*2月18日静岡県の伊東で28歳の女性死亡。
*2月20日千葉県八千代市で22歳の女性死亡。新聞報道されただけでも、3月4日迄に11名の死亡報道。
*3月1日杏林製薬の同種製剤服用による死亡。
*3月2日田辺製薬の同種製剤服用による死亡。
*3月4日大正製薬の製品服用者が死亡。製品回収の不備による死亡事故。

*アンプル剤という剤形の問題-他の剤形に比較して吸収が速く、毒性の発現が著しく強いことが国立衛生試験所での動物試験の結果から判明したとする事故原因を中央薬事審議会答申に記載。主成分であるアミノピリン・スルピリンの含有量が、1回の常用量を超える製品が市販されていた。

OTC(Over the Counter)薬は、Self-Medicationを建前として販売している。使用者が自ら選択する薬であり、あまり差し出がましい口出しをしない方がよいと考える薬剤師が、従来は見られた。その意味で今回の『第一類医薬品』は、文書による情報提供が義務付けられており、判りやすい情報提供がされることを期待している。最も心配なのは『第二類医薬品』で、通常の風邪薬などはこの分類に入ると思われるので、情報提供が努力義務でいいのかという点に疑問を持つのである。

医薬品販売制度改正のポイント

リスク区分 質問がなくても行う積極的な情報提供 相談があった場合の応答
第一類医薬品:特にリスクの高い医薬品 文書による情報提供を義務付け 義務
第二類医薬品:リスクが比較的高い医薬品 努力義務 義務
第三類医薬品:リスクが比較的低い医薬品 不要(薬事法上定め無し) 義務

(2008.3.15.)

「酒石酸について」

木曜日, 6月 19th, 2008

KW:用法・用量・副作用・L-酒石酸・L-tartaric acid・d-酒石酸・食品添加物・L-(d-)酒石酸

Q:L-酒石酸の1回服用量、1日服用回数、大量ではアシドーシス・腎障害を起こすとされる大量の具体的数値

A:食品添加物として承認されている『L-酒石酸(L-tartaric acid)』について、次の報告がされている。C4H6O6=150.09。本品を乾燥したものはL-酒石酸99.5%以上を含む。本品は無色の結晶又は白色の微細な結晶性の粉末で、臭いが無く、酸味がある。本品1gを溶かす各溶媒の量は水0.75mL、熱湯0.5mL、エタノール3mLである。本品の水溶液は酸性である。

L-(d-)酒石酸は遊離酸として、又はカリウム、カルシウムなどの塩類として、広く植物界に存在し、酒石としても古くから知られている。昭和34年12月28日酒石酸として食品添加物に指定されたが、異性体のdl-酒石酸が分割指定されたことにより昭和39年7月d-酒石酸に改められた。更に食添第5改訂においてL-酒石酸に名称の変更がされた。
[製法]:ブドウ酒製造時に生成する酒石(argol)を原料として製造する。
[用途]:清涼飲料、果汁、キャンデー、ゼリー、ジャム、ソース、冷菓缶詰など各種の食品に酸味料として用いられる。

清涼飲料には0.1-0.2%を添加するが、本品を単独で使用することは少なく、クエン酸、リンゴ酸など他の有機酸と共に用いることが多い。菓子類には約2%まで用いられ、米国では4%まで用いられることもある。JECFA(国際規格)におけるADIは0-30mg/kgとされている。

註:ADI(Acceptable Daily Intake):一日摂取許容量。人が生涯にわたって摂取しても有害な作用を受けないと考えられる、化学物質の1日当たりの最大摂取量。

[代謝]:生体内では不活性であり、イヌ又はウサギに投与した場合74-99%まで、未変化のまま排泄される。ヒトに2gの酒石酸を経口投与すると、未変化のまま尿中に回収されるのは、20%に過ぎず、残余は吸収されず腸内細菌により分解されるものと考えられている。非経口投与法により酒石酸をヒトに投与すると、未変化のまま定量的に排泄されることが示されている。

急性毒性

マウス 経口 LD50 4,360mg/kg
イヌ 経口 LD50 5,000mg/kg

ウサギに酒石酸ナトリウムを平均5,290mg/kg経口投与したところ全数が死亡したが、平均3,680mg/kgの量では全数が生存した。

『L-酒石酸』の医薬品としての情報は、第六改正日本薬局方に以下の記載が見られる。

[応用]本品は清涼止渇薬として応用せられ、1日数回0.3-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混じたリモナーデ散として用いる。但しリモナーデとしては通常本品よりも美味なクエン酸を用い、沸騰散には本品が汎用される。合剤としては本品4.0をシロップ30-50と混じて水で200とし、その1-2食匙ずつを数回に与える。
本品の溶液は、黴菌が生じやすいので保存しない等の記載がされている。

なお、1日数回は3-4回、1回0.3-1.0gの範囲での使用が考えられる。最も『清涼止渇薬』という適応から考えれば、症状発現時に頓用するという使用法も考えられる。

また第八改正日本薬局方では、次の通り解説されている。

[薬効]酒石酸は殆ど吸収されない。腸管を刺激して緩和な緩下作用を現す。また吸収されても生体内で極く僅かしか酸化されず、大部分が尿中にそのまま排泄される。従って血液の酸性を高める作用がある。
[副作用]大量はアシドーシス、腎障害を起こす。
[適用]清涼止渇剤として1日数回0.5-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混ぜてリモナーデ散として用いる。常用量:1日0.5-1g。

Rx クエン酸( citric acid) 又は酒石酸 (tartaric acid)……… 0.5g
  単シロップ……………………………………………………………… 8.0-10.0mL
 精製水……………………………………………………………………… 適量
  全量……………………………………………………………………… 100.0mL

以上1日・分3

酸味は果実に類する爽快な味覚を有し、その4gは大型レモン1個の酸味に相当する。本剤は清涼剤としての効用の他に、口渇、壊血病の予防に用いられる。なお、クエン酸はクレブス回路の触媒的作用において、疲労の回復と予防及び軽減に関与する。

『L-酒石酸』は、現在医薬品としての使用は殆ど行われていないため、アシドーシス、腎障害発現の量-発現例の具体的数値は報告されていない。『L-酒石酸』は経口投与では殆ど吸収されないとされているため、経口摂取によって副作用が発現するとは思われないが、本品によるアシドーシスの発現は、本品の液性が酸性であるということから血液を酸性化させる可能性を推論したものではないかと考えられる。但し、本品の排泄は専ら腎臓に依拠しており、その意味では腎機能低下者では、本品の使用は回避すべきであると考える。また、本品の継続的な摂取については、常用量として指示されている投与量の範囲であれば、特段問題になるような障害は発現しないと思われるが、腎機能が低下している者では、体内濃度の上昇による障害が発現する可能性が考えられるので、長期にわたる摂取は回避すべきである。

1)食品添加物公定書解説書 第8版;廣川書店,2006
2)縮刷 第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
3)第八改正日本薬局方第一部解説書;廣川書店,1971
4)安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996

[035.1.TAR:2008.6.19.]

芭蕉めぐり

火曜日, 5月 27th, 2008

                                                                        鬼城竜生

 

大江戸線でめぐる「江戸・東京」歴史浪漫散歩(東京都交通局・(財)東京都交通局協力会)なる小冊子を手に入れた。大江戸線森下駅を中心とした紹介の中に“ケルンの眺め”として小名木川に架かる万年橋のたもとに碑が立っている。隅田川に架かる『清洲橋』は独逸ケルン市を流れるライン川に架かる大吊橋をモデルにして昭和3年(1828年)に完成したが、その清洲橋の優美なシルエ芭蕉-001 ットを見るのに最高のポイントがここということで碑が建てられたという紹介文があった。

巧く写真が撮れるかどうか、一度行ってみたいと思っていた。それとあと一つは、駅の近くにある飲み屋、煮込みが美味いという風評も気になっていたというのが正直なところである。

そこで取り敢えず2008年1月19日(土曜日)に出かけて見ることにした。例によって大門で大江戸線に乗り換え、森下駅で下車した。駅で『都営地下鉄駅長のまち案内』なる1枚物の地図を手に入れ、A1出口から地上にでた。

まず当初目的の万年橋を目指すべく、八名川小・八名川公園の前を通り、信号機のある交差点を右に曲がると、旧新大橋の碑なる物があった。碑の前の信号を左折すると、右手に芭蕉庵史跡展望庭園なるものが見えた。

史跡庭園は芭蕉記念館の分館で、隅田川と小名木川に隣接しており、庭内にある芭蕉翁像は、天ぷら船に乗った帰り、船頭の案内で隅田川を遡る時に見える銅像で、昼と夜では銅像の向きが異なるという話を聞いたが、事実は確認していない。しかも面白いことに、この庭園から清洲橋が真正面に見え、芭蕉記念館のパンフレットに芭蕉の座像を前景として清洲橋が取り込まれている。ま芭蕉-002 あその前に庭園の手すりが平行に撮し込まれているため、いわれるほどに胸に迫る写真にはなっていなかった。

庭園を出て直ぐの所に芭蕉稲荷大明神の赤旗がはためく神社があったが、芭蕉稲荷神社の扁額が掛かっていた。これは大正六年(1917年)の大津波の後、「芭蕉遺愛の石の蛙」(伝)が出土し、地元では芭蕉稲荷神社として祀っているの説明が見られた。しかし、何で芭蕉遺愛の石の蛙と判ったのか、何で稲荷神社になってしまったのか、甚だ判りにくいが、蛙は「古池や」の句に関連した想像の産物なのかもしれない。また、芭蕉は隠密だったという説もあるが、あるいは術の一つとして狐を操っていたとでもいうのであろうか。

芭蕉は延宝8年(1680年)それまでの宗匠生活を捨てて日本橋から深川の草庵に移り住んだとされる。この庵を拠点にして新しい俳諧活動を展開し、多くの句や『おくのほそ道』などの紀行文を残している。この草庵には門人から贈られた芭蕉の株が生い茂っていたことから芭蕉庵と呼ばれていたとされるが、幕末から明治にかけて消失してしまったという。

常磐一丁目からの石蛙の出土を受け、大正10年東京府はこの地を『芭蕉翁古池の跡』に指定した。昭和56年(1981年)4月19日、江東区は芭蕉の業績を顕彰するため、芭蕉記念館を開館。分館は平成7年(1995年)4月6日に開館されている。

草の戸も住み替わる代ぞひなの家

古池や蛙飛び込む水の音

川上とこの川下や月の友

 

芭蕉記念館にこれらの句碑が建てられている。
芭蕉-003 会館内を見学した後、“たかばしのらくろろーど”を経由して再び森下駅に戻ったが、目的の一万歩に到達していないため、清澄白河駅まで足を伸ばすことにした。前回石彫りの梟を購入したことを思い出して、深川資料館通りにある“十代石幸”を覗いたところ新しい梟が飾ってあったので、買って帰ることにした。その時、店の若い衆が、「たいしたことは出来ないけどチョット養生しましょう」といって奥に引っ込み、白い紙に包んでポリの袋に入れて持ってきてくれたが、その前に購入した時も『養生』という言葉を聞き、暫く耳に残ったことを思い出した。

お茶でも飲もうと、深川江戸資料館の方に行きかけたところ霊巌寺なるお寺の門前に何気なく立ったところ、境内に松平定信の墓があるという案内があり、覗くことにした。松平定信(1758-1829年)は八代将軍徳川吉宗の孫、田安宗武の子として生まれ、陸奥白河藩主となり、白河楽翁を号していた人である。天明七年(1787年)6月に老中となり、寛政の改革を断行、寛政五年(1793年)老中を辞任。定信は老中になると直ちに札差(ふださし)統制(旗本・御家人などの借金救済)・七分積立金(江戸市民の救済)などの新法を行い、幕府体制の立て直しを計ったが、あまりに詰めすぎて評判は悪かったようである。

テレビ東京金曜日の北大路欣也主演『幻十郎必殺剣』に白川楽翁(中村敦夫)が出てくる。いかにも怪しげな野心家に見えるが、本来なら徳川幕府の将軍職にも就ける立場を田沼意次に警戒されて養子に出されたという歴史的背景があるようだが、彼がやろうとした寛政の改革は、為政者としては別に悪いことではなかったのではないか。ただ、享楽に馴れきった庶民には、鬱陶しい規制が数多く、不評だったということではないか。いずれにしろ一度広げてしまった風呂敷を閉じることは難しい。悪名に耐えうる為政者芭蕉-004 が大鉈を振るわない限り、改革は出来ないということである。

その他、江戸六地蔵の一つである大型の銅造地蔵像があった。江戸六地蔵の造立の由緒については、「深川に住む地蔵坊正元が25歳の時に難病を患い、苦しんでいた折に、地蔵菩薩に一心に祈願する父母の姿に心打たれ、自身も一心に祈願し、ご利益が得られたなら多くの地蔵の造立を誓ったところ、不思議な霊験によってたちまち全快したことを感謝し、請願通り地蔵尊の造立を発願して江戸庶民から寄進を募って造立されたとされている。作者は鋳物師で神田に住んでいた太田駿河守藤原正儀と本体の背に刻まれているという。

全くこんなこととは知らず、真言宗醍醐派海照山品川寺(ほんせんじ)にある銅像を二度ばかり見たことがあるが、それが都指定有形文化財(彫刻)で、六地蔵第一番とされていることは知らなかった。しかし残念ながら現在六地蔵のうち五地蔵までは残っているが一地蔵は消滅したということである。

これだけうろうろさせていただいたお陰で、14,253歩を稼ぐことが出来た。

                                                                    (2008.3.15.)

『違法だけでは済まされない』

火曜日, 5月 27th, 2008

                                                                      魍魎亭主人

 

大阪、兵庫両府県の大学病院など、26病院の臨床研修医計98人が、医師法に反して別の病院でアルバイト診療をしていたことが、厚生労働省近畿厚生局が行った全国初の実態調査で解った。国は昨年、研修医の受け入れ病院に対してアルバイト禁止の徹底を文書で指導したが、多数の違法行為が明らかになったのは初めて。同厚生局は研修医の管理が不十分だったとして、補助金返還など各病院の処分を検討している。

医師法の規定で、研修医は指導医の管理下でなければ診療できないが、大半はアルバイト先の民間病院などで夜間の当直や休日の日直に就き、1人で診療に当たった者もいた。研修医らは病院に対し、「小遣い稼ぎだった」等と説明したという。同厚生局医事課は「研修生に医師としてのコンプライアンス(法令遵守)を徹底させることも病院側の役割であり、厳正に処分したい」としている[読売新聞,第47380号,2008.1.29.]。

研修医が、アルバイトで、病院の夜間の当直業務や休日の日直業務に就いている話は、昨日今日に始まった話ではなく、数十年の長きに亘って行われてきたというのが実態のはずである。それを今になって法律に違反しているから『厳正に処分』するとか、『補助金返還』を求めるなどといわれても、恐れ入る前に、何を今更わざとらしくという気になってくる。

医師法に違反しているとか、法令遵守の徹底をさせるとかいっているが、医師の配置が極端に少ない日本の病院で、限られて人数で夜間の当直業務や祝祭日の日直業務をやったとすれば、労働基準法を大幅に上回る違反行為を行うことになる実態があるのはどうするのか。

嘗ては厚生省であり、知らん顔をしていてもよかったのかもしれないが、今は厚生労働省である。労働者の労働条件についても目配りをしなければならない立場で、病院に蔓延している労働基準法違反をほったらかしにしておいて、医師法違反のみを云々するのは、如何なものかといいたい。片手落ちもいいところである。

更にこの問題に目くじらを立てると、何が起こるかといえば、単に病院と研修医の問題に止まらず、一般市民にまで影響を及ぼすことは間違いない。研修医のアルバイトが禁止されれば、多分、幾つかの施設では夜間の当直業務を中止し、夜間の診療は行わないという処置が採られることが予測される。更に日直業務についても、勤務している医師の双肩にかかるということになれば、退職を言い出す医師も出てこないとは限らない。

指導医の管理下での診療というが、指導医と研修医が常に同席していなければならないということではなく、判断困難な事態が生じた場合、電話連絡等で指導医が直ちに対応できればいいということではないのか。研修指定病院から日直・当直経験のために派遣され、派遣された先の病院の医師に指導医の委嘱を行っておけば、研修医の所属施設以外での指導は可能になるのではないか。

兎に角、病院に勤務する医師等の違法な長時間勤務を放置しておいて、研修医のアルバイトを医師法違反でやり玉に挙げるのは片手落ちだといえる。勿論、法律がある以上遵守するのは当然のことではあるが、医師としてのコンプライアンスの徹底をいうなら、役人としてのコンプライアンスの徹底はどうするのか。何れにしろ急場に間に合う改善方法は見あたらないが、少なくとも病院を処分するなどというつまらんことは、考えない方がいいのではないか。

                                                                    (2008.5.27.)

「添付文書を読む-慎重投与・併用注意」

火曜日, 5月 27th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

 

後輩からメールが来た。“添付文書中に書かれている『慎重投与』・『併用注意』について、処方鑑査時に医師にどう対応すべきか”という質問である。特に相互作用に対する『併用注意』について、同一処方せんに『併用注意』の記載がある薬物が処方されている場合、その都度、医師に確認して調剤するのかという質問である。

確かに『薬の添付文書上でしばしば見られる言葉の一つ』として、『慎重投与』や『併用注意』がある。

慎重の国語辞典的解釈は、

『慎も重も同じく、おもんじる意。その時どき先ず何をすべきかに留意し、やり過ぎたり、やり残したりすることが無いように気をつける様子。』

となっている。

つまりは物事の中庸をいけということのようであるが、それならば薬を投与する場合の『慎重』とは、どのようにするのか、甚だ分かり易い言葉のようであるが、その行動となると甚だ曖昧な言葉で、解るようで解らないということのようである。

しかし、いずれにしろ、子供が花火に火を付けるように、屁っ放り腰で、遠くから怖々火を付けるということではなく、薬の場合は、より具体的な対応の仕方を明確にしておかなければならない。

つまり薬でいう『慎重』とは、患者の原疾患、患者の症状、合併症、患者の体質、既往歴、家族歴等を検討して投与する薬を決定すると同時に、薬の組み合わせ(併用薬剤)等から、副作用の発現や重篤化の危険性を予測し、投与の可否判断、用法・用量の決定等、特に注意が必要な場合、臨床検査の実施や患者に対する細かな観察が必要であることを意味している。

『慎重投与』は、あくまで『慎重投与』であって『禁忌』ではない。

従って、その薬の使用を禁止しているわけではなく、投与に際しては、適切な『用法・用量』を選択し、患者の状況を把握するため、適切な検査を行い、その結果として投与が可能ということであり、適当に投与すればいいということではない。

更に投与後についても、定期的に血液・肝臓・腎臓等の検査を継続することも『慎重投与』の中に含まれていることを認識しておくことが必要である。

その意味では、投与後もただ漫然と投与を継続するだけではなく、投与している薬の効果や副作用について、十分に監視することが必要だということである。更に患者持参薬を減らすためにも、処方内容を検討し、患者が飲みきれないと感じている薬は、減らす努力が必要なのである。医療費の抑制について、診療を制限する方策ではなく、診療の無駄、特に薬の無駄を省く方向で検討することも必要なのではないか。

『併用注意』については、注意喚起事項であり、禁止事項ではない。

更に『慎重投与』も『併用注意』も、あくまでも『………調剤すること』ではなく、『………投与すること』である。その意味でいえば、医師向けの注意事項であり、処方する薬については、医師が十分に承知して投与するということが基本原則となっている。更に併用により作用が増強する可能性があるとされる薬剤の場合、意図的に作用の増強を求めて併用される場合も考えられる。

医師が自分の処方する薬について十分に承知していると考えることが前提であるとすれば、『禁忌』以外の条件下にある薬が、同一処方せんに記載されているからといって一々確認を取ることは必要ない。『投与禁忌』や『併用禁忌』の管理下にある薬が同一処方せんに記載されている場合については、医師の誤記も考えられるので、確認するとともに訂正を求めることが必要である。

                                                                  (2008.2.11.)

「エンテカビルの催奇形性」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:副作用・催奇形性・精子障害性・外表性奇形・精巣移行性・精巣内濃度・精液汚染・エンテカビル・entecavir hydrate・バラクルード錠

Q:主人が肝硬変一歩手前まで進行しているB型肝炎で、7月よりエンテカビルを服用し始めました。気になっているのは、今後出産を希望しており、エンテカビルの奇形性を心配しています。主治医に相談したところ「そんなに心配いらないのでは」という回答でしたが、いろいろ調べていますと薬を一旦中断するとか一時ラミブジンに切り替えるとかの情報があり、どうすればいいのか分かりません。

 

A:エンテカビル水和物(entecavir hydrate)の製品である『バラクルード錠0.5mg』[ブリストルマイヤー]の添付文書中に記載されている催奇形性に関する情報は下記の通りである。

1. 妊婦への投与

(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。生殖発生毒性試験において、ラットでは母動物及び胚・胎児に毒性が認められ、ウサギでは胚・胎児のみに毒性が認められた。ラット及びウサギの曝露量は、ヒト1mg投与時の曝露量のそれぞれ180倍及び883倍に相当する。]

(2)妊娠の可能性がある婦人に対しては避妊するよう指導すること。[胎児の発育に影響を及ぼすおそれがある。]

(3)新生児のHBV感染を防止するため適切な処置を行うこと。[本剤が母体から新生児へのHBV感染に及ぼす影響についてはデータがない。]

2. 授乳婦への投与

授乳中の婦人には本剤投与中は授乳を中止させること。[動物実験(ラット)で、乳汁中に移行することが報告されている。本剤がヒトの乳汁中に分泌されるか否かは不明である。]

但し、上記は女性に対する注意であり、男性患者に対する注意は何ら記載されていない。

原則的にいえば、男子の服薬と催奇形性の発現については、次の通りいわれている。

男性が服用した薬物の妊娠への影響については、症例報告も殆ど無く、一部の薬物を除外して、一般に使用する薬物については、殆ど心配はないとされている。射精される精子の数は億単位で、そのうち20%程度は元々形態的に異常が見られると報告されている。もし薬物の影響を受けて精子障害性が見られたとしても、その精子は受精能力を失うか、受精してもその卵子は着床しないか又は妊娠早期に流産して消失すると考えられている。

また出生する可能性があるとしても、染色体異常か遺伝子レベルの異常で、形態的な異常(外表性奇形)は発生しないと考えられている。精子に対する薬物の影響が考えられる場合は、精子形成期間が約74日(±4-5日)なので、薬物の影響があるとすれば、受精前約3カ月以内に投与された薬物ということになる。従って、射精の直前であれば、既に精子となって存在しているため、受精1-2日前に服用した薬物の影響は考えられない。

1.薬物の影響を受けた精子は受精能力を失う

2.受精しても着床しない

3.妊娠早期に流産する

entecavir hydrateの作用機序

entecavirはグアノシンヌクレオシド類縁体であり、HBV DNAポリメラーゼに対して強力かつ選択的な阻害活性(Ki値:0.0012μM)を有する。本剤は細胞内でリン酸化され、活性を有するエンテカビル三リン酸に変化する。エンテカビル三リン酸は、天然基質デオキシグアノシン三リン酸との競合により、HBV DNAポリメラーゼの(1)プライミング、(2)mRNAからマイナス鎖DNA合成時の逆転写、及び(3)HBV DNAのプラス鎖合成の3種すべての機能活性を阻害する。エンテカビル三リン酸の細胞性DNAポリメラーゼα、β、δ及びε並びにミトコンドリアDNAポリメラーゼγに対する阻害作用は弱い(Ki値:18~約160μM)。

entecavir hydrateの 変異原性

培養ヒトリンパ球にin vitroで染色体異常を誘発したが、微生物を用いた復帰突然変異試験(Ames試験)、哺乳類細胞を用いた遺伝子突然変異試験及びシリアンハムスター胚細胞を用いた形質転換試験で、遺伝毒性は認められていない。また、ラットを用いた経口投与による小核試験とDNA修復試験も陰性を示している。

entecavir hydrateの生殖毒性

ラットの生殖発生毒性試験において、受胎能への影響は認められなかった。げっ歯類及びイヌを用いた毒性試験において、精上皮変性が認められた。なお、臨床用量での曝露量と比べて高い曝露量で1年間投与したサルでは、精巣の変化は認められなかった。

雌雄ラットに[14C-]-entecavir 10mgを単回経口投与して組織分布を検討した結果、投与後1時間で大腸を除く全ての組織で最高濃度に達し、その後速やかに低下した。脳及び精巣を除いて、組織中濃度は投与後24時間までに各組織の最高濃度の10%以下までに低下した。

[14C-]-entecavirの精巣内濃度推移 [ng・equiv/g]

  1時間 4時間 8時間 24時間
精巣 996 672 315 193

 

以上の各報告から『男性がentecavirを服用していることにより催奇形性が発現する可能性は少ないと考えられるが、服用期間中精巣内に薬物が残存するため、精液を介して汚染されることが考えられるので、その点での注意は必要である』といえる。

 

1)バラクルード錠添付文書,2007年8月改訂(第3版)
2)社団法人静岡県薬剤師会:スキルアップのためのおくすり相談Q&A100;南山堂,2007
3)男性への薬剤と胎児,2007.11.17.
4)バラクルード錠0.5mgIF,2006.7.

 

   [63.099.ENT:2007.11.22.古泉秀夫]

「オレンジソルベントについて」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:薬名検索・過敏症・絆創膏剥離・オレンジソルベント・カテーテル・orange solvent・ユージノール系材料除去剤・材料除去剤・充填剤除去剤・仮封剤除去剤・印象材除去剤

 

Q:IVHカテーテルを固定している絆創膏を剥がす目的で、ベンジン又はアルコールを使用しているが、過敏症を発現する患者がいる。オレンジソルベントが良いといわれたが、これはどの様なものか

 

A:オレンジソルベント(orange solvent)[アッカーマン社-株式会社茂久田商会薬事部]で販売されている商品で、ユージノール系材料除去剤である。医師、患者等の顔、腕に付着した充填剤や仮封剤、印象材等を刺激を与えずに除去することができる。

本剤の組成については、次の回答が得られた。

 
ラノリン 1%
オレンジ油 10%
ミネラルオイル 88.5%
保恒剤 0.5%

尚、院内製剤として、次の処方が用いられている。 

オリーブ油 150mL
流動パラフィン 適量
全量 1,000mL

 

1)古泉 秀夫・代表編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
2)株式会社茂久田商会・私信,1993・2007
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.694,1993.11.24.より転載

 

[011.1.ORE・1993.7.16.・1999.6.7.・2007.8.20.一部修正.古泉 秀夫]

「アスピリン喘息既往患者と消炎鎮痛剤」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:臨床薬理・投与禁忌・アスピリン喘息・Aspirin induced asthma・酸性非ステロイド性抗炎症薬・非ステロイド性抗炎症薬・消炎鎮痛剤・酸性NSAID

Q:消炎鎮痛剤の添付文書には、アスピリン喘息の患者に対し投与禁忌の記載がされているが、服用した場合必ず発作が起こるということか

A:アスピリン喘息(Aspirin induced asthma:AIA):アスピリンを摂取すると喘息発作を起こすものをアスピリン喘息という。また、アスピリン喘息は、アスピリンの服用によってのみ惹起されるものではなく、アスピリン類似の薬理作用を持つ酸性非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs)の殆ど全てに対し喘息発作を起こす。

その発現機序については、未だ十分に解明されていないが、現時点ではプロスタグランジンを介した薬理学的機序に基づく説が有力である。

その他、アスピリン喘息は、様々な単純化学物質で発作が誘発される特異な喘息である。特にアスピリン様の薬効を示す酸性非ステロイド性消炎剤(酸性NSAID)は全て強い発作を誘発し、しばしば意識障害を伴う激烈な発作をもたらし、死亡例も報告されている。重症難治化しやすいが、的確に診断することさえできれば、徹底的な誘発物質の除外療法を施すことによって比較的コントロールの容易な症例が多い喘息でもある。

アスピリン喘息は成人喘息の10%を占める喘息で、小児にも認められるが、頻度は低く、思春期以後の成人に認められる。30歳代に発症する症例が最も多い。また、アトピー性喘息の合併例もあるが、非アトピー性の内因型喘息の像を示す喘息である。

細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸(arachidonic acid:AA)は、AA由来の生理活性物質(prostaglandin類、leukotriene類、thromboxane類)を合成する前駆物質である。この物質はcycloxygenase-1(COX-1)回路とリポキシゲナーゼ回路の2種類の代謝経路で代謝され、AA由来の生理活性物質が合成される。

COX-1回路ではAAにCOX-1が作用し、炎症促進作用と炎症抑制作用の両面を持つprostaglandin E2(PGE2)と強力な血小板活性及び凝集能を持つthromboxane A2(TXA2)が産生される。aspirinのようなNSAIDsはCOX-1を阻害し、その結果PGE2が減少すると5-リポオキシゲナーゼ活性化蛋白や5-リポキシゲナーゼに対するPGE2の抑制作用が低下し、leukotriene B4、leukotriene C4、leukotriene D4、leukotriene E4等の合成が制御されなくなる。これらには強力な炎症促進作用があり、気管支収縮、血管収縮、血管透過性亢進、粘液分泌、鼻粘膜腫脹、気道浮腫の促進や気道好酸球浸潤を来し、アスピリン喘息発作が惹起されるとする報告がされている。

その他、肺においてPGE1、PGE2は気管支拡張、PGF2αが攣縮をもたらすことが知られており、また鎮痛解熱剤のPG産生抑制の強さと、気管支痙攣の強さとは相関するとの報告も見られる。PGEはβ-adrenergic systemとともに喘息では防御的な役割を果たしている。アスピリン喘息においては、健康例や非アスピリン喘息例に比べてPGE mechanismへの依存度が、β-adrenergic mechanismへの依存度より高いとされている。

従って、アスピリン喘息の既往のある患者では、酸性NSAIDの投与は禁忌とされており、投与すべきではないとされている。

但し、アスピリン喘息については、NSAIDsの中でもCOX-1阻害薬で誘発され、COX-2選択的阻害薬では誘発されないとする報告も見られる。また、アスピリン喘息に比較的安全とされるacetaminophenについて弱いCOX-1阻害作用を持つため、高用量(500mg以上)では発作を誘発するとする報告が見られる。

その他、アスピリン喘息はコハク酸エステル構造に非常に敏感であるため、発作時にコハク酸エステル型副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン等)の使用は回避する。

アスピリン喘息誘発物質として、下表のものが報告がされているが、NSAIDsの殆ど全ての他、食品、医薬品添加物が含まれており、自然界のサリチル酸化合物も問題となり得る。しかしこれらの物質のうちでもaspirin、インドメタシン等のように激烈な発作を起こすものから殆ど発作を起こさないものまで様々である。一般に解熱鎮痛作用の強い物質ほど、発作を起こす作用が強いといわれている。

但し、NSAIDsの中で、COX阻害作用のない塩基性抗炎症薬であるtiaramide hydrochloride(ソランタール錠)とemorfazone(ペントイル錠)は、殆ど発作を起こさないとされており、アスピリン喘息の既往のある患者では、これらの消炎鎮痛剤の使用を考える。その他、選択的COX-2阻害薬であるnimesulid、celecoxibでは発作が誘発され難いとされているが国内では市販されていない。

アスピリン喘息誘発物質

NSAIDs

作用が特に強い薬剤 aspirin、indomethacin、piroxicam、fenoprofen、diclofenac等
作用がかなり弱い薬剤 mefenamic acid、flufenamic acid等
作用が弱いか殆ど無い薬剤 acetaminophen、salicylamide、mepirizole、tiaramide hydrochloride等

食品・医薬品添加物

誘発物質として確立されているもの 食用黄色4号(tartrazine)、sodium benzoate[防腐剤]
誘発物質であることが強く疑われるもの benzyl alcohol[食品の香料、注射薬の無痛化剤]。Paraben類[防腐剤]。食用黄色5号(sunsetyellow)、赤色2号(amaranth)、赤色102号(new coccin)
その他 自然界のsalicylic acid化合物含有食物(柑橘類、イチゴ、ブドウ、トマト、キュウリ等)

1)末次??? 勸:アスピリン喘息;medicina,28(2):326-327(1991)
2)堀岡? 正義・編:DI実例集? 第4版;薬業時報社,1981
3)セデスG添付文書改訂の解説;塩野義製薬株式会社製品部セデスG係,1994.9.
4)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.1084,1995.7.5.
5)小林貴子・他:アスピリンの副作用対策1アスピリン喘息;治療学,40(3):278-283(2006
6)礒谷澄都・他:アスピリン喘息;臨床と研究,80(11):2026-2030(2003)

? [035.2ASP:1994.11.17.古泉? 秀夫・1999.7.23.・2006.6.26.2008.10.20改訂]

「コウジ酸について」

土曜日, 5月 3rd, 2008

 

KW:薬名検索・健康食品・シミ・酵母酸・コウジ酸・麹酸・kojic acid・チロシナーゼ・メラニン生成抑制・ビオナチュールSホワイトニングクリーム・デルメッドホワイトニングクリーム

 

Q:皮膚のシミに有効であるとされる酵母酸とは何か

 

A:現在、発酵関連物質で、皮膚のシミ防止目的に使用されているのはコウジ酸(麹酸;kojic acid)である。

麹を扱う人の手が白く美しい-この言い伝えに着目して開発されたコウジ酸は、日焼けによるシミの元であるメラニンを作る酵素「チロシナーゼ」の活性を抑え、メラニンの生成にブレーキをかけ、日焼けによるシミ・ソバカスを防ぐと報告されている。
その他、味噌、醤油などの原料であるコウジ酸を含有した新しいメラニン生成阻害クリームが近く発売される。商品説明では、肌に擦り込んでから約4週間でシミ防止の効果が発現すると報告されている。

皮膚表面は厚さ0.2mmの表皮で覆われている。その一番下の基底層で細胞が作られ、約4週間で表層の角質に移行する。紫外線にはメラニン生成細胞を活性化させ、メラニンの色素を多量に生成する性質があるが、この細胞の活動を抑制すればメラニンの生成が抑制される。

皮膚科医に委託した臨床試験でも、毎日塗り込むと4週間後にはシミが消え始め、数ヶ月後にはなくなる効果が出ている。

市販されている製品として、下記の商品名が検索できたが、いずれも化粧品の扱いである。

    「ビオナチュールSホワイトニングクリーム」(山之内製薬-三省製薬)

   「デルメッドホワイトニングクリーム」(三省製薬株式会社)
  

コウジ酸、5-オキシ-2-オキシメチル-γ-ピロン(5-hydroxy-2-hydroxymethyl-γ-pyron)。

主としてAspergilus oryzae、A.fflavus、A.tamarii、A.wentii、A.nidulan、A.candidus等のアスペルギルス属子嚢菌によって各種炭水化合物から生成されるが、この他にPenicillium dalae、P.expansum等のペニシリウム属子嚢菌、グルコノバクター属細菌等によっても生成される。

性状:無色柱状晶(アセトンから再結晶)、融点152℃、水、エタノール、酢酸エステルに易溶、エーテル、クロロホルム、ピリジンに難溶、ベンゼン、石油エーテルに不溶。塩化鉄(III)で紫赤色を呈し、また各種金属塩を作る。弱い抗菌力を有し多くの細菌を1/500?1/4000程度の濃度で抑制する。

用途:分析用試薬、鉄(III)の検出定量用。

 

1)三省製薬株式会社読売新聞広告
2)シミ防止にコウジ酸-メラニン色素性性を抑制-;読売新聞,1990.1.24.(夕刊)
3)化学大辞典[3];共立出版,1972
4)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1483,1997.2.25.より転載

 

  [011.1KOJ:1996.4.3.古泉秀夫・1999.9.28.・2005.12.20.一部修正.]    

「抗パーキンソン剤の適応外使用」

日曜日, 4月 27th, 2008

KW:薬物療法・抗パーキンソン剤・適応外使用・脳梗塞後遺症・認知症・意欲低下・Restless legs syndrome・RLS・不穏足・レストレスレッグス症候群・エクボム症候群・Ekbom syndrome・下肢静止不能症候群

 

Q:抗パーキンソン剤の適応外使用例について

A:抗パーキンソン剤の適応外使用例について次の通り報告されている。

1.脳梗塞後遺症・認知症疾患の意欲低下

?塩酸アマンタジン(amantadine hydrochloride):承認適応として脳梗塞後遺症。少量投与(50-150mg/日)。
?レボドパ製剤
?ドパミン受容体作用薬の少量:パーキンソン病治療量の1/2又は1/3
以上について、譫妄や幻覚異常行動を生じやすいので慎重に投与。

?アマンタジン塩酸塩(amantadine hydrochloride)[シンメトレル錠・細粒(ノバルティスファーマ)]

*精神活動改善作用:高次中枢神経機能低下に対する薬物の改善効果を前臨床的に評価する有効な方法は現在のところまだ開発されておらず、amantadine hydrochlorideに関してもその作用機序は十分に解明されていないが、動物試験及び臨床薬理試験において以下の作用が認められている。

(1)脳振盪マウスの自発運動に及ぼす影響:頭頂部に物理的衝撃を与えたマウスにおいて、昏睡状態回復後の自発運動量を測定した試験では、12.5mg/kg(腹腔内)で自発運動の有意な増加がみられている。
(2)条件回避反応抑制に対する拮抗作用:ラットにおけるchlorpromazine、haloperidol及びtetrabenazineによる条件回避反応の抑制作用に対し、10及び20mg/kg(腹腔内)で拮抗し、amantadine hydrochlorideとdopamine及びnoradrenaline作動性神経系との関連性が示唆されている。
(3)THCによるカタレプシー及びmuricideの抑制作用:THC(テトラヒドロカンナビノール)によるラットのカタレプシー及びmuricideに対し、0.5mg/kg(腹腔内)で有意な抑制作用を示す。その強さはそれぞれイミプラミンの40倍及び8.8倍、レボドパの400倍及び225.5倍で、amantadine hydrochlorideが少量でセロトニン作動性神経系の活動亢進を起こすことが示唆されている。
(4)ヒト脳波に及ぼす影響:多発梗塞性痴呆患者に100mg/日、2週間経口投与後の脳波変化をみた試験においてα波の出現量の増加、θ波及びδ波の出現量の減少がみられている。

?レボドパ(levodopa)[ドパゾール錠(第一三共)]

レボドパ(L-DOPA)はドパミンの前駆物質であり、パーキンソン氏病・パーキンソン症候群患者において脳内で不足しているドパミンを補う作用がある。ラットに14C-レボドパを投与し、脳内への移行をみると、体内に吸収されたレボドパの一部は血液-脳関門を通過し、脳内で脱炭酸酵素の働きによりドパミンに転換され、パーキンソン氏病・パーキンソン症候群の症状を改善する。パーキンソニスムは中脳黒質の変性、ドパミンニューロンの障害および黒質・線状体等の錐体外路諸核におけるドパミン減少によると考えられている。レボドパ(L-DOPA)はドパミンの前駆物質として脳に入りパーキンソニスムの主症状、特に寡動-無動、筋強剛等を改善する

?メシル酸ブロモクリプチン(bromocriptine mesilate)[パーロデル錠(ノバルティスファーマ)]

本剤は持続的なドパミン受容体作動効果を有し、内分泌系に対しては下垂体前葉からのプロラクチン分泌を特異的に抑制し、末端肥大症患者において異常に上昇した成長ホルモン分泌を抑制する。また、中枢神経系に対しては黒質線条体のドパミン受容体に作用して抗パーキンソン作用を示す。

*中枢神経系に対する作用
1) 常同行動の誘発作用:ラットにおいて嗅ぎ込み及びなめ等の常同行動を誘発するが、この作用はL-DOPAに比して持続する。
2) 回旋運動誘発作用:黒質線条体片側破壊ラット(Ungerstedtモデル)において破壊側とは反対側への回旋運動を誘発する。
3) レセルピンに対する拮抗作用:レセルピンにより誘発されるアキネジア、α固縮及びカタレプシーを抑制する(マウス、ラット)。
4) 抗振戦作用:片側性脳損傷サルにみられる振戦を抑制する。
5) ドパミン代謝回転率に及ぼす影響:脳内DOPAC含量を減少し、ドパミン代謝回転率を減少させる(ラット)。

その他、非アルツハイマー型変性認知症の薬物治療として抗パーキンソン薬が選択される理由として、歩行障害や嚥下障害が日常生活上に重大な支障を来している場合は、精神状態の悪化に注意しながらパーキンソン症状に対する治療を優先させるとする報告も見られる。

2.Restless legs syndrome[RLS](不穏足)

ドパミン受容体作用薬
レボドパ製剤
投与法と投与量はパーキンソン病に準じる。

因みに『レストレス・レッグス症候群:エクボム症候群(Ekbom syndrome)』は『下肢静止不能症候群』と標記され、次の通り説明されている。

下腿、時に大腿深部にむずむず感、だるさ、しびれ、鈍痛、灼熱感などの漠然とした不快感が一側性あるいは両側性に出現する。就寝時、しばしば異常感覚のため入眠を妨げられ、足を動かすによってのみ不快感から逃れることが出来る(Ekbom,1945)。エクボム症候群、“むずむず足症候群”とも呼ばれる。本症は高齢者に多く、尿毒性ニューロパチー(尿毒性末梢神経障害)、糖尿病性ニューロパチー、その他の原因による軽度のニューロパチーを証明したり、その前駆症状のこともある。また、鉄欠乏性貧血を有していることがある。パーキンソン病でもしばしば本症候群をみるが、その機序は不明である。他覚的には何らの徴候・障害を認めないことも多く、自覚的症候である。基礎疾患が明らかなときは、その治療により症状が軽減することがある。抗不安薬、抗うつ薬が有効である。

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル 2008;医学書院,2008
2)南山堂医学大辞典;株式会社南山堂,2006
3)シンメトレル錠添付文書,2007.12.改訂
4)ドパゾール錠添付文書,2007.4.改訂
5)パーロデル錠添付文書,2007.2.改訂
6)山口 徹・他編:今日の治療指針 50th;医学書院,2008
7)薬科学大辞典編集委員会・編:薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990

  [035.1.RLS:2008.4.27.古泉秀夫]

「薬物に対する超音波の影響」

土曜日, 4月 26th, 2008

KW:物理化学的性状・超音波・超音波ネブライザー・ultrasound nebulizer・nebulizer・霧・aerosol

 

Q:超音波ネブライザーの場合、吸入薬が超音波によって容易に破壊され、薬効が無くなってしまうということがあるのでしょうか。

 

A:超音波ネブライザーは、超音波振動子によって薬剤を微細な霧状、液滴にし、それをファンによる風にのせて噴霧するものである。超音波ネブライザーは、従来から薬液の変性問題が指摘されており、洗浄、消毒にも問題があるとされていた。そのため最近ではジェット式ネブライザーが推奨されているとする報告が見られる他、最近になってメッシュ式超音波ネブライザーが登場し、薬液変性と消毒・洗浄の問題はほぼ改善されたとする報告も見られる。

超音波(ultrasound)は、ヒトの耳では聞くことが出来ない2,000Hz以上の高い周波数を持つ音をいうとされている。ヒトの可聴域は約16-2,000Hzであるが、可聴域は厳密なものではなく、最近では、『超音波』とは人間の耳で聞くことを目的としない音と定義されるようになった。高い周波数の指向性が鋭く、超音波束として利用できる。超音波は生体組織を媒体として伝播するが、強度が小さい限り生体に対する障害はない。診断に利用される超音波は2-10MHzの範囲である。

超音波ネブライザー(ultrasound nebulizer)で使用される超音波周波数は約2.4MHz(オムロン超音波ネブライザーNE-U07)あるいは約180kHz(メッシュ式超音波ネブライザーNE-U22)とする報告が見られる。

超音波ネブライザーは、薬剤を微細な霧(aerosol)として吸入させる霧滴吸入法である。噴霧器(nebulizer)と陽圧発生装置からなり、aerosolを作る。霧粒子の大きさは作用させたい部位に応じて、喉頭・気管では直径5-10μL、気管支・肺胞では1-5μL、副鼻腔では3-6μLが適正であるとする報告が見られる。これらの微粒子を得るための超音波としては、比較的低周波数であり、特にメッシュ式超音波ネブライザーは、より低周波数であり薬剤に対する影響が少ないことが予測される。

塩酸プロカテロール(procaterol hydrochloride)を用いたネブライザーによる噴霧性・安定性試験の結果によると、メッシュ式超音波ネブライザーの使用によって薬剤に対する影響は何等なかったとする報告がされている。

なお、ネブライザーとして使用する薬剤は副腎皮質ホルモン、血管収縮剤、蛋白分解酵素(protelytic enzyme:プロテアーゼ)、気道粘液融解剤、抗生物質などであり、用途に応じて選択する。吸入されたaerosolは粘膜より血中に吸収される。副鼻腔炎、呼吸器疾患(急・慢性鼻炎、喉頭炎、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis:鼻アレルギーなど)が適応である等の報告がされている。

 

1)南山堂医学大辞典;株式会社南山堂,2006
2)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル 2008;医学書院,2008
3)吉山友二・他:塩酸プロカテロール吸入液ユニットのネブライザーによる噴霧特性及び薬剤安定性;呼吸,22(9):904-912(2003)

[014.4.ULT:2008.4.26.古泉秀夫]

『捕物帖の世界』

金曜日, 4月 25th, 2008

 

鬼城竜生

 

2月11日(月曜日)、建国記念日というので仕事は休み、しかも良い天気ということで、かねて行ってみたいと思っていた“回向院”に出かけることにした。回向院といえば、ネズミ小僧の墓があって、その墓の欠けらを持っていると博打に勝つというので、無闇に墓石が削られるという話で有名だが、実際はどうなのかということと、ついでに旧安田庭園なぞも覗いてみたいというのが主たる目的。

回向院-01 例によって例の如く『大江戸線』の『大門駅』で乗り換えて、両国へ。両国駅で『駅長のまち案内』なる1枚ものを手に入れて、A4出口から出たが、JRの両国駅に行く段になって、エッどっちだと迷ってしまったが、どういう訳か都会の地図を見るのは相変わらず下手くそというところ。

何とか回向院に行く道を見つけ出し、向かったが、回向院の門は、お寺離れをしているというか、何とも妙な格好をしているので驚いた。回向院は、今からおよそ350年前の明暦3年(1657年)に開基された浄土宗のお寺だというが、この時代の江戸で「振袖火事」の名で知られる明暦の大火があり、市街の6割以上が焼土と化し、10万人以上の人命が奪われたといわれている。

この災害で亡くなった人々の多くは、身元や身寄りのない人々であったとされる。当時の将軍家綱は、このような無縁の人々の亡骸を手厚く葬るようにと隅田川の東岸、回向院の現在地に土地を与え、「万人塚」という墳墓を設け、遵誉上人に命じて、無縁仏の供養をするため大法要を執り行った。このときお念仏を唱えるための御堂が建てられたのが回向院の歴史の始まりだという。

この成り立ちこそが「有縁・無縁に関わらず、人・動物に関わらず、生あるすべてのものへの仏の慈悲を説くもの」として、現在まで守られてきた回向院の理念だという。

回向院-02 無縁寺・回向院は一方で、境内堂宇に安置された観世音菩薩や弁財天などが江戸庶民に尊崇されることとなり、様々な巡拝の札所となった。また江戸中期からは、全国の有名寺社の秘仏秘像の開帳される寺院として、境内は毎年のように参詣する人々で殷賑をきわめた(この辺りは捕物帖にもよく出てくる部分)。更に江戸後期になると勧進相撲の定場所が同寺に定められ、明治末期までの七十六年間、いわゆる“回向院相撲”の時代を日本相撲史上に残した。

こう見てくると回向院の歴史は、隆盛の一途をたどったかのように見えるが、同寺の説明によると、回向院自体も度重なる大火に被害をこうむり、明治の廃仏毀釈、大正の大震災、更には第二次大戦下の大空襲などによって、幾度か存亡の危機に立たされたとされている。

回向院の御本尊は阿弥陀如来で、かつては本堂を背にして露天に安置されていた、いわゆる濡仏であった。通称「釜六」といわれる釜屋六右衛門の作で、宝永二年(1705)に安置され、身の丈六尺五寸五部、蓮座三尺四寸五分もある大きな銅作りの坐像で、慈悲に満ちたふくよかなお顔に特徴があり、都有形文化財に指定されているという。し回向院-03 かし、拝見した限り露天に置かれていたと思えない艶やかな肌色をしており、銅製の仏像が野ざらしにされていれば緑青が吹きそうなものであるが、そのような痕跡は全く見られなかった。

その他、『塩地蔵』といわれている地蔵菩薩がある。参詣者が願い事が成就すると塩を供えたことから、「塩地蔵」と呼ばれてきたという。腐食がひどく年代等解らないが、「東都歳時記」所載の江戸東方四十八ヶ所地蔵尊参りには、その四十二番目として数えられているとのことである。

昭和十一年に相撲協会が歴代相撲年寄の慰霊の為に建立したものとして『力塚』の碑がある。また回向院の開創間もない頃、将軍家綱公の愛馬が死亡し、上意によってその骸を回向院に葬ることになり、馬頭観世音菩薩像が安置されることになった。これは享保年中(1716-35)の頃から「江戸三十三観音」に数えられており、「江戸砂子拾遺」によると、回向院はその二十六番札所と記されている。回向院の馬頭観世音菩薩に祈願をこめると、当時最も恐れられた瘧疾(熱病)や疱瘡(天然痘)にかからぬといわれ、時代が下るにつれて諸病平癒の霊験顕かな観音様として、人々の厚い信仰を集めました。幾多の災難にあい当時のものは焼失してしまったが、現在も昭和新撰「江戸三十三所観音参り」での第四番札所として多くの巡拝者で賑わっているとされる。

回向院縁起はこのくらいにしておくが、何とも不思議な光景は、動物関係の唐櫃や石碑が多いということである。確かに『ヒト・動物に係わらず』という回向院の理念からすれば、これが当然のことということになるが、他のお寺とは明らかに違った雰囲気を醸し出している。 回向院-04

  回向院といえばネズミ小僧の墓と言われる位有名であるが、写真を見ていただくと解るように、専ら削るべきものは、前にある白い石塔で、真っ白になっているところを見ると、頻繁に削られているようである。しかし、写真を撮っていて気が付いたが、ネズミ小僧の墓の横に猫塚があったが、これはネズミ小僧が出てきて騒ぎを起こさないようにするために隣に置いてあるのか。

しかし、猫塚の説明に『実話 猫に小判』と書かれていたが、『猫に小判』の童話の内容はどうなっているのか、それが知りたいところである。まあ、それは取り敢えず置くとして、回向院から真っ直ぐ国技館の前を通り、旧安田庭園を見に行ったが、感としては紅葉の時期でなければ写真にならないのではないかと思われた。その後、北斎通りに出て、通りを散策してみたが、腹が減ってきたので、飯を食うことにし、前回大江戸博物館に来た時と同じく『かつ万』なる店で、ロースカツを食った。最終的に美味いか不味いかは当人の口の感覚であり、他の人の共感を得られるかどうかは別の話しだが、当方は甚だ気に入っているということである。元々食べるということは、そういうことでいいのではないかと思っている。

当人としては相当歩いたつもりでいたが、結局一万歩は超えず、9955歩で終わった。

  (2008.2.2.)

何か違うんじゃあないんですか?

金曜日, 4月 25th, 2008

 

魍魎亭主人

政府・与党は、2008年度の診療報酬改定で、現在、病院が570円、個人経営の医院などを含む診療所が710円と異なる価格に設定されている再診料を、同じ価格に統一する方向で調整に入った。統一した再診料は650円-700円程度とする案が有力だ。再診料を病院で引き上げ、診療所で引き下げることにより、医師不足問題の原因となっている病院の勤務医の負担を軽減する狙いがある。

病院の再診料が、診療所より安いことが、患者が診療所よりも病院に通う傾向を助長し、病院勤務医の過剰な負担やそれに伴う勤務医不足の要因になっているとの指摘もある。政府・与党は、再診料の統一により診療所に患者が振り分けられる効果の他、病院の再診料の引き上げが勤務医の待遇改善に繋がることも期待している。

診療所の再診料引き下げについては、開業医の影響力が強い日本医師会などが医院の経営悪化に繋がるとして反対している。政府・与党は、日本医師会に対して?再診料引き下げで、診療所の患者が増える。?診療所による夜間など時間外診療や開業医による往診への診療報酬を手厚くする-等として説得していく方針だ[読売新聞,第47365号,2008.1.14.]。

『病院の再診料が、診療所より安いことが、患者が病院に通う傾向を助長し、病院勤務医の過剰な負担やそれに伴う勤務医不足の要因になっているとの指摘もある』と書かれているが、誰がそういうマヌケなことをいっているのか知りたいものである。患者が診療所ではなく、病院を選ぶのは、仕事の確実性と速さのせいである。更に最近の病院では、その日の朝検査を受ければ、その1時間後には、検査結果が出ており、それに基づいて医師の判断が得られるという、便宜性を評価しているからである。

勿論、病院が通院可能範囲にあるということも重要な要件ではあるが、何かあった場合に他科への紹介も院内ですませることが出来るという患者にとっての便宜性があり、病院に出かけるのである。診療所で同じ結果を得ようとすれば、何れの場合にも、結果を得るまでには、数日間を要することになるのではないか。

診療所の再診料が高いから患者は病院を選ぶのだというように、もし本気で思っていて、それに基づいた改善策を講じたとすれば、その改善計画は失敗する。単に患者が金銭的な問題だけで、自分の命の預け先を選んでいると考えていたとすれば、甚だしくお粗末な発想だといわなければならない。

最近の報道によれば、病院と診療所の再診料の差額解消問題は頓挫してしまったようであるが、病院の医師不足問題は、医師の給与を上げた程度のことで片付く話ではない。抜本的に改善するためには、病院における医師の人員配置を増やし、医師に対して知的再生産の時間を保証することである。朝から晩まで医師が患者の診療に追われている現状の病院の在り方をそのままにして、小手先の手直しをしたとしても、抜本的な解決にはならない。

(2008.2.3.)