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『インターネットでの薬の購入』

火曜日, 12月 23rd, 2008

魍魎亭主人

 

H19.1.11.「インターネットで漢方薬を買ったのですが」(患者・電話)

手足の冷えとシモヤケのため、薬局からインターネットで漢方薬(当帰四逆加呉茱萸生姜湯顆粒)を4週間分購入した。3週間服用したところ、おなかが張ってきたので、副作用かどうかを確認しようとメールで問い合わせをしたところ、「貴方は膠原病でアレルギーもあるので附子を使え」という返事が来た。
副作用かどうか、どう対応すればよいか(服用をやめるべきか、量を少なくすればよいのか)を聞きたかったので、再度メールで問い合わせをしたが、最終的には「あなたとはメールの遣り取りはしないので、近くの漢方薬局に行くように」との旨の返事が来た。
こちらの質問には答えていないし、薬局の対応として、あまりに不親切と思う。薬剤師会から注意をしていただきたい。

[事務局対応]会員であれば指導するよう伝える [薬事新報,第2493:1039(2007)]。

 

OTC薬の『当帰四逆加呉茱萸生姜湯顆粒』を購入したのであれば、何でインターネットで購入したのか、その辺のところがよく分からない。あくまで医薬品は対面購入が基本で、種々の疑問点をぶつけて最終的に製品を選択するという方法をとるべき物である。その患者の疑問に、的確に回答するあるいは説明するためにこそ薬剤師が薬局にいる意味がある訳である。

更にお訊ねしたいのは、その薬の箱の中に添付文書は、入っていなかったのかということである。現在、添付文書という正しい呼称が専ら使われているが、従来は効能書きの一部を弾いて『能書』といわれており、場合によっては箱に納めてあるから『納書』、瓶に巻いてあるから『巻紙』等といわれていたが、『添付文書』は薬を使用する際の重要な仕様書なのである。

次に示すのは医療用医薬品の『当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス細粒』の添付文書の一部であるが、OTC薬の添付文書と内容的にはさほど掛け離れていないはずである。

本薬1日量(7.5g)中

日局 当帰            3.0g
日局 桂皮            3.0g
日局 木通            3.0g
日局 細辛            2.0g
日局 呉茱萸          2.0g
日局 甘草            2.0g
日局 芍薬            3.0g
日局 生姜            1.0g
日局 大棗            5.0g

上記の混合生薬より抽出した当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス粉末4,200mgを含有する。添加物として日局ステアリン酸マグネシウム、日局軽質無水ケイ酸、日局結晶セルロース、日局乳糖、含水二酸化ケイ素を含有する。
なお、『日局』とは、日本薬局方に収載されていることを意味する。

効能又は効果:手足の冷えを感じ、下肢が冷えると下肢または下腹部が痛くなり易いものの次の諸症:しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛

用法及び用量:通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

使用上の注意[慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)]

1.著しく胃腸の虚弱な患者[食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等があらわれることがある。]
2.食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある。]

*重要な基本的注意

1.本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。

2.本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。

3. 他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

*相互作用[併用注意(併用に注意すること)]

薬剤名等

(1)カンゾウ含有製剤
(2)グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤
(3)ループ系利尿剤
フロセミド
エタクリン酸
(4)チアジド系利尿剤
* トリクロルメチアジド

臨床症状・措置方法:偽アルドステロン症があらわれやすくなる。また、低カリウム血症の結果として、ミオパシーがあらわれやすくなる。(「重大な副作用」の項参照)
機序・危険因子:*グリチルリチン酸及び利尿剤は尿細管でのカリウム排泄促進作用があるため、血清カリウム値の低下が促進されることが考えられる。

副作用(副作用等発現状況の概要)

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。

重大な副作用

1.*偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

2. *ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

*その他の副作用

過敏症注1) (頻度不明) : 発疹、発赤、そう痒等

消化器(頻度不明):食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等

注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

高齢者への投与:一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与:*妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

小児等への投与:*小児等に対する安全性は確立していない[使用経験が少ない]。

投書者がいう『お腹が張ってきた』という表現に直接該当する表記は添付文書に見られないが、『胃部不快感』がそれに当たるものではないかと思われる。添付文書中の症状標記は、医療の現場で実際に発現した副作用を報告する医師の標記のまま書くことになっており、『胃部不快感』の一言で片付けている可能性が考えられる。

従って『胃部不快感』を単に気持ちが悪いと取るか、胃が重苦しく感じるとか、胃の中に何か入っているような感じとか、いわゆる抽象的な患者の訴えが、この一言で現されていると取るかで、添付文書には記載がないという判断になり、返事が出来なかったとも考えられる。

しかし、最初から行きつけの薬局で、対面購入していれば、このような問題は起こらなかったといえる。

1)カネボウ当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)エキス細粒添付文書, 2005年9月改訂 (第2版、薬事法改正に伴う改訂)

 

(2008.12.22.)

ネット販売団体

火曜日, 12月 23rd, 2008

    魍魎亭主人

改正薬事法の施行日が迫ってきたが、医薬品のインターネット販売を展開する業界団体『日本オンラインドラッグ協会』が、厚生労働省の提示した省令案に反発するコメント発表した[リスファックス,5192号,H20.9.18.]。

厚生労働省が省令案で、カタログ・インターネット販売を『郵便等販売』と定義づけ、第3類OTC薬の販売に限定した事による。更に郵便等販売を実施する場合は、予め店舗所在地や販売方法を都道府県知事に届け出る事になっている。

これに対し『日本オンラインドラッグ協会』は、「現在は可能な解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬など大半の医薬品は、今後一切(ネットで)購入できなくなることを意味する」と指摘。「実態にそぐわない規制強化で、協会としてとうてい納得できるものではない」としている。

『日本オンラインドラッグ協会』があること事態驚いたが、それ以上にネットで解熱鎮痛薬や風邪薬を販売することの意味が些か解り難い。解熱鎮痛薬も風邪薬も症状が出れば、直ちに服用しなければならない薬であって、ネットで発注して、例え次の日に入手できたとしても間に合わない。第一OTC薬とはいえ、解熱鎮痛薬も風邪薬も症状を確認して適切な薬を選択する助言をする役割を販売者は担っているのではないか。ネット販売では購入者の顔が見えない状況下で販売するのであって、如何にセルフメディケーションとはいえ、問題があるのではないか。

解熱鎮痛薬も風邪薬も全く副作用がないわけではない。更に通常の副作用以外に、場合によっては重篤な副作用が発現する可能性も完全に否定されているわけではない。そのような危険性のある薬を販売するのはあくまで“対面販売”が基本である。

ところで“対面販売”が原則であると書きかけて止めたが、何時頃から“原則”は守らなくてもいいことだというように解釈が変化したのか。原則は守ることが基本であり、原則が付いているからいい加減でいいというのは納得がいかない。

   (2008.12.22.)

『後発医薬品の試験・検査』

日曜日, 12月 21st, 2008

     魍魎亭主人

 

国立医薬品食品衛生研究所の「ジェネリック医薬品品質情報検討会」は2008年7月10日初会合を開催した。後発医薬品の品質に疑問を呈した論文をもとに議論した結果、抗真菌剤「イトラコナゾール」、慢性腎不全用剤「クレメジン」などの品質を検証対象にすることに決めた。具体的な検証方法は、事務局を務める国立衛研が組み立て、試験を実施する。早ければ半年後に開催する次回の検討会に結果を提出し、何らかの方向性を出すと報告されている。

国立衛研は、検討会に、後発品の品質を問題視した44本の論文を提示。議論の結果、試験方法に問題があると思われるものを含めた18本の論文で取り上げられた成分を、品質試験を行う候補として選定した。その中でもイトラコナゾールとクレメジンは、以前から品質が疑問視されていた「典型的な例」のため試験を実施する。

検討会は厚生労働省予算で国立衛研内に設置。政府の後発品使用促進の追い風に煽られ、後発医薬品市場が拡大する中、医療現場からは品質に対する疑問の声が止まらないため、疑惑の品目について検証することになった[リファックス,第5147号,平成20年7月11日]。

これは厚生労働省医政局経済課が、2008年7月9日に公表した「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」の実施状況についての中で『品質確保に関する事項』として挙げている次の事項を実践するものの一部と思われる。

*品質に関する研究論文等を踏まえ、後発医薬品の注射剤10成分94製品を対象に、国立医薬品食品衛生研究所及び地方衛生研究所において製剤中に含まれる不純物に関する試験検査を実施。現在、公表に向けて試験結果のとりまとめを進めている。

*後発医薬品の内服固形剤に係わる溶出試験の結果等については、(独)医薬品医療機器総合機構のホームページにおいて公表中。

現在、『後発医薬品』の使用は、予算の縮少を目的とした医療費抑制策の主柱の一つとして、重要政策に位置付けられている。従って厚生労働省は無闇に後発品への切換えを推奨しているが、しかし本来は、上記の報道に見られるように、品質に疑問がありとして公開されている論文を集約すると共に、全て公表し、更にその実証試験を行い、製品の品質を確認する作業を先に実施すべきだったのである。医薬品の有効性と安全性に対する疑念を払拭する、例え時間が掛かったとしても、そこの手順をしっかりすることが、不安解消のための最善の策であり、後発医薬品使用促進の早道だったと思っている。

処方する医師が、疑念を持ったまま処方し、何らかの問題が発生した場合、その責任は誰がとるのか。やはり処方医が確信を持って処方変更できるよう、疑問点を氷解させるために必要な情報の提供を先行させるべきであり、処方せんの形式変更や療担規則の改正等、姑息な行政的手法の導入を先行させるべきでは無かったのではないか。急がば回れである。

臨床現場で日常的に医薬品が使用され、その薬で患者の症状が安定している状況の中で、薬の変更を行うことは、医師にとっても患者にとっても迷惑なことなのである。後発品の同等性が頻りにいわれるが、それはあくまで概念の上でのことであり、実証的な証明がされている訳ではない。地に足の付いた変更の努力をすべきである。

   (2008.8.17.)

『紫陽花その後』

日曜日, 12月 21st, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

料理の皿の上に食えないものが載っているとは思わないのが一般人の常識で、紫陽花の若い葉が載せられていれば、あるいは青紫蘇が載せられているという認識で見ていたのかもしれない。

ところで推理小説や捕物帖で使われる毒薬や有毒植物について調べて、毒性・症状・治療法等を自分で運営しているブログに載せている。紫陽花の葉に付いては、これまで推理小説でも捕物帖でも出てこなかったので、珍しい事例として新聞記事から引用するとともに、その毒性について調査した。

調べてみると殆どの成書で紫陽花葉には青酸配糖体が存在し、咀嚼すると他の細胞内に存在する酵素の働きにより糖から青酸が離れて、毒性を発揮するとされていた。それらの文献を引用して、纏めたものをブログに公開したところ、青酸配糖体とする根拠になる原著が見あたらないということで、現在、調査中。従って青酸配糖体であるとする断定的な記載は避けた方がいいのではないかという御注意を先達から受けた。

紫陽花葉がその細胞内に青酸配糖体を造るのは、葉が虫等に喰われるのが嫌だということで、造るのだということになっている。しかし、それにしては山に咲く紫陽花の葉の中には虫食いだらけのものがあり、青酸というほど強力な毒は無いのではないかと思われるが、具体的に解明するためには、成分分析をしていただくより方法は無いといわざるを得ない。

紫陽花葉を喫食して食中毒が発生した時、厚生労働省から発出された文書を参照しておく。

食安監発第0701001号
  平成20年7月1日

 都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部局長  殿
  特別区

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

アジサイの喫食による青酸食中毒について

今般、飲食店で料理の飾り用として提供されたアジサイの葉(注)を喫食したことによる青酸食中毒事例が発生しました(別添参照。)
本事案では、飲食店施設等に植えられているアジサイの葉を採取し提供していましたが、アジサイの葉、花等の有毒植物が料理の飾り用として市場に流通していることが確認されています。
つきましては、食中毒予防の観点から、飲食店及び消費者に対し、これらの有毒植物を食品と共に提供又は喫食しないよう注意喚起を行うとともに、市場流通品を確認した場合には、販売者等に対し、食品又は料理の飾り用としての販売をしないよう指導方よろしくお願いします。

(注)アジサイ

葉などに青酸配糖体を含み、咀嚼、胃内の消化等により青酸配糖体と酵素が反応し、遊離した青酸(HCN)によって嘔吐、失神、昏睡等の中毒症状を起こす。

(別添)

アジサイの喫食による食中毒事例

【事例1】

平成20 年6 月13 日、茨城県つくば市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注1)を喫食した1 グループ8 名が、会食30 分後から嘔吐、吐き気、めまい等の症状を呈した。

【事例2】

平成20 年6 月26 日、大阪市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注2)を喫食した1 名が、喫食40 分後から嘔吐、顔面紅潮等の症状を呈した。

(注1)飲食店の施設内で採取されたもの。
(注2)従業員が採取し持ち込んだもの。

(参考)料理の飾り用アジサイの市場流通品(例)

写真省略

※その他、スイセンの流通実態がある。

現在、この発文書は厚労省のホームページからは削除されており、紫陽花の毒成分が青酸配糖体であるか否かについて、今後の調査を待たなければならないということであるが、一番最初に記載した人は誰だったのか。文献の孫引き、曾孫引きがされているうちに、青酸配糖体説が定着してしまったということなのであろうか。

今回の事例だけではなく、種々のところでこのようなことが起こっているのかもしれない。まことしやかな情報として流れているものが、探っていくと、何処にも根拠になる事実は探せず、単なる風評だったということになってしまう。やはり情報の世界は恐ろしい世界だということかもしれない。

(2008.8.17.)

『鬱金について』

金曜日, 12月 12th, 2008

KW:健康食品・鬱金・ウコン・turmeric・姜黄・turmeric・Javanese turmeric・Curcuma longa L・ショウガ科・含有成分・アキウコン・秋鬱金・ハルウコン・春鬱金

 

Q:鬱金の含有成分等について

 

A:鬱金については、次の報告がされている。

日本 中国
鬱金(termeric;turmeric,Javanese turmeric) 姜黄(jianghuang)
Curcuma longa L.
(別名:C.domestica VAL)の根茎
Curcuma longa L.
(別名:C.domestica VAL)の根茎
該当無。

鬱金
Curcuma longa L.を含むCurcuma属植物の根の先端部分にできる根塊。

 

鬱金の性状:ショウガ科の鬱金の根茎をそのまま又はコルク層を除いたものを、通例、湯通ししたもの。本品は主根茎又は側根茎から成る。本品は特異な臭いがあり、味は僅かに苦く刺激性で、唾液を黄色に染める。柔組織中には油細胞が散在し、柔細胞中には黄色物質、蓚酸カルシウムの砂晶及び単晶、糊化した澱粉を含む。

名称:日本の「鬱金」と中国の「姜黄」は同じ生薬のことを指すが、日本の「鬱金」と中国の「鬱金」は同じ生薬ではない。本草綱目に記載されている蘇頌の引用では、その花の時期及び薬材の色から、「鬱金」はCurcuma longa L.、「姜黄」はハルウコンC.aromatica Salisb.(=C.wenyujin Y.H.Chen et C.Ling)と考えられる。

含有成分:黄色で、水蒸気蒸留で留出しない3-5%の色素類(クルクミノイド類)、DAC 1986によると少なくとも3%あり、curcumin(diferuloylmethane)、monodesmethoxycurcuminとbisdesmethoxycurcuminからなる2-7%の精油は主にturmerone、ar-turmerone、zingbere、curlone等のセキステルペンからなる。

その他、秋鬱金の成分として国立琉球大学農学部測定の次の資料が報告されている。

(可食部100g中)

熱量 蛋白質 脂質 灰分 植物繊維 Na P
451kcal 8.1g 19.7g 5.6g 19.0g 26.9mg 298mg
Fe Ca K Mg curcumin 精油成分
54.0mg 109mg 1760mg 212mg 7.5g 5.6mL

また財団法人日本食品分析センターによる種子島産「春鬱金」の成分測定値が報告されている。
(可食部100g中)

熱量 水分 蛋白質 脂質 灰分 糖質 植物繊維 Na
297kcal 9.1g 16.3g 5.2g 7.2g 46.3g 15.9g 31.7mg
P Fe Ca Mg Zn curcumin 精油
401mg 11.0mg 135mg 267mg 4.51mg 0.49g 2.2V/w%

 

 

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『硝酸薬の作用発現時間・持続時間』

金曜日, 12月 5th, 2008

 

1] 硝酸薬は全てのタイプの狭心症に用いられる。狭心症発作寛解のためには、速効型硝酸薬(舌下錠、スプレー式口腔内噴霧薬)を用いる。高齢者など、口腔粘膜が乾燥しやすいヒトにはスプレーが有効。

2] 種類・剤型により効果の発現、持続時間が異なるので、目的に合わせて選択する。

3] 速効性のものは発作の寛解に、持続性のものは発作の予防に使用する。nitroglycerinは急性心不全には第1選択薬である。

4] 不安定狭心症などの重症狭心症には、速効性で、かつ調節性に優れた持続点滴を使用する。

5] 経皮製剤は肝での初回通過効果を受けず、安定した血中濃度が得られる。

6] 一硝酸イソソルビドも二硝酸イソソルビドとの比較で、安定した血中濃度が得られる。

7] 早朝の発作に対しては就寝前に作用時間の長い経皮製剤を使用する。

8] 前負荷軽減作用を有し、心不全治療薬としても使用され、特にnitroglycerinは基礎疾患が何であれ、急性心不全に対する第1選択薬である。

9] 長期使用による予後改善効果は明らかではない。硝酸薬のうち持続型のもの(貼付薬、持続点滴)では、長期使用により薬剤耐性が生じることがある。

10] 血圧が低下することがあるので、特に脳血管障害のある高齢者では注意が必要である。

11] 速効型硝酸薬を使用した場合、2-3分で軽快する。軽快しない場合には、5-10分間程度の間隔で、2錠まで使用し、それでも効果がない場合には心筋梗塞や大動脈解離など他の疾患の可能性もあり、医師へ連絡する。

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

nitroglycerin
ニトロペン錠(日本化薬)
ニトログリセリン錠

(日本化薬)

30sec.-1 min.(舌下錠) 10-30  min.
バソレーターRB2.5貼付錠 (三和化学) 5 min.
(発作寛解不適)
約8 hr.
ミオコールスプレー
(トーアエイヨー)
1-2 min. 20-30  min.

ミリスロール注(日本化薬)
ニトログリセリンACC
(三菱ウェルファーマ)
バソレータ注(三和化学)

30 sec.-1 min. 一過性
ミリスロール冠動注用
(日本化薬)
   
バソレータ軟膏
(三和化学)
15 min.[IF,1996.1] 約6-8 hr. [IF,1996.1]

ニトロダームTTS

(ノバルティス)
ミリステープ(日本化薬)
ヘルツアーS貼付剤(大鵬)
バソレータテープ

(三和化学)

貼付約1 hr.後 貼付除去する12-24hr.後まで

amyl nitrite
亜硝酸アミル(第一三共)

30 sec.以内 約4-8 hr.

isosorbide dinitrate

[ISDN]
(二硝酸イソソルビド)
ニトロール錠(エーザイ)

2 min.前後(舌下投与)
15-30 min.(経口)

1.5-2 hr.(舌下投与)
3-6 hr.(経口)

ニトロールRカプセル
(エーザイ)
30-60 min. 8-12 hr.
ニトロール注(エーザイ) 直後[IF,1994.4] 5-60min. [IF,1994.4]

isosorbide dinitrate

[ISDN]
(硝酸イソソルビド)
ニトロフィックス貼付錠

(キッセイ)

non data [IF,1994.1] non data[IF,1994.1]

フランドルテープS貼付剤
(トーアエイヨー)
アンタップR(帝人)

 

48 hr.-50.4 hr.
       [IF,2000.12]

ニトロールスプレー
(エーザイ)
約1-2 min[IF,1994.2] 30-120min[IF,1994.2]

isosorbide mononitrate

[MSDN]
(一硝酸イソソルビド)
アイトロール錠

(トーアエイヨー)

約5 min(舌下)
        [IF,2001.1]

7時間以上
        [IF,2001.1]

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
2)高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;MEDSi,2002
3)日本薬剤師会・編:病気と薬剤 改訂第4版;薬事日報社,1996

  [015.11.NIT:2005.11.15.古泉秀夫]

「ヒドラジン(hydrazine)の毒性」

金曜日, 12月 5th, 2008
対象物 ヒドラジン(hydrazine)
成分

ヒドラジン(hydrazine)、CAS No.302-01-2。別名:hydrazine anhydrous。N2H4=32.05。無色透明でアンモニアに似た液体。比重:1.013、引火点:38℃(密閉式)、融点:2℃、沸点:113.5℃。水、アルコールに溶ける。爆発し易い。塩基性で非常に還元されやすい。金属酸化物-水銀、銅などの酸化物及び多孔性酸化物と接触すると炎を発して分解する。

一般的性状

hydrazineは僅かにアンモニア臭を有する還元力の強い、塩基性の無色の液体で、非常に吸湿性があるとともに、大気中から二酸化炭素及び酸素を吸収する。水、アルコール、アンモニア、アミンなどの極性溶媒と混和し、炭化水素及びそのハロゲン置換体のような非極性溶媒には不溶。空気中では180℃でアンモニアと窒素に分解し、ハロゲン、硝酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム等と激しく反応する。水溶液は銅の触媒により分解する。強アルカリ性で腐食性が強く、ガラス、ゴム、コルクなどを侵す。

無水hydrazineはロケット燃料に用いられる。水加物プラスチック発泡剤製造用、還元剤、農薬(植物成長抑制剤及び除草剤製造用)、エアーバック用起爆剤。

水加hydrazineはプラスチック発泡剤やエアバッグ起爆剤などに使われている。また高圧ボイラー水(缶水)には溶存酸素を除去するために防蝕剤としてhydrazineが添加されている。このボイラー缶水を誤って飲用し、中毒する事例が多い。

爆発限界:2.9-100%(hydrazine、無水)、熱するか火焔に触れさせるか、酸化剤と反応させると、激しく爆発することがある。

保管条件:容器は密栓し、冷暗所に保管する。

毒性

許容濃度:0.1ppm、0.13mg/m3(皮膚)、ACGIH:0.01ppm(TWA)(皮膚)。IARC2B。強アルカリ性で皮膚を侵し、その他粘膜などに強い腐食を与える。急性経口毒性LD50:60mg/kg(ラット)。
吸入や経皮吸収又は経口にやって曝露される。皮膚や粘膜を刺激又は腐食する。

症状

全身作用として痙攣誘発作用、肝障害溶血作用がある。水加ヒドラジン中毒による死亡例では脱力、嘔吐、ふるえ等があり、死亡時の病理所見は重度気管・気管支炎、肝の脂肪変性、腎炎が見られた。発癌性として国際がん研究機関は2B(ヒトに対して発癌性があるかもしれない)としている。
吸入蒸気は粘膜刺激性、吸収は脊髄痙攣や溶血、時に過度体温上昇と糖分酸化増加が起こる。中程度の中毒も、肝壊死により数日以内に死に至ることがある。経口摂取は疲労、めまい感と眩暈食欲喪失、胃炎と下痢などを起こす。中毒性肝炎と貧血が多量投与後に起こる。hydrazine塩類は刺激的であり、腐食的である。本剤に触れると皮膚や粘膜の灼熱感を生ずる。

処置

眼に入った場合:流水で十分に洗う。

皮膚に付いた場合:大量の温水及び石けん水でよく洗浄する。

吸入した場合:新鮮な空気の場所に移し安静に努める。

救急処置はアルカリと同じなので参照する。

中枢神経症状には大量のビタミンB6(ピリドキシン)静注が特効薬として作用する。25mg/kgを3時間かけて静注する。一部を筋注してもよい。症状が取れない時には5-10分毎に25mg/kgずつ増量し、1回300mg/kgを超えない範囲で静注する。pyridoxineの長期大量投与で、神経障害が起きることがある。痙攣が止まらない場合はdiazepam 5-10mgを緩徐に静注又は筋肉内深く注射する。

メトヘモグロビン血症に対してはメチレンブルーの点滴をする。溶血、メトヘモグロビン血症が現れ、hydrazineによる腎毒性が出ていないうちであれば強制利尿で尿量増加を図る。

事例

米国国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官がAPに対し「被害を減らす手だてを検討している」と述べ、衛星が落下することを認めた。衛星の詳細は機密のため、明らかにされていない。米国ではL-21と呼ばれる偵察衛星が2006年の打ち上げ直後に交信不能になり、高度約350キロを漂っていると報道されたことがある。

過去、軌道上から落果した構造物は、2001年のロシアの宇宙ステーション・ミール(130t)が最大。これに次ぐ大きさの米スカイラブ(80t)は1979年、制御不能で破片の一部がオーストラリアに落果した。APは今回の衛生を10tと伝えている。

ロケットや衛星の推進剤に使われるヒドラジンは、無色透明でアンモニアに似た刺激臭のある液体。吸い込む肺水腫を引き起こす恐れがある他、眼に入ると失明する危険性もある[読売新聞,第47379号,2008.1.28.]。

備考 ある日突然、打ち上げた衛星が軌道を外れ、落下してくる。それには有害なhydrazineが大量に積まれており甚だ危険だといわれたとしても、それじゃどうすればいいんだとしかいいようがないじゃないか。しかも何処に落ちるか判らないなんぞといわれたのでは立つ瀬がない。しかし、完全に費消する量を積んでおけばいいのに、何故余分な量を積み込んでいるのか。最も計算通り軌道を遊行するのではなく、なかには勝手な判断でやめる奴が出てくるのかもしれないが、今回の衛星みたいに宇宙で爆破するなんてことを繰り返していると、それこそ宇宙が塵だらけということになりかねないが、果たして衛星を打ち上げているお国の方々はどうされるのであろうか。
文献

1)14303の化学商品;化学工業日報社,2003
2)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.HYD 記入日 2008. 5.8.

「二つの叶神社」

金曜日, 11月 28th, 2008

      鬼城竜生

 

7月3日(木曜日)京浜急行の車内広告で見た『叶』神社に行くことにしたが、珍しくかみさんが行くというので一緒に出かけることにした。目的地の浦賀は、快特で堀ノ内まで行き、堀ノ内で浦賀行きに乗り換えるか、川崎で浦賀行きの特急に乗り換えるかの二つの叶神社-01 行き方がある。

目的地の 「叶」神社は、浦賀駅を起点にして港で東西に別れており、浦賀の渡しを使って浦賀海道(市道2073号)を利用してお参りする。

浦賀港はペリー来航の地として知られる港町で、“三浦半島きままに散歩マップ付浦賀駅周辺”では、浦賀の歴史を尋ねて、開国の港町「浦賀」を巡る約1時間30分(約5km)のコースとされている。

浦賀駅を降りて先ず右側の道を取り、西浦賀に向かう。ところで最初に出てくるのが『大衆帰本塚』である。これは何かといえば、元治元年(1864)浦賀奉行所の大工棟梁・川島平吉の発案により、奉行の大久保土佐守が賛同し、篆額は大畑春国が記したとされている。碑文は、浦賀奉行所与力・中島三郎助の筆致をそのまま刻んだもので、「此和多理能むかしのさまをおもう尓」で始まる流麗な筆致の平安疑古文は、 この土地が開発される以前の様子を記し、ここで命を落とした先人たちの思いを忘れぬようにとの思いを伝えるものだとされている。この碑文を書いた中島三郎助は、ペリーが率いる4隻の黒船が浦賀の港に入った時、黒船に最初に乗り込んで折衝を行った人だという。

次に『荒巻稲荷』が出てくるはずであるが、これが解り難くてウロウロしていた時に、若い男性に声をかけられ、『叶神社-02荒巻稲荷』を探して いるといったところ、眼の前にある信金に案内され、地図を調べていただいた。その結果、辿り着くことが出来たが、“江戸後期に造られた社で小さいが豪華な彫刻で飾られている”という、地図の案内文に欺されたということである。小さいが豪華な彫刻というのが、社にまで掛かるとは思わないからそれなり のものを探していたのだが、何の飾りもない派手な建物が出てきて、その中に小さな社ごとしまい込まれているということで、豪華な彫刻はよく解らなかった。しかし、親切に対応していただいた某信金の若い方には感謝したい。

今は閉鎖されているという浦賀ドックの塀を右手に見て『西叶神社』に到着した。京都神護寺の文覚上人が源氏の再興を祈願して石清水八幡宮を勧請したもので、平家が滅亡しその願いが叶ったことから『叶明神』の称号が与えられたとする伝承があるという。

『西叶神社』の社は天保13年(1842年)に建造されたもので、社殿を取り巻く総数230を超える彫刻は安房の彫刻師“後藤利兵衛”の作品だとされている。拝殿の格天井の花鳥の彫刻には、当時の日本には渡来していないとされる花や鳥も彫られているという。棟柱を担ぐ力士像も彫られており、これは外からも直ぐ気が付く位置に彫られている。

叶神社-03 西叶神社にも鏝絵があり石川善吉の大正後期の作品であるとされている。左側に水瓶を割る子、右 側に割れる水瓶より流れる水の中から童子が顔を覗かせ、助けられた一瞬の出来事を漆喰で表現しているという記述が“三浦半島散歩”に見られるが、残念ながら現物を見ることは出来なかった。

  西浦賀側に『陸軍桟橋、為朝神社、浦賀奉行所跡、燈明堂』等、まだ回るべき処は残っていたが、東浦賀に移ることにした。

当人は既に体力は戻ったものと思っていたが、判断が甘かったようで、暫く入院していた後遺症が残っていたようである。年齢的な点もあり、約1カ月では元に戻るということはなかったようである。僅かな距離を歩いただけなのに、足に錘が張り付いたようになってきていた。

浦賀の渡しで東岸に渡り、直ぐに『東叶神社』を訊ねた。社務所の裏の井戸は、勝海舟が咸臨丸による太平洋横断前に、水垢離をした後、明神山山頂で断食したという話が伝承されているという。『東叶神社』拝殿前の狛犬は、それぞれ子供を抱いており、右側の狛犬は子供に乳を飲ませている。また普通狛犬は、口を開けた「阿形」と口を閉じた「吽形」で一対をなしているが、『東叶神社』の狛犬は、口を閉じているように見えるが、『西叶神社』の狛犬が両方とも口を開けているように見えることから東西で「阿形」「吽形」を示しているのではないかとする説もあるとされている。 

次に『東耀稲荷』によった。天明2年(1782年)の創建で、食保命(うけもちのかみ)を祀っているとされる。さほど大きくないが、欄間や格天井等に見事な彫刻がされていると紹介されているが、御開帳の時以外は見られないのではないか。また、正面の大棟には、かって見事な鳳凰の鏝絵があったが、修理の際に再現できる技術者 がおらず、漆喰塗りに なってしまったというが、再現できる技術者が本当に探してもいなかった のかどうか。左右隅棟の上には恵比寿・大黒天の飾り瓦が乗っている。案内冊子によるとこれも『干鰯』で栄えた東浦賀の反映振りが偲ばれるとしているが、それほどの瓦かという気がしたが、それは当方が瓦に暗いということの結果かも知れない。

最終的に水分補給ということで、駅前の精養軒で珈琲を飲み、帰ってきたが、かみさんが一緒だったお陰で、もし万一の時などという心配をせずに歩くことが出来た。ただ、今回の浦賀巡りで、鏝絵の評判が高い神社等には足を運んでいないのと、『東叶神社』の境内である明神山に登っていないということで、再度足を鍛えて巡る必要があると思っている。
東岸叶神社で“相模国東浦賀鎮座 叶神社由緒略記”を頂戴した。それによると明神山に本殿(奥の院)があるとされており、奥の院を拝見しなければ、行ったことにはならないのではないかと思っている。
当日の歩行数10,338歩と出たが、若干少なかったのではないかというのが正直なところである。

      (2008.8.2.)

『タミフルその後』

金曜日, 11月 28th, 2008

        魍魎亭主人

 

2008年8月3日の毎日新聞朝刊に次の記事が掲載された。

『インフルエンザ治療薬「タミフル」(一般名リン酸オセルタミビル)を高濃度に投与されたラットは、神経伝達物質「ドーパミン」が異常に増加することを、加藤敏・自治医科大教授(精神医学)らが突き止めた。研究チームの吉野達規客員研究員は「ヒトの異常行動との関係は不明だが、タミフルが脳の機能にどんな影響を及ぼすのか精査したい」としている。

研究チームは、体重200-250グラムのラット(生後約2カ月、ヒトの10代に相当)を3群に分け、それぞれに2種の異なる濃度のタミフル水溶液と、水だけを投与。脳内ドーパミンの量を直接測定できる手法を使い、検出可能な4時間後まで測定した。

タミフルを投与したラットは、1時間後から脳内ドーパミンの量が増加。4時間後には体重1キロ当たり25ミリグラム(ヒトの幼小児1回投与量の12.5倍に相当)のタミフルを投与したラットでは、水だけを投与したラットに比べドーパミンの量は約1.5倍に増えていた。100ミリグラム(同50倍)を投与したラットでは約2.2倍になった。さらに、投与後10分以内に腹を上にした状態が数分間観察された。

一方、別の神経伝達物質「セロトニン」の量は、タミフルを投与してもほとんど変化しなかった。

ドーパミンが過剰に分泌されると幻覚などを起こすとされる。タミフルを飲んだ10代が飛び降りなどの異常行動を起こし、厚生労働省作業部会が、タミフルと異常行動の関連を検討している。ラット実験ではタミフルや、その代謝物が感情や行動に影響するデータは得られなかったと報告されている。』

インフルエンザ治療薬タミフルと異常行動との因果関係を調べていた厚生労働省研究班の大規模調査で、データ処理のミスが見つかり、同省は5日、調査結果を再検討すると発表した。

研究班は先月、「因果関係は見いだせなかった」と結論付けており、8日に同省の薬事・食品衛生審議会安全対策調査会を開いて、他の研究班の調査結果も合わせ、「10代へのタミフル使用の原則禁止」措置の解除を最終判断する運びになっていた。調査会は来月以降に延期された。

誤りが見つかったのは、インフルエンザ患者1万人を対象にした大規模疫学調査(分担研究者:広田良夫大阪市大教授)。先週末に開かれた研究班会議で、データ集計を委託した民間会社からデータの一部が誤って処理されていたと報告があった。

最初に発熱した時刻や、初診日時のデータの一部を、別の項目に組み入れていたという[読売新聞,第47570号,2008.8.6.]。

厚生労働省の研究班は、7月8日に薬事・食品衛生審議会安全対策調査会を招集して、「10代へのタミフル使用の原則禁止」措置の解除を最終判断する運びになっていたとされる
しかし、8月3日の毎日新聞の朝刊に、動物実験の結果とはいえ、『タミフルを高濃度に投与されたラットは、神経伝達物質「ドーパミン」が異常に増加する』ことを突き止めたとする記事が掲載された。厚生労働省は製薬会社が実施した動物実験の結果、あるいは大規模疫学調査の結果を受け、「10代へのタミフル使用の原則禁止」の記載を添付文書から削除することを決めていた。そこへこの報告である。どうする気なのかと思っていたら大規模疫学調査の集計ミスが見つかったということで、会議の延期を決めてしまった。

大規模疫学調査の集計がおかしいというのは、早い時期に何人かの医師が声を上げていたといわれており、再検証が必要であるなら何もこの時期に変更をいうのではなく、もっと早い段階で再検証を下請け業者に命じるべきではなかったのか。それにしても資料が公表された早い段階で、報告内容に疑義を差し挟む意見が出されていたにも係わらず、分担研究者の広田良夫大阪市大教授は、委託業者から集計処理に誤りがあったとの申し出あるまで気が付かなかったということか。それとも幕引きを急いだ外圧に、屈したということか。

       (2008.8.8.)

『花山曼陀羅-山百合-妙音寺』

金曜日, 11月 28th, 2008

鬼城竜生

6月27日(金曜日)かねて計画していた三浦海岸の妙音寺に出かけることにした。この寺は「花散歩 神奈川を歩く(ブルーガイド編集部・編:実業之日本社,2003)」に、通称、花山曼陀羅といわれ、1都6県にまたがる『東国花の寺 百ヶ寺』76番、山ゆりの寺でしられる。三浦への玄関口となる三崎口から15分の山間に位置する。裏山は『花山曼陀羅』と称し、1年を通し、まさに花の寺を思わせる妙音寺-01 四季折々の花が咲き乱れる。また、山内には174体の石仏が安置されており、浄土の世界が表されている。特に6月半ばに咲くヤマユリはみごと。裏山一体には2000株が生育し、優雅な気品と高貴な香を醸し出している。とする案内文の内『ヤマユリ2000株』に惹かされたということである。

一寺の裏山が如何に広いとはいえ、地平線が見えない程の広さというのでは無いだろうから、2000株のヤマユリが見られるというのは、十分に興味を引きつける話題である。
「三浦半島きままに散歩マップ付三浦海岸」を片手に三崎口駅に降り立った。駅の近辺で飯屋を探したが、普通の日のしかも時分時を逃がしているということで、開いているところが無く、駅側にあった立ち食い蕎麦屋で、昼食を片付けた。

さて歩く段になって困ったのは、地図に掲載されている観光ボランティアガイド推奨コースとは全く違う道を歩くため、正確に道を拾っているとはいえないということと、駅から15分という時間の設定が合いそうもないと思われたことである。

しかし、取り敢えず地図に従い国道134号を左に、沿線沿いに野菜直売所が点在しているという案内通り、野菜や果物を販売している小店が所々見られたので、道はまちがいないということで直進した。次に“引橋”の三叉路で左に入り、引き続き国道134号を道なりに直進する。しかし、どう見ても15分以上は歩いているにも係わらず、辿り着きそうもなかったため、前から来た老婆に妙音寺の場所を聞いたところ、この先に”半次”のバス停があり、コンビニを過ぎたところで左に入れば行けますよということであった。

妙音寺-02 その途中で左手の前方に観音の上半身が見えたが、先ずはそこが妙音寺ではないかと思われたが、まだ道半ばという距離に思えた。兎に角”半次”目指して歩いている内に、寿司割烹豊魚なる鄙には稀な店があり、その他ジャンボ市場三崎生鮮なる店もあった。

”半次”のバス停を過ぎて直ぐに左の道に曲がり、暫く行くと妙音寺の案内が見られた。まるで山道なので、道が正しいのかどうか迷ったが、案内に従って左に曲がると、何とえらい坂道を下るということで、帰りにここを通るのは骨だなというのが率直な感想。

坂道を下りきると明るい開けた場所に出て、眼の前に寺の入り口が見えた。

妙音寺の宗旨は『高野山真言宗』である。飯盛山明王院妙音寺。妙音寺の御本尊は『不空羂索観世音菩薩(ふくうけんじゃくかんぜおんぼさつ)』である。本寺の寺史は「新編相模国風土記稿」によれば、今から400年ほど前(天正年間、1580年代)に中興の祖、賢栄法印により、「昔の寺地、妙音寺原(現在地より北へ2kmの台地)より移し、建設されたもの」とある。当時は戦国大名の一人である小田原北条氏の雨乞いの祈願所として庇護を受けていた。その後、江戸時代に入り、長期にわたる無住職時代や明治時代の廃仏毀釈令、戦後の二町歩にも及ぶ農地解放等各時代に於いて、盛衰をきわめたが、大師信仰を求める地域信者や檀信徒の献身的な努力により伽藍や境内の維持がなされてきた。

本尊の不空羂索観世音菩薩は江戸初期のものとされている。また、諸仏には弘法大師、末那板不動明王(秘仏、12年に一度、酉年4月28日より1ヵ月間開帳)、ぼけ封じ白寿観音、迦陵頻伽、地蔵尊、鶴園福禄寿、(三浦七福神の1つ。毎年元旦より1月15日まで開帳)が祀られている。

鶴園福禄寿は、花妙音寺-03山曼陀羅の一尊として勧請され、経典を結んだ杖を携え、鶴を伴っているところから鶴園福禄寿ともいわれ、南極星の化身とも、中国宋の道士天南星の化身ともいわれ、福徳、財宝、長寿の三徳を備えると伝えられている。また、本寺は逗子延命寺の末寺。本尊のお不動明王は、俎板に彫られたもので末那板不動とも称され、三浦不動 15番札所「三浦大師」にもなっている等の案内がされている。

ただ、残念だったのは、圧倒的に紫陽花が多く、本命の山百合はあまり見られなかったということである。最も塀の向こう側の山の斜面に極く一部山百合の群生が見られたが、『花山曼陀羅』と称している寺の裏庭の部分には、あまり見られなかった。山百合は野生の百合であり、手を加えられるのを嫌うのではないかとおもわれた。事実、寺の発行している小冊子、6月の山百合の写真が表紙を飾るパンフレットの中で住職の発言として『一つは半日日陰。日照時間が12時間ぐらいだとすると、6時間位は日陰になるところがいい。全く日陰でも駄目。日が当たりすぎても駄目なようです。二つ目は、百合の球根の回りにある程度、草があること。そして三つ目は、平らな花壇などでは水はけが悪く、球根が自らを守るために出す有機物が、逆に球根を腐らせてしまう。当山のような傾斜地だと水はけがよく有機物を流してくれるので、どうやら山ゆりには傾斜地が適しているようなんです。他にも肥料の与えすぎはもちろんのこと、消毒もあまりやり過ぎるといけないようで、簡単に言うと、ごく自然の状態がいいようですね』というのが見られる。

もう一度群生が見られるのかどうかは、自然相手のことであり予測不能であるが、一部でも復活してくれれば、見る方としては楽しみが増えるということだろう。

妙音寺-04 回遊方式の道が造られており、至る所に石仏が見られるが、仏典に基づく各種の仏の像で、面白い姿をした石像が見られる他の寺の石像とは違った趣が得られたが、何よりの収穫は偶然”おびんづる(御賓頭廬)さま”の石像に気付き写真が撮れたことである。これは他の文書で使いたい写真ということで、見つけたら撮りに行こうと思っていたものだけに、ここで手に入れられるとは思ってもいなかったものである。

寺の門前に立った時、左手に高架の上を走る電車が見えたので、御朱印を戴く時に門の前の道をまっすぐに行くと京急三崎口駅に出るんですかとお伺いしたところ、そうですということなので、「来る時は”半次”から坂を下って来たんですが、登は避けたいと思っていたので……」、「ここは谷底ですから坂が多いです……」ということなので、兎に、角鉄橋を目指した歩いていたら開発された新興住宅地に続いてマンション群があらわれ、あっという間に駅に着いてしまった。

案内にいう15分は、どうやらこの道程を辿るための時間だったようである。宅地開発のために道程が短くなったとすると、喜ぶべきことか否かは不明である。しかし、来る時は”半次”経由で来ることをお奨めしたい。さもないと歩数が稼げない。当日の歩行数10,978歩。歩いたなという気持ちからすると、何これだけという感じである。尚、寺の紹介は頂戴した二つ折りの記載内容を流用させていただいた。

(2008.7.19.)

「ヘルベッサーとクレープフルーツの相互作用」

金曜日, 11月 7th, 2008

KW:相互作用・ヘルベッサー・ジルチアゼム塩酸塩・グレープフルーツ・grapefruit juice・Ca拮抗剤・生物学的利用率

Q:ヘルベッサーとグレープフルーツの相互作用は報告されているか

 

A:ヘルベッサー(田辺三菱)はジルチアゼム塩酸塩:diltiazem hydrochlorideを成分とするCa拮抗剤である。その承認適応症は狭心症、異型狭心症・本態性高血圧症(軽症-中等症)である。添付文書中にgrapefruit juiceとの相互作用は記載されていない。

代謝に関与する酵素(CYP450等)の分子種:該当資料無

grapefruit juiceによる経口投与後のAUC、Cmaxの変化率(%)

bioavailability(生物学的利用率) 薬品名 ACU変化率(%) Cmax変化率(%)
30-40% diltiazem 110 102

本薬服用時のgrapefruit juiceの影響については、上表に見られる通り殆ど影響を受けていないと考えられる。

従って、本薬服用時のgrapefruit juiceの飲用は特に問題はないものと考えられる。

 

1)ヘルベッサー錠添付文書,2007.10.
2)ヘルベッサー錠IF,2008.2.
3)中野重行・他編:臨床薬理学第2版;医学書院,2003

 

[015.2.DIL:2008.8.8.古泉秀夫]

「添付文書中の重篤な高血圧症について」

金曜日, 11月 7th, 2008

KW:副作用・使用上の注意・投与禁忌・慎重投与・重篤な高血圧症・本態性高血圧・二次性高血圧

Q:添付文書の使用上の注意として記載されている『重篤な高血圧症』の基準はどの程度の基準と考えればよいのか

A:高血圧症は、病因による原因を特定できない本態性高血圧と原因の明らかな二次性高血圧に分類されている。高血圧患者の90%以上が本態性高血圧であり、家族内に高血圧者がおり、男性では40歳代、女性では閉経後に発症することが多いので、その原因には遺伝的因子と環境因子の関与が考えられている。

二次性高血圧は、原因により

?腎性:腎疾患が原因となるもので、腎実質性(糸球体腎炎、腎盂腎炎、嚢胞腎、腎癌、糖尿病性腎症、痛風腎、水腎症、腎移植後、レニン産生腫瘍等)。腎血管性(線維筋性過形成、粥状動脈硬化、大動脈炎症候群等)。
?内分泌性:ホルモンの分泌異常が原因となるもの
?心臓血管性:心臓、血管疾患が原因であるもの
?神経性:脳血管障害、急性頭蓋内圧亢進症、多発性神経炎等
?薬剤性:副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)、経口避妊薬、エストロゲン剤、グリチルリチン製剤、甘草、非ステロイド性消炎鎮痛剤等
?その他:アルコール慢性摂取

等が報告されている。

尚、日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン2000年版の血圧分類によれば、収縮期血圧と拡張期血圧から重症度の分類が行われている。

分類 収縮期血圧(mmHg)   拡張期血圧(mmHg)
軽症高血圧 140-159 又は 90-99
中等症高血圧 160-179 又は 100-109
重症高血圧 ≧180 又は ≧110

分類は軽症・中等症・重症高血圧の3段階とされており、重症高血圧の場合は臨床状態により直ちに治療を開始することになるとされている。
次に添付文書中に『重篤な高血圧症に禁忌・慎重投与』の記載のある薬物の一部を紹介する。

禁忌

分類 一般名 添付文書の記載 理由
鎮痛・抗炎症剤 diclofenac sodium 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
非ステロイド性鎮痛・抗消炎剤 etodolac 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させることがある。
鎮痛・抗炎症剤 flurbiprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用による水分・Na貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
抗炎症・鎮痛・解熱剤 ibuprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用による水分・Na貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
鎮痛・抗炎症剤 piroxicam 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用により、水分、Naの貯留が起こるため、高血圧症を悪化させることがある。
鎮痛・抗炎症・解熱剤 pranoprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成抑制作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧が更に上昇するおそれがある。
非ステロイド性消炎・鎮痛剤 proglumetacin maleate 重篤な高血圧症の患者 prostaglandin合成阻害作用により水分・Naの貯留が起こるため、血圧が更に上昇するおそれがある。
切迫流・早産治療剤 ritodrine hydrochloride 重篤な高血圧症の患者 過度の昇圧が起こるおそれがある。
血栓溶解剤(rt-PA製剤)

alteplase

重篤な高血圧症の患者 脳出血を起こすおそれがある。
線維素溶解酵素剤 urokinase 重篤な高血圧症患者 出血を惹起し、止血が困難になるおそれがある。
切迫流・早産治療剤 ritodrine hydrochloride 重篤な高血圧症の患者 過度の昇圧が起こるおそれがある。

 

慎重

分類 一般名 添付文書の記載 理由
局所麻酔剤 mepivacaine hydrochloride(JAN) 重篤な高血圧症、心弁膜症等の心血管系に著しい障害のある患者 血圧低下や病状の悪化が起こりやすいので、患者の全身状態の観察を十分に行うこと。
蛍光眼底造影剤 fluorescein 重篤な高血圧症の患者 血圧の変動を起こすおそれがある。
疼痛治療剤(局所注射用) dibucaine hydrochloride 重篤な高血圧症 硬膜外ブロックにより低血圧が起こりやすい。

 

何れにしろ重篤な高血圧症の患者に投与した場合、血圧上昇・低下等の血圧変動が見られるため、投与禁忌・慎重投与の注意を求められるもので、『重篤な高血圧』の基準は、日本高血圧学会・高血圧治療ガイドラインの分類を参照する。

1)大内尉義・他編:疾患と治療薬 改訂第5版;南江堂,2003
2)高久史麿・他監訳:第10版ワシントンマニュアル;MEDSi,2005

    [065.ELE:2007.9.16.古泉秀夫]

『麻薬製剤の作用特性-作用発現時間・持続時間』

金曜日, 11月 7th, 2008

[1]アヘン(opium):主成分のmorphineの他、各種のalkaloidを含有しており、これらが協力・拮抗しているため、その作用はmorphineと同一ではなく、またmorphineより毒性は弱い。中枢神経に対してはmorphine同様に抑制的に作用するが、鎮痛、鎮静、呼吸抑制作用はmorphineに比して弱い。腸管に対する作用強力(4倍)。連用で薬物依存。

[2]アヘン・トコン散(opium ipecac powder): 鎮痛、鎮静、呼吸抑制作用はmorphineに比較して弱い。腸管に対する作用強力。トコン末により気管支分泌物液化、痰喀出。連用で薬物依存。

[3]アヘンアルカロイド塩酸塩(opium alkaloides hydrochloride):アヘン中の主要アルカロイドであるmorphine、narcotine、papaverine、thebaine等の塩酸塩含有。主成分であるmorphineの鎮痛・鎮痙・止瀉作用、papaverineの鎮痙作用があるが、副alkaloidにより毒性、呼吸抑制作用はmorphineより弱いが、反射興奮性はmorphineより強い。連用で薬物依存。

[4]アヘンアルカロイド・アトロピン(opium alkaloids and atropine):2種配合により鎮痛・鎮痙・鎮静作用増強。atropine配合により悪心・嘔吐・発汗抑制。連用で薬物依存。

[5]アヘンアルカロイド・スコポラミン(opium alkaloids and scopolamine):鎮痛・鎮痙作用増大、精神作用及び運動中枢を著明抑制。連用で薬物依存。

[6]モルヒネ塩酸塩水和物(morphine hydrochloride hydrate):鎮痛作用強力、鎮静、鎮咳、止瀉作用有する。連用により中毒を起こす。経口投与時主として小腸から吸収され、肝臓で代謝されるため、未変化体morphineは平均1/3量が循環血液中に入るのみである。注射投与は肝臓を経由しないので、同等の効果を得るのに必要な投与量は、経口投与量の1/3-1/2の量である。morphineには有効限界量(ceiling effect)がないので、副作用に注意すれば必要な増量が何時でも可能である。鎮痛効果を目的に使用した場合、便秘・催吐作用は鎮痛有効血中濃度で発現するが、呼吸抑制・催眠作用はより高い血漿中濃度で発現する。morphineの作用はnaloxone、levallorphan等の麻薬拮抗薬によって拮抗される。連用で薬物依存。

[7]硫酸モルヒネ(morphine sulfate):徐放性製剤で、中等度以上の癌疼痛に対して鎮痛効果が得られる。連用で薬物依存。

鎮痛効果の比較

一般名 鎮痛作用
codeine phosphate morphineの強さの約1/12
codeine phosphate hydrate morphineの強さの約1/6
compound oxycodone and atropine morphineの強さの約4倍
dihydrocodeine phosphate morphineの強さの約1/10・約1/3
fentanyl citrate morphineの強さの約80倍
oxycodone hydrochloride morphine sulfateの約3-4倍強い
pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate morphineの強さの1/8

[8]モルヒネ・アトロピン(morphine hydrochloride・atropine sulfate):morphineとatropineの相互作用により鎮痛・鎮痙・鎮静作用増強。atropineの作用によりmorphineによる催吐、呼吸抑制作用減弱。連用で薬物依存。

[9]塩酸エチルモルヒネ(ethylmorphine hydrochloride):コデインに類似し強力な鎮咳作用と鎮痛作用を有する。点眼により眼局所血管の拡張をもたらし血行、リンパ液の循環を促進する。連用で薬物依存。

[10]オキシコドン塩酸塩水和物(oxycodone hydrochloride hydrate):アヘンからmorphineあるいはコデインを抽出する過程で排出されるテバインを原料として合成。morphineと同様μオピオイド受容体を介して鎮痛作用を示すと考えられている。女性ではCmax、AUCともに男性の約1.4倍高い。morphine経口剤を本剤に変更する際、morphine製剤1日投与量の2/3量を1日投与量の目安とする。本剤の鎮痛作用にはmorphineと同様有効限界(ceiling effect)がない。連用で薬物依存。

[11]複方オキシコドン(compound oxycodone):作用発現が速く、鎮痛作用はmorphineの約4倍強力。連用で薬物依存。

[12]複方オキシコドン・アトロピン(compound oxycodone and atropine):複方オキシコドンと同様の作用機序であるが、atropineの配合により副作用が軽減される。連用で薬物依存。

[13]コデインリン酸塩水和物(codeine phosphate hydrate):鎮咳作用は強いが、鎮痛作用はmorphineの約1/6、鎮痙作用は約1/4である。連用で薬物依存。

[14]ジヒドロコデインリン酸塩(dihydrocodeine phosphate):codeine phosphateより強い鎮咳・鎮痛作用を持っており、特に鎮咳作用はcodeine phosphateの約2倍強力である。また止瀉作用を持っている。連用で薬物依存性。

[15]オキシメテバノール(oxymetebanol):codeine phosphateの1/10量、デキストロメトルファンの1/5量でほぼ同等の鎮咳効果を有する。連用で薬物依存。

[16]塩酸コカイン(cocaine hydrochloride):粘膜に用いる知覚神経末梢を速やかに麻痺し、局所麻酔作用を示す。吸収されると中枢神経興奮作用を示し、筋肉の疲労感を一時遮断する。精神依存。

[17]塩酸ペチジン(pethidine hydrochloride):morphine様の鎮痛・鎮静作用の他、atropine様の抗コリン作用、パパベリン様の鎮痙作用がある。連用で薬物依存。

[18]クエン酸フェンタニル(fentanyl citrate):非常に強い鎮痛作用があり、神経遮断薬との併用により、麻酔用鎮痛薬として優れた効果を現す。鎮痛作用はmorphineの約80倍。

[19]フェンタニル(fentanyl):合成麻薬であり、μ-オピオイド受容体を介してアゴニストとして作用し、強力な鎮痛作用を示すと考えられている。40℃以上の発熱で薬剤放出量増加-薬理効果増強。体温3℃上昇で、Cmax2.5%増加の予想。初回貼付量:本邦では7.5mgを超える使用経験無し。連用で薬物依存。

初回貼付量選択換算表

morphine投与量 fentanyl換算量
経口 90mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)
坐薬45mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)
注射30mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)

[20]フェンタニール・ドロペリドール(fentanyl・droperidol):周囲の環境に対する無関心、自律神経系の安定、更に非被刺激性を得ることができ、患者との意志の疎通を失うことなく、大手術及び長時間の手術が可能。morphine様の薬物依存性。

[21]塩酸ケタミン(ketamine hydrochloride):皮膚、筋肉、骨の痛みに対して強い鎮痛作用を有し、手術に必要な無痛状態が得られる。作用部位は新皮質-視床系で抑制的に作用し、辺縁系を活性化する。麻酔時に咽喉頭反射が維持されているので、咽喉頭に機械的刺激を与えない。

[22]塩酸ペチジン・酒石酸レバロルファン(pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate):levallorphan tartrateにより、pethidine hydrochlorideの呼吸抑制を防止し、十分な鎮痛・鎮痙効果を示す。鎮痛作用はmorphineの1/8。連用で薬物依存。

アヘンアルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

opium
アヘン散・末・チンキ(第一三共)

non data non data(morphine参照)

opium ipecac powder
ドーフル散(第一三共)
[opium 0.1g・ipecac (吐根)0.1g/g ]

non data non data(morphine参照)

opiumalkaloides hydrochloride
オピアル注(第一三共)20mg/mL/管
パンオピン注(武田)20mg/mL/管

non data non data(morphine参照)

opiumalkaloids and atropine
オピアト注(田辺三菱)
パンアト注(武田)
[opium 20mg・atropine 0.3mg/mL/管]

non data non data(morphine参照)

opium alkaloids and scopolamine
オピスコ注(第一三共)
[opium 40mg・scopolamine 0.6mg/mL/管]
弱オピスコ注(田辺三菱)
[opium 20mg・scopolamine 0.3mg/mL/管]

non data non data(morphine参照)

morphine hydrochloride hydrate
塩酸モルヒネ錠10mg(大日本住友)・末(武田)

10-15min(経口)数分-10数分(静注・筋・皮下注)
30min(外用)

4hr.(鎮痛)
数時間(静・筋・皮下) 10時間(外用)

オプソ内服液(大日本住友)5mg/2.5mL/包 約15min 4hr.(鎮痛)
アンペック坐薬(大日本住友) 30min.(鎮痛) 約10hr.(鎮痛)
アンペック注(大日本住友) 10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)
パシーフカプセル(武田) 約50min. 24hr.(鎮痛)
プレペノン1%注シリンジ(武田) 10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)

morphine sulfate

MSコンチン徐放錠(塩野義)

約4hr. 12hr以上.(鎮痛)
カディアンカプセル・スティック(粒)(大日本住友) 約4-7hr. 24hr.(鎮痛)
ピーガード錠(田辺三菱) 約4時間 24hr.(鎮痛)

morphine hydrochloride・atropine sulfate
モヒアト注(武田)
[10mg・0.3mg/1mL/管]

10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)

ethylmorphine hydrochloride
塩酸エチルモルヒネ末(第一三共)

non data non data

oxycodone hydrochloride hydrate
オキシコンチン錠(塩野義)

約2.5-3hr.(経口) 12hr.(鎮痛)
compound oxycodone
(複方ヒコデノン)
パビナール注(武田)
直後 4-5hr.(鎮痛)

compound oxycodone and atropine(別称:ヒコアト)
パビナール・アトロピン注(武田)

直後 4-5hr.(鎮痛)

codeine phosphate (リンコデ)
コデインリン酸塩 末・錠・散(第一三共)

30-45min(経口) 2-4hr.(鎮咳・鎮静)

dihydrocodeine phosphate
ジヒドロコデインリン酸塩 末(第一三共)

non data non data

oxymetebanol(drotebanol)
メテバニール錠(第一三共)

20-30min(鎮咳) 6-8hr.(鎮咳)

コカアルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

cocaine hydrochloride
コカイン塩酸塩 原末(武田)

5-10min(経粘膜)

20-30min(局麻)
約6hr.(鼻腔内投与)

非アルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

pethidine hydrochloride
オピスタン末・注(田辺三菱)

0.5-1.5hr. 3-4hr.(鎮痛)

fentanyl citrate
フェンタネスト注(第一三共)

投与直後(静注) 30-45min(全麻)

fentanyl
デュロテップパッチ(ヤンセン)

24時間(初回貼付) 約72hr.(鎮痛)

fentanyl・droperidol
タラモナール注(第一三共)

2-3min(静注) 30min(mineralization状態)・6-12hr.(鎮静)

ketamine hydrochloride
ケタラール静注用・筋注用(第一三共)

0.5-1min(静注)
3-4min(筋注)

5-10min(全麻)
約12-25min(全麻)

pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate
ペチロルファン注・弱注(武田)
30-90min(鎮静・鎮痛・鎮痙)(皮・筋注) 3-4hr.(鎮静・鎮痛・鎮痙) (皮・筋注)

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
2)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006
3)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007
4)足立伊佐雄・他:ナースのための薬理学 第4版;南山堂,2003
5)アンペック注;IF,1995.3.
6)アンペック坐薬;IF,1999.10.
7)柏木哲夫・監訳:進行癌患者のための症状コントロール;最新医学社,1988
8)カディアンカプセル・スティック;IF,1999
9)オキシコンチン錠;IF,2003.6.
10)真野 徹:新薬展望2007-癌性疼痛治療薬;医薬ジャーナル,43(S-1):369(2007)
11)足立伊佐雄・他:ナースのための薬理学;南山堂,2003
12)財団法人日本薬剤師研修センター・編:JPDI2006;じほう,2006
13)タラモナール注;IF,2004.12.

[015.11.OPI:2007.2.27.古泉秀夫]

『閣議決定』

火曜日, 10月 21st, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                     古泉秀夫

福田首相は2008年6月17日の閣議後、舛添要一厚生労働相と会談し、医学部定員数の削減をうたった1997年の閣議決定の見直しを了承したとする報道がされていた。

舛添厚労相は『安心と希望の医療確保ビジョン会議』などで、医師増員に強い意欲を示し、「現場を見て国民のための政策を堂々と主張する」と、医師養成数増は、現場からの要請であることを強調したとされる。

1997年6月に政府が閣議決定した「財政構造改革の推進について」では、「医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組む」との内容を盛り込んでいる。

最近、医師不足が顕著になったことを踏まえて、政府・与党は昨年5月に打ち出した「緊急医師確保対策」で、全都道府県で医師養成数の暫定的な増加を容認しているが、閣議決定との整合性を図るため、将来の定員数を減らし、その分を現状の定員増に割り当てるという、姑息な手段を弄して遣り繰りをしていたようだが、いずれは限界を迎える手法にしか過ぎない。あるいは今以上に、状況を悪化させる結果を招くかもしれない。

「医療確保ビジョン会議」で、医師増員の方針を打ち出した舛添厚労相に対しても、閣議決定が『呪縛』となって、実効的な医師確保は出来ないのではないかと指摘する意見が出されていた。

今回の件は、医学部の定員を閣議決定で縛るなどという硬直的なことをしたばかりに、柔軟な対応が出来ず、医師の絶対数の不足を来してしまったということである。ある意味閣議決定さえなければ、世間の動向を見ながら文部科学省の判断で、医学部の学生数を調整することも出来たはずなのに、閣議決定に絡め取られて、何もしないまま今日の体たらくを迎えたということである。

最もこの閣議決定、役人にとってはある意味、仕事をしないための便利な口実になっている可能性もある。閣議決定があるから出来ないとか、閣議決定を取り消すことは出来ないとか、あらゆる場面で何もしない口実に使われる。

医療は誰よりも先ず医師が行動を起こすことによって仕事が始まる。つまり医師の数が多ければ、それだけ医師が仕事をし、仕事をするためには余分な患者を増やす。その結果、医療費は増大し、財政を圧迫する。

1997年6月の閣議決定では、「医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組む」としているが、その前までは1県1医科大学等という話で、医科大学の新設を進めていた。それが突然掌を返すようにこのような方策を建てたのは、高齢化社会の到来=患者数の増大、従って医療費を抑制するためには、医師の増大を極力抑えようという発想からである。

しかし、医療が必要なのは高齢者ばかりでなく、更に病人だけに必要なのではない。子供を産む場合にも、医師の存在を無視することはできない。更に最近のように、患者に対する説明だの何だのと、やかましいことを言えばいうほど、医師は手を取られて医師の数は足りなくなる。

状況を見ながら柔軟な対応が必要な医学生の数の調節を、閣議決定にしてしまったということが大いなる間違いだったということである。閣議決定に持ち込もうと考えた責任者は誰だったのか。それこそ出てきて責任を取って貰いたいものである。

      (2008.7.14.)

『花菖蒲』

火曜日, 10月 21st, 2008

鬼城竜生

かねて行きたいと思っていた『横須賀市立しょうぶ園』に、6月18日(水曜日)遂に一大決心で出かけることにした。本当は京浜急行の『汐入駅』から『しょうぶ園』まで歩きたいと考えていたのだが、何せ正確に道を辿るための地図が手に入らなかった。よこすか観光花菖蒲-01 マップ(横須賀集客促進実行委員会)に”池上十字路”から”しょうぶ園”入り口、”しょうぶ園”迄の詳細な地図は見られるが、”汐入”から”しょうぶ園入り口”迄の地図は大雑把に過ぎて初めて歩くには頼り無いと思われた。

取り敢えず”汐入駅”迄でかければ、駅に近隣の見所を案内する地図が置いてあるのではないかと思ってのことであるが、儚くも期待は消えて、地図は見あたらなかった。それ以上に驚いたのは”汐入駅”の近辺は田舎の小さな町という認識でいたが、開けすぎるぐらい開けており、先ずそれに驚かされた。更に駅前に”しょうぶ園”直通のバスが待機しており、”しょうぶ園”が書き入れ時であることが理解できた。しかし、待機中のバスは平日ということもあり、さほど混ではいなかったので、今回は歩く方針を変更して直ちにバスに乗った。

バスの進行に合わせて道路を観察していたが、さほど難しい道とは思えず、帰りは歩こうという野心を心に秘めていたが、これは大失敗に終わる。つまり行く時に左に見えた景色は帰りには右の景色になるという単純なことを忘れて帰りには“汐入駅”に辿り着くことが出来なかった。更にいえば、車の運転をしない当方とすれば、バスの窓という高い位置から確認した景色は、歩く時には全く別物に見えるということもコロッと忘れてしまっていた。

”しょうぶ園”は約3.8ヘクタールの公園に412種の14万株の花菖蒲が咲き、6月1日から6月30日迄が「花しょうぶまつり」の期間であ花菖蒲-02 る。花菖蒲の他に藤苑、石楠花苑があり、その他、睡蓮池、日本庭園も施設図には記入されている。本当はこの「ふじ苑」の藤の花を写真に撮りたいと思っていたのだが、花の時期に胆石症・胆嚢摘出等の患いで入院、その後の体力回復のための養生等、色々あって来ることが出来なかった。普通、藤の花は棚作りにされており、以前写真に撮ってみたことはあるが、平板な写真になってしまい、藤棚の写真は思った以上に上手く撮れないということを経験した。

その点、「横須賀市営しょうぶ園」の藤は、棚 作りだけ ではなく花菖蒲-03、種々の形に育てられているということなので、写真が撮りやすいのではないかと思っていたのである。今回、藤は花の時期を過ぎていたが、花の時期には是非とも写真を撮りに来たいと思わせる景が見られた。

花菖蒲は、野生の花菖蒲を原種とする純国産の園芸植物であるとされている。栽培が盛んになったのは江戸時代で、先ず武士階級の間で栽培熱が高まり、その後花菖蒲-04庶民にまで広がっ てきた。栽培が広がることにより、様々に品種が生み出されるようになった。更に栽培地も広がりを見せ、江戸を中心に発展した江戸系(五月晴・紫衣の誉・湖水の色等)、江戸系の流れをくむ肥後系(幸若の舞・三笠山等)、伊勢の 松坂を中心に改良された伊勢系(淺茅原・星月夜等)の3品種群が成立したとされる。また明治以降は、外国にも輸出され、欧米人好みに改良した品種(米国:マジックルビー等)も生まれている。

「横須賀市営しょうぶ園」は確かに威張るだけの花菖蒲が見られ、更には菅笠に紺絣を纏い、赤い襷をした女性が花殻を摘む姿は、将に画になる景色ということが出来る。更に園内の彼方此方に紫陽花の花が咲いており、今年、あちらこちらに紫陽花の写真を撮りに歩きながら、あまりいい写真が撮れずにいたが、花菖蒲と紫陽花という構図で写真が撮れたが、紫陽花は期待していなかっただけに、巧妙な天の配剤に感謝したところである。

さて帰りは断固歩くということで、「しょうぶ園」の受付の女性に「汐入駅」迄の地図はありませんかと訊ねたところ、渡された地図は”よこすか観光マップ”だった。

仕方がないということで闇雲に歩き始めたが、最終的にはJRの衣笠駅に辿り着き、商店街の蕎麦屋で蕎麦を食し、衣笠駅から逗子駅、更に川崎に出て戻ってきたが、総歩行数は11,141歩であった。

(2008.7.12.)