「添付文書中の重篤な高血圧症について」

KW:副作用・使用上の注意・投与禁忌・慎重投与・重篤な高血圧症・本態性高血圧・二次性高血圧

Q:添付文書の使用上の注意として記載されている『重篤な高血圧症』の基準はどの程度の基準と考えればよいのか

A:高血圧症は、病因による原因を特定できない本態性高血圧と原因の明らかな二次性高血圧に分類されている。高血圧患者の90%以上が本態性高血圧であり、家族内に高血圧者がおり、男性では40歳代、女性では閉経後に発症することが多いので、その原因には遺伝的因子と環境因子の関与が考えられている。

二次性高血圧は、原因により

?腎性:腎疾患が原因となるもので、腎実質性(糸球体腎炎、腎盂腎炎、嚢胞腎、腎癌、糖尿病性腎症、痛風腎、水腎症、腎移植後、レニン産生腫瘍等)。腎血管性(線維筋性過形成、粥状動脈硬化、大動脈炎症候群等)。
?内分泌性:ホルモンの分泌異常が原因となるもの
?心臓血管性:心臓、血管疾患が原因であるもの
?神経性:脳血管障害、急性頭蓋内圧亢進症、多発性神経炎等
?薬剤性:副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)、経口避妊薬、エストロゲン剤、グリチルリチン製剤、甘草、非ステロイド性消炎鎮痛剤等
?その他:アルコール慢性摂取

等が報告されている。

尚、日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン2000年版の血圧分類によれば、収縮期血圧と拡張期血圧から重症度の分類が行われている。

分類 収縮期血圧(mmHg)   拡張期血圧(mmHg)
軽症高血圧 140-159 又は 90-99
中等症高血圧 160-179 又は 100-109
重症高血圧 ≧180 又は ≧110

分類は軽症・中等症・重症高血圧の3段階とされており、重症高血圧の場合は臨床状態により直ちに治療を開始することになるとされている。
次に添付文書中に『重篤な高血圧症に禁忌・慎重投与』の記載のある薬物の一部を紹介する。

禁忌

分類 一般名 添付文書の記載 理由
鎮痛・抗炎症剤 diclofenac sodium 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
非ステロイド性鎮痛・抗消炎剤 etodolac 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させることがある。
鎮痛・抗炎症剤 flurbiprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用による水分・Na貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
抗炎症・鎮痛・解熱剤 ibuprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用による水分・Na貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。
鎮痛・抗炎症剤 piroxicam 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成阻害作用により、水分、Naの貯留が起こるため、高血圧症を悪化させることがある。
鎮痛・抗炎症・解熱剤 pranoprofen 重篤な高血圧症のある患者 prostaglandin合成抑制作用に基づくNa・水分貯留傾向があるため、血圧が更に上昇するおそれがある。
非ステロイド性消炎・鎮痛剤 proglumetacin maleate 重篤な高血圧症の患者 prostaglandin合成阻害作用により水分・Naの貯留が起こるため、血圧が更に上昇するおそれがある。
切迫流・早産治療剤 ritodrine hydrochloride 重篤な高血圧症の患者 過度の昇圧が起こるおそれがある。
血栓溶解剤(rt-PA製剤)

alteplase

重篤な高血圧症の患者 脳出血を起こすおそれがある。
線維素溶解酵素剤 urokinase 重篤な高血圧症患者 出血を惹起し、止血が困難になるおそれがある。
切迫流・早産治療剤 ritodrine hydrochloride 重篤な高血圧症の患者 過度の昇圧が起こるおそれがある。

 

慎重

分類 一般名 添付文書の記載 理由
局所麻酔剤 mepivacaine hydrochloride(JAN) 重篤な高血圧症、心弁膜症等の心血管系に著しい障害のある患者 血圧低下や病状の悪化が起こりやすいので、患者の全身状態の観察を十分に行うこと。
蛍光眼底造影剤 fluorescein 重篤な高血圧症の患者 血圧の変動を起こすおそれがある。
疼痛治療剤(局所注射用) dibucaine hydrochloride 重篤な高血圧症 硬膜外ブロックにより低血圧が起こりやすい。

 

何れにしろ重篤な高血圧症の患者に投与した場合、血圧上昇・低下等の血圧変動が見られるため、投与禁忌・慎重投与の注意を求められるもので、『重篤な高血圧』の基準は、日本高血圧学会・高血圧治療ガイドラインの分類を参照する。

1)大内尉義・他編:疾患と治療薬 改訂第5版;南江堂,2003
2)高久史麿・他監訳:第10版ワシントンマニュアル;MEDSi,2005

    [065.ELE:2007.9.16.古泉秀夫]