『閣議決定』

                                                                  医薬品情報21
                                                                     古泉秀夫

福田首相は2008年6月17日の閣議後、舛添要一厚生労働相と会談し、医学部定員数の削減をうたった1997年の閣議決定の見直しを了承したとする報道がされていた。

舛添厚労相は『安心と希望の医療確保ビジョン会議』などで、医師増員に強い意欲を示し、「現場を見て国民のための政策を堂々と主張する」と、医師養成数増は、現場からの要請であることを強調したとされる。

1997年6月に政府が閣議決定した「財政構造改革の推進について」では、「医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組む」との内容を盛り込んでいる。

最近、医師不足が顕著になったことを踏まえて、政府・与党は昨年5月に打ち出した「緊急医師確保対策」で、全都道府県で医師養成数の暫定的な増加を容認しているが、閣議決定との整合性を図るため、将来の定員数を減らし、その分を現状の定員増に割り当てるという、姑息な手段を弄して遣り繰りをしていたようだが、いずれは限界を迎える手法にしか過ぎない。あるいは今以上に、状況を悪化させる結果を招くかもしれない。

「医療確保ビジョン会議」で、医師増員の方針を打ち出した舛添厚労相に対しても、閣議決定が『呪縛』となって、実効的な医師確保は出来ないのではないかと指摘する意見が出されていた。

今回の件は、医学部の定員を閣議決定で縛るなどという硬直的なことをしたばかりに、柔軟な対応が出来ず、医師の絶対数の不足を来してしまったということである。ある意味閣議決定さえなければ、世間の動向を見ながら文部科学省の判断で、医学部の学生数を調整することも出来たはずなのに、閣議決定に絡め取られて、何もしないまま今日の体たらくを迎えたということである。

最もこの閣議決定、役人にとってはある意味、仕事をしないための便利な口実になっている可能性もある。閣議決定があるから出来ないとか、閣議決定を取り消すことは出来ないとか、あらゆる場面で何もしない口実に使われる。

医療は誰よりも先ず医師が行動を起こすことによって仕事が始まる。つまり医師の数が多ければ、それだけ医師が仕事をし、仕事をするためには余分な患者を増やす。その結果、医療費は増大し、財政を圧迫する。

1997年6月の閣議決定では、「医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組む」としているが、その前までは1県1医科大学等という話で、医科大学の新設を進めていた。それが突然掌を返すようにこのような方策を建てたのは、高齢化社会の到来=患者数の増大、従って医療費を抑制するためには、医師の増大を極力抑えようという発想からである。

しかし、医療が必要なのは高齢者ばかりでなく、更に病人だけに必要なのではない。子供を産む場合にも、医師の存在を無視することはできない。更に最近のように、患者に対する説明だの何だのと、やかましいことを言えばいうほど、医師は手を取られて医師の数は足りなくなる。

状況を見ながら柔軟な対応が必要な医学生の数の調節を、閣議決定にしてしまったということが大いなる間違いだったということである。閣議決定に持ち込もうと考えた責任者は誰だったのか。それこそ出てきて責任を取って貰いたいものである。

      (2008.7.14.)