Archive for 11月 11th, 2007

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「腓返りの治療薬」

日曜日, 11月 11th, 2007

KW:薬物療法・腓返り・こむらかえり・発現理由・発生時期・薬甘草湯・芍薬・シャクヤク・甘草・カンゾウ

Q:腓返りの治療薬として使用される薬物について

A:腓返りの発現理由として、次の報告がされている。

 

好発年代 10歳代-20歳代 高齢者
発生時期 昼間運動時 夜間就寝時
発生原因 スポーツ実施時(ジャンプ、サッカー、マラソン等)、長時間の歩行 原因未解明。基礎疾患注意(不安定狭心症、腎不全による透析患者、甲状腺機能低下症、多発神経炎、肝硬変、胃全摘等)。
発生理由 準備運動不足、運動中の多量の発汗による脱水、連日の運動による疲労の蓄積、風邪等の体調不良。 電解質異常(カルシウム、ナトリウム異常)、脱水(発熱、下痢、利尿薬使用)。
診察時の注意点

起こったときの状況・下腿痙攣の状態の詳細な問診。
神経筋症状(筋電図、神経伝達速度検査)、肝機能・腎機能・電解質・甲状腺機能(血液検査による内分泌機能検査)。脊髄疾患の原因探索(MRI検査)。

物理的治療法

[1]手でかかとを固定し、爪先を手でもって、ふくらはぎをゆっくり伸ばす。
[2]ふくらはぎを温めて、血行をよくし軽いマッサージ。

薬物療法 筋弛緩剤、抗不安薬(有・筋弛緩作用)、芍薬甘草湯(痙攣発生時お湯で頓服、定期的服用(特に就寝前服用)で有効。ビタミンB群の補充
予防法 筋肉の疲労解消のためのストレッチング(アキレス腱を伸ばすストレッチの実施)。高齢者ではふくらはぎの筋肉を強化するストレッチング。

 

品名 添付文書
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)
解説
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)
禁忌

1.アルドステロン症の患者
2.ミオパシーのある患者
3.低カリウム血症のある患者
[1-3:これらの疾患及び症状が悪化するおそれがある。]

1.アルドステロン症:広義には高アルドステロン症と低アルドステロン症に分けるが、一般には高アルドステロン症のみをいう。更に原発性と続発性の二種に大別される。原発性アルドステロン症は、副腎自体にアルドステロン分泌過剰の病態がある場合で、狭義にはアルドステロン産生副腎腺腫(稀に癌)のみをいうが、広義には副腎皮質過形成(特発性高アルドステロン症)もこの中に含める。続発性アルドステロン症は、レニン分泌過剰によって二次的にアルドステロン過剰が生じている病態で、浮腫、体液貯留による疾患、Bartter症候群、原発性レニン症や腎血管性高血圧症などがある。

2.ミオパシー(myopathy:筋症):筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称。筋肉は神経に支配されて機能を果たしているから筋肉に症状が現れるとき、神経の病変が原因である場合と、筋肉に病変が起きている場合とに大別でき、筋肉に病変が起きているものがミオパシーである。筋肉は種々の原因で侵されるが、その中で遺伝性に発症し、進行性に筋繊維の変性が見られる進行性筋ジストロフィーがミオパシーの代表であり、最初は両者ほぼ同義に用いられていた。外因による筋障害も多く、薬剤に起因するミオパシーも報告されている。こうしたミオパシーの際には、一般的に四肢近位筋即ち肩、腰などの筋の脱力が目立ち、立ち上がり動作、階段の昇降などに困難を自覚することが多い。その他、骨格筋障害と異なる特殊な概念として、心筋ミオパシーもある。

3.低カリウム血症:血清中のK濃度が、正常下限(3.5mEq/L)を下回って低下した病態で、体内におけるK分布の異常による場合と、全体K量の低下による場合とがある。全体K量の低下は、高齢者や神経性食欲不振症患者において摂食量の低下によって起こり、また反復する嘔吐では代謝性アルカローシスとともに発症する。また、尿中へのK喪失は、原発性アルドステロン症、続発性アルドステロン症あるいは異所性ACTH産生腫瘍などで発症する。低カリウム血症の症状は、筋力低下や多尿があり、腎濃縮力低下、糖忍容力低下、心電図上T波の平低化が見られれる。

組成

本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.5gを含有する。
日局カンゾウ………………6.0g
日局シャクヤク……………6.0g
添加物:日局ステアリン酸マグネシウム、日局乳糖

甘草(glycyrrhiza・glycyrrhizae radix):本品はGlycyrrhiza uralensis Fisher又はGlycyrrhiza glabra Linné(Leguminosae)の根及びストロン(根茎)で、ときに周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)である。鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、去痰薬。成分:glycyrrhizin(glycyrrhizic acid:甘味成分)2-6%を含む。glycyrrhizinは蔗糖の150倍の甘さがあり、酸加水分解でglycrrhetic acid(glycyrrhetinic acid)と2分子のglucuronic acidを生じる。その他の成分としてglabric acid等のトリテルペン配糖体、更にフェノール成分としてフラバノン配糖体liquiritin、とそのアグリコンliquiritigenin、これに対応するカルコン配糖体isoliquiritinとそのアグリコンisoliquiritigenin、イソフラバンlicoricidin、クメスタンglycyrol、イソフラボンformononetin、licoricone、ポリアミンなど多くの化合物が明らかにされている。▼芍薬(Paeonia lactiflora Pallas<Paeoniaceae>):本品はシャクヤク(peony root;paeoniae radix)の根である。鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)。主成分としてpaeoniflorin(安息香酸を結合する変型モノテルペン配糖体)とその関連化合物、paeoniflorigenone、paeonilactones等のモノテルペン、テルペン配糖体等。その他安息香酸、ガロタンニン等を含む。なお、paeoniflorin等の定量等についても報告されている。paeoniflorinは鎮静、鎮痛、抗ペンチレンテトラゾール痙攣、抗炎症、ストレス潰瘍予防、血圧降下、血管拡張、平滑筋等の諸作用、細胞内カルシウム減少作用、接触性過敏反応及び受身皮膚アナフィラキシー抑制、細胞内及び血清ステロイド結合蛋白との結合活性等が報告。

効能・効果 急激におこる筋肉のけいれんを
伴う疼痛

腓返り
本剤は原典(傷寒論)では『脚攣急を治す』とされている。骨格筋と平滑筋をともに弛緩するというユニークな作用をもつと報告されている。

用法・用量

通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。▼(用法及び用量に関連する使用上の注意)本剤の使用にあたっては、治療上必要な最小限期間の投与にとどめること。

[1]腓返りの発作時に頓用することで、期待する効果が得られる。
[2]頻繁に腓返りの発作が起こる事例では、就寝前に1回頓用することで効果が得られる。

使用上の注意

(次の患者には慎重に投与すること)
高齢者

(1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
(2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。
(3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

□一般に高齢者では生理機能が低下しているので、減量するなど注意すること。▼□monoammonium glycyrrhizinateの臨床での使用経験において、高齢者に低カリウム血症等の副作用の発現率が高い傾向が認められる。甘草の主成分はglycyrrhizinであり、本剤は患者の状態を観察しながら慎重に投与することが必要である。▼□甘草を含有する製剤との併用は、本剤に含まれるglycyrrhizic acidが重複し、偽アルドステロン症が現れ易くなるので注意。

副作用

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発生頻度は不明である。▼1)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。▼2)うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍(Torsades de Pointesを含む)があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定など)を十分に行い、動悸、息切れ、倦怠感、めまい、失神等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。▼3)ミオパシー:低カリウム血症の結果として、ミオパシー、横紋筋融解症があらわれることがあるので、脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺、CK(CPK) 上昇、血中及び尿中のミオグロビン上昇が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。▼4)肝機能障害、黄疸、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

1)過敏症:発疹、発赤、掻痒等があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
2)消化器:悪心、嘔吐、下痢等があらわれることがある。

甘草の副作用として『浮腫、血圧上昇、強い筋肉痛、脱力』が報告されている。
その他、芍薬甘草湯の副作用として『便秘、グルココルチコイド上昇、低カリウム血症』が報告されている。

妊婦・授乳婦への投与 妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみに投与すること。 器官形成期といわれる6週から11週までは漢方薬も控えることが望ましい。妊娠中は過度の発汗剤や瀉下剤、利尿剤など強い作用の漢方薬を過量には使用しない。また微小循環促進剤とされる大黄・附子・桃仁・牡丹皮・牛膝等を含む処方は注意して使用する。大黄を含む処方では、作用が緩やかな潤腸湯などが奨められるの報告。
高齢者 一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。 高齢者の場合、生理機能の低下はやむを得ない。従って、漫然と成人投与量を考えて投与していると、重篤な副作用が発現する可能性がある。
薬効・薬理 痙縮モデルにおける筋疲労抑制作用:足底筋及びヒラメ筋に対する坐骨神経頻回刺激による筋痙縮モデルラットに経口投与したところ、筋疲労耐性能の亢進傾向が認められた。 本剤の配合成分である芍薬に含まれるpaeoniflorinは筋肉のCa ++を抑制し、甘草に含まれるglycyrrhizinはホスホリパーゼA2 を介してK+チャンネルを抑制するため、両者が骨格筋の異なった部位を抑制することで相乗的な効果が得られる。

 

1)河野照茂:下腿の痙攣;ドクターサロン,49(8):592-595(2005)
2)ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2005.4.改訂
3)第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
4)花輪壽彦:漢方よろず相談;株式会社医学研究社,2001
5)花輪壽彦:コア・カリキュラム時代の漢方 第10講 漢方薬の薬理作用についての最近の知見;日本医事新報,No.4238:25-19(2005)
6)岡野善郎・他:スキルアップのための漢方薬の服薬指導;南山堂,2001

                                            [035.1. CRA:2006.7.22.古泉秀夫] 

「小児麻酔時の前投薬について」

日曜日, 11月 11th, 2007

KW:薬物療法・小児麻酔・麻酔前投薬・アタラックスPシロップ・トリクロリールシロップ・セルシンシロップ

Q:5歳児の手術を行う際の麻酔前投薬として、何を使用すればよいか

A:次の通り報告されている。
筑波大学麻酔科・編の『筑波大学麻酔科研修の手引き(10.小児麻酔)』では、麻酔前投薬について、次の記載が見られる。

月例・年齢 前投薬実施例
6ヵ月未満 なし
6ヵ月以上 アトロピン 0.02mg/kg
アタラックスPシロップ 2-4mg/kg
(max 100mg) 経口
トリクロリールシロップ 0.7ml/kg
(max 15ml) 経口

注意事項
? 年長児にはアタP、トリクロのかわりにセルシン0.2mg/kg(max10mg)あるいはセルシンシロップ(1mg/mlを0.3-0.7ml/kg)を投与することもある。患者の手 術の受け入れの程度、術前状態 (循環、意識レベルなど) や手術時間にあわせて量を加減する。発熱時にはアトロピンの投与は控える。
?ミルク後NPO(non per oral)とはせずに手術入室2-3時間前にClear Water*を飲ませる。
? Clear Waterは糖水・ポカリスエット・粒の入っていないオレンジジュース・アップルジュースなど、量は10ml/kgが目安。

その他、大阪市立大学医学部付属病院 麻酔科では、HP上に次の案内を掲載している。
『手術を受ける患者様には麻酔科外来を受診していただきます。 われわれ麻酔科専門医が診察し、手術の種類や患者様の状態に応じて麻酔方法を決定します。「麻酔はなぜ必要なのか?」 「麻酔はどうやってするのか?」 「麻酔は安全なのか?」 など、心配なことがあれば何でもご相談ください』。

『麻酔科術前診察外来開設のお知らせ』

『当科では従来、病棟まで麻酔科研修医が出向き、ベッドサイドで麻酔科術前診察や説明を行ってきました。医療の質の向上が叫ばれる昨今、このシステムでは患者さま、麻酔科(あるいは市大病院)双方にとって、不利益が多いと思われます。そこで、関係各部署の協力を得て、麻酔科・ペインクリニック外来において、麻酔科術前診察外来を開設する運びとなりました。
麻酔科術前診察外来では麻酔科専門医・指導医が麻酔申込書やカルテ、レントゲンフィルム等を参考に、手術を受ける患者さまを診察し、最も適した麻酔方法の決定や、麻酔について説明を行います。』

『麻酔前投薬中止のお知らせ』

全身麻酔導入に長時間を要し、興奮期を誘発する麻酔薬(エーテル、ハロタンなど)を使用した時代には、麻酔前投薬は必須とされてきました。しかし、刺激性が少なく調節性のよい麻酔薬が開発されて一般化し、最近では、麻酔前投薬の必要性が低いと考えられ始めています。当科では従来、前投薬として、小児にはセルシン・シロップ内服、成人にはアイオナールやセルシンの筋肉注射を行い、硫酸アトロピンやH2ブロッカー(胃酸分泌を抑制する薬)の筋肉注射を併用してきました。しかし、当科でも、麻酔前投薬には、そのリスクを上回る必要性が少ないと考えるようになりました。一般病院はもちろんのこと、近隣の大学病院でも前投薬廃止による不都合は殆ど聞かれません。
以上を踏まえ、平成17年8月1日より、基本的には麻酔前投薬を中止いたします。
なお、患者さまの状態によっては前投薬の投与が望ましい状況もあるため、術前診察時にご相談いたします』。

以上の報告を参照し、使用薬剤の検討をされたい。

1)筑波大学麻酔科研修の手引き;http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical

med/anesthesiology/m-10.html,2006.7.24.
2)池下和敏(大阪市立大学医学部付属病院麻酔・集中治療医学 助手);http://www.

med.osaka-cu.ac.jp/Anesth/premedi.html,2006.7.24.

[035.1.ANE:2006.7.24.古泉秀夫]