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『ジゴキシン中毒治療剤について』

土曜日, 7月 26th, 2014

KW:薬名検索・ジゴキシン中毒・解毒剤・ジゴキシン(不活性化)免疫FABフラグメント(ヒツジ)・ジゴキシン特異抗体・DIGIBIND・DIGIFAB・ディグバインド・デジファブ・Digoxin Immune Fab(ovine)・抗ジゴキシン特異抗体(Fab断片)

Q:ジゴキシン中毒時の解毒剤について

A:ジゴキシン中毒時に使用される薬剤として、『ジゴキシン(不活性化)免疫FABフラグメント(ヒツジ)[DIGIBIND(米国・グラクソ・スミスクライン社)、(日本未発売)] の報告が見られる。本品はジゴキシン特異抗体(抗原結合性フラグメント)によるジゴキシン中毒治療薬として使用される。

適応:ジゴキシン毒性による状態不良・致命的な不整脈、ショック症状、CHF(鬱血性心不全)、及び血清ジゴキシン濃度10-15ng/mL以上の高カリウム血症(K+>5mEq/L)。

規格:注射剤、38mg/v(1本でジゴキシン約0.6mgを中和。腎不全患者では、免疫複合体が断片化するので、投与数日間は用量を調節する必要がある。)。

用法:[成人]慢性中毒症状:3-5vialの投与で効果が見られる。過剰投与による急性症状:使用量はジゴキシン服用量によって異なる。[平均使用量は10v(380mg)、必要に応じて最高20v(760mg)迄)。ジゴキシンの血清濃度、患者の体重により異なる(添付文書参照)。

作用:抗原結合性フラグメントがジゴキシンと結合し、薬効を不活性化する。

ジゴキシン免疫Fab(ヒツジ)は、米国内においてグラクソ・スミスクライン社から『DIGIBIND(ディグバインド)[登録商標]として、またProtherics Inc.から『DIGIFAB』(デジファブ)[商標]として販売されているが、同物質はヒツジ体内で作成された特定の抗ジゴキシン抗体に由来する抗原結合フラグメント(FAB)の、滅菌凍結乾燥粉末である。ジゴキシン免疫Fabは心室頻拍若しくは心室細動の様な重症心室性不整脈、又はatropinに反応しない重症洞性徐脈若しくは第2度・第3度心臓ブロックのような進行性徐脈性不整脈によって明らかになるジゴキシン又はジギトキシン過剰摂取の治療に用いられる。

DIGIBIND(登録商標):ジゴキシン特異的Fab 38mg・安定剤(sorbitol 75mg・塩化ナトリウム28mg)/v。ジゴキシン約0.5mgと結合する能力がある。4mL/vの割合で滅菌水で溶解、注射液に調製後、静脈注射する。
DIGIFAB(商標):40mg/v。保存料は配合されていない。4mL/vの割合で滅菌水で溶解、注射液に調製後、少なくとも30分間かけて点滴静注する。

§ジゴキシン過量あるいはジゴキシン中毒で生命に危険がある状態で、現在確実に有効な唯一の治療法はDigoxin Immune Fab(ovine)、抗ジゴキシン特異抗体(Fab断片)を用いた療法である。この療法は欧米では1989年に確立している。米国では1986年に医薬品として承認を受けており、英国でも1989年のBritish National Formularyに掲載されている。従って1980年代には既に標準治療になっていたと云える。

§特異抗体ジゴキシン抗体断片の一般名はDigoxin Immune Fab(ovine)で、1986年に米国で承認された製剤の商品名はDigibind(米国・英国・豪州・カナダ・スエーデン)、Digitalis Antidot(独・オーストリア)等である。更に米国ではDigFabと云う製品が2002年に承認され、発売されている。適応症はいずれも「生命に危険あるいはその可能性のあるジゴキシン中毒あるいはジゴキシン過量投与患者の治療」である。但し、軽症のジギタリス中毒は適応とならない。

§Digibindは、羊で作られた特異的抗ジゴキシン抗体のうち抗原に結合する断片(Fab)を無菌的に加熱処理して精製した粉末である。免疫グロブリン断片を滅菌、精製、加熱処理した製剤である。Digibindはジゴキシンの誘導体digoxin-dicarboxy-methoxylamine(DDMA)で免疫した健康な羊の血液に由来する。

§本品の有害作用として紅斑、顔面浮腫、蕁麻疹、発疹等のアレルギー症状である。特に羊アレルギー、以前本剤を使用したことのある人ではアレルギー発現の頻度は高い。使用に際しては、血圧、心電図、電解質(特に血清カリウム)を使用前後で念入りにモニターすること等の報告が見られる。

§特異抗体ジゴキシン抗体断片は、1986年に市販され、国際的に重症ジギタリス中毒に対する標準的治療薬である。国外で市販されて24年が経過するが、依然として日本では入手できない。国外で使用されているが、日本で入手できない中毒拮抗薬は少なくない。シアン及びシアン化合物による中毒に対して用いられるヒドロキソコバラミン製剤(シアノキット注射用5gセット用<メルクセローノ株式会社>)が2014年1月発売されたなど一定の前進もあるが、十分とは云い難い。また医薬品以外でも強心配糖体を含む植物は少なくない。スズラン、モロヘイヤ(種子)、福寿草、夾竹桃などがあり、中毒事例も散見される。

以上、ジゴキシン中毒時に使用される薬剤は国外では市販されており、日常的に使用されているが、国内では市販されていない。

1)飯野靖彦・監訳:スカット・モンキーハンドブック-基本的臨床技能の手引;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2003
2)特許公報(B2) 特許番号 特許第5202789号,2013.2.22.(JP 5202789 B2 2013.6.5)
3)浜 六郎:ジゴキシンの調剤ミスによる乳児中毒死の教訓;正しい治療と薬の情報,18(10):117-120(2003)
4)丸茂智恵子・他:症例報告-生後23日目の重症ジギタリス中毒の1例;日集中医誌,18:239-242(2011)
5)水谷太郎:今号のハイライト⑤-ジギタリス中毒の治療-ジゴキシン特異抗体(digoxin-specific Fab fragments)の導入を求める-;日集中医誌,18:183-184(2011)

                 [011.1.DIG:2014.7.11.古泉秀夫]