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「麻黄附子細辛湯について」

土曜日, 1月 28th, 2012

 

KW:薬名検索・麻黄附子細辛湯・花粉症・慢性鼻炎・アレルギー性鼻炎・麻黄・Epherae Herba・細辛・Asiasari Radix・附子

Q:花粉症による慢性鼻炎に有効とする話を聞いたが、どのような薬剤か

A:麻黄附子細辛湯(三和生薬-クラシエ)について、次の報告がされている。
本薬1日量(4.5g)中に

日局 麻黄 4.0g
日局 細辛 3.0g
日局 附子 1.0g

上記の混合生薬より抽出した麻黄附子細辛湯水製エキス1,500mgを含有する。添加物として日局乳糖水和物、日局トウモロコシデンプン、日局結晶セルロース、日局軽質無水ケイ酸、部分アルファー化デンプンを含有する。

効能又は効果/用法及び用量:悪感、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症:感冒、気管支炎、咳嗽。

法及び用量:通常、成人1日4.5gを3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

使用上の注意[慎重投与]

1. 体力充実る患者[副作用易発現可能性、症状増強恐れ。] 2. 暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者[心悸亢進、逆上せ、舌の痺れ、悪心等発現可能性。] 3. 著しく胃腸の虚弱な患者[口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等発現可能性。] 4. 食欲不振、悪心、嘔吐の患者[症状悪化の可能性。] 5. 発汗傾向著しい患者[発汗過多、全身脱力感等発現の可能性。] 6. 狭心症、心筋梗塞等の循環器系障害ある患者、又は既往歴患者[疾患及び症状悪化の可能性。] 7. 重症高血圧症患者[疾患及び症状悪化の可能性。] 8. 高度腎障害患者[疾患及び症状悪化の可能性。] 9. 排尿障害患者[疾患及び症状悪化の可能性。] 10.甲状腺機能亢進症患者[疾患及び症状悪化の可能性。]

重要な基本的注意

1.本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
2. 他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。ブシを含む製剤との併用には、特に注意すること。

併用注意-薬剤名等

(1)マオウ含有製剤
(2)エフェドリン類含有製剤
(3)モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤
(4)甲状腺製剤:チロキシン、リオチロニン
(5)カテコールアミン製剤:アドレナリン、イソプレナリン
(6)キサンチン系製剤:テオフィリン、ジプロフィリン

臨床症状・措置方法:不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等があらわれやすくなるので、減量するなど慎重投与。
機序・危険因子:交感神経刺激作用増強の可能性。

重大な副作用:肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸発現、異常確認時投与中止、適切処置。

その他の副作用:1. 過敏症、発疹、発赤等。2. 自律神経系:不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等。3. 消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等。4. 泌尿器:排尿障害等。5. その他:のぼせ、舌のしびれ等。

*高齢者への投与:高齢者では生理機能低下、減量する等注意。* 妊婦、産婦、授乳婦等[附子含有。副作用が易発現。] *小児等への投与:小児等-慎重投与。[附子含有。] 

本品の『花粉症による慢性鼻炎』は、適応外使用である。
但し、アレルギー性鼻炎に対する漢方薬の考え方は、水毒に当たるとして、次の報告がされている。水毒とは、身体に余分な水分がたまっていたり、体内の水の循環が悪いことを示しており、漢方治療の場合はこの水毒に対する養生は欠かせない。体内にある余分な水分が花粉などのアレルゲンの刺激によってあふれ出し鼻水、くしゃみ、涙、鼻粘膜のむくみとして発現する現象ととらえ、“冷え”“鼻づまり”“熱”と大きく3つに分類する。漢方で見立てる体質のひとつに、体内に冷たい水分を過剰にもつ体質というのがあり、このような体質の人はアレルギー性鼻炎になりやすいとされている。

アレルギー性鼻炎の患者に対して、漢方治療では、その様な体質の改善を図ればよいというのが基本的な考え方とされており、その意味では“麻黄附子細辛湯”の適応となると考えられる。アレルギー性鼻炎患者に対して、“麻黄附子細辛湯”の投与4週後における判定で55-80%の患者に有効以上の効果が認められているとする報告が見られる。また、同じ研究で、自覚症状に関してはくしゃみ、鼻汁、鼻づまりの3大症状のうち、特に鼻づまりに対して改善効果が大きいことが報告されている。

また他のアレルギー性鼻炎の症状である下鼻甲介粘膜の腫脹の緩和、抗アレルギー剤では効果の出にくいのどの異常感に対しても有効な改善効果が認められたとされている。特異的減感作療法や種々の抗アレルギー剤によってもアレルギー性鼻炎の症状の改善が認められなかった33名の通年性のアレルギー性鼻炎患者に、麻“麻黄附子細辛湯”を投与した結果、77.5%で2週後に、84.8%で4週後に鼻閉症状の改善が認められたという報告も見られる等の報告がされている。

また、季節的なアレルギー性鼻炎であるスギ花粉症に対する予防的投与については、花粉が飛散する2-4週間前に“麻黄附子細辛湯”を投与することで、症状の発現が抑制されることが示されているとする報告も見られる。

麻黄(Epherae Herba):漢方医学では喘鳴、咳嗽、痰、呼吸困難を目標として用いられる。この場合の作用は麻黄アルカロイドの類の作用が主として寄与していると考えられている。又、急性アレルギー、急性・亜急性炎、滲出炎などに対するchemical mediator遊離抑制、
血管透過性抑制作用などの抗炎症作用、抗浮腫、鎮痛作用などの作用が示されている。漢方医学において麻黄を単独で用いることは無く、数種類の生薬と配剤されるのが原則である。                                             

麻黄附子細辛湯:カラゲニン及びデキストランによる足蹠浮腫を抑制し、その抑制の大部分は構成生薬の麻黄に含有されるephedrineによることが示されている。また、麻黄附子細辛湯などの麻黄製剤による抑尿作用が生じた例が報告され、逆に麻黄製剤の少量投与で高齢者の夜間頻尿を治療できる可能性が報告されている。他に麻黄附子細辛湯については接触性皮膚炎、顔面皮膚炎、蕁麻疹などの皮膚疾患に有用であったとの報告がある。

細辛(Asiasari Radix):漢方方剤の中でも小青竜湯、麻黄附子細辛湯がアレルギー性鼻炎や気管支喘息に対して繁用されており、これらの方剤中に細辛が配合されていることから細辛の抗アレルギー作用についての検討がされている。小青竜湯、麻黄附子細辛湯について抗アレルギー作用を検討した結果、麻黄、細辛に抗アレルギー作用を認め、細辛の活性体の一つとして精油成分のelemicinを見出した。またelemicinが抗ヒスタミン活性、気管支拡張作用があることを示した。細辛は単に抗原抗体反応によって組織が障害される過程を抑制するだけではなく、肥満細胞等からのhistamine等のchemical mediatorの遊離を抑制すること、及び遊離したchemical mediatorの作用を遮断する効果を持つことも推定されている。

附子(Aconiti Tuber):aconitine系alkaloidは、マウスで酢酸による血管透過性の亢進、ラット皮内におけるhistamineによる血管透過性亢進の抑制、ラット、マウスのカラゲニンによる足浮腫の形成を抑制することが認められている。グルココルチコイド様作用が炮附子にあると報告されている。修治附子メタノール抽出エキスから通常のalkaloid分画以外の部分より得られる非alkaloid分画、lipoalkaloid類に抗炎症作用及び鎮痛活性が認められているの報告が見られる。

1)三和麻黄附子細辛湯エキス細粒添付文書,2010.7.改訂
2)岡野善郎・他:スキルアップのための漢方薬の服薬指導 改訂2版;南山堂,2006
3)伊田喜光・他監修:モノグラフ生薬の薬効・薬理;医歯薬出版,2003

     [035.1.EPH:2011.12.30.古泉秀夫]

「アクロレインについて」

土曜日, 1月 28th, 2012

 

KW:薬名検索・アクロレイン・acrolein・アクリルアルデヒド・acrylic aldehyde・2-プロペナール・2-propenal・プロペンアルデヒド・propenaldehyde・脳梗塞・予知・

Q:脳梗塞の予知目的で血液中のアクロレインの測定がされると聞いたが、アクロレインとはどのような物か。

A:アクロレイン(acrolein)=アクリルアルデヒド(acrylic aldehyde)。[別名]アクロレイン、2-プロペナール (2-propenal)、プロペンアルデヒド (propenaldehyde)。CH2=CHCHO:56.07。CAS:107-02-8。最も低級な不飽和アルデヒド。刺激臭を有する無色、可燃性の液体。融点?87℃、沸点52℃。多量の水に可溶、アルコール、エーテルに易溶。油脂の熱分解によって生成し、実験室的にはグリセリンを硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いて脱水して得られる。

医薬品、繊維処理剤、アクリロニトリル、グリセリン、樹脂中間体、架橋結合剤等の原料。
熱、炎により分解、毒性の高い煙を発生し、眼、鼻、呼吸器系を激しく刺激する。気中濃度0.1ppmで刺激を感じ、涙を流す。ヒトで153ppm、10分間で死亡したという報告がある。許容濃度0.1ppm(産衛学会)。

acroleinはラット経口毒性LD50:82mg/kg、ウサギ経皮毒性LD50:250mg/kgと、毒性が強いほか、可燃性も強く、取り扱いには十分注意する必要がある。日本では毒物及び劇物取締法で原体が劇物に、消防法により第1石油類に指定されている。また重合を起こしやすいため、市販の物には重合停止剤としてヒドロキノンが含まれていることが多い。純粋なものが必要なときには、蒸留などで精製する必要がある。食用油を使って揚げ物等の調理作業を長時間行ったために気分が悪くなる現象を「油酔い」と呼ぶ。「油酔い」は加熱分解された油脂から発生するacroleinが原因だとされている。

acrolein(ACR)は非常に反応性の高いアルデヒドで、体内の蛋白質が有するアミノ酸残基などの求核基と反応して、発癌性等の生体毒性を示すと考えられている。ACRの起源は、従来、プラスチックあるいは食用油の加熱、タバコの燃焼、シクロホスファミドの生体内代謝などによると考えられている。煙草の煙中に含まれるaldehydeの中でACRの刺激性が一番強い。シクロホスファミドの副作用として出血性膀胱炎があるが、これはシクロホスファミドの代謝産物の一つであるACRが原因であると考えられている。

最近、ACRはin vitro における脂質の過酸化反応において、その生成が証明され、更にヒトの動脈硬化巣における存在が確認された。 抗ACRモノクローナル抗体は、ACRと蛋白質のリジン残基との安定な反応物[Nε-(3-formyl-3,4-dehydropiperidino)-lysine 構造〕を認識する。動脈硬化症、発癌等の病態究明研究などに、広く利用可能だとしている。

自覚症状の無いいわゆる隠れ脳梗塞は、MRI等の検査を受けなければ発見できないが、現在、血液中のacrolein量を測定することで、予測が可能であるとされている。まだ、一般的な検査では無く、保険適用は無いが、MRI検査を受けるよりは遥かに安い経費で検査が可能であり、検査の結果により精密検査を受けるか受けないかの判断を得ることが可能だとされている。

1.志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
2.最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2005
3.内藤裕史:中毒百科 -事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

 

   [011.1.ACR:2011.12.29.古泉秀夫]