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「疥癬感染症の治療剤」

月曜日, 10月 25th, 2010

KW:疥癬・Sarcoptes scabiei var. hominis ・ヒゼンダニ・治療剤・硫黄剤・安息香酸ベンジル・benzyl benzoate ・クロタミトン・crotamitone・γ-BHC・Lindan ・γ-benzene hexachloride ・フェノトリン・phenothrin

Q:疥癬の治療剤について

A:疥癬とは疥癬虫、別名ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis )によって惹起される伝染性皮膚疾患である。伝染は直接的あるいは下着など間接的接触によって起こる。疥癬症の治療剤として、次の報告がされている。

1)硫黄剤:古くから疥癬に用いられ有効とされている。効力はあまり強くなく、臭いと色が着く等の欠点がある。毒性は他剤に比較すると低く、幼小児、妊婦、老人等に安心して使用できる利点がある。濃度は 2?15% 、剤形は軟膏として用いられる。

薬剤例

a )6%- 沈降硫黄軟膏

      沈降硫黄……………6g       
      ペールバルサム……3g       
      ワセリン        適量 
     
       全量            100g
     
      以上を取り軟膏剤の製法により製する。
      
毎日 3? 5日間、頚部から全身に塗布する。 1回の塗布量は20?30g とする。

b )硫黄・サリチル酸・チアントール軟膏(丸石製薬)

      硫黄………………………………100g
      サリチル酸(細末)…………… 30g
      チアントール……………………100ml
      酸化亜鉛(細末)………………100g
      単軟膏又は適当な軟膏基剤……適量 
     
        全量                      1000g
     
      以上を取り軟膏剤の製法により製する。

c )アスター軟膏[一般薬](丹平製薬)

      チアントール…………………………… 30 g
      硫黄………………………………………  5 g
      酸化亜鉛………………………………… 10 g
      L-メントール…………………………… 1.5 g
      イソプロピルメチルフェノール……… 0.3 g
      塩酸ジフェンヒドラミン……………… 1 g
      塩酸ジブカイン………………………… 0.1 g 
     
       全量                              100g

d )六一〇ハップ[一般薬-製造中止](武藤鉦製薬)

      硫黄…………………… 202.5g      →沐浴剤
      酸化カルシウム………  67.5g
      カゼイン………………  0.12g
      硫化カリウム…………  0.15g 
      常水…………………… 729.73g  にて加熱溶解し濃縮

2)安息香酸ベンジル(benzyl benzoate ):従来、疥癬にペールバルサムが有効とされてきたが、その有効成分が安息香酸ベンジルである。使用濃度は12.5?35% 。剤形はローション、エマルジョン、サスペンジョンとして広く用いられている。

その他、25% ローションとして用いられている。本剤の使用法として、温浴した後乾かし、ハケで一面に塗り乾燥させ放置する。一周間後検査し、未治癒のものには再使用する。安息香酸ベンジルは粘膜の刺激が強いため、眼の周囲及び尿道には用いてはならないとする報告もされている。

3)クロタミトン[crotamitone](オイラックス;日本チバガイギー):本剤は元来殺ダニ剤として開発された薬剤であるが、現在では止痒効果を目的として使用されている。従ってそう痒感の強い場合、本症への使用に都合がよいとされている。

10% 軟膏として市販されりている。 1回塗布量は20g 、頚部より下の全身に24時間間隔で 2回塗布し、48時間後に入浴すれば十分といわれているが、実際には更に数回の塗布が必要である。眼や口腔内に入らないように注意する。
          
本剤の使用に際して、副腎皮質ホルモン剤含有製剤を用いてはならない。治癒を遅延させるばかりでなく悪化することが多いとの報告がみられる。

4)γ-BHC(Lindan ,γ-benzene hexachloride):有機塩素系殺虫剤で、国内では原末を試薬として入手し、院内製剤する。 0.1?1%軟膏又はローションとして用いられる。1%濃度の製剤は 1回24時間塗布で十分と考えられているが、虫卵にはいかなる殺虫剤も効果がないということから 1週間後に再度 1回塗布する方法が取られている。 1回の塗布量は20?30g で十分である。他剤に比較して、殺虫効力の強い薬であるが、その毒性から考えると幼小児、妊婦には投与を避ける。眼や口腔粘膜に入らないように注意する。

a )1%- BHCローション[化審法改正により原料入手困難]

      γ-BHC……………………………  1.0g
      ステアリルアルコール…………… 3.0g
      セチルアルコール………………… 2.0g
      メンジツ油…………………………10.0g
      ラウリル硫酸ナトリウム………… 0.5g
      ポリエチレングリコ―ル 400…… 1.0g
      蒸溜水………………………………適量 
     
       全量                          100mL

b )1%- γ-BHC軟膏[化審法改正により原料入手困難]

      γ -benzene hexachloride …………1g
      プロピレングリコール……………少量
      白色ワセリン………………………適量 
     
       全量                          100g

5)フェノトリン[phenothrin](スミスリンパウダー;住友製薬)

ピレスロイド系殺虫剤の中で最も毒性が低いと報告されている。森部ら(1982)は、施設内で集団発生した疥癬の症例に、本剤を 1日 1回、罹患皮膚に散布し 1時間後入浴、石鹸で十分洗い落させる方法で隔日に 3回散布するとともに、寝具及び下着類を十分に日光消毒する方法で、全例に優れた効果を認め、第 2回の散布で殆ど掻痒は軽快し、 7日以後皮疹は殆ど治癒し、略治の状態となったとする報告をしている。

a )スミスリンワセリン

      スミスリンパウダー…………30g (4mg/g 含有)
      白色ワセリン…………………30g  
     
      全量                      60g

スミスリンワセリンの用法は、散布剤と同様の方法による。

[化審法]:「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の改正による第一種特定化学物質品目追加のお知らせ(官報 平成21年10月30日付)

1)国立病院医療センター医薬品情報管理室・編:疥癬発現時の処置について;医薬品情報,13(2):134(1986)
2)日本医薬品情報センター・編:一般薬日本医薬品集第 5版;薬業時報社 ,1986,p.578  ,p.600
3)第十一改正日本薬局方解説書;廣川書店,1986,p.D-60
4)オイラックス軟膏添付文書 ,1986
5)堀岡  正義・編:DI実例集[5];薬業時報社,1983,p.60
6)大滝  倫子:衛生害虫 -最近の話題(中)疥癬;月刊薬事,25(11):2243-2248(1983) 
7)森部  洋一・他:疥癬に対するフェノトリン粉剤の治験;臨床と研究,59(5):1747-1748(1982)
8)日本病院薬剤師会・編:第二版  病院薬局製剤;薬事日報社,1986,p.183,p.184
9) 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.33,1991.3.5.より転載

[035.1SAR:1991.3.4. ・1999.3.25.・2010.2.22.追加修正.古泉秀夫]