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『ドネペジル塩酸塩の効力について』

水曜日, 9月 22nd, 2010

KW:臨床薬理・ドネペジル塩酸塩・donepezil hydrochloride・アルツハイマー型認知症・アセチルコリンエステラーゼ阻害剤・効果持続

 

Q:訪問介護で訪問している依頼者の中で、アリセプト錠を服用している方がいるが、見ていると一時より悪くなってきた様な気がするが、薬の改善効果は続かないのか

A:アリセプト錠(エーザイ)は、『アルツハイマー型認知症治療剤』で、ドネペジル塩酸塩(donepezil hydrochloride)の製剤である。

承認適応症:『アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制』。

効能・効果に関する注意事項として、次の三つが挙げられている。

「1.アルツハイマー型認知症と診断された患者にのみ使用すること。」
「2.本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。」
「3.アルツハイマー型認知症以外の認知症性疾患において本剤の有効性は確認されていない。」

本剤の薬効・薬理について、次の通り報告されている。

1. 作用機序:アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められている。本薬は、アセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより脳内ACh量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する。
2. AChE阻害作用及びAChEに対する選択性:in vitroでのAChE阻害作用のIC50値は6.7nmol/Lであり、ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用のIC50値は7,400nmol/Lであった。AChEに対し選択的な阻害作用を示した。
3. 脳内AChE阻害作用及びACh増加作用: 経口投与により、ラット脳のAChEを阻害し、また脳内AChを増加させた。
4. 学習障害改善作用: 脳内コリン作動性神経機能低下モデル(内側中隔野の破壊により学習機能が障害されたラット)において、経口投与により学習障害改善作用を示した。

尚、本剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、コリン作動性作用により下記の症状を示す患者に対しては、症状を誘発又は増悪する可能性があるため慎重に投与することとする注意事項が報告されている。

(1)洞不全症候群、心房内及び房室接合部伝導障害等の心疾患のある患者[迷走神経刺激作用により徐脈あるいは不整脈を起こす可能性がある。]。(2)消化性潰瘍の既往歴のある患者、非ステロイド性消炎鎮痛剤投与中の患者[胃酸分泌の促進及び消化管運動の促進により消化性潰瘍を悪化させる可能性がある。]。(3)気管支喘息又は閉塞性肺疾患の既往歴のある患者[気管支平滑筋の収縮及び気管支粘液分泌の亢進により症状が悪化する可能性がある。]。(4) 錐体外路障害(パーキンソン病、パーキンソン症候群等)のある患者[線条体のコリン系神経を亢進することにより、症状を誘発又は増悪する可能性がある。]。

その他、次の注意事項が説明されている。

1.本剤はアルツハイマー型認知症の症状改善薬として2009年9月時点で、我国で認められている唯一の薬物である。
2.acetylcholine分解酵素阻害薬であり、脳内acetylcholineを増加させることにより症状を改善する。
3.症状を一定程度改善して進行を足踏みさせる対症療法薬である

その他、donepezil hydrochlorideについて、次の報告がされている。

本剤はアルツハイマー病(Alzheimer disease)の進行抑制薬であり、疾患そのものの治療薬ではない。アルツハイマー病は進行性疾患であるため、薬物療法を行っていても症状の増悪が緩徐に見られることも多い。薬効を判断することは非常に困難であるが、3-6ヵ月を目途に治療開始後の状態変化を評価する。認知機能そのものの改善例は少ないが、自発性の改善など本人の日常生活における言動のスムーズさが改善したとする介護者は多いため、改めて本人の生活の様子を詳細に確認する必要がある。

投与後の状態評価で、効果が認められた症例においても6-12ヵ月程度で薬効が低下し、自然経過に近い形でアルツハイマー病の症状の進行が認められる場合が多い。しかし、治療中断後2-6週の間に、薬効によって症状の増悪が抑制されていた事例で、急激な症状の増悪が認められる場合があり、特に効果があると考えられる場合には治療継続が基本である。また効力の減弱、症状の増悪が認められる場合、10mgに増量し、再度効果・経過を評価する方法も考えられる。

1)アリセプト錠添付文書,2009.7.改訂
2)高久史麿・他監:治療薬マニュアル;医学書院,2010
3)古田伸夫:疾患別処方解説-認知症(dementia);http://www.e-mediceo.com,2008.11.

                                 [015.4.DON:古泉秀夫,2010.1.27.]