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「ドラッグ・ラグの解消」

金曜日, 9月 3rd, 2010

  医薬品情報21
   古泉秀夫

2010年8月4日(水曜日)の朝刊(読売新聞,第48296号)に海外普及薬、早期承認 5種類治験省き来春にも-厚労省方針なる記事が収載されていた。
海外で広く使われている薬が国内では未承認だったり適応が限定されているという所謂「ドラッグ・ラグ(drag・lag)」を解消するため、厚生労働省検討会議は卵巣がん治療薬等5種類の適応拡大を認め、国内の臨床試験(治験)を省略して早期に承認すべきだと判断した。早ければ来春にも使えるようになるとするものである。

早期承認が認められた薬

成分名 商品名 追加された対象疾患
ワルファリンカリウム ワーファリン 血栓塞栓症(小児)
シクロホスファミド エンドキサン 全身性血管炎など3件
ゲムシタビン ジェムザール 卵巣がん
カペシタビン ゼローダ 切除不能進行・再発胃がん
ノギテカン ハイカムチン 再発卵巣がん

                                  
上記の薬について、適応拡大がされず、保険の適応がされなかったことについては、それなりに理由があるが、最大の理由は『臨床治験』がされていないということである。

warfarin potassiumは米国ウイスコンシン大学のK.P.Linkにより1943年に合成されたクマリン系抗凝血薬で、特許所有権者Wisconsin Alumni Research Foundationの頭文字とCumarinのarinを取り名付けられたものであると報告されている。warfarinにはNa塩とK塩の二種があり、欧米では主としてNa塩が、我が国ではK塩が使用されているが、この両者の毒性、臨床効果はほぼ同等とされている。

1953年Shapiroによって臨床報告がされ、他のcumarin系誘導体と同様にプロトロンビン及び安定因子の生成を抑制し、vitamin K1と拮抗するとされ、dicumarolに比し効果の発現が早く、少量で効果が維持されるとされる。warfarinは、肝臓における抗凝血因子、第II、第VII、第IX、第X因子の生成を抑制して抗血栓効果を発揮する。

warfarinは血栓症並びに塞栓症の治療及び予防を目的に、1962年(昭和37年)に1mg・5mg錠が発売されている。適応症は血栓塞栓症で、今から48年前である。48年間の使用実績があり、安全性についても一定把握されているという状況の中で、なぜ小児の使用を認めないのかということになるが、これは偏に小児による臨床試験が実施されていないということにつきる。    

資本主義経済の元における企業の使命は、社会奉仕の為に存在するのではなく、稼ぐ為に存在している訳である。開発に膨大な金を注ぎ込むとすれば、それに対する見返りが、十分に得られるものでなければならない。例えばwarfarinの場合、小児の適応を拡大する為の治験をやったとしても、投下した資本に対する見返りは、期待するほどのものではない。それが分かっているから開発はしないといったとしても、非難するにはあたらない。それならどうするか、国が金を出して開発を進めるか、今回やったように、諸外国の文献を精査し、その文献の評価に基づいて特例的に使用を認めるという以外方法はない。

これはwarfarinだけではなく、今回承認された薬は、大なり小なり、開発の為に治験をすることで企業に利益を及ぼさない、症例数の少ない疾患を対象とする薬ではないかと思われる。

小児と大人は違う。西洋人と東洋人では吸収・排泄機能が違う等々、色々な問題はあるかもしれないが、市販されて10年以上経過した薬については、成人での資料の積み上げがされている筈である。それを敷衍して文献等の精査を加えることで、暫定的に使用可を判断することは可能なのではないかということである。

厚生労働省は、今回のこの問題を解決する為、“公知申請”のための通知『適応外使用に係わる医療用医薬品の取扱について』を発出した。

研 第 4号

医薬審第 104号
  平成11年2月1日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生省健康政策局研究開発振興課長
厚生省医薬安全局審査管理課長

適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて

 

薬事法による製造又は輸入の承認を受けている医薬品であって、当該医薬品が承認を受けている効能若しくは効果以外の効能若しくは効果を目的とした又は承認を受けている用法若しくは用量以外の用法若しくは用量を用いた医療における使用(以下「適応外使用」という。)が行われているものについては、最近の厚生科学研究においてその科学的根拠の評価が実施されているところである。

これら適応外使用に係る医療用医薬品であって当該適応外使用に十分な科学的根拠のあるものについて、医療の中でより適切に使用されるためには、当該適応外使用に係る効能若しくは効果又は用法若しくは用量(以下「効能又は効果等」という。)について薬事法による製造又は輸入の承認を受けるべきであることなどから、貴管下関係業者に対し下記のとおり指導方御配慮願いたい。

   記

1 医療用医薬品について、承認された効能又は効果等以外の効能又は効果等による使用について関係学会等から要望がありその使用が医療上必要と認められ、健康政策局研究開発振興課より当該効能又は効果等の追加等について検討するよう要請があった場合には、臨床試験等の実施及びその試験成績等に基づく必要な効能又は効果等の承認事項一部変更承認申請を考慮すること。

2 次に掲げる場合であって、臨床試験の全部又は一部を新たに実施することなく、当該資料により適応外使用に係る効能又は効果等が医学薬学上公知であると認められる場合には、それらを基に当該効能又は効果等の承認の可否の判断が可能であることがあるので、事前に医薬安全局審査管理課に相談されたいこと。

(1)外国(本邦と同等の水準にあると認められる承認の制度又はこれに相当する制度を有している国(例えば、米国)をいう。以下同じ。)において、既に当該効能又は効果等により承認され、医療における相当の使用実績があり、その審査当局に対する承認申請に添付されている資料が入手できる場合

(2)外国において、既に当該効能又は効果等により承認され、医療における相当の使用実績があり、国際的に信頼できる学術雑誌に掲載された科学的根拠となり得る論文又は国際機関で評価された総説等がある場合

(3)公的な研究事業の委託研究等により実施されるなどその実施に係る倫理性、科学性及び信頼性が確認し得る臨床試験の試験成績がある場合

以上のルールにより医薬品の承認がされた場合、適正な使用下において、予測せざる副作用が出たとしても、訴訟で争うのではなく、医薬品副作用被害救済制度により対応する等の取り決めが必要ではないか。

1)深井三郎:今日の新薬(第三版);薬業時報, 1981

  [2010.8.31.]