Archive for 9月 22nd, 2010

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『カートについて』

水曜日, 9月 22nd, 2010

KW:薬名検索・Cathaedulis・カート・チャット・アラビアチャノキ・ニシキギ科・Khat・Catha・カット・キャサ

 

Q:エチオピアで問題となっているカートとはどの様な植物か

A:学名:Catha edulis[カータ属ニシキギ科]。英名:Khat/Catha(カート/キャサ)。和名:カート、チャット、アラビアチャノキ。別名:qat、qaat、quat、gat、jaad、chat、chad、chaad、miraa。

形態:15mに生長する大木。常緑樹の一種である。小枝は赤みを帯び、葉は楕円形で皮質、小さな黄色か白色の花を付ける。アラビアチャノキとされているが、ツバキ科の茶の樹とは近縁ではない。

原産地:中東及びアフリカのホーン岬原産で、草原や乾燥地帯を好む。エチオピア、ソマリア、東アフリカ、アラビア半島で栽培される。

使用部位:葉、小枝。

主成分:エフェドラ属植物と類似のalkaloid、ノルプソエフェドリン(約1%)及びephedrine、tannin、揮発油を含む。ephedrine型のalkaloidは、中枢神経系を強く刺激し、抗アレルギー性で、食欲を抑制する。

民間伝承:アフリカ及び中東の諸国で、興奮、強壮、食欲抑制剤として用いられる。煎じたり、燻したり、咀嚼することでコカノキ(Erythroxylum coca)の葉のある種の類似効果を生み出す。カートが習慣性かどうかはハッキリしないが、使用を中止すると眠気を催す場合もある。

効果・使用法:主として民間薬として使用され、マラリアの様な病気を治療するために、そのまま咀嚼したり煎じたりもする。アフリカでは高齢者に用いられ、精神機能を刺激、改善させる。ドイツでは肥満に対して使用されている。
注意:カートは続けて2週間以上使用すると、頭痛、血圧上昇、一般的な過剰刺激を起こすことがある。妊娠中の使用は禁忌。

その他、amphetamineに類似した覚醒作用をもたらすalkaloidの一種カチノン(Cathinone:2-aminopropiophenone、β-ketoamphetamine)が含まれており、新芽の葉を噛むことで高揚感や多幸感が得られる。その他、食欲を抑制する効果もあるが、効果は非常に弱いものであり、コーヒーや酒などの刺激物を飲みなれている人間には殆ど効果がない。使用方法としては、新鮮な若葉を噛み潰し、頬の片側に噛みくずを貯めながら、汁を飲み下していく。枝単位で売られており、葉を何枚かちぎりながら噛んで、最終的には一枝を噛み潰すとする報告も見られる。

image 飲酒の禁じられているイスラム世界のうち、特にケニア、ソマリア、エチオピア、イエメンなど アラビア半島から東アフリカにかけての地域において、酒などの代用として、嗜好品としての需要が高いが、イスラム世界の殆どの国ではその特性のため、麻薬として非合法となっている。先進国でも、多くの国では麻薬として非合法とされている。日本では広義の麻薬には含まれているものの、効果・毒性が非常に低いため規制の対象とはなっていない。

エチオピア及びイエメンでは合法とされており、イエメン人の社交生活にカートはなくてはならないものであるとされている。イエメンでは午後になるとカートの若葉を噛みながら街角に集まり、和やかに談笑している光景が見られる等の報告もされている。

 

1)難波恒雄・監訳:世界薬用植物百科事典;誠文堂新光社,2000
2)麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令第1条の麻薬

                                                  [011.1.CAT:古泉秀夫,2010.2.14.]           

『ドネペジル塩酸塩の効力について』

水曜日, 9月 22nd, 2010

KW:臨床薬理・ドネペジル塩酸塩・donepezil hydrochloride・アルツハイマー型認知症・アセチルコリンエステラーゼ阻害剤・効果持続

 

Q:訪問介護で訪問している依頼者の中で、アリセプト錠を服用している方がいるが、見ていると一時より悪くなってきた様な気がするが、薬の改善効果は続かないのか

A:アリセプト錠(エーザイ)は、『アルツハイマー型認知症治療剤』で、ドネペジル塩酸塩(donepezil hydrochloride)の製剤である。

承認適応症:『アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制』。

効能・効果に関する注意事項として、次の三つが挙げられている。

「1.アルツハイマー型認知症と診断された患者にのみ使用すること。」
「2.本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。」
「3.アルツハイマー型認知症以外の認知症性疾患において本剤の有効性は確認されていない。」

本剤の薬効・薬理について、次の通り報告されている。

1. 作用機序:アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められている。本薬は、アセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより脳内ACh量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する。
2. AChE阻害作用及びAChEに対する選択性:in vitroでのAChE阻害作用のIC50値は6.7nmol/Lであり、ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用のIC50値は7,400nmol/Lであった。AChEに対し選択的な阻害作用を示した。
3. 脳内AChE阻害作用及びACh増加作用: 経口投与により、ラット脳のAChEを阻害し、また脳内AChを増加させた。
4. 学習障害改善作用: 脳内コリン作動性神経機能低下モデル(内側中隔野の破壊により学習機能が障害されたラット)において、経口投与により学習障害改善作用を示した。

尚、本剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、コリン作動性作用により下記の症状を示す患者に対しては、症状を誘発又は増悪する可能性があるため慎重に投与することとする注意事項が報告されている。

(1)洞不全症候群、心房内及び房室接合部伝導障害等の心疾患のある患者[迷走神経刺激作用により徐脈あるいは不整脈を起こす可能性がある。]。(2)消化性潰瘍の既往歴のある患者、非ステロイド性消炎鎮痛剤投与中の患者[胃酸分泌の促進及び消化管運動の促進により消化性潰瘍を悪化させる可能性がある。]。(3)気管支喘息又は閉塞性肺疾患の既往歴のある患者[気管支平滑筋の収縮及び気管支粘液分泌の亢進により症状が悪化する可能性がある。]。(4) 錐体外路障害(パーキンソン病、パーキンソン症候群等)のある患者[線条体のコリン系神経を亢進することにより、症状を誘発又は増悪する可能性がある。]。

その他、次の注意事項が説明されている。

1.本剤はアルツハイマー型認知症の症状改善薬として2009年9月時点で、我国で認められている唯一の薬物である。
2.acetylcholine分解酵素阻害薬であり、脳内acetylcholineを増加させることにより症状を改善する。
3.症状を一定程度改善して進行を足踏みさせる対症療法薬である

その他、donepezil hydrochlorideについて、次の報告がされている。

本剤はアルツハイマー病(Alzheimer disease)の進行抑制薬であり、疾患そのものの治療薬ではない。アルツハイマー病は進行性疾患であるため、薬物療法を行っていても症状の増悪が緩徐に見られることも多い。薬効を判断することは非常に困難であるが、3-6ヵ月を目途に治療開始後の状態変化を評価する。認知機能そのものの改善例は少ないが、自発性の改善など本人の日常生活における言動のスムーズさが改善したとする介護者は多いため、改めて本人の生活の様子を詳細に確認する必要がある。

投与後の状態評価で、効果が認められた症例においても6-12ヵ月程度で薬効が低下し、自然経過に近い形でアルツハイマー病の症状の進行が認められる場合が多い。しかし、治療中断後2-6週の間に、薬効によって症状の増悪が抑制されていた事例で、急激な症状の増悪が認められる場合があり、特に効果があると考えられる場合には治療継続が基本である。また効力の減弱、症状の増悪が認められる場合、10mgに増量し、再度効果・経過を評価する方法も考えられる。

1)アリセプト錠添付文書,2009.7.改訂
2)高久史麿・他監:治療薬マニュアル;医学書院,2010
3)古田伸夫:疾患別処方解説-認知症(dementia);http://www.e-mediceo.com,2008.11.

                                 [015.4.DON:古泉秀夫,2010.1.27.]                        

『多発性硬化症について』

水曜日, 9月 22nd, 2010

KW:語彙解釈・多発性硬化症・multiple sclerosis・MS・脱髄疾患・特定疾患指定・難病・ダルファムピリジン・dalfampridine・アムピラ・ampyra

 

Q:多発性硬化症(MS)なる病名はどの様な症状を示す病気なのか

A:多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)について、次の報告がされている。

多発性硬化症は、中枢神経系の脱髄疾患の代表的な疾患で、特定疾患治療研究事業の指定疾患である。

ヒトの神経活動は、神経細胞から出る細い神経の線を伝わる電気活動によって全て行われている。神経の線は剥き出しに存在するのではなく、髄鞘で被われている。この髄鞘が壊れて、中の電線が剥き出しになる病気が脱髄疾患である。発症には自己免疫的機序が関与し、エミリン構成蛋白などが責任抗原と考えられている。この脱髄が斑状にあちこちにでき(これを脱髄斑という)、病気が再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS)である。MSというのは英語のmultiple sclerosisの頭文字である。病変が多発し、古くなると少し硬く感じられるのでこの名が付けられている。

最近の疫学調査で、国内に推定約10,000人の患者が存在し、有病率が上昇中であることが報告された。若年成人(32±13歳)に多く多発し、男女比は1:29であるとされる。

脳、脊髄、視神経などのあらゆる部位に脱髄病変が出現するため、病状は多彩である。再発・寛解を繰り返すことが多い(再発寛解型)が、経過と共に寛解期にも常に進行する様になる(二次性進行型)、稀に病初期から間断のない進行性の経過を取るタイプがある(一次性進行型)。

診断:脳の病変部位には炎症があるので、脳脊髄液に炎症反応があるかどうかをみることが重要である。その為、腰椎穿刺という検査を行い、髄液を採取して検査する。これは腰の部分に針を刺して脳脊髄液を採取して検査するもので、針を刺した部分の痛みがあり、人によっては検査後に頭痛を訴えるとする報告がされている。急性期のMS ではリンパ球数の増加、蛋白質の増加、免疫グロブリンIgGの増加など炎症を反映した所見が見られる。また髄鞘の破壊を反映して、髄鞘の成分であるミエリン塩基性蛋白の増加が見られる。
近年、核磁気共鳴画像(MRI)を用いて病巣を検知することができるようになり、MSの診断は容易になった。脱髄病巣はT2強調画像およびフレア画像で白く写し出される。

治療は再発時の治療、寛解期における再発予防、進行抑制及び対症療法である。

1)再発時の治療:再発時の治療は急性症状増悪からの回復を促進することが目的である[ステロイド・パルス療法]。
2)再発予防:interferon-β-1b、interferon-β-1aが再発頻度減少、再発期間延長MRI上の効果に有効。
3)進行抑制:interferon製剤の進行抑制作用についての有効性未確立。欧米ではミトキサントロン(ノバントロン注:適用外使用)が使用される。
4)対症療法:高度の痙縮(抗痙縮薬)、神経因性膀胱(神経因性膀胱のタイプを膀胱機能検査で評価した上で処方)、有痛性強直性攣縮・不快な痺れ・三叉神経痛に対して(テグレトール錠投与)。

その他、2010年1月22日、米・FDA(米国医薬品局)は多発性硬化症(MS)患者の歩行障害の改善に対してAcorda Therapeutics社(ニューヨーク州)から申請のあった『AMPYRA』(一般名:dalfampridine、ダルファムピリジン)を初めて承認した。アムピラ(ampyra)は、1錠中にカリウムchannel遮断剤のダルファムピリジン(4-アミノピリジン)10mgを含有する傾向徐放剤であるとする報告が見られる。
臨床試験において、新薬を投与された患者では、プラシーボ(偽薬)を処方された患者よりも歩行が速くなることが証明されたという。FDAによると、歩行障害は、MS患者が抱える最大の問題の1つとする報告が見られる。

 

1)山口 徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2009
2)難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/068.htm
3)アメリカ医薬品情報-多発性硬化症患者の歩行障害改善薬;薬事日報,第10791号,2010.2.10.

   [615.8.MS:医薬品情報21・古泉秀夫,2010.2.11.]