Archive for 6月 25th, 2010

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「オキシドールの毒性」

金曜日, 6月 25th, 2010

対象物

家庭用オキシドール(oxydol )

調査者

古泉秀夫

分類

015.11.OXY

記入日

2002.7.10.

成分

過酸化水素2.5-3.5w/v%含有

一般的性状

通常、家庭用として市販されているオキシドール(oxydol)は、過酸化水素2.5-3.5w/v%含有する殺菌・消毒薬である。過酸化水素は、細胞、細菌、血液、膿汁等のカタラーゼ(ヘム酵素)により直ちに水と酸素に分解する。この発生機の酸素が殺菌作用を呈する。

毒性

低濃度の過酸化水素:家庭用オキシドールの毒性は低く、経口摂取しても殆ど無害である。経口摂取した場合、体内に吸収される前に消化管カタラーゼにより分解される。

10w/v%以上の過酸化水素:[劇物]。強い酸化作用を有し危険である。過酸化水素30w/v%溶液のヒト経口推定致死量は1,429mg/kg、8-20w/v%溶液のラット経口LD50は1,518mg/kgである。

症状

低濃度の過酸化水素:特に症状は見られない。経口:発生した酸素ガスによる腹部膨満、鼓腸。眼:疼痛、刺激。

10w/v%以上の過酸化水素

経口:嘔吐、口腔・咽頭・食道・胃の炎症、胃膨満。重症の場合は穿孔を起こすことがある。

吸入:呼吸器系の炎症。

眼 :角膜の潰瘍形成又は穿孔。

経皮:化学熱傷。

処置

低濃度の過酸化水素:水又は牛乳200mLを飲用させ希釈・分解を促進する。胃洗浄の必要はない。消化管内で発生した酸素ガスによる腹部膨満、鼓腸は、対処療法(ジメチルポリシロキサン等の消化管内ガス排除剤の投与。又は導管により排除。)。

眼に入った場合、3w/v%程度の濃度であれば、即時に疼痛、刺激が生ずる可能性があるが、直ちに流水で洗浄すれば、重篤な損傷には至らない。洗浄後に刺激・疼痛が残る場合、眼科医を受診。

10w/v%以上の過酸化水素

経口:胃洗浄は穿孔に注意して行う。食道化学傷とそれに続く食道狭窄のおそれがあるので、アルカリ化学傷に準じた処置が必要。

眼・経皮:十分に流水で洗浄。対処療法。

事例

*家庭用オキシドールの使用残約50?100mLを誤飲した。誤飲後既に4?5時間経過し、特に現在肉体的に変調はないというが、この後何か処置が必要か。

備考

漂白剤-過酸化水素:8-10w/v%。

▼脱色剤-過酸化水素:2-2.5又は6-15w/v%。

▼染毛剤-過酸化水素:5-6w/v%。

▼アルカリ化学傷

▼1)直ちに流水で最低20-30分以上洗浄。

▼2)特異的治療法はなく、対処療法。

文献

1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993

2)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001

『ギラン・バレー症候群について』

金曜日, 6月 25th, 2010

KW:語彙解釈・ギランバレー症候群・Guillain-Barr

『ひる石』について

金曜日, 6月 25th, 2010

KW:語彙解釈・ひる石・蛭石・vermiculite・バーミキュライト・苦土蛭石・黒雲母・緑泥石・中皮腫

Q:米国で中皮腫などの健康被害を引き起こして問題となっている「ひる石」というのはどの様なものか

A:蛭石(vermiculite)は、花崗岩中の黒雲母が風化作用によって水分が取り込まれ、カリウムが失われて不透明になり、褐変する。この破片が川の中で太陽光を受けると黄金色に輝いて、いわゆる“ネコの金”に化ける。六角短柱状の結晶がそのまま保存されて、風化生成土の中に入っていることがある。その1個をピンセットで鋏、炎の中に入れると、にょろにょろと十倍以上に伸びてくる。その様子から『蛭石』と呼ばれ、vermiculiteもその意味のギリシャ語から来ている。

黒雲母が風化したものの他に、緑泥石系のものなど、色々な蛭石が存在し、化学組成も一定しないため、蛭石は特定の種をもたないグループ名として取り扱われることになった。

その他、vermiculite(蛭石)について、層状の含水ケイ酸塩鉱物の一種で、雲母が熱水の作用や風化によって変化し生成するといわれている。アメリカで蛭石が文献にでるのは1824年のことで、蛭石(ひるいし、vermiculite)という呼び名はラテン語のvermiculari(蛭、ひる)に由来し、岩石を約1000度以上に加熱すると結晶水の蒸発によって板状の各層がアコーデイオン状に剥離・膨張する様子が蛭の蠕動(Vermicular motion)に似ていることから科学者Thomas.H.Webbが蛭石(Vermiculite)と命名したとされる。日本では花崗岩が長い年月の間に風化した加水黒雲母類も含めて蛭石、バーミキュライトと呼んでいる。別名:「きらら」・「千枚めくり」等の報告も見られる。

蛭石を800℃程度の高温で焼結処理すると、軽く、保水性・通気性・保肥性がある。pHもほぼ中性(アルカリ性のものもある)である。ピートモスや赤玉土などと混ぜて使用される。ほぼ無菌なので、ガーデニングにおける挿し木用土、種蒔き用土として使われる。内部に空気を大量に含むことから断熱性に優れ、耐熱性でもあることから、建材や工業用の断熱材、また肥料の吸着保持剤として利用されている。

「ひる石」は建材や土壌改良材として使われる鉱物で、これ自体に毒性はないが、リビー産には強毒性のアスベスト「トレモライト」とほぼ同じ鉱物が含まれている。米国ではリビー産「ひる石」を扱った労働者らが中皮腫を発症し、米連邦政府が2000年頃から住宅などに使われた「ひる石」除去対策に乗り出している[読売新聞,第48033号,2009.11.13.]とする報道がみられる。

蛭石には、その産地によっては鉱脈が近いこともあり、石綿(アスベスト)が含まれている可能性があるとされる。特に米モンタナ州リビー鉱山産の原石には、毒性の高い角閃石系の石綿が含まれ、鉱山労働者や周辺住民に多くの健康被害をもたらしている。そのため、石綿の全く含まれていない事が確認されている鉱脈産出(例:南ア・パラボラ鉱脈など)が主流となっているものの、2009年現在、日本では産地表示の義務付けはされていない。

以上の報告から蛭石そのものに毒性は存在しないが、蛭石を採掘する鉱脈にアスベストが含まれており、蛭石を採取する際にアスベストが混在することにより、蛭石を扱った鉱山労働者等に中皮腫が発生したものといえる。

1)堀 秀道:楽しい鉱物図鑑 ?;草思社,2009

2)バーミキュライト(蛭石、ひる石)に関するQ&A,2009.12.29.

[615.8.VER:2009.12.29.古泉秀夫(医薬品情報21)]

『ネクサバールについて』

金曜日, 6月 25th, 2010

KW:薬名検索・ネクサバール・ソラフェニブトシル酸塩・sorafenib tosilate・sorafenib・チロシンキナーゼ・キナーゼ阻害剤・抗悪性腫瘍剤

Q:TVの特番で放送されていたネクサバールとはどの様な薬か

A:ネクサバール錠(バイエル薬品)は、1錠中にソラフェニブトシル酸塩(sorafenib tosilate:JAN・INN:sorafenib)200mgを含有するフィルムコート錠である。

本薬はバイエル社とオニキス・ファーマシューティカル社で共同開発された、世界初の経口キナーゼ阻害剤である。腎細胞癌の発症と進行には、MAPキナーゼ経路を介した増殖シグナルや血管新生が関与しており、本薬は腫瘍の細胞増殖と、血管新生を阻害する。

本薬は非臨床試験において腫瘍進行に関与するC-Raf.、正常型及び変異型B-Rafキナーゼ活性、並びにFLT-3、c-KIT等の受容体チロシンキナーゼ活性を阻害した。更に本薬は腫瘍血管新生に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、血小板由来成長因子(PDGF)受容体等のチロシンキナーゼ活性を阻害した(in vitro)。本薬はヒト由来腫瘍細胞株を用いた担癌マウスモデルにおいて、腫瘍組織中の血管新生阻害作用を示した(in vivo)。また、本薬は腫瘍細胞のERKリン酸化を抑制し、アポトーシスを誘導した等の報告がされている。本薬はキナーゼ阻害剤に分類される抗悪性腫瘍剤である。

本剤の適応は次の通り報告されている。

1. 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌に対して

(1)サイトカイン製剤による治療歴のない根治切除不能又は転移性の腎細胞癌患者に対する本剤の有効性及び安全性は確立していない。

(2)本剤の術後補助化学療法における有効性及び安全性は確立していない。

2. 切除不能な肝細胞癌に対して

(1)局所療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波熱凝固療法、マイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓療法/肝動脈化学塞栓療法、放射線療法等)の適応となる肝細胞癌患者に対する本剤の有効性及び安全性は確立していない。

(2)肝細胞癌に対する切除及び局所療法後の補助化学療法における本剤の有効性及び安全性は確立していない。

(3)肝細胞癌患者に本剤を使用する場合には、肝機能障害の程度、局所療法の適応の有無、全身化学療法歴等について、「臨床成績」の項の内容に準じて、適応患者の選択を行うこと。

本薬の『用法及び用量』につては、既に市販されている薬物であり、使用に際しては添付文書の記載内容を十分に確認すること。

本薬の『警告』として、次の記載が見られる。

警告

本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に本剤の有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。

その他、重大な副作用として、次の報告がされている。

1.手足症候群(10%以上)、はく脱性皮膚炎(1-10%未満)。2.皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)。多形紅斑(0.1-1%未満)。3.高血圧クリーゼ(0.1-1%未満)。

4.可逆性後白質脳症(0.1-1%未満)。5.消化管穿孔(0.1-1%未満)。6.出血(消化管出血、気道出血、脳出血、口腔内出血、鼻出血、爪床出血、血腫)(10%以上)。7.心筋虚血・心筋梗塞(0.1-1%未満)。8.うっ血性心不全(0.1-1%未満)。9. 肝機能障害・黄疸(0.1-1%未満)。10. 膵炎(0.1-1%未満)。11. 急性肺障害、間質性肺炎(頻度不明)。12. 白血球減少、好中球減少、リンパ球減少、血小板減少、貧血(頻度不明)。

1)ネクサバール錠IF、2008.4.作成

2)ネクサバール錠添付文書、2009.5.改訂

[011.1.TOS:2009.11.16.古泉秀夫]