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『インターネットでの薬の購入』

火曜日, 12月 23rd, 2008

魍魎亭主人

 

H19.1.11.「インターネットで漢方薬を買ったのですが」(患者・電話)

手足の冷えとシモヤケのため、薬局からインターネットで漢方薬(当帰四逆加呉茱萸生姜湯顆粒)を4週間分購入した。3週間服用したところ、おなかが張ってきたので、副作用かどうかを確認しようとメールで問い合わせをしたところ、「貴方は膠原病でアレルギーもあるので附子を使え」という返事が来た。
副作用かどうか、どう対応すればよいか(服用をやめるべきか、量を少なくすればよいのか)を聞きたかったので、再度メールで問い合わせをしたが、最終的には「あなたとはメールの遣り取りはしないので、近くの漢方薬局に行くように」との旨の返事が来た。
こちらの質問には答えていないし、薬局の対応として、あまりに不親切と思う。薬剤師会から注意をしていただきたい。

[事務局対応]会員であれば指導するよう伝える [薬事新報,第2493:1039(2007)]。

 

OTC薬の『当帰四逆加呉茱萸生姜湯顆粒』を購入したのであれば、何でインターネットで購入したのか、その辺のところがよく分からない。あくまで医薬品は対面購入が基本で、種々の疑問点をぶつけて最終的に製品を選択するという方法をとるべき物である。その患者の疑問に、的確に回答するあるいは説明するためにこそ薬剤師が薬局にいる意味がある訳である。

更にお訊ねしたいのは、その薬の箱の中に添付文書は、入っていなかったのかということである。現在、添付文書という正しい呼称が専ら使われているが、従来は効能書きの一部を弾いて『能書』といわれており、場合によっては箱に納めてあるから『納書』、瓶に巻いてあるから『巻紙』等といわれていたが、『添付文書』は薬を使用する際の重要な仕様書なのである。

次に示すのは医療用医薬品の『当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス細粒』の添付文書の一部であるが、OTC薬の添付文書と内容的にはさほど掛け離れていないはずである。

本薬1日量(7.5g)中

日局 当帰            3.0g
日局 桂皮            3.0g
日局 木通            3.0g
日局 細辛            2.0g
日局 呉茱萸          2.0g
日局 甘草            2.0g
日局 芍薬            3.0g
日局 生姜            1.0g
日局 大棗            5.0g

上記の混合生薬より抽出した当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス粉末4,200mgを含有する。添加物として日局ステアリン酸マグネシウム、日局軽質無水ケイ酸、日局結晶セルロース、日局乳糖、含水二酸化ケイ素を含有する。
なお、『日局』とは、日本薬局方に収載されていることを意味する。

効能又は効果:手足の冷えを感じ、下肢が冷えると下肢または下腹部が痛くなり易いものの次の諸症:しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛

用法及び用量:通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

使用上の注意[慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)]

1.著しく胃腸の虚弱な患者[食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等があらわれることがある。]
2.食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある。]

*重要な基本的注意

1.本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。

2.本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。

3. 他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

*相互作用[併用注意(併用に注意すること)]

薬剤名等

(1)カンゾウ含有製剤
(2)グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤
(3)ループ系利尿剤
フロセミド
エタクリン酸
(4)チアジド系利尿剤
* トリクロルメチアジド

臨床症状・措置方法:偽アルドステロン症があらわれやすくなる。また、低カリウム血症の結果として、ミオパシーがあらわれやすくなる。(「重大な副作用」の項参照)
機序・危険因子:*グリチルリチン酸及び利尿剤は尿細管でのカリウム排泄促進作用があるため、血清カリウム値の低下が促進されることが考えられる。

副作用(副作用等発現状況の概要)

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。

重大な副作用

1.*偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

2. *ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

*その他の副作用

過敏症注1) (頻度不明) : 発疹、発赤、そう痒等

消化器(頻度不明):食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等

注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

高齢者への投与:一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与:*妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

小児等への投与:*小児等に対する安全性は確立していない[使用経験が少ない]。

投書者がいう『お腹が張ってきた』という表現に直接該当する表記は添付文書に見られないが、『胃部不快感』がそれに当たるものではないかと思われる。添付文書中の症状標記は、医療の現場で実際に発現した副作用を報告する医師の標記のまま書くことになっており、『胃部不快感』の一言で片付けている可能性が考えられる。

従って『胃部不快感』を単に気持ちが悪いと取るか、胃が重苦しく感じるとか、胃の中に何か入っているような感じとか、いわゆる抽象的な患者の訴えが、この一言で現されていると取るかで、添付文書には記載がないという判断になり、返事が出来なかったとも考えられる。

しかし、最初から行きつけの薬局で、対面購入していれば、このような問題は起こらなかったといえる。

1)カネボウ当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)エキス細粒添付文書, 2005年9月改訂 (第2版、薬事法改正に伴う改訂)

 

(2008.12.22.)

ネット販売団体

火曜日, 12月 23rd, 2008

    魍魎亭主人

改正薬事法の施行日が迫ってきたが、医薬品のインターネット販売を展開する業界団体『日本オンラインドラッグ協会』が、厚生労働省の提示した省令案に反発するコメント発表した[リスファックス,5192号,H20.9.18.]。

厚生労働省が省令案で、カタログ・インターネット販売を『郵便等販売』と定義づけ、第3類OTC薬の販売に限定した事による。更に郵便等販売を実施する場合は、予め店舗所在地や販売方法を都道府県知事に届け出る事になっている。

これに対し『日本オンラインドラッグ協会』は、「現在は可能な解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬など大半の医薬品は、今後一切(ネットで)購入できなくなることを意味する」と指摘。「実態にそぐわない規制強化で、協会としてとうてい納得できるものではない」としている。

『日本オンラインドラッグ協会』があること事態驚いたが、それ以上にネットで解熱鎮痛薬や風邪薬を販売することの意味が些か解り難い。解熱鎮痛薬も風邪薬も症状が出れば、直ちに服用しなければならない薬であって、ネットで発注して、例え次の日に入手できたとしても間に合わない。第一OTC薬とはいえ、解熱鎮痛薬も風邪薬も症状を確認して適切な薬を選択する助言をする役割を販売者は担っているのではないか。ネット販売では購入者の顔が見えない状況下で販売するのであって、如何にセルフメディケーションとはいえ、問題があるのではないか。

解熱鎮痛薬も風邪薬も全く副作用がないわけではない。更に通常の副作用以外に、場合によっては重篤な副作用が発現する可能性も完全に否定されているわけではない。そのような危険性のある薬を販売するのはあくまで“対面販売”が基本である。

ところで“対面販売”が原則であると書きかけて止めたが、何時頃から“原則”は守らなくてもいいことだというように解釈が変化したのか。原則は守ることが基本であり、原則が付いているからいい加減でいいというのは納得がいかない。

   (2008.12.22.)

『後発医薬品の試験・検査』

日曜日, 12月 21st, 2008

     魍魎亭主人

 

国立医薬品食品衛生研究所の「ジェネリック医薬品品質情報検討会」は2008年7月10日初会合を開催した。後発医薬品の品質に疑問を呈した論文をもとに議論した結果、抗真菌剤「イトラコナゾール」、慢性腎不全用剤「クレメジン」などの品質を検証対象にすることに決めた。具体的な検証方法は、事務局を務める国立衛研が組み立て、試験を実施する。早ければ半年後に開催する次回の検討会に結果を提出し、何らかの方向性を出すと報告されている。

国立衛研は、検討会に、後発品の品質を問題視した44本の論文を提示。議論の結果、試験方法に問題があると思われるものを含めた18本の論文で取り上げられた成分を、品質試験を行う候補として選定した。その中でもイトラコナゾールとクレメジンは、以前から品質が疑問視されていた「典型的な例」のため試験を実施する。

検討会は厚生労働省予算で国立衛研内に設置。政府の後発品使用促進の追い風に煽られ、後発医薬品市場が拡大する中、医療現場からは品質に対する疑問の声が止まらないため、疑惑の品目について検証することになった[リファックス,第5147号,平成20年7月11日]。

これは厚生労働省医政局経済課が、2008年7月9日に公表した「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」の実施状況についての中で『品質確保に関する事項』として挙げている次の事項を実践するものの一部と思われる。

*品質に関する研究論文等を踏まえ、後発医薬品の注射剤10成分94製品を対象に、国立医薬品食品衛生研究所及び地方衛生研究所において製剤中に含まれる不純物に関する試験検査を実施。現在、公表に向けて試験結果のとりまとめを進めている。

*後発医薬品の内服固形剤に係わる溶出試験の結果等については、(独)医薬品医療機器総合機構のホームページにおいて公表中。

現在、『後発医薬品』の使用は、予算の縮少を目的とした医療費抑制策の主柱の一つとして、重要政策に位置付けられている。従って厚生労働省は無闇に後発品への切換えを推奨しているが、しかし本来は、上記の報道に見られるように、品質に疑問がありとして公開されている論文を集約すると共に、全て公表し、更にその実証試験を行い、製品の品質を確認する作業を先に実施すべきだったのである。医薬品の有効性と安全性に対する疑念を払拭する、例え時間が掛かったとしても、そこの手順をしっかりすることが、不安解消のための最善の策であり、後発医薬品使用促進の早道だったと思っている。

処方する医師が、疑念を持ったまま処方し、何らかの問題が発生した場合、その責任は誰がとるのか。やはり処方医が確信を持って処方変更できるよう、疑問点を氷解させるために必要な情報の提供を先行させるべきであり、処方せんの形式変更や療担規則の改正等、姑息な行政的手法の導入を先行させるべきでは無かったのではないか。急がば回れである。

臨床現場で日常的に医薬品が使用され、その薬で患者の症状が安定している状況の中で、薬の変更を行うことは、医師にとっても患者にとっても迷惑なことなのである。後発品の同等性が頻りにいわれるが、それはあくまで概念の上でのことであり、実証的な証明がされている訳ではない。地に足の付いた変更の努力をすべきである。

   (2008.8.17.)

『紫陽花その後』

日曜日, 12月 21st, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

料理の皿の上に食えないものが載っているとは思わないのが一般人の常識で、紫陽花の若い葉が載せられていれば、あるいは青紫蘇が載せられているという認識で見ていたのかもしれない。

ところで推理小説や捕物帖で使われる毒薬や有毒植物について調べて、毒性・症状・治療法等を自分で運営しているブログに載せている。紫陽花の葉に付いては、これまで推理小説でも捕物帖でも出てこなかったので、珍しい事例として新聞記事から引用するとともに、その毒性について調査した。

調べてみると殆どの成書で紫陽花葉には青酸配糖体が存在し、咀嚼すると他の細胞内に存在する酵素の働きにより糖から青酸が離れて、毒性を発揮するとされていた。それらの文献を引用して、纏めたものをブログに公開したところ、青酸配糖体とする根拠になる原著が見あたらないということで、現在、調査中。従って青酸配糖体であるとする断定的な記載は避けた方がいいのではないかという御注意を先達から受けた。

紫陽花葉がその細胞内に青酸配糖体を造るのは、葉が虫等に喰われるのが嫌だということで、造るのだということになっている。しかし、それにしては山に咲く紫陽花の葉の中には虫食いだらけのものがあり、青酸というほど強力な毒は無いのではないかと思われるが、具体的に解明するためには、成分分析をしていただくより方法は無いといわざるを得ない。

紫陽花葉を喫食して食中毒が発生した時、厚生労働省から発出された文書を参照しておく。

食安監発第0701001号
  平成20年7月1日

 都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部局長  殿
  特別区

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

アジサイの喫食による青酸食中毒について

今般、飲食店で料理の飾り用として提供されたアジサイの葉(注)を喫食したことによる青酸食中毒事例が発生しました(別添参照。)
本事案では、飲食店施設等に植えられているアジサイの葉を採取し提供していましたが、アジサイの葉、花等の有毒植物が料理の飾り用として市場に流通していることが確認されています。
つきましては、食中毒予防の観点から、飲食店及び消費者に対し、これらの有毒植物を食品と共に提供又は喫食しないよう注意喚起を行うとともに、市場流通品を確認した場合には、販売者等に対し、食品又は料理の飾り用としての販売をしないよう指導方よろしくお願いします。

(注)アジサイ

葉などに青酸配糖体を含み、咀嚼、胃内の消化等により青酸配糖体と酵素が反応し、遊離した青酸(HCN)によって嘔吐、失神、昏睡等の中毒症状を起こす。

(別添)

アジサイの喫食による食中毒事例

【事例1】

平成20 年6 月13 日、茨城県つくば市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注1)を喫食した1 グループ8 名が、会食30 分後から嘔吐、吐き気、めまい等の症状を呈した。

【事例2】

平成20 年6 月26 日、大阪市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注2)を喫食した1 名が、喫食40 分後から嘔吐、顔面紅潮等の症状を呈した。

(注1)飲食店の施設内で採取されたもの。
(注2)従業員が採取し持ち込んだもの。

(参考)料理の飾り用アジサイの市場流通品(例)

写真省略

※その他、スイセンの流通実態がある。

現在、この発文書は厚労省のホームページからは削除されており、紫陽花の毒成分が青酸配糖体であるか否かについて、今後の調査を待たなければならないということであるが、一番最初に記載した人は誰だったのか。文献の孫引き、曾孫引きがされているうちに、青酸配糖体説が定着してしまったということなのであろうか。

今回の事例だけではなく、種々のところでこのようなことが起こっているのかもしれない。まことしやかな情報として流れているものが、探っていくと、何処にも根拠になる事実は探せず、単なる風評だったということになってしまう。やはり情報の世界は恐ろしい世界だということかもしれない。

(2008.8.17.)

『鬱金について』

金曜日, 12月 12th, 2008

KW:健康食品・鬱金・ウコン・turmeric・姜黄・turmeric・Javanese turmeric・Curcuma longa L・ショウガ科・含有成分・アキウコン・秋鬱金・ハルウコン・春鬱金

 

Q:鬱金の含有成分等について

 

A:鬱金については、次の報告がされている。

日本 中国
鬱金(termeric;turmeric,Javanese turmeric) 姜黄(jianghuang)
Curcuma longa L.
(別名:C.domestica VAL)の根茎
Curcuma longa L.
(別名:C.domestica VAL)の根茎
該当無。

鬱金
Curcuma longa L.を含むCurcuma属植物の根の先端部分にできる根塊。

 

鬱金の性状:ショウガ科の鬱金の根茎をそのまま又はコルク層を除いたものを、通例、湯通ししたもの。本品は主根茎又は側根茎から成る。本品は特異な臭いがあり、味は僅かに苦く刺激性で、唾液を黄色に染める。柔組織中には油細胞が散在し、柔細胞中には黄色物質、蓚酸カルシウムの砂晶及び単晶、糊化した澱粉を含む。

名称:日本の「鬱金」と中国の「姜黄」は同じ生薬のことを指すが、日本の「鬱金」と中国の「鬱金」は同じ生薬ではない。本草綱目に記載されている蘇頌の引用では、その花の時期及び薬材の色から、「鬱金」はCurcuma longa L.、「姜黄」はハルウコンC.aromatica Salisb.(=C.wenyujin Y.H.Chen et C.Ling)と考えられる。

含有成分:黄色で、水蒸気蒸留で留出しない3-5%の色素類(クルクミノイド類)、DAC 1986によると少なくとも3%あり、curcumin(diferuloylmethane)、monodesmethoxycurcuminとbisdesmethoxycurcuminからなる2-7%の精油は主にturmerone、ar-turmerone、zingbere、curlone等のセキステルペンからなる。

その他、秋鬱金の成分として国立琉球大学農学部測定の次の資料が報告されている。

(可食部100g中)

熱量 蛋白質 脂質 灰分 植物繊維 Na P
451kcal 8.1g 19.7g 5.6g 19.0g 26.9mg 298mg
Fe Ca K Mg curcumin 精油成分
54.0mg 109mg 1760mg 212mg 7.5g 5.6mL

また財団法人日本食品分析センターによる種子島産「春鬱金」の成分測定値が報告されている。
(可食部100g中)

熱量 水分 蛋白質 脂質 灰分 糖質 植物繊維 Na
297kcal 9.1g 16.3g 5.2g 7.2g 46.3g 15.9g 31.7mg
P Fe Ca Mg Zn curcumin 精油
401mg 11.0mg 135mg 267mg 4.51mg 0.49g 2.2V/w%

 

 

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『硝酸薬の作用発現時間・持続時間』

金曜日, 12月 5th, 2008

 

1] 硝酸薬は全てのタイプの狭心症に用いられる。狭心症発作寛解のためには、速効型硝酸薬(舌下錠、スプレー式口腔内噴霧薬)を用いる。高齢者など、口腔粘膜が乾燥しやすいヒトにはスプレーが有効。

2] 種類・剤型により効果の発現、持続時間が異なるので、目的に合わせて選択する。

3] 速効性のものは発作の寛解に、持続性のものは発作の予防に使用する。nitroglycerinは急性心不全には第1選択薬である。

4] 不安定狭心症などの重症狭心症には、速効性で、かつ調節性に優れた持続点滴を使用する。

5] 経皮製剤は肝での初回通過効果を受けず、安定した血中濃度が得られる。

6] 一硝酸イソソルビドも二硝酸イソソルビドとの比較で、安定した血中濃度が得られる。

7] 早朝の発作に対しては就寝前に作用時間の長い経皮製剤を使用する。

8] 前負荷軽減作用を有し、心不全治療薬としても使用され、特にnitroglycerinは基礎疾患が何であれ、急性心不全に対する第1選択薬である。

9] 長期使用による予後改善効果は明らかではない。硝酸薬のうち持続型のもの(貼付薬、持続点滴)では、長期使用により薬剤耐性が生じることがある。

10] 血圧が低下することがあるので、特に脳血管障害のある高齢者では注意が必要である。

11] 速効型硝酸薬を使用した場合、2-3分で軽快する。軽快しない場合には、5-10分間程度の間隔で、2錠まで使用し、それでも効果がない場合には心筋梗塞や大動脈解離など他の疾患の可能性もあり、医師へ連絡する。

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

nitroglycerin
ニトロペン錠(日本化薬)
ニトログリセリン錠

(日本化薬)

30sec.-1 min.(舌下錠) 10-30  min.
バソレーターRB2.5貼付錠 (三和化学) 5 min.
(発作寛解不適)
約8 hr.
ミオコールスプレー
(トーアエイヨー)
1-2 min. 20-30  min.

ミリスロール注(日本化薬)
ニトログリセリンACC
(三菱ウェルファーマ)
バソレータ注(三和化学)

30 sec.-1 min. 一過性
ミリスロール冠動注用
(日本化薬)
   
バソレータ軟膏
(三和化学)
15 min.[IF,1996.1] 約6-8 hr. [IF,1996.1]

ニトロダームTTS

(ノバルティス)
ミリステープ(日本化薬)
ヘルツアーS貼付剤(大鵬)
バソレータテープ

(三和化学)

貼付約1 hr.後 貼付除去する12-24hr.後まで

amyl nitrite
亜硝酸アミル(第一三共)

30 sec.以内 約4-8 hr.

isosorbide dinitrate

[ISDN]
(二硝酸イソソルビド)
ニトロール錠(エーザイ)

2 min.前後(舌下投与)
15-30 min.(経口)

1.5-2 hr.(舌下投与)
3-6 hr.(経口)

ニトロールRカプセル
(エーザイ)
30-60 min. 8-12 hr.
ニトロール注(エーザイ) 直後[IF,1994.4] 5-60min. [IF,1994.4]

isosorbide dinitrate

[ISDN]
(硝酸イソソルビド)
ニトロフィックス貼付錠

(キッセイ)

non data [IF,1994.1] non data[IF,1994.1]

フランドルテープS貼付剤
(トーアエイヨー)
アンタップR(帝人)

 

48 hr.-50.4 hr.
       [IF,2000.12]

ニトロールスプレー
(エーザイ)
約1-2 min[IF,1994.2] 30-120min[IF,1994.2]

isosorbide mononitrate

[MSDN]
(一硝酸イソソルビド)
アイトロール錠

(トーアエイヨー)

約5 min(舌下)
        [IF,2001.1]

7時間以上
        [IF,2001.1]

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
2)高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;MEDSi,2002
3)日本薬剤師会・編:病気と薬剤 改訂第4版;薬事日報社,1996

  [015.11.NIT:2005.11.15.古泉秀夫]

「ヒドラジン(hydrazine)の毒性」

金曜日, 12月 5th, 2008
対象物 ヒドラジン(hydrazine)
成分

ヒドラジン(hydrazine)、CAS No.302-01-2。別名:hydrazine anhydrous。N2H4=32.05。無色透明でアンモニアに似た液体。比重:1.013、引火点:38℃(密閉式)、融点:2℃、沸点:113.5℃。水、アルコールに溶ける。爆発し易い。塩基性で非常に還元されやすい。金属酸化物-水銀、銅などの酸化物及び多孔性酸化物と接触すると炎を発して分解する。

一般的性状

hydrazineは僅かにアンモニア臭を有する還元力の強い、塩基性の無色の液体で、非常に吸湿性があるとともに、大気中から二酸化炭素及び酸素を吸収する。水、アルコール、アンモニア、アミンなどの極性溶媒と混和し、炭化水素及びそのハロゲン置換体のような非極性溶媒には不溶。空気中では180℃でアンモニアと窒素に分解し、ハロゲン、硝酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム等と激しく反応する。水溶液は銅の触媒により分解する。強アルカリ性で腐食性が強く、ガラス、ゴム、コルクなどを侵す。

無水hydrazineはロケット燃料に用いられる。水加物プラスチック発泡剤製造用、還元剤、農薬(植物成長抑制剤及び除草剤製造用)、エアーバック用起爆剤。

水加hydrazineはプラスチック発泡剤やエアバッグ起爆剤などに使われている。また高圧ボイラー水(缶水)には溶存酸素を除去するために防蝕剤としてhydrazineが添加されている。このボイラー缶水を誤って飲用し、中毒する事例が多い。

爆発限界:2.9-100%(hydrazine、無水)、熱するか火焔に触れさせるか、酸化剤と反応させると、激しく爆発することがある。

保管条件:容器は密栓し、冷暗所に保管する。

毒性

許容濃度:0.1ppm、0.13mg/m3(皮膚)、ACGIH:0.01ppm(TWA)(皮膚)。IARC2B。強アルカリ性で皮膚を侵し、その他粘膜などに強い腐食を与える。急性経口毒性LD50:60mg/kg(ラット)。
吸入や経皮吸収又は経口にやって曝露される。皮膚や粘膜を刺激又は腐食する。

症状

全身作用として痙攣誘発作用、肝障害溶血作用がある。水加ヒドラジン中毒による死亡例では脱力、嘔吐、ふるえ等があり、死亡時の病理所見は重度気管・気管支炎、肝の脂肪変性、腎炎が見られた。発癌性として国際がん研究機関は2B(ヒトに対して発癌性があるかもしれない)としている。
吸入蒸気は粘膜刺激性、吸収は脊髄痙攣や溶血、時に過度体温上昇と糖分酸化増加が起こる。中程度の中毒も、肝壊死により数日以内に死に至ることがある。経口摂取は疲労、めまい感と眩暈食欲喪失、胃炎と下痢などを起こす。中毒性肝炎と貧血が多量投与後に起こる。hydrazine塩類は刺激的であり、腐食的である。本剤に触れると皮膚や粘膜の灼熱感を生ずる。

処置

眼に入った場合:流水で十分に洗う。

皮膚に付いた場合:大量の温水及び石けん水でよく洗浄する。

吸入した場合:新鮮な空気の場所に移し安静に努める。

救急処置はアルカリと同じなので参照する。

中枢神経症状には大量のビタミンB6(ピリドキシン)静注が特効薬として作用する。25mg/kgを3時間かけて静注する。一部を筋注してもよい。症状が取れない時には5-10分毎に25mg/kgずつ増量し、1回300mg/kgを超えない範囲で静注する。pyridoxineの長期大量投与で、神経障害が起きることがある。痙攣が止まらない場合はdiazepam 5-10mgを緩徐に静注又は筋肉内深く注射する。

メトヘモグロビン血症に対してはメチレンブルーの点滴をする。溶血、メトヘモグロビン血症が現れ、hydrazineによる腎毒性が出ていないうちであれば強制利尿で尿量増加を図る。

事例

米国国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官がAPに対し「被害を減らす手だてを検討している」と述べ、衛星が落下することを認めた。衛星の詳細は機密のため、明らかにされていない。米国ではL-21と呼ばれる偵察衛星が2006年の打ち上げ直後に交信不能になり、高度約350キロを漂っていると報道されたことがある。

過去、軌道上から落果した構造物は、2001年のロシアの宇宙ステーション・ミール(130t)が最大。これに次ぐ大きさの米スカイラブ(80t)は1979年、制御不能で破片の一部がオーストラリアに落果した。APは今回の衛生を10tと伝えている。

ロケットや衛星の推進剤に使われるヒドラジンは、無色透明でアンモニアに似た刺激臭のある液体。吸い込む肺水腫を引き起こす恐れがある他、眼に入ると失明する危険性もある[読売新聞,第47379号,2008.1.28.]。

備考 ある日突然、打ち上げた衛星が軌道を外れ、落下してくる。それには有害なhydrazineが大量に積まれており甚だ危険だといわれたとしても、それじゃどうすればいいんだとしかいいようがないじゃないか。しかも何処に落ちるか判らないなんぞといわれたのでは立つ瀬がない。しかし、完全に費消する量を積んでおけばいいのに、何故余分な量を積み込んでいるのか。最も計算通り軌道を遊行するのではなく、なかには勝手な判断でやめる奴が出てくるのかもしれないが、今回の衛星みたいに宇宙で爆破するなんてことを繰り返していると、それこそ宇宙が塵だらけということになりかねないが、果たして衛星を打ち上げているお国の方々はどうされるのであろうか。
文献

1)14303の化学商品;化学工業日報社,2003
2)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.HYD 記入日 2008. 5.8.