Archive for 1月, 2009

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『惰性といわれても仕方がない』

土曜日, 1月 31st, 2009

?????? 医薬品情報21
古泉秀夫

 

5月22日(第47494号)付読売新聞、『島根県益田市の診療所が3月末から約1カ月間、患者37人に対して、血糖測定のために指先などに針を刺して採血する器具を使い回していたことがわかった。県医療対策課によると、クリニックの検査の結果、因果関係は不明だが、うち14人がB、C型肝炎ウイルスに感染していることが確認された。複数の看護職員が自動的に針が交換されると誤解したのが原因という。厚生労働省は同様の器具の使い回しを禁じる通知を出しており、県は同クリニックを行政指導すると共に、今月中にも立ち入り検査する方針。』

同様の医療機器による肝炎感染は2005年に英国で発生。厚労省は2006年3月、医療機関に同様の器具の使い回しを禁じる通知を出した。今回の器具の添付文書にも、「個人の使用に限り、複数の患者に使用しない」、「使い捨てで再使用しない」などと記載している。

5月23日(第47495号)付読売新聞、『血糖値測定用の針付き採血器具を糖尿病患者に使い回していた問題で、同クリニックの看護師が器具の針6本のうち1本を1ヵ月以上使い続けため針先が丸くなり、患者が痛みを訴え、使い回しが発覚したことがわかった。』

5月23日(第47495号)付読売新聞、『採血器具使い回し問題で、記者会見した院長は「昨年6月に納入業者から説明を受けていたが、詳細な操作方法を忘れてしまった」と説明。昨年3月の開業直後から、別の個人使用限定の採血器具を延べ約200人の患者に使い回していたこともわかり、ずさんな実態が明らかになった。』

5月24日(第47496号)付読売新聞、『県は23日夜、記者会見を開き、妊娠中の同クリニック職員が同一の針を自らに使用していた、と発表した。今のところ、この職員に肝炎の感染は確認されていないが、妊娠後期のため、感染を防ぐワクチンを接種できないという。』

5月26日(第47498号)付読売新聞、『島根県ではこの診療所も含め計20の医療機関で同様の不適切な使用が行われていたことが県の調査でわかった。厚生労働省は2006年3月、医療機関などに出した通知で、同種器具の使い回しを禁止しており、使用実態に関する全国調査を行うことを決めた。』

6月3日(第47506号)付読売新聞、『針付き採血器具の使い回し問題で、厚生労働省が2006年3月、全47都道府県に器具の共用を禁じる通知を出したが、北海道、大阪、千葉など32道府県が医師会や医療機関、保健所などに連絡しただけで、直接、各市町村に伝えていなかったことが、読売新聞社の調査でわかった。採血器具の使い回しは2日迄に、岩手、埼玉、大阪、山口など2府12県で糖尿病患者や健康相談の参加者、看護学生ら延べ5000人以上に行われていたことが医療機関などの発表で判明した。』

6月12日(第47515号)付読売新聞、『静岡県の熱海保健所が、針付き採血器具を使い回していた問題で、同保健所は器具4個を10ヵ月にわたって使い続けていた。器具の説明書には「個人の使用に限り、複数の患者に使用しないこと」と明記されており、県医務室は「医療機関の監督官庁(保健所)が、こうしたことを起こし、責任を重く受け止めている』としている。』。『北九州市は12日、入院、通院患者や1998-2003年度に開かれた糖尿病予防教室の受講者に対し、針付き採血器具を計300人に使い回していた、と発表した。市によると採血器具はペン型で血糖値を調べるため針を指先に刺すタイプ。いずれも、針は採血の度に交換していたが、血液が付着する恐れのある先端のカバー部分はアルコール消毒して再利用していた。』。『自治医科大は11日、医学部の実習や学園祭での健康教室で、計約420人に針付き採血器具を使い回し、血糖値を測定していたと発表した。針は1回毎に交換していたが、先端のキャップはアルコール消毒した上で複数回使用していた。同大では、器具の使い回しを禁じた2006年3月の厚生労働省の通知が同大附属病院にしか伝わっていなかったという。』。『静岡県は12日、熱海保健所が、熱海、伊東両市内で2007年5月-2008年3月に開かれた健康祭りなど計12回のイベントで来場者2321人に対しメーカーが複数の人への使用を禁止している針付き採血器具を使い回して血糖値の測定を行っていたと発表した。針は毎回交換していたが、先端部分のキャップはアルコール消毒して複数回使用していた。キャップに血液が付着し、次に採血する人の指など、キャップが当たる場所に傷がある場合には、肝炎などに感染する恐れが出てくるが、県では「リスクは非常に低い」(医療室)としている。』

6月13日(第47516号)付読売新聞、『山梨県は12日、県立中央病院(甲府市)、県立北病院(韮崎市)で糖尿病患者計748人に対し針付き採血器具を使い回した血糖値の測定をしていたと発表。いずれも針は交換し、血液付着の可能性があるキャップ部分をアルコール消毒だけで使い回していた。

岩手県奥州市も12日、1999年4月-2008年5月に、市立の病院や診療所などで血糖値を測定する際、計955人に針付き採血器を使い回していたと発表。

厚生労働省が全国の病院・診療所を対象に実施している調査について、愛知県医師会は12日回答を保留するよう、約8000人の会員に通知した。同県豊田市で今月、注射針を固定するホルダーの使い回しが発覚したため、県がホルダーも調査対象に加え、判明部分は医療機関名を公表することにした。しかし、同医師会は「ホルダーの使い回しによる感染例はなく、結果が公表されれば、不安をあおるだけ」と反発し、回答の保留を決めた。』

6月14日(第47517号)付読売新聞、『埼玉県は13日、県立小児医療センター(さいたま市岩槻区)と県立循環器・呼吸器病センター(熊谷市)て糖尿病患者ら計約230人に対し、針付き採血器具を使い回して血糖値の測定を行っていたと発表した。』

6月25日(第47528号)付読売新聞、『全国の医療機関や健康イベントなどで「針付き採血器具」の使い回しが相次ぎ発覚している問題で、読売新聞が各自治体に取材したところ、少なくとも36道府県で同種事例があり、使い回しの対象者は延べ18万人以上になることが24日分かった。東京など11都県が「調査中」と回答を保留しており、実際の人数は更に多いと見られる。使い回しによる肝炎などのへの感染被害は報告されていないが、医療関係者の間で血液感染への認識が不足している実態が浮き彫りになった。

針自体を使い回していた事例は2件。島根県益田市の診療所と広島市の診療所で計46人が対象となっていた。それ以外はいずれも周辺部のキャップを複数人に使い回していた。厚生労働省は「針を交換しても、皮膚に直接触れる周辺のキャップ部分を取り替えないと、付着した血液から感染する可能性は否定できない。」としている

一方、健康診断の採血時などに使われ、針を通して「ホルダー」内の筒の中に血液を吸引するタイプの器具でも、少なくとも計8県で約41万人に対し、ホルダーの使い回しがあったことが分かった。同省は、このタイプの器具では「感染する可能性は否定できないが、極めて低い」として、今回の調査対象には含めていないが、複数の患者にホルダーを使い回さないよう通知を出している。』

7月10日(第47543号)付読売新聞、『血糖値を測定する「針付き採血器具」の使い回し問題で、都は9日、都内810カ所の医療機関などで使い回しがあったと発表した。使い回しの対象者数は不明だが、肝炎などの感染報告はないという。厚生労働省の全国調査の一環で、都が14,593カ所の病院などを調べたところ、5.6%にあたる医療機関などで使い回しが行われていた。この採血器具は、血液がキャップに付着する恐れがあるとして、キャップも使い回さないよう通知している。都内のケースも、針は交換していたが、キャップを取り替えていなかった。』

針付き採血器具』のいわゆる使い回しについて、血液の直接付着する部位である『針』を交換せずに使用していたというのは論外にしても、針は交換しキャップ部分は消毒用エタノールで消毒して使用していたという医療機関や保健所は相当数になるということは、その方法で十分に感染は防げると判断していたということではないか。

英国で感染した事例があるから添付文書の使用上の注意にも記載があり、厚生労働省も通知を出していたというが、ある意味でいえば“羮に懲りて膾を吹く”の感なきにしもあらずである。英国での事例がどの様な経過で感染を起こしたのか、詳細は知らないが、直接傷口に血液に汚染されたキャップをすり付けたり、血の滴りのあるものを接触させない限り感染の機会は限りなく少ないのではないかと思われるがどうであろうか。

厚生労働省の発出文書が医療機関にまで届いていないというが、それは今回に限った訳ではなく、都道府県等を経由してそれぞれの職能団体に下ろされ、職能団体が発行する会誌等の出版物に掲載されるという手順が一般的で、企業が自社製品に係わる文書として持参しない限り相当アンテナを高く張ってないと情報が引っかからないことがある。

添付文書を読まないというのは専門職能としては言い訳のしようがない。特に初めて使用する時には必ず添付文書を読むというのは鉄則であり、更にその製品について何らかの疑念が起これば添付文書を確認するというのも鉄則である。勿論、これは医薬品についての基本原則であるが、医療用具や機器についてもその鉄則に変わりはないのではないか。

薬食安発第0303001号
平成18年3月3日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

? 厚生労働省医薬食品局安全対策課長

採血用穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いについて

採血用穿刺器具とは、血糖値の測定等における微量採血を目的とする穿刺針を装着するために用いる器具であり、本器具には器具全体がディスポーザブルタイプであるもの、針の周辺部分がディスポーザブルタイプであるもの及び針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないものの3種類がある。

このうち、針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの(別紙1参照)について、英国医薬品庁は、昨年11月、英国の介護施設におけるB型肝炎の発生(2名死亡)との関係が疑われる旨発表するとともに、ヘルスケア・ワーカー(医療従事者)及びケア・ワーカー(介護従事者)は針の周辺部分がディスポーザブルタイプであるもの又は器具全体がディスポーザブルタイプであるものを用いるべき旨等の注意喚起を行ったところである。また、カナダ保健省も、本年1月、同様の注意喚起を行った。

わが国においては、針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの(以下「この器具」という。別紙2参照)については、既に、添付文書の禁忌・禁止の項、警告の項等において「他の人と共用しないこと」等と記載し、注意喚起を図っている。また、この器具によると疑われる感染事例は国内では未だ報告されていない。

しかしながら、この器具の安全使用に万全を期すため、予防的措置として、下記の措置を講ずることとしたので、貴管下関係製造販売業者に対し添付文書の改訂等の指導を行うとともに、貴管下の医療機関等への注意喚起を図られるようお願いする。併せて、民生主管部局にも周知願いたい。
なお、別途、関係団体(別紙3参照)に通知したので申し添える。

????????????????????????????????????? 記

1. 製造販売業者による添付文書の改訂等

* (1)「禁忌・禁止」の項に以下の内容を記載すること。個人の使用に限り、複数の患者に使用しないこと。
* (2)出荷前にこの器具に「複数患者使用不可」のシールを貼付するとともに、既に納入済みの製品にあって、まだシールを貼付されていないものについては、納入先にも同シールを配布し、貼付を依頼すること。

2. 医療機関等への注意喚起

この器具を複数の患者に使用しないよう特段の注意をはらうこと。
以上

(2008.8.17.)

『中川船番所とおおじま(大島)』

金曜日, 1月 30th, 2009

  

鬼城竜生

 

7月16日(水曜日)『中川船番所資料館』に行くことにした。前回、横十間川親水公園に出かけた時に、東陽町駅から四つ目通りを船番所-01 通って川に出る前の右側に江東区役所があり、区役所の1階で“下町ぶらりMAP 大島”を貰って来ていたが、その地図を眺めている時に気が付いたのが『中川船番所跡地』の記載と『中川船番所資料館』の記載であった。最近、書かれている捕物帖では、時に『中川船番所』が出て来るものがあるが、船専用の関所ということで話題を提供している。

先ず京浜急行の蒲田駅で乗り換え、大江戸線の三田駅で下車する。そこから都営三田線の三田駅で乗り換え、森下駅へ。森下駅で都営新宿線に乗り換え、東大島駅へ。大島口を左にとって中川大橋の方向に出る。東大島駅広場に龍のモニュメントが建てられている。これは東西南北の方角を守る四?の一つで、東の『青龍』であるとされている。

江東区では2006年4月1日東京都から江東区に移管された若洲公園(同区若洲)に、区立公園化を記念する南の『朱雀』のモニュメントを建設し、11月15日に除幕式を行った。従来から亀戸駅に置かれている“はね亀”が、北の『玄武』として存在しており、江東区では四神の内三神が勢揃いしたことになる。これであと一つ西の『白虎』が出来れば、江東区では四神が完成することになる。

因みに四神がそれぞれ司る方位、季節、象徴する色は、次の通りである。

    * 青竜:春:東:青
    * 朱雀:夏:南:赤(朱)
    * 白虎:秋:西:白
    * 玄武:冬:北:黒(玄)

大島小松川公園内に入ると、突き当たりに『中川船番所資料館』の建物が見えた。『中川船番所跡地』は、中川と小名木川を見通船番所-02 せる角地にあったとされている。大島の南側に位置する小名木川は、徳川家康が江戸城を本拠地と決めた時に開削された運河だといわれる。行徳の塩をはじめとして、各地の物資を江戸に搬入するための重要な水路として利用された。明治以降は両岸に並ぶ工場のための運河となり近代国家建設に貢献、戦後はこの川の氾濫が周辺の住民に被害を及ぼすという変遷を辿ってきたとされている。

中川船番所は、この人口の川である小名木川と中川の結節点に作られた水運利用者のための関所として造られたものだという。番所が置かれた場所は、江戸と関東を結ぶ重要な場所で、主に夜間の通船、女性の通行、武器などの取り締まり、船で運ばれる荷物を検査していたというが、通船の増加により、通関手続きは形式化していったという。

現在の中川番所資料館は3階に中川番所実物大の再現建築物、江戸から東京までの小名木川の水運の歴史、展望室があり、2階には和竿などの釣り道具が展示されている。

中川船番所資料館を見学した後、直ぐ近くにある宝塔寺の塩舐め地蔵を拝見した。仏前の塩を貰って祈願すると「いぼ」が治るといわれていたという。ついで新大橋通沿いにある東大島神社によった。近く行われるお祭りの案内がそこかしこに見られた。この神社船番所-03 は、東京大空襲よって消失した大島地区の五つのお社を合併して設立された神社だといわれている。境内には“庚申塔”や“豊栄社石祠”などの文化財があるといわれているが、何処にあるのか特に案内は見られなかった。

大島駅の前の丸八通りを“大島稲荷神社”を覗いた。創立は慶安年間(1648-1652)とされているが、小さいなりに風情のある神社である。鳥居の側に“女木塚碑(おなぎづかひ)”があり、この碑には『秋に添うて行ばや末や小松川』という芭蕉の句が書かれている。この句は元禄5年あるいは6年、芭蕉49歳の時に小名木川に船を浮かべ、門人達との句会で吟じたものとされている。芭蕉の石像が建立されているが、これは最近のことであるとされている。

船番所-04大島稲荷神社”は小林一茶ゆかりの地でもあるとされる。『かぢの音は耳を離れず星今宵』、『七夕の相伴に出る川辺哉』(享和3年7月7日)。

『水売のいまきた顔や愛宕山(文政2年)』。これらの句を小林一茶が詠んだ地は大島稲荷神社であると推定したのは信州大小林講師で、その根拠としたのが「水売」の句と解説されている。更に享和句帖3年9月19日の条に稲荷祭とあるのは当神社の御祭礼のことであるとする話も見られる。

出典は『八番日記』。文政2年、一茶57歳の時の句である。この年一茶が江戸に出てきた船番所-05のかどうか、よく分からないが、『おらが春』に文政2年作として「なでしこに二文が水を浴びせけり」の句もある。当地大島あたりは飲水が悪く、小名木川を水売り船が往来し、水だ水だと一軒一軒に水売にきていたことが伝えられている。『八番日記』に文政4年の句として「水売や声ばかりでも冷つこい」もある。この年も一茶が江戸に出てきたのかどうか、よく分からない等の解説がされている。

ここに照会されている句のみの比較でいえば、芭蕉の句より小林一茶の句の方が分かり易い。解釈に困るような難しい表現がいい文学で、分かり易いのは悪い文学だという話もあるのかもしれないが、分かり易ければ分かり易いほどいいのではないか。小難しい作品に首を捻っている間に、解釈を間違うことだって出てくる。

本日の総歩行数12,357歩。暑い最中に歩くのは些か応えるが、熱射病にはならなかった。『水売りの声聞こえしか女木塚(おなぎづか)』
“水売り”が夏の季語になっているかどうかは知らない。兎に角一茶の句を見た記念としてでっち上げてみた。

      (2008.9.5.)

ネット大量販売

金曜日, 1月 23rd, 2009

 

  魍魎亭主人 

 

北九州市の薬局で、インターネット上の「楽天市場」で、2005年11月から市販薬を販売。2006年5月、当時19歳の埼玉県の少年に、催眠鎮静剤24箱(1箱12錠)をまとめて販売した。薬局側はその際、購入者の年齢や購入目的は確認していなかった。

少年は、別の薬局から買い集めたものも含めて300錠以上を一気に服用。病院に運ばれ命は取り留めたが、両足に障害が残った。

メーカーは、この薬を売る際には1人1箱を厳守し、頻繁に買おうとする客には販売を控えるよう求める注意文書を販売店に配布していた。厚労省は2004年、市販薬のネット販売は比較的リスクの低い医薬品に限るよう求める通知を都道府県に出しており、この薬の販売は通知に反する。

福岡県は「依存性のある薬を大量に販売したことが被害原因の一つ」などと行政指導。薬局はその後閉店し、ネット販売からも撤退した。運営していた薬剤師は「問題が起きた後すぐに、鎮静剤のネット販売は止めた」としている[読売新聞,第47703号,2008.12.17.]。

話の流れからして福岡県が行政指導したのは2006年の5月以降のことと考えられるが、何故今頃になって6段抜きの記事にしなければならなかったのか、些か引っかかるところはあるが、製薬企業が1人1箱の販売を厳守するよう注意文書を各販売店に配布していたとすれば、それを遵守するのは薬剤師としての役割である。

更に2004年市販薬のネット販売に関して「比較的リスクの低い医薬品に限るよう求める通知」を都道府県に出していたとすれば、これは県薬剤師会等を経由して開局薬剤師の手元には届いていたはずである。にも関わらず通達に反する商売をしたということは、薬の専門家としての薬剤師としては、甚だしく品格のない商売をしたものだといわなければならない。

薬は本来人にとって異物である。異物を服むことによって生体がどの様な反応を示すかは百人百様で、全てが同じ訳ではない。臨床治験や永年の販売実績で安全は確認されたというかもしれないが、単に多くの偶然が積み重なって、安全を保証しているように見えるだけかもしれない。個人の体質や体調、肝機能や腎機能、諸々の物が影響して有害反応を示さないという保証はない。

薬の専門家である薬剤師は、薬を購入する者との何気ない遣り取りの中からOTC薬で治療可能なのか、医師の受診を進めるべきなのかの判断をしなければならない。薬は単に売ればいいわけではなく、売らないという判断も時に必要なのである。

このような判断は、電網を用いた一方的な連絡では捕捉不能である。更に足弱な高齢者が薬の購入が出来ないなどと言う御意見もあるようであるが、どれだけの高齢者が電網を使いこなし、必要とする商品の発注が出来るのか。離島の方々の薬の購入の道を閉ざすという御意見も聞くが、発注してかどの位の時間経過で手元に届くのか。熱発している最中に発注し、熱が下がってから届いても意味はない。

離島の住民や高齢者の医療を考えるのであれば、電網などという手段ではなく、もっと他の方法を考えるべきではないか。

  (2008.12.31.)

「トランス脂肪酸について」

水曜日, 1月 7th, 2009

KW:薬名検索・トランス脂肪酸・トランス型脂肪酸・trans fatty acid・LDLコレステロール・悪玉コレステロール

 

Q:トランス脂肪酸の性状及び人体に対する影響について

 

A:油脂は1分子のグリセリン(グリセロール)と3分子の脂肪酸が結合したものである。油脂は常温で“固体の脂肪(fat)”と“液体の油(脂肪油:oil)を総称したものである。fatには多くの陸上動物(牛脂、豚脂、バター等)と熱帯植物(椰子油、パーム油、ココアバター等)の油脂がある。oilは殆どの植物性油や海産の魚油、鯨油等の油脂がある。

トランス脂肪酸(trans fatty acid)は、マーガリンやショートニング*等の加工油脂やこれらを原料として製造される食品の他、乳、乳製品、反芻動物の肉や脂肪、生成植物油等に含まれる脂肪酸の一種である。脂肪酸は油脂の構成成分で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに区分される。炭素と炭素(C=C)が二重結合で結合したものが不飽和脂肪酸で、炭素に結びつく水素の向きでtrans-型とcis-型の2種類に区分される。水素の結びつき方が、互い違いになっているものをtrans-型脂肪酸といい、同じ向きになっているものをcis-型脂肪酸という。

トランス脂肪酸

 

trans-型脂肪酸の生成については、次の三つの過程が考えられている。

a.油を高温で加熱する過程で、cis-型不飽和脂肪酸から生成。
b.植物油等の加工に際し、水素添加の過程において、cis-型不飽和脂肪酸から生成。
c.自然界において、牛等(反芻動物)の第一胃内でバクテリアにより生成(脂肪や肉などに少量含まれる)。

*ショートニング:植物油や魚油等を原料として製造され、マーガリンと比較すると、水分を殆ど含まないという違いがある。19世紀に米国でラードの代用品として考案された。

トランス型脂肪酸の作用としては、悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロール(低比重リポ蛋白質:肝臓から体内各部にコレステロールを運ぶ物質)を増加させ、善玉コレステロールといわれるHDLコレステロール(高比重リポ蛋白質:体内の各部から肝臓へコレステロールを運ぶ物質)を減少させる働きがあるとされている。また大量摂取すると心臓疾患のリスクを高めるといわれ、2003年以降使用を規制する国が増えている。植物や魚油などから得られる天然の不飽和脂肪酸では、殆ど全ての二重結合はcis-型をとり、折れ曲がった構造をもつ。一方、不飽和脂肪酸から商品価値の高い飽和脂肪酸を製造する為に水素を添加し水素化させると、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸のcis-型結合がtrans-型に変化し、直線状の構造を持つようになる。

米国 加工食品中のtrans-型脂肪酸含有量の表示を2006年1月より義務付け(食品1回使用量当たり0.5g以上含まれる場合)。またtrans-型脂肪酸の摂取量は、1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満(勧告)。
カナダ 原則として2005年12月以降原則として栄養成分の表示においてtrans-型脂肪酸を表示対象。
デンマーク

2004年1月以降国内で販売する全ての食品の油脂中のtrans-型脂肪酸含有率2%迄に制限(但し、動物由来のtrans-型脂肪酸除く)。

世界保健機関(WHO)/食糧農業機関(FAO) 「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合」では、心臓血管系の健康増進のため、食事からのtrans-型脂肪酸の摂取を極めて低く抑えるべきであり、最大でも1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告。

 

その他、ニューヨーク市衛生局(New York City Board of Health)は、このほど市内の飲食店に対して、工業的に生産されたトランス脂肪酸の使用量を削減して、1食中りの
トランス脂肪酸含有量を0.5g未満とするよう義務付けた。これはニューヨーク市における冠動脈疾患イベントの発生数を抑制するための措置。デンマークでは既に2004年からより包括的なアプローチが行われており、全ての食品の脂肪及び油脂に含まれる工業的に生産されたトランス脂肪酸の量を2%未満に制限することが法的に義務付けられている。FDAは加工食品のラベルにトランス脂肪酸の含有量を表示するよう義務付けた。このような義務づけから食品メーカーでは、トランス脂肪酸の含有量を零又は少量に抑える製品を開発するようになった。

 

1)トランス脂肪酸の摂取制限:The Medical Letter<日本語版>,23(17):65-66(2007.8.13.)
2)奥山治美:話題-トランス脂肪酸(部分水素添加植物油)の安全評価;ファルマシア,43(4):332-336(2007)
3)雪印乳業株式会社:「トランス脂肪酸について」,2007.6.12.
4)内閣府・食品安全委員会:トランス脂肪酸,2007.5.21
5)冨浪俊一:トランス脂肪酸の安全性-過剰摂取心疾患の危険性-含有量 製品ごとにバラツキ;読売新聞,第47164号,2007.6.26.

                                                                                                    [615.8.TRA:2008.2.8.古泉秀夫]

                                       

「医薬品の化学的分類」

月曜日, 1月 5th, 2009

 

KW:薬名検索・医薬品・化学的分類・薬効分類・適応症・睡眠導入剤・睡眠障害改善剤・benzodiazepine類・ベンゾジアゼピン類・非ベンゾジアゼピン類・non-benzodiazepine類

 

Q:次の商品に使用されている原薬成分の化学的分類について

レンドルミン・ロラメット・エバミール・ハルシオン・アモバン

 

A:質問の薬剤の化学的分類は次の通りである。

一般名(薬品名・会社名) 薬効分類 適応症 化学的分類

brotizolam(JAN)
レンドルミン錠(NBI)

高齢者:少量から投与開始等慎重投与[高齢者-運動失調等の副作用]

睡眠導入剤

不眠症:1回0.25mg就寝前経口投与。

麻酔前投薬
手術前夜:1回0.25mg就寝前経口投与。麻酔前:1回0.5mg経口投与。

benzodiazepine類

lormetazepam(JAN)
ロラメット錠(ワイス)
エバミール錠(バイエル)
高齢者:少量から投与開始等慎重投与[高齢者-運動失調等の副作用]

睡眠導入剤 不眠症:1回1-2mg就寝前経口投与 benzodiazepine類

triazolam
ハルシオン錠(ファイザー)

高齢者:少量から投与開始等慎重投与[高齢者-運動失調等の副作用]

睡眠導入剤

不眠症:1回0.25mg就寝前経口投与。高度不眠症には0.5mg投与。高齢者1回0.125mg-0.25mgまで。
麻酔前投薬(手術前夜):1回0.25mg就寝前経口投与。

benzodiazepine類

zopiclone(JAN)
アモバン錠(サノフィ・アベンティス)

高齢者:易運動失調。また、副作用易発現、少量(1回3.75mg)から投与開始。

睡眠障害改善剤

不眠症:1回7.5-10mg就寝前口投与。
麻酔前投薬:1回7.5-10mg就寝前又は手術前に経口投与。

non-benzodiazepine類。
GABA-A/ベンゾジアゼピン受容体のα1インフォーム選択的アゴニスト。

 

1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構;2007.10.24.l,
2)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2006

                                    [011.1.BEN:2007.10.24.古泉秀夫]

『テトロドトキシンについて』

月曜日, 1月 5th, 2009

 

KW:薬名検索・テトロドトキシン・ tetrodotoxin・フグ毒・河豚・コリン作動性線維・トリウムチャンネル・sodium channel

 

Q:テトロドトキシンについて

A: tetrodotoxin(TTX)は、フグ毒の本態となる毒物である。 tetrodotoxinの吸収は早く、状は潜伏期0.5時間から4.30時間で発現し、知覚鈍麻、四肢麻痺、呼吸筋麻痺が起こるが中枢神経系には障害は生じないとされる。

口唇・舌及びその周辺、指先の痺れから始まり、悪心・嘔吐、頭痛、腹痛などが生じる次第に痺れは麻痺に移行し、四肢から全身に広がり、運動障害が生じる。麻痺が重度でっても、意識は障害されない。流涎、筋攣縮、発汗、胸痛、嚥下困難、言語障害、痙攣不整脈を生ずる例もある。

重症の場合、角膜反射の消失、散瞳、呼吸困難、呼吸停止、血圧低下、徐脈等が生ずる。
死因の多くは、摂取後4-8時間で生じる呼吸停止である。殆どの場合、12時間までに状が消失する。治療が奏効すれば、後遺症無く回復する。

tetrodotoxinはコリン作動性線維の興奮膜にあるNa-channel(sodium channel)と結合しNa-ionの流入を妨げる。このため神経伝達、更には神経・筋接合部でのアセチルコリの遊離が阻害されため骨格筋の麻痺が生じる。健常成人の致死量:0.5-2mg。

抗コリンエステラーゼ薬(カーバメイト等)は神経・筋接合部でのアセチルコリンの分を妨げるため、筋力回復に有効とする報告もある。

1964年カリフォルニアイモリにフグ毒に類似の毒がふくまれているとの報告がされたがその後、この毒は tetrodotoxinであることが判明した。

1970年代に入るとツムギ鯊、ヒョウモンダコ、カエル、ウモレオウギカニにも tetrodotoinが確認された。更にボウシュウボラ、バイ貝、オオナルトボラ等の巻貝やアオブダイナンヨウブダイ等の魚類からも tetrodotoxinが確認されている。

これらの事実から河豚が tetrodotoxinを造るのではなく、ある種の細菌(Alteromonasやibrio属菌)がこの毒を産生ること。そしてこれらがプランクトンに取り込まれ、更にの“毒化プランクトン”を食べた河豚に毒が吸収・蓄積され、有毒になるものと考えらている。いわゆる食物連鎖の結果として、河豚の毒化が起こると考えられている。

 

1)相馬一亥・監修:イラスト&チャートで見る 急性中毒診療ハンドブック;医学書院2005
2)船山信次:毒と薬の科学;朝倉書店,2007
3)本田武司:食中毒学入門-予防のための正しい知識;大阪大学出版会,1999

[011.1.TTX:2008.11.17.古泉秀夫]

 

食安監発第0816003号平成19年8月16日

     都  道  府  県

各 保健所設置市    衛生主管部(局)長 殿
     特     別     区

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

   

ムシロガイ科キンシバイ(巻貝)での食中毒の発生事例について

 

長崎市内の農水産物直売所で販売されたムシロガイ科キンシバイ(学名:Alectrion glas)で、テトロドトキシンによる食中毒の発生事例がありました。長崎市では本事例をけ、当該巻貝を喫食しないよう注意喚起するとともに、採取及び販売を中止するよう漁関係者に指導しているところです。
ついては、水産担当部局と連携し、貴管内の水産及び魚介類販売等の関係者に対し、念ため、当該巻貝の採取及び販売を控えるよう指導方お願いします。
なお、農林水産省とは協議済みであることを申し添えます。

(参考)ムシロガイ科キンシバイ(学名:Alectrion glans)

TXT-巻貝

「彼岸花の毒性」

日曜日, 1月 4th, 2009
対象物 彼岸花(曼珠沙華・まんじゅしゃげ)。別名:シビトバナ(死人花)、ジゴクバナ(地獄花)。シタマガリ、ジャンボバナ、ハミズハナミズ、ユウレイバナ、ラントバナ。
成分

リコリン(lycorine):C16H17NO4=287.31。彼岸花の鱗茎(石蒜)に含まれるフェナントリジン骨格を持つalkaloid。lycorineは哺乳動物において少量投与で流涎、大量投与でエメチン様の下痢、吐き気を引き起こすが、その毒性は比較的弱いので、催吐、去痰薬として用いられる。またかなり強い体温降下作用、抗アメーバ作用も示す。
ガランタミン(galanthamine):C17H21NO3=287.35。彼岸花や水仙、キツネノカミソリ等のヒガンバナ科の植物に含まれるalkaloid。通常、球根に0.05-0.2%の含有量がある。コリンエステラーゼ阻害薬で、筋無力症や筋障害、中枢神経系の障害を伴う知覚及び運動機能不全に用いられた。痴呆症薬として最近注目される。よい澱粉質であるので、昔は十分な灰汁抜きをして食べた様である。
クリニン(crinin):data検索不能。

一般的性状

ひがんばな科。ヒガンバナ属。学名:Lycoris radiata Herb.。『radiata』は“放射状”のという意味。英名:Red Spider Lily。秋の彼岸頃に花が咲くことによる。日本各地及び中国に彼岸花-003分布。堤防や道端、墓地などの人気のある所にはえる多年草。秋の葉のない時、地下の鱗茎から高さ30cmの花茎1本を出し数花を輪状に開花。花被片は細長く外側に反る。雄しべと雌しべが長く出て同色、結実しない。花後に葉を束生し翌3月に枯れる。有毒。中国渡来説もある。大昔の飢餓の時に毒抜きした彼岸花の球根を食べて助った人達がいたことから救荒食として畑の畔道などに植えられた可能性がある。

毒性は煮たり炒めたりして熱を加えても変わらない。彼岸花の球根は小振りの玉葱のような外見をし、皮を剥いた中味はクワイのように白くしゃりしゃりとしている。スリコギのような棒で叩き潰し、ドロドロになったところを石臼で更に細かく挽く。その後は清水を取り替えながら繰返し洗い、水底に残った澱粉を天日に干す。長期の保存には、更に寒晒しを行う。この澱粉と同量の水を鍋に入れ、とろ火でネットリした糊の様になるまで煮詰め、熱いうちに皿にあけ、冷やして固める。味付けは刻みネギと醤醢(ヘソビ餅)。

鱗茎を催吐薬、去痰薬として用いる。

lycorineは、全草(茎、花、葉等)、特に鱗茎(球根)に多く含まれ、鱗茎のなかでも特にその外側の鱗片部に多い。

毒性

有毒alkaloid。重篤な中毒は稀で、成人が球根1個以下を摂食した場合、消化器系症状を生じる程度である。
lycorine:LD50(マウス)経口10,700mg/kg。彼岸花の鱗茎から単離され lycoremineと命名されたalkaloidと同一の物質であることが証明されたものがgalanthamineである。

症状

摂食当初は口の中がヒリヒリ熱くなって生唾がこみ上げ、嘔吐が始まる。吐いても吐いてもむかつきは治まらず、胃の中がかき回されるように痛んでくる。頭がくらくらとし、上体を起こしておられず、何かにしがみついていても自分がどうなっているのかさえ判らなくなる。

ヒガンバナ科植物の中毒は何れも吐き気、嘔吐、下痢が主症状である。粘膜刺激作用により粘液血性下痢を見ることがある。食道狭窄を起こすこともある。

少量の摂取(2-3g、特に球根は強毒性)では、短い潜伏期(30分以内)の後に、悪心、嘔吐、下痢、流涎、発汗を生じる。大量では神経麻痺の可能性があるが、ヒトでは殆どの場合、初期に嘔吐するため消化器系症状程度に止まる。

ヒガンバナ科植物摂取時の症状

▼循環器系:頻脈、胸痛、重篤な場合は心停止。

▼神経系:眩暈、麻痺、脱力感、筋力低下、筋肉痛、振戦。神経炎。

▼消化器系:悪心、嘔吐、腹痛、下痢、流涎。粘液血性下痢、食道狭窄を起こすこともある。

▼その他:体液・電解質バランス異常(嘔吐や下痢が酷い場合)。結膜炎、皮膚炎(lily rash)。

処置 彼岸花中毒で中枢作用や流涎、下痢が激しいときはアトロピンの静注が効果的である。

彼岸花の鱗茎を少量摂取した場合:対症療法。
大量の場合(特異的な治療や解毒剤・拮抗剤はない)。
基本的処置:催吐、吸着剤・下剤の投与。
対症療法:嘔吐、下痢による脱水に対する処置(体液や電解質のモニター)。

事例 「わからないのは灰汁で彼岸花が煮られていたことです。実習では

この方法は教えていません」と疑問を投げかけた。

新たに加わった助左右衛門が、ゆみえの手控え帳に目を走らせながら「彼岸花の根の一部が塊で残っていた、とありますね。おそらく根が丸ごと茹でられて、煮えたところで切り分けられ、大根か人参のように食べられたのだと思います。もっとも危険な食べ方ですよ。これでは毒がほとんど抜けていない。彼岸花の根は必ずつぶしてどろどろにしてから、毒抜きしなければならないのです。長い時間煮れば毒抜きできるというものではありません」と言いきった。

弥十郎は、「だから子どもたちも知らずと、多量の毒を食べてしまったのだな」と口惜しそうに手を握り締め、ゆみえは、「子どもを巻き添えにするなんて、ひどすぎます」吐き出すようにいった[和田はつ子:藩医宮坂涼庵;小学館文庫,2008]。

備考 かって彼岸花は、冷害や天候不順による飢饉が起こった時の救荒食物として利用されてきたという。ただし、彼岸花の球根をそのまま食べたのでは、彼岸花に含まれる毒によって中毒が起こる。彼岸花の灰汁抜きに気が付くまで、救荒食物として大量に摂取した事例では、多くの犠牲者が出たのではないかと思われる。

ところで“藩医宮坂涼庵”の活躍する舞台は、陸奥の小藩である。陸奥といわれる国の範囲は、本州の北東端にあたる今日の福島県、宮城県、岩手県、青森県と、秋田県北東の鹿角市と小坂町にあたるとされる。ある意味でいえば冷害多発地帯で、彼岸花が重要な救荒植物として栽培されていたのかもしれない。

主人公は医師であるが、後一人重要な役割を果たしているのが、二十以上も年の違う庄屋に嫁ぎ、その後亭主に先立たれた後家さんである。この女性は医師の手伝いが出来る程度の漢方に対する知識を持っており、絵も巧いという設定になっており、救荒植物図鑑を作成している。これは救荒植物を摂取する時に、事故が起きないようにしたいという配慮によるものである。

文献

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版1;北隆館,2003
2)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書, 2004
3)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
4)船山信次:図解雑学-毒の科学;ナツメ社,2004
5)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
6)海老?豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
7)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001
8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.LYC 記入日 2008.5.5.