Archive for 12月 26th, 2007

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ハナビラタケの効用について

水曜日, 12月 26th, 2007

KW:健康食品・ハナビラタケ・花弁茸・ Sparassis crispa・ Cauliflower Mushroom

 

Q:健康食品として市販されている『山珊瑚』の成分とされるハナビラタケについて

A:ハナビラタケについて、次の報告がされている。

 

和名:ハナビラタケ(花弁茸)。

ハナビラタケ科に属する食用茸で、世界中で1科1属2種が見いだされているとの報告がされている。そのうち我が国では1種のみが見いだされ、夏から秋口にかけて亜高山帯に自生しており、主に北海道から関東地方にかけて分布しているとされる。ツガ・モミ・マツ等の針葉樹の切り株や枯れた樹木等の根元によく見られるが、稀にブナやシイといった広葉樹にも見られるとされている。

学名:Sparassis crispa。

英名:Cauliflower Mushroom。

ハナビラタケは全体的に淡黄色又は白色で、柄の厚さ1mm程度で平たく幾つにも枝分かれしており、枝の先が花弁のように波打っているのが特徴であるとされている。1株の直径は20?40cm程度の半球状の塊で、高さ10?30cmに達するが、絶対数が少なく、天然物を手に入れるのは困難だとされている。

1996年埼玉県立熊谷農業高等学校福島隆一教諭らのグループが人工栽培に成功し、以後種々の検討が加えられてきた。

分析試験項目 含有量
水分 8.8g
蛋白質 6.9g
脂質 0.8g
繊維 6.3g
灰分 3.1g
糖質 74.1g
2.28mg
サイアミン(ビタミンB1) 1.04mg
リボフラビン(ビタミンB1) 1.63mg
ビタミンD 3,200IU
β-グルカン 43.6g

 

ハナビラタケ中に含まれるβ-グルカンは、β(1-3)D-glucanであるとされている。ハナビラタケの熱水抽出では461mg/25gのβ(1-3)D-glucanが抽出されたとされている。

glucanとは、D-glucoseを構成成分とする多糖で、グルコピラノース環生成によって生じる1位の炭素の不斉化により、αとβの結合様式のglucanが存在する。澱粉、グリコーゲンの主鎖はα1-4結合であり、これにα1-6結合で枝分かれ鎖がついている。セルロースはβ-1-4結合であり、褐藻中に含まれるラミナランは、β-1-3結合が主である。細菌のデキストランはα-1-6結合が主鎖となっている。

これらのglucanのうち抗癌作用があるのはβ(1-3)D-glucan で、各種茸中に含まれている。代表的な茸中のβ-glucanの含有量は、以下の通り報告されている。

  ハナビラタケ アガリスク マイタケ
β-glucan 43.6g 11.6g 18.1g

 

但し、β(1-3)D-glucanの作用は、直接癌細胞の増殖を抑制するわけではなく、マクロファージやキラーT細胞、実の細胞等を活性化させ、低下したヒトの免疫力を回復させ癌の増殖を抑制することが主体である。

従って、癌の化学療法を受けている患者が、ハナビラタケを喫食しようとする際には、主治医に相談することが必要であり、癌化学療法の補助的支援を期待するものとして考えることが必要である。

[015.4GLU:2000.7.5.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001
  2. 株式会社ミナヘルス配付資料
  3. 医学大辞典;南山堂,1992
  4. ハナビラタケパンフレット;ハナビラタケ・インフォメーション・サービス
    (0120-835-015)[株式会社アド・ステップ 〒150-0011 渋谷区東1-26-30 K.T.ビル4F ]

パラベン類の安全性

水曜日, 12月 26th, 2007

KW:副作用・安全性・添加物・食品添加物・医薬品添加物・パラベン類・paraben・パラオキシ安息香酸エステル類

 

Q:医薬品等の添加物として使用されているパラベン類の安全性について

A:医薬品の添加物として使用されているパラベン類(paraben)で局方に収載されているのは次の4品目である。

一般名

パラオキシ安息香酸 エチル
(ethyl parahydroxyben-zoate)

パラオキシ安息香酸 ブチル
(butyl prahydrxyben-zoate )
化学名 ethyl 4-hydroxyben-zoate butyl 4-hydroxybenzoate
純度 本品を乾燥したものは定量す るとき、パラオキシ安息香酸エチル(C9H10O3)99.0%以上を含む。 本品を乾燥したものを定量す るとき、パラオキシ安息香酸ブチル(C11H14O3)99.0%以上を含む。
性状

本品は無色の結晶又は結晶性 の粉末で、臭い及び味はなく。舌を麻痺する。本品はエタノール(95)、アセトン又はジエチルエーテルに溶け易く、熱湯にやや溶け難く、水に極めて溶け難い。

本品の飽和水溶液は僅かに酸性である。

融点:116-118℃。

貯法:密閉容器。

本品は無色の結晶又は白色の 結晶性の粉末で、臭い及び味はなく、舌を麻痺する。本品はエタノール(95)、アセトン又はジエチルエーテルに溶け易く、熱湯に溶け難く、水に殆ど溶けない。

融点:69-72℃。

貯法:密閉容器。

本質 製剤原料、保存剤。 製剤原料、保存剤。
名称

ethylparaben[NF]ethyl hydroxybenzoate[BP]

eyhl parahydroxybenzoate[EP]

ethyl-4-hydroxybenzoat[DAB]

パラオキシ安息香酸エチル[食添]:benzoic acid,4-hydroxy-,ethyl ester。

butylparaben[NF]butyl hydroxybenzoate[BP]

butyl parahydroxybenzoate[EP]

パラオキシ安息香酸ブチル[食添]:bebzoic acid

4-hydroxy-n-buthysrter

来歴

Graeve により1866年に合成されているが、サリチル酸や安息香酸に比べて抗菌作用が弱いので、このエステルも始め使用されなかった。1924年 Sabalitschkaが飲食物の防腐、防黴に力のあることを発表してから次第に用いられるようになった。

これらのエステル類はアルキル基が長いほど抗菌性は大であるとされている。外国ではエチル、プロピルが繁用される。

体内動態

家 兎に0.4g/kg経口投与すると、生体内で容易に加水分解され大部分はパラオキシ安息香酸及びその抱合体として排泄される。未変化体は24時間尿中に投与量の0.2-0.9%が検出されるのみである。

抱合体としてはエステル型及びエーテル型のグルクロナイド、グリシン抱合体、硫酸抱合体が認められる。投与したパラオキシ安息香酸エステルはいずれも投与量の約1/3が遊離のパラオキシ安息香酸として、残りはグルクロナドその他の抱合体として排泄される。

グルクロナイドはいずれの場合もエーテル型がエステル型より多い。

薬効薬理

粘 膜(消化管、直腸、腟)から吸収されると、安息香酸同様の代謝を受ける。そのエステルは、酸に比べて静菌作用が強く、アルキル基が大となるほど抗菌作用も強力となる。

通常、2種又はそれ以上のエステル剤を併用するときは、抗菌作用に相乗効果と抗菌スペクトルの拡がりがあらわれる。

安全性 毒 性もアルキル基が大になるほど小となる傾向を示し、安息香酸やパラクロル安息香酸に比べて弱い。
適応

防腐作用を利用し、医薬品(注射剤、シロップ、点眼剤、軟膏、ゼリー等)化粧品並びに食品などの保存剤として利用される。他のエステルとの併用が多い。

通常 0.1-02%くらいの濃度で添加される。

急性毒性 パラオキシ安息香酸イソプロピル参照。
亜急性毒性  
慢性毒性 パ ラオキシ安息香酸エチル(40%)とパラオキシ安息香酸プロピル(60%)の混合物を15mg/kg及び1,500mg/kgのレベルで飼料に添加しラットに18ヵ月間与えたところ、15及び1,500レベルでは成長の促進が見られる。1,500mg/kgのレベルでは初期に成長の遅延が見られたが、その後対照と同じになった。死亡率や組織学的検査では異常は認められなかった。別の実験でパラオキシ安息香酸エチルを飼料に2%添加し、ラットの全生涯にわたり与えたところ、最初の2ヵ月間に成長の遅延が見られたが、以後正常に復し、死亡率、血液、主要組織には異常は認められず、腫瘍の発生もなかった。
発癌性  
変異原性

微生物突然変異試験–(?)染色体異常誘発試験—-(+)

(ハムスターSCEs )

 

一般名

パラオキシ安息香酸 プロピル (propyl parahydroxybenzoate)

パラオキシ安息香酸 メチル (methyl parahydroxybenzoate)

化学名 propyl 4-hydroxybenz-oate methyl 4-hydroxybenz-oate
純度

本品を乾燥したものは定量す るとき、パラオキシ安息香酸プロピル(C10H12O3)99.0%以上を含む。

本品を乾燥したものは定量す るとき、パラオキシ安息香酸メチル(C8H8O3)99.0%以上を含む。
性状

本品は無色の結晶又は白色の 結晶性の粉末で、臭い及び味はなく、舌を麻痺する。本品はエタノール(95)、エタノール(99.5)、アセトン又はジエチルエーテルに溶け易く、熱湯に溶け難く、水に極めて溶け難い。融点:96-99℃。貯法:密閉容器。

本品は無色の結晶又は白色の 結晶性の粉末で、臭い及び味はなく、舌を麻痺する。本品はエタノール(95)、アセトン又はジエチルエーテルに溶け易く、熱湯にやや溶け易く、水に溶け難い。融点:125-128℃。貯法:密閉容器。

本質 製剤原料、保存剤。 製剤原料、保存剤。
来歴

1947 年CavillとVincentにより合成された。パラオキシ安息香酸のエステル類は水に難溶であり、使用に際して不便を生じるので、更に水に溶け易くし、その簡便化を図るため、側鎖状アルキルエステルが考案され、その結果イソブチル及びイソプロピルが開発された。昭和38年食添として指定、昭和57年使用基準の一部が変更された。

用途 保存料、防カビ剤として用いられる。単独で用いられることは少なく、通常、イソプロピルエステル、ブチルエステルなどの他のエステル類と混合して、水中油型の乳剤として用いる。このようにして用いると醤油などへの溶解方法が簡易になり、またブチルエステル単独より2-3倍溶け易くなる。なお、微生物に対する最小発育阻止濃度は、 Asp.niger:160μg/mL、Mucor circinelloides:
96μg/mL,
Asp.orizae:160μg/mL
である。酸型保存料と異なり、pHの影響は殆ど受けない。
パラオキシ安息香酸ブチル参 照
代謝 パラオキシ安息香酸ブチル参照 パラオキシ安息香酸ブチル参照
急性毒性 ラット(経口)LD50: >10,000mg/kg
マウス(皮下)LD50 :2,600mg/kg
マウス(経口)LD50:2,500mg/kg
マウス(腹腔)LD50:520mg/kg
ウサギ(経口)LD50:5,000mg/kg
イヌ(経口)LD50:5,000mg/kg
亜急性毒性 ラットに0.01- 1.0g/kgの割合で6ヵ月間経口投与を反復しても、成長や臓器の肉眼、組織学的検査による異常を認めなかったという。 雌雄ラットに5、2.5、 1.25、0.25%のパラオキシ安息香酸イソプロピルを混餌で13週間与えた。死亡動物はなかったが、雄の2.5%以上で体重の増加抑制が見られた。血清生化学検査で、γ-GTPが雄の2.5%、雌の1.25%以上で増加、総コレステロールが雄の2.5%以上で増加、アルカリフォスファターゼ・尿素窒素が雌の1.25%以上で増加した。病理組織学的に小葉中心性の肝細胞肥大が雄の2.5%、雌の5%以上で見られた。雄の5%では腎臓の近位尿細管上皮細胞質に好酸性滴状物が認められた。
発癌性 雌雄ICRマウスに0.6、 0.3、0.15%検体混餌飼料を102週間投与した実験では、有意の腫瘍発生はなく、発癌性は認められなかった  
変異原性 微生物突然変異試験 (?)
染色体異常誘発試験 ラット骨髄(±)
微生物突然変異試験 (?)
染色体異常誘発試験 (?)

パラオキシ安息香酸エステル類を経口投与すると、速やかに吸収、代謝、排泄されるが、代謝はエステル鎖の長さ、動物種、投与経路によって異なる。

メチル、エチル、プロピル及びブチルエステルは主として肝、腎で、一部は筋肉で速やかに加水分解される。しかし、イヌに2.0mg/kgを静注した場合、脳には4種のエステルの未変化体、脾臓にはエチルとブチルエステルが検出された。

parabenとは、パラオキシ安息香酸エステル類の総称である。化粧品や医薬品の保存料として広く使用されている。paraben類の抗菌作用は、その酸に比べて静菌作用が強く、非常に広範囲の微生物に有効である。

アルキル基が大きくなるほど抗菌活性は強くなり、毒性は小さくなる。pHの上昇で抗菌活性は低下する。サリチル酸や安息香酸に比べてはるかに毒性が低く、皮膚刺激や過敏症なども少ないといわれている。

ただし、サリチル酸と構造が似ているためにアスピリン喘息の起因物質になる可能性がある。パラベン類の場合、単独でなく併用することによって相乗効果が現われ、より少量で防腐力を高めることができる。

防腐剤は全ての化粧品に対して、配合制限(100g中の最大配合量の範囲内)が定められている。paraben類を防腐剤として化粧品に配合する場合、合計量として1%までの使用が認められている(紫外線吸収剤としては合計量として 4%まで配合できる)。

化粧品による皮膚障害(化粧品皮膚炎)は、1970年代後半以降、日本の化粧品メーカーが安全性を重視するようになり、わが国における化粧品は低アレルギー性・低刺激性になっており、化粧品による接触皮膚炎の頻度は減少していているはずであるが、海外で購入した化粧品によるトラブルや、「自然派化粧品」と称して配合されている正体不明の天然成分(植物エキス)によって起こるアレルギー性接触皮膚炎は、依然として報告されている。

化粧品皮膚炎の原因として報告されているのは、基礎化粧品に使用されている殺菌防腐剤や乳化剤、美容液等に配合されている保湿剤、増粘剤による刺激反応が多い。

化粧品の全成分表示については、平成13年4月1日から成分の承認制度を廃止する等の規制緩和が行われた。この規制緩和は企業責任を前提としており、成分の安全性の確認と全成分表示等消費者への情報提供を求めている。つまり、現在、化粧品については原則として配合されている成分を全て表示しなければならないこととなっている。

また、新たな化粧品基準として、配合禁止リストであるネガティブリスト(防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素以外の成分)と配合制限リストであるポジティブリストが定められている。化粧品原料は、配合禁止・配合制限リスト収載成分及び特殊成分(防腐剤、紫外線吸収剤、タール色素)リスト以外の成分は、原則として企業の責任で自由選択ができることになっている。

paraben類は内分泌かく乱作用を持つ可能性があることが指摘されている。 paraben類は保存料として一般の環境で広範囲に使用されている。

これらの物質にはヒト体内で代謝する経路があることが知られているが、環境中での大量消費に伴いヒト体内に常時供給がある場合、体内中(血液等)で検出される可能性が高く、代謝物を含めての内分泌かく乱作用の可能性についての検討が必要である。そのため、ヒトがこれらの物質を摂取する経路の解明、摂取してからの体内中での挙動

、代謝、排泄等について調査を行うための迅速で高感度な分析方法の開発を行い、併せて実試料の分析によるヒト健康への影響について研究を行った。

  1. paraben類を模擬飲料として摂取した生体内での挙動を確認したところ摂取直後20分以内に血液中にparaben類が検出されるとともに代謝物であるパラヒドロキシ安息香酸(PHBA)濃度の増加が確認された。PHBAの血中濃度はその後急速に低下し8時間後ではほぼ初期濃度まで回復した。同時に行った尿試料の結果、尿からもparabenが検出された。また、PHBA濃度は、試飲後20時間近く影響が残った。
  2. paraben類の摂取経路として食品に分類されない栄養ドリンク剤について調査をした結果、paraben類を含むドリンク剤の場合、平均で50ppm程度添加されており、比較的大きなparabenの摂取源であることが確認された。

化学的な物質の安全性の検討については、通常、動物実験によって行われるが、その結果が直ちにヒトに外挿できるわけではない。従って、使用範囲・使用期間等を勘案した疫学調査が行われるが、調査対象数によっては必ずしも説得力のある資料が得られるわけではない。

また、化学物質の安全性は、99.99%が安全であるとされても、残りの0.01%に過敏症等の発現する可能性は残されており、paraben類の安全性についても『ほぼ安全に使用できる範囲』と理解しておくことが必要である。

[065.PAR:2005.3.7.古泉秀夫]


  1. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001
  2. 鈴木郁生・他監修:第7版 食品添加物公定書解説書;廣川書店,1999
  3. http://www.kumayaku.or.jp/y_faq9.htm,2005.3.7. 織田 肇 (大阪府立公衆衛生研究所)・他:クロロベンゼン類及びパラベン類の分析法開発と実試料の分析;平成11年度厚生科学研究費補助(生活安全総合事業), http://www.nihs.go.jp/edc/houkoku11/11-11/11-11- oda5.html,2005.3.7.

「慢性膀胱炎の治療」

水曜日, 12月 26th, 2007

KW:薬物療法・慢性膀胱炎・急性膀胱炎・膀胱腫瘍・膀胱結石・留置カテーテル・間質性膀胱炎・放射線性膀胱炎・膀胱結核

 

Q:特に原因もなく、細菌の検出はないそうですが、疲れたり、冷房に当たっていると慢性膀胱炎の症状がでるという女性の患者。慢性膀胱炎の原因及び治療法について

 

A:慢性膀胱炎は、急性膀胱炎から移行する場合と、徐々に膀胱炎症状が出現して継続する場合があるが、いずれの場合も感染を遷延させる基礎疾患を有するか、あるいは特殊な膀胱炎の場合であるとされている。
基礎疾患としては膀胱腫瘍、膀胱結石、留置カテーテルを含めた異物の存在、前立腺肥大症や神経因性膀胱など残尿の原因となる疾患、糖尿病や悪性腫瘍又は免疫抑制剤や抗癌剤投与などの、全身的な感染防護機構の低下などをもたらす疾患などが挙げられる。また、特殊な膀胱炎としては、間質性膀胱炎、放射線性膀胱炎、膀胱結核などがある。

慢性膀胱炎の自覚症状は、急性症に比べて軽度で、頻尿、排尿痛、残尿感、下腹部不快感等を訴えるが、膿尿のみで自覚症状が殆どないこともあり、基礎疾患の症状が全面にでることが多い。

膀胱神経症は、器質的な原因がなく、尿所見に異常は認めないにもかかわらず、頻尿、尿失禁、排尿痛、下腹部不快感、残尿感などの膀胱症状を訴えるものであり、精神的情緒不安定状態から惹起される心身症の一つである。主な症状から神経性頻尿、心因性頻尿、刺激膀胱、過敏膀胱などとも呼ばれており、多少ニュアンスは異なるが、膀胱神経症よりも神経性頻尿の名称の方が一般的である。

神経性頻尿は主として青壮年期の神経質な女性に多く、仕事上の心配や夫婦間をはじめとする家庭内の問題など、精神的刺激になる要因は多彩で、中でも不満足な性交、あるいは性交に対する罪悪感などの性的葛藤が原因となっていることが多く、幼小児期に夜尿症の既往がある者に多いともいわれている。

神経性頻尿の特徴は、睡眠中や他のことに注意が向いているときには症状があまり顕著ではなくなることであり、夜間の尿意による覚醒は殆どない。神経性頻尿と神経因性膀胱とは全く別個な疾患であり、膀胱性神経症は下部尿路支配神経は全く正常であるのに対し、神経因性膀胱は大脳、脳幹部、脊髄及び末梢神経、すなわち下腹、骨盤、陰部神経など、膀胱と尿道を支配する神経系の何れかが障害されることにより生ずる病態である。

膀胱壁は内側から粘膜・筋肉・漿膜という層になっている。間質性膀胱炎は間質(粘膜と筋肉の間)に炎症が慢性的に続く病気で、普通の膀胱炎とは異なり、細菌以外の原因によって発症すると考えられているが、現在のところ発症原因は不明である。症状としては昼夜を問わず何回もトイレに行く頻尿、膀胱にあまり尿がたまっていないのに、急に排尿がしたくなる尿意切迫感が殆どの例で見られる。特徴的な症状は膀胱の痛みで、この痛みは尿がたまって膀胱が広くなるときに強くなり、排尿すると軽くなる。間質性膀胱炎の場合、これらの症状が良くなったり悪くなったりの繰り返しで、時には自然軽快も見られる。また刺激物(アルコール、コーヒー、紅茶、唐辛子、ワサビ等)を摂取した後に症状が悪化することも少なくない。

以上の報告から慢性膀胱炎の発症原因は、種々の要因が考えられるため、専門医の診察を受け、慢性膀胱炎の原因を明確にすることが必要である。

ただし、間質性膀胱炎の場合は、現在、完治させるべき治療法はなく、症状を和らげることが治療の目的になるとされている。その方法としては抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、鎮痛剤、抗アレルギー薬の経口投与等が挙げられているが、いずれにしろ専門医の診断結果を得なければ、治療の方策は立てられない。

 

1)土田正義:慢性膀胱炎と膀胱神経症の鑑別診断・治療;日本医事新報,No.3224(1976.2.8.)
2)門脇和臣:「間質性膀胱炎」とはどの様な病気なのでしょうか;きょうの健康,6:141(2004)
3)上田朋宏:排尿障害-見逃される間質性膀胱炎-抗アレルギー薬や抗うつ薬でも改善;Nikkei Medical,10:127-131(2003)

                                                [035.1.URI:2004.10.12.古泉秀夫]