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麻酔薬とアルコールの関係について

月曜日, 12月 24th, 2007

KW:臨床薬理・麻酔薬・アルコール・飲酒・効力低下・エタノール・ethanol・耐性・身体依存性・依存性・塩酸ケタミン・ketamine・ペントバルビタールナトリウム・pentobarbital・アルコール症患者・交差耐性・全身麻酔薬

 

Q:飲酒の習慣のある者は麻酔が効き難いという話を聞くが、実際はどうか

A:注射用全身麻酔剤であるケタラール10・50(三共)[塩酸ケタミン:ketamine hydrochloride]の添付文書中に次の記載が見られる。

使用上の注意-1.慎重投与(1)急性・慢性アルコール中毒の患者[一般にアルコール中毒患者は麻酔がかかりにくい。]

また、全身麻酔剤であるネンブタール注射液(大日本)[ペントバルビタールナトリウム:pentobarbital sodium]の添付文書では、重大な副作用-2)依存性の項に「連用により、薬物依存傾向を生じることがあるので、観察を十分に行い、慎重に投与すること。特にアルコール中毒、薬物依存の傾向又は既往歴のある患者、重篤な神経症患者に対しては注意すること。………」

とする記載がされている。

その他、ethanolの耐性・身体依存性について、次の報告がされている。

ethanolの慢性的な摂取は、ethanol代謝機能を亢進する。しかし、飲酒を中止すると代謝機能は数週間以内に次第に低下し、禁酒しているアルコール症患者ではethanol代謝速度は正常者と同じである。

ethanolを慢性的に摂取していると、薬力学的耐性が出現する。従って中毒症状を起こすためには、正常者の場合よりも高い血中濃度が必要となる。アルコール症患者の中には、血中ethanol濃度が200mg/dL以上であっても、難しい仕事を完全にやってのけるヒトもいる。200mg/dL といえば大部分の研究者が顕著な中毒であると規定している量の2倍に相当する。しかし、致死量が著しく増大するわけではなく、呼吸抑制を伴った重篤な急性中毒が、慢性アルコール中毒に附随して出現することもある。

ethanolとそれ以外の薬剤の交差耐性は、中枢神経系内の薬力学的耐性、又は代謝がより促進されたために起こるものとされている。 ethanolを摂取していると肝ミクロゾーム分画に存在する酵素の活性が上昇するからである。ethanolに対して耐性を起こしているヒトは、一般に全身麻酔薬と交差耐性を持っている。この交差耐性は、おそらく薬力学的耐性に由来したものであろう。更に交差耐性はそれほど飲酒量の多くないアルコール症患者にだけ見られる。血中アルコール濃度が高くなると、他の薬物はethanolの作用に対して相加的に作用する。更に同一酵素系を競合することによって、相互の代謝系を阻害しあうこともある等の報告が見られる。

以上の各報告から飲酒者の場合、麻酔薬に対する耐性が生ずる可能性があることが予測されるが、その飲酒量は日常一般的に摂取するethanol量を超えた量であると考えられる。

[015.4.ETH:2003.6.2.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  2. ケタラール10添付文書,1999.1.改訂
  3. ネンブタール注射液添付文書,1999.2.改訂
  4. 藤原元始・他監訳:グッドマン・ギルマン薬理書;廣川書店,1992