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ニセクロハツ(偽黒初)の毒性

土曜日, 12月 1st, 2007
対象物 ニセクロハツ(偽黒初)
成分 ルスフェリン、ルスフェロール類(細胞毒)。カナバニン(canavanine:全身紅斑狼瘡に特徴的な血液異常をサルに対して惹起する)。GABA。3-ヒドロキシバイキアン。
一般的性状

ハラタケ目、ベニタケ科、ベニタケ属、ニセクロハツ(偽黒初)。学名:Russula subnigricans Hongo。夏-秋、特にシイ・カシなどの広葉樹林の地上に発生する。傘は中型-大型、成熟すると浅いジョウゴ型になる。表面は灰褐色-黒褐色でややスエード状。
クロハツタケ

肉は汚 白色傷つけると次第に赤みを帯び、その後も汚れた淡赤褐色にとどまり、黒くはならない。襞は幅広く疎、クリーム色で肉と同様に緩徐に淡赤褐色に変色する。茎は灰褐色で硬い。
この種のように傷つけると赤く変色するが、黒くならない類似種がいくつかあ り、現在それらの比較研究が進められている。関西では過去に複数の中毒死亡例があるとされる。

毒性

致死性中毒-細胞壊死型
毒成分:未知物質。
毒成分は痙攣毒で、血尿は痙攣毒によるものと考えられている。
中枢神経系に作用する特殊なアミノ酸(カナバニン・アイカイン酸)が検出され ている。

症状

第I期:消化管症状 [コレラ様症状、激しい腹痛、疝痛、嘔吐、水溶性血便、下痢、口渇、筋の痙攣、脈拍:速・弱]。
第II期:第2潜伏期(偽回復期) [チアノーゼ、不安状態、筋肉の痙攣、幻覚、催眠と虚脱、血液凝固障害]。
第III期:肝・腎障害、昏睡 [黄疸、無尿、乏尿、肺水腫]。
潜伏期:6-24時間。
予 後:多量摂取時50-90%の死亡率。重症(死亡例有)。低血糖は予後不良。プロトロンビン時間(PT)延長に注意。大量の消化管出血を起こした場合、凍結血漿とビタミンK投与。
摂食後30分以内に吐き気、嘔吐、続いて下痢が始まる。頭の後方から背中にかけて強直状態となり、破傷風や骨髄炎に似る。顔面から四肢に及ぶ痙攣が現れる。血尿を見る。意識は初め正常であるが、末期には混濁してくる。顔面や手足の蒼白、発熱、発汗を見ることもある。死亡は2日目位である。
摂食後10分程度で嘔吐、下痢など胃腸系の中毒が起こり、その後、縮瞳、言語 障害、背中の痛み、血尿などの症状が現れ、心臓衰弱の後に死亡する。

処置

治療要点:一般に胃腸刺激症状が遅れて発現した場合は、全身管理が十分できる高度医療機関に転送。
[1]全身管理:必須(肝・腎機能検査の継続的実施)。
[2]催 吐:摂取後6時間以内なら実施。
[3]胃洗浄:必要。
[4]吸着剤:活性炭(100gを水200mLに溶解)使用。[5]下 剤:活性炭+下剤(硫酸マグネシウム[30mg/200mL]、マグコロール4時間毎2日間)。
[6]強制利尿:通常48時間以内に大部分が尿中に排泄される。3-6mL/kg/hr.程度の尿量確保。
[7]血液浄化法:必須。
*痙攣や強直には、ジアゼパムを静注する。強直や痙攣が治まるのを目安に、 2mg程度を繰返し投与する。尿量を保つべく、尿量を測定しながら乳酸リンゲル液の輸液を行い、尿量が十分でなければフルセミドを使用する。

事例

毒キノコ食べ男女2人死亡 愛知・豊橋愛知県豊橋市保健所に27日入った連絡によると、毒キノコ「ニセクロハツ」を誤って食べた市内の60歳代の男女2人が26日深夜から27日未明にかけて市内の病院で多臓器不全のため相次いで死亡した。同保健所によると、2人は友人同士で、24日、市内の山林で食用の「クロハツ」と間違えてニセクロハツを採取し、その日の夜、女性が自宅でみそ汁に入れて2人で食べたところ、約30分後に嘔吐、下痢、血尿、呼吸困難等の症状が現れた。
ニセクロハツは、色や形がクロハツそっくりだが、クロハツは肉を傷つけると傷口が黒く変色するのに対し、ニセクロハツは黒くならないのが特徴。毒性が強く、2人は2、3本食べたらしい。同保健所によると、全国でニセクロハツによる死者は過去10年間、出ていないという。[読売新聞,第46498号, 2005.8.27.]

備考

偽黒初を殺人の道具として使用した物語にはまだ行き会っていない。偽黒初の毒性は比較的強く、摂取量によっては死亡するというが、如何に物語とはいえ、やはり確実性のない毒物を使用することは、避けるというのが殺人者の心理だろう。従って、今回も新聞報道された実話に基づいて偽黒初の毒性について記したが、偽黒初の毒物そのものの詳細は不明とされており、治療法は偽黒初が属する群としての治療法である。
ただし、幾つかの実例では、摂食した御当人達は、毒茸を摂取したという意識がないために、治療が後手に回って死亡している。例え市販されている茸であっても、摂食後吐き気・嘔吐が見られた場合、疑って医師に伝えることが必要かもしれない。更に毒茸を摂食したと思われたときは、速めに吐き出してしまうことが肝心で、その初期処理が速ければ速いほど救命される機会は増えるようである。

文献

1) 長沢栄史・監修:フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ;(株)学習研究社,2004
2)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
3)奥沢康正他編著:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004

調査者 古泉秀夫 記入日 2006.1.2.