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『ヘパリン様物質とヘパリン類似物質について』

金曜日, 8月 12th, 2016

KW:臨床薬理・ヘパリン・heparin・ヘパリン様物質・へパリン類似物質・ヘパリノイド・heparinoid

Q:皮膚用外用薬に配合処方中に見られるヘパリン様物質とヘパリン類似物質とは同様のものか

A:ヘパリン(heparin)について、次の報告がされている。

◆開発の経緯

1916年McLeanによって、心臓及び肝臓から血液凝固阻止物質が分離された。これをさらに追求してその性格を記載し、ヘパリンと命名したのがHowell及びHoltで1918年のことである。そののちHaes、Gross、及びReed(1928年)らによって、この抗凝固効果が研究されたが、しばしば発熱をきたすなど副作用が認められた。しかし、1933年Charles and Scottによりヘパリンが体内各組織に含まれていること、肺・肝にとくに多いことが発見され、かつこの大量抽出、精製が可能となった。一方、Jorpesら(1935年以後)によってヘパリンの化学が研究され、臨床的応用が可能となった。さらに1936年Murrayらがこれを用いて術後の静脈血栓の治療を試み、1937年Crafoerdは血栓予防に用いてその効果を認め、以後ヘパリンは血栓症の予防と治療などに広く使用されるようになった。その後(1948年)Lipolytic activityも見い出されてさらに注目されるようになった。しかし、その化学構造の大要が明らかになったのは近年のことであり、生物活性の発現機序にいたってはまだ充分に解明されていない。
なお、heparinは二糖類を構成単位とする多糖体である。

◆製品の治療学的・製剤学的特性

1.ヘパリン注は健康なブタの腸粘膜由来の日本薬局方 ヘパリンナトリウム注射液である。
2.汎発性血管内血液凝固症候群の治療、血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固の防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血及び血液検査の際の血液凝固の防止、血栓塞栓症の治療及び予防の効能・効果を有する。
3.重大な副作用(頻度不明)として、ショック、アナフィラキシー、出血、血小板減少、HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)等に伴う血小板減少・血栓症がある。

heparinについて、上記の説明がされている。
調査した範囲では『ヘパリン様物質』とする表記と『ヘパリン類似物質』は混在して用いられているが、『様』は、「同じ様な・似た状態』とされており、『類』は『近似している・同類・一族』とする解釈がされていることから、ヘパリン様物質と表記するよりはヘパリン類似物質とした方が実態を示しているのではないかと考えられる。

◆ヘパリン様物質

血管内皮には、ヘパリン様物質が存在する。heparinといえば血栓症の治療に使われる薬があるが、血管内皮にはヘパリン類似物質が存在する。このヘパリン様物質には、抗凝固性蛋白であるアンチトロンビン(antithrombin:AT)とTFPI(tissue factor pathway inhibitor:外因系経路インヒビター)が結合している。アンチトロンビンは肝臓で産生され、TFPIは血管内皮から産生される。血管内皮は、アンチトロンビンとTFPIによって保護されていることになる。

◆ヘパリン類似物質

1.保湿作用:保湿することで肌の防御機能を高め、異物の進入を防ぐ。
2.抗炎症作用:炎症により荒れた皮膚症状を鎮め、正常な状態へ導く。
3.血行促進作用:血流をよくし、皮膚再生を促進する。

ブタの気管軟骨を含む肺臓から抽出されたムコ多糖類の多硫酸エステルで、薬理的には血液凝固抑制作用、末梢血液循環促進作用及び線維芽細胞増殖抑制作用などが確認されている。また、優れた保湿能も有しており、比較的外部の湿度変化の影響を受けにくい特徴を持っている。臨床的には血栓、血腫及び血行障害による炎症、疼痛の予防や治療、肥厚性瘢痕、ケロイドの予防及び乾燥性皮膚疾患などに広く用いられている。
ヘパリン類似物質配合軟膏剤(現クリーム剤)は、ドイツのルイトポルドウエルク社において開発され、1949年に同国で発売された薬剤である。本邦では1954年にマルホ株式会社より発売され、医薬品再評価(1979年2月)により、有効性・安全性が確認されている。

以前は、heparinといえば、未分画heparin(標準heparin)のみであったが、現在は多くの類似薬が使用可能となっている。そのため、「ヘパリン類」のいい方が普及している。現在、我が国で使用可能なheparin類は次の通りであるとする報告が見られる。

1. 未分画heparin(標準heparin)

・適応症:DIC、体外循環の血液凝固防止(透析)、血栓症の予防・治療
・抗Xa/トロンビン比:1対1。半減期:0.5 ~1時間。
・用法:臨床の場での実情は、5,000~10,000単位/24時間持続点滴(DIC)。教科書的には、5~10単位/kg/時間持続点滴(DIC)。

2. 低分子heparin

1) ダルテパリン(商品名:フラグミン等)
・適応症:DIC、血液体外循環時の還流血液の凝固防止(欧米ではDVTも)
・抗Xa/トロンビン比:2 ~ 5 対1。半減期:2~4時間。
・用法:75単位/kg/24時間持続点滴(DICの場合)
2) エノキサパリン(商品名:クレキサン)
・適応症:下記の下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制(股関節全置換術 、膝関節全置換術、股関節骨折手術)
・抗Xa/トロンビン比:2 ~5 対 1。半減期:2 ~ 4 時間
・用法:2,000 (20mg) IU ×2 回皮下注(術後DVT予防として)

3.低分子heparinoid

1) ダナパロイド(商品名:オルガラン)
・適応症:DIC(欧州ではDVTも)
・抗Xa/トロンビン比:22 対 1。半減期:20 時間
・用法:1,250単位×2 回静注(DIC)

4.合成heparinoid

1) フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ)
・適応症:下肢整形外科及び腹部外科術後の静脈血栓塞栓症発症抑制
・抗Xa/トロンビン比:7,400対1。半減期:17 時間
・用法:2.5mg (1.5mg)×1回皮下注(術後 2 週間程度)

1.抗Xa/トロンビン比の高い薬物は、出血の副作用が少ないと考えられている。
2.オルガランとアリクストラは半減期が長いことも特徴である。そのため24時間持続点滴で患者を拘束しなくて良い点が特徴になる。逆に、出血の副作用が少ないとはいっても、万一出血した場合には、薬剤を中和できない点が短所になる場合もありえる。
3. 上記の注射薬のなかで、アリクストラ、クレキサンの2薬は、術後静脈血栓塞栓症の予防目的(治療目的でなく)に使えるという意味で、まさに画期的な薬剤といえる。
4. オルガランは日本ではDICに対してのみの適応であるが、欧州では静脈血栓塞栓症にも使用されている。
5.他の優れたheparin類が存在する現在、未分画heparin(標準heparin)の医学的なメリットはないといえる。但し、医学以外の観点からは、安価である点が唯一のメリットといえる。これが臨床現場から、未分画heparin(標準heparin)が撤退しない理由と考えられるとする報告が見られる。

 

1)ビーソフテンローション0.3%インタビューホーム,2015.3.
2)ヘパリンNa注インタビューホーム,2016.2.
3)金沢大学血液内科・呼吸器内科:血液・呼吸器内科のお役立ち情報;http://www.3nai.jp/weblog/entry/24101.html,2008.10.25.
4)アリクストラ皮下注インタビューホーム,2105.9.
5)ダルテパリンNa静注5000単位/5mL添付文書,2012.6.

                                                    [015.4.HEP:2016.2.29.古泉秀夫]