Archive for 11月 7th, 2015

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『酒さ(しゅさ)について』

土曜日, 11月 7th, 2015

KW:薬物療法・酒さ・しゅさ・紅斑性酒さ・酒さ性痤瘡・鼻瘤・tetracycline系・macrolide系・アゼライン酸・メトロニダゾール・十味敗毒湯

Q:酒さの治療法について

A:酒さについて次の報告がある。
酒さは
①赤ら顔に当たる紅斑性酒さ
②ニキビによく似た酒さ性痤瘡
紅斑性酒さと酒さ性痤瘡には移行がある。

③鼻が赤く大きくなってくる鼻瘤
最初は鼻が赤くなったり、鼻にニキビ様の発疹が出てくる症状から始まるが、長く続いて来ると鼻の部分が盛り上がってきて団子っ鼻のような形になって来るので、患者にとって非常に苦痛であると考えられることから出来るだけ早く治療することが求められる。鼻瘤の治療として炭酸ガスレーザーで盛り上がった部分を削り取って自然に上皮化させて盛り上がりを無くす方法をとる。

④顔面紅潮、ニキビ様発疹と同時に眼にも結膜炎の症状が出るタイプがあり、眼の炎症が続くと、角膜などに恒久的な変化が残ると云われている。
以上、合計四つのタイプがあるとされる。

酒さ発症の原因:明確には解っていない。種々の説があり、脂漏部位に発生するので、ニキビ菌(アクネ菌)が関係しているのではないかと云われている。更には毛包虫(ニキビダニ)と云う毛穴に住んでいるダニの一種が原因ではないかとする考え方も報告されている。毛包虫は元々皮膚に常在しているものなので探せば少しは見つけられるが数が増えると炎症を起こしニキビ様の発疹を起こしたり、酒さの原因になると考えられている。

悪化因子:酒・アルコールというのは悪化因子の一つである。飲酒すると血流がよくなるため、赤味が強く出る。特に紅斑性の酒さなどでは、少し悪化することが知られている。寒い所から暖かい所へ、暖かい所から急に寒い所へと、急激な温度変化などでも顔の赤味が強くなる。日に強く当たることも悪化因子となり、日焼けした後に鼻が赤くなるとか、頰が赤くなる人がいる。香辛料などでも血行が良くなるため、摂取して症状が悪化する例も見られる。

治 療:症状によって異なるが、tetracycline系やmacrolide系の抗菌剤の服用は症状を改善させる。眼に症状が出るタイプは、変化が可逆性の場合はいいが、不可逆になると視力に影響がでるので、米国のガイドラインでは長く少量の抗菌薬を服む事が勧められている。日本では眼に症状が出るタイプは非常に稀である。酒さ性痤瘡の例では炎症性の丘疹や膿疱がなくなってくれば抗菌薬は一端中断し、外用剤でコントロールしていく。鼻瘤の場合は症状に応じてであるが、炎症がある場合は、症状が悪化するので、薬を服み続けることになる。
紅斑性酒さ、赤ら顔については、抗菌薬の服用で期待する効果は無いので、外用剤で様子を見るのが一般的である。
外用剤としてはアゼライン酸という成分の化粧品が使用されている。米国を初め海外ではニキビ治療薬として承認されているが、国内では承認されていない。しかし、アゼライン酸の治療は補助的な治療で有り、症状が強い場合には抗菌薬の服用が必要になる。
それ以外のものとしてはメトロニダゾールの外用剤があるが、現在の承認適応は“がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減”のみであり、酒さへの使用は適応外使用である。

Memo
但し、医療機関を対象として『アゼライン酸高濃度配合クリーム』が“ディーアールエックス® AZAクリア®(ロート製薬)”とする製品が存在する。1本15g。
全成分:水、アゼライン酸、BG、トリエチルヘキサノイン、ミネラルオイル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジグリセリン、ベンチレングリコール、ステアリン酸グリセリル、ホホバ種子油、PEG-60水添ヒマシ油、ナイロン-12、セタノール、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、EDTA-2Na。

酒さの瀰漫性紅斑に“十味敗毒湯”が著効を示すことを報告した[中西孝文:漢方診療;14:30(1995)]。現在に至るまで、少なくとも1000人以上の酒さの患者さんに処方し、90%以上の症例で投与後7日以内に、顔の瀰漫性紅班が著明に改善した。

『クラシエ十味敗毒湯エキス細粒』

(局)柴胡(サイコ) 2.5g・(局)桔梗(キキョウ) 2.5g・(局)川芎(センキュウ)2.5g・(局)茯苓(ブクリョウ) 2.5g・(局)防風(ボウフウ) 2.5g・(局)甘草(カンゾウ)1.5g・(局)生姜(ショウキョウ)1.0g・(局)荊芥(ケイガイ)1.5g・(局)独活(ドクカツ)1.5g・(局)桜皮(オウヒ) 2.5g
上記の混合生薬より抽出した十味敗毒湯エキス粉末3,900mgを含有する。

効能・効果:化膿性皮膚疾患、急性皮膚疾患の初期、蕁麻疹、急性湿疹、水虫

用法・用量:通常、成人1日6.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

慎重投与: 1.著しく体力の衰えている患者[皮膚症状が悪化するおそれがある]。2.著しく胃腸の虚弱な患者[食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等があらわれるおそれがある]。3. 食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある]。

重要な基本的事項:1.本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。2.本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。3.他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

重大な副作用:1.偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症)発現。2.ミオパシー(低カリウム血症の結果としてミオパシー発現→脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常)。

その他の副作用:過敏症注(発疹、発赤、そう痒、蕁麻疹等)。消化器 (食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等)。

十味敗毒湯を考案した華岡青洲の処方では樸樕(ボクソク:クヌギ)の代わりに桜皮(オウヒ)が使われていた。今回は酒さの瀰漫性紅斑に対する「オウヒを用いた十味敗毒湯」の治療効果を一過性瀰漫性紅斑から持続性瀰漫性紅斑に進行した酒さの7症例で検討した。「オウヒを用いた十味敗毒湯」内服後に酒さの持続性瀰漫性紅斑がほぼ消失するのに要した日数は症例ごとに3-11日で、著効を示すとともに即効性であった。副作用は全例で認めなかった。

十味敗毒湯について、処方中に桜皮を配合しているものが、皮膚のestrogen分泌を促進することによって酒さの瀰漫性紅斑の改善が図られるとする報告が見られる。十味敗毒湯には、樸樕(クヌギ)が配合されている製剤も市販されているが、皮膚のestrogenの活性を期待するためには桜皮の配合されている製剤を使用すね必要がある。

Memo
瀰漫性:びまん=広がる、はびこる、蔓延する。びまん性疾患=病気や異常が、全身あるいは1つの臓器全体に広がっている状態の疾患。

tetracycline系抗生物質の内服療法が酒さに有効であることは以前から云われてきた。何故、tetracycline系薬剤が酒さに有効なのか。明確に説明できる作用機序の全貌は明らかにされていない。第二世代tetracycline系薬剤(doxycycline、minocycline)が、抗菌作用を示す服用量以下の低用量で酒さに効果があることや、tetracycline系薬剤が抗炎症作用や抗過酸化物作用、蛋白分解酵素阻害作用等の抗菌作用以外の作用を有することから、tetracycline系抗生剤は酒さに対し、抗菌作用以外の効果で治療効果を示していると理解されている。
本邦では酒さに対するガイドラインはなく、各皮膚科医は各自の知識や経験に基づいてminocycline、doxycyclineを中心に、抗菌薬としての低用量から常用量迄の用量で症状に合わせて使用しているものと思われる。doxycyclineの50-100mg/日を主として用いるとする例が報告されているが、doxycyclineによる光線過敏症がある場合はminocyclineを考慮する。
酒さ患者269名にdoxycycline 40mg/日を1日1回投与した事例でdoxycycline投与群で有意に改善が認められたとする報告が見られる。この際の副作用として鼻咽頭炎(4.4%)、下痢(4.4%)、頭痛(4.4%)が見られたとされる。

1)林 伸和:酒さ;ドクターサロン59:748-752(2015)
2)渡辺奈津:わたなべ皮ふ科・形成外科, http://www.yao-hihu.net/,2015
3)十味敗毒湯エキス細粒添付文書,2013.10.
4)中西孝文:酒さのびまん性紅斑に対する「オウヒを用いた十味敗毒湯」の治療効果 ;progress in medicine,31(2):581-586(2011)
5)鈴木 洋:漢方のくすり事典-生ぐすり・ハーブ・民間薬-;医歯薬出版株式会社,2011

                                                    [035.1.SYU:2015.11.6.古泉秀夫]

「カキドオシについて」

土曜日, 11月 7th, 2015

KW:薬用植物・カキドオシ・垣通し・連銭草・レンセンソウ・癇取草・カントリソウ・金銭草・キンセンソウ・ツボクサ

Q:カキドオシについて

A:垣通し(Glechoma hederacea L.var.grandis Kudo)。シソ科カキドオシ属。多年草。畑地、樹園地、道端や庭の隅で見られる。茎はつる状で四角柱状、葉は対生、腎円形で縁に丸みのある鋸歯があり長い葉柄を持つ。茎・葉には細かい毛があり、茎や葉には芳香がある。葉腋に紅紫色の唇形花を多数付ける。開花時期は4-5月とされている。分布:北海道-九州。花が終わる頃から茎が長く伸び、垣根を潜り抜ける勢いで伸びる様子から付いた和名。坪(庭)にも生えることからツボクサとも呼ばれる。

英名:Ground Ivy。
異名:レンセンソウ(連銭草)、カントリソウ(癇取草)、キンセンソウ(金銭草:中国種)。

[薬効]薬用部は花期imageから夏期の全草。茎葉にはロスマリン酸 (rosmarinic acid) 、ウルソール酸、タンニン、ビタミンC、精油等を含む。

[用法・用量]利尿や消炎剤として利用され、黄疸、胆道結石、腎臓結石、膀胱結石に用いる。血糖降下作用が強く、タラノキ皮よりも強い作用が観察されるので、糖尿病の治療に用いることが期待できるとする報告も見られる。1日量乾燥品10-15gに水0.6Lを加えて煎じ、約半量にまで煮詰めたものを1日3回食間に服用する。小児の癇や虚弱体質の改善には乾燥した連銭草を粗く刻んで1日量5gを水0.5Lで煎じ、沸騰したら弱火で全量が2/3になるまで煮詰め、1日3回食間に服用する。ヨーロッパでは、利尿剤の他に気管支と肺の病気に用い、特に鎮咳、去痰、喘息等の発作に用いているようであるとする報告も見られる。

尚、含有量は少ないが、精油には肝毒性、堕胎作用、刺激作用をもつプレゴン (pulegone、モノテルペンに分類される無色の精油) が含まれる。連銭草には堕胎作用があるため、妊娠中の摂取はおそらく危険と思われる。また、十分な情報が見当たらないため、授乳中は使用を避ける。発作性疾患、肝疾患に罹患している人は使用禁忌等の報告が見られる。

生薬名を連銭草、薬名として癇取草、漢薬名を金銭草とする報告もある。これは子供の激情痙攣、俗にひきつけ(癇)は、子供の体内に癇の虫がいるために起こるとされ、虫封じを行ったり、寄生虫の虫下しを服ませたり、癇取草の水煎液を服ませたりした(子供の癇の虫をとる民間薬)。しかし、癇取草にひきつけを和らげる力はないとする報告がある。

1)生育旺盛 早春の「一番花」;読売新聞,第49966号,2015.3.6.
2)高橋 冬・他:散歩で見かける草花・雑草図鑑;創英社,2011
3)増村征夫:和名の由来で覚える372種-野と山・山と海辺の花ポケット図鑑;新潮社,20144)廣田伸七・編著:ミニ雑草図鑑-雑草の見分けかた;全国農村教育協会,2000
5)伊沢凡人・他:カラー版薬草図鑑;家の光協会,2003
6)独立行政法人国立健康・栄養研究所:『健康食品の安全性・有効性情報』;https://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv.html#Jw02
7)水野瑞夫・他:くらしの薬草と漢方薬-ハーブ・民間薬・生薬-新日本法規,2014

                                                    [015.9.GLE:2015.3.7.古泉秀夫]

『フィブリン糊について』

土曜日, 11月 7th, 2015

KW:薬害・副作用・感染症・フィブリノーゲン製剤・トロンビン製剤・フィブリン糊・組織接着法・臓器接着法

Q:1980年2月に大学病院で脊椎狭窄症の手術を受けました。当時“輸血はしなかった”と言われております。しかし現在82歳の母はC型肝炎➡C型肝硬変となり苦しみながらの入院生活で最後を迎える頃になっております。器具の使い回しを今更調べたところで…そう思っていましたが。 フィブリン糊を使った可能性も有りそうな時期かとも思いまして可能性はありうるのか。大学病院にどのように聞き、そうであった場合どのようにしたら良いのか教えていただきたく連絡させていただきました。

A:フィブリン糊について、次の報告がされている。
フィブリノーゲン製剤及びトロンビン製剤の当時の販売会社である『旧ミドリ十字社』は1981年(昭56年)11月7日に第1回フィブリン糊研究会会合を開催している。更に『旧ミドリ十字社』は1981年9月版(昭56)として「フィブリノーゲン-ミドリ、トロンビン-ミドリをもってする組織・臓器接着法」及び「手術用接着剤としてのフィブリノーゲン-ミドリ、トロンビン-ミドリの応用」(1982(昭56)年版)の2種類の小冊子を作成している。これは第1回の研究会でのプレゼンテーションを補足する目的で制作されたもので、研究会終了後研究会以外の医師・薬剤師に本資料は配付されている。
「第2回フィブリン糊研究会記録」が1983年(昭58)のMedical Postgraduates Supplement(旧ミドリ十字学術部編集)に掲載された。この研究記録は、フィブリン糊研究会のメンバーに対して限定配布されると同時に、参考資料として旧ミドリ十字各支店に配布された。
各支店での本資料の扱いは不明であるが、本資料を引用文献として利用した「フィブリン糊製剤条件と安定性の検討:医薬ジャーナル,(23)85-:4について書かれた1987(昭62)年の藤原・野口の報告が見られる。」

1980年1月;旧ミドリ十字は1980年1 月-2001年9月迄に計約605,000本のフィブリノーゲン製剤を製造出荷した。

①青森県で発生したHCV集団感染発覚前の1987年2月迄『非加熱製剤』。
②1987年3月-1994年6月迄は『加熱製剤』。
①1994年9月からは加熱製剤に化学処理を追加した『SD処理製剤』

HCV感染被害が生じたのは非加熱製剤・加熱製剤。非加熱製剤のうち1985年8月製造分迄『β-プロビオラクトン(BPL)』が添加。
▶1985年9月製造の非加熱製剤→1988年6月回収まで迄に出荷された加熱製剤投与患者がHCV感染の危険率が最も高かった(この間に製造・出荷されたフィブリノゲン製剤は計約186,000本-肝炎感染被害報告後回収分を除いた約156,000本が患者に使用されたと推計)。

▶  1987年の調査で、フィブリノゲン製剤は患者一人当たり平均3.64本使用されていたことから、感染リスクの高い製剤を投与された患者は、国内で42,000人超程度とみられている。

▶1980年代に使用されていたフィブリノーゲン製剤は、非加熱製剤で有り、使用されたとすれば、感染の機会はあったということが出来る。一方、フィブリン糊については、1981年(昭56年)11月7日に、『旧ミドリ十字社』が第1回フィブリン糊研究会を開催するまでは、広く人口に膾炙されていたとは思えず、これまでは極く限られた医師のみが、自分で調整しながら使用したものと考えられる。その意味では医療機関に正確なデータとして残されているかどうかは不明である。
但し、『フィブリン糊使用医療機関 ○○県』で検索すれば、厚労省に報告された医療機関は検索可能である。

1)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009
2)古泉秀夫:薬害C型肝炎問題について,2008.1.17.
3)各都道府県薬務主管部(局)長宛・厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長発出:医薬品適応外使用に係わる学術情報の指針作成について;薬食監麻発1008第4号,平成22年10月8日
4)C型肝炎ウイルス検査受診の呼びかけ;厚生労働省医薬食品局血液対策課,平成20年1月17日

                                                    [035.4.BOL.2015.9.2.古泉秀夫]