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「アムロジンとグレープフルーツの相互作用」

水曜日, 10月 29th, 2014

 

KW:相互作用・アムロジン・ベシル酸アムロジピン・amlodipine besilate・グレープフルーツ・grapefruit・dihydropyridine系・Ca拮抗薬・CYP3A4

Q:アムロジンとグレープフルーツの相互作用は報告されているか

A:アムロジン錠(大日本住友)は、アムロジピンベシル酸塩(amlodipine besilate)を成分とする薬物である。薬効分類は『高血圧症・狭心症治療薬。持続性Ca拮抗薬』として分類されている。従来、添付文書中に『grapefruit』との相互作用については特に記載されていないかったが、2010年8月『使用上の注意改訂のお知らせ」の連絡文書が配布され、グレープフルーツジュースとの相互作用に係わる注意が添付文書に記載された経緯について説明がされた。

3.相互作用

本剤の代謝は主として薬物代謝酵素CYP3A4が関与していると考えられている。

併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
グレープフルーツジュース 本剤の降圧作用が増強されるおそれがある。同時服用をしないよう注意すること。 グレープフルーツに含まれる成分が本剤の代謝を阻害し、本剤の血中濃度が上昇する可能性が考えられる。

グレープフルーツジュース

相互作用を検討した臨床試験結果に基づいて、アムロジピンはグレープフルーツジュースとの相互作用は受け難いことが報告されています。また、その一方で、グレープフルーツやグレープフルーツジュースの摂取によってアムロジピンの降圧作用が増強したと疑われた症例が報告され、これらの症例ではグレープフルーツに含まれる成分がアムロジピンの代謝を阻害し、その血中濃度が上昇した可能性が考えられました。したがって、併用注意に追記することとしました。

[アムロジンとの相互作用が疑われた症例]

1.発現副作用(血圧低下感、失神):男・60歳代、使用理由:高血圧(合併症:多発性脳梗塞)、発現時投与量:5mg、発現時期:129日目、処置:中止→転帰(回復)。2.5mg再投与64日目、処置:投与継続→転帰(回復)
☀経過:投与129日目:朝アムロジン服用。夜に食事、飲酒後フルーツ(内容不明)摂取。摂取30分後血圧低下感、失神発現。臥位にて回復。再投与64日目:朝グレープフルーツ摂取、20分後アムロジン服用。服用40分後に気分不快、不安感発現、臥床にて回復。グレープフルーツの摂取を避けて投与継続。

2.発現副作用(ショック・血圧低下に伴う意識消失):女・60歳代、使用理由:高血圧(SLE、ループス腎炎による腎不全、不整脈)、発現時投与量:5mg、発現時期:1年2ヵ月目、処置:中止→回復。
☀経過:発現直前は食事摂取不良の状態で、食事が取れないためグレープフルーツを15日間毎日摂食。

3.発現副作用(低血圧による失神):女・50歳代、使用理由:本態性高血圧、発現時投与量:5mg、発現時期:1年6ヵ月目、処置:中止→回復。
☀経過:グレープフルーツを日常的に摂食。

尚、従来amlodipine besilateとgrapefruitとの相互作用について、次の報告がされている。

amlodipineとGF-jとの相互作用については、使用上の注意に設定されていない。その理由はGF-jによるamlodipineの血中濃度の上昇は軽度(Cmax 115%、AUC 116%に上昇)で、血圧と心拍数に影響はなかったとの報告及び薬物動態と血圧に影響はなかったとする、何れも外国人によるdataが報告されていることによる。

cytochrome  P450(CYP)酸化系酵素の特徴

①ミクロソームに局在し、他は核膜に弱い活性が認められる。
②肝臓における活性が特に強く、他の臓器の活性は1/5-1/30とされる。CYP3A4の活性は腸管で高い。
③分子多様性で多数のサブファミリーの酵素が存在する。更に遺伝多型を示す多くの分子種が存在する。
④脂溶性の薬のみ酸化。
⑤基質特異性が極めて低く、一つの分子種で多くの薬を代謝し、一つの薬の一つの代謝経路にも多くのcytochrome P450が関与する。
⑥多くの化学物質により特殊なcytochrome P450が誘導を受ける。
⑦基質特異性が低いので、他の化学物質により活性が阻害されやすい。

経口投与された薬は主として小腸粘膜から吸収され門脈系に入るが、粘膜壁を通過する際、代謝を受ける。特に人の場合には、CYP3A4の発現量がかなり高く、この分子種により主として代謝される薬では小腸における代謝の関与がかなり高い。

一方、grapefruitについては次の報告が見られる。

grapefruitが薬物の効力に影響することは、最近では広く知られてきている。grapefruitは肝臓ではなく小腸上皮細胞内のCYP3A4及びP-糖タンパク質(MDR1:multidrug resistance protein 1)を特異的に阻害することが知られている。その結果、これらの基質となる薬の代謝及び小腸管腔への排泄が抑制され、吸収量が顕著に増大する事例がある。更にgrapefruit juiceによる抑制効果は、服用する薬によっては、数日間持続することがあるので、そのように薬物を服用する際にはgrapefruit juiceの飲用を中止することが無難である。

grapefruit juiceの飲用がCYP3A4に影響する原因物質として、従来grapefruit juice中の種々の含有成分が標的とされてきた。しかし最近になって6′,7′-Dihydroxybergamottin(DHB)が、原因物質であることが判明してきた。但し、薬物とDHBとの相互作用だけでは説明のつかない現象が見られ、その部分にはP-糖タンパク質が関与していることで説明されている。

DHBはCYP3A4のmechanism-based inhibition(MBI:不可逆阻害)であることが動物実験により確認されたが、更に単なるCYPの阻害剤ではなく、CYP3A4の分解を促進し、CYP3A4を消失する作用を持つことが判明した。

但し、同じCa拮抗剤でも注射剤では相互作用が見られないということもあり、CYP以外にも何らかの因子がgrapefruit juiceとの相互作用に関与していることが予測され、検証の結果小腸でのP-糖タンパク質が吸収・排泄過程で関与していることが判明した。P-糖タンパク質は、小腸上皮細胞で、有害物質などを体外に排泄する作用を持っている。P-糖タンパク質とCYP3A4の基質・阻害剤は相同性が高いことが知られている。但し、P-糖タンパク質の影響については、現段階では否定的であるとするとする報告も見られる。

1)アムロジン錠添付文書,2007.12.
2)アムロジン錠「サンド」IF,2008.7.
3)アムロジン錠IF,2008.1.
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル 2008;医学書院,2008
5)中野重行・他編:臨床薬理学 第2版;医学書院,2003
6)大西憲明・編著:一目でわかる医薬品と飲食物・サプリメントの相互作用とそのマネジメント;フジメディカル出版,2003
7)アムロジン錠・OD錠-使用上の注意改訂のお知らせ:大日本住友,2010.8.
8)国立健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報; http://www.nih.go.jp/eiken/,2010.9.13.

      [015.2.AML:2008.8.8.古泉秀夫・2010.8.30.改訂]

「ズイナについて」

水曜日, 10月 29th, 2014

KW:健康食品・ズイナ・ずい菜・D-psicose・D-プシコース・希少糖・ヨメナノキ・Itea Japonica Oliver

Q:希少糖のうちD-psicoseが含まれるとされる"ズイナ"について

A:ズイナ(ヨメナノキ)は、ユキノシタ科ズイナ属の落葉低木である。成長期間は4-10ヵ月。山地の林縁や沢添いなどに生育する。幹は直立し、高さ1-2m、枝は無毛。葉は有柄で互生、卵状楕円形~卵形、長さ5-10cm、先は鋭く尖り、基部楔型、縁にやや不整な細鋸歯があり、表裏とも脈に沿って微毛があるか又は無毛。花期は5-6月。枝先に長さ7-20cmの総状花序(穂状花序)を出し、白色の花を密に付ける。萼片・花弁共に5個。新葉は食用にされる。日本の固有種である。本州(近畿地方南部)、四国、九州に分布。“ずい菜”という名称は、新葉を食用にすることによる。漢名:随菜、学名:Itea Japonica Oliver。

その他、ズイナ属は東アジア原産で、北米東部の落葉性灌木の一つである。一部の種は、その長い穂と香りの良い頭花から観賞用庭園で育てられている。これらは、中央および西中国原産のI. ilicifolia(支那ズイナ)やI. yunnanensisがある。北米東部の落葉性のコバノズイナ (I. virginica) はこれらと異なり直立に生長する特徴がある。

ズイナ属には以下の種が含まれるとする報告が見られる。

シマズイナ(Itea chinensis Hook. & Arn.)、支那ズイナ(Itea ilicifolia Oliv.)、ズイナ(Itea japonica Oliv.)、ヒイラギズイナ(Itea oldhamii C. K. Schneid.)、ヒメズイナ(Itea parviflora Hemsl.)、コバノズイナ(Itea virginica L. - Virginia Sweetspire)、(Itea yunnanensis Franch.)

なお、ズイナ葉は希少糖の一つであるD-psicoseを、自然界で唯一抽出できる植物だとされている。

1)ハテナ君が聞く「希少糖」って何? 「太りにくい」のが人気:読売新聞,第49714号,2014.6.26.
2)廣田伸七・編:ミニ山野草図鑑<離弁花編>;全国農村教育協会,2013
3)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 II;北隆館,2000
4)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2003
5)田辺良久・他:薬用植物成分の研究(第7報)-リョウブの樹皮及び実の成分について;薬学雑誌,86(5):441-443(2966)
6)薬用植物一覧表;http://www.e-yakusou.com/sou02/soumm185.htm,2014.7.2.
7)http://ja.wikipedia.org/wiki/ズイナ,2014.6.30.

           [015.9.OLI:2014.10.29.古泉秀夫]

「臭素剤について」

水曜日, 10月 29th, 2014

KW:薬名検索・臭素剤・bromine agent・bromine・Br・アルカリ金属・アルカリ土類金属・臭化カリウム・potassium bromide・臭化カルシウム・calcium bromide・ブロムワレリル尿素・bromovalerylurea

 

Q:臭素剤という記載が教科書にあったが、これにはどのような薬剤が含まれるのか

A:臭素(bromine)、Br、原子番号35の元素。原子量79.904。ギリシャ語で“悪臭”を意味するbromosより命名された。英名のbromine、独逸名のbromはこれに由来する。ハロゲン元素(塩を造る元素の意)の一つ。二つの安定な同位体79Br(50.57%)、81Br(49.43%)がある。常温で液体である唯一の非金属元素で、天然には単体として存在せず、主としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物、塩素より遙かに少量ではあるが塩素とともに存在する。また海水1L中に平均67mg含まれている。赤褐色の刺激性の液体で、融点-7.2℃、沸点58.8℃。赤褐色の刺激性の液体で、室温で赤褐色の蒸気を放つ。有毒である。水100gに対する溶解度は3.58g(20℃)である。アルコール、エーテル、ベンゼン、四塩化炭素など、一般の有機溶媒にはよく溶ける。塩素より酸化力は弱いが、酸化剤、殺菌剤、臭素化剤として、また多くの無機、有機臭素製品の原料として用いられ、特に写真材料、医薬品として重要である。

臭素化合物の作用は、成人が0.5g位服用しても認められないが、4-8gを投与すると大脳皮質の知覚領と運動領の興奮抑制作用が現れる。その為、臭素を含む化合物は鎮静剤(ブロムカリ等)、就眠剤(ブロムワレリル尿素等)として応用されている。ただ臭素は体内に蓄積し易いので、長期連用は回避する。

中枢神経の中でも、特に大脳皮質の興奮性を低下させて鎮静効果をもたらすものを鎮静薬といい、臭化カリウム(KBr)、臭化ナトリウム(NaBr)等の臭素剤(bromine agent;ブロム剤:bromides)がこれに入る。臭素剤は吸収は速いが、排泄が遅い為、連用によって蓄積を起こし、ブロム中毒症(bromism)になる。

ブロム中毒症の症状として、不安、鬱状態、運動失調、見当識障害、混迷などの精神障害。発疹、痤瘡。食欲不振、下痢を起こし、痩せてブロム悪液質になる。このような副作用の為、臭素剤は殆ど用いられなくなった。

臭化カリウム(potassium bromide):KBr=119.00 。[末、1日1.5-3g 1回0.5-1g 分3]:適応:不安緊張状態の鎮静、小児の難治性てんかん。生体内で臭素イオンとして作用し、大脳皮質の知覚及び運動中枢の興奮を抑制する。[動態]T1/2:約12日、排泄:24-36時間で1/4-1/10が尿中排泄。

臭化カルシウム(calcium bromide):CaBr2=199.9。[注、1日200-1,200mg 1回200-600mg 分1-2]:適応:不安緊張状態の鎮静、小児の難治性てんかん。生体内で臭素イオンとして作用し、大脳皮質の知覚及び運動中枢の興奮を抑制する。[特徴]臭化物の中枢抑制作用は数日にわたる薬物の逐次的な蓄積作用によってのみ達成されるので、睡眠薬としては有用でなく、長期の鎮静の目的又は抗てんかん薬としてのみ用いられる。

ブロムワレリル尿素(bromovalerylurea):C6H11BrN2O2 =223.07 。[1日0.5-0.8g 分1]:適応:不眠症、不安緊張状態の鎮静。作用の発現が速く、持続時間の短い催眠作用を示す。また、鎮静作用、抗痙攣作用、麻酔増強作用がある。[動態]排泄:脳その他の組織に分布し、一定時間後肝で分解され、無機ブロム体及び有機ブロム化合物に代謝され、尿に排泄。作用発現時間:20-30分(内服:0.5-0.8g)、作用持続時間:3-4時間(内服:0.5-0.8g)。

1)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
2)長谷川榮一:カラー版医学ユーモア辞典 改訂第3版;エルゼビア・ジャパン,2008
3)中井健五・他:薬理学 第2版;理工学社,1984
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2010

        [011.1.BRO:2010.9.8.古泉秀夫]