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「臭素剤について」

水曜日, 10月 29th, 2014

KW:薬名検索・臭素剤・bromine agent・bromine・Br・アルカリ金属・アルカリ土類金属・臭化カリウム・potassium bromide・臭化カルシウム・calcium bromide・ブロムワレリル尿素・bromovalerylurea

 

Q:臭素剤という記載が教科書にあったが、これにはどのような薬剤が含まれるのか

A:臭素(bromine)、Br、原子番号35の元素。原子量79.904。ギリシャ語で“悪臭”を意味するbromosより命名された。英名のbromine、独逸名のbromはこれに由来する。ハロゲン元素(塩を造る元素の意)の一つ。二つの安定な同位体79Br(50.57%)、81Br(49.43%)がある。常温で液体である唯一の非金属元素で、天然には単体として存在せず、主としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物、塩素より遙かに少量ではあるが塩素とともに存在する。また海水1L中に平均67mg含まれている。赤褐色の刺激性の液体で、融点-7.2℃、沸点58.8℃。赤褐色の刺激性の液体で、室温で赤褐色の蒸気を放つ。有毒である。水100gに対する溶解度は3.58g(20℃)である。アルコール、エーテル、ベンゼン、四塩化炭素など、一般の有機溶媒にはよく溶ける。塩素より酸化力は弱いが、酸化剤、殺菌剤、臭素化剤として、また多くの無機、有機臭素製品の原料として用いられ、特に写真材料、医薬品として重要である。

臭素化合物の作用は、成人が0.5g位服用しても認められないが、4-8gを投与すると大脳皮質の知覚領と運動領の興奮抑制作用が現れる。その為、臭素を含む化合物は鎮静剤(ブロムカリ等)、就眠剤(ブロムワレリル尿素等)として応用されている。ただ臭素は体内に蓄積し易いので、長期連用は回避する。

中枢神経の中でも、特に大脳皮質の興奮性を低下させて鎮静効果をもたらすものを鎮静薬といい、臭化カリウム(KBr)、臭化ナトリウム(NaBr)等の臭素剤(bromine agent;ブロム剤:bromides)がこれに入る。臭素剤は吸収は速いが、排泄が遅い為、連用によって蓄積を起こし、ブロム中毒症(bromism)になる。

ブロム中毒症の症状として、不安、鬱状態、運動失調、見当識障害、混迷などの精神障害。発疹、痤瘡。食欲不振、下痢を起こし、痩せてブロム悪液質になる。このような副作用の為、臭素剤は殆ど用いられなくなった。

臭化カリウム(potassium bromide):KBr=119.00 。[末、1日1.5-3g 1回0.5-1g 分3]:適応:不安緊張状態の鎮静、小児の難治性てんかん。生体内で臭素イオンとして作用し、大脳皮質の知覚及び運動中枢の興奮を抑制する。[動態]T1/2:約12日、排泄:24-36時間で1/4-1/10が尿中排泄。

臭化カルシウム(calcium bromide):CaBr2=199.9。[注、1日200-1,200mg 1回200-600mg 分1-2]:適応:不安緊張状態の鎮静、小児の難治性てんかん。生体内で臭素イオンとして作用し、大脳皮質の知覚及び運動中枢の興奮を抑制する。[特徴]臭化物の中枢抑制作用は数日にわたる薬物の逐次的な蓄積作用によってのみ達成されるので、睡眠薬としては有用でなく、長期の鎮静の目的又は抗てんかん薬としてのみ用いられる。

ブロムワレリル尿素(bromovalerylurea):C6H11BrN2O2 =223.07 。[1日0.5-0.8g 分1]:適応:不眠症、不安緊張状態の鎮静。作用の発現が速く、持続時間の短い催眠作用を示す。また、鎮静作用、抗痙攣作用、麻酔増強作用がある。[動態]排泄:脳その他の組織に分布し、一定時間後肝で分解され、無機ブロム体及び有機ブロム化合物に代謝され、尿に排泄。作用発現時間:20-30分(内服:0.5-0.8g)、作用持続時間:3-4時間(内服:0.5-0.8g)。

1)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
2)長谷川榮一:カラー版医学ユーモア辞典 改訂第3版;エルゼビア・ジャパン,2008
3)中井健五・他:薬理学 第2版;理工学社,1984
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2010

        [011.1.BRO:2010.9.8.古泉秀夫]