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「SFTSウイルス感染症について」

水曜日, 4月 17th, 2013

KW:感染症・SFTSウイルス感染症・重症熱性血小板減少症候群・SFTSウイルス・ブニヤウイルス科フレボウイルス属

Q:ダニが媒介する新興感染症について

A:厚生労働省は30日、中国で2009年ごろから発生しているダニ媒介性の新感染症が、国内で初めて確認されたと発表した。患者は山口県の成人で、昨年秋に死亡した。患者に最近の海外渡航歴はなく、日本国内でウイルスに感染したとみられる。原因ウイルスを媒介するマダニは日本でも全国に分布しており、厚労省では「全国どこでも発生し得る感染症と考えられる」として注意を呼び掛けている。

感染症は「重症熱性血小板減少症候群」で、2009年以降に中国で報告され、2011年に原因ウイルス「SFTSウイルス」が初めて特定された。また、米国でも似たウイルスによる症例が報告されている。今回の山口県の症例は、中国で見つかったウイルスとほぼ同じという。主な症状は発熱、倦怠感、食欲低下、消化器症状、リンパ節の腫れ、出血で、致死率は10%を超える。治療法は対症療法に限られる。

厚労省によると、予防には、マダニが主に生息する草むらや藪などに入る時には長袖、長ズボンを着用するなど肌の露出を少なくすることや、屋外活動後にはマダニにかまれていないか確認することが重要。特にマダニの活動が盛んな春から秋にかけては要注意という。

厚労省では、

▽吸血中のマダニに気付いたら、できるだけ病院で処置してもらう。
▽マダニにかまれた後に発熱などの症状があれば病院を受診する。

ことを呼び掛けていimageる。

■医療機関に情報提供を依頼

厚労省は同日付で、この感染症が疑われる患者を診察したら情報提供するよう、医療機関に依頼することを求める通知を都道府県などに出した。情報提供を求める患者の要件は、「38度以上の発熱と消化器症状を呈し、血液検査所見で血小板減少、白血球減少、血清酵素の上昇が見られ、集中治療を要したか、死亡した」で、ほかの原因が明らかな場合は除く。
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome,SFTS)はブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス、SFTSウイルス(SFTSV)、によるダニ媒介性感染症である。2011年に中国でSFTSと命名された新規感染性疾患が報告されて以来、中国国内の調査から現在7つの省(遼寧省、山東省、江蘇省、安徽省、河南省、河北省、浙江省)で患者発生が確認された。

                                                                      (別紙2)
                                                                        事務連絡
                                                              平成25年2月13日

   都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部(局) 御中
   特 別 区

                                                    厚生労働省健康局結核感染症課

          重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の国内での確認状況について
                                  (情報提供)

日頃より感染症対策にご協力賜りありがとうございます。
平成25年1月30日付け健感発0130第1号により、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の疑いのある患者を診察した場合について情報提供をお願いしたところです。
今般、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の症例
・愛媛県(成人男性1名:昨秋に死亡。最近の海外渡航歴なし。)
・宮崎県(成人男性1名:昨秋に死亡。最近の海外渡航歴なし。)
が、確認されましたので、情報提供いたします。
引き続き、医療機関から情報提供があった場合には、その内容について当課までご連絡ください(様式任意)。
(参考)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚生労働省ホームページ

                                                                        事務連絡
                                                              平成25年2月19日

   都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部(局) 御中
   特 別 区

                                                    厚生労働省健康局結核感染症課

          重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の国内での確認状況について
                            (情報提供)(その2)

日頃より感染症対策にご協力賜りありがとうございます。
平成25年1月30日付け健感発0130第1号により、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の疑いのある患者を診察した場合について情報提供をお願いしたところです。
これまでに重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の症例が3例確認されましたが、今般、新たな症例(成人男性1名:昨夏に死亡。国内感染疑い。)が、広島県において確認されましたので、情報提供いたします。
引き続き、医療機関から情報提供があった場合には、その内容について当課までご
絡ください(参考様式は任意)。
(参考)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚生労働省ホームページ)

                                                            基安労発0221第2号
                                                              平成25年2月21日

都道府県労働局労働基準部長 殿

                                                            厚生労働省労働基準局
                                                          安全衛生部労働衛生課長

 

            重症熱性血小板減少症(SFTS)の予防対策等の周知等について

平成25年1月に国内で初めて重症熱性血小板減少症(Severe Fever withThrombocytopenia Syndrome: SFTS)の症例が確認され、これまで山口県、愛媛県、宮崎県、広島県の4県で合計4名の死亡例が確認されている。本疾患は、特に春季に、原因ウイルスを媒介するマダニの活動が活発になることから、林業等の事業場において発生する可能性がある。重症熱性血小板減少症に関する基礎知識や感染予防等については、厚生労働省ホームページ「重症熱性血小板減少症候群」、「重症熱性血小板減少症Q&A」にまとめられていることから、関係事業者等に対して予防対策等の周知及び指導を行うに当たっての参考とされたい。
また、関係団体に対し、別紙のとおり要請を行ったので、了知されたい。
○「重症熱性血小板減少症候群」について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm-att/2r9852000002u21t.pdf
○「重症熱性血小板減少症候群に関するQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html
(厚生労働省ホームページ)

                                                                        (別紙)
                                                            基安労発0221第3号
                                                              平成25年2月21日

(別記関係団体)の長 殿

                                                            厚生労働省労働基準局
                                                          安全衛生部労働衛生課長

            重症熱性血小板減少症(SFTS)の予防対策等の周知等について

労働基準行政の運営につきましては、日頃から格別の御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、重症熱性血小板減少症(Severe Fever with ThrombocytopeniaSyndrome: SFTS)に関しましては、平成25 年1月に国内で初めての症例が確認され、これまで山口県、愛媛県、宮崎県、広島県の4県で合計4名の死亡例が確認されております。本疾患は、特に春季に、原因ウイルスを媒介するマダニの活動が活発になることから、林業等の事業場において発生する可能性がございます。重症熱性血小板減少症に関する基礎知識や感染予防等については、厚生労働省ホームページ「重症熱性血小板減少症候群」、「重症熱性血小板減少症Q&A」にまとめられております。
つきましては、貴団体におかれましても、会員その他関係事業場に対する本疾患の予防対策等の周知及び指導とともに、当該事業場が対策を実施される際は、特段の御配慮を賜りますようお願いいたします。

○「重症熱性血小板減少症候群」について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm-att/2r9852000002u21t.pdf
○「重症熱性血小板減少症候群に関するQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html
(厚生労働省ホームページ)
別記関係団体
林業・木材製造業労働災害防止協会
建設業労働災害防止協会

SFTSVは3分節の1本鎖RNAを有するウイルスで、クリミア・コンゴ出血熱やリフトバレー熱、腎症候性出血熱やハンタウイルス肺症候群の原因ウイルスと同様にブニヤウイルス科に属する。中国からの報告では、マダニ[フタトゲチマダニ(Haemophysalis longicornis )、オウシマダニ(Rhipicephalus microplus )]からウイルスが分離されており、SFTSVの宿主はダニであると考えられている。また、ダニに咬まれることの多い哺乳動物からSFTSVに対する抗体が検出されていることから、これらの動物もSFTSVに感染するものと考えられる。ヒトへの感染は、SFTSVを有するダニに咬まれることによるが、他に患者血液や体液との直接接触による感染も報告されている。ウイルス血症を伴う動物との接触による感染経路もあり得ると考えられる。SFTSVに感染すると6日-2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳、咽頭痛)、出血症状(紫斑、下血)等の症状が出現し、致死率は10%を超える。SFTSはダニ媒介性ウイルス感染症であることから、流行期はダニの活動が活発化する春から秋と考えられる。ダニは日本国内に広く分布する。

基本的に対症療法となる。有効なワクチンはない。

医療機関における院内感染予防には、ヒトからヒトに感染する接触感染経路があることから、標準予防策の遵守が重要である。また、臨床症状が似た患者を診た場合にはSFTSを鑑別診断に挙げることが重要である。
 
SFTSVに感染しないようにするには、ダニに咬まれないようにすることが重要である。草むらや藪など、ダニの生息する場所に入る場合には、長袖の服、長ズボン、足を完全に覆う靴を着用し、肌の露出を少なくすることが重要である。

参考文献

1) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364:1523-32, 2011
2) Li S, et al., Biosci Trends 5:273-6, 2011
3) Zhang YZ, et al., J Virol 86:2864-8, 2012
4) Tang X, et al., J Infect Dis ahead of print. 2013
5) Xu B, et al., PLoS Pathog 7:e1002369, 2011

<医療従事者等の専門科向け>

Q1.SFTSウイルスはどのようなウイルスですか?
A.SFTSウイルスは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に属する、三分節1本鎖RNAを有するウイルスです。ブニヤウイルス科のウイルスは酸や熱に弱く、一般的な消毒剤(消毒用アルコールなど)や台所用洗剤、紫外線照射等で急速に失活します。

Q2.日本で見つかったSFTSウイルスは、中国や米国で見つかっているものと同一のウイルスですか?
A.日本で見つかったSFTSウイルスは、中国のSFTSウイルスとほぼ同じです。米国で見つかったウイルスは、SFTSウイルスに近縁のウイルスです。

Q3.潜伏期間はどのくらいですか?
A.(マダニに咬まれてから)6日-2週間程度です。

Q4.重症熱性血小板減少症候群にかかると、どのような症状が出ますか?
A.原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が中心です。時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳など)、出血症状(紫斑、下血)を起こします。

Q5.検査所見の特徴はどのようなものですか?
A.血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少、血清電解質異常(低Na血症、低Ca血症)、血清酵素異常(AST、ALT、LDH、CK上昇)、尿検査異常(タンパク尿、血尿)などが見られます。

Q6.どのようにして診断すればよいですか?
A. マダニによる咬傷後の原因不明の発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、AST・ALT・LDHの上昇を認めた場合、本疾患を疑うことが大事です。確定診断には、ウイルス学的検査が必要となります。なお、患者がマダニに咬まれたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。

Q7.確定診断のための検査はどこでできますか?
A.保健所や地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所ウイルス第一部に検査を依頼することができます。

Q8.治療方法はありますか?
A.有効な抗ウイルス薬等の特異的な治療法はなく、対症療法が主体になります。中国では、リバビリンが使用されていますが、効果は確認されていません。

Q9.患者を取り扱う上での注意点は何ですか?
A.中国では、患者血液との直接接触が原因と考えられるヒト-ヒト感染の事例も報告されていますので、接触予防策の遵守が重要です。飛沫感染や空気感染の報告はありませんので、飛沫予防策や空気予防策は必要ないと考えられています。

Q10.患者検体(サンプル)を取り扱う場合の注意点は何ですか?
A.患者の血液や体液にはウイルスが存在する可能性があるため、標準予防策を遵守することが重要です。

Q11.重症熱性血小板減少症候群が疑われる患者がいた場合、どう対応したらよいですか?A.最寄りの保健所に連絡をお願いします。

Q12.検査方法等、技術的な内容の相談窓口を教えてください。
A.国立感染症研究所info@niid.go.jpにお問い合わせください。

 

[SFTSV:2013.4.17.]

「晋耆について」

水曜日, 4月 17th, 2013

 

KW:健康食品・機能性食品・生薬・漢方・晋耆・シンギ・紅耆・コウギ・多序岩黄耆・タジョガンオウギ・黄耆・オウギ・キバナオウギ・内蒙黄耆・ナイモウオウギ・疥癬

Q:晋耆(シンギ)が疥癬に有効ということで試用したいの希望があるが、この入手方法について。なお、晋耆は紅耆ともいわれるとのことである。

A:晋耆(シンギ)では、詳細な資料の入手は出来なかったが、紅耆(コウギ)については、次の報告がされている。

紅耆:マメ科の植物、多序岩黄耆(タジョガンオウギ)、Hedysarum polybotrys Hand.Mazz.の根で、産出量も比較的多い。微弱だが特有の臭いがあり、味は僅かに甘い。ただし、黄耆が本来の生薬である。

黄耆・黄芪(オウギ)。

基原:マメ科の植物。和名:キバナオウギ又は内蒙黄耆(ナイモウオウギ)等の乾燥した根。

異名:戴糝(タイサン)、戴椹(タイジン)、独椹(ドクジン)、蜀脂(ショクシ)、百本、王孫、百薬綿、綿黄耆、土山爆張根(ドサンバクチョウコン)、独根等。

原植物

1)黄花黄耆:キバナオウギ。Astragalus membranaceus(Fisch.)Bge.、膜莢黄耆(マクキョウオウキ)。
2)内蒙黄耆:ナイモウオウギ。Astragalus mongholicus Bge.
3)金翼黄耆:キンヨクオウギ。Astragalus chrysopterus Bge.
4)塘谷耳黄耆:トウコクオウギ。Astragalus tongolensis Ulbr.
この他、多くのゲンゲ属植物が薬として用いられている。

成分:ショ糖、グルクロン酸、粘液質、数種のアミノ酸、苦味質、コリン、ベタイン、葉酸(乾燥根100g当たり65μg)、また2′,4′-dihydroxy-5,6-dimethoxyisoflavone、l-canavanine、phenol配糖体、saponin、isoflavone等が報告されている。
また韓国産黄耆の血圧下降成分としてγ-aminobutyric acid(0.024%)が主体であるとする報告もされている。
その他、cycloaraloside C、cycloaraloside F、β-D-glucopyranoside等のseroid glycosideが分離され、astragaloside I-VII、isoastragaloside I-II、4種のisoflavone glucoside等が含まれる。
また、クマタケニン(3-O-メチルラムノシトリン)も検出される。内蒙黄耆はflavonoids配糖体を含む。ゲニンはクェルセチン、イソラムネチン、ラムノシトリンである。一説には、根はsaponinを含み、その糖はアラビノース、ブドウ糖、ガラクトースであるという。また脂質の鹸化物からリノール酸、リノレン酸が検出され、非鹸化部分にはβ-sitosterolが含まれる。多序岩黄耆[紅耆]は抗菌成分の3-ヒドロキシ-9-メトキシプテロカルパンを含む等の報告がされている。

薬理

1.利尿作用:黄耆の煎剤を皮下注、静注により利尿作用発現。ラットに皮下注射した場合、体重1kg当たり黄耆0.5gの煎剤の利尿効果はアミノフィリン0.05g及びジヒドロクロロチアジド0.2mgに相当する。利尿作用の持続時間は比較的長く、連続7日間の投与でも耐性を生じない。健常人が黄耆の煎剤を服用しても利尿効果があり、ナトリウムの排出量が増加する。

2.実験性腎炎に対する作用:黄耆粉4-5gを3日前から前投薬した事例では、実験的腎症に由来する蛋白尿の排出を軽減する。この効果は黄耆の低投与量及び煎剤投与では発現しない。

3.強壮作用:マウスに連日黄耆を経口投与すると遊泳時間は明らかに延長し、四塩化炭素による肝障害に抵抗し、肝保護作用を示した。黄耆の煎剤はマウスの非特異性免疫、細網内皮系の貪食能、脾臓の殺菌機能を増強し、マウスの液性免疫及びウイルスに対するインターフェロン誘発能力を促進する。黄耆の多糖(ブドウ糖とアラビノースの集合体)をマウスの腹腔に注射すると、液性免疫を促進する作用がある。正常人が黄耆を服用すると血中のIgM、IgE及びcAMPいずれもが顕著に増加する。

4.心臓血管系に対する作用:黄耆の煎剤を麻酔した動物に静脈注射すると、明らかに降圧作用がある。黄耆を重複して注射すると急速に耐性現象があらわれる。降圧作用は血管の拡張と直接関係がある。

5.その他の作用:マウスの発情を延長し、ウサギの血糖を低下させるとする報告もあるが、血糖低下については否定的報告も見られる。

適応:漢方では止汗、利尿、強壮の効果を期待し、身体虚弱、栄養不良、皮下組織に水毒が停滞するものに配合する。

用量:1日量3-10g。

以上の各報告から『晋耆』は『紅耆』として生薬を販売している薬局において入手可能であると考える。ただし、『紅耆』の入手困難な場合、『黄耆』を使用する。なお、疥癬に対する直接的な効果-殺虫効果に関する報告は入手できなかった。

1)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
2)和漢薬ハンドブック;富山県薬剤師会,1992
3)第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001

   [015.9.HED:2002.5.21.古泉秀夫]

「エスタブリッシュ医薬品について」

水曜日, 4月 17th, 2013

KW:語彙解釈・エスタブリッシュ医薬品・establish  drug・長期収載医薬品・後発医薬品・標準的医薬品

Q:最近業界紙で「エスタブリッシュ医薬品」なる用語を見たがこれはどういう範疇に入る医薬品か

A: 「エスタブリッシュ医薬品(establish  drug)」とは、ファイザー製薬が後発医薬品の製造販売を実施する上での戦略的立場で打ち出した概念である。同社は二律背反にある『長期収載医薬品と後発医薬品』を販売するに際し、『エスタブリッシュ医薬品』(特許のない標準的医薬品)として独立した医薬品事業部門を確立した。また『エスタブリッシュ医薬品』の取扱について、MRには疾患や薬物療法など一般的知識が必要になるとしており、会社全体としてMRのキャリアパスデザインに影響する部署になることを期待しているようである。

現在、厚生労働省は医療費の抑制を強化するということで、特許切れの従来ゾロと称していた医薬品を、後発品あるいはジェネリックと称して、利用の強化に取り組んでいる。それを受ける企業の方は、行政の使用推奨策に乗っているだけで、売り上げが伸びるという現状に、満面の笑みを浮かべているようである。

所で後発会社は、単純に売り上げが増えることを喜んでいるように見えるが、ゾロといえども医薬品である。医薬品というのは『情報の集積体』である。情報の管理が出来ない企業に薬の販売はして欲しくない。医薬品というのは、病気の治療をするという役割を担っている重要物質であるが、同時に有害反応という命に係わる問題も起こす物質なのである。

医薬品の取扱において最優先させるべきは安全であり、安全な使用には情報の提供を行うことが必要なのである。『エスタブリッシュ医薬品』という命名の是非については議論のある所かもしれないが、『長期収載医薬品と後発医薬品』を取り扱う部署としてMRの配置も含めて確立するという姿勢は、評価すべきだろう。

1)RISFAX,第6061号,H.24.4.11.

        [615.8.EST:2013.3.25.古泉秀夫]

『コリスチン注射用の入手について』

水曜日, 4月 3rd, 2013

 

KW:薬名検索・コリスチン注射用・硫酸コリスチン・コリスチメテートナトリウム・

Q:多剤耐性緑膿菌に有効とされるコリスチン注射用の入手について

A:コリスチン注射用は国内で市販されていない。必要とするなら海外から医師が直接個人輸入するか、試薬等を用いて院内製剤するしか入手する方法はない。
国外ではコリスチメテート・ナトリウム 150mg/vの注射剤が市販されている。
Coly-Mycin® M parenteral(米・KING Pharmaceuticals Inc.)
  colistimethate sodium(ポリミキシンE)………………150mg/v
(コリスチメテート・ナトリウム=メタンスルホン酸コリスチンナトリウム)

静注療法では、2.5-5.0mg/kg/日を1日2-4分割。最高投与量5mg/kg/日。本品は細胞膜を破壊することでグラム陰性菌を殺菌するポリペプチド系抗生物質である。多剤耐性のグラム陰性桿菌、特に緑膿菌[多剤耐性緑膿菌(mu;tidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)]の治療に用いられる。
静注による治療は特に強い中枢神経系の副作用や腎毒性があるので、経験豊かな臨床医の指導の下でのみ投与すべきである。
静注療法の副作用として、異常感覚、不明瞭な発音、末梢知覚鈍麻、刺痛や用量依存性の重大な腎障害がある。腎障害時に過剰投与すると、神経筋接合部ブロックや無呼吸を引き起こすので、腎機能低下患者に使用する際には、慎重に用量を減量調節する。1日2回投与で、中枢神経系に有意な症状を呈したら、4回分割投与か、持続投与(1日総投与量を500mLの5%-ブドウ糖液に溶かして24時間かけて静注)で調節する。
投与開始時には血清クレアチニンを連日モニターし、その後の投与期間中は定期的にチェックする。

■コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate=colistimethate sodium)

本品はコリスチン誘導体のナトリウム塩である。本品はコリスチンAメタンスルホン酸ナトリウム及びコリスチンBメタンスルホン酸ナトリウムの混合物である。本品を乾燥したものは、定量する時1mg当たり11500単位以上を含む。但し、本品の力価は、コリスチンAとしての量を単位で示す。
性状:本品は白色-淡黄白色の粉末である。本品は水に溶け易く、エタノール(95)に殆ど溶けない。本品0.1g を水10mLに溶かし、30分間放置した時のpHは6.5-8.5である。
名称:colistimethate sodium(INN)、colistimethate sodium(USP)。CAS-21362-08-3(colistin sodium methanesulfonate)。
来歴:コリスチンはBacillus polymyxa var.colistinusの培養液中に産生される塩基性のペプチド抗生物質で、1950年に日本において発見された。コリスチンは主成分のコリスチンAと副成分のコリスチンBの4:1-2:1の混合物である。当初は塩酸塩と硫酸塩が注射剤及び経口剤として用いられていたが、毒性が強いことから低毒性の誘導体が検索され、マウスに対する急性毒性が硫酸塩の1/40程度と低い本品が選ばれ、開発研究が進められた。
動態・代謝:経口投与によって吸収が認められ(硫酸コリスチンは殆ど吸収が認められない)、600万単位の経口投与2時間後に4.4μg/mLの血中濃度に達し、尿中濃度も22.5μg/mLを認めた。
薬効薬理:グラム陰性菌を特異的に阻止し、グラム陽性菌、真菌には作用しない。細菌細胞膜障害作用により殺菌的に作用する。耐性菌の出現頻度は極めて低く、他の抗生物質との間で交叉耐性の出現がないところから、多剤耐性のグラム陰性桿菌による感染症に有効である。本薬の力価は単位で現され、300万単位は100mg(力価)に相当する。
副作用:頻度は不明ながら、発疹・掻痒感などの過敏症、悪心・嘔吐・食欲不振・下痢等の消化器症状が現れることがある。

現在、本品は医薬品として散・顆粒・錠・カプセル(科薬抗生)が市販されているが、注射剤は我が国では市販されていない。本品の注射剤を使用する必要がある場合、医師個人の輸入によるか試薬を原料とした院内特殊製剤として調製をするしか入手の方法はない。しかし、いずれにしろ問題になるのは、厚生労働大臣の承認を得ていない薬の使用であり、保険請求が出来ないということである。更に副作用を理由として注射剤の製造が中止されたとされており、患者への使用の是非について、“院内倫理委員会”の審議を行い、医薬品費の負担も含めて論議をしておくことが必要であると考える。
なお、試薬のcolistin sodium methanesulfonateの包装単位は1gとされており、5,700円の価格設定が記載がされている。

なお、参照として“colistin sulfate”の物性等について下記に紹介しておく。

参照

コリスチン硫酸塩(colistin sulfate)

本品はBacillus polymyxa var.colistinusの培養によって得られた抗細菌活性を有するペプチド系化合物の硫酸塩である。本品を乾燥したものは定量する時、1mg当たり16000単位以上を含む。但し、本品の力価はコリスチンA(C53H100N16O13:1169.46)としての量を単位で示し、その1単位はコリスチンA 0.04μgに対応する。
性状:本品は白色-淡黄白色の粉末である。本品は水に溶け易く、エタノール(99.5)に殆ど溶けない。本品は吸湿性である。本品の味は苦い。本品0.10gを水10mLに溶かした液のpHは4.0-6.0である。粉末、水溶液とも熱に耐え、100℃で3日間加熱しても安定といわれている。CAS-1066-17-7(colistin)。
動態・代謝:経口投与で殆ど吸収は認められない。ブタに経口投与した時、消化器を除いては血中並びに主要臓器への分布は認められず、胃及び小腸上部に2-6時間、小腸下部に2-24時間、盲腸、結腸、直腸に6-48時間にわたり分布が認められる。
薬効・薬理:細胞膜の障害を引き起こすことにより、抗菌作用を示す。グラム陰性桿菌に対し殺菌的に作用する。発育抑制の感受性は緑膿菌が3.13μg/mLで約71%、また大腸菌及び赤痢菌が1.56μg/mLで100%である。耐性を獲得し難く、他種抗生物質と交叉耐性がないため、他種抗生物質耐性菌にも有効である。
適応:fradiomycin sulfateとの配合剤として、両剤感性菌による皮膚の単独又は混合感染症諸症及び各科領域における手術後並びに外傷後の感染予防と治療に用いる。

1)PDR 61Ed.,2007
2)高久史麿・他監訳:第11版ワシントンマニュアル;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2008
3)戸塚恭一・他監修:日本語版サンフォード感染症治療ガイド(第37版);ライフサイエンス出版,2007
4)Wako Pure Chemical Industries,Ltd.価格表,2008

    [011.1.COL:2008.8.26.古泉秀夫]

『彼岸花』

水曜日, 4月 3rd, 2013

                魍魎亭主人

先日、用事が会って京王電鉄井の駒場野-02頭線の駒場東大前駅に出かけた。用事も終わったのでさて戻ろうかという時に『駒場野公園』という案内板が見られたので寄ることにした。どのような公園か駒場野-01よく解らないので大して期待していなかったが、『かつては人の背ほどもある笹が一面に生え、ところどころに松林がしげる広い原野で、駒場野と呼ばれていた。明治になると、農業の近代化を図るため、この広い原野を利用して駒場農学校が開校し、近代農業の総合的教育・研究の場となっ。明治14年この農学校にドイツ人ケルネル氏が農芸化学の教師として着任し、土壌や肥料の研究を行って大きな成果をあげたという。園内にある水田はこの実験を行った場所で、農学発祥の地「ケルネル田んぼ」と呼ばれ、稲作は筑波大学付属駒場中・高校の生徒によって今でも行われているという紹介が見られた。

 

駒場農学校はその後東京農林駒場野-04学校、東京帝国大学、農科大学等を経て、東京教育大学農学部となり、昭和53年に筑波へ移転した。その移転跡地に造成されたのが駒場野公園であ駒場野-03るとする解説も見られる。』

 

 

 

 

駒場野公園は1986年に目黒区立駒場野公園として開園したとされる。公園の入口近くに“ケンネル田圃”の看板が見え、沢山の案山子が並べられていたが、どうやら恒例の案山子コンクールに出展された物がそのまま飾られていたようである。ただ、入口側-田圃の対岸からは塀沿いに植えられている植木の背丈が高く写真を巧く撮ることが出来なかった。

北門から入ってほたる橋を渡って右手の池を見て左手に行くとジャブジャブ池なるものがあったが水は入っていなかった。本来なら右手に色々な木が植えられた雑木林が見えていたが、蚊が酷そうだと云うことで、入るのは遠慮し、正面に見える建物の方に行ったところキャンプ場があり、バーベキューが出来る炉が幾つか見られた。その炉に添って右奥を見たところ、何か木になる赤い物が見えた。隣に居るかみさんにあれ彼岸花じゃないか。と云いながら足を早めて近寄ったところ、間違いなく彼岸花の小群落があった。「へえーこんな所に彼岸花の群落がね」と云いながら今年は彼岸花の写真を諦めていただけに、早速飛んでいったが、その部分は“野草園”と云うことで、大切にされている場所のようである。

しかし、この場所は桜の時期にも見事な花が見られるようで、写真だけの感想だが、21種類の桜の花があると云うことで、咲いている期間は長いような紹介がされていた。十月桜もあると云うことで、この桜は春と秋に花を付けるとされているが、どの程度本数があるのか、普通の桜と違い花びらの数が多いというが、染井吉野の派手さに比べると甚だしく地味な花だという印象がある。確か三囲神社の写真を撮りに行った時に墨堤で見た記憶があるが、ただ一本だけしか気がつかなかった。

              (2012.10.28.)

「TPPと国民皆保険の破綻」

火曜日, 4月 2nd, 2013

                  魍魎亭主人

TPPに参加すると、国民皆保険が破綻すると云うのが大方の意見である。

例えば国の保健でやっている医療について、健康保険の対象に出来ないのであれば混合診療の枠の拡大をしろということになり、自己負担分が拡大する。自己負担分を一時払いで払うのは大変だと云うことなら、民間の医療保険に加入すればいいじゃないかと云うことになる。米国では保険会社がのさばっている。保険の査定を口実にして、診療内容にまで口を出すという。

更に薬の値段について、日本では国が決めているが、米国では製薬会社が自分で決めている。その意味では、今でも薬価の設定について、米国の製薬企業は不満を持っている。漏れ承るところによると、韓国では特許権の関係で自国製の後発医薬品が販売不能になり、米国の後発品に置き換わるのではないかとの心配がされているようである。我が国でも多くの薬が外国製である。TPPに加盟することでこのあたりが変わるのかどうか。

しかし、考えようによっては、我が国の保険制度は、TPPへの加盟とは関わりなく、崩壊する世界が見えている。2013年3月14日の新聞で『中央社会保険医療協議会において、患者本人の軟骨細胞を体外で培養して移植する再生医療製品に、4月から保険を適用することを承認した。事故などで傷ついた膝関節の治療用で、実際の利用は今年夏頃からの見通し。価格は1回の治療辺り208万円。軟骨の欠損部分が4平方㌢以上のばあいが対象となる。高額療養費制度により、患者の負担は10万円程になる見込み。』とする記事が掲載されていた[読売新聞,第49246号]。

今後、『再生医療』という化け物は、益々色々な姿を伴ってこの世界に生み出されてくる。

それを治療に活かす方策を考えた場合、より高額な価格設定が求められる治療になることは明らかである。それら高額な医療の全てを保険財政で賄うことは、理想の姿ではあっても現実的には不可能である。そのためには混合診療の枠組みを広げて、民間医療保険の参入を認めざるを得なくなる。つまりTPPに参加すると起こるであろうと予測されている中身は、医療の進歩により自ずから自己倒壊を起こす定めにあると云うことである。さて国民はどうするのか。

     (2013.3.19.)

『調剤一部負担金のポイント化について』

火曜日, 4月 2nd, 2013

             魍魎亭主人

調剤薬局で調剤した結果、個人負担分の支払いに対して、ポイント付与が行われている問題で、厚生労働省はポイント付与を認めないとする文書を発出した。

大体、医師の処方箋に基づく調剤は、いわゆる商品としての医薬品の販売ではなく、治療の一環として調剤しているのである。医療の一環である以上、調剤に対するサービスとして金銭的なサービスはあってはならない。調剤に対するサービスは、飽く迄医療としてのサービスが主体であり、薬剤の情報提供に力点を置くべきである。

薬による有害作用の発生から患者の生命を守るのが薬剤師の役割であり、使命である。従って薬剤師のするべきサービスはそこに収斂すべきであり、ポイント付与などと云う物質的サービスを行うべきではない。第一ポイントを付けなければ処方箋が集まらないという発想が既におかしくはないか。親切な対応と充実した服薬指導。有効性の保証と同時に有害作用を回避するための手段を提供することが重要なのである。

医師からの処方箋を受領すると同時に、処方箋上の薬の組合せに問題がないかどうかを検討する。OTC薬や健康食品の使用を確認する。これらは全て相互作用に対する配慮である。更に再来患者であれば、前回の処方箋との間に内容的に変更はないのかどうか。変更があれば服用中の薬で効果がなかったのか、あるいは有害作用が発現したのかどうかの確認が求められる。

更に患者に対して、服用中の薬について、服み難い等の問題はないか?。薬を服み始めて何か体調の変化はないか?。医師の指示通り服めているのかどうか?等々について、確認する。これらの指示や会話は、患者との間に信頼関係がなければ、ただ煩がられるだけで会話は成立しない。

尤も調剤におけるサービスが、単に物理的なもので済むと薬剤師が思っている限り、患者との間に信頼関係は出来ない。

最近、病院勤務薬剤師と、調剤薬局の薬剤師の間に、“薬薬連携”が必要だとする意見を耳にするが、ポイントサービスにのみ眼を向けている薬剤師に、“薬薬連携”のパートナーとしての期待を持つことは出来ないのではないか。

クレジットカードのポイントと同じだから認めろという話も聞かれるが、クレジットカードのポイントは現金を使わずに買い物をするというあの仕組みに慣れて貰うために付けていたものではないのか。従って現金により商品を購入する行為に対してポイントを付けるということと意味が異なりはしないか。

いずれにしろ厚生労働省から次のような文書が出されること自体、調剤におけるサービスの内容を踏み間違えていると云わざるを得ない。

(2013.3.21.)

 

                                                              保医発0914第1号
                                                              平成24年9月14日

地方厚生(支)局医療課長 殿

                                                        厚生労働省保険局医療課長
                                                              ( 公 印 省 略 )

保険医療機関及び保険医療養担当規則及び保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の一部改正に伴う実施上の留意事項について

 

標記については、保険医療機関及び保険医療養担当規則及び保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の一部を改正する省令(平成24年厚生労働省令第26号)が公布され、平成24年10月1日より適用されるが、本改正の趣旨は下記のとおりであるので、その取扱いに遺漏のないよう貴管下の保険医療機関及び保険薬局に対し、周知徹底をお願いいたします。

                                      記

本改正は、保険薬局における調剤一部負担金に対するポイント付与が行われている事例が認められたことに鑑み、次の考え方を踏まえ、一部負担金等の受領に応じて専らポイントの付与及びその還元を目的とするポイントカードについては、ポイントの付与を認めないことを原則とするものです。
・保険調剤等においては、調剤料や薬価が中医協における議論を経て公定されており、これについて、ポイントのような付加価値を付与することは、医療保険制度上、ふさわしくない。
・患者が保険薬局等を選択するに当たっては、保険薬局等が懇切丁寧に保険調剤等を担当し、保険薬剤師等が調剤、薬学的管理及び服薬指導の質を高めることが本旨であり、適切な健康保険事業の運営の観点から、ポイントの提供等によるべきではない。

ただし、現金と同様の支払い機能を持つクレジットカードや、一定の汎用性のある電子マネーによる支払いに生じるポイントの付与は、これらのカードが患者の支払いの利便性向上が目的であることに鑑み、当面、やむを得ないものとして認めることとしますが、その取扱いについては、引き続き年度内を目途に検討することとしているので、ご留意願います。