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「贔屓の引き倒し」

火曜日, 4月 12th, 2011

      魍魎亭主人

直接聞いた訳ではない。mass mediaの記事に書かれていたものを読んだだけである。従って正確な記述がされているのか、衝撃的な一部を引き抜いて、料理をして見せたのかは知らない。

2011年3月6日富山県内で行われた「第5回ジェネリック医薬品安心使用促進セミナー」において、日本ジェネリック医薬品学会理事が「抗がん剤などの静脈注射用製剤の後発医薬品について、後発品企業が国のガイドラインで要求されていない生物学的同等性試験データ(血中薬物濃度の比較データ)を医療関係者に情報提供している状況が、根強く残っていると指摘。その上で、これらの情報提供を止めるべきだと改めて警鐘を鳴らした。」
また同学会は2010年6月後発品企業が「不要な試験データを提供することは、後発品を安価に提供することを妨げる要因になる」と懸念を示した。

これを受け日本ジェネリック製薬協会は、同学会に賛同する考えを表明し、会員会社に文書を配布。血中濃度比較データ等を提供するよう求められた場合、各社のMRらが文書を使って理解を求める取り組みを行っていた。

同理事は「不要な情報提供によって、医師、薬剤師が、情報提供は普通に行われるものだという感覚に陥り、情報提供のためのコストが費やされる。両者が努力して解消して貰いたい。後発品普及のためには、非科学的な取り組みは止めるべき」などと求めたという[日刊薬業,2011.03.08]。

医薬品を購入する場合、物質のみを購入したことは無い。必ず情報が伴うから医薬品なのである。これは先発品であろうが、後発品であろうが医薬品と称して販売する以上同じである。まして患者の病を治すために使用する薬剤であり、より品質のよい薬物を選ぼうとするのは、臨床現場で働く薬剤師としては、至極当然のことである。

血中濃度のdataは、単に血中濃度の問題だけではなく、薬物の体内動態を見る上で重要な資料である。特に抗がん剤などという副作用の多い薬物を購入する場合、dataの多いものを選ぶのは患者の安全を守る立場からすれば当然のことである。

物質+情報=医薬品の図式を考えた場合、情報を得る行為が非科学的な取り組みという物言いには納得する訳にはいかない。“国のガイドライン”で要求されていない生物学的同等性試験データというが、国のガイドラインは最低の基準だろう。それ以下では問題があって薬物としては認められないというものであって、その基準を超えたdataをそろえることが怪しからんということにはならないだろう。

生物学的同等性試験データ等のガイドラインに無い情報を要求することは、後発医薬品のコストを上げるといわんばかりの発言もあるが、薬価が決定して後で、どれだけdataを揃えたとしても、厚生労働省が薬価を引き上げるはずがない。つまり新たなdataを提出したからといって廉く提供する薬の値段が上がる訳では無く、企業の利益が若干下がる程度だろう。大体何人の人間の血中濃度データを集めようと思っているのか。

失礼だが薬を購入するという作業は、純粋な商取引である。薬を購入する際にdata量の多い薬を購入するというのは薬剤師として当然のことであり、日本ジェネリック医薬品学会が商取引に口を出すなどということがあってはならない。将に贔屓の引き倒しである。

       (2011.4.9.)