トップページ»

「データ改竄」

日曜日, 5月 2nd, 2010

魍魎亭主人

田辺三菱製薬の子会社が、新薬の試験データを改ざんした問題を調査していた厚生労働省は13日、薬事法に基づき田辺三菱を今月17日から25日間の一部業務停止とする行政処分を発表した。大手製薬会社の業務停止は異例。データを改ざんした子会社は、薬害エイズ事件などの血液製剤を作った旧ミドリ十字が設立しているが、同省によると、旧ミドリ十字出身者ら約20人が組織的に不正に係わっていたという。

「バイファ」(北海道千歳市)は、1996年旧ミドリ十字が設立した会社で、今回4月14日から30日間の業務停止処分を受けた。発表によると同社は、1999年から2008年に掛けて、世界初の遺伝子組換え技術による人血清アルブミン製剤「メドウェイ注」の試験データなどを改竄、不純物の濃度を実際より低く見せかけたり、アレルギーの陽性反応を陰性データに差し替えたり、16件の不正を行っていた。不正には全社員の約1/4に当たる計約20人が係わっており、このうち同製剤の開発の責任者である幹部3人は旧ミドリ十字出身者だったという。

血液製剤に関して、旧ミドリ十字は、多くの技術情報を持っていたはずである。その技術情報を生かしたいということで、会社と人を引き受けたのだろうが、医薬品を作る技術者に必要な最低限の倫理観-dataの改竄はしないという-の欠如した遺伝子は、修復されることなく、そのまま継続されてしまったようである。新聞報道によれば、約20名からの社員がこの問題に関わっていたという。何とも大らかな話で、これだけの人員が参加した内容の秘密が保たれる訳がない。つまり彼等の中には、今回の行為を秘密にしておかなければならないという、認識は全くなかったということではないか。つまりdataの改竄が悪だという認識は全くなかったということができるのではないか。

元々原料は酵母である。当然、酵母を原因とするアレルギーやアナフィラキシー様症状が発現する。実際、臨床試験段階で、本剤を原因とするアレルギー症状がどの程度出たのかは不明であるが、少しぐらい数値を下げても本体の効果とは関係ない位のことでおやりになったのであろうと勝手に想像させて戴いているが、想像力の欠如としかいいようがない。dataの改竄が表沙汰になった場合、どの様な騒ぎになるのか。更に会社の前歴を考えれば、悪く悪く取られることは明らかである。どんなにいい薬を作ろうとも、使用する人の安全を忘れてしまっては意味がない。

そんなに急ぐことはなかったのではないか。治療に必要な血液製剤の入手は簡単に行かない。原料である血液はヒト以外から手に入れることはできない。更に血液から感染する感染症も重要な問題であり、血液の代用品を完成させることは、医療機関のみならず製薬企業に取っても、垂涎の的ということであろう。今回の人血清アルブミン製剤は、製品の添付文書によれば、「ヒト肝細胞のmRNAに由来するヒト血清アルブミンcDNAの発現により組換え体で産生される585個のアミノ酸残基(C2936H4590N786O889S41:分子量66,438.21)からなるたんぱく質であるとされている(本剤はピキア酵母により産生される)」ということであり、従来の人血液から抽出されたアルブミンから見ればウイルス等による感染の機会は少ないと考えられることと、生体原料ではないため、補給面での心配をしなくても済むということでいえば、市販されることでの利益は大きい。

折角期待される医薬品も、貧弱な発想と姑息な手段によって疵付けられる。今回の事例はそのいい例で、挙げ句の果てに旧悪まで引きずり出され、その体質は変わっていないと世の識者にやり玉に挙げられる。だが、data改竄が表沙汰になれば、今回のような騒動に発展するであろうことは、ほんの僅かな想像力を働かせれば、読み切れたはずである。如何に専門馬鹿とはいえ、世間知が全くないというのは困る。世間の常識、人間としての常識を忘れてしまっては作る薬は毒になるだけである。

1)田辺三菱を業務停止「子会社組織ぐるみ」「バイファ」旧ミドリ十字が設立:読売新聞,第48184号,2010.4.14.

2)メドウェイ注25%添付文書,2009.10.

(2010.4.17.)