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『調剤ミスで家宅捜査』

木曜日, 12月 31st, 2009

医薬品情報21

古泉秀夫

抗血栓剤を数倍調剤か82歳死亡 足立区の薬局

東京都足立区の薬局で昨年8月、心臓病を患った男性患者(82)に対し、血液が固まるのを防ぐ「抗血栓剤」を処方する際、薬剤師等が誤って処方せんの数倍の分量を調剤していることが解った。薬を服用した男性は約1ヵ月後に死亡した。警視庁は29日、業務上過失致死容疑で薬局の調査を実施した。

 同庁幹部によると、男性は「抗血栓剤」を服用した後、口などから出血を繰り返すようになり、約1ヵ月後の昨年9月、心肺の機能不全で死亡した。容体の急変に不審に思った家族から届出を受け、同庁で調べたところ、薬局側のミスが判明したという。

 男性が高齢で心臓病以外にも複数の持病を抱えていたことなどから、同庁では、調剤ミスと死亡との因果関係を慎重に調べているという[読売新聞,第47836号,2009.4.30.]

 Internetによる情報では『東京・足立区の薬局が、誤って処方箋のおよそ4倍の量の薬を調剤した結果、患者が死亡した疑いがあるとして、警視庁は29日、この薬局の家宅捜索をおこないました。業務上過失致死の疑いで家宅捜索を受けたのは、足立区鹿浜の「東京医療第一薬局」です。去年8月、この薬局で調剤された血栓予防のための薬「ワーファリン」を心臓病の82歳の男性が指示通り服用したところ、翌月になって皮下出血などを発症し、大量の出血によるショックで死亡しました。「ワーファリン」は心臓病の患者などが過剰に服用すると大量出血を引き起こす危険性があるということです。警視庁は、薬局の薬剤師の女(35)らが処方せんに記載されていたおよそ4倍の量を調剤するなど、分量を間違えた疑いがあるとみて調べをすすめる方針』と具体的に薬品名を挙げ、調剤ミスの内容にも触れている。

 原則的にいえば、人が係わる以上調剤ミスは無くならない。膨大な労力を費やして危機管理マニュアルを作っていようが、マニュアルに則って厳重な鑑査を実行しようが、細かな作業の多い調剤業務で、調剤ミスを零にすることは不可能なのである。作業に従事する人間の緊張の持続は困難であり、精神が弛緩した時に、当人にその認識がないうちに事故は発生する。これを避けるためには短時間に作業を交代するということで、疲労の蓄積を避け、緊張を持続することのできる神経を回復することが必要になるが、そんな余裕のある人員配置ができるほど、医療機関で稼ぎを挙げることは困難である。

 従って、最悪の状況を避けるための種々の予防策を講ずるが、今回の場合でいえば、患者の協力がなければ、有効な治療効果が得られない薬であり、油断していると副作用としての出血が起こり得る。更には食品中のvitamin Kの影響を受けやすい等、諸々の注意が必要であり、服用中に歯ぐきからの出血、鼻血等が見られた場合、必ず主治医・調剤した薬局に連絡するよう、当人あるいは家族に十分な情報の提供を行い、治療に際しては、患者自身も自己の体調を十分観察することをお願いするというのが最終段階での予防策である。

 今回の場合、患者に対する説明は何処までされていたのか、その当たりが気になるところである。自分達の調剤ミスの防止策を棚に上げて、患者の安全を患者に押しつけるのかというお叱りを受けるかもしれないが、実害を被るのは何時も患者であり、他人任せにしておけば安全は確保できるというものでもない。治療に参加するという意味でも、自己防衛は必要だといえる。

 勿論、薬剤師の仕事は患者に正確に薬を渡すことである。過誤を起こさないように指呼確認や第三者による鑑査等の安全対策は講じている。しかし、だからといって100%の確立で過誤を防止することはできないという、生身の人間であるが故の宿命を背負っているということを申し上げているわけである。

(2009.5.5.)