トップページ»

「医師無承諾の処方薬変更について」

火曜日, 8月 4th, 2009

KW:法律・規則・処方せん・処方変更・医師承諾・医師法・医療法施行規則・疑義照会

Q:今回、医師が処方したインサイドパップ10cm×14cmのところ欠品だったため医師に疑義照会をせず、患者に成分効能が同じと説明し了解を得たのでイドメシンコーワパップを調剤した。この調剤について、違反だとして保健所の査察を受け、始末書の提出を求められたが、患者の同意を得た上で同一組成・同効薬を投薬しても違反となるのか。

A:医師の=処方せんの交付義務=を定めた医師法第21条では『医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当たっている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。』(以下省略)。

=処方せんの記載事項=を定めた医療法施行規則第21条では『医師は、患者に交付する処方せんに患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない』と規定されている。

医師法第21条を見るまでもなく、処方せんを書くという行為は医師の専権事項であり、医療法施行規則第21条では、処方せんに『薬名』を書くことを規定されている。

従って、医師が記載した処方せん上の医薬品名を、医師の了解無しに勝手に変更して調剤したとすれば、処方せんを改竄したととられても抗弁のしようはない。

今回の場合、在庫切れということであれば、

?処方せん持参患者の待ち時間の余裕はどの程度あるのか、又は配達可能範囲か

?卸に緊急の配送が依頼できないか

?近隣の調剤薬局からの借り入れはできないか

等々について検討することが先決である。

患者に時間的余裕がなく、遠方で配達する事は不可能。更に近隣の薬局からの借り入れ、卸の緊急配送が困難等の条件が重なったとき、初めて最終的な選択として医師に連絡し処方せんの変更を依頼するというのが取るべき手順である。

処方せんによる調剤について薬剤師法第23条に次の規定がされている。

第二十三条 薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない。

二 薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。

尚、第23条には罰則規定が定められている。

第三十条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 (省略)

二 第二十二条、第二十三条又は第二十五条の規定に違反した者

なお、今回の事例とは直接関係しないが、処方せんに関する疑義紹介について、次の規定が定められている。

処方せん中の疑義(薬剤師法)

第二十四条 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

本条項は、医師等の記載した処方内容を第三者である薬剤師が、薬学的な知識に基づき監査し、薬剤の最終使用者である患者の安全性を確保することを目的としたものである。

その意味では、薬剤師としての感性により処方箋上に疑義を見出した場合、必ず疑義照会をしなければならない。

なお、本条項に関連する罰則規定は、以下の通りである。

第三十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

一 (省略)

二 (省略)

三 (省略)

四 第十九条の規定違反(医師、歯科医師又は獣医師)

五 (省略)

六 第二十四条又は第二十六条から第二十八条までの規定に違反した者

また、「保険医療機関及び保健医療養担当規則(以下「療養担当規則」)」第二十三条において「保険医は、処方せんを交付する場合には、様式第2号又はこれに準ずる様式の処方せんに必要な事項を記載しなければならない。」、

「2.保険医は、その交付した処方せんに関し、保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、これに適切に対応しなければならない。」の記載がされている。

疑義照会時の具体的注意事項について、院内処方せんと院外処方せんでは、若干の違いがあるが、原則的には以下の通りである。

(1)処方せんに関する疑義照会は、殆どの場合、電話による照会となる。電話の場合、相手が現在何をしているのかが不明なまま会話が始まるため、最初に患者名及び処方せんに関する疑義照会であることを伝える。

(2)時に看護師等が疑義内容を取り次ぐことがあるが、第三者が間にはいることで質問の主旨が正確に医師に伝わらないことがあるため、可能な限り処方医に直接伝える。

(3)時間のロスを避けるため、質問内容はあらかじめメモ等にまとめ、明快に意図を伝達する。

(4)疑義照会の結果、処方内容の変更がされた場合、疑義事項が残るよう二本線で抹消し、訂正印を捺印。変更内容を処方せんあるいは備考欄に記載する。また、用法・用量、薬剤の単位等について疑義照会し、追加記載する場合には、追加記載が明確に判別できるよう追加記載部分に下線を引く等による区分をし、訂正印を捺印する。なお、その内容をレセプトにも記載する(院内処方:医事課に連絡する)。

(5)次回処方せん記載時の医師の情報源は「カルテ」である。カルテの転記ミスによる誤記でない限り、次回処方時、同様の誤記が起こることが考えられるので「カルテ」と異なる変更がされた場合には、「カルテ」の訂正を依頼する。

なお、厚生省保険局保健医療課長通知保険発第33号(平成6年3月29日)により疑義照会に関連し、次の事項を「備考」欄又は「処方」欄に記入することとされている。

ア.処方せんを交付した医師又は歯科医師の同意を得て処方せんに記載された薬品名を変更して調剤した場合には、その変更内容。

イ.医師又は歯科医師に疑義照会を行った場合は、その回答の内容。

上記「ア」は、疑義照会の事例に限定されたものではなく、「処方せんによる調剤」として薬剤師法上に規定されている内容に対する対応である。

1)基本医療六法 平成17年版;中央法規,2004

2)日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事日報社,1997

3)診療点数早見表;医学通信社,1998

4)日本薬剤師会:処方・調剤・保険請求のQ&A;調剤と情報,2(3):281(1996)

5)医療法制研究会・編:医療六法;中央法規,2008

6)実務衛生行政六法;新日本法規,2009

-参照-

その他、処方せんに記載される医薬品について厚生省医務・薬務両局長通知(昭和31.3.30.薬発第120号、各都道府県知事宛)として、次の文書が発出されている。

「処方せんの記載並びに調剤について」

新医薬制度の実施上留意を要すると認められる点については、すでに3月13日薬発第94号をもって通知したところであるが、更に左記の点についても関係者に周知徹底方何分の御配意を煩わしたい。

処方せんに記載する医薬品の名称は、公定書名、一般名又は商品名の何れを用いても差し支えないが、このうち商品名については、特に医師、歯科医師又は獣医師がその商品を指定する意思を表明する場合には、その商品名に(特)と附記する等の方法によって、その旨を明らかにするよう指導されたいこと。

薬剤師が調剤する場合、商品名で記載された医薬品については、原則としてその商品名のものを使用することを要し、(特)と附記する等の方法により特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品については、その商品名の医薬品を使用しなければならないこと。ただ、処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられるが、この場合でもでき得る限り処方せんを交付した医師等と連絡することとするよう指導されたいこと。

以上の通知について、その主旨を考えた場合、次の3項に区分できる。

?『商品名で記載された医薬品は原則として商品名のものを使用すること』

?『特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品はその商品名の医薬品を使用』

?『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられる』

?は『原則として』とされてはいるが、『商品名のものを使用』とされており、代替調剤を容認しているものとは考えられない。

?は『医師が商品名を指定』しており、代替調剤の対象外である。

?は『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品名の使用が特定されておらず、当該医薬品が局方品であれば、同一成分分量を有する他の医薬品の使用』としているが、『できえる限り医師に連絡』としており、あくまで医師の意志確認が求められている。つまり使用薬剤の範囲は狭く限定されており、米国でいう代替調剤には該当しない。

1)武藤正樹・他:座談会 後発医薬品を育てる-不安を信頼に変えるために;週刊医学界新聞,第2591号,2004.7.5.

2)http://www.ncc.go.jp/nk-cc/ingai-syohou/saiyoulist.html,2004.7.10.

[615.1.ACC:2005.9.30.・2009.4.20.訂正・古泉秀夫]