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「マムシグサの毒性」

金曜日, 7月 10th, 2009
対象物 マムシグサ(蝮草)。別名:カントウマムシグサ(関東蝮草)、ムラサキマムシグサ(紫蝮草)、ヘビノダイハチ、ヤマゴンニャク。英名:Mamusi-gusa又はJack in the pulpit(ジャックの聖壇)。

調査者

古泉秀夫

分類

63.099. MAM

記入日

2008.7.5.

成分

天南星の塊茎にはトリテルペノイドサポニン(triterpenoid-saponin)、安息香酸、澱粉、アミノ酸が含まれる。鬼蒟蒻にはサポニン(saponin)が含まれ、果実にはコニインに類似した物質が含まれる。その他、蓚酸カルシウム(calcium oxalate)を含有するの報告が見られる。

一般的性状

学名:Arisaema serratum Schott forma thunbergii Makino又はArisaema serratum (Thunb.) Schott。さといも科、テンナンショウ属。蝮蛇草の名称は偽茎面のまだら斑に基づく。本州関東から近畿地方の山地の木陰に生える多年草。球茎は径5cm位。子球は出ない。偽茎は普通紫褐色のまだら。葉は2枚左右に開出。鳥足状の複葉。小葉は7-15。花は晩春、雌雄異株。肉穂花序は仏炎包内の中央に直立。

天南星の同属植物として『鬼蒟蒻(キコンニャク[和名]マムシグサ)、Arisaema japonicum Bl.、別名:日本天南星』。複葉は2枚、小葉は9-15枚、鳥足状に配列している。小葉身は狭い長楕円形ないし広い披針形、縁はほぼ波形。

属名の「天南星」は中国名に由来する。4月頃カラスビシャクのお化けのような花を咲かせ、8月頃になると緑色の粒粒のついた瓶洗い用のブラシのようになる。10月頃には真っ赤に色づく。芋状の球茎は昔は救荒植物として食べられていたというが、そのままでは食べられない。切り口から出る汁液にサポニンを含み、肌に付くとかゆみやただれを起こす。また食べると嘔吐や腹痛を起こす。乾燥した塊茎は外皮を除いていないものは薬用に出来ない。

saponinとは、ステロイド、ステロイドアルカロイド(窒素原子を含むステロイド)、あるいはトリテルペン配糖体で、水に溶けて石鹸様の発泡作用を示す物質の総称である。多くの植物に含まれ、また一部の棘皮動物(ヒトデ、ナマコ)の体内にも含まれる。界面活性作用があるため細胞膜を破壊する性質があり、血液に入った場合には赤血球を破壊(溶血作用)する。水に溶かすと水生動物の鰓の表面を傷つけることから魚毒性を発揮するものもある。saponinはヒトの食物中でコレステロールの吸収を抑制するなど健康上有用な物質にも数えられるが、こうした生理活性を持つ物質の常で、作用の強いものにはしばしば経口毒性があり、蕁麻疹を起こすものも多い。特に毒性の強いものはサポトキシン(sapotoxin)と呼ばれる。

さといも科の植物は、全草に蓚酸カルシウムの針状結晶を含むものが多い。観葉植物では、カラジウム、ポトス(ハブカズラ)、フィロデンドロン、アロカシア(クワズイモ)、コロカシア等がある。野草ではマムシ草(てんなんしょう)、カラスビシャク、ミズバショウ、ザゼンソウ等がある。さといも科以外の大黄、ギシギシ、タデの類は蓚酸が針状結晶の常態ではなく。水溶性のナトリウム又はカリウム塩の形で、含まれているので、食品として大量に摂取し、蓚酸中毒を起こすことがある。

毒性

有毒部分:根(球形)、実。

蝮蛇草の根茎や葉には蓚酸カルシュウムが多量に含まれており、有毒で、食べると痺れたりするが、秋に球茎を採取して輪切りにして乾燥させると漢方薬の「天南星(てんなんしょう)」となり、去痰、鎮痛に効果がある。 又、昔は根をおろして洗濯糊として使用された。

天南星(品種は未鑑定)の根茎を生で食すと強烈な刺激作用がある。

マウスに鬼蒟蒻の水浸液を腹腔内注射した場合のLD50は13.5g/kgである。成人の蓚酸カルシウムのLD50は15-30g、最小致死量は5gである。

症状

肌に触れると皮膚炎、食べると嘔吐、腹痛。

生で根茎を経口摂取した場合、口腔粘膜が軽度に糜爛し、酷い場合には部分的に壊死して脱落する。喉が渇き、灼熱感があり、舌体が腫れ、唇に浮腫が出来、涎が大量に流出する。口唇がしびれ、味覚芽失われ、声がかすれ、口を開けることが困難になる。

蓚酸の毒作用は、局所刺激作用と低カルシウム血症並びに腎障害である。局所刺激作用のため食道や胃に糜爛を起こし、急性胃腸炎の症状を呈する。頭痛、蓚酸が血液中のイオン化カルシウムと結合するため低カルシウム血症となり、痙攣やテタニーを起こすことがある。腎臓に蓚酸カルシウムの結晶が沈着することによって腎障害を来す。

saponin:粘膜刺激作用があり、肌荒れ、皮膚炎の原因になる。

処置

皮膚に付いた場合:石鹸と水で十分に洗浄。粘着テープで結晶を除去することも可能の報告。

口腔の局所症状:十分量の水又は牛乳で口腔内をよく濯ぐ。痛みに対しては氷又は冷水による冷却、鎮痛薬投与を行う。副腎皮質ホルモン、抗ヒスタミン薬の効果は疑問であるの報告。

経口摂取した場合牛乳又は水を飲ませて吐かせる。牛乳はカルシウムを含んでいるので、蓚酸が蓚酸カルシウムになって不溶性になり、吸収が妨げられる。活性炭投与・下剤の投与。禁忌:炭酸水素ナトリウムによる胃洗浄(蓚酸ナトリウムとなり吸収促進)。硫酸ナトリウムによる排便促進(蓚酸ナトリウムとなり吸収促進)。使用可能緩下剤(硫酸マグネシウム)。

腎障害を来すことがあるので、BUNやクレアチニン等の腎機能検査、尿中蓚酸カルシウム結晶の有無の確認。結晶の排泄が見られた場合、尿量を保つため、電解質検査をしながら輸液と利尿薬の投与。テタニーに対してはグルコン酸カルシウムの静注。24-48時間は観察が必要である。

事例

3児童マムシグサの実を食べ食中毒 /長野

[6月20日14時1分配信 毎日新聞6月20日朝刊]

松本保健所は19日、東筑摩郡の8-10歳の小学生3人が学校から下校途中に道端に生えていたマムシグサの実を食べ、シュウ酸カルシウムによる食中毒を起こしたと発表した。県食品・生活衛生課によると、食道や口唇の炎症などの症状が出たが、全員が快方に向かっているという。マムシグサは山地の木陰に生える多年草で、茎は紫色。初夏に緑色の実を付け、秋には赤く色づく。その実を大量に摂取すると、下痢や嘔吐(おうと)などの症状が出るという。

マムシグサで小学生が食中毒/ 長野

[6月20日7時50分配信 産経新聞]

長野県は19日、山地の木陰などに生えるサトイモ科の野草「マムシグサ」の実を食べた8-10歳の小学校の男児3人が食中毒の症状を発症したと発表した。18日午後5時ごろ、松本保健所に東筑摩郡の医療機関から、「路肩に生えていた植物の実を食べた小学生が舌のしびれ、のどの痛みを訴えて受診している」との連絡があった。保健所が食べ残しを調べたところ、口の中の炎症や下痢などを引き起こす毒性のあるマムシグサと分かった。粒状の実をつけるが、食用ではない。3人は下校途中に一緒に食べたらしい。一時、入院したが、全員快方に向かっている。マムシグサの食中毒は統計のある昭和51年以降で県では初めて。県食品・生活衛生課は「よく知らない植物の実をむやみに食べないように」と呼びかけている。

備考

[炮製(修治)<天南星>根茎の夾雑物を取り除き、埃を綺麗に洗い、日干しにする。<製南星>綺麗にした天南星を冷水に浸して晒し、日に当てぬようにして1日2-3回水を取り替える。水に晒す日数は産地、質及び大きさによって適当に決める。白い泡が出てきたら南星100斤につき白礬2斤を加え、1カ月浸し、味わって口がしびれなくなるまで水を替え続け、取り出す。新鮮な姜片及び白礬粉と共に容器にくまなく何重にも敷き詰め、水を被るほど入れ、約3-4週間後に、鍋に入れて内部に白い芯が無くなるまで煮る。これを取り出し、姜片を除き、風通しのよい所で6分ほど乾燥させる。湿らせてから薄切りにし、日干しにする(天南星100斤につき新鮮な姜片25斤、白礬12.5-25斤を用いる)。

蝮草は“天南星”の名称で漢方薬として使用されるということであるが、中国の“天南星”は日本でいう蝮草とは類似の種類であるが同一ではないとされている。しかし、驚いたことにさといも科の植物が不溶性の蓚酸カルシウムを含有するため、摂食したヒトに毒性を発揮するというのは想像していなかった。特に外国の例で、幼児が室内の観葉植物を齧って、救急対応を求められているということであるが、我が国でも最近室内に植物の鉢植えを置くことが流行っているが、さといも科の植物は避けるように注意することが必要ではないか。特に幼児のいる家庭では、注意が必要である。

文献

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版II;北隆館,2000

2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003

3)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第三巻;小学館,1998

4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

5)海老原昭夫・他編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

6)日本中毒学会・編:急性中毒標準診療ガイド;じほう,2008