Archive for 10月 9th, 2008

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「モスピラン・トップジンMスプレーの安全性について」

木曜日, 10月 9th, 2008

KW:毒性・中毒・モスピラントップジンMスプレー・アセタミプリド・acetamiprid・チオファネートメチル・thiophanate-methyl・園芸用殺虫剤

Q:保育園の近接地に区の家庭菜園用地が準備されている。そこで使用される予定といわれているモスピラントップジンMスプレーの安全性について

A:モスピラントップジンMスプレー(フマキラー株式会社)の有効成分はアセタミプリド:0.0050%・チオファネートメチル:0.040%及び水、界面活性剤等:99.955%である。
本品は園芸用殺虫剤で、水溶性である。

*アセタミプリド(acetamiprid);CAS-160430-64-8。ネオニコチノイド系殺虫剤。劇毒区分=劇物(2%以下は指定無し)。魚毒性=A類(コイの半数致死濃度:10ppm以上・ミジンコの半数致死濃度:0.5ppm以上)。眼刺激性がある。企業が明らかにした毒性試験の概要では、催奇形性、発癌性は何れも認められなかったとしているが、試験データの詳細は不明。動物細胞を用いた試験で、染色体異常が認められている。

広範囲に100倍希釈液が地上散布された例で、化学物質過敏症患者や周辺住民から胸痛、不整脈、頭痛等の身体異常の訴えがあったため、散布を中止した例が報告されている

残留性:ADI*は0.066mg/kg体重/日。ポジティブリストで農作物:0.01-50ppm以下。

ADI:毎日一生食べ続けても健康に悪影響がない量。

*チオファネートメチル(thiophanate-methyl);CAS-23564-05-8。殺菌剤。劇毒区分=指定無し。魚類毒性=A類(コイの半数致死濃度:10ppm以上・ミジンコの半数致死濃度:0.5ppm以上)。サッカロマイセス菌で変異原性が認められる。企業の行った動物実験では催奇形性や生殖系への影響はないとされるが、本品中の不純物や代謝生成物(carbendazol)に由来する催奇形性、発癌性が懸念されるの報告が見られる。企業の明らかにした発癌性、催奇形性、変異原性試験の各結果に関する試験データの詳細は不明とされている。但しEPA(アメリカ環境保護庁)は人に対する発癌性の恐れがある農薬としてあげている。

残留性:ADI*は0.08mg/kg体重/日。ポジティブリストで農作物:0.1-10ppm以下。

ADI:毎日一生食べ続けても健康に悪影響がない量。

散布90日後の林檎の葉面上に散布量の11%のthiophanate-methylが残留していたとの報告がある。残留中に土壌中の水分で分解し、催奇形性、発癌性のあるカルベンダゾール(carbendazol)が生じていたことが確認されている

両者を配合した製品の性状は「類白色水和性懸濁液体」とされている。

また本品の使用上の注意として

*重複散布や多量散布は薬害を生じるおそれがあるので注意する。
*本剤の連続使用によって薬剤耐性菌が出現し効果の劣った事例があるので、過度の連用はさけ、なるべく作用性の異なる他の薬剤と組み合わせて輪番で使用する。
等の報告があり、安全に使用する上での注意として、次の記載が見られる。

*人に向かって噴射しない。
*使用の際は、農薬用マスク、手袋、長ズボン、長袖の作業衣などを着用する。作業後は直ちに手足、顔等を石けんでよく洗い、うがいをする。
*かぶれやすい体質の人は取扱いに十分注意する。

等の注意が記載されているが、本品の配合成分に由来する過敏症の発生、更には長期に残留するとの報告がされているため、市街地の家庭菜園で使用は避けるべきではないかと判断する。

なお、農水省局長名による『住宅地等における農薬の使用について』なる通知文書が発出(2003.9.16.消費安全局局長通知)されている。

具体的注意事項

*定期的に農薬を散布することはやめる。
*病害虫等の被害が発生した場合、被害を受けた部分の剪定や捕殺等により、病害虫防除を行うよう最大限努める。
*日頃から病害虫防除の早期発見に努める。
*やむを得ず農薬を使用するときは、以下のことを守る。

(1)農薬の削減等

*先ず、誘殺、塗布、樹幹注入等、散布以外の方法を検討する。
*やむを得ず農薬を散布する場合でも、最小限の区域における散布に止める。

(2)非食用農作物であっても守るべきこと(省略)

(3)農薬散布の時間帯

*農薬散布は無風又は風が弱いときに行うなど、近隣に影響が少ない天候の日や時間帯を選ぶ
*風向き、ノズルの向き等に注意する。

1)植村振作・他:農薬毒性の事典 第3版;三省堂,2006
2)フマキラー株式会社製品資料,2008

[63.099.SOR:2008.4.11.古泉秀夫]

「ベニカDスプレーの安全性について」

木曜日, 10月 9th, 2008

KW:毒性・中毒・ベニカDスプレー・エトフェンプロックス・etofenprox・クロチアニジン

Q:保育園の近接地に区の家庭菜園用地が準備されている。そこで使用される予定といわれているベニカDスプレーの安全性について

A:ベニカDスプレー(住友化学)の有効成分はエトフェンプロックス 0.05%・クロチアニジン 0.008%で、人畜毒性については『普通物』とされている。

本品の製品安全性データシートによると次の通り報告されている。

農薬の種類:エトフェンプロック・クロチアニジン液剤。

成分・含有量:エトフェンプロックス 0.050%・クロチアニジン 0.0080%。界面活性剤・水:99.942%。

最重要危険有害性:通常の使用方法ではその該当がない。
有害性:通常の使用方法ではその該当はない。
環境影響:水産動物に対して影響がある。
物理的・化学的危険性:通常の使用ではその該当がない。
形状:無色、澄明水溶性液体。無色、比重:0.994。pH:6.92。引火点:無。
安定性:通常の条件下では安定。
反応性:通常の条件下では安定。
可燃性:通常の条件下では安定。
回避条件:熱、火花等が発生するなど引火し易い条件。
危険有害な分解生成物:通常の使用方法では生成しない。

急性毒性:LD50 >2000mg/kg(雄、雌)(ラット経口)
     LD50 >2000mg/kg(雄、雌)(ラット経皮)

局所効果:動物実験(ウサギ)で、眼及び皮膚に対して刺激性無し。
感作性:動物実験(モルモット)で、皮膚感作性無し。

環境影響情報
魚毒性:マ ゴ イ LC50(96時間) 919mg/L
     オオミジンコ EC50(48時環) 6.4mg/L
     藻     類 EbC50(0-72時間)>1000mg/L

*etofenprox、CAS No.80844-07-1。化学構造が炭素、水素、酸素だけからなる新しいタイプの殺虫剤。従来のピレスロイド系殺虫剤(化学構造的には全てエステル結合を有する。)と異なりエーテル結合を有したもので、ピレスロイドの作用機作を有しながら魚毒性はB類である。

白色結晶性粉末。融点:36.4-38.0℃、溶解性はアセトン、クロロホルム、n-ヘキサン、ケロシン、ベンゼン等に易溶。水溶解度は1ppb以下(25℃)。水、酸、アルカリに安定。

許容濃度:etofenprox 3mg/m3 。人畜毒性は普通物。魚毒性=B類。急性経口毒性LD50:>40,000mg(ラット)、>100,000mg/k(マウス)。RTECS=急性経口毒性LD50>42,800mg/kg(ラット)。

劇毒区分=指定無し。etofenproxの多量投与により甲状腺癌の発生増加が認められたとの報告があるが、企業が明らかにした毒性の概要では、変異原性、催奇形性、発癌性は認められなかったとしている。試験データの詳細は不明。
残留性:ADIは0.03mg/kg/日。ポジティブリストで農作物(0.1-10ppm以下)に残留基準がある。食品中の残留農薬では白菜とレタスに0.01ppmが検出された例がある。

*clothianidine、CAS No=210880-92-5。チアゾール環を有するネオニコチノイド系殺虫剤である。分子式:C6H8CIN5O2S=249.68。本品の中毒症状としては、経口投与で自発運動の低下、眼瞼閉鎖及び振戦などが見られたが、経皮投与では全く異常は認められなかった。鼻部曝露による吸入毒性試験では、運動失調及び半閉眼などが認められた等の報告がされている。またclothianidine原体は、ウサギの眼粘膜に対して軽度の刺激性があるとされている。劇毒区分=指定無し(普通物)。魚毒性:極めて弱い。

この殺虫剤の作用機作は、他のネオニコチノイド系殺虫剤と同様に、昆虫の神経細胞の接合部において、ニコチン作動性アセチルコリン受容体に結合し、神経の異常興奮を引き起こし、虫を死に至らしめる。clothianidineの特長は、ネオニコチノイド系の中では蒸気圧が比較的低いので、シックハウス症候群などのリスクが低い。そのため、家屋などでのシロアリ駆除剤としてマイクロカプセル剤が市販されている。clothianidineの蒸気圧は、同じネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリドに比較して約1500分の1といわれる。

本品の使用に際し、

*風向きなどを考え、周辺の人家、自動車、壁、洗濯物、玩具、ペットなどに散布液がかからないよう注意する。
*作業中や散布当日は、散布区域に小児やペットが立ち入らないよう注意する。

等の注意書きの記載がされている。

1)農薬の手引き2008;化学工業日報社,2008
2)ベニカDスプレー製品安全データシート,2007.6.29.改訂日
3)植村振作・他:農薬毒性の事典 第3版;三省堂,2006
4)住友化学園芸製品資料,2008
5)14303の化学商品;化学工業日報社,2003

[63.099.SOR:2008.4.11.古泉秀夫]