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「甘草の1日最大許容量について」

月曜日, 7月 14th, 2008

KW:薬物療法・甘草・glycyrrhiza・甘草末・甘草エキス・グリチルリチン酸・1日最大許容量・副作用

 

Q:漢方薬の併用療法がされる場合、配合される甘草の1日最大許容量はどの程度か

A:[局]甘草(glycyrrhiza)は、Glycyrrhiza  uralensis Fisher 又はGlycyrrhiza glabra Linné(Leguminosae)の根及びストロン(葡萄茎:地表面に沿って伸張する茎)で、時には周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)である。本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、グリチルリチン酸2.5%以上を含む。
[本質]生薬、鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、去痰薬。
[原植物]我が国ではGlycyrrhiza  uralensisを起源とするものを東北甘草と称している。また西北甘草の一部もこれを起源とする。
甘草製剤の1日最大投与量については、次の報告が見られる。

品名 1日量

甘草
[グリチルリチン酸2.5%以上]

5g/水約600mLで煎じ分3服用
甘草末 最大量1.5g

甘草エキス
[グリチルリチン酸4.5%以上]

配合剤として1日最大量0.6g。
通常1.5-6.0g 分3<医療用>

副作用

水製エキス20-45g/日等多量の服用で浮腫、高血圧。総量4gの服用で高血圧、心筋障害、水血症、36gのキャンデー2-3個/日・6-7年問摂取で高血圧、低カリウム血症、血漿レニン活性減少、偽性アルドステロン症、四肢弛緩麻痺。100-200g/日・1-4週間服用で低カリウム血症、血漿レニン活性、尿中アルドステロン排泄減少、浮腫、頭痛、嗜眠状態等の副作用に関する報告。

 

なお、甘草製剤の投与量については、『長期大量使用により、偽アルドステロン症が発現した症例』の発現に伴って、旧厚生省より各都道府県知事宛、薬務局長発出の以下の指示があるため、この指示を参照されたい。

                                                                    薬発第158号
                                                              昭和53年2月13日

各都道府県知事 殿

                                                                  厚生省薬務局長

 

              グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて

 

最近、グリチルリチン酸等を含有する医薬品の長期大量使用により、偽アルドステロン症が発現した症例が報告されている。
これらの情報について、中央薬事審議会の副作用調査会において検討した結果、グリチルリチン酸、その塩類、甘草又はそのエキス剤(以下「グリチルリチン酸等」という。)を含有する医薬品については、今後、下記のとおり取り扱うこととしたので、御了知のうえ、貴管下関係業者に対し周知徹底方よろしく御配慮願いたい。
なお、下記1に該当する医薬品については、速やかに当該製造(輸入販売)業者から使用上の注意事項の追加記載措置に関する報告を徴し、その措置状況の把握確認を行うこととされたい。
おって本件副作用情報の概要は、別添2のとおりであるので、参考とされたい。

      記

 

1.今後製造(輸入)するグリチルリチン酸等を含有する医薬品(経口剤、注射剤)については、別添1の使用上の注意事項を追加記載した文書を添付して販売させること。なお、1日最大配合量がグリチルリチン酸として40mg未満、甘草として1g(エキス剤については原生薬に換算して1g未満)の場合には記載する必要はない。

2.今後製造(輸入)承認を与える一般医薬品(経口剤)については、グリチルリチン酸等の1日最大量を次のとおりとしたこと。ただし、漢方生薬製剤であって、甘草湯、芍薬甘草湯等のように使用期間のごく短いものについてはこの限りでない。

成分名 1日最大配合量
グリチルリチン酸 200mg
グリチルリチン酸の塩類 グリチルリチン酸として200mg
甘草 5g
甘草のエキス類 原生薬に換算して5g

注)上記成分を2種以上配合する場合には、当該成分ごとに配合する分量をそれぞれの1日最大量で除して得た数値の和が1を越えないこと。

 

3.既に製造(輸入)承認及び許可を受けているグリチルリチン酸等を含有する一般用医薬品のうち、グリチルリチン酸等の配合が上記2の基準に適合しない品目については、遅くとも1年以内に、処方若しくは用法用量の変更を行わせるか又は当該品目の承認整理届及び製造(輸入)品目の廃止届を提出させること。

(別添1)

              グリチルリチン酸等を含有する医薬品の使用上の注意事項

 

1.1日最大配合量がグリチルリチン酸として100mg以上又は甘草として2.5g以上(エキス剤については原生薬に換算して2.5g以上)の医療用医薬品の使用上の注意に追加記載する事項

(1)次の患者には投与しないこと

    1)アルドステロン症の患者
    2)ミオパチーのある患者
    3)低カリウム血症のある患者

(2)副作用

    1)電解質代謝:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定など)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止すること。
    2)神経・筋肉:低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣れん・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止すること。
    3)相互作用:フロセミド、エタクリン酸又はチアジド系利尿剤との併用により血清カリウム値の低下があらわれやすくなるので、注意すること。

2.1日最大配合量がグリチルリチン酸として40mg以上100mg未満又は甘草として1g以上2.5g未満(エキス剤については原生薬に換算して1g以上2.5g未満)の医療用医薬品の使用上の注意に追加記載する事項

副作用

電解質代謝:長期連用により低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止すること。
また、低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれるおそれがある。

3.1日最大配合量がグリチルリチン酸として40mg以上又は甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)の一般用医薬品の使用上の注意に追加記載する事項

(1)次の人は服用前に医師、薬剤師に相談すること。

    1)血圧の高い人又は高齢者
    2)心臓又は腎臓に障害のある人
    3)むくみのある人
    4)医師の治療を受けている人

(2)服用中又は服用後は次のことに注意すること。

    1)本剤を服用することにより、尿量が減少する、顔や手足がむくむ、まぶたが重くなる、手がこわばる、血圧が高くなる、頭痛等の症状があらわれた場合には服用を中止し、医師、薬剤師に相談すること。
    2)数日間服用しても症状の改善が見られない場合は服用を中止し、医師、薬剤師に相談すること。
        (漢方生薬製剤以外の製剤に追加記載すること。)
    3)長期連用しないこと。
        (漢方生薬製剤以外の製剤に追加記載すること。)
    3)’短期間の服用にとどめ、連用は避けること。
          (短期服用に限られる漢方生薬製剤に記載すること。)
    3)’’長期連用する場合には、医師、薬剤師に相談すること。
         ( 3)’以外の漢方生薬製剤に追加記載すること。)

(別添2)

                               副作用情報の概要

 

グリチルリチン酸、その塩類、甘草又はそのエキス剤は抗アレルギー剤、肝疾患用剤、 胃腸薬、鎮咳去痰薬等に配合されており、甘草は漢方生薬の1成分としても広く用いられている。また、これらの成分は、矯味剤としても用いられており、この場合は比較的少量が添加されている。
グリチルリチン酸、甘草等は、大量を使用するとナトリウム貯留、カリウム排泄促進が起こり、浮腫、高血圧、四肢麻痺、低カリウム血症等の症状があらわれ、これらは偽アルドステロン症1)として報告されている。
最近、我が国でグリチルリチン酸の長期(1カ月以上)使用による偽アルドステロン症の発現が報告されている2-7)。これらの症例では大部分が1日500mg以上の投与を受けているが、この半量程度で発現したとしている例もある6)。
甘草についても、1日5-10g(煎剤)を1年以上使用した例で偽アルドステロン症8)が、また、芍薬甘草湯及びその類方(1日量中に甘草9gを含む煎剤)で一時的な浮腫、シビレの発現が報告されている9)。
これらのグリチルリチン酸等によると思われる偽アルドステロン症の症例は、いずれもグリチルリチン酸等の投与中止後緩解しているが、グリチルリチン酸等を含有する医薬品の使用に当たっては、これらの副作用症状に注意する必要がある。

 

(参考文献)

1)Conn,J.,Rovner.,D.R.and Cohen,E.L.:Licoric-induced pseudoaldosteronism,JAMA,205:492-496,1968
2)小西孝之助:グリチルリチン酸による偽アルドステロン症の1例、第265回内科学会関東地方会、1976.日本内科学会雑誌,66(5):576,1977
3)花崎信夫ら:グリチルリチン大量投与による偽アルドステロン症について;日本臨床,34(2):390-394,1976
4)金敬洙ら:Glycyrrhizin投与による偽アルドステロン症の1例-レニン・アルドステロン系の変動を中心に;内科36(5):880-884,1977 5)竹越忠美ら:グリチルリチン大量投与によるPseudoaldosteronismの1例;第91回内科学会北陸地方会、1976.日本内科学会雑誌,66(5):581,1977
6)小西孝之助:グリチルリチンによる偽性アルドステロン症の研究;慶応医学,54(5):491-502,1977
7)宅間永至ら:著名な低カリウム性ミオパチーを認めたGlycyrrhizin製剤による偽性アルドステロン症の1例;第61回日本神経学会、関東地方会,1997
8)杉田 実ら:甘草によるPseudoaldosteronismの1例;日本内科学会雑誌,,63(11):1312-1317,1974
9)矢数道明:芍薬甘草湯及びその類方の臨床的研究;日本東洋医学会誌,15(1):6-10,1964

 

1)第一四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001

 

[035.1.GLY:2004.6.22.古泉秀夫・2008.7.14.改訂]