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「ヤマオダマキの毒性」□□□□□□□□□□□□□□□□

水曜日, 8月 23rd, 2017

対象物□□□□□□□□□□□□□□□□

ヤマオダマキ(A.buergeriana)・山苧環・オダマキ・苧環。ミヤマオダマキ[弥山苧環(A.flabellate var.)]、セイヨウオダマキ(西洋苧環)。
image学名:Aquilegia buergeriana Sieb.et Zucc.
分類:きんぽうげ科オダマキ属。
苧環とは、昔、カラムシ(苧)やアサ(麻)などの繊維を巻いた管のことで、距が伸びた花のようすが似ているためつけられたものである。

成 分□□□□□□□□□□□□□□□□

*プロトアネモニン(protoanemonin): protoanemoninはモノテルペノイドの一種であり、刺激臭を有する油状物質である。
分子式: C5 H4 O2 =96.085。CAS登録番号: 508-44-1。
*多くのキンポウゲ科の植物に配糖体、ラヌンクリン(ranunculin)として存在する。これらの植物は、葉や茎が傷ついたり折れたりする細胞組織の破壊に伴い、加水分解により二次的にprotoanemoninを生成する。
*オダマキの毒成分であるプロトアネモニンの症状としては、オキナグサに似る。生け花として活けられることもあり、切り口から出る乳液は、皮膚につくとかぶれることがあるので注意する。

一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□

*ヤマオダマキは山地に生imageえるオダマキのことを云う。苧環は日本に野生するミヤマオダマキ(A.flabellate var.)を園芸化したものではないかと推定されている。弥山苧環は北海道-本州中部以北に分布する多年草で、日当たりのよい高山帯に生え、草丈20cm前後6-8月に開花する。山地に生えるヤマオダマキ(A.buergeriana)は花が紫褐色又は淡黄色で、草丈40cm前後である。根生葉は2回3出複葉。小葉2-3深裂。更に歯牙2-3、裏面は粉白色。花は5-6月。萼片5、長さ17mm位、平開。花弁5は萼片と互生。上部の基部は痩せた距で先端は小球状。雄蕊多数、膜質の鱗片がある。雌蕊5。
*苧環は古くから栽培されている無毛の多年草で、根は太く、垂直に伸びる。根出葉は数枚。葉の上・下面に軟毛がある。苧環の含有成分であるprotoanemoninは、不安定で、加熱などにより直ちに二分子重合してアネモニン(anemonin)(無色板状晶、融点157-158)になる。anemoninには揮発性や刺激性はない。皮膚炎は起こさない。乾燥するとprotoanemoninは更に分解され、刺激作用は軽減するこのため、乾燥したキンポウゲ科の植物では刺激性は見られない。

毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□

有毒部位:全草。
毒性成分:発疹の症状はprotoanemoninによる。
*きんぽうげ科の植物の中にはラナクリンと云う配糖体が含まれている。ラナクリンは酵素で加水分解されて、protoanemoninになって毒作用を表す。ラナクリンやprotoanemonin
の含有量は一定せず、一般的には開花期に多いとする報告がされている。
*protoanemoninは植物細胞の分裂を阻害し、殺菌作用もある。

症 状□□□□□□□□□□□□□□□□

*protoanemoninは刺激性が強く、皮膚や粘膜に付着すると、表皮下や粘膜に水疱を形成して色素沈着を起こすことがある。食べると焼けるような痛みを感じるので、大量に食べることは少なく、全身中毒は稀であるとする報告が見られる。腹痛、下痢、口腔の潰瘍、嘔吐、流涎、胃腸炎の症状が見られる。吐物には血が混じる。眼に入ると流涙が見られ、粘膜炎症状を呈する。血尿、多尿、排尿痛、腎障害が見られることがある。
*皮膚炎、胃腸障害、心臓障害。
*オダマキの汁液が皮
image膚に付くと、個人差があるが、発疹が生じる場合がある。
*protoanemoninは皮膚や粘膜に対し刺激性が強く、引赤、発疱性を有する。また、食べた場合、胃腸炎を起こす。protoanemoninのビニリデン基は活性が高く、皮膚や粘膜のスルフィド基と結合するため強い刺激性を示すと考えられている。

処 置□□□□□□□□□□□□□□□□

*眼に入ったり、皮膚に付いた場合は、直ちに大量の流水で洗う。誤食した場合は、よくうがいをして口腔内を洗う。飲み込んだ場合には、牛乳又は水250Ml位呑ませる。水や電解質の異常を来さないよう輸液を行う。

事 例□□□□□□□□□□□□□□□□

*具体的な誤食例は捕捉不能。

備 考□□□□□□□□□□□□□□□□

*15世紀の文献には、オダマキの花の色で色を付けたゼリー等が楽しまれたとある。中世絵画や宗教画で登場することが多いとする報告もある。また黒死病の治療に使用され、14世紀に大流行した時は、オダマキはペストの特効薬として使用された。今でも広い地域で黄疸、肝臓病、慢性皮膚炎等に処方され、時に不安や興奮による動揺を抑えるための鎮静剤として用いられることもあるとする報告が見られる。18世紀の中頃には既に薬草としての人気は無くなり、人々はオダマキの毒性の強さを忌避したものと思われるとする報告も見られる。
[写真は横須賀しょうぶ園にて撮影2017.6.]

文 献□□□□□□□□□□□□□□□□

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 II;北隆館,2000
2)佐竹元・監:フィールドベスト図鑑v.16<日本の有毒植物;学研マーケティング,2012
3)プロトアネモニン:
http://san-yu.org/chem/component/terpenoid/protoanemonin.html,2017
4)海老沼昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001
6)森 昭彦:身近にある毒植物たち-"知らなかった"ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み-;サイエンス・アイ新書,2016


調査者:古泉秀夫 分類:63.099 記入日:2017.5.30