Archive for 3月 21st, 2017

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「あせびの毒性」 □□□□□□□□□□□□□□□□

火曜日, 3月 21st, 2017

 

対象物□□□□□□□□□□□□□□□□

和名:馬酔木、アセビ。
学名:Pieris japonica。
別名:ハモロ(奈良県十津川村)、アケボノアセビ(園芸種)。ウマゴロシ、ウシゴロシ、ウマクワズ。

成 分□□□□□□□□□□□□□□□□

アセボトキシン(asebotoxin、グラヤノトキシンI)、グラヤトキシンIII、ピエリストキシン

一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□

分布:東北地方image以南の本州、九州の温暖地帯の産地に自生するツツジ科の常緑低木。
image分類:ツツジ科アセビ属。
山野に自生する。高さ1.5-4m。葉は長さ4-7cm、幅1-2cmで、光沢がある倒広披針形で小さな鋸歯があり、枝先に集まって互生する。4-5月に枝の先端に下垂する複総状花序に、5-6mmの多数の白い壷状の花がつく。花冠は卵形で、先端は浅く5裂する。果実は5-6mmで、上向きに付く。
通常、茎葉を用いる。生垣などの庭園樹としてもよく植えられる。春に白い鈴のような花が並んで下垂する。アセビは日本特産であるため、馬酔木というのは和製漢名である。
花期:3-4月。花色は基本的に白。赤花は園芸品種。

毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□

有毒部位:全草。花密:有毒
馬酔木の名は、緑草の乏しい早春や飢餓時に馬、牛、羊が摂食して流涎、嘔吐、痙攣、呼吸及び全身麻痺した様子に由来する。ツツジ科特有の有毒成分グラヤノトキシン類を含み、食後数時間で発症する。
馬や牛が誤ってこの葉を食べると麻痺することからアセビ(アシシビレ)とか馬酔木の名前がある。しかし、実際には馬や牛はこの葉を食べることはせず、奈良公園では、鹿が食べないため、馬酔木の木が多く繁殖しているとされる。
葉には有毒成分のアセボトキシン(グラヤノトキシンI)、グラヤトキシンIII、ピエリストキシン等が含まれる。
馬酔木の毒成分はgrayanotoxin I、II、III等の有毒ジテルペンである。これらの有毒ジテルペンはレンゲツツジや石楠花などにも含まれている。

症 状□□□□□□□□□□□□□□□□

imageimage摂食後数時間で発症する。
症状:中毒すると悪心、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、四肢麻痺、呼吸麻痺などを起こす。視覚障害、運動機能障害、痙攣等。
中毒が軽度の場合、流涎、吐き気、嘔吐、下痢、眩暈、興奮状態が生じる。重度になると痙攣、視覚障害、運動機能障害等の甚大な神経傷害を発症する。
grayanotoxin類はトリカブトに含まれるaconitineと似た薬理作用をもち、中毒症状も似ている。症状は口唇の痺れ、四肢の痺れ、眩暈、脱力感、発汗、吐き気、嘔吐、口渇、低血圧等で、摂取後1-2時間後に現れる。心電図上期外収縮、心室性頻脈、伝導障害、徐脈が見られる。心拍出量が減少し、脳血流量が低下するため、意識消失、失神、更にそれに起因する痙攣が見られることがある。口唇の痺れ感が初期に見られるのもトリカブト中毒に似ている。

処 置□□□□□□□□□□□□□□□□

直後であれば、催吐・胃洗浄を行い、活性炭と下剤の投与を行う。呼吸・循環管理を十分に行うことが大切である。心電図モニターが必要で、不整脈、特に心室性期外収縮、心室頻拍に対する処置としてリドカインの投与を行う。徐脈や房室ブロックに硫酸アトロピンの投与を行う。血圧低下に対しては、ドパミン等の投与を考慮するが、ドパミンは不整脈を誘発させるとの報告もあるので、慎重に行う。呼吸障害に対しては、酸素吸入、人工呼吸が必要である。重症例ではステロイドの大量投与を行う。
激しい嘔吐、下痢が生じるので、点滴や電解質の補正が必要である。血清カリウムが高い場合は、ケイキサレートの経口投与、又はブドウ糖とインスリンの静注を行う。

事 例□□□□□□□□□□□□□□□□

ヒトでは馬酔木の葉3枚、花3個までなら重篤な中毒症状は出ないとされている。米国やトルコでは蜂蜜による中毒が、grayanotoxin中毒としては一番多いとされている。トルコで購入した蜂蜜75Mlを摂食した米国の女性が、間もなく吐いて、意識を失い、痙攣を起こした。血圧60mmHg、脈拍52/分だった(Gossinger 1983)。
grayanotoxinの作用はaconitineやバトラコトキシンに類似している。Naチャネルの第2結合部位に結合し、Naチャネルを開いて持続的に脱分極を起こす。この作用が心筋、骨格筋、中枢神経、末梢神経に症状となって現れる。grayanotoxinは神経終末で持続的な脱分極を起こすため、Ca2+が神経終末に流入し、伝達物質の過剰放出や枯渇をもたらすことが知られている。

備 考□□□□□□□□□□□□□□□□

古くから葉の粉末や煎液は農用殺虫剤として馬や牛の皮膚寄生虫の駆除、農作物の害虫防除、便槽のウジ駆除等に用いられる。
「馬が食べると酔ったようにふらつくから」と云われているが、見たことのある人はいない。

文 献□□□□□□□□□□□□□□□□

1)鈴木 洋:漢方のくすりの事典第2版-生ぐすり・ハーブ・民間薬-;医歯薬出版株式会社,2011
2)森 昭彦:身近にある毒植物たち:サイエンス・アイ新書,2016
3)佐竹元吉・監修:フィールドベスト図鑑16.日本の有毒植物;学研教育出版,2012
4)海老沼昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
6)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001
7)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000

調査者:古泉秀夫       記入日:2013.3.21.