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「プロポフォール小児への投与に関する注意」

日曜日, 11月 30th, 2014

KW:副作用・プロポフォール・propofol・集中治療室・ICU・プロポフォール注入症候群・propofol infusion syndrome・PRIS

Q:プロポフォールを小児に投与し事故が発生したという報道があるが、本剤の小児への投与に関する注意について

A:報道された内容の概略は次の通りである。

『東京女子医大病院(東京都新宿区)で2月、手術後に人工呼吸器をつけて経過観察中だった男児(2)が死亡した事故で、男児が成人への基準値の2倍を超える鎮静剤を投与された疑いが強いことが15日、関係者への取材で分かった。警視庁捜査一課は1回ごとの投与量や日時などを示した病院の資料を押収。この鎮静剤は集中治療室(ICU)で人工呼吸中の子供への投与が禁じられており、病院側が危険性を認識しながら過剰に投与したとみて、担当医らから業務上過失致死容疑で事情を聴いている。

男児は2月18日にあごのリンパ管腫の手術を受け、ICUに移されたが、同21日に高熱を出すなど容体を急変させ、午後8時ごろに死亡が確認された。病院側は手術の麻酔薬として鎮静剤「プロポフォール」を使用。ICUで男児は人工呼吸器をつけていたが、鎮静状態を継続するため、死亡するまでの4日間で計10回以上、追加投与していた。最後の投与は心停止する数時間前の21日午前9時ごろだった。投与量は添付文書で示された成人向けの量を大幅に超え、病理解剖などの結果、男児がプロポフォール注入症候群と呼ばれる合併症を発症していた疑いが強いことも分かった。

1%-ディプリバン注(アストラゼネカ)
propofol(JAN)………10mg/1mL
添加物(1mL中)ダイズ油100mg・濃グリセリン22.5mg・精製卵黄レシチン12mg・エデト酸ナトリウム水和物0.055mg・pH調整剤(適量)。
性状:白色の乳濁液で、特異なにおいがある。pH:7.0~8.5。
禁忌:(次の患者には投与しないこと)
1.本剤又は本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者。2.妊産婦(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)。3.小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)(「小児等への投与」の項参照)。
効能・効果:全身麻酔の導入及び維持。集中治療における人工呼吸中の鎮静。
用法・用量:1.全身麻酔の導入及び維持[(1)導入:通常、成人には本剤を0.05mL/kg/10秒(プロポフォールとして0.5mg/kg/10秒)の速度で、患者の全身状態を観察しながら、就眠が得られるまで静脈内に投与する。なお、ASAIII及びIVの患者には、より緩徐に投与する。通常、成人には本剤0.20~0.25mL/kg(プロポフォールとして2.0~2.5mg/kg)で就眠が得られる。高齢者においては、より少量で就眠が得られる場合がある。就眠後は必要に応じて適宜追加投与する。(2)維持:通常、酸素もしくは酸素・亜酸化窒素混合ガスと併用し、本剤を静脈内に投与する。適切な麻酔深度が得られるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を調節する。通常、成人には、本剤0.4~1.0mL/kg/時(プロポフォールとして4~10mg/kg/時)の投与速度で適切な麻酔深度が得られる。
また、鎮痛剤(麻薬性鎮痛剤、局所麻酔剤等)を併用すること。なお、局所麻酔剤併用時には通常より低用量で適切な麻酔深度が得られる。]
2. 集中治療における人工呼吸中の鎮静 成人(高齢者を含む)には本剤を0.03mL/kg/時(プロポフォールとして0.3mg/kg/時)の投与速度で、持続注入にて静脈内に投与を開始し、適切な鎮静深度が得られるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を調節する。通常、成人には本剤0.03~0.30mL/kg/時(プロポフォールとして0.3~3.0mg/kg/時)の投与速度で適切な鎮静深度が得られる。なお、疾患の種類、症状の程度を考慮し、必要とする鎮静深度に応じて投与速度を増減すること。また、必要に応じて鎮痛剤を併用すること。

用法・用量に関連する使用上の注意
[全身麻酔の導入及び維持の場合]:維持における使用例導入後の時間:投与速度
0-10分:1.0mL/kg/時(プロポフォールとして10mg/kg/時)
10-20分:0.8mL/kg/時(プロポフォールとして8mg/kg/時)
20-30分:0.6mL/kg/時(プロポフォールとして6mg/kg/時)
30分~ : 全身状態をみながら調節する。

[集中治療における人工呼吸中の鎮静の場合]:1.本剤は、持続注入により投与すること。急速投与を行わないこと。2.本剤は、通常、7日を超えて投与しないこと。ただし、鎮静効果が認められ、7日を超えて本剤投与による鎮静が必要な場合には、患者の全身状態を引き続き慎重に観察すること。
使用例時間:投与速度:0~5分:0.03mL/kg/時。5分~:0.03~0.30mL/kg/時(全身状態を観察しながら適宜増減)
慎重投与:(次の患者には慎重に投与すること)
1.ASAIII、IVの患者及び衰弱患者[無呼吸、低血圧等の呼吸循環抑制が起こるおそれがあるので例えば、導入時の投与速度を約1/2、すなわち本剤約0.025mL/kg/10秒に減速する。]
2.循環器障害、呼吸器障害、腎障害、肝障害及び循環血液量減少のある患者[無呼吸、低血圧等の呼吸循環抑制や覚醒遅延が起こるおそれがあるので患者の全身状態を慎重に観察しながら、投与量や投与速度に注意する。]
3.てんかん発作の既往歴のある患者[痙攣があらわれることがある。]
4.薬物依存の既往歴のある患者
5.薬物過敏症の既往歴のある患者
6.脂質代謝障害の患者又は脂肪乳剤投与中の患者[本剤1.0mLあたり約0.1gの脂質を含有する。血中脂質濃度が上昇する可能性があるので、血中脂質が過剰になるおそれのある患者については、血中脂質をモニターし本剤又は併用中の脂肪乳剤の投与量を調節すること。]
7. 高齢者(「高齢者への投与」の項、「薬物動態」の項参照)
重要な基本的注意[共通]
1.本剤投与にあたっては、原則としてあらかじめ絶食させておくこと。
2.本剤投与にあたっては、気道確保、酸素吸入、人工呼吸、循環管理を行えるよう準備しておくこと。
3.本剤の使用に際しては、一般の全身麻酔剤と同様、麻酔開始より患者が完全に覚醒するまで、麻酔技術に熟練した医師が、専任で患者の全身状態を注意深く監視すること。集中治療の鎮静に利用する場合においても、集中治療に熟練した医師が本剤を取り扱うこと。
4.本剤投与中は気道を確保し、血圧の変動に注意して呼吸・循環に対する観察・対応を怠らないこと。
5.本剤投与中は、適切な麻酔又は鎮静深度が得られるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を調節すること。
6.汚染防止:本剤は防腐剤を使用しておらず、また脂肪乳剤のため汚染されると細菌が増殖し、重篤な感染症が起こるおそれがあるので以下の点に注意すること。
(1) 開封後、無菌的に取り扱い、直ちに使用を開始すること。
(2) 本剤の投与に使用するチューブ類等も無菌的に取り扱うこと。
(3) 1アンプル又は1バイアルを複数の患者に使用しないこと。1人の患者に対し、1回のみの使用とし、残液は廃棄すること。
(4) 本剤の投与に使用した注射器、チューブ類及び本剤の残液は手術終了時又は、投与開始12時間後のいずれか早い時点で廃棄すること。また、12時間を超えて投与する場合は、新たな注射器、チューブ類及び本剤を使用すること。
7.本剤の影響が完全に消失するまでは、自動車の運転、危険を伴う機械の操作等に従事しないよう、患者に注意すること。
[集中治療における人工呼吸中の鎮静の場合]
1.本剤投与中は、鎮静レベル及び中枢神経系機能の評価を必要に応じて行い、鎮静に必要な最低投与速度を定めること。2.本剤投与中は、気管挿管による気道確保を行うこと。3. 人工呼吸からの離脱の過程では、患者の観察を継続し、必要に応じて人工呼吸を行うこと。
4.本剤を長期にわたり投与する場合、特に熱傷、下痢、重度の敗血症患者等の亜鉛欠乏をきたすおそれのある患者においては、必要に応じて亜鉛の補充を行うこと。[エデト酸ナトリウム水和物は亜鉛等の金属イオンとキレートを形成する。]
重大な副作用
1.低血圧(5%以上):低血圧があらわれることがある。このような場合には患者の頭部を下げ、重篤な場合には血漿増量剤、昇圧剤の使用等適切な処置を行うこと。
2.アナフィラキシー様症状(0.1%未満):血管浮腫、気管支痙攣、紅斑、低血圧を伴うアナフィラキシー様症状があらわれることがある。
3.気管支痙攣(0.1%未満):気管支痙攣を起こすことがあるので、本剤の使用にあたっては、緊急時に対応できる準備をし、本剤投与中は観察を十分に行い、このような症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。
4.舌根沈下(0.1~5%未満)、一過性無呼吸(0.1~5%未満):舌根沈下、一過性無呼吸があらわれることがある。このような場合には気道を確保し、人工呼吸等適切な処置を行うこと。
5.てんかん様体動(0.1~5%未満):痙攣・反弓緊張等のてんかん様体動があらわれることがある。
6.重篤な徐脈(0.1~5%未満)、不全収縮(0.1%未満):重篤な徐脈、不全収縮があらわれることがある。(本剤には迷走神経抑制作用がないので、迷走神経が亢進した状態あるいは徐脈等を生じる可能性のある薬剤を併用する場合には、麻酔導入前又は維持中、抗コリン剤(例えばアトロピン)の静脈内投与を行う等適切な処置を行うこと。)
7.心室頻拍(0.1%未満)、心室性期外収縮(0.1~5%未満)、左脚ブロック(0.1%未満):心室頻拍、心室性期外収縮、左脚ブロックがあらわれることがあるので、異常が認められた場合には、減量又は中止するなど適切な処置を行うこと。
8.肺水腫(0.1%未満):肺水腫があらわれることがある。
9.覚醒遅延(0.1~5%未満):覚醒遅延があらわれることがあるので、使用に際しては十分な患者管理のできる状態で使用すること。
10.横紋筋融解症(0.1%未満):筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇等を特徴とする横紋筋融解症があらわれることがあるので、このような場合には直ちに本剤の投与を中止するなどの適切な処置を行うこと。
11.悪性高熱類似症状(0.1%未満):原因不明の頻脈、不整脈・血圧変動、急激な体温上昇、筋硬直、血液の暗赤色化(チアノーゼ)、過呼吸、ソーダライムの異常加熱・急激な変色、発汗、アシドーシス、高カリウム血症、ミオグロビン尿等を伴う重篤な悪性高熱類似の臨床症状を呈することがあるので十分な観察をし、使用中、これら類似症状を認めた場合は、直ちに適切な処置等を行うこと。
高齢者への投与:本剤は主に肝臓で代謝され、尿中に排泄される。一般に高齢者では、肝、腎機能及び圧受容体反射機能が低下していることが多く、循環器系等への副作用があらわれやすいので、投与速度を減速する(例えば、導入時の投与速度を約1/2すなわち本剤約0.025mL/kg/10秒に減速する)など患者の全身状態を観察しながら慎重に投与すること。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与:1.ヒト胎児へ移行することが報告されているので、妊産婦には投与しないこと。2.ヒト母乳中へ移行することが報告されているので、授乳婦への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること。
小児等への投与:1.低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。2.集中治療における人工呼吸中の鎮静においては、小児等には投与しないこと。[因果関係は不明であるが、外国において集中治療中の鎮静に使用し、小児等で死亡例が報告されている。]
過量投与:急速投与又は過量投与により、循環器・呼吸器系の抑制が起こる可能性がある。呼吸器系が抑制された場合には、酸素による人工換気を行うこと。また、循環器系が抑制された場合には患者の頭部を下げ、重篤な場合には血漿増量剤、昇圧剤を使用すること。

プロポフォール注入症候群(propofol infusion syndrome:PRIS):集中治療における人工呼吸中の鎮静の目的で、プロポフォール投与中に代謝性アシドーシス、横紋筋融解症、高カリウム血症、心不全が発現した症例は一般に『プロポフォール注入症候群』と呼ばれる。更に上記症状の発現を認めた患者背景について、新たな知見が得られたとして、次の記載が見られる。
『外国で、集中治療における鎮静の目的で、本剤の投与を受けた重篤な患者において、因果関係が確立していないが、代謝性アシドーシス、横紋筋融解症、高カリウム血症、心不全が極めて稀れに発現し、数例が死亡に至ったという報告がある。これらの症状を発現した患者の背景として、組織への酸素供給の低下、重大な神経学的な障害(頭蓋内圧亢進等)や肺血症、その他、血管収縮剤・ステロイド・強心剤・本剤の高用量投与が報告されている。』

添付文書の記載内容は、『人工呼吸中の鎮静においては、小児等には投与しないこと。』として明らかに小児への投与は「不可」ということになっている。添付文書の記載事項について、添付文書の記載内容の曖昧さ、例えば『妊婦への投与』等の記載内容を例示してだから必ずしも守らなくていいという意見を述べられる方もいるが、一事を持って万事を推し量るのは止めたほうがいい。少なくとも副作用の記載は、事実が記載されているのであって、その事実を跳ね返すだけの新たな事実を示すことが出来ないのであれば、守るべきである。

                -添付文書の記載内容を守る文化を創るべきである-

1)1%ディプリバン注添付文書,2012. 12.
2)プロポフォール1%静注20mL・50mL(日医工)使用上の注意改訂情報,2009.7.
3)JAPIC:成分から調べる医薬品副作用報告一覧;丸善,2014

                 [065.PRO:2014.11.30.古泉秀夫]